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地域住民と大学との協働による生活環境再構築の試み

ユーンデ村(ドイツ連邦共和国)におけるバイオマス・エネルギー利用の取り組み

中田 潤

本稿では,バイオマス・エネルギーによって電力および熱供給の完全な自給を実現したドイツ・ユ ーンデ村の事例をとりあげ,住民の協働による生活環境再構築の試みについて考えてみたい.

事業の概要

「バイオエネルギー村」という試みの出発点は,数年間の研究の後,2000年に最終的にプロジェク トの形にまとめられた,ゲッティンゲン大学「持続化可能な開発のための学際研究センター」とカッ セル大学による共同研究「バイオエネルギー村:農村地域におけるバイオマスによる熱源と電力の自 給による農業,経済そして生活文化にとっての帰結とのその前提」であった.このプロジェクトの目 的は,1.バイオマスによるエネルギーの自給,2.農村での雇用促進,3.農業者の副収入源確保

(農林業残渣やエネルギー作物の販売等),4.環境にやさしい資源の生産方法の模索,5.計画過 程や成果から地域アイデンティティを引き出す,6.汎用性のある技術コンセプトの確立であり,上 記の学際研究センターは,この理念に共感し,これを実施に移す用意のある農業地域に位置した小規 模の自治体を募っていた.また総事業費は,当然のことながら実施自治体の規模によって変化するが, 学際センターは,初期設備投資分としておよそ500万ユーロを見込んでいた.さらにこのプロジェク トは,1992年にリオ・デ・ジャネイロで開催された国連環境開発会議の行動計画(いわゆる「アジェ ンダ21」)に従ってドイツ政府が策定していた事業支援計画の支援を受けていたために,連邦環境・ 農業・消費者省の外郭団体である再生可能な資源協会(Fachagentur Nachwachsende Rohstoffe e.V. ) より132万ユーロの補助金を獲得しており,ニーダーザクセン州およびゲッティンゲン郡からの計10 万ユーロの補助金と合わせ,計142万ユーロを実施自治体に対して初期設備投資費用として提供する ことが可能となっていた.その意味でコンセプトの立案,技術的問題の解決から資金的な面まで幅広 く大学側が事業のスタート時点でイニシアティブを握っていたという点が,このプロジェクトの特徴 と言える.

このプロジェクトの技術上のコンセプトを概観的に述べるならば,1.バイオマスをエネルギー源 としてコジェネ発電機による発電を行い,村内の電力を自給する.2.村内に熱供給パイプラインを 敷設し,発電の際に付随的に発生してくる熱をこのパイプラインを利用して各戸に供給する,という ことになる.

以下やや立ち入って説明していきたい.そもそもバイオマスとは一体何なのか.我が国の農林水産 省が設置したバイオマス・ニッポン総合戦略策定プロジェクトチームの定義によれば,「再生可能な 生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」となっている.エネルギーの循環という視点から見 れば,太陽エネルギーを光合成を通して有機体の中に蓄積しているもの全てがバイオマスにあたる. もっとわかり易く言うならば,光合成をする植物全てがそれにあたり,またこれを摂取することで発 生してくる家畜等の排泄物もバイオマスであり,結局これらに由来する紙や食品廃棄物,建設発生木 材等もバイオマスである.

こうしたもの全てが原理的にはバイオマスであるといっても,実際にはエネルギーを取り出す効率 性や当該地域での入手の容易等の点を勘案して,実際のプロジェクトに利用されるバイオマスの種類 は決定されることになる.ここで取り上げるユーンデの場合は,村内の5件の農家から納入される家 畜の糞尿とバイオマス・エネルギー用として作付けしたヒマワリとトウモロコシ(これらをエネルギ

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ー作物と呼ぶ)そして,麦等の商品作物の収穫後に発生してくるわらをバイオマスとして利用してい る.

これらのバイオマスを発酵槽の中で嫌気性発酵させるとメタンガスが発生する.このガスを燃焼さ せ,コージェネ発電機(Blockheizkraftwerk)で電力と熱の生産を行う.ここで生産された電力は, 電力会社に売電される.このプラントの電力生産能力は最大700Kwであり,現時点での村内の電力消 費量を上回っているため, 理論的には電力の村内での完全な自給自足も可能である.しかしながら電 力供給会社から送電線網を借り受けた場合の使用料が極めて高額であり,また自前の電力供給網を敷 設することも採算性から見た場合,プロジェクトの実現自体を不可能にするという判断から,実際に は電力供給会社への売電という方式をとっている.それゆえ電力供給の形態に関して言えば,各世帯 はこれまでと同様の形態で供給を受けている.

