腫瘍免疫とその臨床応用
近
一
朗
医学部卒業を間近に控えどの科に進もうかという時期 に, 私は新聞で当時熊本大学医学部耳鼻咽喉科の研究 テーマの一つであった頭頸部癌に対する免疫療法の記事 を目にしました. もともと学生時代の講義や実習を通し て免疫学に興味を持っていましたし, 科を決めるにあ たっては手術もやりたい, 研究もやりたいと思っていま したので迷わず当時石川哮教授が主宰されていた熊本大 学耳鼻咽喉科の門をたたきました. 研修医を終了後, 大学院に進み「自己癌特異的細胞傷 害性 T 細胞の誘導に及ぼす頭頸部癌細胞の MHC 抗原 発現の役割」というテーマで学位を取得しました. 当時 は悪性黒色腫において Boon T. らのグループが癌抗原 を同定した時期であり, 一方で Steinman R.M.による樹 状細胞の役割の解明により腫瘍免疫学の 野はいわゆる breakthrough を迎えます. 大学院を卒業した後に当時頭頸部癌に対する腫瘍免疫 の研究が盛んであった University of Pittsburgh Cancer Institute (UPCI) の Prof. Whitesideのラボに留学しまし た. 留学当初は英語で非常に苦労し,ボスに Can you fol-low me?を連発されていました. 頭頸部扁平上皮癌の antigen discoveryということをテーマに, 最初は生化学 的アプローチによって癌抗原の同定を試みていたのです が, なかなかうまくいかず時間ばかりがいたずらに過ぎ ていきました. 英語がある程度理解できるようになると 今度は成果が出ない苦労が始まりました. 結局この仕事 はものにならず, 留学後半からは wild-type (wt) p53を ターゲットとして reverse immunology法による癌抗原 の同定や wt p53特異的細胞傷害性 T 細胞 (CTL)の誘導 や機能解析を始めました. CTL は癌細胞表面の HLA 子によって提示される 9-10個のアミノ酸を T 細胞受容 体で認識するのですが, アメリカでは白人にもっと多い HLA-A2を対象に研究を進めました. がん抑制遺伝子 p53は頭頸部癌をはじめ多くの癌で変異をきたしてお り, 悪性度とリンクしていることより治療ターゲットと して魅力的であることに加え, wt p53をターゲットとす ることにより p53変異部位を 慮しなくて良いなどの 利点があります. 私にとってこの wt p53特異的 CTL の 仕事は, まさに禁断の果実でした. 苦労も多かったです が, CTL が誘導できた時の喜びはなにものにも代え難 く, これが研究の醍醐味かと興奮して眠れない日々を送 りながら研究をやりました. 帰国してからは日本人に多い HLA-A24拘束性の wt p53由来エピトープの同定を継続してやったところエピ トープ 子を見つけることができ,日本人にも wt p53を ターゲットにした癌ワクチンが夢ではないと思い始めま した. しかしながら当時恩師の石川教授の退官の時期で もあり, 自 の中で今後研究をどう継続できるか えた 結果, もう一度渡米することにしました. HLA-A2, A24 という class I 拘束性のエピトープの同定, 解析に引き続 き, この 野の研究の流れは CD4 helper T cellによっ て認識される class II 拘束性エピトープの同定に向かっ ていました. 私は UPCI にて, wt p53由来 HLA-DR4拘 束性エピトープの同定とこのエピトープ特異的 CD4 T cellを って, CD8 CTL に対する作用を解析しました. 予想通り,wt p53特異的 CD4 T cellは CD8 CTL の誘 導相, 効果相に対してヘルパー機能を有していることが 確認できました. 335 Kitakanto Med J 2012;62:335∼336 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 平成24年4月18日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 近 一朗UPCI での なる 2年間の研究を終える頃に, これ以 上研究オンリーの生活を続けると臨床に戻れなくなると いう気持ちが出てきました. もともと臨床は好きでした し, 基礎医学者としてやっていけるほどの careerは自 にはないと思っていましたので, 留学の後半には日本に 戻れる機会を探しておりました. ちょうど縁あって群馬 大学の耳鼻咽喉科にお誘いを受けました. 群馬大学へ異 動してきて, 設備やスタッフの問題から最初は免疫染色 やフローサイトメトリーを って癌患者の免疫抑制機構 についての研究から開始しました. この研究を通じて頭 頸部癌患者における樹状細胞の比率の減少や成熟度の低 下, 制御性 T 細胞の増加といったことがわかってきまし た. ある程度研究が軌道に乗ってくると, これまで同定 された HLA-class I および class II 拘束性の wt p53由来 エピトープに対する頭頸部癌患者の T 細胞応答を調べ ました. 癌患者において, まだ免疫機能が有効に働いて いると思われる早期癌患者の方が CTL 反応や Th1優位 な反応を誘導しやすいことがわかりました. このこと は癌ワクチンの対象患者を えるときに 慮されるべき ことかもしれません. このように頭頸部扁平上皮癌患者 の wt p53特異的 CTL および CD4 T 細胞応答の解析 を進めることができましたが, やはり最終的にはこれら を臨床にどう応用するかということになります. この時 期, 熊本大学時代の先輩が山梨大学医学部耳鼻咽喉科の 教授として赴任された関係でお誘いを受け, 自 もがん 免疫療法の臨床をやりたいという気持ちもあり異動しま した. ちょうど山梨大学では cell processing centerが稼 働し始め, それを機会に他科と共同で樹状細胞を った 細胞療法 (低用量の抗がん剤を併用した樹状細胞療法) の臨床研究を開始しました. プロトコール作成, IRBへ の申請, 臨床試験の登録など臨床試験を始めるために 様々な準備を行いました. これまでのいわゆる基礎研究 とは違った作業でしたが, 自 にとっては非常に有用な 経験となりました. しかしながら 2症例に治療を行った ところで, ここ群馬大学医学部耳鼻咽喉科へ再び異動に なり臨床試験の行方は最後まで見届けられていません が, 本治療は現在も山梨大学で継続されています. さて, 4年ぶりに群馬大学に戻ってきましたが, 基礎研 究を臨床の現場に応用すること (Bench to Bedside) を目 指して, また新たに腫瘍免疫学を中心とした癌の生物学 と治療法に関する研究・臨床を始めたいと えています. 文 献
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