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第 22 期 プロ・ナトゥーラ・ファンド助成

成 果 発 表 会 要 旨 集(Web 版)

第 18 回 プロ・ナトゥーラ・ファンド助成成果発表会

2012 年 12 月 8 日

会場:こどもの城(青山)

公益財団法人 自然保護助成基金

(2)

ごあいさつ

 プロ・ナトゥーラ・ファンド助成は公益財団法人自然保護助成基金が,自然保護のための科

学的な研究や普及などの活動を支援するために実施している公募助成事業です.

 PRO NATURA とは「自然のために」という意味のラテン語です.自然を愛するある篤志家が

自然保護の現状を憂慮し,少しでもその進展に寄与できればと,自然保護活動を支援する寄付

を行う任意団体を作り,これを PRO NATURA と名付けました.この PRO NATURA から受けた

寄付金による助成事業を「プロ・ナトゥーラ・ファンド」として,(財)日本自然保護協会が

1990年から行ってきました.その後1993年からは,PRO NATURAを法人化して設立された(財)

自然保護助成基金が助成資金を受け持ち,(財)日本自然保護協会が助成事務を担当する,両財

団の共同事業としてプロ・ナトゥーラ・ファンド助成を実施してきました.(財)自然保護助成

基金が 2011 年に公益財団法人として認定されたのに伴い,2012 年からは公益財団法人自然

保護助成基金の単独事業として実施しています.

 本助成は今年で第 23 期を迎えました.第 22 期までの助成は既に本年 10 月に助成期間を終

え,これまでに国内助成事業(第 8 期の緊急助成を含む)助成件数は 380 件,海外助成事業は

100 件,助成金の累計額は 5 億円を超えました.そして本年 10 月に採択を決定し,来年 9 月(海

外助成は来年 10 月)までが助成期間となる今年度 23 期は,国内助成事業 16 件,海外助成事

業 5 件,併せて 21 件に,1,974 万円の助成を行っています.

 これらの助成事業では自然保護に役立つすばらしい研究や活動の成果が得られ,各地での自

然保護の推進に大きな役割を果たしてきました.そこで 1994 年度からは,助成を受けた全国

各地の自然保護研究・活動グループの成果を広く一般に紹介する場として,プロ・ナトゥーラ・

ファンド助成成果発表会を実施しており,今回は 18 回目の発表会となります.

 助成テーマは例年多岐にわたりますが,PRO NATURA の本旨に則ったこれらの地道な研究や

活動の継続が,今後も全国各地の自然保護に大きく貢献することを願ってやみません.なお,

この助成成果発表会をきっかけに,研究者,活動団体,聴衆の皆さんが密に交流され,地域の

自然保護活動をより活性化するきっかけとなれば幸いです.

2012 年 12 月 8 日

公益財団法人自然保護助成基金 理事長 有賀 祐勝

(3)

プログラム

9:45 開会挨拶 有賀祐勝(自然保護助成基金理事長)

【口頭発表】こどもの城 801 号室 座長:奥富 清(A1-A4)

A1: 9:50-10:03 高島美登里(長島の自然を守る会):生物多様性のホット・スポットの普及活動―上関フィールドワーク

A2: 10:03-10:16 山本智子(「海岸へ行こう」実行委員会):公開講座「海岸へ行こう」:海を理解してもらう試み

A3: 10:16-10:29 上條隆志(伊豆諸島植生研究グループ):伊豆諸島 新島・神津島の植生誌編纂

A4: 10:29-10:42 下野綾子(日本山岳会自然保護委員会):過去の山岳環境の記録としての写真データベースの作成 座長:田畑貞寿(A5-R1)

A5: 10:42-10:55 三上 修(日本鳥学会企画委員会):鳥の色から生物多様性の価値を提示する一般市民向けシンポ の開催

A6: 10:55-11:08 小林洋生(安房生物愛好会環境部会):千葉県南部に侵入した特定外来生物ナルトサワギクの海岸 侵出防止と駆除

R1: 11:08-11:26 佐伯いく代(里山湿地研究グループ):周伊勢湾地域に生育する湿地性絶滅危惧植物の景観遺伝学

【昼休み】11:26 ~ 12:50 座長:有賀祐勝(R2-R4)

R2: 12:50-13:08 佐藤慎一(諫早湾保全生態学研究グループ):有明海再生への第一歩   ―諫早湾常時開門直前の無機環境と底生動物群集の解析

R3: 13:08-13:26 上原浩一(市民・県・大学の三者連携によるスズカケソウ保全チーム):千葉県で新たに発見され たスズカケソウ節植物の遺伝的解析と保全

R4: 13:26-13:44 小林峻(大東諸島生物相研究グループ):大東諸島の生物相を支えるダイトウビロウの生態と保護 座長:大場達之(R5-R7)

R5: 13:44-14:02 竹中 健(北方鳥類多様性研究グループ):極東ロシアにおけるシマフクロウ個体群の分布調査と 日本産個体群の遺伝的特徴との比較研究

R6: 14:02-14:20 東 浩司(ツシマノダケ研究会):対馬の照葉樹林に遺存的に残るツシマノダケの過去の分布記録と 現状および遺伝的多様性について

R7: 14:20-14:38 木村幹子(佐護ヤマネコ稲作研究会):ツシマヤマネコと共生する環境配慮型農業の生息環境保全 効果および社会経済的効果に関する研究

座長:川那部浩哉(R8-A7)

