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JAIST Repository: 新事業創生におけるシステム工学とナレッジマネジメントの融合

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Academic year: 2021

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JAIST Repository

https://dspace.jaist.ac.jp/

Title

新事業創生におけるシステム工学とナレッジマネジメ

ントの融合

Author(s)

小坂, 満隆

Citation

システム制御情報学会誌, 52(6): 221-227

Issue Date

2008-06-15

Type

Journal Article

Text version

publisher

URL

http://hdl.handle.net/10119/8192

Rights

Copyright (C) 2008 システム制御情報学会. 小坂, 満

隆, システム制御情報学会誌, 52(6), 2008, 221-227.

(2)

システム/制御/情報,V l5o.2N 6, .o ,pp.22-21 2,27 008

新事業創生 にお ける システム工学 と

ナ レッジマネ ジ メン トの融合

小坂

滴隆*

日日日日日日日日Ⅲ Ⅲ 日日日日日日日日日日Ⅲ 日日日日日日=Ⅲ 日日日日日日冊 日日日日日日日日日日=日日帖 =HHHⅢ 日日日日日日日日日日日日日日日日日日日日日日日日=日日Ⅲ 川日日日日=日日Ⅲ 日日日日日日日日冊 IH川IHH附 HHlLHL刷 日日Ⅲ 日日日日日日I‖M

1.

緒言

システム開発研究 に携 わる もの として,われわれが扱

2.

21

.

企業にお ける新事業創生 とい う課題

新 事業 の分類 う対象や問題が複雑 にな り質的に変化 して きていると感 じる.具体的には,技術 の進展 や グローバル化が進 む中 でのマーケ ッ ト創造型の新事業創生問題,世界的な温暖 化 防止 を防 ぐ環境 問題,少子高齢化 の中での地域活性化 問題 など,理系 の技術 開発 的な側面 と文系の社会科学的 な側 面 の両面 を考慮 しなけれ ば解決 で きない問題 が増 えて きている.こうした問題の解決 には,文 と理の知識 を融合 した新 しい知識の発見 と獲得が必要であ り,これ は人間の脳の中でのみ形成す ることが可能である.そ し て, "システム工学"と "ナ レッジマネジメン ト"の融合 は,"人間の知"を包含 した文理共通 の問題解決のフレー ム ワーク, と くに人間の活動 を含 む複雑 な大規模 システ ムの問題 を解決す るフレームワークを提供 で きる可能性 がある. 本報告では,システム工学 とナ レッジマネジメン トの 融合 アプローチの具体例 として,新事業創生 を取 り上げ る.新事業創生では,"新事業創生 に向けた 目的志向のシ ス テム工学的なアプローチ"と "新事 業創 生 に向けた人 間の強い意志が必要な知識獲得 を促進す る とい うナ レッ ジマ ネジメン ト的なアブローデ つが必 要である.システ ム工学 は客観的な目的志向アプローチであ り,知識獲得 をは じめ とす るナ レッジマネジメ ン トは主観的な目的志 向アプローチである.野中 ら

は,主観 と客観の往還運 動 によって新 たな知が創造で きる と主張 しているが,本 稿では,新事業創生 とい う課題 に対 して,"システム工学 (客観) とナ レッジマネジメン ト (主観)の融合"によっ て,知識創造 を具体化するフレームワーク構築を目指す. 本稿では,まず,企業 における新事業創生の位置づ け と新事業の分類 を行 う.つ ぎに,筆者が経験 した指静脈 人や社会 に貢献で きる企業価値 を,技術 や社会の変化 に対応 しなが ら継続的に提供す ることが,企業 の存在意 義である.すなわち,技術 の変化や社会の変化 に合わせ て,新製品や新サー ビス を開発 し提供 してい くことが, 長年 にわたって企業が存続する条件である.このために, 企業 は様 々な方法で新事業創生 を行 って きた.現在, イ ノベーシ ョンの重要性が叫ばれているが,新 しい技術 や サー ビスモデルを経済価値 に変 える とい う点で は,本報 告で論 じる新事業創生 は,イノベーシ ョンの重要 な対象 である. 新事業 を検討す る場合,二つの大 きな要因がある.ひ とつ は製品やサー ビスを構成す る技術が新 しい こと, も うひ とつ は世の中の トレン ドやニーズの変化 に対 して新 たなサー ビスや ビジネスモデルを提供す ること,である. これ まで,いろいろな新事業が世の中に登場 して きたが, これ らは,第 1図に示 されるように,技術 の新規性 とビ ジネスモデルの新規性 とい う二つの軸で分類す ることが で きる.一般 に,技術 もビジネスモデル も新 しい新事業 では,その新事業立ち上 げに成功す る とその時点で圧倒 的な競争優位 の立場 を手 に入れることがで きる.ビジネ スモデルは既存 の ままで新技術 を適用 して新事業 を起 こ すケースは,既存 の強い ビジネス基盤 を もつ大企業 に有 利 である. また,既存技術 であって も的確 に世 の中の ト レン ドを とらえたサ ー ビスや ビジネスモデルであれば, 社会 に大 きなイ ンパ ク トを与 える新事 業が創 生 で きる. この場合 には,顧客のニーズの変化 を読 み取 り,これ を す ばや く実現 した ものに成功例が多い.また,技術 とビ ビジネスモデルの新規性 ・アウトソーシング ・ Docom ・ isucaビジネス oiモード 生体 認証事業 な どの具体例 を通 して,新事業創生 の も ・省エネサービス A つ特徴 について述べ る.こう した考察 に基づいて,"シ ス テム工学"と "ナ レッジマ ネ ジメ ン ト"を融合 した新 事業創生のための新 しい フレームワークとして,KOS ●VゲT

