高機能広汎性発達障害幼児における感情理解の指導―家庭トレーニングにおける指導効果に関する研究―
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(2) 第1章序論.
(3) 目次. 第1章 第1節 第2節. 第3節 第4節. 序論・・・・・・・・・・・・・…. 1. 高機能広汎性発達障害児の障害特性について・・1 高機能広汎性発達障害児における自己や他者の 感情理解に関する実験的研究・・・・・・… 4 自閉症児における自己や他者の感情理解・表出 に関する指導研究・・・・・・・・・・・… 7 本研究の目的・・・・・・・・・・・・・… 11. 第2章 本論・・・・・・・・・・・・… 13 第1節. 幼児における自己感情と他者感情の理解 一性差および年齢差についての検討一・・… 13 I. 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 13 ■. 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 15 皿、 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 28 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 33 1V. 第2節 高機能広汎性発達障害幼児における感情理解の指導 一家庭トレーニングにおける指導効果に関する研究一・… 36 I .. 目 白勺 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ …. 36. ■.方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 39 皿.結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 57 w.「日常場面での自己および他者の感情理解調査」 の結果・・… .’’.’...’......65 IV.考察・三・・・・・・・・・・・・・・・・… 85.
(4) 第3章. 討論・・・・・・・・・・・・… 93. 第1節. 総合考察・・・・・・・・・・・・・・・… 93 今後の課題・・・・・・・・・・・・・・… 98. 第2節. 参考・引用文献 資料 謝辞.
(5) 第1節 高機能広汎性発達障害児の障害特徴について. ICD−10【国際疾病分類第10版】(1992)、F84広汎性発 達障害は、相互的な社会関係とコミュニケーションのパター ンにおける質的障害、および限局した常同的で反復的な関心 と活動の幅によって特徴づけられる一群の障害であると定義 され、程度の差はあるが、これらの質的な異常は、あらゆる 状況においてその患者の機能に広汎にみられる特徴であると されている。多くの場合、幼児期から発達は異常であり、ほ んのわずかな例外を除いて、この状態は生後5年以内に明ら かとなり、また、常にではないが通常は、ある程度の全般的 認知機能障害がある。しかしこの障害は個人の精神年齢(遅 滞のあるなしにかかわらず)に比較して偏った行動によって 定義され、広汎性発達障害の群全体の下位分類については、 多少の見解の不一致がある。. ところで高機能広汎性発達障害(High−functioning PervasiveDeve1opmenta1Disorders)は、広汎性発達障害 (PDD)の中でも知的障害をともなわないものであり、『高機 能』とは知的障害をともなわないという意味で定義されてい る。この障害は、①アスペルカー症候群や高機能自閉症など を含み、知的には正常な能力をもっている、②人との相互的 なやりとりの関係をもったり、当たり前の人間関係や社会的. 関係をもつことの困難さがある、③限られた狭い興味や関 心・.活動をもち続ける、という3つの領域に障害があるとさ れている。. 高機能広汎性発達障害児によく見られる特徴としては、そ の場にあった行動ができなかったり、相手の気持ちを推し量. 1.
(6) れなかったり、興味や関心が偏っていたりすることで、特に 社会行動やコミュニケーションの困難をきたす点にある。 高橋(2000)の調査では、高機能広汎性発達障害をもつ小. 中学生88名(男66名、女22名)のうち、15名(17%)は 障害児(特別支援)学級に在籍していたものの、あとの73名 (83%)はその知能の高さから通常学級に在籍していた。知. 的水準別にみると、IQ71∼84の境界群で.は29名中11名 (38%)が障害児(特別支援)学級、18名(62%)が通常学. 級に在籍しており、IQ85∼125の普通群では59名中55名 (93%)が通常学級、4名(7%)が障害児(特別支援)学 級に所属していた。このように、学齢期に達した高機能広汎 性発達障害をもつ子どもの大多数は、特別支援学級ではなく 通常学級に在籍することが多いが、刺激量が多く混乱しやす い集団生活の申で、彼らがもつ社会性や対人関係の問題はよ り顕著に現れやすくなるといえる。 また、多目ヨ・杉山・西沢・辻井(1998)は、通常学級に在. 籍するのべ74名の高機能広汎性発達障害及び、36名のその 他の発達障害(対象群)の児童青年についていじめの実態調 査を行った。その結果、いじめを受けた経験をもつ者は対象 群においても58%と高い割合を占めたが、高機能広汎性発達 障害では全体の79%とさらに高い割合でいじめを受けてい た。また、いじめの開始年齢は小学校1年生までが全体の49%、 2年生までが60%と、集団教育の開始と同時にいじめも始ま ることが示された。. こういった高機能自閉症児に対するいじめの問題について、 高橋(2000)は、加害者が攻撃にいたる事情をつぶさに検討 してみれば、適当な返事が返せない、状況に合った適切な表 情の表出や話題が提供できないなど、高機能広汎性発達障害 児のコミュニケーションの障害が背景にあることも多いと述 べている。.
(7) ところで、1980年代後半から自閉症児者の「心の理論」に 関する研究が盛んに報告されるようになった。それら多くの 研究は、自閉症の子どもが心の状態について推論するのに特 別の困難を持っており、これらの困難が自閉症児の対人的異 常やコミュニケーションの異常の基になっていることを示し ている(Hadwin,Baron・Cohen,How1i皿&Hi11.1996)。 こういった問題に関して、杉山(1999)は学童期以降の高 機能広汎性発達障害児61名を対象として調査を行い、診断年. 齢、療育開始年齢、IQ,DsM・Ivの第5軸全体的機能尺度 (GIoba1AssessmentofFunctioningSca1e:GAF)の得点に 関して相関関係を調査し、診断年齢および療育開始年齢が低 いほどGAF得点即ち後年の適応が良いと述べている。この研 究を基に高階・井上(2006)では、就学前の早期療育の段階 から、社会的スキルや認知学習とともに、他者や自己の感情 理解・表出といった「心の理論」に関わる課題の指導も積極 的に行うことが重要であり、それによって日常生活場面やそ の後の社会適応についても何らかの効果が期待できると述べ ている。. 3.
(8) 第2節 高機能広汎性発達障害児(高機能自閉症)における 自己や他者の感情理解に関する実験的研究 高機能広汎性発達障害児(高機能自閉症)を含む、学童期 から青年期にかけての自閉症児者を対象とした、自己や他者 の感情理解に関する実験的研究について概観する。 誤った信念を調べる課題として考案された、サリ.一とアン 課題を、自閉症児に初めて施行したのが、Baron−Cohen, Les1ie&Frith(1985)である。この結果、通常4歳で通過す る「誤った信念」課題に、精神年齢(Menta1Age:MA)4歳 の自閉症児が通過できないことが明らかになり、その後も多. くの研究で追試され、一貫して同じ結果が得られてきた (Leekam&Perner,1991;R③ed&Peterson,1990)。. しかし、近年ではこのr心の理論」欠損仮説に対しさまざ まな批判も出されている。例えばHappe(1994)の研究では、. 自閉症をもつ子どもでも、言語性MAが9歳2か月になると r誤った信念」課題を通過するということが示唆されている。. このHappe(1994)の研究を基に別府・野村(2005)は、 自閉症児がr誤った信念」課題を通過してr心の理論」を形 成するのは、定型発達児と比較して遅れがあるのか、あるい は質的に違う内容を形成しているのかを調べるために、定型 発達児と言語性IQが70以上の高機能自閉症児に「誤った信 念」課題を実施した。その結果、①定型発達児はr誤った信 念」課題に誤答するレベル(水準0)、②水準Oには正答する が言語的理由付けができないレベル(水準1)、③課題に正答 しかつ言語的理由付けもできるレベル(水準2)の順序で発 達的に移行することが明らかにされた。それに対し、高機能 自閉症児は①水準Oと③水準2を達成するものはいたが、② 4.