R8: 14:38-14:56 小賀野大一(千葉県の野生生物を考える会):房総半島におけるニホンイシガメの現状と保護への 試み

R9: 14:56-15:14 岡本 卓(島嶼生物学研究会):伊豆諸島八丈島における外来種ニホントカゲの侵入による在来種オ カダトカゲの絶滅リスク評価

R10: 15:14-15:32 江戸謙顕(イトウ生態保全研究ネットワーク):主要組織適合複合体 (MHC) 遺伝子解析による絶 滅危惧種イトウの遺伝的構造・多様性の評価及び遺伝的保全指標を含む統合的保全策の提言

A7: 15:32-15:45 竹内直子(伊豆の魚を考える会):伊豆半島南東端の浅海魚類相の変移に関する調査報告書の作成

講評:大澤雅彦(プロ・ナトゥーラ・ファンド助成審査委員会委員長・自然保護助成基金理事)

【ポスター発表】こどもの城 901 号室 16:00-17:00 コアタイム

活動助成(A) 口頭発表(発表 10 分,質疑応答 3 分,計 13 分) ,研究助成(R) 口頭発表(発表 14 分,質疑応答 4 分,計 18 分)

(4)

2.活動の内容

 この様な状況の中で第 22 期プロ・ナトゥーラ・ファ ンド助成を受けて,“ 生物多様性のホット ・ スポット― 上関フィールドワーク ” を取り組んだ.主な内容はフィー ルド・ワークの実施とその際に使用するハンド・ブック の作成である.

1) フィールドワーク

 フィールドワークの特徴としては,次の 3 点が挙げら れる.

ⅰ)フィールドツアーの内容が国際的にも注目される生 物種である(a: カンムリウミスズメの世界で唯一の周年 生息地である.b : オオミズナギドリの内海における唯 一の繁殖地である.c: 瀬戸内海産スナメリの最後に残さ れた健全な生息域である.d: 日本海特産種であるスギモ クの瀬戸内海で最大の生息域である).

ⅱ)未利用海藻(クロモズク ・ フトモズク等)の刈り取 りなど豊かな自然と食文化との共存を体感できる.

ⅲ)必ず,専門家に随行してもらい,事前学習と観察会 の指導や助言を受けて上関の生物多様性について学ぶ.  フィールドワークの実施日時・内容は表 1 のとおりで ある.10 回のフィールドワークにのべ 143 名が参加, 予備調査は計 3 回のべ 21 名が参加した.それぞれの企 画で “ 生物多様性のホット・スポット 奇跡の海 ” の魅 力を満喫して貰えた様である.特徴的な事例を挙げる.  船で行く冬の海鳥観察会(2012.1.29):カンムリウミ スズメを 16 羽も確認することができ,参加者した写真

A1: 生物多様性のホット・スポットの普及活動  ―上関フィールドワーク

高島美登里(長島の自然を守る会)

1.はじめに

 長島の自然を守る会は 1999 年より日本生態学会 ・ 日 本ベントス学会 ・ 日本鳥学会等の研究者と上関周辺地域 の生物多様性に着目して,調査を行い,当地域が,(1) 瀬戸内海で手付かずの環境が保存され,他地域では絶滅 の危機に瀕している生物が健全に生息していること,(2) カンムリウミスズメやナガシマツボなど世界的に珍しい 希少な生物の宝庫であること,(3) 世界遺産に匹敵する 生物多様性のホットスポットであることを確認してき た.

 ところが,ここに上関原子力発電所建設計画があり, 2011 年 2 月には敷地造成のための埋め立てが一部開始 された.ところが,東日本大震災による福島原発事故で 埋め立ては一時中断している.原発建設計画の準備作業 のうち,埋め立て作業の陸域部分は照葉樹林の伐採など かなり進んでおり,それに伴う生態系へのダメージも顕 在化しつつある.海域の埋め立ては部分的に開始され, 現在は一時中断しているが,今後の国のエネルギー政策 如何によっては予断を許さない.また仮に原発計画が中 止になったとしても,2011 年 6 月の上関町議会で町長 が「(原発計画がなくなった場合の)跡地利用について も検討する必要がある.」と明言しており,新たな大規 模開発計画を誘致する可能性は大である.自然保護の特 別な地域指定を受けられる世論形成のためにフィール ド・ワークとハンドブック作成は急務である.

実施日時 内容 講師 参加人数(人) 確認できた生物

2011.11.13 船で行く上関の自然めぐり 飯田知彦 14 ハヤブサ・ミサゴ

2011.12. 4 船で行く秋の植物観察会 野間直彦 6 アコウ

2012. 1.29 船で行く上関の海鳥観察会 飯田知彦 5 カンムリウミスズメ

2012. 2.12 カンムリウミスズメ予備調査 飯田知彦 5 カンムリウミスズメ

2012. 2.15 田ノ浦スギモク予備調査 新井章吾 6 スギモク他海藻

2012. 3.10 田ノ浦スギモク&海鳥観察会 新井章吾 10 スギモク・スナメリ

2012. 4.14 上関の春の植物観察会 野間直彦 14 カンムリウミスズメ

2012. 5. 6 磯の生き物 調査&観察会 向井宏 25 スナメリ

2012. 5.22 ナメクジウオ&モズク観察会 山下博由 / 新井章吾 8 ナメクジウオ

2012. 6.16 祝島ビワ狩り&スナメリウォッチング 25 スナメリ

2012. 6.24 魚類調査&オオミズナギドリ予備調査 渡辺伸一・畑 10 魚類・オオッミズナギドリ 2012. 9.19 オオミズナギドリ繁殖調査・観察会 渡辺伸一・依田憲 9 オオミズナギドリ

