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T itle

<研究創案ノート>現代インドネシアにおけるザカート実

践の多様性とその管理の二形態

A uthor(s )

足立, 真理

C itation

イスラーム世界研究 : K yoto B ulletin of Islamic A rea S tudies

(2016), 9: 265-273

Is s ue D ate

2016-03-16

UR L

https://doi.org/10.14989/210325

R ig ht

©

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科附属

イスラーム地域研究センター 2016

T ype

D epartmental B ulletin Paper

T extvers ion

publisher

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現代インドネシアにおけるザカート実践の多様性とその管理の二形態

足立 真理*

1. はじめに

 本稿の目的は、現代インドネシアにおけるザカート実践に着目し、その実践の中核を占めるザ カート管理団体の実態を描くことから、同国のザカート管理の特徴を論じることである。

 ザカートとは、イスラームの最重要義務行為、五行の 1 つであり、俗世で稼いだ富の一部を神に 返し、それを神が自らの決めた対象(アスナーフaṣnāf[ア])に分配するというイスラーム特有の制 度である。富の再分配の機能を持っていることから、イスラーム共同体(ウンマumma[ア])におけ る相互扶助制度として長らく実践されてきた。ザカートは二種類に大別することができ、1 つは資 産ザカート(ザカート・マールzakāt al-māl[ア])、もう 1 つは断食明けのザカート(ザカート・フィ トルzakāt fiṭr[ア])である1)。一般に、前者は、最低余剰基準(ニサーブniṣāb[ア])以上の財産を 持つ成人が 1 年間に保有する資産の 2.5%を支払う義務のことを指し、後者は、ラマダーン月の終 わりにすべてのムスリムが主食 3.5 リットル(2.8kg)やそれ相当の金銭を貧者に贈るものを指してい る。ザカート・フィトルについては、インドネシアにおいて断食明けのお祭り(イード・フィトル

‘īd al-fiṭr[ア])2)で困窮者にお金が配られ、毎年混雑でけが人が出たというニュースが流れるほど

*  京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程

1) 本稿では、原語はイタリックで表記することにし、その際、アラビア語によるものは[ア]、インドネシア語に よるものは[イ]と付記することにする。

2) インドネシアではレバラン(Lebaran[イ])やハリラヤ(Hari Raya Puasa[イ])、イドゥルフィトリ(Idul Fitri[イ])

などと呼ばれる。

Diversity of Zakat Practice in Indonesia and Two Categories of its Management

ADACHI Mari

The purpose of this paper is to examine the situation and characteristics of zakat practice in Indonesia. Zakat, one of the five pillars of Islam, is an religious duty to pay a determined amount from one’s surplus wealth annually to purify one’s assets. This paper focuses on the process and practices of zakat management organizations in Indonesia, which has the largest Muslim population in the world. In the past, Zakat practices in Indonesia operated at the grass-roots level. However, from the early twentieth century, new waves of zakat practices have been adopted. After the end of the New Order regime, led by President Soeharto, domestic politics have resulted in Zakat Act No.38/1999. When the new Zakat management Act was passed, heated arguments erupted between the state administration and private voluntary institutions. Firstly, this paper discusses the history of zakat practices after the independence and the new waves of the zakat movement. Then it explains about the two types of zakat management organizations. The former is the state-based organization BANZAS (Badan Amil Zakat Nasional) and the latter are the grass-roots organizations LAZ (Lembaga Amil Zakat). As for the conclusion, this paper implies the importance of the diversity of zakat practices, which promote the well-being of people in the society.

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身近な慣習である3)

 インドネシアにおけるザカート実践は、独立以降、長らく草の根的な個人実践として行われて きた。例えば、ジャワ島でキヤイ(kiai/kyai[イ])やシャイフ(syekh/shaikh)と呼ばれる村の宗教 的指導者に支払ったり、近隣の貧者に直接支払ったりするのが一般的だったという[Fauzia 2013: 85]。しかし、2000 年前後から、ザカート実践をより包括的に、かつ、現代的要請に合わせた形 で再構築しようとする動きが様々なアクターから見られるようになってきており、それに伴いザ カートの徴収・分配を担うザカート管理団体も多数設立されるようになっている。従来の研究で は、このザカート管理団体について、その性格や位置づけについての詳細な検討は行われてこな かった。しかし、どのような性格を持った団体がザカートを管理しているかを把握することは、 様々な管理団体がひしめき合うことで多様性を包含するであろう現代インドネシアのザカート実 践を理解するのに必須であると考える。そこで、本稿では、インドネシアのザカート管理のあり 方を 2 つの形態に分類することを試み、それぞれの実態を把握する中から、各形態の特徴を描く ことにしたい。