(9) 水準1のものは1名もいなかった。この結果より、定型発達 児は、言語的理由付けを伴わない直感的な「心の理論」を発 達的前提に、それを土台として言語的理由付けを伴う「心の 理論」を形成することが示唆された。この命題的理解・直観 的理解とは、ある意味、その場の雰囲気を感じる力であると 言及できるだろう。しかし高機能自閉症児は直感的なr心の 理論」を欠いたまま言語的理由付けによる「心の理論」を形 成するという、質的往特異性を持つということが示唆され、 根底に情動の問題があると考えられる。したがってこの仮説 が抱える課題は今後も数多く残されている。 さて、我が国における自閉症児者の感情理解の研究は、表 情認知(村山・山口ヨ,2001)、表情の認知・表出(若松,1989)、. 顔刺激の弁別学習(宮下,1989)、表情および状況手掛かりか らの感情推測(笹屋,1997)などがある。. 菊地(2002)は、生活年齢(Chrono1ogica1Age:CA)が. 平均24歳10ヶ月、精神年齢(Menta1Age:MA)が5歳2 ヶ月から13歳6ヶ月の自閉症者10名に対して、ギうれしい」、 「かなしい」、「おこっている」の3つの情動を表す文章を2 状況ずつ教示し、「○○(対象者もしくは架空の名前)はどん な気持ちになるかな?」と自己もしくは他者の情動を尋ねる 質問を行った。同じく実験を行った定型発達幼児(4歳児23 名、6歳児17名)の結果と比較したところ、年少児では自己 情動条件よりも他者情動条件の成績が有意に高いこと、そし て年長児になるとその差はなくなることが示された。また、 自閉症者の得点は年少児と同程度であり、自閉症者の情動理 解に関する困難が認められたが、自閉症者の得点は自己情動 条件と他者情動条件の間で有意な差は見られなかった。 また、宮本(1999;2000)は、平均CA16.8歳、平均知能指 数(IQ):言語性IQ:90.08、動作性IQ:96.54、全検査IQ:. 91.94の高機能自閉症青年19名と対照群(小学校1年生身2 5.
(10) 名、3年生28名、6年生36名)に対して、状況と表情が矛 盾する場面における感情の理解(例えば、大好きなアノスク リームを前にして悲しい顔をしている主人公の気持ちと、そ の理由について推測する)について研究を行った。その成績 を対照群と比較した結果、一 k@能自閉症青年の多くは状況、 表情といった個々の認知には問題が無いが、複数の情報を統 合して処理することの問題が示唆された。 さらに、吉井・吉松(2003)は、他者の心の理解を間う「心 の理論」課題と自己理解の関係性を明らかにした研究がほと んどないことを指摘し、自閉症児と精神遅滞児を対象に、自 己理解課題、他者理解課題、感情理解課題を実施した。その 結果、これら3つの能力が互いに関係していること、自己理 解の能力が低い者は他者理解や感情理解の能力も低いことを 報告し、自閉症児が他者理解だけでなく、自己感情理解にも 困難をもつことが示唆された。. これらの感情研究から、自閉症をはじめとする高機能広汎 性発達障害についての研究は、ここ10年間で飛躍的な進歩を 遂げてきたといえるが、「心の理論」の課題を自閉症に適用さ せた一連の研究(Baron・Cohen,Les1ie,anaFrith,1985) に対しては、欠損仮説などのさまざまな批判も出されている。 いずれにせよ、自己・他者感情理解については、これまでに 高機能自閉症児において年齢が上がるにつれて変容すること が臨床現場や研究等から示唆され(Happe,1994)、その独自 な発達過程を明らかにしていくことが重要であること、また 誤信念課題の解決における直観的理解化の土台には情動の問 題があり(別府・野村,2005)、それが支援のあり方を検討す るための手がかりになるといえるのではないだろうか。.
(11) 第3節 自閉症児者における自己や他者の感情理解・表出に関する 指導研究 ここでは、高・機能広汎性発達障害児(高機能自閉症)を含 む、自閉症児者を対象とした、自己や他者の感情理解・表出 に関する指導研究について概観する。近年、自閉症をはじめ とする高機能広汎性発達障害児の感情理解・表出における指 導研究は増加しているといえる。 例えばHadwin,J.A.,Baron・Cohen,S.,How1in,P、 &Hi11,K.(1996;1997)は、自閉症児30名を3つのグルー プに分け、それぞれに対して「感情理解」と「信念理解」と. rふり遊び」を8日間指導した。具体的には例えばr感情理 解」の課題では、「happy」「sad」「angry」「afr&id」の4種 類の感情を取り上げ、写真による表情の認知(レベル1)、図 式化された表情の認知(レベル2)、状況を基にした感情の理 解(レベル3)、欲求を基にした感情の理解(レベル4)、信念. を基にした感情の理解(レベル5)の5段階に分類した。そ して状況場面が描かれたイラストカ]ドの下に4つの感情図 をランダムな位置に提示して、課題文の文脈に適した感情図 を指さし選択するといった、選択応答訓練を行った。その結 果、「ふり遊び」の般化はみられなかった。「感情理解」と「信. 念理解」においては、未訓練場面の似かよった課題には般化 したものの、他の領域(「感情理解」であれば異なるr信念理 解」やrふり遊び」)への課題には般化しなかった。この要因 についてHadwineta1.(1996)は、「感情理解」や「信念理 解」のグループの子どもは、教えられた課題を通過すること は学習したが、その背後にある概念を学習していないのでは ないかと考察した。 7.
(12) またSi1ver&0akes(2001)は、自閉症もしくはアスペル カー症候群の児童青年を11名ずつ実験群と統制群に分け、実 験群に対してコンピュ」ターゲームを利用した感情理解の指 導を行った。Si1ver&0akes(2001)は、感情理解の課題を ①写真による表情の認知、②状況を基にした感情の理解、③ 欲求を基にした感情の理解、④信念を基にした感情の理解、 ⑤好みを基にした感情の理解の5段階に分け、実験群には2 週間にわたって10時間、コンピュータープログラムを実施し た。プログラムの内容は、状況設定場面がスクリーンに提示 され、課題文の文脈に適した感情を答えるといった応答訓練 であった。プログラム終了後、指導効果の測定として、白黒 写真による表情の認知、Happe(1994)のStrangeStories、 そしてHaawineta1.(1996;1997)で使用された感情理解課. 題(How1in,Bamn・Cohen&Hadwin,1999)の3つのテ ストを実施した。その結果、実験群に関してこれら3つのテ スト金てにおいて指導前後で成績の上昇が認められた。 自閉症児がコンピューター教材を使用する利点として、① スクリーン上には不要な情報を排除して、単純に課題内容の みを提示することが可能である。②一貫した環境設定により、 課題内容や目的が明確である。③子ども白身のぺ一スで教材. を操作することが可能である等が挙げられる(Si1ver& 0akes,2001)。また、コンピューターを操作すること自体が、. 子どもにとっては強化子となるのではないだろうか。 上記のような利点から、Si1ver&0akes(2001)は今後の 課題として、コンピューター教材による感情理解の指導が実 際の日常生活においても効果をもたらしたか否かを調査する 必要性を挙げている。 我が国においては、行動分析学的アプローチに基づいて指 導を行った研究として、望月・野崎・渡辺・八色(1998)、刎 田・山本(1991)、佐竹・大井・斉藤(2005)、井上(2004) 8.