2012. 8.18 アカテガニ放仔観察会 佐藤正典 25 アカテガニ

2012. 8.19 宇和島生き物観察会 佐藤正典 11 ゴカイ各種

表 1 フィールドワークの実施日時・内容

第 22 期 プロ ・ ナトゥーラ ・ ファンド助成成果発表会要旨集(Web 版)(2012.12)

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家は上関をテーマにした写真集を作成したいと申し出て くれた.また,4 月 14 日の “ 上関の春の植物観察会 ” で も海上から満開のヤマザクラを鑑賞するかたわら,カン ムリウミスズメが 9 羽も姿を見せ,参加者は「5,000 分 の 9 を見ることができた!!」と大感激であった(写真 1).

 田ノ浦スギモク&海鳥観察会(2012.3.10):海藻研究 所の新井章吾さんの案内で船上から観察した.スギモク の生殖器がたち上がり,参加者は海の金色のお花畑を楽 しんだ.2007 年より陸域の工事で伐採された里山が昨 年の埋立中止により,自然再生しつつあるのが功を奏し たのか,伐採前に比べて半減していた群落に復活の兆し が見えた.このまま,工事が中止されれば以前のような 見事な群落がよみがえる可能性が大である.

 ナメクジウオ&モズク観察会(2012.5.22):海藻研究 所の新井省吾さんと貝類保全研究会の山下博由さんの案 内で田ノ浦湾のドレッジ調査を実施した.海底 8 ~ 12 m 地点でナメクジウオ5個体を採取した.クロモズクに ついては,今年は成長が遅く量的には少なかったが,取 れたての “ モズクお好み焼き ” は好評だった(写真 2).  アカテガニ放仔観察会(2012.8.18):鹿児島大学の佐 藤正典先生の指導で,大潮の満潮時に見られるアカテガ ニの放仔を今年も確認することが出来た.ただ,2007 年に陸域の伐採工事が開始されて以降,アカテガニの個 体数やサイズが縮小する傾向が見られ,残念ながら今年 も同様の傾向であった.

 予備調査:上記フィールド・ワークの前にそれぞれ, 予備調査を行い,今年の特徴を把握し,参加者に伝える 準備をした.

2) ハンドブックの作成

 フィールド・ワークのためのハンドブック作成は予定 より日程が遅れた.主な理由は 2012 年 9 月に環境省第 4 次 RDB(改訂版)が発表される予定になっており,こ の中で上関原発予定地田ノ浦湾や周辺で確認された貝類 が登載される可能性大であることから編集を延期した.  公表された第 4 次 RDB(改訂版)ではナガシマツボ(環 境省 RDB 絶滅危惧Ⅰ類)をはじめ,絶滅危惧Ⅰ類 6 種,

Ⅱ類 17 種,準絶滅危惧 11 種,情報不足 2 種が登載された. ハンドブックには,この情報も掲載している.

 その他,長島の自然を守る会が研究者との共同調査で 得た最新情報として,ⅰ)宇和島でのカラスバトの繁殖 確認,ⅱ)オオミズナギドリの採餌域が世界最小である こと,が掲載されている.

写真 1 ヤマザクラ観察会

写真 2 モズク調査風景

3. 今後の活動

 上関原発計画は東日本大震災による福島原発事故で埋 め立ては一時中断している.しかし,原発計画自体も今 後の国のエネルギー政策しだいでは予断を許さず,また, 仮に中止になったとしても新たな大規模開発計画が浮上 する可能性は非常に濃い.ユネスコの生命圏リザーブや 世界遺産要録など特別に保護する地域に指定することが 必要である.そのため,海域公園や生命圏リザーブなど に指定された地域のパネリストを迎えてシンポジウムを 開催する予定である.

(6)

の流れをセットにしておくと,企画立案の指針にもなり やすい.

 企画の詳細を組み立てる上では,学生達の興味と感性 が有効な指標になっている.自分達の疑問を追求すると いう方向で進めていくことによって,子供達の思考に 沿った説明や企画進行が可能になった.

3. 楽しみつつ理解してもらうために何が必要か?  参加者だけでなく保護者からも毎回好評を得ているの は,年齢の近い学生達が直接の指導をするという点であ る.少子化で兄弟の数が減っていることもあって,学生 とのふれあいそのものがこの講座の魅力になっている. 企画全体の進行と直接子供達に目を配る役割を学生で分 担し,2 ~ 3 人の子供に学生 1 人の割合で目が行き届い ているため,子供達の疑問を吸い上げやすい.

 また,回を重ねるにつれて,連続して参加する子供兄 弟で続けて参加する家族などが増えており,毎回視点の 異なる企画を提供することによって,連続した楽しみに なっている.

4. 安全のために何が必要か?

