1.は じ め に 情報弱者とは,視覚障害者,聴覚障害者,高齢者な ど,情報を取得するのに一般の生活環境においては困難 な人達のことをさしている。現代は IT 時代と呼ばれる ほど,コンピュータを代表とする情報機器は我々の生活 基盤に浸透し様々な用途に使われている。特にパソコン における「電子メール」や「インターネット」などは, 生活の一部といっていいほど普及してきた。情報弱者に とってもパソコンを使ってインターネットに接続すれば, 自分にとって必要な情報を人の手助けなしに好きな時に 集めることができるし,電子メールを使っての情報交換 や,ホームページを通して情報発信ができる。特に障害 者にとっては,自らのハンディキャップの溝を埋める有 効な手段になっており,全盲の視覚障害者にとっては必 需品とも言える存在である。技術を研鑚して在宅ワーク を行えるようになれば,新たな職種の可能性が広がり, 一層充実した生活を送れる手段と成りえる。 そんな中で現状のパソコンシステムでは,情報弱者が パソコンの使い方を学ぶことから始め,その活用までこ なしていくには大変難しい状況にある。その最大の理由 として,最近のコンピュータは一般利用者に対して扱い やすさを第一に考え,ユーザー・インターフェースは全 て視覚的に工夫を凝らした Graphical User Interface (GUI) となってしまっていることがあげられる。確かに GUI は, コンピュータを人間に近付けることに成功し,ここ何年 間かで爆発的なユーザー数を獲得することができた。し かし,アイコン,メニュー,ポインターなどを使って初 心者でも簡単にコンピュータを使えるようになっている 反面,目の不自由な人,またマウスなどを画面の細かい
視覚障害者向け,スクリプト応用による音声システムの開発
本 多 博 彦 *
Development of Script Based Voice-Guidance System for the Visually Impaired
Hirohiko HONDA*
Voiced Scripting Host (VSH) is a platform on Windows that facilitates script-based barrier-free programming for users includ-ing the visually impaired. It is an extension of Windows Scriptinclud-ing Host (WSH) of Microsoft. VSH adds to WSH a set of user inter-faces with built-in voice guidance and large-format Graphic User Interface (GUI). These new interface can be accessed as objects or called as processes from VBScript codes on WSH. VW comes with a voice-assisting editor that suggests objects, methods and properties to users, similar to Visual Basic Editor of Microsoft does. Through use of Visual Basic for Application (VBA) supported in WSH, users can easily write barrier-free programs with voice guidance and large format GUI. To enhance joy of programming, Voiced Scripting Host (VSH) supplies objects to use animation such as Microsoft’s Agent.
Vol. 38, No. 1, 2004
*システムコミュニケーション工学科 講師