(13) 奥田・井上・山本(1999)などがある。. 井上・岡嶋・荒木・河村・奥田(2002)は、自閉症児1名 (CA:12:08,MA:6:03)を対象に、劇指導を行うことによ. る、社会的文脈場面(Happy・Sad・Angryの3条件)に応じ た表情理解、言語表出、表情表出の獲得について検討した。 例えば、Sad条件の「楽しみにしていたイベ.ソトが中止され る場面」では、指示者がr今日は遊園地に行くはずでした。 でも、雨が降っていけません。今からO○先生が入ってきて 『どうしたの?』って聞いてくれます。『どうしたの?』って 聞かれたら、『遊園地に行けなくなったの』」って教えてあげ てください。」と劇場面の内容を教示し、その後、対象児は場 面に応じた感情のイラスト両カードを選択すること(表情理 解)、求められた言語表出が適切なタイミングでできること (言語表出)、場面に応じた表情表出ができること(表情表出). が求められた。井上ら(2002)はその後、表現理解課題、一言 語表出課題、表情表出課題においてトレーニングを行った。. 設定はBLと同じ場面を使用し、正答の場合には言語による 賞賛が与えられ、誤答の場合には正答が教示された後に再試 行を実施した。その結果、Happy条件とSad条件で行動が獲 得され、Happy条件では未訓練の場面でも般化したことが確 認された。. このように、行動分析学的立場においては、発達障害児に おける理解の困難性や般化の問題を固体内部の認知.能力に還 元するのではなく、固体と環境との相互作用の結果として捉 えた上で操作可能な変数を明らかにしていくため、より積極 的に指導可能性を追求していくことができるとしている(井 上ら,2002)。しかし、この研究においては未訓練課題への般 化の検討は試みられているものの、家庭や学校といった対象 児の肩帯生活場面における行動の般化の検討はエピソードの 記述などにとどまっており、より詳細なデータの収集は俸と 9.
(14) んど行われていないといえる。. また高階・井上(2006)は早期療育の段階から、社会的ス キルや認知学習とともに、他者や自己の感情理解・表出とい った「心の理論」に一関わる課題の指導を行うこ一とが重要であ. ると考え、高機能自閉症幼児2名に「状況を基にした感情理 解」の条件性弁別トレーニングを行った。そこでは未訓練課 題への般化に加えて、事前事後の日常場面で自己および他者 の感情理解・表出に変容が見られるか否かについて、日常文 脈でのテストと保護者と保育士を対象とした調査を行った。 その結果、未訓練刺激への般化に対しては対象児ごとに成績 のばらつきが見られ、良好な結果は得られなかったものの、 r日常場面での自己及び他者の感情理解・表出テスト」にお いて、1名の対象児は事前テストでは質問に対して無反応で あったものの、事後テストにおいては感情語を使用した応答 が可能になった。またもう1名の対象児も事後テストにおい て状況と異なる感情を答えることが減少した。 このように感情指導研究は近年増加しており、高機能広汎 性発達障害児者の感情理解・表出に効果を上げているが、課 題としては、ある学習を行った場合、その効果が未訓練場面 に般化するか否かが焦点となっている。そして、般化が見ら れなかった場合、『その学習について背景となる概念を学習し ていなかった』一と結論づけられる傾向があり、それ以上の要 因を探る研究はほとんど見られない。. 10.
(15) 第4節 本研究の目的. 自閉症をはじめとする、高機能広汎性発達障害児における 自己や他者の感情理解に関する実験的研究、また自己や他者 の感情理解・表出に関する指導研究は前述の通り、近年急速」 に実施されてきた。その中で「心の理論」の課題に関しては、 欠損仮説などのさまざまな批判も出され、今後の大きな課題 となっている。しかし高機能広汎性発達障害児の自己・他者 感情理解課題については、年齢が上がるにつれて変容するこ とが臨床現場や研究等から示唆され(Happe,1994)、その独 自な発達過程を明らかにしていくことが重要であること、ま た誤信念課題の解決における直観的理解化の土台には情動の 問題があり(別府・野村,2005)、それが支援のあり方を検討 するための手がかりになるといえる。 感情指導の研究においても、高機能広汎性発達障害児者の 感情理解・表出に効果を上げているが、具体一的事実として、 ある学習を行った場合、その効果が未訓練場面で般化しなけ れば『その学習について背景となる概念を学習していなかっ た』と結論づけられる傾向があり、それ以上の要因を探る研 究はほとんど見られない。. したがって本研究では、高階・井上(2006)が早期療育の 段階から社会的スキルや認知学習とともに、他者や自己の感 情理解・表出といった「心の理論」に関わる課題の指導を行 うことが重要であるという理論的背景を基に、行動分析学的 なトレーニングを通して、対象児のスキル獲得につながるの ではないかという仮説を立てた。そこで、高機能広汎性発達 障害幼児の感情理解の指導を実施する前段階として、まず就 学前の定型発達幼児に対し、Hadwineta1.(1996)、Si1ver& 0akes(2001)らが使用した他者感情理解課題(How1ineta1., 11.
(16) 1999)のレベル3(状況を基にした感情の理解)のテストと 高階・井上(2006)の研究をもとに、筆者がコンピューター を用いてオリジナルで作成した感情理解のテストを行い、定 型発達幼児の自己・他者感情理解のレベルをアセスメントし、 本課題の妥当性を検討するとともに、年齢め差、男女差、ま たエラーパターンを分析することを目的とする。 その後、高機能広汎性発達障害幼児に対して感情理解、表 出の指導を行い一、日常生活への般化を検討する。. 具体的には、日常生活で利用可能なコンピューター教材の 開発と、保護者が家庭で実施可能なトレーニング方法を検討 し、未訓練場面での高機能広汎性発達障害幼児の自己・他者 感情理解、表出の般化と、トレーニングの効果を明らかにす ることを目的とする。. 12.
(17) 第2章 本論.
(18) 第1節 【研究I】. 幼児における自己感情と他者感情の理解 一性差および年齢差についての検討一. I.目的 1980年代後半から自閉症児者のr心の理論」に関する研究 が盛んに報告されるようになった。それら多くの研究の中で は、自閉症の子どもが心の状態について推論するのに、特別 な困難を持っていて、これらの困難が自閉症児の対人的異常 や、コミュニケーションの異常の基になっているということ が示されている(Hadwineta1.1996)。つまり、発達の自然 な経過の申で、他者の心的状態を理解する能力が獲得可能な 定型発達幼児とは異なり、自閉症児の発達においてそういっ た能力を自然に身につけることは困難であるといえる。 これらの困難性に対して高階・井上(2006)は、早期療育 の段階から、社会スキルや認知学習とともに、他者や自己の 感情理解・表出といった「心の理論」に関わる課題の指導を 行うことが重要であり、それにより、日常生活場面やその後 の社会適応において、何らかの効果が期待できると主張して いる。. 自閉症児者の感情理解の研究の一つとして、前に述べた Hadwineta1.(1996;1997)で使用された感情理解課題のテ ストを、指導前後で行った研究がある(How1in,Baron−Cohen & Hadwin, 1999)。. その結果、全ての実験群に関して指導前後で成績の上昇が 認められた。しかし、この研究は絵カードを用いた課題であ ったので、Si1ver&0&kes (2001)は今後の課題として、コ ンピューター等による感情理解の指導が、実際の日常生活に おいても何らかの効果をもたらすのではないかと考え、これ 13.
(19) を調査する必要性を挙げている。. 一方、自閉症児に対して、定型発達の幼児は一体どのよう に自己と他者の心的状態を理解する能力を獲得していくので あろうか。. 幼児期の信念理解についても「心の理論」の研究を始めと して、自分や他者にどのような心的状態を帰属させることが 何歳ごろから可能になるのか、ということに焦点を当てた実 験研究が数多くなされている(Wimmer,&Pemer,1983)。こ れらの研究では、幼児の信念理解についてまだ一貫した見解 が得られていないものの、概ね3歳から5歳ぐらいまでの間 に、自己・他者感情理解が進んでいくという点では一致して いる。. そこで本研究では、高機能広汎性発達障害幼児の感情理解 の指導を実施する前段階として、就学前の定型発達幼児に対 し、Had−win(1996;1997)、Si1ver&.0akes(2001) らが、. 使用した他者感情理解課題のレベル3(状況を基にした感情 の理解)のテストを基に、筆者がパソコンを用いてオリジナ ルで作成した感情理解のテストを行う。そして臨床的妥当性 を検討するために、定型発達幼児の白已・他者感情理解のレ ベルをアセスメントし、本課題の妥当性を検討するとともに、 年齢の差、男女差、またエラーパターンを分析することを目 的とする。. 14.