 以下では、独立後のインドネシアにおけるザカート実践の沿革を概観し、2000 年以降の新しい 動きを論じる(第 2 章)。そして、同国の典型的なザカート実践の事例として、2 つのザカート管 理団体を取り上げ、その実態を描きながらザカート管理の二形態を提示することにする(第 3 章)。 その上で、ザカート管理から見えるインドネシアにおけるザカートの多様性を理解する分析枠組み の提起を試みたい。

2. 独立後インドネシアにおけるザカート実践の展開

 本節では、独立後のインドネシアにおけるザカート実践を新憲法期(1965‒1998)、改革期 (1998‒ )に分けて概観する。

2-1. 新憲法時代(1965‒1998 年)

 インドネシアでは元来、ザカートや断食明けのザカートは、人々が直接、困窮者やウラマー

‘ulamā’[ア])、キヤイ(kiai/kyai[イ])に支払うのが伝統的な実践であった。そして特にその運動

の中心的存在であったのが、ムハンマディーヤ(Muhammadiyah[イ])4)やナフダトゥル・ウラマー (Nafdatul Ulama: NU[イ])5)をはじめとするイスラーム復興団体であった。このような状況から変

化がみられるのは、1968 年が契機だといわれている。

 1968 年は、独立後のインドネシア政府によるザカート管理の一元化への関心が表出した年であっ た。当時大統領であったスハルトは政教分離の政策を目指したが、個人的にはイスラーム的な活動

3) 2015 年のレバランでも、10,000ルピア(日本円でおよそ 100 円)を求めて人々が詰めかける様子がニュースで

流された(ジャカルタの民間放送局PT. Indosiar Visual Mandiriより。< http://www.indosiar.com/fokus/fakir-miskin-saling-dorong-demi-uang-10000_87418.html>)。

4) ムハンマディーヤは、1912 年に設立されたインドネシアで二番目の規模のイスラーム市民団体である。およそ 3500 万人の支持者がいるとされている。ムハンマディーヤの目標は、西欧の文化を吸収してインドネシアの近代 化を進めること、および、個々人のイスラーム信仰を純化することによってインドネシアのムスリムの倫理意識 を高めることである。このような「近代主義者」と呼ばれる所以は、ラシード・リダーやムハンマド・アブドゥ などの思想を色濃く受け継いで設立された点からである。具体的には、教育活動を通して、インドネシアの多文 化主義と民主主義を推進することを掲げている。詳しくは、[Nakamura 1983]などを参照。

5) ナフダトゥル・ウラマーは、「ウラマーの復興」を意味し 1926 年に設立されたイスラーム系組織である。組織の 性格として、同じくインドネシアのイスラーム系団体ムハンマディーヤと比較した場合、保守的側面を持ってお り、宗教教育と周辺共同体の福祉向上といった活動を中心的に行なっている。構成員は約 4500 万人といわれて おり、インドネシアで最大規模の動員力を持つイスラーム団体である。

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にも賛同していたとみられる。その根拠として挙げられるのが、同年 10 月 26 日、預言者の昇天祭 で行われたスハルト大統領の演説である。

インドネシア国民の 90%はムスリムである。これは約 1 億人のムスリムがザカートを支払う 義務があるともいえる。(中略)一ムスリム市民として、私は全てのインドネシアのムスリム のみなさんに、ザカート徴収が国家として責任を持って引き受ける準備があることを、ご公表 したい。今から、私は全てのムスリム(国民――筆者註)からザカートの支払いを個人的に受 けたいと思う。神が望めば、私は全ての国民からどのくらい受け取るか公表し、その支出につ いて責任を持ちたい。私のこの呼びかけが、すべてのムスリムと指導者たちに良いフィードバッ クをもたらすことを期待したい6)

 スハルト大統領は、政府見解としては政治的なイスラーム化を危惧しつつも、個人的にはザ カートのインドネシア経済発展に対する可能性を認めていたことはその内容からも明らかであっ た。上記の演説から二か月後の 1968 年 12 月 5 日、ジャカルタ県知事のアリー・サディキン(Ali

