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第 3 章 基本方程式
3.1 エントロピーの示量性
1.3 節において、エントロピーは示量的状態量として導入された。しか し、これまでエントロピーの示量性を直接に扱うことはなかった。本節 ではこれを実際に要請し、その帰結を見る。
まず、式(1.7) を再掲しておく。 dS = 1
TdU + P TdV −
µ TdN
これは第一法則(1.3) を並べ替えただけである。右辺の係数より、 1
T = ( ∂S
∂U )
V,N
, P T =
( ∂S
∂V )
U,N
, µ T = −
( ∂S
∂N )
U,V
(3.1)
を得る。
系の示強変数(温度 T と圧力 P ) を保ったまま、示量変数 (体積 V と物 質量N ) を λ 倍にする。すなわち、V → λV かつ N → λN とする。密度 N/V は一定である。内部エネルギー U は示量的なので U → λU となる。 ここで、S についても S → λS となることを要請する。式 (1.7) で見たよ うに、S は U, V, N の関数だから、この要請は
S(λU, λV, λN ) = λS(U, V, N ) (3.2) と表現される。この式の両辺をλ で微分し、その後 λ = 1 と置くと、
U( ∂S
∂U )
V,N
+ V ( ∂S
∂V )
U,N
+ N( ∂S
∂N )
U,V
= S (3.3)
が得られる∗。これに式(3.1) を代入し、両辺に T を掛けると、
∗式(3.2) の左辺については、 dS = ∂S
∂(λU )d(λU ) +
∂S
∂(λV )d(λV ) +
∂S
∂(λN )d(λN ) からdS/dλ とする。
32 第3 章 基本方程式
✓ ✏
U = T S − P V + µN (3.4)
✒ ✑
を 得 る 。こ れ は 、第 一 法 則 (1.3) と 似 て い る が 、後 者 は 微 分 量 dU, dS, dV, dN の間の関係式である点で大きく異なる。上式の微 分 か ら 第 一 法 則 (1.3) を差し引くと、次の Gibbs–Duhem の式が得ら れる。
3.2 Gibbs–Duhem の式
(3.4) 式の微分から (1.3) 式を引くと、
(3.4) dU = T dS + SdT −P dV − V dP +µdN + N dµ (1.3) dU = T dS −P dV +µdN
より、次式が得られる。
✓ ✏
SdT − V dP + N dµ = 0 (3.5)
✒ ✑
これは Gibbs–Duhem の式と呼ばれる。第一法則(1.3) の右辺とは対照 的に、上式左辺の各項は(示量変数)×(示強変数の微分) の形になっている。
3.3 Gibbs エネルギーと化学ポテンシャル
式(3.4) は、Gibbs エネルギー (G = U − T S + P V ) を
G = µN (3.6)
のように著しく簡単化する†。これは、µ = G/N すなわち
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化学ポテンシャル = 粒子当りの Gibbs エネルギー
✒ ✑
であることを示している。第5 章で見るように、粒子数 N をモル単位 n = N/NA(NAはアボガドロ数) で表して、化学ポテンシャルを粒子1モ ル当りのGibbs エネルギーとすることが多い。
†グランドポテンシャルの表式もΩ = P V のように簡単化される。(Ω = −F + µN =
−U + T S + µN = P V )
3.3. Gibbs エネルギーと化学ポテンシャル 33
注意 式)(3.6)のように表式が簡単になったからと言っても、その内容が変った
訳ではない。例えば2.2節で見たように、GはT, P, Nの関数なので、(3.6)の G = µNにおいては、µがT, P の関数となっているはずである。また、この式 の微分はdG = µdN + N dµだが、これと2.2節の表1で得た式(2.19)
dG = −SdT + V dP + µdN
とは等価のはずである。
練習問題 Gibbs–Duhemの式(3.5)を用いて、G = µNから式(2.19)が導かれ ることを確認せよ。
解答 G = µNよりdG = µdN + N dµ. これと式(3.5)からN dµを消去すれば よい。また、次式(3.7)より、化学ポテンシャルµは確かにT とPの関数であ ることが分かる。
Gibbs–Duhem の式 (3.5) を並べ替えれば dµ = −S
N dT + V
N dP (3.7)
N =1 モルとし、モルエントロピー Sm= S/N 、モル体積 Vm= V /N を定 義して、
dµ = −SmdT + VmdP (3.8) と書く場合が多い。これは、次章でClapeyron の式あるいは Clausius– Clapeyron の式と呼ばれる関係式を導く際に利用する。
補足 以上は単一の物質成分から成る系の場合であり、複数の成分を含む場合 には、第一法則は
dU = T dS − P dV +∑
i
µidNi
となる。最終項の添字iが各成分を標識する。上式から出発して本章の議論を辿 れば、式(3.6)は
G =∑
i
µiNi
となる。この場合も、化学ポテンシャルを粒子当りのGibbsエネルギーと解釈 することは可能だが、µ = G/Nのような単純な割り算で求めることは出来ず、
µi=( ∂G
∂Ni
)
P,T,Nj̸=i
を考える必要がある。