部分に合わせて調整することに不自由な人達にとっては 非常に使いづらいシステムになってしまっている。現在 のコンピュータが圧倒的多数の一般ユーザー(健常者) の利便性を優先した OS であることはしかたがないが, 情報弱者でも基礎的な知識・技能を習得することができ る情報機器を提供すべきである。また,現状の OS を使 うにしても,情報弱者が比較的容易に仕事をこなすこと ができる入出力システムの開発を目指すことは重要なこ とである。我々はこれらの問題を打破することを目的に, スクリプトを応用した障害者向け音声付きパソコン操作 支援システムを開発してきた。 2.これまでの音声出力システム 音声出力を用いたシステムは,コンピュータが現在ほ ど汎用する以前の MS-DOS が主流だった時代から開発さ れてきた。その理由は,ユーザーとのインターフェース がキャラクタ・ベースで行なわれていたので,視覚障害 者であっても簡単にコマンドを打つことができ,アプリ ケーションを操作したりプログラムを書くことができた からである。MS-DOS だと,コンピュータに入力する文 字(テキストデータ)を音声信号に変換し,実際に音と して出力する装置(音声合成装置)を利用することが容 易だったからである。音声出力システムによりワープロ や表計算ソフトを利用して報告書や手紙などが作成でき, また電子メールや掲示板もこのシステムを利用して読む ことができるので,パソコン通信などを利用する視覚障 害者も急増することになった。日本語を話す音声出力シ ステムについても数種類のシステムが開発され利用され てきた。 代表的なものとして斉藤正夫氏が開発した VDM1と呼ばれるシステムがあげられる。このシステム の特徴は,当時の障害者向けの専用機器と比較して廉価 であったこと,一太郎,Lotus といった汎用性のあるア プリケーションに対応していたこと,音声出力のスピー ドの反応が早く誤動作しにくかったことなどがあげられ る。 また, UNIX で動作する音声出力システムとして, Raman氏による Emacspeak2 があげられる。このシステ ムでは UNIX で標準的に使われている Emacs を利用し, ユーザーにとって適切な形で音声化しフィードバックを 返すといった,従来の文字列を読み上げるだけでない機 能を持っている。さらにこれを拡張させ日米2ヶ国語に 対応した,Windows と Linux 上で動作する Emacs の音声 化システムとして Bilingual Emacspeak Project (BEP)3
があ る。このシステムは Emacspeak の拡張であり,日米両言 語を自動的に切り替えて正確に発音できるようにしてい る。 一方 Windows ユーザーの中で,視覚障害者の多くが利 用しているのはスクリーンリーダーと呼ばれる音声出力 システムである。代表的なものとして,前述の VDM を 基に Windows OS に対応させた VDM100,VDMW2000 や 95 Reader (2000 Reader)4 や out SPOKEN5 といったものが あげられる。これらは,パソコンのデスクトップ画面上 のアイコンや各ウインドウのメニューやツールといった 視覚情報を音声として読み上げ,ユーザーにフィード バックをかけるシステムとなっている。 日本におけるパーソナルコンピュータは,日本語版 Windowsが圧倒的シェアを持ち,個人レベルで入手し易 く,また教育・研究・仕事の現場でも良く使われている。 前述の VDM は MS-DOS 用パソコン(PC98 シリーズなど) で動作するが,製造自体中止される可能性があるし,今 の時代となっては扱えるアプリケーションも数少ない。 Emacspeakは UNIX (Linux) を扱うためインストールする ことから始めなければならず,また Windows に比べて高 度な知識を要求される。BEP では Windows 上で
Emacs-peakを扱うこともできるが,パソコンに不慣れな初心者 にとっては敷居が高い。実際,盲学校や視覚障害者の個 人宅では,パソコンには Windows を購入し,スクリーン リーダーを用いて情報の入出力を行っている場合が大多 数である。 しかし,現状のスクリーンリーダーを用いた場合,視 覚障害者が健常者と同様にコンピュータを使いこなすた めには,スクリーンリーダーだけではカバーしきれない 部分も多い。現在のほとんどのアプリケーションは,マ ウス操作を前提にするなど GUI を基本とした作りになっ ている。そのためアイコン,メニュー,ポインターを読 み上げるだけでは,画面構成を把握していない人が操作 を連続して行うのが大変困難である。ましてやプログラ ム開発をしようと思っても,Windows プログラムとして 最も標準的な Visual Basic などは,まさに直観的な視覚 に頼って操作する仕組みになっているので,とてもバリ 1 (株)アクセス・テクノロジー 2 http://emacspeak.sourceforge.net/ 3 http://www.argv.org/bep/ 4 (株)システムソリューションとちぎ 5 (株)富士通中部システムズ