こうした事業の成否に決定的な影響を与えるのが,電力供給会社に対して長期的・安定的に売電を 可能にするような環境の有無であるが,2004年8月1日より施行された「電力分野における再生可能 エネルギー法を新たに定めるための法律」がこうした枠組みを法的に支えている.この法律によって, 電力供給会社は,ユーンデの例のような再生可能なエネルギー源によって生産された電力を買い取る 義務を負わされている.その買い取り価格,買い取り期間もこの法律によって設定されており,期間 は20年,買い取り価格も発電規模によって異なるが,いずれの場合も電力供給会社の販売価格よりも 高い(註1).

またさらにエネルギー源の再生可能性・循環性という点から見てもバイオマス発電は,化石燃料を 主とする発電方式に比較して利点を有している.メタンガスの生産のための嫌気性発酵が行われた後, 発酵槽の中に消化液と呼ばれる液体が残る.この液体は,雑草の種や病原菌の非常に少ない良質の有 機肥料であり,これを利用してエネルギー作物や他の商品作物の栽培が行われる.

「バイオエネルギー村」のプロジェクトを支えるもう一つの核は,上記のコージェネ発電機で生産 された熱の利用である.村内全域に熱供給のパイプラインを敷設し,温水を各家庭に供給する.この 温水は生活用温水(シャワー等の給湯)に直接使用されるのではなく,各家庭に設置された熱交換器 によって家庭用の温水設備(セントラルヒーティングおよび給湯設備)が必要とする熱に交換される ことになる.そのため各家庭は,この熱を利用するために各自の家庭の前まで敷設された温水供給の パイプラインから各家庭用の温水設備までの配管ならびに熱交換器を設置しなければならない.

このコージェネ発電による温水供給能力は,夏は必要量を充分カヴァーできるのであるが,熱量消 費が増える冬場をカヴァーすることができない.そのためこの冬期間の追加的な熱源の需要のために, 木材チップおよびわらを燃焼させる地域暖房施設が用意されている.燃料となる木材チップは主とし て選定の際に発生してくる間伐材を供給源としており,近隣に多くの林業地域をかかえるユーンデは, この点においても燃料を安定的に確保出来る条件が整っている.

住民のコンセンサス形成の試みと問題点

このプロジェクトの場となったユーンデは,ドイツの北西部ニーダーザクセン州・ゲッティンゲン 郡の中にある,住民数は775名(2005年時点)の村である.ドイツ最古の大学都市の一つであるゲッ ティンゲン市の南西約14キロに位置しており,行政的にみると,1974年の自治体改革により,ドゥラ ンスフェルド,ビューレン,ニーメタール,シェーデンの各村と連合自治体(住民約9,700人)を形 成しており,ゲッティンゲン郡内の自治体としては,独自の地位を有していない.ただしユーンデの 住民の直接投票によって選出された村長(アウグスト・ブランデンブルク氏)と彼を含め12名からな る村参事会が設置されている.

現在村内には畜産・養豚も営む専業農家が8戸,兼業農家が2戸あり,それぞれの農地面積は 80-350haである.また住民のほぼ半数は隣の町であるドゥルランスフェルドやゲッティンゲンに職場

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を有している.その意味で,この村自体は長い歴史を有しているのであるが,現在においては近隣都 市のベットタウンとしての性格を強く持っているといえる.

先に述べたようにこのバイオエネルギー村という構想自体が,ゲッティンゲン大学から提案された ものであり,村民のイニシアティブで始められたものではなかった.しかしながら,大学側の事前の アンケート調査等で,環境問題に対して比較的意識が高く,またこうしたパイオニア的なプロジェク トに対して関心を示す住民の割合の高い村落をプロジェクトの実施地として選定したため,住民のプ ロジェクトに対するコンセンサスの形成は最初から成功する可能性が高い状況にあったと言えるのか も知れない.しかしながら,大学主導のプロジェクトを最終的に担うのは地域の住民であり,またバ イオマスとは一体何のことなのかというレベルの住民が多い中で,プロジェクトの持つ意義や住民の 生活環境への変化を住民が自ら理解するために,その後かなり徹底したプロジェクトに対する研究調 査が住民主体に開始され,結局この活動自体がコンセンサス形成の大きな原動力になっている.以下 この経緯について紹介していきたい.