ム ・既存事業の ・指静脈生体認証l / 海外展開 (ATM,ドアアクセス) DELLモデル ・・企業間EC 還 笠昆 h proac t yse i tene i cenc d eg o (Kn wl eS eOr dS msAp )モ デルを提案する. ・価格破壊 ・薄型TV(プラズマ、液晶 *北陸先端科学技術大学院大学 ld wege l rng l ng t yse ion innovat ,s m e nee ,kn o ・ i usn t n ne, d: rs nage Key Wo ma me wb ess 第 1図 新事業の分類 -9 2

(3)

-222

システム/制御/情報 第 52巻 第 6号 (2008) ジネスモデルが既存であって も,低価格化戦略や事業の 海外進出などで新 たな事業 を作 ることは可能である. 新 たに立 ち上げ られた新事業 は,進化 を続 けてい くの が通例 であ り,た とえば,Suicaカー ドの ように,新技 術 を適用 して既存 の ビジネスモデル (電子切符)で成功 を収 める と技術の優位性 を新 たな ビジネス (流通決済) に適用す ることが考 えられ,結果的 に技術 もビジネスモ デル も新 しい新事業 となるケース も多い.

2.

2

新 事 業 創 生課 題 の位 置 づ け 第 2図は,著者 らが企業における横断型科学技術 の重 要性 [2]について論 じた ときに用 いた ものである.産業 の発展や社会生活の向上 を通 じて,新技術が新 たな経済 価値 を創造 してい くためには, 自然科学領域の新技術 だ けでは不十分である.新技術 を使 って人間のニーズ をい か に実現す るか,経済的な合理性 を満足 して製品やサー ビス を提供で きるか,を考 える領域が必要であ り, これ が横 断型科学技術 の重要な研 究対象 である と考 えた.本 稿 の内容 は, まさにこの領域 の研究 開発 であ り, システ ム工学 とナ レッジマネジメン トの融合 によって新 たな問 題解決の フレームワーク構築 をね らった ものである.

J

個別プロジェクト例 ユビキタ

1

l

情報社会 ミ:二三 =:/ I::== てこr てこr 自然科学(物理,化学等)の摂理を利用した技術.エンジニア 縦型科学技術 リング(ナノテク.光通信.等既存の電気 ,機 械 ,情報 等 の特 定技術領域) 第 2図 横断型科学技術の位置づけ 新事業創生 において,システム工学 とナ レッジマネジ メ ン トの融合が重要な理 由は以下の通 りである. まず,新事業創生 は,第 3図に示す ように生産,物流, マーケ ッ トチ ャネル構築,収益管理 などか らなる ビジネ ス システム構築その ものである.このため,新事業創生 には,核 となる新技術や新 ビジネス コンセプ トとともに, 企業活動 として収益 的にも十分 に受 け入れ られるビジネ ス システムを考案 し実現する とい うシステムエ ンジニア リング的な視点が重要である.また,不足す る知識 をど う獲得 してい くか とい う知識創造 の視点 も重要であ る. 新事業創生 に関 しては,野中 ら

の "イノベーシ ョンの 本 質"や

NHK

のプロジェク ト

Ⅹ[

3

]

に見 られ る ように, 新事業 を起 こそ うとす る人の強い熱意が,新事業 に必要 な新たな知識創造 を促進す るとい う側面 をもつ.これが, 新事業創 生 とい う課題 に対 して "システム工学"と "ナ レッジマ ネジメ ン ド'とい う二つの 目的志 向方法論 を組 み合 わせ る理 由である. ビジネスモデル エンドユーザ パラメータ 第 3図 システムとしてのビジネスシステム

2.