Sadikin)によって、初の公的ザカート管理団体であるBAZ(Badan Amil Zakat)がジャカルタに設

立された。1976 年には名前をBAZIS(Badan Amil Zakat, Infaq dan Sadaqah)に変更した。これは一 年に支払う回数(ḥawl[ア])と最低余剰資産額が定まっているザカートに、時や所有資産に縛られ ない自由な喜捨のインファーク(infāq[ア])とサダカ(ṣadaqa[ア])を加えることによって、より 柔軟なサービスを目指したからである。このようにザカート、インファーク、サダカ(総称して ZIS)を徴収するスタイルは、以降様々な団体で取り入れられ、インドネシアのザカート実践の 1 つの特徴になっていった。

 イスラーム復興の高まりから公的ザカート管理団体BAZISが徐々に各州で設立されるように なった7)。1980 年代頃にはザカートに関するフォーラムやワークショップも盛んに開かれるよう

になったが、当時の研究の主題は「ザカートと税制」であった。1988 年、インドネシアウラマー 評議会(Majelis Ulama Indonesia: MUI)はザカートと税制に関するセミナーを開き、そこで両者の 違いを明確化し、インドネシアのムスリムは両方支払うべきだとする結論を付けた。ここでの論 拠は、ザカートはクルアーンやスンナに書かれた神への宗教的義務であるのに対して、税は国民 国家における義務であり、宗教的に正当付けるならば公共の利益(al-maṣlaḥa al-‘āmma[ア])のた めであるとした。この意見は、インドネシアのムスリムに二重の義務を課せることになり、結果 的に多くのムスリムがザカート支払いを等閑に付し、税金を支払った。

 この現状に挑戦したのが、ナフダトゥル・ウラマーのイスラーム知識人であるマスウーディー だった。彼は 1991 年に『正義の宗教――イスラームにおけるザカート(税)論(Agama Keadilan:

Risalah Zakat(Pajak) dalam Islam[イ])』を出版し、世俗的な税を支払うことはザカートを支払った

ことに置き換えられると説いた。彼はザカートを精神、税を体とたとえ、両者は表裏一体である とした。イスラーム国家論の枠組みでザカートを論じた彼の主張は幅広く受け入れられ、それか らのザカート政策の参考となった。実際、1999 年の全国初ザカート管理法では、その第 38 号 14 条に、BAZNASにザカートを支払った人は、所得税の控除が 2.5%分受けられることが明記して

6) [Fauzia 2013: 189–190]から筆者翻訳。

7) 東カリマンタン(1972)、西ジャワ(1974)、アチェ、西スマトラ、南スマトラ、ランプン(すべて 1975)、南カリ マンタン(1977)、南北スラウェシ(1985)設立[Fauzia 2013: 191]。

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ある。そして 2000 年の税法第 17 号 9 条にも、同様の記載がある8)

2-2. 改革期(1998 年以降)

 1998 年にスハルト政権が倒れ、改革の波が押し寄せたとき、イスラーム諸制度に対する改革も 多く取りざたされた。ザカートについては、1999 年が 1 つの画期となる。同年、政府はついに国 内初のザカート管理法第 38 号を施行した。その内容は、県や州単位で活動していた公的ザカート 管理団体(BAZIS)とそのほかの民間ザカート管理団体(LAZ)は全て国家の監視下に置くというも のであり、事実上の一元化宣言であった。

序文aインドネシア共和国は個々人の宗教に応じた固有性を保証する。bインドネシア・ムス リムの義務であるザカートを、公共の福祉実現の財源として使う。cそしてその慈善は、困窮 者に注意を払い、正義を執行するための宗教的装置である。dこのようなザカートシステムを、 より効率的に使役するためにはザカート管理の向上が必須であり、上記の目的を達成するため にもこのザカート管理法案が設立されるものである。(ザカート管理法第 38 号)

 このような法案が通った背景としては、1970 年代の世界的なイスラーム復興運動とともに、徐々 に増加する状況にあったザカート管理団体を把握しようという意図があった。2001 年 1 月 17 日、 それ以前は県単位の団体だったBAZISが大統領令によって統合され、国家主導のBAZNAS(Badan Amil Zakat Nasional: 全国ザカート管理局)が誕生した。そして 2011 年には先の第 38 号の修正案で あるザカート管理法第 23 号が出され、ザカート管理の統合が完全にBAZNASに委任された。