 開催にあたってはマニュアルを作成し,野外活動にお いて一般的に必要とされる安全対策を行っている.すな わち,全体のタイムスケジュールや役割分担を整理する と共に,野外における危険な場所や危険な生物など予測 される危険とその対処方法,不測の事態がおこった場合 の連絡方法などを共有化である.

 しかし,過去の経験から何より重要と考えられること は,子供達にやってもらう活動を一度自分達でやってみ る,すなわちシミュレーションをきちんと行うことであ る.学生を中心に据えるという性格上,毎年スタッフの 半数近くが入れ替わる.その条件の中で,一定の安全性 と企画のレベルを確保するためには,実施前にスタッフ の経験値をあげておく必要がある.

 また,実際にやってみると,思わぬ危険やタイムテー ブルの問題点に気付くことも多い.特にタイムテーブル に関しては,遅れが生じることによる焦りが事故につな がりやすいため,シミュレーションを元に堅実な計画を 立てておく必要がある.

 このような準備が,安全な開催と企画に対する参加者 の満足度につながってと考えている.

A2: 公開講座「海岸へ行こう」:海を理解してもらう試み

山本智子・中村啓彦・日高正康・仁科文子・藤枝繁・西 隆一郎・大富 潤・須本祐文・重廣律男・田中史代・ 林 真由美(「海岸へ行こう」実行委員会)

1. 公開講座「海岸へ行こう」について

 私たち「海岸へ行こう」実行委員会は,鹿児島大学水 産学部の教員と学生の有志による団体であり,小学生を 対象とした公開講座「海岸へ行こう」を平成 17 年度か ら毎年開催してきた.この講座は,

・変化に富んだ鹿児島の海岸線を生かし,実際に海岸に 出て観察や実験を行うこと・海洋の物理現象のしくみか ら海岸に棲む生物の生態まで,海の様々な側面について, 体験を通して科学的に理解して貰うことを目標にし,学 生が企画を考案し講師役となることで,子供たちの興味 をひきつけるとともに,大学生自身の訓練の場としても 機能してきた.

 これまでに取り上げたテーマは,

・海流や沿岸流のしくみ

・海水の塩分と浮き沈みの関係

・海水中や大気中に渦ができるしくみ

・船が浮く仕組みと前に進むしくみ

・海を越えて運ばれてくる漂着物の意味

・潮汐のしくみと潮の満ち干に伴う動物の行動

・海の植物を利用した食品について

・干潟の底生動物の観察と採集

・甲殻類の体のしくみ

 など多岐にわたっているが,かならずその分野の専門 教員が監修役となって,学生の企画を助けるようにして いる.また,物理現象と生物現象を扱うテーマを必ず組 にして行うようにしている.

 

2. 海を理解してもらうために何が必要か?

 参加者には毎回アンケートを書いて貰っているが,各 回の企画は概ね好評である.評価の高い企画,要望の高 い企画に分野の偏りはなく,抽象的な説明が必要になる 物理学に関する企画でも,実験や工作という過程を入れ ることで理解と興味を得ることができるようだ.例えば, 海水はなぜ塩辛いのか,なぜ海の中には黒潮のような海 流があるのか,といったことを知りたいという要望は毎 回出される.

 このような物理的現象を取り上げる場合は,現象を観 察する,あるいは身の回りにある現象に注意を喚起する ところからはじめて,そのしくみを説明し,自分達の目 で確認する,工作物や観察・実験結果を残す,というプ ロセスが理解を助けることが分かった.また,この一連

第 22 期 プロ ・ ナトゥーラ ・ ファンド助成成果発表会要旨集(Web 版)(2012.12)

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3.神津島から新島・式根島へ 島の植物仲間づくりと 交流(七島花の会 石橋正行)

4.日本新記録の植物「ニイジマトンボ」について(元 都立新島高校 八木正徳)

現地観察会と植生調査体験:3 月 31 日(参加者 11 人)  

4.神津島における公開シンポジウム・現地観察会  神津島において,現地で自然観察,自然環境の保護・ 保全活動に関心をもった人々を対象に,講演・討論・自 然観察会を行った.以下にその概要を示す.

 平成 24 年 6 月 15 日午後 8 時~ 9 時  「神津島自然誌セミナー」

 神津島開発総合センター (参加者 34 人)

1.神津島植生誌を作ります(筑波大学 上條隆志) 2.エコリージョンとしての伊豆諸島 ‐ 伊豆諸島の植

物と植生の特徴(東京農工大学 星野義延)

3.新島・式根島と神津島の植物交流(元都立新島高校 八木正徳)

植生調査体験:6 月 31 日午後 2 時~(参加者 11 人)

5.伊豆諸島植生研究グループについて

 伊豆諸島の植生,植物の研究に関わってきた研究者・ 自然愛好家・学生OBから構成される.各島の植生に関 する調査研究をするとともに,自然保護の担い手となる 人々と交流して,自然保護活動の連携を深めていくこと を目標としている.平成 23 年については,「三宅島の植 生」と「御蔵島の植生」を発行した(図 1).また,両島 で公開シンポジウムを実施するとともに,三宅島では, 島民対象とした植生観察会と植生調査体験を行った.