(20) 皿.方法. 1.研究依頼の経緯 筆者が以前勤務していた公立幼稚園で実験を行うため、教 育委員会に研究依頼をし、許可を得た。その後、教育委員会 主催の公立幼稚園園長会で本研究の目的と内容を説明した上 で、協力して頂ける幼稚園を決定した。 実験を行う際、記録を目的としてビデオ撮影をしたが、対 象幼児個人を特定できるようなもの(名札など)や幼児自身 の顔は快さないようにし、プライバシーへの配慮には万全を 期した。また、対象幼児の月齢を把握するため、クラス名簿 をお借りしたが、これは研究の目的以外に利用しないことを 約束し、実験終了後に返却した。 2.材料 ①場面カ』ド How1ineta1.(1999)は他者感情理解課題として、「happy」、. rsad」、rangry」、rafraid」の4つの感情を示す状況場面や 「happy」もしくは「sad」の感情を示す欲求・結果場面を作 成した。. 本研究では、このHow1inet a1.(1999)の他者感情理解課 題を参考にし、さらに公立保育所や幼稚園で勤務する保育士. や教師から聞き取りを行って、4歳から就学前の幼児の日常 場面に即した、感情を弁別できる内容である8場面を抽出し て使用した。各感情場面に分けて、Figure1(a∼d)に設定 場面の例を示した。. 15.
(21) / /. 弓. ?. \. Figure1(a)設定場面の例(うれしい). …一. 、//. ィ. パ. 3 (. レ. l㌧. い ○レ 乃{. 6. /斗 6. 口 八. Figure1(b)設定場面の例(かなしい). 16.
(22) 外、“. J韓 ㌧. /. !∵〃/ /. , 、 I. (1. “. \ ⊂1」ノ. Figure1(c)設定場面の例(おこっている). 六、 .一、ノ. h、. ぺ. ノ. !. ↓ 、 ノ. 〕. ノ 戸. Figure1(d)設定場面の例(こわい). 17.
(23) ②表情図 「うれしい」「かなしい」「おこっている」「こわい」という. 4種類の感情をイラストで表した表情図を1枚ずつ、コンピ ューター画面上で使用した。Figure2に、使用した表情・図の イラストを示した。. How1ineta1.(1999)が使用した表情のイラストは、我が国 で使用するには標準的な表情ではないと判断し(高階・井上 2006)、本研究では独自のイラストを作成した。 毎回、テストもしくはトレーニングを始める前に表情図を. 4枚提示して、rうれしい顔はどれですか?」と質問し、4種 類の表情認知の確認をしてから試行を開始した。. うれしい. かなしい おこっている Figure2 表情図. 18. こわい.
(24) 3.セッティング テストは、I市公立幼稚園の保健室で実施した(n:51 年 長:23(男:15,女:8) 年少:28(男:13,女15))。Figure. 3にセッティング図を示した。指示者と対象幼児は机に向か って隣接して着席し、机上には、課題を行うためのコンピュ ーターを1合セッティンッグした。. 指示者. 対象児. PC Figure3 セッティング. 4.手続き. ①前段階 コンピューター画面で「うれしい」「かなしい」「おこって いる」「こわい」の4つの表情図を使用した。画面に表情図を 映しだし、対象幼児に提示してから「うれしいと思うお顔は どれですか。」と図の表情を尋ねる質問をした。この時対象幼. 児は、表情図を1枚選択して指さすか、あるいは、言語で応 答することが求められた。 対象幼児が無反応もしくは「わからない」等と言った場合は、. 再度設定場面の内容について教示し、表情図を指さしながら rこれはうれしい顔がな、かなしい顔がな、おこっている顔 19.
(25) かな、こわい顔がな」といった音声プロンプトを与えた。 対象幼児が間違った表情図を選択した場合は謀反応とし、そ の場合、指示者はrちがうよ。残念。」などと言ってから再度 設定場面の内容を教示して、適切な答えを教えた。 その後、再試行を行い、対象幼児が正しい表情図を選択した 時、言語による賞賛および身体接触による強化を行った。 ② 練習問題 コンピューター画面で「うれしい」「かなしい」「おこって いる」「こわい」の表情図4つと、「あなたはおやつにケーキ をもらいました。」という設定場面図のスライドを使用した。 Figure4に設定場面図を示し。た。. コンピューター画面に設定場面図と4つの表情図を対象幼 児に提示し、その後、場面の図が示す内容について教示して から、「あなたは今どんな気持ちですか?」と自己の感情を尋 ねる質問をした。この時対象幼児は、表情図を1枚選択して 指さす、言語で応答することが求められた。指示者に答えを 回答することを正反応とし、その後にその表情を選択した理 由を尋ねた。. 対象幼児が無反応もしくはrわからない」等と言った場合 は、再度設定場面の内容について教示し、表情図を指さしな がらrあなたはうれしい気持ちか・な?かなしい気持ちかな、 おこっている気持ちかな、こわい気持ちかな」といった音声 プロンプトを与えた。 その後、再試行を行い、対象幼児が表情図を選択し、その 表情を選択した理由を答えた時、言語による賞賛および身体 接触による強化を行った。. 20.
(26) あなたはおやつにケーキをもらいました。. 騒畠 あなたはどんなきもちですか? !一一’∴. 幽. 、、、、、、. ’こってい ;拠 Figure4. ③ 自己・他者感情理解テスト コンピューター画面で「うれしい」「かなしい」「おこって いる」「こわい」の表情図4つと、8つの設定場面図のスライ ドを使用した。. それぞれの設定場面については、. A I.自己感情を質問する 1I.条件を設定して他者感情を質問する 皿.条件は入れ替えずに再度、自己感情を質問する もしくは、. B I.自己感情を質問する 1I.条件を設定して他者感情を質問する 皿.条件を入れ替えて、再度他者感情を質問する というAまたはBの3種類の質問から成り、ランダムにロー テーションされる。 21.
(27) コンピュ』ター画面に設定場面図と4つの表情図を対象幼 児に提示し、その後、場面の図が示す内容について教示して から、主人公(自己・他者)の感情を尋ねる質問をした。 具体例を挙げると、例えば「うれしい」感情場面の自己感 情の場合、まずrあなたはおやつにケーキをもらいました。」 と状況を説明し、次に「あなたは今どんな気持ちですか。」と、. 感情を一間う質問をする。この時対象幼児は、表情図を1枚選 択して指さすかあるいは、言語で応答することが求められた。 ここからはテストなので、対象幼児は指示者に答えを回答す ることが正反応となり、いかなる強化も行わなかった。 以下Tab1e1,2に、「うれしい」感情を表す一場面を用いて、 A・Bの手続きの例を示した。また、Tlab1e3に本テストで使 用した全ての設定場面の内容を示した。. 22.
(28) Tab1e1「うれしい」感情場面の例(A) 【自己感情】. 状況場面の提示:コンピューター画面に設定場面図と表情図 を映しだし、対象幼児の前に提示する。 状況の説明:「あなたはおやつにケーキをもらいました。」と 教示する。 感情の質問:rあなたは今どんな気持ちですか。」と質問する。 【他者感情】. 状況場面の提示:コンピューター画面に設定場面図と表情図 を映しだし、対象幼児の前に提.示する。 条件の説明:「たろうくんはケーキが嫌いです。」 状況の説明:「たろうくんはおやつにケーキをもらいました。」 と教示する。 感情の質問:「たろうくんは今どんな気持ちでしょうか。」と 質問する。 【自己感情】. 状況場面の提示:コンピューター画面に設定場面図と表情図 を映しだし、対象幼児の前に提示する。 状況の説明:「あなたはおやつにケーキをもらいました。」と 教示する。 感情の質問:「あなたは今どんな気持ちですか。」と質問する。. 23.