3

企 業 進化 論 と しての新 事 業 創 生 新事業創生 は,企業が生存 す るための進化 とい える. すなわち,企業環境 の変化 に企業活動 を適用 させ てい く プロセスにはかな らない.社会環境 の変化やユ ーザニー ズに対応で きなければ,その企業 は社会か ら淘汰 されて い く.新事業 ビジ ョンは,企業が次世代 にどうい う形 に 進化 したいのか を明確 に示す もので なければいけない. 通信業界 における携帯電話の普及 と固定公衆電話の衰退, 交通分野 における

I

C カー ドの普及 と電子マ ネー,記録 媒体 の進化 と音楽 コンテ ンツ産業の変化 など,企業環境 の変化 によ り,企業が進化 した り,環境 に淘汰 される例 は,現実 に数多 く見 ることがで きる. 元来,人間の知識獲得 は,人間が進化 を遂 げ ようと欲 す る時 に,進化 しようとす る対 象 に到達す るのに必要な 知識が,脳 の中に獲得 される とい う特徴 をもつ.人間の 特性 として,進化への欲求が強 ければ強いほ ど,不足す る知識獲得 の欲求 は強い とい える.進化 の対象 となる新 事業 ビジ ョンを明確 に示 し,企業全体がその方向 に進化 す る とい う意志 を明確 に示す ことで,それに必要な知識 獲得が促進 される と考 える.提示 された新事業 ビジ ョン と現状 の企業状況の差 を埋めるための知識獲得が,新事 業創生のための知識獲得である.新事業 ビジ ョンが示 さ れなければ,参画者が新事業創生 に向けて どの ような知 識獲得 をすれば よいか を明確 に認識で きない.こう した 観点か ら,参画者 に新事業 プロジェク トの意義 を徹底 し, 主体 的 に取 り組 ませ る こ とが ,新 た な知識獲得 を行 う うえで重要である.

3.

具体事例 にみる新事業創生の特徴

3.

1

具体事例

(

1

)

指静脈生体認証事業

[]

4

2

0

01

年 の米 国同時多発 テ ロ以来 ,セキュ リテ ィ分 野 で,本人認証 のニーズが高 まって きた・これ までの応用 分野である空港 における入出国管理,重要エ リアへの入 退 出だけでな く,金融分野での本人認証,デー タベース へ のアクセス管理 にお ける

l

D

マ ネジ メン トな ど,新 し い応用分野が次々 と生 まれて きた・生件認証 に関 しては, 指紋 や声紋 な どを使 った従 来技制 が利用 されて きたが,

(4)

指静脈生体認証技術 は静脈パ ターンが個人 ごとに異なる ことに着 目した新 しい技術である.この生体認証技術 は, 認証精度,処理速度 に優れ,非接触処理 なので指紋の よ うな心理的な抵抗感 もな く,これか らの生体認証技術 と して大いに期待で きる.現在,金融 ATMにおける本人 認証他多 くの応用分野が広がって きているが,指静脈認 証 に関す る基本 的な技術 が確立 されてか ら

1

年近 くが 経過 している.この間,入退出管理,金融 ATM,ITシ ステムにおけるID管理 な どへ と応用範囲 を広 げる過程 で,認証装置のデザイン,装置の小型化 ,認証装置の価 檎,関連 ソフ トの充実などの点で指静脈生体認証事業が 進化 をとげて きた.また,各種展示会 をは じめ,国内外 に情報発信 を続 けて きた.こうした事業の広が りは,製 品 と顧客ニーズの ミスマ ッチ を克服 し,顧客ニーズの吸 収 を絶 えず続 けて きた結果である.す なわち,事業の進 化 に必要な新 たな知識獲得 を継続的に行 って きている.

)

高圧 インバータを用いた省エネサー ビス事業

[

5

0

2

]

もうひ とつの事例 は,高圧 イ ンバー タを使 った省エネ

(

サー ビス事業 "HDRIVE"[51である. イ ンバ ータを適用 第 4図 システム工学 と知識科学の融合アプローチ 事業創生 に必要 な新 たな知識獲得 を行 うプロセスに関連 する.知識獲得 は,定型的な形式知の活用でな く,プロ ジェク トメ ンバの脳 内で行 われる,外か らは見 えない活 動である. このために,プロジェク トメンバ間の 目的意 識の共通化や,組織 間の情報共有, ビジネスモデルや新 製品のアイデア出 し,実践 と学習 による改善,な どの行 す ることでモータの電力消費量 を少 な くして運転で きる ことはよく知 られている.HDRIVEは,使用電力の省エ ネ分の費用か ら,インバータ他 のハー ドの使用料 (リー ス料),メーカの提供す るサー ビス料 を払い,残 りをイ ンバータ利用企業の利益 とす るサー ビス事業である.こ 2 こでは,使用電力の省エネ分が定量的 に測定で き,