A3: 伊豆諸島新島・神津島植生誌編纂

八木正徳・上條隆志・星野義延・川越みなみ・石橋正行(伊豆諸島植生研究グループ)

1.はじめに

 伊豆諸島は,固有あるいは準固有の分類群を多数有す るとともに,火山活動や高標高部の風と雲霧によって, 多様な植物群落が成立している.本活動は,各島の自然 環境の実態を後世に残す基礎資料となる植生誌を,新島 と神津島について,これまで集積されてきた植生調査資 料をもとに編纂することを目的としている.さらに,公 開シンポジウムや観察会を企画して,植生に関する啓蒙 普及活動にも取り組むことを併せて目的とする.

2.新島と神津島の植生誌編纂 

 保有する植生調査資料(新島:292 地点,神津島: 229 地点)を解析に用いた. 植物社会学的方法により, 群落区分を行った結果,新島では 43 群落,神津島では 53 群落が識別された.以上の成果を元にして,「新島の 植生」,「神津島の植生」をそれぞれ作製した(図 1). 主要な群落を以下に示す.

 新島と神津島の両島で確認された主要な群落

 1.リョウブ-オオシマツツジ群落/ 2.スダジイ- オオシマカンスゲ群集/ 3.オオシマザクラ-オオバエ ゴノキ群集/ 4.オオバヤシャブシ-ニオイウツギ群集

/ 5.ラセイタタマアジサイ-ガクアジサイ群集/ 6. シチトウエビヅル-センニンソウ群集/ 7.トベラ-マ サキ群集/ 8.ハチジョウススキ-イソギク群集  新島のみで確認された主要な群落

 1.ヤマグルマ-ユズリハ群集/ 2.ソナレセンブリ

-シマウシノケサ群落

 神津島のみで確認された主要な群落

  1.イズノシマホシクサ群落/ 2.シマタヌキラン

-ハチジョウイタドリ群集

3.新島における公開シンポジウム・現地観察会  新島において,現地で自然観察,自然環境の保護・保 全活動に関心をもった人々を対象に,講演・討論・自然 観察会を行った.以下にその概要を示す.

 平成 24 年 3 月 30 日午後 7 時 30 分~ 9 時  「新島自然誌セミナー 」

 新島村住民センター (参加者 23 人)

1.新島植生誌を作ります(筑波大学 上條隆志) 2.新島の植生の特徴と注目される植物(東京農工大学

星野義延)  図 1 伊豆諸島植生研究グループの発行した植生誌

(8)

1. 背景

 極地である高山帯は,将来の温暖化の影響が最も出や すい生態系の1つだとされている.実際に世界各地で種 組成の変化あるいは動植物の分布標高の上昇等が報告さ れるようになった.日本のように互いに隔離し,ごく限 られた高山帯を生育地とする植物は,逃げ場が無く,そ の存続が危ぶまれている.

 例えば,アポイ岳ではハイマツの面積が広がり希少種 が生育するお花畑が急速に減少した.南アルプスでは高 山帯にまで登ってくるようになった鹿の食害で植生が変 化している.大雪山五色ヶ原ではチシマザサの分布が拡 大しており,融雪時期の早期化に伴う乾燥化が一因だと されている.

 これらの変化は過去の記録があるからこそ検出できる のであり,多くの高山地域では変化の有無を判断する科 学的な調査が不足している.この不足を補える記録は唯 一あり,それは過去に撮影された写真である.写真は調 査記録に代わる客観的な記録となりえ,過去に撮った写 真と最近撮った写真の比較ができれば,植生の変化を検 討することが可能となる.高山帯は昔から登山を楽しむ 人々によって写真が撮られてきた場所である.山岳写真 の多くは絶景とされるポイントで撮影されていること, 写っている山がランドマークになりえることから,昔の 写真でも比較的撮影場所が特定しやすい.つまり同じポ イントから最新写真を撮影することが可能なのだ.  そこで日本山岳会自然保護委員会では,登山家の方 が撮影された過去の山岳写真を収集し,デジタル化し,

データベースを作成した(図 1,http://mountain-photo. org/).昔の記録として活用できるよう,撮影年月日の 分かる写真を掲載している.山岳名や地図上で写真を検 索できるほか,閲覧者が写真を投稿できる機能もある. このデータベースにより植生変化の有無を検討する基盤 を整えたいと考えている.寄せられた写真は約 2000 枚. 北アルプス,南アルプス,中央アルプス,大雪山といっ た山脈に加え,苗場山,飯豊山,八甲田山などの東北の 山々等,全国各地の写真が寄せられた.現在,情報整理 をしながら順次データベースで公開している.

2. 写真の紹介

 収集された写真のうち,中央アルプス駒ヶ岳で撮影さ れた写真を例に紹介する.発表者はこの木曽駒ヶ岳で 2008 年より植生調査を行ってきたが,近年風衝草原の 植被率が増加傾向にあることが見えてきた.この傾向が 短期的なものなのか長期的なものなのかを検討するため に,39 年前に撮影された写真と同じものを撮り直し比 較してみた(写真 1,2).木曽駒ヶ岳は花崗岩からなり, 風化が進むと崩れやすい岩質と言われているが,岩の割 れ目や岩石の積み重なり方などはほぼ同じである.一方, 植被率は増えている傾向が見てとれる.暖かい年が続く ことによって植物の成長が良くなっている可能性が考え られる.写真の比較だけからでは生態学的な因果まで結 論づけることは出来ないが,自然現象の傾向をとらえる 手段として活用できると考えている.

