The Game Makers 3-4(1911-1952)
○ 1910 年代――パーカーブラザーズのぷち苦境
ヨーロッパの影響を脱してアメリカの独自文化が栄え始める。スポーツで言えば野球やフット ボール、ダンスで言えばラグタイム。そしておもちゃで言えば Tinkertoys のような "pep"（元気） なものが人気を集め、ボードゲームやジグソーパズルのような静かな知的ゲームの売れ行きに 陰りが生じた。
しかしジョージ・パーカーはパーカーブラザーズを第一位のゲーム会社に押し上げた製品ライ ンに固執し、新たな市場の要求に応えようとはしなかった。
この時代に唯一つ売れ続けていたのは Rook で、継続的な広告の後押しもあり、年に 20 万個を 売り上げた。
しかしついにジョージも重い腰を上げ、"pep" なものを作ろうとする。成功したのはゲームで はなく Toy Town シリーズというミニチュアもので、食料品店や駅、トイショップなどがライ ンナップだった。
1913 年に憲法修正 16 条が批准される。これにより所得税の人口とのリンクが撤廃され、パー カーブラザーズもその法人および役員は納税の義務を負うことになった。当然に個人収入と会 社利益は減少した（この修正案への反対は北東部で最も強かった）。
この時代は大衆の読書量も増加した（ハードカバーの本が 1 ドルで購入できた）。ジョージは エレナ・ホグマン・ポーターの人気小説『ポリアンナ』（1913）（ユーモア家庭小説とされる） の権利を取得しゲーム化した。ゲーム自体はパチーシもどきだが、テーマの希求力と相まって 女性たちに人気を博した。
1915 年、ジョージの長兄エドワード・パーカー死去。
一次大戦により、米西戦争時と同様、大量の戦争ゲームが巷にあふれた。画家・イラストレーター であるマックスフィールド・パリッシュは、パーカーブラザーズのゲームのために 19 世紀の 兵士を描いた。これが著名な画家がゲームのために絵を描き下ろした嚆矢である。
1917 年にアメリカ参戦。国中に愛国主義が溢れ、パーカーブラザーズもより一層多くの w 戦 争ゲームを出した。ジョージ自身はパシフィストだったが、商売のことになると、市場の要求 に抗おうとはしなかった。
ジョージの長男、ハーバード在学中のブラッドストリート・パーカーは海軍に志願。彼は参戦 以前にもカナダ経由で欧州に渡ろうとして連れ戻され、父親とは不仲になっていた。訓練中の 1918 年、国中を襲った流感の大流行にやられて死去した。享年 21 歳。
ジョージは次男のリチャードに望みを託すが、彼もハーバード在学時の 1922 年、ヨーロッパ 旅行中に飛行機事故で命を落とす。享年 21 歳。
業績は以前ほど芳しくなかったとはいえ、パーカーブラザーズはアメリカで第一のゲームメー カーであり、その存在を脅かすものはいなかった（ミルトンブラッドレーさえも）。
○ 1920 年代――狂乱の 20 年代と麻雀
1893 年、シカゴで行われたコロンビアン博覧会（パーカーブラザーズも出展していた）に、 韓国の英国領事であるウィリアム・ウィルキンソンが麻雀を出展した。これはスチュアート・ キューリンも協力していた「世界のゲーム展」の一角である。
同年、キューリンは「中国のダイスとドミノゲーム」に関するレポートをアメリカ自然史博物 館の年報に載せ、また博覧会レポートもまとめる。以後 1900 年代までの 20 年間、マンカラ、 ハワイやフィリピンのゲーム、中国・韓国・日本等アジアの伝統ゲーム、北米原住民のゲーム、 中国系アメリカ移民のゲームについて精力的に報告を行った。だが彼のゲームへの情熱をわか ちあう人物は学界に一人しかおらず（人類学者フランク・ハミルトン・カッシング。1900 年没）、 彼が勤め先に贈った麻雀牌もただ展示されるだけであった。当然、その紹介で麻雀が流行した わけではない。
（キューリンの経歴等については
http://www.gamesmuseum.uwaterloo.ca/Archives/Culin/index.html を参照）
なお、ウィルキンソンは 1891 年（キューリンによれば 95 年）に東莞牌を用いる麻雀系ゲー ムの Khanhoo（の西洋改変版？ トランプ版？）を出しているが、キューリンによれば全く話 題にならなかったようである（The Game of Ma-jong, 1924）。ただしシドサクソンによれば結 構人気があったようで、ラミーの原型となったのではとの説もある。