CO

削減量換算が可能である.本サ ー ビス事業 は

2

0

0

0

年 に 始 まったが,最近 の

CO

2削減 ニーズ に合 わせ て,中国 展 開など新 たなビジネス展 開フェーズ を迎 えている.時 代 の進展 とともに,省エネサー ビス事業 も進化 してお り, そのための知識獲得が継続的に行 われている. 動 を通 して,プロジェク トメンバの脳内での知識獲得活 動 を促進す る. シス テ ム工学 的 な側 面 (客観 ) と知識科学 的 な側 面 (主観) をスパ イラル的 に組み合 わせ ることで,最終 的 に目的 とす る新事業 を確立する.新事業確立 とは,安定 的 な収益 の得 られ る ビジネスモデル を実現す る ビジネ スシステムを構築す ることである.新事業創生 プロセス は, ビジネスシステムの最終形態が見 えない段 階か らプ ロジェク トを始め,時 間 とともに進化 を繰 り返す ことで 最終状 態 にた ど り着 く, とい う特性 を もつ. このため, 既知の対象 に対す る方法論 としてのシステムズ アプロー

32

.

シス テ ム工 学 とナ レッジマ ネ ジ メ ン トを融 チや プロジェク トマネジメン トのみ を適用す るだけでは 合 したスパ イ ラル ア プ ロー チ 十分ではない. また,長期 間にわたって改善 を しなが ら 上記の具体事例 における継続的な検討 プロセスをよ り 一般化 して示す と第 4国の ようになる.この図では,左 上部 にシステム工学的な要素,右下部 に知識科学的な要 素 を示す.新事業創生の初期段 階では,新技術や新事業 アイデアのみが存在す る.これ を,システム工学的な要 素 と知識科学的な要素 をスパ イラル的 に組み合 わせ るこ とで, 目的 とす る新事業確立の状態 に到達 させ る. システム工学 的 な側面 で は,シス テムズ アプローチ による課題分析 に基づ き,これ を解決す るプロジェク ト 最終状態 にた ど り着 く,す なわち種 々の施策 を試み なが ら目的 を達す るまで,苦境 に負 けない リーダシ ップが要 求 されることになる.新事業創生 とい う人間の志の実現 を, よ り効率的 に行 える ように, システム工学 とナ レッ ジマ ネジメン トを融合 した新 しい方法論が大い に研 究 さ れるべ きだ と考 える.

4.

新事業創 生 に向 けた

KOSA

モ デル の

提案

チームを組織化する.そ して, ビジネスモデルや投資モ デルを仮定 し,収益 シ ミュレーシ ョンを行 って安当な ど ジネスか どうか を評価す る.また,マーケテ イング分析 で得 られた,マーケ ッ トセグメ ンテー シ ョンに適合す る 新製品コンセプ トを実現す る製品開発 を進める.こうし ここで は,新事 業創 生 にお ける知識創 造 プロセス を シス テム的 に とらえ考察 を加 える こ とで,暗黙知 的 に 進め られて きた新事業創生 をよ りシステマティックに展 開す ることを狙 った,新 しい知識創造 プロセスの方法論 ld owege を提案す る.この方法論 を,KOSA(Kn Sicence たシステム工学的なアプローチは外か ら見 えるプロセス である. 一方,知識科学的な側面は,プロジェク トチームが新 ) h proac t yse i t rene O dS msAp モデル とよぶ ことにす る. -1 3

(5)

-224 システム/制御/情報 第 52巻 第 6号 (2008)

4.

1 KOSA

モデルの構成法 まず,新事業創生 における知識創造 プロセス を第 5図 の ようにモデル化する.これは,新事業創生のための組 織的知識創造活動 を効率 よ く進め るため に,知識創造 プ ロセス を,以下の五つの要素か らなるモデル として構造 化 した ものである.

(

1

)

企業の進化対象 としての新事業 ビジ ョン

(

2

)

ビジ ョンを実現す る知識群 を包含す る知識空 間

(

3)

形式知 としてのシステム工学的要素

(

4)

暗黙知 を生成する組織 ,お よび人

(

5

)