 寄せられた記録の中で最も古かったのは,昭和 28 年

A4: 過去の山岳環境の記録としての写真データベースの作成

下野綾子(日本山岳会自然保護委員会)

図 1 作成した山岳写真データベース

第 22 期 プロ ・ ナトゥーラ ・ ファンド助成成果発表会要旨集(Web 版)(2012.12)

(9)

写真 1 1973 年 8 月 9 日六甲長浜氏撮影 写真 2 2012 年 8 月 19 日下野撮影

写真 3 1953 年 7 月飯島春三氏撮影 写真 4 1984 年 9 月 23 日鈴木万里子氏撮影

7 月に撮影された北アルプス白馬岳登山のビデオである. これは当時には大変珍しくカラービデオで撮影されてお り,アメリカで現像されたという.現在 800 人という日 本最大の収容人数をほこる白馬山荘も当時はまだ簡素な 作りで今の半分もない(写真 3,4).また山の上にある 簡易郵便局としてよく知られている白馬郵便局がすでに あり,昔から山の上から手紙を出すことが楽しまれてい たことがわかる.ビデオの中では,お花畑の中で植物観 察したり,雪渓の上に絵の具でお絵かきしたり,スイカ 割りをしたり,子供たちの楽しそうな様子が写っている. 現在,登山道から外れることは一切許されないし,雪渓 の上でお絵かきなんて発想する人もいないだろう.昔の 方が山の自然と深く関わる豊かな登山をしていたのかも しれない.今回のデータベースは昔の植生を知ることを 目的として始めたが,私達の山との関わりや登山文化な どを知る機会にもなることを実感した.

 今後は山岳雑誌の 1 つと連携し,誌上で過去および現 在の写真を募集する予定である.このデータベースを通 じて登山する人みんながユーザーとして山の記録を共有 し,また写真撮影を通じてみんなで山を観測できたらと 考えている.

(10)

多様な色彩の進化と芸術への浸透~」とした.より多く の方にシンポジウムの存在を知ってもらうために,印 象的なポスターを作成し(図 1),大学,博物館などに 掲示していただいた.また,ウェブサイト,Facebook, Twitter など近年登場した新たな情報発信法も利用した.  本シンポジウムは一般向けであるので,内容をかみ砕 き,また統一感を持たすために,事前に 2 度,講演者で 集まり打ち合わせを行った.各講演者の内容を示すため に,ウェブサイト掲載時の講演要旨を以下に掲載した(文 章が丁寧体だが,ウェブサイト掲載時の状況を示すため, そのままにしてある).

1)色とは何か ~鳥と光が織りなす不思議~ (演者: 森本 元)

 世界は色で溢れています.ではなぜその色があるので しょうか.この問いには,二つの切り口があります.ひ とつは,「なんのために鮮やかなのか」という視点です. これは,鳥がその色を獲得した理由を説明しようという アプローチです.例えば,雄が繁殖において雌にモテる 1.目的

 現在,世界的に鳥類の減少が懸念されている.分布が 限られていて個体数が少ない種の減少はもとより,普通 種の減少も大きな問題となっている.これまで我々は鳥 の研究者として,学会単位で,こういった現状を伝えて いく普及活動および保全活動を行ってきた.

 そのような活動に対し,もともと自然保護に興味があ る方は情報を受け取ってくれる.しかし,そうでない方々 にはなかなか伝わらない.一般の方,とくに若い世代の 興味を惹くには,保全を全面に押し出したものとは別の 入り口を提供する必要があるということだろう.  それには,自然の美しさやすばらしさを,驚きをもっ て伝えるのが効果的である.そこから,現在,地球上に いる多様な生物が長い時間かけて進化してきた価値ある ものであり,失われれば取り返しがつかないこと,そし て多様な生物を維持するためには生態系の保全が重要で あることを感じてもらえるものと期待できる.

 そこで,我々は,鳥の話題の中でも一般の方の興味を 惹け,鳥の美しさの象徴でもある「色」に注目して,一 般市民向けのシンポジウムを企画することにした.鳥の 色には,目を見張るものがある.羽の色もあれば,皮膚, さらには嘴の色もある.発色方法にも,色素によるもの, 構造によるものがあり,人の目には見えない紫外光を反 射するものなど多様さに満ちている.なぜそのように多 彩な色があるのか,そして鳥たちが他個体の色をどのよ うに見ているかなどたくさんの話題がある.

 シンポでは,こういった鳥の色がどのように進化して きたのか,という科学的な側面と,こうした羽の色が, 絵画はもちろん,衣装,道具など,世界のさまざまな文 化に影響を与えていることを紹介し,文化面から生物多 様性を守る意義についても考えてもらうことを目的とし た.

2.活動内容

 講演者には,鳥の色に関する研究を行っている,立教 大学のポスドクである森本元氏と田中啓太氏にお願いし た.さらに,芸術方面については,鳥の研究者であり, 芸術についても詳しい立教大学の大学院生である高橋雅 雄氏と,アートを一般の方に分かりやすく面白く解説す ることを生業としているとに~氏に依頼した.