2001年4月にゲッティンゲン大学からプロジェクトの最初の説明を受けた時点で,住民の反応は一 般論としては比較的関心が高かったようであるが,初期の設備投資の最低50%の資金(最終的には350 万ユーロ)を住民が自己負担しなければならないという点が明らかになった点でかなり悲観的な感触 を持っていたようであった.

しかしながら村長を含め村参事会の方では超党派的にこのプロジェクトの持つ可能性をポジティ ブに評価しており,村民の理解を得るために,類似のプロジェクトを部分的に実施しているドイツな らびにオーストリアの地域への視察ツアーならびに計画の詳細に関する説明会を実施した.こうした 企画に積極的に関わった参事会員の一人は,この頃からの住民を意識が次第に変化していくのを感じ たという.その例として,彼は視察の帰りのバスの空間は,プロジェクトに関する即席の討論集会と なっていたこと,そしてその後,村内の飲み屋やスポーツクラブにおける会話の空間で,この問題が 頻繁に議論されていることを何度も目撃したことを挙げていた.

その後プロジェクトに対して関心の高い住民を募り,実施に際して必要となる様々な項目に関する 知識の吸収,及びユーンデをとりまく社会的・経済的な状況を勘案した細案の検討を行うワーキング グループ(Arbeitsgruppenschaft)が設置された.このワーキンググループは8つの部会からなり,そ れぞれ嫌気性発酵プラント,エネルギー作物,木質バイオマス,住宅に関する技術,地域暖房施設, 温水パイプライン,広報活動,運営組織についてそれぞれ検討を開始した.またワーキンググループ の活動に際して,それぞれの部会にゲッティンゲン大学側からコーディネーターとして研究者が派遣 され,かなり緻密な共同作業がなされた.またこのプロセスで,大学主導のプロジェクトを住民が細 部まで理解し,自分達のプロジェクトへと転換していく過程が始まったと担当者の方は話されていた.

その間ゲッティンゲン大学側は,当初候補地として考えていた17の自治体は対してさらなる実現可 能性に関する調査を進め,最終候補地として4つの自治体を選定していた.ユーンデもその中に含ま れており,関係者の話によれば,この頃から4村間では,プロジェクトの実現を競う選手権的な雰囲 気が盛り上がったという.そして2001年10月にユーンデが最終候補地として決定した時には,村を挙 げての大々的なパーティーが開催された.

その後,ゲッティンゲン大学とユーンデ村との間でプロジェクトの実施に関する最終的な合意をと りまとめることになるのであるが,その際ユーンデ側の意思をいかなる形で政治的に集約するのかと いう点が問題となった.村参次会レベルの議決を持って,村の意思とする類似のケースが数多くあっ たようであるが,ユーンデは決定プロセスの透明化が長期的には住民の合意形成にとって肯定的な意 味を持つこと,そしてそれが結局プロジェクトを長期的・安定的に実施して行く上でプラスになると いう判断から,村参次会は,全世帯を対象とする住民集会を開催し,その場での決定を村の意思とす ることを全会一致で決定した.

そのために,総合立案委員会(Zentralplanungswerkstatt)と呼ばれる委員会が立ち上げられた.

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この委員会の活動内容は,1.プロジェクトの最終案を細部における点まで作成し,2.住民集会に 向けて,個々の家計の経済的負担・プロジェクトの運営形態等の住民の意思決定の基礎となる情報を 提供するということにあった.総合立案委員会は,村長を含めた村参事会員,上記の各ワーキンググ ループのリーダー,教会,スポーツクラブ,青年組織の代表者,農民から構成されていた.委員会は 毎週水曜,午後八時より二時間という予定で開催されることになっていたが,住民から出された疑問 は全て検討し,村民集会時に必ず回答を用意するという原則で運営することに合意していたために, 実際にはほとんど毎回深夜に及んだという.その後60世帯強の参加の下で開催された村民集会では, 一世帯のみの反対で計画の受け入れが決定された.

その後発電ならびに熱供給の主体としてバイオマス事業会社(Betreibergesellschaft)が設立され, 熱供給を望む住民は一人あたり2500ユーロの出資を行い,バイオマス事業会社の出資者となった.