知識創造 プロセスマネジメ ン ト 形式知としてのシステム工学的要素 ビジネスモデル、収益シミュレーション、 新事業ビジョン 社会 環境 の変化 ユーザの変化 技術苧 展 第 5囲 KOSAモデルのアーキテクチャ KOSAモデルでは, まず,企 業進化 の対 象 と しての 新事業 ビジ ョンを定める.そ して,新事業 ビジ ョンを実 現で きる知識群 を包含する知識空 間 とい う概念 を導入す る.知識空間において新事業 ビジ ョンを実現で きる必要 十分 な知識獲得が新事業創生 プロセスである.こ の知識 空間を介在 して,残 りの四つの要素が結 びつ く.システ ム工学的な形式知 的要素 と組織 や人 の暗黙知 的要素が, 知識空間の中で知識 を利用 し,必要 な知識 を生成 してい く.新事業 ビジ ョンは,知識獲得 の 目標 となる対象であ る. 3章の具体事例 で も見 た ように,新事業創生 は継続 的な知識獲得 のプロセスの結果 として実現で きる.そこ で,知識創造 プロセスマネジメン トは,知識獲得 をプロ セス (時 間の経過 を考慮す る) と しマ ネジメ ン トす る. XOSAモデルの中で,知識空間の概念 と知識創造 プロセ スマネジメン トの考 え方が,提案す る新 しい方法論 の中 心部分である. 4.2 ビ ジ ョン を実現 す る知 識 群 を包 含 す る知 識 空間 暗黙知獲得 の知識創造活動 は,人 間の脳 で行 われ る. プロジェク トメンバ全員の脳 の知識活動が形成す る空間 を,概念的に知識空間と定義する.この空間は,まだ,敬 学的な空間論 としては厳密 には定義で きていない.概念 的には,独立 な知識軸で形成 され,各軸 は,新事業創生 に必要な知識群,た とえば,技術 開発 ,サ プライチ ェー ンマネジメ ン ト,広報,財務 な どの独立 な知識群 を表す もの とす る. 新事業創生 における知識獲得 は,この知識空間の中で 行 われる と考 える.す なわち,新事業創生 に必要 な知識 群M と,現状 の新事業 プロジェク トメ ンバ の もつ知識 群

N

の差分 を,知識獲得 に よって得 るこ とが,新事業 創生 に向 けた知識創造活動 であ る. この知識群 の差分

(

M-N)

が小 さいほ ど,そのプロジェク トチームが新事 業 を創生 しやすい といえる.また,新事業創生 に必要な 知識群 M を包含 で きる ように必要十分 な知識空 間の次 元 を確保す る必要がある. 新事業創 生 プロジェク トを構成す るメ ンバ の選 出は, 知識空 間を構成す る重要なタスクであ り,以下の点 に考 慮 してメ ンバ の選出 を行 う .

(

1

)

新事業創生 プロジェク トメ ンバ の構成す る知識空 間が対 象 とす る新事業創生 の知識群 Mを包含 し, プロジェク トメンバで構成 される知識群 NがMに 近 くなる,す なわち,各知識軸 でのポテ ンシャル の高いメ ンバ を選択す る. (2)選択 されたメ ンバの もつ知識 の融合 とそ こか ら生 れ る新 たな知識が重要である.このため には,プ ロジェク トメ ンバが共通 の土壌 で議論 で きるポテ ンシャル を持つ ことが重要である.

(

3)(

1

)

(

2)

の条件 を満 た しつつ,プロジェク トにかか るコス トを最力、にす る ようにプロジェク トを構成 す る. 新事業創生 に向けたプロジェク トチームのメ ンバ選定 が,上記 の考 え方 に合致す る例 として, NTT ドコモの iモ ー ドの プロジェク トがある.この例 の場合 ,ネ ッ ト ワーク技術者やネ ッ トワークビジネス関係者 だけでな く , 広告情報 ビジネス経験者 を加 えるこ とで,知識空 間が, ユ ーザ ニーズ を満足す る新事業 の考案 に十分 な空 間 と なった.新技術 を基 に した新事業創生 の場合 , ともする と新事業創生 プロジェク トメンバ は,その技術 を開発 し た技術者やその技術 に関連 した ビジネス関係者で構成 さ れ るこ とが多 い. こう したメ ンバ構成 の知識空 間だ と, 真 に顧客 に受 け入れ られる事業 コンセプ トや ビジネスシ ステムを考案す ることが難 しい場合が多い. よ く言われ る "死 の谷"の ように,新技術 が新事業 と して育 たない 理 由はこう した ところにもあるのではないか と考 える.

4.