3.インドネシアにおけるザカート管理の二形態

 ザカートは誰が徴収、分配の責任を負うべきなのだろうか。この問題は、多くのウラマー(イス ラーム法学者)によって論じられてきた。まず議題に上がるのは、ザカート受給資格者(アスナー フaṣnāf / maṣārif al-zakā[ア])t 9)の三番目にあがる「ザカート管理者(‘āmilūn ‘alayhā[ア])」のこと である。クルアーンにも言及があることから、何者かがザカートを徴収し、正当に管理、分配する 責任を持つということである。しかもその管理者の給料まで保障されているのだから、だれが管理 すべきなのかは大きな関心事である。カラダーウィーによると、初代カリフのアブー・バクルが預 言者ムハンマドの後を継いだとき、ザカートを徴収、分配する正統性も引き継いだという。そし て、スンナ派では、イスラーム国家としてザカートを徴収する責務があるとしている[al-Qaradawi 2011: 501]10)

 インドネシアでは、1974 年から 1975 年にかけてザカート管理に関するウラマーとムスリム知識 人の意見調査が行われた。そこでは大半が政府をザカート管理の重要なファクターであると述べ

8) [Salim 2008a: 39; Hafidhuddin 2002: 5]。

9) クルアーン悔悟章 60 節に「サダカ(ザカート)は、貧者、困窮者、これを管理する者、および心が(真理に)傾い てきた者のため、また身代金や負債の救済のため、またアッラーの道のため(に努力する者)、また旅人のため のものである。これはアッラーの決定である。アッラーは全知にして英明であられる。」とある。つまり受給資 格者は、貧者(faqīr)、困窮者(masākīn)、ザカート管理者(‘āmilūn ‘alyhā)、イスラームへ心が傾いた者 / 改宗者

muʼallafa al-qulūb)、奴隷(riqāb)、負債者(ghārimūn)、アッラーの道のため努力する者(fī sabīl al-allāh)、旅人

/ 孤児(ibn al-sabīl)の 8 つの分類がなされている(すべて[ア])。

10)その論拠にブハーリーやムスリム、イブン・アッバースから、預言者ムハンマドが教友ムアーズをイエメンに派 遣した際に「神が彼らの富にサダカ(ザカート)を義務付けたことを知らせなさい。富める者から貧しいものへ。」 と述べたハディースを紹介している。

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た。しかしながら、政府が一括管理すべきだという意見は少数にとどまり(約 7%)、たいていが国 家主導の徴収を支持した(約 59%)。そして、国家主導の組織が分配も担うべきだという意見も多 くを占めた(約 46%)[Taufik 1991: 53]。

 現在、インドネシアには、ザカートの徴収・分配を担うザカート管理団体がきわめて多数存在す る。従来の研究では、ザカートの管理について、その管理団体の性格や位置づけについては詳細な 検討が行われておらず、単に字義通り、「ザカート」を「管理」する団体としか捉えられていなかっ た[Fauzia 2013]。しかし、どのような性格を持った団体がザカートを管理しているかを把握する ことは、多数の団体がひしめき合うことで多様性を包含するであろう現代インドネシアのザカート 実践を理解するのに必須であると考える。そこで、以下では、インドネシアのザカート管理のあり 方を 2 つの形態に分類することを試み、それぞれの実態を把握する中から、各形態の特徴を描くこ とにしたい。

3-1. 国家主導トップダウン型のザカート管理

 この形態の代表的かつ唯一の事例は、BAZNASをトップに掲げた国家主導のザカート管理であ る。国内唯一の全国公式ザカート管理団体であるBAZNASは大統領からの委任を受けた宗教省の 管理下にある。BAZNASは、国家から、ザカート管理の計画や徴収、分配、運用の管理を任され ている。

 BAZNAS本部の下には徴収専門機関(Unit Pengumpul Zakat: UPZ)と政府認定LAZ(Lembaga

Amil Zakat: 民間ザカート管理団体)が置かれている。UPZは、ジャカルタ首都州の区(kecamatan

[イ])や、町(kelurahan[イ]11))の長(区長はcamat、町長はlurah[イ])にBAZNASの地域責 任者としてザカート徴収を要求する機関である。また、政府認定LAZとは、非政府組織である がザカートの徴収業務を政府から委託された認定団体であり、その代表的な政府認定LAZと して、ドンペット・ドゥアファ(Dompet Dhuafa Republika)、ラジス・ムハンマディーヤ(LAZIS Muhammadiyah)、バイトゥル・マール(Yayasan Baitul Mal Muamalat)が挙げられる[Salim 2008a:

77]。これらは、BAZNASの成立より前から存在した団体がほとんどで、徴収だけでなく、分配

も独自に行う団体が多い。全国規模の団体が多いので、徴収された資金はいったん中央本部に送 金され、本部の采配で再分配するという形態がよくみられる。

 BAZNASのザカート徴収は、主に、公務員からの支払いに依拠している。例えば、BAZNASボ

ゴール支部では、ボゴール市長のビマ・アルヤ(Bima Arya)によって、市役所に勤める公務員か らザカート分 2.5%の給料天引きを行う施策が導入されたことで、同支部のザカート徴収総額が飛 躍的に増加したと言われている12)。ちなみに、BAZNASが用いている徴収方法は 4 つに分けられ

る。それは、BAZNASの事務所での支払い(約 10%)、訪問徴収(約 5%)、銀行口座引き落とし(約 5%)、インターネットバンキング(約 80%)である13)

 分配の側面に目を転ずると、受給者については、地域の長か学校からの要請があった場合、も しくは受給者が直接BAZNASに来る場合に審査が行われる。また、政府の管轄下である貧困地区 の住民は積極的に受給対象となる。受給の方法については、BAZNASは様々なプログラムを用意

11)ジャカルタ首都特別州は、行政区分が定められている。このクルラハンの下に、隣組(RT)、町内会(RW)を置く

住民組織制度は 1983 年の内務大臣令で規定された。ほかの地域でRTやRWというと、行政区分外のことが多い。

12)筆者によるBAZNASボゴール支部長への聞き取り調査による(2014 年 9 月 25 日)。

13)筆者によるBAZNASジャカルタ本部のエグゼクティブ・ディレクターTeten Kustiawan氏への聞き取り調査によ

る(2014 年 9 月 22 日)。

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している。教育部門(Rumah Cerdas Anak Bangsa: RCAB14))では、初等教育から大学までの奨学金

が15)、医療部門(Rumah Sehat BAZNAS)では会員制の無償医療が提供されている。また、ダアワ

部門(Rumah Dakwah BAZNAS)では、困窮者や地方住民を対象としたイスラームの普及活動が行わ れている。さらに、災害援助部門(Tanggap Darurat Bencana)では災害時の迅速な対応をめざし、被 災者への教育や医療、住居が提供されている。

3-2. 地域密着型のザカート管理

 BAZNASを頂点とする国家主導型のザカート管理と対をなして存在するのが、独立系LAZであ る。本稿では、筆者が調査を行った全国規模の独立系LAZの代表格であるRumah Zakat(RZ)の活 動を描くことから、独立系LAZの実態を描くことにしたい。

 RZは、教育、医療、コミュニティ開発、経済発展をその分配の重点においている民間ザカート 団体の中でも全国的な規模を誇るものである。1998 年にジャワ島西部都市バンドンで設立され、 LAZの中でも二番目の集金力があると言われる。独立系であるがゆえに、BAZNASの傘下には入っ ていない(=公認を受けていない)。以下では、筆者が調査を行ったジャワ島東部の都市マランに おける活動(マラン支部)の概要を述べる。

 RZでは、6 つの徴収方法が用いられている。それは、ATM支払い、直接オフィスでの支払い、 オンラインバンキング、SMSバンキング、クレジットカードの自動引き落としである。これらの 方法で徴収したザカートは、一度、バンドンに所在する本部に集められ、そこから全国に向けて再 分配が行われる。

 ザカートの分配に関しては、受給者が自発的に事務所まで来るのを待機するBAZNASと違い、 地域の隣組(RT)長や町内会(RW)長、学校からRZに支給要請の連絡が来る場合が多い。受給に ついては、教育、自立、健康、環境、ラマダーン、クルバーンの 6 つのプログラムによって主に 分配が行われている。教育部門(Senyum Juara16))では、奨学金や職業専門高校、学校運営、給食

費などに使用される。自立部門(Senyum Mandiri)では、小規模起業を応援するためのマイクロ・ ファイナンスやカルド・ハサン(無利子貸借)での貸し付け(および職業訓練)、牧畜や酪農の訓練 に使用される。健康部門(Senyum Sehat)では病院経営や出張医療、救急車、医療知識の講座や健 康診断に使用される。環境部門(Senyum Lestari)17)では安全な水場を提供したり、災害現場に飲 み水を運んだりするのに使用される。ラマダーン部門(Senyum Ramadhan)では、断食明けの食料 配布、孤児への学用品や日用品配布、困窮者への主食配給、聖典『クルアーン』の配布に使用され る。最後のクルバーン部門(Superqurban)では、インドネシアでクルバーン(‘īd al-Aḍḥā[ア])と呼 ばれる犠牲祭において、屠る家畜をRZが育てて自社工場で缶詰化したものを生贄の替わりにす るシステムで使用される。イスラームの宗教的な祭日である犠牲祭クルバーンや断食明け祭では 盛大に祝宴を開き、その際多くの食物を家族や、近隣の貧しい人とも分け合って供食するのが伝 統である。RZの画期的な点は、クルバーン用の肉を缶詰化したことで長期保存がきくようにした 点である。