1919 年、石油会社の土木技師として中国に渡ったジョセフ・パーク・バブコックは麻雀の魅 力に取り憑かれ、アメリカへの牌の輸出を企てる。だが英語ルールがないことで失敗。そこで バブコックはルールをシンプルにし、英語ルールをつくり、牌にアラビア数字を入れることに した。仲間たちは上海の西洋人たちにゲームを紹介し、大変な好評を得た。
1920 年、『バブコックの麻雀ルール』が上海で出版される。この麻雀のつづりは Mah-Jongg である。Mah Jong はパブリックな名前と考えられていたため、バブコックはダッシュと末尾 の g を付け加えることで、アメリカの商標を取った。準備を整えたバブコックはサンフランシ スコへと輸出したが、中程度の成功でしかなかった。そこでパーカーブラザーズとの交渉に乗 り出した。
ジョージはゲームに心惹かれたが、中国でそれほどの人気ゲームであったのなら昔日のセーラ ムの船乗りが見逃すはずはないし、従って自分の耳にも入っているはずだ（実際はそのときま だゲームは存在しなかった）と考えた。試験販売をニューヨークで行ったが、結果は芳しくなく、 パーカーブラザーズは契約を断った。
しかしそれからまもなく、西海岸でブームに火がついた。1923 年、ブームの拡がりを見たジョー ジはバブコックと契約。木牌を 2.5 ドルで、象牙牌を 25 ドルで売りだした。だが未認可の麻 雀牌も大量に売りだされ、市場に氾濫した。パーカーブラザーズはこのブームから大きな利益 を得、宿願であった線路沿いの巨大倉庫を建築した。だが、もっと早くから権利を固めておく べきだったとの後悔が拭えなかった。この反省がモノポリーに生かされることとなる。
麻雀ブームは中国産品までもがブームになるほどの熱気を見せ、麻雀パーティが各所で開かれ た。だが陰りは早くも翌年に始まり、1929 年には完全に沈静化した。
この時代はラジオの普及に伴う全国的タレントの出現や、イエロージャーナリズム等、マスコ
ミの発達とそのセンセーショナリズムを特徴とする。ジョージはこの潮流に乗り、多芸な人気 タレントであるエディ・カンターと契約、その名前を掲げた Tell it to the Judge を出版。また リンドバーグとも契約を結び、数万個を売り上げた。また自動車の普及が進んだのもこの時代 であり、パーカーブラザーズは Lincoln Highway や Touring といったゲームを出している。後 者はミルボーンの原型で、非常に大きな売れ行きを誇った。
○ 1930 年代――大恐慌とモノポリー
恐慌の初期においては、パーカーブラザーズはカードゲームとジグソーパズルのおかげで収 益を保っていた。第二次のパズルブームが起こり、1932 年まで続いた。1929-30 年にはダブ リングキューブの導入によってバックギャモン人気に火がついた。Chivalry のリメイクである Camelot も世評が高かった。
1932 年、次兄チャールズが健康を害して引退。同族会社であるパーカーブラザーズは後継者 を探す必要に迫られていた。ジョージは売却も考えたが、最大のゲーム会社を買えるところな ど存在しなかった。
同年、ジョージの娘婿であるロバート・バートン（法律家。当時 30 歳）の才覚を認めたジョー ジは彼を後継者に指定。バートンは経営合理化を推進。パーカー家との関係にこだわらず人材 を抜擢し組織化を進め、また印刷機の導入等を行う。33 年には社長に就任。ジョージは会長と なる。二人の仲は（よくある話だが）順風満帆とまでは行かなかったようだが、決裂すること もなく、概ね良好であった。
しかしバートンが社長に就任した 1933 年の業績は最悪で、十万ドルの損失を出している。ゲー ムは恐慌に強いと言われるが、この時点で影響は相当に悪化していた。
1934 年、バートンは大リストラを敢行。全従業員を解雇し、一部を新条件で再雇用した。 それから間もないころ、1 つのゲームがパーカーブラザーズに持ち込まれる。ジョージは面白 さは認めたが、複雑すぎると感じた。これ以上こちらを煩わせることのないよう、「52 個の基 本的な間違いがある」とのコメントが付され、ゲームは開発者に突っ返された。
しかしその後、開発者チャールズ・ブレイス・ダロウはフィラデルフィアでゲームを自費出版、 数百個を売り切り、大量（7500 個）の再生産に入っていた。噂を耳にしたバートンはダロウ と交渉に入り、ロイヤリティを払うことで同意した。