 シンポジウムのタイトルは「色・鳥どり ~鳥たちの

A5: 鳥の色から生物多様性の価値を提示する一般市民向けシンポの開催

三上 修(日本鳥学会企画委員会)

図 1 宣伝に用いたポスター

第 22 期 プロ ・ ナトゥーラ ・ ファンド助成成果発表会要旨集(Web 版)(2012.12)

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ました.その結果,実際に他の動物が見ている色を “ 見る ” ことはできないものの,他の動物が見ている色を “ 想像 する ” ことはできるようになってきました.中でも近年, 鳥が見ている色に関する研究は非常に盛んに行われてい ます.そこで,そのような研究を紹介し,鳥がどのよう に色を見ているのか,そして鳥や,わたしたち人間も含 めたさまざまな動物がなぜ色を見る能力を身に着けたの か,その進化の謎に迫ってみましょう.

3)日本で人気な鳥・世界で人気な鳥 - 古今東西,画家 に人気な鳥ランキング - (演者:高橋雅雄,とに~)  我々が想像する以上に,多種多様な姿をしている鳥た ち.もちろん,そんな鳥たちの多様性は,自然界で観察 ために目立つ姿に進化したという説明などがこれにあた

ります.もう一つ異なるアプローチは「どのようにその 色ができあがっているのか」という視点です.鳥達の羽 に代表される多様な “ 色 ”.羽や皮膚だけでなく,巣や 道具など,鳥達に関わるあらゆるモノは必ず色があり, 実は,複数の異なる仕組みが潜んでいます.今回は,鳥 を取り巻くさまざまな色の仕組みをご紹介します. 2)鳥が見ている “ 異次元 ” の色の世界:眼・色・こころ の進化 (演者:田中 啓太)

 わたしたち人間は色を見ることができます.では他の 生き物はどうなのでしょうか.この問いは古くから科学 者の関心を引きつけ,実にさまざまな研究が行われてき

図 2 参加者へのアンケート結果

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は出来ますが,実は美術の世界においても,観察するこ とが出来ます.というのも,古今東西,実に多くの芸 術家たちが,すでに鳥の多様性に着目しており,鳥を題 材とした数々の名作を世に生み出しているのです.そこ で,今回の講演では,水墨画,大和絵,浮世絵,近代の 洋画,日本画,そして最新の現代アートまで,あらゆる ジャンルの美術を検証した末に見えてきた “ 鳥たちの多 様性 ” その深い世界と魅力をご紹介いたします.前半の テーマは,「芸術家にもっとも人気のある鳥は何か?」. 題材とされている美術作品の多さや,芸術家たちの愛情 度など,独自の項目から導き出した “ 芸術家に人気の鳥 ベスト 10” をランキング形式で発表いたします.果たし て,映えある一位の栄冠は,どの鳥の頭に? 後半は,

「芸術家たちは,どうやって鳥を描いたのか?」がテーマ. 多種多様な鳥の姿を表現するために,いかに画家が創意 工夫を凝らし努力してきたか,さまざまなエピソードを 交えつつご紹介いたします.

3.成果・検討

 シンポジウムを,2012 年 8 月 25 日,東京大学農学 部 弥生講堂一条ホールで行った.13 時開場,13 時 30 分開演,16 時 30 分まで行った.途中適宜休憩を入れな がら前述した 4 人の講演者により発表が行われ,最後の 40 分間でパネルディスディスカッションを行った.パ ネルディスディスカッションでは,会場からも終始質問 があり,活発な議論が行われた.

 シンポジウムには,202 名の参加が得られた.会場が 最大 300 名であったので,適切な人数であったと考えて いる.ただ,もう少し参加人数が多ければという思いは あった.当日は,夏休みの最後の週末ということもあり, 自然科学関連の催し物が多く行われていたので,その影 響もあるのかもしれない.

 参加者にアンケートを取った結果を図 2 にまとめた. 参加者は幅広い年齢の方が多く,若い人の比率も高かっ た.この点は,本シンポジウムの趣旨として好ましい 点であった.また,若い人が多いためが,「当シンポジ ウムをどちらで知りましたか?」という質問に対し, Facebook,Twitter,メーリングリストといった,近年 登場した情報伝達手段が多かった.今後,こういったシ ンポジウムを開く際に,若い人の興味を喚起するために は重要な点だと思われる.また芸術に興味のある方の参 加も多かった.普段,生物多様性に興味のない方も引き 込むには,異分野と組み合わせることが効果的のようで ある.

 本シンポジウムの内容を,より広くの方に知ってもら

うために,当日の発表内容を簡単にまとめたものをウェ ブサイトに掲載して誰でも閲覧できるようにした.今回 は,実行していないが,シンポジウムの様子を撮影して, 動画サイトなどに掲載することも必要かもしれない.た だし,その場合,演者はもちろん,当日の参加者にも許 可を得ねばならず,またプレゼンテーションファイルに 用いた写真の著作権などもあることから,事前の準備が 必要である.

 最後に,現実的な話だが,シンポジウム開催にはどう しても経費がかかる.今回は,自然保護助成基金より, 助成を受けたが,いつもそのような資金を提供いただけ るとは限らない.そこで,どれくらいの参加費をとった 場合に,自分たちの資金だけで実行可能を検討するため に,アンケートに,「会場費,講演者の交通費などのた めに有料にした場合,いくらくらいまでなら参加します か?」という項目を設定した.その結果,500 円であれ ば多くの参加者が見込めることが分かった(図 2 の Q8 の結果).500 円で今回と同様の 202 名が集まった場合, 約 10 万円であり,会場費は賄えるとしても,宣伝費, 演者の交通費や謝金には手が届かない.今回のようなシ ンポジウム以外にも,一般の方に生物多様性の意義を伝 える方法はある.たとえば,書籍,ウェブサイトでの掲載, さらには,もっと小規模の人数で行うサイエンスカフェ も近年は増えている.今後は,これらを組み合わせるこ とで,情報発信していきたいと考えている.