(29) Tab1e2「うれしい」感情場面の例(B) 【自己感情】. 状況場面の提示:コンピューター画面に設定場面図と表情図 を映しだし、対象幼児の前に提示する。. 状況の説明:「あなたはおやっにケーキをもらいました。」と 教示する。 感情の質問:「あなたは今どんな気持ちですか。」と質問する。 【他者感情】. 状況場面の提示:コンピューター画面に設定場面図と表情図 を映しだし、対象幼児の前に提示する。 条件の説明:「たろうくんはケーキが嫌いです。」 状況の説明:「たろうくんはおやつにケーキをもらいました。」 と教示する。. 感情の質問:「たろうくんは今どんな気持ちでしょうか。」と 質問する。 【他者感情】. 状況場面の提示:コンピューター画面に設定場面図と表情図 を映しだし、対象幼児の前に提示する。 条件の説明:「たろうくんはケーキが好きです。」 状況の説明:「たろうくんはおやっにケーキをもらいました。」 と教示する。 感情の質問:「たろうくんは今どんな気持ちでしょうか。」と 質問する。. 24.
(30) Tab1e3テストで使用した設定場面 教示内容 ①自己 ○あなたはおやつにケーキをもらいました。 他者. ●たろう一. ュんはケーキがきらいです。. ○たろうくんはおやつにケーキをもらいました。 他者. ●たろうくんはケーキがすきです。. ○たろうくんはおやっにケーキをもらいました。 ②自己 ○あなたはブランコにのっています。 他者. ●たろうくんはブランコがきらいです。 ○たろうくんはブランコにのっています。. 自己. ○あなたはブランコにのっています。. ③自己 ○あめなのであなたはそとにいけません。 他者. ●たろうくんはへやであそびたいです。. ○あめなのでたろうくんはそとにいけません。 他者. ●たろうくんはそとであそびたいです。. ○あめなのでたろうくんはそとにいけません。 ④自己 ○あなたはうみへあそびにいきました。 他者. ●たろうくんはやまへあそびにいきたいです。 ○たろうくんはうみへあそびにいきました。. 自己. ○あなたはうみへあそびにいきました。. ⑤自己 ○あなたのつくったすなやまがだれかにこわされました。 他者. ●たろうくんがすなあそびをしたあと、おおあめがふりま した。. ○たろうくんのつくったすなやまがこわれてしまいまし た。. 他者. ●たろうくんはともだちとけんかをしました。 ○そのともだちがたろうくんのっくったすなやまをわざ とこわしてしまいました。. ⑥自己 ○あなたのともだちがあそぶやくそくをまもってくれま 25.
(31) せん。. 他者. ○たろうくんのともだちがびょうきになってしまいまし た。. ○たろうくんはともだちとあそべません。. ○あなたのともだちがあそぶやくそくをまもってくれま 自己. せん。. ⑦自己 ○おおきないぬがあなたにとびついてきました。 他者. ●たろうくんはいぬがすきです。. ○おおきないぬがたろうくんにとびついてきました。 他者. ●たろうくんはいぬがきらいです。. ○おおきないぬがたろうくんにとびついてきました。 ⑧自己 ○あなたはたかいきのうえにいます。 他者. ●たろうくんはたかいところがすきです。 ○たろうくんはたかいきのうえにいます。. 自己. ○あなたはたかいきのうえにいます。. ※○は設定場面、○は条件設定とする。. 26.
(32) ④ 得点 自己感情課題については、. A I.自己感情を質問する lI.条件を設定して他者感情を質問する 皿.条件は入れ替えずに再度、自己感情を質問する のうち、I.と皿.の感情が一致していれば正解となり、2 点を与えた。. 他者感情課題については、. A I.自己感情を質問する ■.条件を設定して他者感情を質問する 皿.条件は入れ替えずに再度、自己感情を質問する」 B I.自己感情を質問する ■.条件を設定して他者感情を質問する 皿.条件を入れ替えて、再度他者感情を質問する のうち、A■.とB■.とB皿.をそれぞれ正解すれば、各1 点ずつ与えた。. 27.
(33) 皿.結果. ①年齢差、性差における自己感情の理解度 白己感情課題の得点を平均し、年齢(年少児:4歳10か月∼. 5歳9ヵ月、年長児:5歳10か月∼6歳9か月)X性別(男、 女)の二元配置分散分析を行ったところ、有意な差は見られ なかった。Figure5に自己感情課題の平均得点を示した。. ■見. 女. Figure5 自己感情課題の平均得点. 28.
(34) ②年齢差、性差における他者感情の理解度 他者感情課題の得点を平均し、年齢(年少児:4歳10か月∼ 5歳9ヵ月、年長児:5歳10か月∼6歳。9か月)一×性別(男、 女)の二元配置分散分析を行ったところ、年齢の主効果がみ られ(戸(1,4)=3828.14,ρ<.O1),年長児が年少児よりも他者. 感情課題の平均得点が高いことが示された。また、性の主効 果および交互作用はみられなかった。Figmre6に他者感情課 題の平均得点を示した。. 12ザ0……一. .1。∴______. ■男. 女. Figure6 他者感情課題の平均得点. 29.
(35) なお、自己感情課題と他者感情課題は問題数が異なるため 達成率の比較ができない。そこで各感情課題の平均達成率(自 己感情:8点満点のうちの正解得点,他者感情:12点満点の うちの正解得点)を算出し、Figure7,Figure8に示した。. 妙男児. 年少女児. 年長男児. 年長女児. 一____.._____、、、、.、」_I.一._..__一_.一__⊥_」、.、一.......一...__.__._」」.._._...、. ...I_」. Figure7 自己感情課題の平均達成率. 年少男児. Figure8. 年少女児. 年長男児. 鞭女児. 他者感情課題の平均達成率.
(36) ③エラーパターンの分析 さらにrうれしい」rかなしい」rおこっている」rかなしい」 と課題を細かく分けて、そρ平均得点を同様に分散分析した が、こちらはいずれも有意な差は見られなかった。 以下に自己感情別理解の平均達成率をFigure9、他者感情 別理解の平均達成率をFigure1Oに示した。. 年少児. g年長児 ○仁. うれしい. Figure9. かなしい. おこっている. こわい. 自己感情別理解の平均達成率(年少・年長児). 1oo,. 80… 60, 年少児 口年長児’. 20†一. うれしい. F’igure 1O. かなしい. おこっている. こわい. 他者感情別課題の平均達成率(年少・年長児)」 31.
(37) 自己感情では、年少児・年長兄共に「うれしい」(年少児: 73%,年長児:91%)というポジティブ感情と比較して、「か なしい」(年少児:54%,年長児:53%),「おこっている」(年. 少児:50%,年長児:50%),rこわい」(年少児:56%,年 長児:54%)といったネガティブな感情の成績が低いという 傾向がみられた。. また、他者感情においては、「うれしい」(年少児:49%, 年長児:70%)と「かなしい」(年少児:55%,年長児:69%) という感情の成績が、年少児・年長児ともに高く、「おこって いる」(年少児:28%,年長児:45%)と「こわい」(年少児: 33%,年長児:39%)という感情の成績が低い傾向がみられ た。. 自己感情の結果と他者感情の結果を比較すると、自己感情 においては「うれしい」という感情を除いて年少児、年長兄 共に大きな差はみられないが、他者感情においては年少児の 方が、年長児に比べて全体的に正反応率が低くなっているこ とが示された。. 32.