3

知 識 創 造 プ ロセ スマ ネ ジ メ ン ト 知識創造 プロセスは,形式知であるシステム工学的な 要素 と人や組織 の知識獲得活動 を組み合 わせ なが ら,冒 標 とす る新事業 ビジ ョン (未来 ビジ ョン) に近づ く活動 である.す なわち, ダイナ ミックに知識 を増殖 してい く プロセスである. これに対 して,仮説 と検証 の フィー ド バ ックに よる知識獲得 を行 うことを考 える.この考 え方 を第 6図 に示す.まず,知識空蘭内の現有 の知識群で仮 説 をたてる.そ して, この仮説 に基づ いて対象 に対 して 行動 し,その反応 を観測する・仮説 に基づ く行動 の例 と しては,製品試作 ,テス トマふケテ ィンP o,新製品投入,

(6)

な どがある.仮説 に基づ く行動 の結果,種 々の情報が得 られ,事前 に想 定 した予測 との差異が生 じる.そ して, この差異の要因分析 を行 い,なぜ差異が起 こったのか ? それを克服す るにどうい う対策 を採 らなければいけない か ?を分析する. この差異 に対する対策が知識空間内で 不足す る知識の獲得 にはかならない.知識空 間内の知識 が十分であれば,新製品投入が成功す るだろうし,テス トマーケティング も想定 した結果が得 られ るであ ろ う. 差異の原 因が,知識空間の次元が十分 でない場合 ,すな わち,現有のプロジェク トメンバで不足す る知識軸があ る場合 は,必要十分 な知識空 間を確保す るため,必要な 知識 をもつメンバ を補充する. 確 率 制 御 迫 撃 の 推 定 理 論 との アナ ロジー 知識空間 _新審美ビジョン 仮説に基づく行動 且象 製品性能 プ 轟 一 審 ティング・・・テスト式作 新 製品投入製 品書マーケ ・・・売れ行き顧客の反応 L盈旦塵塵豊箪 箪 ヰ - 1l 増 感 していない点の把握I 差里の要因分析 推定誤差 の推移 第 6図 制御理論による逐次アプローチ 通常,予測 との差異 はその時点では失敗 と位置づ け ら れるが,知識空 間で新事業創生 のための知識群が不十分 な場合, こうした差異が起 こるのは当然である.この差 異 を克服す る知識獲得 を継続す ることが,新事業創生 を 成功 に導 く鍵 になる.すなわち,多 くの新事業創生では, 初期段階は失敗 の連続であることが多い.失敗 を知識獲 得 につなげ継続 して知識 を増殖 させてい くか,失敗 と位 置づ けてす ぐにやめて しまうか によって,成功 と失敗の 差が出て くる.また/知識空間内の知識が十分でない と きには,多額の費用 をかけて仮説に基づ く行動 をとるの は リスクが高い といえる.コス トとリス クを定量的 に評 価す ることも,今後の重要な課題である. 第 6図のフィー ドバ ックループの考 え方 は,システム 制御分野では,常道手段である.新事業 ビジ ョンを目標 と考 え, これに近づ けるように状態 をコン トロールする とい う視 点 に立 てば,システム制御 分 野 で確 立 された 種 々の方法論 は,数学的なロジ ックの直接的な応用 は難 しい として もその考 え方 を応用 で きる と考 える.一例 として,システム制御 の分野では,可制御可観測 とい う 概念 が あ る."制御 で きるだけ十分 に観 測 されてい るの か ?"とい う考 え方 を新事業創造 プロセス に導入 してみ ると,現状 のおかれている状況や改善のための対策 に対 す る指針が得 られる.た とえば,新規事業立ち上 げ時 に は,特定 の顧客やマーケ ッ ト状況のわかっている市場で 成功 し, これ を順次横展 開す ることが よい とされ るが, これは可観測可制御 の状態 を最初 は小 さい領域 で作 り, これ を順次拡大 してい くことのアナロジーととらえるこ とがで きる. また,第

6

国は,カルマ ンフィル タ

[

6

]

による逐次推 定 プロセス とも構造的には類似 している.第 7図に示す ように,カルマ ンフィルタでは推定 した状態量 によ り観 測量 を推定 し,観測値 の推定誤差 をイノベーシ ョンと定 義 した.近年, イノベーシ ョンとい う言葉が多 くの分野 で使 われているが,カルマ ンフィルタでは,観測値 の推 定誤差 をイノベーシ ョンとして非常 に重要な情報 として 定義 している. これは,新事業創生 プロセスでは,ある 意味で失敗 にあたる情報である.カルマ ンフィルタでは, 推定誤差 か ら白色雑 音 以外 が な くなる ようにイノベ ー シ ョンをモデルの状態推定量 に反映 させ る.これ を繰 り 返す ことで逐次的に推定誤差 を減少 させてい く.そ して, 時間の経過 とともに正 しいモデルやパ ラメー タが推定 さ れてい く. この考 え方 を新事業創生の知識創造 プロセス に応用 してみ よう.仮説 と検証 のプロセスで生 じた差異, す なわち,失敗 に相当す るのが カルマ ンフィル タでい う イノベーシ ョンである.この失敗 を克服す るように知識 獲得 を行 い,知識 を増殖 した知識空間を時間 とともに拡 大す ることが カノンマ ンフィル タにおける逐次推定 とのア ナロジーである.カルマ ンフィル タでの観測空 間が逐次 的 に増大す る点 と新事業創生 において知識空 間が逐次 的 に増大する点の共通点 もある."新事業創生"を制御 シス テムの ように線形 システムモデルで記述することは錐 し いが,新事業創生の過程 でい くつかの施策 を繰 り返 しな が ら目標 とす る状態 に近づけてい くプロセス をカルマ ン フィルタのプロセス と重 ねることで,つ ぎに どうい う施 策 を打つべ きかの指針が得 られないか という期待 もある. Z(t)-(Y(1)Y(2)Y(t)‡:観測空間 経験空間:過去, の経,験知識の作る空間 第 7図 イノベーションと観測空間 この ようなイノベーシ ョンプロセスの考 え方 に基づ く と,新事業創生 においては,ある時点で得 られた知識や 知見か ら最適 と思 われる短期的なプロジェク トを実施 し, プロジェク ト結果 を評価 しなが ら,つ ぎの短期 的なプロ ジェク トを立 ち上 げてい くとい う,逐次 的なアプローチ が有効 であると考 える.3章 の具体事例 で述べ た,指静 脈生体認証