アーの高いものとなってしまっている。 3.スクリプトによる Windows の操作 スクリプトとは,マウスやキーボードから入力しなけ ればならない操作を一まとめに記述しておき,OS やア プリケーションに対し様々な作業を指示することができ る一種の台本(プログラム)のようなものである。ワー プロや表計算などのアプリケーションで行う文書整形や 売り上げ計算といった仕事を,スクリプトによって一気 に自動作業させることができる。従来,MS-DOS 時代か らバッチファイルが使われていたが,Windows OS がよ り複雑になったことでバッチファイルとしては限られた 使用しかできなくなっていた。そこで Windows 98SE 以 降,Windows 上で動作するスクリプトとして MicroSoft 社6
の提供する Windows Scripting Host (WSH)7
が標準で 装備されてきた。難しいプログラミングの知識を必要と せず,簡単な記述方式を覚えれば初心者でも,ある程度 の作業を WSH で行うことができる。例えば,Office など の典型的なアプリケーションソフト操作,システムの操 作,ファイル・フォルダ操作,ネットワーク操作なども 行える。WSH は,Visual Basic Script あるいは Java Script あるいは Perl Script 言語で記述でき,Windows デスク トップおよびコマンド プロンプトのどちらからでも実行 できる。 スクリプト方式のメリットは,ソースファイルがテキ スト形式で,コンパイラを通さずそのまま実行するイン タープリタ方式になっていることである。つまり全ての 作業をテキストベースで取り扱うことができるのである。 現存するほとんどのアプリケーションが実行形式で与え られたバイナリファイルで,ソースコードを解読しない 限りブラックボックスである。その点スクリプトは,ファ イルに書かれたテキストを読み書きさえできれば,一連 の作業の順番から内容まで完全にコントロールすること ができる。我々はこの点に注目し,WSH のスクリプト言 語をキーボードによる入力と音声と音による出力で フィードバックできるようにすれば,視覚障害者でも GUIを主体とした画面構成に一切捕らわれることなく Windowsを自由に扱えるだろうと考えるに至った。 4.WSH を応用したシステムの開発 我々は,この WSH をプラットフォームとしたスクリ
プトベースの音声化システムを Voiced Scripting Host と呼 び開発を行ってきた。このシステムでは,視覚障害者で も簡単にスクリプトを書ける環境を構築し,ポインター を動かしたり,クリック,ダブルクリック,ドラッグ, キータイプといった繰り返し操作を行なう煩わしさから 解放させ,Windows アプリケーションを扱う上で必要な 操作を最小限のスキルでまかなえるようにすることを目 指している。
Voiced Scripting Hostシステムの特徴として,1,音声 合成により複数の音声エンジンを同時に使用可能なこと, 2,スクリプトを書く上で使用頻度の高い I/O 関数など を,音声で判断,確認できるように,視覚障害者向けの ユーティリティとして提供していること,3,WSH が本 来もっているオブジェクト以外に,アニメーションキャ ラクタを動かしたり,ニュース番組のような音声による 通信プログラムを作成できるような独自のオブジェクト を用意し,スクリプトでプログラムすることで操作でき るようにしていること,4,視覚障害者がより書きやす く,また簡単に WSH を実行できる環境として,音声出 力をもった専用エディタを開発環境として提供している こと,などがあげられる。 以上の特徴により,視覚障害者でも専用エディタを 使って VBScript 言語でスクリプトを書き,WSH を実行 することができる。スクリプトで指定するオブジェクト には,Voiced Scripting Host システム独自のオブジェクト
6http://www.microsoft.com/ 7http://www.microsoft.com/japan/msdn/scripting/default.asp Fig. 2. 視覚障害者向け音声ガイダンス付きシステ ム。背景が黒いのは,弱視者は暗い画面に白い 文字が書かれているほうが読みやすいからであ る。
が組み込まれているので,このオブジェクトを活用する ことで視覚障害者にとって有用なユーティリティを作成 することができる。Voiced Scripting Host システムは視覚 障害者が使うことを前提に開発してきたが,それだけに 留まらず晴眼者も視覚障害者も一緒に使えるプログラム が作成できる事にも配慮されている。
5.Voiced Scripting Host システム