(38) w.考察 本研究では、幼稚園児51名を対象として、How1ineta1. (1999)が作成した他者感情理解課題を基に、筆者がオリジ ナルで作成した感情理解のテストを行い、各年齢の差、男女 差、またエラーパターンを分析することを目的とした。 その結果、自己感情課題の得点を平均し、年齢(年少児:4. 歳10か月∼5歳9ヵ月、年長児:5歳10か月∼6歳9か月) ×性別(男、女)の二元配置分散分析を行ったところ、有意 な差は見られなかったが、他者感情においては、年齢の主効 果がみられ(戸(1,4)・3828,14,ρ<.01),年長児が年少児より. も他者感情課題の得点が高いことが示された。また、性差の 主効果および1交互作用はみられなかった。さらにエラーパタ ーンを見るためにrうれしい」rかなしい」rおこっている」 rかなしい」と課題を細かく分けて、同様に分散分析を行っ たが、こちらはいずれも有意な差は見られなかった。 この結果により、自己感情理解のスキルは年少児ですでに 獲得しているが、他者感情理解に関しては、年長児の方が、 年少児よりも推測しやすいということが示された。 これは年少児では自己の経験による特定の感情が、他者感 情を推測する際に大きく影響したり、混同してしまった結果 であると考えられるのではないだろうか。しかし年長児にな ると、自分自身の経験に関する記憶の操作が巧みになり、自 身の特定の経験や感情に引きずられることがなくなって、自 己と他者の感情の弁別ができるようになったと考えられる。 実際のテスト中のエピソード場面では、他者感情条件の教示 文「たろうくん(架空の主人公の名前)は山へ遊びに行きた いと思っています。たろうくんは海へ遊びに行きました。ど んな気持ちかな?」と聞いた場合、年少児は自分が実際に海 に行ったときの経験が想起されてしまい、それに引きずれら れてしまっていることが多く見られた。結果として、何を答 33.
(39) えるべきなのか、幼児が混乱してしまい、自己感情と他者感 情が混合して、正反応率が低くなってしまった可能性がある。 しかし、他者感情場面では短期記憶の問題も考えておかな ければならない。本研究では他者感情場面で条件を設定する 際、コンピューターの前のスライドでrたろうくん(他者) はケーキがきらいです」と述べ、次のスライドでrたろうく んはおやつにケ]キをもらいました。たろうくんはどんなき もちでしょう?」と質問している。年少児の場合、短期記憶 で得られた情報を維持する時間が、年長児と比較して短いと いうことも考慮する必要があり、今後の課題となった。 次に細かく課題を分けて、エラーパターンを分析した。自 己感情の成績に関しては、年少児と年長兄共にrうれしい」 というポジティブな感情と比較して、rかなしい」、「おこって いる」、rこわい」といったネガティブな感情の成績が低いと. いう傾向がみられた。また、他者感情の成績に関してはrう れしい」と「かなしい」という感情の成績が、年少児と年長 兄共に高く、「おこっている」とrこわい」という感情の成績 は低い傾向がみられた。. 自己感情の結果と他者感情の結果を比較すると、自己感情 においては「うれしい」という感情を除いて年少児、年長兄 共に大きな差はみられないが、他者感情においては年少児の 方が、全体的に正反応率が低くなっていた。 内容を吟味したところ、自己感情においては年少児と年長 兄共に「かなしい」と「おこっている」を混合しているパタ ーンがほとんどであった。実際のテスト中のエピソードを例 に挙げると、自己感情条件の教示文「○○ちゃん(対象児自 身の名前)が作った砂のお山を誰かがわざと壊してしまいま した。どんな気持ちかな?」と聞いた場合、「おこっている」 という怒りの感情よりも、むしろ「かなしい」という感情を 選択する幼児が多く見られた。菊地(2003)が自閉症者およ 34.
(40) び定型発達幼児を対象として行った、状況からの他者および 自己感情推測の実験結果によると、定型発達幼児においては 「かな.しい」と「おこっている」の混同が見られた。菊地(2003). の実験では状況文を.聞いて自己もしくは架空の主人公の情動 について口頭で答えるという方法を採用しており、本研究で はあらかじめ4つの選択肢が設定されていた点や、状況場面 の内容も異なっているものの、本研究でもこの実験とほぼ同 様の結果であったといえる。 また、感情表出には文化差があり、日本の子どもは欧米の 子どもに比べて、怒りを表出することが少ないということが、 Zahn Wax1er(1996)の研究で示されている。一般的に日本 では否定的な感情表出を抑制するように求められる傾向があ るので「怒り」と「悲しみ」の区別がつきにくいものと考え られる。そのため年長児であっても、2つの感情を混同して しまったのかもしれない。さらに高階・井上(2004)の研究 においても、How1inet a1.(1999)の他者感情理解課題は、 日本の日常では遭遇しにくく、対象児がイメージできないも のがあると述べており、文化の差を検討して課題を作成する 必要性があるといえる。 一方、J.W.Worden(1993)によれば、喪失体験への反応. として表れるr悲嘆」は、日本語ではr悲しみ嘆く」という 意味だけで捉えられがちであるが、喪失体験に対するr悲嘆」 には悲しみだけ一 ナなく、怒りや絶望感など様々な感情が含ま れると述べている。この研究の知見から考察すれば、「怒り」 と一「悲しみ」は同時に起きる場合があり、これをどちらかに 分類するという課題自体が不自然であったといえるかもしれ ない。. 35.
(41) 第2節 【研究皿】. 高機能広汎性発達障害幼児における感情理解の指導 一 家庭トレーニングにおける指導効果に関する研究. I.目的 高機能広汎性発達障害児の多くは、その場の状況や文脈な どの様々な情報を統合して他者の感情状態を推測し、相手の 状況を推理しながら相互的コミュニケ』ションを図るといっ た語用論的な処理やスキルに問題があるといわれている。ま た自己の感情や思考に関する認識が甘く、極端な自己評価を する等、メタ認知が弱いという指摘もある(三橋・中村,2004)。. 高機能広汎性発達障害児においては、このような障害特性 のために、様々な変化をする周囲の状況や人間関係のあり様 を瞬時に捉え、判断する能力が不足すること、また自己表現 が円滑に行われないことによって、幼児期の集団生活の中で は状況に応じた行動がうまく出来ないと考えられている(菊 池,2002)。. これらの困難性に対して高階・井上(2006)は、早期療育 の段階から、社会スキルや認知学習とともに、他者や自己の 感情理解・表出といったr心の理論」に関わる課題の指導を 行うことが重要であり、それにより、日常生活場面やその後 の社会適応において何らかの効果が期待できると主張してい る。. 発達障害者の感情理解・表出に関する研究はいくつか存在 するものの、青年を対象としたものが多く、就学前の幼児に ついての報告は数少ないといえる。行動分析学的アプローチ に基づいて指導を行った研究.として、井上ら(2002)が、自 閉症児1名(CA:12:08,MA:6:03)を対象に、社会的文脈 場面(Happy・Sad・Angryの3条件)に応じた表情理解、言 36.
(42) 語表出、表情表出の指導を行ったものがある。これは例えば、 Sad条件の「楽しみにしていたイベントが中止される場面」 では、指示者が「今日は遊園地に行くはずでした。でも、雨. が降っていけません。今から○O先生が入ってきて『どうし たの?』って聞いてくれます。『どうしたの?』って聞かれた ら、『遊園地に行けなくなったの』」って教えてあげてくださ い。」と場面の内容を教示し、その後確認試行を行った。対象 児には場面に応じた感情のイラスト画カードを選択すること (表情理解.)、求められた言語表出が適切なタイミングででき. ること(言語表出)、場面に応じた表情表出ができること(表 情表出)が求められた。井上ら(2002)がその後、それぞれ の条件・場面についてこの3つの標的行動のトレーニングを. 行ったところ、Happy条件とSad条件で行動が獲得され、 Happy条件では未訓練の場面でも般化したことが確認された。 しかしこれは訓練場面で適切な反応が可能となっているも のの、日常生活場面における行動の般化の検討は、エピソー ドの記述に留まっており、詳細なデータの収集は特に行われ ていない。. また、高階・井上(2006)は、高機能自閉症幼児2名に「状 況を基にした感情理解」の条件性弁別トレーニングを行い、 未訓練課題への般化に加えて、事前事後の日常場面で自己お よび他者の感情理解・表出に変容が見られるか否かについて、 日常文脈でのテストと保護者と保育士を対象とした調査を行 った。結果、日常文脈でのテストにおいて、両対象児は事後 テストで感情語を使用した反応が可能となったものの、未訓 練課題への般化に対しては対象児ごとに成績のばらつきが見 られ、良好な結果は得られなかった。 そこで本研究ではHow1ineta1.(1999)の他者感情理解課 題と高階・井上(2006)の研究をもとに、高機能広汎性発達 障害幼児に対して感情理解、表出の指導を行い、日常生活へ 37.