ダロウのコンポーネントを流用して、最初のパーカーブラザーズ製モノポリーが作られた。 ジョージはルール記述にこだわり、丹念にブラッシュアップした（ゾロ目を振った際の記述の 言葉づかいだけに三日間を費やすことさえあった）。しかしジョージはまだその複雑さ（及び長 時間。そのためジョージは短時間ヴァリアントを同梱させた）に懸念を持っていたため、なん らかの兆候が掴めるまでは作り過ぎないように、と注意した。
しかし売れ行きは好調だった。こうなると、また麻雀の轍を踏むわけにはいかない。ジョージ はバートンに、モノポリーのパテントを取るように言った。モノポリーの商標は登録済みであり、 バートンはそこまでするのはやり過ぎではないかと感じた。しかしこの試みによって、1924 年にパテントが取られた Landlord's Game がモノポリーによく似たものであることが判明した。 作者エリザベス・マギー・フィリップスは、ゲームを 1921 年か 22 年にジョージに見せていた。
それはヘンリー・ジョージの土地単税をテーマとするもので、ジョージにはあまりに教育的で 退屈だった。しかしそう伝える代わりに、パテントを取るといいよと勧めたのだった。
ジョージはフィリップスと交渉し、彼女のパテントを買った。そのパテントはろくに稼ぎにな らなかったし、あと数年で失効するものだった。彼女にとってより重要なことは、パーカーブ ラザーズが自分のゲームを三本出版してくれるということだった。モノポリーのパテントは 1935 年に取得された。
また、他にもモノポリーに類似した Finance というゲームが既に出ていることがわかり、バー トンは出版者に会い、権利を 750 ドルで購入した。ジョージとバートンは、モノポリーの成功 を他の誰とも分かち合いたくはなかった。
1935 年のクリスマスまでに、五十万個のモノポリーが売られ、パーカーブラザーズの売上は 五十万ドルを超えた。翌年には受注は週に三万五千個に及び、かつての従業員が雇い直され、 24 時間体制で生産が続けられた。玩具製造業協会（TMA）を通じ、ライバルのミルトンブラッ ドレーにゲームボード制作の下請けを依頼し、同社もこれを引き受けた（しかし後にミルトン ブラッドレーはモノポリーのパテントのライセンスを受け、Easy Moneyを制作。長く人気のゲー ムとなった）。
1936 年にモノポリーは 181 万個売れ、収益は百万ドルに到達した。バートンは資金量を活かし、 類似ゲームを出してきた会社と交渉を行い、市場が混乱しないように努めた。
イギリスでモノポリーを受け取ったワディントンのビクター・ワトスンは感銘を受け、パーカー ブラザーズに大西洋横断長距離電話をかけ、カナダを除くイギリス連邦でのモノポリーの権利 を得た。これによりワディントンは印刷とトランプの会社から脱し、大ゲーム会社へと成長する。 しかしドイツでライセンスを受けたシュミットはそうは行かなかった。ベルリンを舞台とした ゲームボードの最高級地区が、ナチスの高官たちが住まいとしている所だったからだ。ゲッベ ルスはこの資本主義的なゲームを非難し、ヒトラーユーゲントが抗議に訪れた。後、連合軍の 空襲によりシュミットの倉庫は焼かれ、モノポリーの在庫も焼失した。
モノポリーの売上は 30 年代を通じてゆっくりと下落していき、モノポリー集中のために停 止していた他のゲームの生産ラインも復活していった。30 年代の終わりにはアメリカ経済も 復調し、Rook、Pit、Flinch、Sorry!（イギリスの W.H.Storey&Co. から 1934 年に権利取得）、 Crossword Lexicon（ワディントンから）などの売れ行きも好調となった。
○ 1940 年代――第二次大戦とジョージの死
アメリカ参戦に伴い、大勢の従業員が徴用もしくは志願して軍へと去った。大量のゲームが軍 へ供給された。ジョージは解雇を最小限に抑え、労働時間の短縮と主要ゲームへの rain 集中に よって賄った。40 年代にはモノポリーの売上は上昇し、39 年には 15 万個だったのが、45 年 には 65 万個となった。
戦後、引退したジョージ・パーカーに代わる紐帯を求めたバートンは、イギリスのワディント ンとの結びつきを強めた。ワディントンの戦後最初のヒット作はクルードで、ただちにライセ ンス契約が結ばれ、アメリカナイズされた上でクルーとして 1949 年に売りだされ、大成功を おさめた。
1952 年、ジョージ・パーカー死去。享年 86 歳。