5.1 音声合成 文章の読み上げ時においても,英語用音声エンジンと 日本語用音声エンジンの切替えが必要な場合がある。優 れた音声ベースのプラットフォームを作るには,まずマ ルチタスク,マルチリンガルなテキスト音声化システム (音声合成)が条件となる。我々は,複数の音声を同時 に 出 力 す る 方 法 と し て , 既 存 の Window Driver Model (WDM) 版のオーディオドライバーを用いて音声合成を行 なう方法を取った。
Voiced Scripting Hostシステムでは,Microsoft Speech API (SAPI) の仕様に従い,システムに音声合成の機能を 組み込んでいる。SAPI 対応の音声合成エンジンとして, 英語音声合成エンジンは Microsoft のエンジンを用い,ま た日本語音声合成エンジンは,TOSHIBA 製音声合成エ ンジンシステムと,クリエートシステム製ドキュメント トーカー音声合成エンジン8を利用している。音声エン ジンの選択のポイントは,音声出力のスピードや信頼性 (システム利用中に誤動作しにくいこと)が優れている こと,パソコンを仕事や研究に早くから利用していた視 覚障害者の間では評価が高いことである。これらはいず れも,COM インターフェース以外にも ActiveX コンポー ネントの機能を持つ音声エンジンで,ActiveX インター フェースを使って操作ができる。ドキュメントトーカー は,DirectSound も使えるようにしているが,この部分と ActiveXに対応した部分は,特に我々のプロジェクト用 に開発されたものである。 これらにより,日本語音声合成エンジンシステム,英 語音声合成エンジンシステム,漢字詳細読みができる音 声合成エンジンシステム,キーボード入力読み上げ専用 の音声合成エンジンシステムなどの複数の音声合成エン ジンシステムを同時に立ち上げることが可能となった。 また視覚障害者が普段使用しているスクリーンリーダと 我々の Voiced Scripting Host システムとを役割分担させて
併存して使うことも考慮して設計を行った。特に注意し なければならなかったのは,操作性(読みたい部分を的 確に読ませることができる)やスピード,信頼性であっ た。これらは視覚障害者のフィードバックが重要である。
5.2 オブジェクト操作を主体としたプログラミング
Voiced Scripting Hostシステムでは,OLE オートメー ション (ActiveX) に対応しているアプリケーションなら ば,プログラムでほとんどの操作を行なうことができる。 Excelや Word のような実用性のあるアプリケーションの ほとんどは ActiveX 対応になっており,Windows 自体を 構成する膨大なプログラムも多くが ActiveX 対応になっ ている。従って,VSH でスクリプトプログラムを書くこ とで,Office などの Windows の主要なアプリケーション や,ファイル操作などを含むシステムの細かい所まで操 作することが可能である。具体的には,VBScript がもつ 基本 I/O 関数(InputBox,MsgBox など)や,標準的な Common Dialog Boxで行なっていたファイルのオープン,
Fig. 3. 使用者に合わせた Windows の設定
Fig. 4. シンプルなメッセージボックス
8
ドキュメントトーカーは,クリエートシステム開発 (株)の商標
セーブといった作業を,音声出力による AUI と弱視者向 けの GUI を備えたユーティリティとして提供している ( 例 , VWMsgBox, VWInputBox)。 こ れ は Visual Basic Ver.6.0で作成され,標準的な実行形式とオブジェクト化 された形が用意されている。 また視覚障害者がアプリケーションに依存せず,共通 に設定しておきたい項目として,アイコンの大きさやメ ニューなどのフォントのサイズ,ウインドウのバックグ ラウンド色,音声エンジンの選択,音声スピードなどが あげられる。これらも音声出力による AUI と弱視者向け の GUI を備えたユーティリティにより,いつでも設定変 更可能であり,また設定はレジストリに保存され,次回 に Windows を立ちあげた時に,前回の設定を参照して立 ち上がるようにしている。プリント出力,ヘルプといっ たものも,ユーティリティとして提供すべく準備中であ る。 一般にプログラム作成では,実際にアプリケーション やツールをコントロールするために,OS である Windows から,「オブジェクトの取得」を行なっている。スクリ プトを実行する時には,その取得情報を元にスクリプト のプログラムがアプリケーションに伝えられコントロー ルすることができるようになる。Voiced Scripting Host で は,Office や Windows システムのオブジェクトの他,独 自に作成されたオブジェクトを持ち,このオブジェクト の持つプロパティを変更したり,メソッドを呼び出すと いった,オブジェクト操作をプログラムで行なうことが できるようになっている。このようにオブジェクト化し た利点は,視覚障害者用にカスタマイズされたツールな ど(例えば音声化された入出力用ボックスなど)をオブ ジェクト化することで,複数のプログラムに対して共通 に適用され繰り返し使えるといった便利な点があげられ る。オブジェクトをアップデートした場合も,そのオブ