[

4

]

を例 に とる と,新事業創生 プロセス を複 数の フェーズのプロジェク トにわけることがで きる.具 体 的 には, Tl:強固なセキュ リティエ リア-の入退室管理向けへ -

3

3

(7)

-226 システム/制御/情報 第 52巻 第 6号 (2008) の初めての製品化 (閉鎖型)

T2:

金融

ATM

での本人認証向けの製品化 (開放型)

T3:I

T

セキュ リティ向け廉価 タイプ製品化

T4:Ⅰ

でセキュ リティ向け高精度小型 タイプ製品化 などのプロジェク トが存在 した.そ して, こうした連続 したプロジェク トは,指静脈認証事業 を成長 させ てい く ために,指静脈認証の応用範囲を広 げる際 に,新 たな応 用領域のニーズ を汲み上げ,それを製品に反映 させ てい く,継続 的 な知識創造の現 れである.

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lの製品 を金融 分野へ適用 しようとしたが開放型セ ンサのニーズが高 く, これ を可能 にす る ように新 たな製品 を開発 した.また,

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セキュ リテ ィ分野では,パ ソコンに付属 して

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管理 を行 うような応用が中心で,

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l,

T2

に比べ ,価格が適 切で小型 タイプのセ ンサが求め られてお り,

T4

の よう な新 たなセ ンサ を開発 した.それぞれのプロジェク トの 製品が予定 した ビジネス領域で成果 を出 した り,予想 し た成果が出なか った りす る.うま くいかない点 を克服す るように知識 を獲得 し,新 たなプロジェク トへ フィー ド バック的につなげることで,適用領域が広が り,事業 そ の ものが成長す るとい う,ひ とつの例 と考 えることがで きる. この ような考 え方,すなわち,新事業成功 のためには 試行錯誤 を重ねなが ら成功 に近づ けてい くアプローチが 必要であるこ とは,経営学 の分野 で も議論 されてい る. 売買対象の商品に関連 した情報のポテンシャルが上が り, そ うでない情報 は単 なるデータとして有意な意味 を もた ない.新事業創生の知識創造 プロセスに利用で きる情報 に関 して も,同様 なことがいえる.知識獲得 に必要 な情 報のポテ ンシャルに着 日す ることで,インタネ ッ トの中 に内在 されている膨大 な情報の検索 と有効利用,組織 間 の情報共有 をよ り効率的に行 うために情報 インフラで具 備すべ き要件 の明示 な ど,大量情報 を新事業創生のため の知識獲得 に有効 に活用す る情報利用技術 を構築で きる と考 える.

5.

結言

欧米 を中心 に,21世紀 はイノベーシ ョンが重要 と叫 ば れ,多 くの大学でイノベーシ ョン研究や教育が進め られ ている. これは,経済のグローバル化が進み,製造業や 情報事業のオフシ ョア拠点が中国やイ ン ドな どを中心 と す る労働力 の安 い ところへ シフ トす る中で,欧米, 日本 な どの先進 国は,新 しいグローバル ビジネスの創 出 を競 争力 の程 にす ることが求め られている, とい う背景が理 由である. こうした動 きに対 して,プロジェク トマネジメ ン トの 方法論 をプログ ラムマ ネジメ ン トへ拡張 し企 業 の イノ ベーシ ョン活動へ適用す る動 きがある

[ト

9

しか し, イ" ノベー シ ョンの本質 は知識創造 プロセスである"とい う 諾蒜 等…澄 な老 後鷺 等鴬 等芸 格心W駁董 叩瑠 覆姦 -鳥 篭 賢 芸 … ㌢ 野 中 らの指摘 に もあるように,新事業創生 には,必要 な