 RZでは、ザカートによる富の再分配について、それが短期的支援に終わらないようなものを志

14)BAZNASの教育に関するプログラム名で、「国民よい子のおうち」プログラムと訳せる。

15)この支援を受けている初頭から高等教育の人数が全国で 1012 人、大学生が 230 人である[Hafidhuddin 2014]。

16)RZの教育に関するプログラム名で、「チャンピオンのスマイル」プログラムと訳せる。

17)熱帯性気候に属するインドネシアでは雨期に洪水が多発し、社会問題となっている。この部門は地域的特質を理 解したうえでのザカート活用法だといえる。

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向している。例えば、自立部門の貸付でも、ただ金銭を貸し付けるのではなく、職業訓練と並行し たプログラムを組んでいる。まず小規模企業家が多いインドネシアにおいて、推奨される仕事はビ ジネスである。RZのマラン支部長Tedi Heryanto氏に職業訓練について訪ねた際に、次のような回 答が返ってきた。

「RZでは、毎月の企業講座を開き、週一回の企業家サポートも行う。実際、ここに来る人のほ とんどはすでに何かしらのビジネスを始めている18)。職業訓練は大体三種類に分けられ、第

一に縫製業などの技術能力獲得のトレーニング。第二にモチベーション・トレーニング。そし て最後に宗教的なトレーニングである。我々はザカート受給者にただお金を渡すのではなく、 意思能力や行動力を向上してほしいと考えている。」19)

4. おわりに

 本稿は、現代インドネシアにおけるザカート実践の中核をなすザカート管理のあり方を 2 つの形 態に分類することを試み、それぞれの実態を把握する中から、各形態の特徴を描いてきた。その 2 つの形態は、BAZNASを頂点にいただく国家主導トップダウン型のザカート管理と独立系LAZに よる地域密着型ザカート管理である。前者のトップダウン型ザカート管理では、一元的なザカート 徴収・分配をめざす、まさに「管理」を志向する姿勢が読み取れる一方で、後者の地域密着型ザ カート管理では、人々の生活のリズムや要請に即した形での徴収・分配が行われていることが伺え た。また、前者は、教育、医療、災害援助のように国家が主体となって行うべきとされる社会福祉 や緊急時対応、国際支援のような分野におけるザカートの役割に期待が集まっており、まさに税制 や社会福祉制度との補完性の文脈でザカートが位置づけられようとしていると考えられる。一方、 後者は、短期的支援にとどまらない長期のスパンでの人々の生活の支援や起業支援のように、ザ カートの社会経済的役割に注目が集まろうとしている。

 一見すると、トップダウン型と地域密着型は、対峙・対立するザカート管理のあり方のように見 えるが、トップダウン型で統一された隣国マレーシアのザカート実践と異なり、インドネシアは両 者のザカート管理の形態が見事に併存している。これは、同国のザカート実践を担う様々なアク ターが相互に機能を補完しあうことで、ザカートの(国家レベル、コミュニティレベルいずれの) 社会経済的要請に応えていることを示唆しているだろう。このような多様なザカート実践の積極的 意義は、本稿が着目したザカート管理のあり方の考察からはじめて理解が可能になるものであろ う。今後の研究では、本稿が示した 2 つのザカート管理の形態が相互にどのように関係し、総体と して社会経済的要請に応じているのかについて、綿密な現地調査にもとづいて解明し、インドネシ アの多様なザカート実践の積極的意義を考えていくことが求められていくであろう。その際、本稿 で着目した資産ザカートだけでなく、人々の生活にもっと密接にかかわる断食明けのザカートにも 焦点を当て、より多層的なザカートの在り方を探究していきたい。

参考文献

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Abdul Ghafar Ismail and Bayu Taufiq Possumah. 2013. “Theoretical Model for Zakat-Based Islamic

18)移動式屋台(pedagang kaki lima: PKL)を経営している人が多い。

19)筆者によるRZのマラン支部長Tedi Heryanto氏への聞き取り調査による(2014 年 8 月 13 日)。

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参照

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