Fig. 6. Voiced Scripting Hostの概念図
ジェクトを必要とするアプリケーションを実行した時に 新しいオブジェクトが引き渡されるので,プログラムを 書き直すことなく,アプリケーションそのもののアップ デートが実現する。 5.3 独自のオブジェクト機能 視覚障害者には,弱視,全盲にかかわらずアニメー ションや TV 番組に興味を持っている人達がいる。Voiced Scripting Hostではそういった人達によりコンピュータに 興味を持ってもらえるよう,スクリプトでアニメーショ ンを動かしたり対話形式の番組を作成できるような,プ ログラムが作れる機能が組み込まれている。一つは,マ イクロソフトの MS-Agent9で,TVML10と呼ばれる番組 作成アプリケーションもサポートしている。これにより アシスタント的なアニメーション・キャラクタや CG に よる素材を喋らせたり移動させたり自由に操作すること ができ,また音声合成によるナレーションを行なうこと でコンピュータ上で自動的に動作する動画アニメーショ ンや対話形式のアニメーション番組を生成することがで きる。 これらを簡単なプログラムによって実演させるために は,スクリプトにあらかじめ決められたキャラクタの動 作(登場,おじぎ,拍手,おどろきなど)や移動(目的 地まで歩かせる座標を指定),セリフなどを書き並べて
おけば良い。Voiced Scripting Host システムでは,VB-Scriptからこれらを制御するルーチンをオブジェクトと して提供している。このオブジェクトは VB のクラスモ ジュールとして作成されている。メソッド・プロパティ が,キャラクタの設定,動作,再生,停止などにあたる。 Voiced Scripting Hostシステムでは,スクリプトを直接実 行させ,効果を直ちに確認して楽しむことができる。実 際に動きを見ることができなくても,スクリプトプログ ラムを読めば何が起こっているか想像できるし,視覚に 頼らず動作をコントロールすることができる。セリフは, スクリプトに記述した文章が自動的に音声出力されるよ うになっており,キャラクタの種類によってその声を変 えることもできる. 5.4 プログラム開発専用エディター
Voiced Scripting Hostシステムは,ユーザーがスクリプ トをテキストファイルに書き,それを WSH に渡して実 行する仕組みになっている。スクリプトでは,WSH が持 つオブジェクトや Voiced Scripting Host システムが提供す るオブジェクトを用いて,様々なアプリケーションを操 作するようにプログラムを書くわけだが,視覚障害者に とって,一般のテキストエディタ以上にプログラム開発 しやすいエディターが必要と考えられ,Voiced Scripting
Hostシステムに特化した専用スクリプトエディタ
(VWEd-itor) が開発された。VWEditor は Visual Basic Ver.6.0 で作 成され,標準的な exe 形式で提供される。このエディタ は,視覚障害者でも VBScript でプログラミング作成を容 易に行えるように,開発支援用に工夫された特徴を持っ ている。
その特徴の一つがプロパティとメソッドの一覧表示で ある。WSH と Voiced Scripting Host システムが提供する
Fig. 7. アニメーションキャラクタ (TVML) Fig. 8. プ ロ グ ラ ム に よ る ア ニ メ ー シ ョ ン (MS-Agent) の移動 9 マイクロソフト http://msdn.microsoft.com/workshop/c-frame.htm/work shop/imedia/agent/default.aspからダウンロードできる 10 Tvml 開発チーム http://strl.nhk.or.jp/TVML/Japanese/JsitemapB.htmlから ダウンロードできる