(43) の般化を検討することを目的とし.た。具体的には、日常生活 で利用可能なコンピューター教材の開発と、保護者が家庭で 実施可能なトレーニング方法を検討し、高機能広汎性発達障 害幼児の自己・他者感情理解・表出の般化に効果があるかを 明らかにする。. 38.
(44) 皿.方法. 1.対象幼児. 民間で発達障害のある子どもをサポートしているグループ 丁会のメ』リングリストを介して、感情理解プログラムに協 力してもらえる高機能広汎性発達障害幼児を募集した。 このプログラムヘの参加条件は,①高機能自閉症または広 汎性発達障害の診断を有すること,②4歳から就学前である こと,③3語文以上が理解できるものとした。結果、この条 件に適応する幼児4名が対象・となった。. S1はCA4歳10ヶ月(実験開始時)、A市の無認可保育所 に在籍する男児で、S2はCA5歳1ヶ月(指導開始時)、B市 公立幼稚園に在籍する男児、S3はCA5歳9ヶ月(指導開始 時)、C市公立保育所に在籍する男児、S4はCA5歳3ヶ月(指 導開始時)、D市の私立幼稚園に在籍する男児であった。 S1,S2,S3はそれぞれ民間で発達障害のある子どもをサポ ートしているグループ丁会に所属し、定期的に療育を受けた り、家庭でも課題に基づいて、ディスクリートトライアルセ ラピーを行っていた。. S4は3歳4ヶ月時からH大学大学院臨床心理相談室にお いて定期的な療育を行っており、工作、余暇スキルなどの指 導を受けていた。. Tab1e4に、対象幼児の診断名と診断を受けた時期、また新 版K式発達検査の結果を示した。. 39.
(45) Tab1e4診断名(診断時期)と新版K式発達検査の結果 診断名 K式結果 S1 広汎性発達障害(1歳10ヵ月) 全領域DQ85 S2 高機能自閉症(3歳5ヵ月) 全領域DQ80 S3 高機能自閉症(3歳4ヵ月) 全領域DQ78 S4 広汎性発達障害(3歳2ヵ月) 全領域DQ80. 2.保護者面接と事前テスト プログラムを行う前に対象幼児の自己、他者の感情理解及 び表出に関する聞き取りを行うため、対象幼児とその保護者 に臨床心理相談室に来談して頂き、保護者面接を実施した。. S1は、友達と遊ぶのが苦手でありr相手が泣いたり、怒っ たりしている顔は分かっているようだが、他人の感情を判断 しているような言動は見られない」、S2は、特に他者の感情 理解に困難さをもっているようで、特に“怒られている”と いうことが理解できず「幼稚園の先生に『ため!!』と叱ら れても笑っていたり、S2が友達の作ったものをわざと壊して、 友達が顔を真っ赤にして『やめて!』と言っても、ゲラゲラ と笑っていることがある」、S3は、r絵本を読んでいる時『こ の子実ってる』、『何で怒ってるの?』などと言い、表情は敏 感に感じている様子であるが、自分の感情を相手に伝えるこ とが苦手で、友達とトラブルになることが多い」、S4は自分. の好き嫌いと他者の好き嫌いの区別がついていないようで r甘いものが苦手な友達が『ぼく、ケーキが食べれないの。』 と言っても、『食べられるよ!』と泣き出し、無理に口元にケ ーキを運んで嫌がられた」といった報告があった。 プログラムを作成するにあたり、高機能自閉症幼児の場合 は特有の感覚過敏やこだわりなどをもっていることがあり、 40.
(46) 自己感情を問う課題では対象幼児によって好みが影響する可 能性が予測された。そこで、“得意なこと・苦手なことチェッ クリスト’を作成し、対象幼児が「うれしいと思うこと、あ るいは場面」「かなしいと思うことくあるいは場面」「おこっ てしまうこと、あるいは場面」「こわいと思うこと、あるいは 場面」を保護者に尋ねた。これをもとに自己感情を間う課題 を選定し、一人一人の日常場面により即した条件場面を決定 することにした。また同時に対象幼児には事前・事後テスト として、研究Iで定型発達幼児に使用した自己・他者感情理 解のコンピュ』タ』課題を実施し、これを般化の指標とした。 そして対象幼児が回答する際、自己感情、他者感情ともrな ぜその答えを選んだのですか?」rどうしてそう思ったの?」 等と、その回答を選択した理由についても聞き取りを行った。 研究Iで定型発達幼児に使用した自己・他者感情理解のコン ピューター課題を般化の指標とした理由については、対象幼 児が家庭でのトレーニング終了後、この課題をプローブとし て使用し、・未訓練場面での般化がみられるかを検討するため である。. 3.自己・他者感情理解課題の家庭トレーニング ① 材料. 対象幼児と保護者が臨床心理相談奉に来談した1週間後に、 必要書類は郵送にて、感情理解プログラムはPCメールに添 付.して送った。以後、このトレーニングは家庭で保護者によ り実施された。 【郵送書類】. a. トレーニングマニュアル. トレーニングを家庭で実施して頂くための、方法や手順を 記載した。. 41.
(47) b. KBPAC(Know1edge ofBehaviora1Princip1es as ApphedtoChi1dren:日本語版 梅津,1982) 行動療育の理解度を測定するためのテストで保護者が受け. るものである。日本語版は25項目からなり、4つの選択肢の 中から回答を1つ選ぶ。これは最も効果的な育児戦略は何か を知ってもらうためのテストであるが、今回はトレーニング との関連はないので、保護者にはいかなるフィードバックも 実施しなかった。. C. 日常場面での自己および他者の感情理解・表出調査 i.目的. 日常生活の申で、対象幼児がどの程度他者の感情を理解し ているか、また自己の適切な感情表出が可能であるかを調査 する。そして、自己・他者感情理解課題のトレーニングを、 家庭で保護者が実施することで、その効果があるかを検討す る。. i.方法. 【日常場面での自己および他者の感情理解・表出調査】 (1)対象幼児. 自己・他者感情理解課題の指導と同様に、高機能自閉症幼 児4名(S1,S2,S3,S4)を対象とした。対象幼児のプロフ ィールは前述の通りである。 (2)記録者. 対象幼児S1,S2,S3,S4の母親4名が記録を行った。 (3)調査時期および期間. 筆者が作成した自己・他者感情理解課題のトレーニングを 開始する事前と、家庭トレーニングが終了した後の計2回に 渡り、調査を行った。調査期間はともに1週間を設定した。 (4)手続一き. このテストは、日常生活の中で対象幼児もしくは家族など 42.