[

7

クリステンセ ンは,"イノベーションのジ レンマ

" ]

の中 で,既存事業 の事業計画や投資 と,破壊 的技術 による新 事業の事業計画 と投資 は異 なる と主張す る."破壊 的な 技術 の用途や市場 は,末だ見 えていない.このため,破 壊 的技術 のイノベーシ ョンの戦略 と計画 は事業の実行 の ための計画ではな く,学習 し発見す るための計画である べ きだ.市場 の不透明性 を認識す る と,計画や投資の仕 方が,既存 の事業 とまった く異 なる.そ して,成功 した 知識獲得 を継続 的に行 う新 たな問題解決の フレームワー クが重要 と考 える. これに対 して,本報告では,システ ム工学 と知識科学 を融合 したKOSAモデルを提案 した. 今後,KOSAモデルの確立 に向けた研究開発 に取 り組み たい.具体 的には,実亭例- の適用 を通 して改良 を加 え ることで,多 くのイノベーシ ョン創生 に適用可能 な方法 論 に してい きたい と考 えている. 008年 2月28日受付) (2 参 考 文 献 新事業 は,当初の計画 を実行 し,試行錯誤で適切 な戦略 を実行 で きる ように資源 をマ ネジメ ン トしている."と い うのが彼 の主張である.新市場の探索 には失敗がつ き ものである とい う前提で,計画 を立 てる必要性 を論 じて いる.この考 え方 は,本稿 での主張 と同 じである. 20 [1 [2 ]野中,勝見 :イノベーションの本質,日経 BP( ]舷橋,本間,小坂 :企業における横断型科学技術の重要 04) l. 性 ;計測 と制御,Vb 42,No.3,pp・2 -221(15 2003) システム制御分野の方法論 を,試行錯誤 を必要 とす る

[

3

[4

]

今井 :プロジェク トⅩ リーダーたちの言葉,文芸春秋 ]ユ ビキタス情報社会 を守る指静脈認証技術 ;U 新 事 業創 生 に向 けた強 い意 志 と情 報 の感度 Vo ) 新事業創生の知識獲得 プロセスのマネジメ ン トに応用す (2001) ることの有効性 を明 らかに してい きたい. re le 06 0 -l. 5 【 , 1薮谷 :省エネサービス事業HDRIVEにみる生産装備サー va

4

.

新事業創生 に対 して強い意志 をもつ ことで,上記の知 3,pp.6 65(20 識創造 プロセス を長 く継続す ることが可能 になるほか, ビスの考察 ;電気学会平成 18年電子情報システム部門 新事業創生 に必要な種 々の情報や知識 に関す る感度が上 294 -[6】片山 :応用 カルマ ンフィルタ,朝倉書店,pp 大会講演論文集,pp. 297(2006) ・26 がる.す なわち,知識獲得 に関連す る情報- の感度 (こ 83) ′ こでは情報へ の感度 の高 さを情報 ポテ ンシャル とよぶ 70 4 -(1 [7 2 9 ]クリステンセン著,玉田監修 :イノベーションのジレン 1) マ,邦泳社 (200

8

]

)が上がることになる.情報 ポテ ンシャルに関す る例 としては,金融デ ィー リングのように商品の売買 タイ ミ 圃 小坂 :情報ポテンシャル概念に基づ く意思決定支援シス 18 ングを的確 に判断するために知識や情報 を使 う例がある. テム構築法 ;電気学会論文集C分冊,Vol・1 C- ,No.2,

4

(8)

pp.264-270(1998)

[】A G ie kfr rjc aPorm Maae n fr9 udboo o Poet rga ngmeto EnterpriseInnovation(Rev・2),ProjectManagement Prf inl et艮a土ooessoasC ric-inC ne 20) etr(04

[01]野中,竹内 :知識創造企業,束洋経済新報社 (9619) 囲 中森,贋 札 辻,松尾,舷橋 ,小坂,栗栖 :システム工 学 とナ レッジマネジメン トの融合 について ;電気学会第 30回IS研究会資札 pp.4ト46(2007) 著 者 略 歴

こさ

か み

ち たか

小坂

隆 (正 会 員 ) 1952年 7月 1日生.1977年3月京都大

大学 院工学研究科修士課程修了.同年4

月(

秩)日立製作所 システム開発研究所入

所,同

研究所所長,セキュリティ事業部長

等を歴

任 .2008年 4月より北陸先端科学

技術大学

院大学教授 .システム工学,知識 科学,新事業

創生マネジメン

トの研究 に従事.工学博士.

参照

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