オブジェクトは,プロパティとメソッドを持っている。 VWEditorでは,対応するオブジェクトがコーディング中 に書かれた時点で,これに相当するプロパティとメソッ ドをポップアップ形式でリストとして一覧表示し個別に 読み上げていく。これにより,いちいち装備されている プロパティとメソッドを覚えていなくても判別でき,確 定したものを自動入力できるような工夫がなされている。 Voiced Scripting Hostシステム独自のオブジェクトと共に,
WSHが提供するオブジェクト(WScript,WshShell,File
System Object など)もそのプロパティとメソッド(Ap-plication, Arguments, Create Object など)を全てリスト化 してあり,視覚障害者だけでなく晴眼者にとっても開発 しやすいようにカスタマイズされている。 また,VWEditor は一般的なエディタとしての機能も 充分に備えているが,特に視覚障害者向けにテキストの 内容,コントロールなどを音声出力させる工夫もなされ ている。例えば,カーソルの移動による文字あるいは行 の読み上げや,カーソル位置,ジャンプ機能,しおり機 能,ファイル操作のダイアログボックスの音声化などが あげられる。VWEditor では,これらの機能は全てショー トカットキーが割り当てられており,マウスを使うこと なく,キーボードだけで操作でき,音声出力のみで処理 できるようにしている。 また,エディタの中で日本語を使う場合,かな漢字変 換を行なった際に IME により漢字候補リストの一覧が表 示されるが,そのリストの中身を視覚障害者が区別する ためには,漢字一文字ずつ同定できるように詳細読みを 行なう必要がある。我々は,このプロジェクトの一環と して,漢字詳細読み機能を設け,VWEditor に組み込ん でいる。例えば,‘きゅう’という文字を変換した場合, ‘急’,‘弓’,‘休’,‘求’など候補がたくさん出てくる が,これを‘いそぐのきゅう’,‘ゆみのきゅう’,‘やす むのきゅう’,‘もとめるのきゅう’と発音させれば漢字 Fig. 9. システムに特化した音声ガイダンス付き専 用エディタ Fig. 10. プロパティやメソッドの自動リスト表示 Fig. 11. かな漢字詳細読み上げ機能
一文字ずつ同定ができる。この詳細読みに使われる辞書 は,同音異義語を区別し,すぐに判別できるようにわか りやすい表現が必要で,我々はより標準的な辞書を作成 している。将来は,すぐに判別できるスピードを重視し たバージョンと確実にわかりやすさを重視したノービス バージョンの二種類を用意する予定である。 6.プログラムのマクロ化
Voiced Scripting Hostシステムでは,上述した独特の機 能を活用することで Windows の基本的な操作から,Of-ficeなどの汎用性のあるアプリケーションの操作まで誰 でも簡単に実行することができる。例えば,スタート アップに入っているアプリケーションのオートスタート を立ち上げ時に,Yes,No つきのメッセージボックスで ユーザに音声で確認するようなプログラムを作ったり, 環境変数の一覧表示を出したり,レジストリにアクセス してゴミ箱の名前を変えたり,フォルダやファイルの名 前や属性を表示したり変更することも可能である。 市販アプリケーションでは,例えば,指定したフォル ダに入っている Excel ファイルの情報を取りだし,列幅 の調節やセルに色をつけたりして,指定したセルに情報 を書き加え,新たなファイル名をつけてセーブするとこ ろまで一括処理することができる。その他の例として手 紙を書く場合,同じ文面を単に宛名だけを差し替えなが らファイルを作ったり印刷するのであれば,Word の差 し込み印刷で十分だが,条件によって文面そのものが変 更する場合には,差し込み印刷では対応することができ ない。条件判断や分岐をプログラムの中で行なえば,た とえばデータファイルに書かれた個人情報を解析し,条 件に応じて異なる文面のファイルを生成することが可能 である。縦書きの手紙もマクロ化しておけば,視覚障害 者にとって困難だった書面構成もあらかじめ把握してお くことができ容易に文章作成することができる。グラフ や表に書かれた視覚的に構造を把握する必要がある場合 でも,表のセル数や内容分析などを予めマクロとして 作っておけば,それを流用あるいはちょっとした改変で, 視覚障害者にとって大変使いやすいユーティリティに仕 上げることができる。
こういったマクロプログラムは,Voiced Scripting Host システムが提供する I/O 関数を用いることで,入出力な どの確認を全て音声で行ないながら確実にプログラムを 実行することができる。 以上のようにユーザーの仕事の内容に合わせて,カス タマイズしたマクロプログラムを作っておけば,日常の 繰り返し作業を大変効率良く行なうことができるように なり,有意性の高いものとなる。 7.今後の方針