さらに敷地内配管部分は,一般のガスや電気事業と同様に自己負担である.また事業会社から供給 される熱源は,一般家庭向けのセントラル・ヒーティングと給湯設備に対して熱交換をする形で熱を 供給するので,当然ことながら従来セントラル・ヒーティングや給湯設備を設置していなかった世帯 は,この熱源を利用するためには,自己負担で家庭内にセントラル・ヒーティグや給湯設備を設置す る必要がある.ドイツではその厳しい冬期の気候から,ほとんどの家庭が上記の設備を設置している 点を日本の読者のために補足しておきたい.むしろ問題となったのは,比較的最近新しい設備に交換 していた家庭の存在であった.事業会社では契約率を上げるために,こうした設備の村外への転売の 仲介も行っているとのことであった.事業への参加は完全に住民の自発的な意思にまかされたが,こ うした条件の下で住民の80%が現在(2006年9月現在で)熱の供給の契約を行っているという.

事業会社の役員は村長を含むユーンデの住民のみから構成されており,その意味で住民は事業の受 益者であると同時に経営者でもある.事業費用のうち連邦・州・郡からの補助金では不足する資金350 万ユーロが銀行からの借り入れ金でまかなわれているという現状を考えた時,村外から企業等の出資 者を募るという考えもあったようであるが,村民の意思が事業会社のあり方に直接的に反映すること を重視する村民の意思により現行の形態を採用することになったという.ちなみに現時点での事業会 社の収入は,売電が全体の80%,熱供給が20%を占めている.

事業はこうした資金面のみならず, バイオマス・エネルギーのエネルギー源の供給者である農家・ 林業関係者と消費者の関係という点で問題も抱えている.林業者に関して言えば,近隣地域で発生す る間伐材を購入しているのはユーンデ村だけである.その意味でそれまで間伐材の処理費用に頭を悩 ませてきた林業従事者にとって,ユーンデ村の存在は経済的に大きな意味を持っているようである. そのため,間伐材の納入が要請された際には,現時点では林業者の側が即座に対応する体制になって いる.しかしながらこの間伐材も,ユーンデのような取り組みが一般化してくる流れの中で,将来的 には市場原理で価格が形成され,結果的に高騰しくる可能性も排除できない.エネルギー作物に関し ても同様の問題をかかえている.村内の農家にエネルギー作物の作付けのインセンティブを与えるた めに,バイオマス事業会社は,トウモロコシ・ヒマワリといったエネルギー作物を同量の冬小麦を作 付けした際に予想される価格で,かつ長期契約で引き取っている.農家にとっては長期的に安定的な 収入が確保できることになるが,一方でこのエネルギー作物の価格設定は,バイオマス事業会社の収 支に即座に影響を与える.現時点における住民の合意の内容が,実際には単に安い熱源に関心がある のか,それとも単純に市場原理の展開に自分達の環境をまかせず,住民にとってより快適で安全な生 活環境の問題に関心を持っているのかという点は,決して一枚岩ではないと事業会社の担当者は考え ているようであった.そのため化石燃料の価格の動向ならびに今後成立してくる可能性の高い「エネ ルギー作物価格」の動向如何では,供給側の林業従事者や農家も含めた住民のコンセンサス形成がむ ずかしくなってくる可能性も否定できないという.実際筆者がインタビューを行った際にも,ドイツ 北部に位置するローテンブルク市の関係者がやはり同様に視察に参加しており,この問題に対する関 心の高さと裾野の拡がりを実感させられた.

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おわりに

ユーンデ村の試みを実現にまでこぎ着けた経済的・技術的要因をあげることはそれほど難しいこと ではない.二酸化炭素削減に向けた,欧州連合ならびにドイツ連邦共和国政府レベルでの政治的意思 の存在とその実現のための補助金や法体系の存在,さらにゲッティンゲン・カッセル大学の長年にわ たる再生可能なエネルギーの利用に関する研究成果等をあげることができるであろう.しかしながら 住民の意識の問題に焦点を当てて若干の考察を加え,本稿のむすびとしたい.

バイオマスによる発電・発熱というプラント自体は,我が国においてもすでに実用に移されている ケースがいくつもある.しかしながらそのほとんどは,企業が主体となっているケースである.こう した再生可能なエネルギーの利用の増加という傾向は,京都議定書の遵守といった国際環境を考えた 時,今後も続くことが予想されるが,恐らく我が国においては,企業サイドが技術上のノウハウのみ ならず運営上のノウハウも先端的な部分を担っていくことが予想される.こうした状況下で,ユーン デのような試みを,小規模自治体が実現に移すことを考えた場合,経済性・効率性といった観点から, 企業サイドの持つ技術のみならず運営のノウハウまでをまるごとアウトソーシングする形を地域住民 は選択していく可能性が高いのではないだろうか.端的に言うならば,住民への電力供給・熱供給が, 化石燃料を基礎とする発電事業者から再生可能エネルギー源を基礎とする発電事業者に切り替わるだ けなのかも知れない.また前者の事業者と後者の事業者は同一の企業である可能性も高い.