(48) の周囲の人物(他者)が、rうれしい」rかなしい」rおこって いる」「こわい」などの気持ちを感じている場面で、対象幼児 (他者)がr今どんな気持ちているか」を母親が対象幼児に 質問するというものである。 記入用紙に、①どのような場面で質問したのか、②講の気 持ちを尋ねたのか、③対象幼児はどのように答えたのか、④ 対象幼児がその答えを述べた理由の4点について書き込むよ うになっている。. テストを行う期間は1週間とし、質間の回数は1日2回程 度を目安としていること、故意に場面を設定する必要はない こと、また、対象幼児の反応に対して合否のフィードバック は行わないこと等の点について口頭で説明を行った。 d, トークンセット(トークン表・シール). 家庭でのトレーニング終了後、毎回トークン表にシールを 貼ってもらう。各家庭で強化子を設定してもらい、楽しみな がらトレーニングに取り組めることを目的とした。 e.課題達成チェックリスト トレーニングで対象幼児が示した反応を保護者に記録して もらうための記録用紙。項目ごとに正反応(○)・謀反応(X) が記入できるように作成した。. 尚、b.c.eに関しては後目、返信して頂くようにした。 【PC添付プログラム】 a. 条件設定場面. 本研究で使用する感情理解プログラムは筆者がオリ・ジナル で作成したものであり、コンピューターを用いて実施できる ものとした。条件場面の選定については、How1ineta1.(1999) の他者感情理解課題を参考にしたが、より日常的なものにな るよう、筆者が勤務する保育所で、日頃子どもと関わってい 43.
(49) る保育士の意見も取り入れた。しかし前述のように、高機能 自閉症幼児の場合は特有の感覚過敏やこだわりなどをもって いることがあり、自己感情を問う課題では対象幼児によって の好みが影響する可能性が予測された。そこで、予め対象幼 児の保護者に聞き取りを行ってから選定し、一人一人の日常 場面により即した条件場面を決定し、感情を弁別できる内容 である8場面(オリジナル課題半分、標準課題半分)を抽出 して作成した。. b.表情図 研究Iで用いた「うれしい」「かなしい」「おこっている」 「こわい」という4種類の感情をイラストで表した表情図を 1枚ずつ、コンピューター画面上で使用した。 ② セッティング トレーニングを、各対象児の家庭で行う。保護者と対象幼 児は机に向かって隣接して着席し、机上には、課題を行うた めのコンピューターを1合セッティンッグするように指示し た。Figure11にセッティング図を示した。. 対象児. 保護者. P C. Figure11 セッティング 44.
(50) ③ 手続き. トレーニングは1目1回実施するように設定した。 a. 前段階. コンピューター画面で「うれしい」「かなしい」「おこって いる」「こわい」の4つの表情図を使用した。トレーニング開 始前に毎回、画面に表情図を映しだし、対象幼児に提示して から「うれしいと思うお顔はどれですか。」と図の表情を尋ね る質問をするように指示した。この時対象幼児は、表情図を 1枚選択して指さす、あるいは言語で応答することが求めら れた。. 対象幼児が無反応もしくは「わからない」等と言った場合は、 再度設定場面の内容について教示し、表情図を指さしながら 「これはうれしい顔がな、かなしい顔がな、おこっている顔 がな、こわい顔がな」といった音声プロンプトを与えた。 対象幼児が間違った表情図を選択した場合は謀反応とし、そ の場合、指示者は「ちがうよ。残念。」などと言ってから再度 設定場面の内容を教示して、適切な答えを教えた。 その後、再試行を行い、対象幼児が正しい表情図を選択した 時、言語による賞賛および身体接触による強化を行った。 b. 自己・他者感情理解トレ』ニング コンピューター画面で「うれしい」「かなしい」「おこって いる」「こわい」の表情図4つと、8つの設定場面図のスライ ドを使用した。. それぞれの設定場面については、. A I.自己感情を質問する ■.条件を設定して他者感情を質問する 皿.再度、自己感情を質問する もしくは、. B I.自己感情を質問する 皿.条件を設定して他者感情を質問する 45.
(51) 皿.条件を入れ替えて、再度他者感情を質問する というAまたはBの3種類の質問から成り、ランダムに口』 テーションされる。. コンピューター画面に設定場面図と4つの表情図を対象幼 児に提示し、その後、場面の図が示す内容について教示して から、r○○(対象幼児/たろうくん)は今どんな気持ちでしょ う。」と主人公(自己・他者)の感情を尋ねる質問をした。こ. の時対象幼児は、表情図を1枚選択して指さす、あるいは言 語で応答することが求められ、同時にその表情を選択した理 由も答えなければ在らない。対象幼児が無反応もしくは「わ からない」等と言った場合は、再度設定場面の内容について 教示し、表情図を指さしながらrこれはうれしい顔がな、か なしい顔がな、おこっている顔がな、こわい顔がな」といっ た音声プロンプトを与えた。 対象幼児が間違った表情図を選択した場合は謀反応とし、そ の場合、指示者は「ちがうよ。残念。」などと言ってから再度 設定場面の内容を教示して、適切な答えと理由を教えた。 その後、再試行を行い、対象幼児が正しい表情図を選択した 時、言語による賞賛および身体接触による強化を行った。. Tab1e5∼Tab1e8に、本テストで使用したS1,S2,S3,S4 全ての設定場面の内容を示した。 C. トレーニング課題の順番変更. トレーニング開始から1週間後に課題の内容は同様である が、提示される課題の順番を変更したコンピューター課題を メールで添付した。これは、対象幼児がトレーニング課題の 順番を弁別刺激として、回答を導かないようにすることを目 的とした。. 46.
(52) a. 終了手続き. その目のトレーニングが終了した時点で、「よく頑張った ね。」等と賞賛し、トークンのシールを貼ってもらう(予めポ イントが好まれば、何かご褒美が得られるように、話し合い をもつように指示した)。. 毎日トレーニングを行い、80%以上の正反応率が連続3セ ッション続いた時点で終了とした。また、80%以上の正反応 率が連続3セッション続かなかったとしても、トレーニング を開始して2週間経過した時点で、終了とするように規定し た。メールでその旨を報告してもらい、その後保護者の都合 を伺い、再度臨床心理相談室に来談して頂き、事後テストを 打つだ。. 47一.
(53) Tab1e5. トレーニングで使用した設定場面(S1) 教示内容. ①自己 ○あなたはおやっにアイスをもらいました。 他者. ●たろうくんはアイスがきらいです。. ○たろうくんはおやつにアイスをもらいました。 他者. ○たろうくんはアイスがすきです。. ○たろうくんはおやつにアイスをもらいました。 ②自己 ○はちがたくさんとんできました。 他者. ●たろうくんは、はちがすきです。. ○たろうくんのところに、はちがたくさんとんできまし た。. 自己. ○はちがたくさんとんできました。. ③自己 ○あめなのでえんそくにいけません。 他者. ○たろうくんは、えんそくにいきたくありません。 ○あめなので、たろうくんはえんそくにいけません。. 他者. ●たろうくんは、えんそくにいきたいです。 ○あめなので、たろうくんはえんそくにいけません。. ④自己 ○あそびたいのに、ママがrおべんきょうしよう」といい ました。. 他者. ○たろうくんはおべんきょうがだいすきです。 ○たろうくんのママが「おべんきょうしよう」といいまし た。. ○あそびたいのに、ママが「おべんきょうしよう」といい 自己. ました。. ⑤自己 ○あなたはくらいへやで、ひとりぼっちです。 他者. ●たろうくんはくらいところがすきです。. ○たろうくんはくちいへやで、ひとりぼっちです。 他者. ●たろうくんはくらいところがきらいです。 ○たろうくんはくらいへやで、ひとりぼっちです。 48.
(54) ⑥自己 ○あなたはプールにあそびにいきました。 他者. ○だろ」うくんはプ]ルがきらいです。. ○たろうくんはプールにあそびにいきました。 自己. ○あなたはプールにあそびにいきました。. ⑦自己 ○おともだちがわざと、あなたのつみきをこわしました。 他者. ●たろうくんは、おともだちとなかよくあそんでいまし た。. ○おともだちがたまたま、たろうくんのつみきをこわしま した。. 他者. ●たろうくんは、おともだちとけんかをしました。 ○そのおともだちが、わざとたろうくんのつみきをこわし ました. ⑧自己 ○にちようびも、パパはおしごとです。 他者. ●たろうくんのパパはいつもおこってばかりです。 ○たろうくんのパパは、にちようびもおしごとです。. 自己. ○にちようびも、パパはおしごとです。. ※Oは設定場面、●は条件設定とする。. 49.
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