Voiced Scripting Hostシステムは,簡単なキーボード入 力と音の出力だけで,視覚障害者のパソコン操作を支援 する新しいオリジナルなアプリケーションシステムであ る。既存の音声合成エンジンを利用してはいるが,今ま でのスクリーンリーダーと違い,オフィスなどの複雑な GUIソフトの画面をそのまま音声化しているのではなく, 視覚障害者が必要な項目を抽出し簡単なガイドだけで操 作が進められるように工夫されている点が新しい。簡単 なスクリプトで必要な操作を単純化でき,また実用性の あるツールを作成できるという点において,視覚障害者 に限らず,高齢者やプログラムを書くことが苦手な人達 にとっても有効なシステムになっている。また,遠隔操 作での講義や音声による授業といった教育にも十分活用 することができ,中学・高校,さらには大学での教育現 場においても受けいれられるようなシステム作りを目指 している。 我々が開発を行う際に特に注意しなければならない点 は,視覚障害者だけを対象としたシステムではなく,健 常者にとっても使いやすいシステムにしなければならな いことである。汎用性を持たさなければ視覚障害者に とっても結局使いづらいものにしかならない。また,実 際に使用してもらい評価を受け,フィードバックを掛け ていくことが最も重要であると認識している。
現在の Voiced Scripting Host システムは,開発段階では あるが基本的な部分はすでに完成しておりデモ講演など で実演を行なってきた11 。今後も実際に視覚障害者の人 達に使用してもらってフィードバックを受けながら,よ りバリアフリーなシステムを構築して,オープンソース として提供していくつもりである。日本学術振興会の第 163委員会である「インターネット技術研究員会 (ITRC)12 」 のホームページなどで公開していく予定である。 参 考 文 献
1) H. Honda, T. Kamae, T. Watanabe, T. Koide, T. Kurihara, “Voice Windows: A Script-Based Platform in Windows for Visually Impaired,” Proceedings of the UAHCI 2001 Conference, Universal Access in Human-Computer
Inter-11 Honda WIT99-2, Kamae IPSJ59, Watanabe IC99 12
action, Vol. 3 (2001), Accepted 2001 March.
2) T. Watanabe, K. Inoue, M. Kiriake, H. Honda, T. Nishi-moto, T. Kamae, “Bilingual Emacspeak Platform—A universal speech interface with GNU Emacs—, “Pro-ceedings of the UAHCI 2001 Conference, Universal cess in Human-Computer Interaction, Vol. 3 (2001), Ac-cepted 2001 March.
3) 本多博彦,釜江常好,渡辺隆行,小出富夫,宇野
伸一郎,栗原 亨,“Voiced Scripting Host による極 楽プログラミング,”ITRC Technical Report {No. 8, 2000} ISSN 1343-3083, (2000) p. 8789.
4) 本多博彦,釜江常好,渡辺隆行,小出富夫,宇野
伸一郎,栗原 亨,“Voiced Scripting Host による
Windowsアプリケーションの活用,”電子情報通信 学会技術研究報告 ISSN 0913-5685 {Vol. 100 No. 256} (2000) p. 2528.
5) 本多博彦,釜江常好,渡辺隆行,小出富夫,宇野
伸一郎,栗原 亨,“Voiced Scripting Host (VSH) を 使 っ た Windows の 活 用 ,” ITRC Technical Report {No. 2, 2000} ISSN 1343-3083, (2000) p.169172.
6) 本多博彦,釜江常好,渡辺隆行,小出富夫,宇野
伸一郎,栗原 亨,“Voiced Scripting Host—スクリ プトを用いた視覚障害者向け Windows 活用システ ムの開発—,”電子情報通信学会技術研究報告 {Vol. 99 No. 2} (2000) p. 5358.