ユーンデのケースは,まさにこうしたシナリオ展開を意図的に回避しようとしているように見える. そこに住民達の政治や社会に対する考えが見えてくる.アリストテレスは,政治とは「社会全体をコ ントロールしながら我々が共同して住まう空間を形成するという棟梁的営みである」と述べた.その 意味でユーンデの住民の政治意識は極めて高いのである.彼の活動の中に筆者は個々の人間の主体性 や社会の共同性を再構築しようとする強い意思を認める.このプロジェクトに積極的に関与している 住民は,自己の生活環境のマネージメントを企業・行政へのアウトソーシングすることによって自己 の主体性,共同性が喪失させられていると考えているのである.それでは主体性,共同性の発揮の可 能性が失われていくことがいかなる問題をはらんでいるのだろうか.彼らは,それによって自らをめ ぐる生活環境を自らの手でコントロールすることができなくなると考えている.ここに本質的な問題 があるように思われる.つまり自分達の生活環境,それは安全な水,空気,食物から子供が安心して 遊べる空間といった極めて広範なものを含むのであるが,をより良い方向へ変革していきたいという 理念が存在することによって初めて,その環境をコントロールすることに関与していくという意味が 発生してくるのである.単に活動のイニシアティブが企業や行政から住民に移行したとしても,住民 の側に理念が存在しなければ,それ自体としては実は何の意味も持たないのである.

住民自らが自己の生活環境を構想する能力が,実は主体性と共同性の一つに他ならないのであるが, この共同性に深く根付いた主体性のあり方,そして同時に主体性に基づいた共同性のあり方はいかに して構築されていくのであろうか.それは,陳腐なように見えるが,ハーバーマスが言うコミュニケ ーションによる公共性の構築,つまり徹底した情報の公開とそれに基づく徹底した議論の深化のプロ セスなのであろう.そしてまさにこの点が,ユーンデの住民達がこのプロジェクトを実現していくに あたって最も重視した点であった.バイオマス事業会社が村内に熱供給網を敷設する際に,追加投資 をほとんど必要とせずに光ファイバー網を併設できることが実施段階になって明らかになったという. この光ファイバー網をいかなる用途で使用するかについて村内で議論をした結果,村民間の通話を無 料にするために使用することになったという.ここに村民がコミュニケーションの持つ重要性をいか に認識しているのかが象徴的にあらわれている.

直接的なコミュニケーションが成り立ち得る一つの村落という地域空間の中で,電力と熱の自給と いう地域住民のかなり部分が関わる共通の問題を設定したことが,深い議論を経た上でのコンセンサ スを形成するというプロセスを可能にした戦略的な配慮といえる.地域を単位としてこうした議論を 進めていく場合,その地域に存在する権威主義的な権力構造に依拠して決定プロセスが進行していく 危険性,また迅速な決定の必要性という時間的圧力から民主性が犠牲となる危険性に留意する必要は

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ある.また政治というものが「資源の権威主義的配分」である以上,同意しないものに対する一定程 度の意思の強制というものは避けられない.しかしながら,それが徹底した議論の上になされる場合, そうでない場合に比較してその当事者間の緊張関係の程度は相対的に低く抑えることができるであろ う.またその緊張関係自体は解消しないとしても,その緊張関係の質や意味が当事者間のコンセンサ スになる可能性が高く,そのことは変化した状況の下では合意形成に至る可能性を開くことにつなが るのである.

(註1)ユーンデの場合,1キロワットあたり9.21セント.また発電規模が小さいほど売電価格は高 い.またいわゆる再生エネルギー法はすでに,2000年より施行されており,上記の法律はその後の2 回の改正を経た後の根本的な改正という性格を有している.さらにこの法律は,2003年 4 月16日の 加盟条約により最終改正された,再生可能エネルギー源からの電力生産を支援するための2001年 9 月27日の欧州議会及び理事会の指令2001/77/EGを国内法として実施するという性格も有している. また欧州連合が「京都議定書の承認に関する理事会決定 2002/358/EG」の附則Ⅱにおいて,ドイツ の温室効果ガスの排出量削減目標を1990年比で21%としている点等に見られるように,再生可能なエ ネルギー利用は,ドイツの国内法の整備のみならず欧州連合の枠組みにという形でも後押しがなされ ている.

写真の説明:バイオマス発電・発熱施設 2006年9月筆者撮影

参照

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