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1. はじめに

 ナルトサワギク Senecio madagascariensis は南アフ リカ原産の

外来植物で,1976 年に徳島県鳴門市で発見されて以来, 今日では四国,関西方面を中心に開けた場所などに侵出 し,急速に繁殖している(写真 1).牛などの家畜に中毒 被害があり,強い繁殖力やアレロパシーのため在来の植 物に悪影響を及ぼすということで,2006 年環境省によ り特定外来生物に指定された.

 千葉県では 2007 年に館山市で初めて発見され,その 後,南房総市,鴨川市などで 2011 年 10 月までに 24 ヶ 所で発見された(図 1).特に館山市大井の残土処分場と 南房総市沓見の水田埋立地では生育数が極めて多く,数 10 万本と推定された.ナルトサワギクは海岸や河川敷 に侵出した場合は大きな群落をなし,在来の植物を被圧 するとされる.

 千葉県南部の海岸は南房総国定公園に指定され,千葉 県が北限の貴重な海岸植物も多く自生しているので,ナ ルトサワギクの海岸侵出阻止を当面の目標とし,最終目 標は発生地での完全駆除を目的とした. なお,安房 生物愛好会はナルトサワギクの駆除ができる団体として 2011 年 6 月から 5 年間,環境省より認定を受けたので 単独で駆除できるようになった.

2. 活動内容および成果

 活動助成の期間中は真夏を除き原則として毎週土曜日 の午前中を活動日と決めて,各種の活動を展開した.  活動内容は以下の 6 項目に分けられる.

1)防草シート設置による駆除

 市販の塩化ビニル製の防草シートを発生している場所 に設置し,生育している個体を枯らすことと発芽を抑制 する方法であり,土壌の組成や地形等により,300 m2 の面積で実施し,およそ 6 ヶ月後にシートを撤去した. 設置した箇所では当初生えていたすべての個体は枯死 し,発芽伸長した個体も確認できなかった.

2)刈り払いによる駆除

 平坦で広い場所である南房総市沓見の埋立地で実施 し,1 ヶ月に 1,2 回,刈り払い機を使用して,生育し ている株を地ぎわから刈り取る方法で実施した.多くの 個体は 6 ヶ月以内で枯死したが,新規発生があったので, 継続して実施した.刈り払いではナルトサワギクの茎が

A6: 千葉県南部に侵入した特定外来生物ナルトサワギクの海岸侵出阻止と駆除

小林洋生(安房生物愛好会環境部会)

写真 1 ナルトサワギクの花

図 1 発生位置

写真 2 館山市大井の抜き取り作業

第 22 期 プロ ・ ナトゥーラ ・ ファンド助成成果発表会要旨集(Web 版)(2012.12)

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サは 2011 年 11 月と 2012 年 5 月に南房総市沓見の埋 立地に播種した.ギョウギシバは 2012 年 5 月に,防草 シートを撤去した跡の館山市大井残土処分場斜面と裸地 になっている部分に播種した.なお,ギョウギシバは播 種の直後に種子定着用の糊を溶いた水溶液を散布した.  シロツメクサとギョウギシバは播種後の生育期間が短 いため,2012 年 9 月には密生状態まで生育しておらず, 期間中の抑制効果は特に認められなかった. 

5)発生地およびその周辺のパトロール

 大発生地の 2 ヶ所以外は発生状況により 1 ~ 3 ヶ月に 1 回のパトロールを実施し,10 ヶ所で駆除が完了し,5 ヶ 所でほぼ駆除完了の状態になった.しかし,周辺パトロー ルにより新たな発生地が 3 ヶ所見つかり,引き続きパト ロールを継続している.

6)有効な駆除の方法を見出すための調査

 現状の把握と今後の駆除に役立つために,1) シロツメ クサなどの植物の抑制効果調査,2)防草シートの効果 調査,3)刈り払い効果調査,4)抜き取り効果調査を 実施した.1)パッチ状に生育したシロツメクサはナル トサワギクの抑制効果が極めて大きいことが判明した. 刈り払い効果調査および抜き取り効果調査においても 2012 年の初夏以降は調査区内においては再生長や新た な発芽は確認できなかった.

3. 今後の展望と課題

 安房生物愛好会では本助成を受ける 1 年前の 2010 年 秋からナルトサワギクの駆除活動に係ってきたが,2011 年 10 月から取り組んだこの活動は助成期間の 1 年間で, 多くの場所で駆除に成功し,また,大量発生地において も発見当初の状態より生育密度を極めて低く抑えこむこ とに成功し,当面の目的である海岸への侵出を阻止でき ている.

 2 ヶ所の大量発生地以外では,今後の定期的なパトロー ルの実施により,土砂採掘中の1ヶ所を除き他のすべて は1年以内で完全駆除が可能な状況になった.2 ヶ所の 大量発生地においても定期的な駆除作業を継続するとと もに,既存の被圧植物の繁茂や播種した 2 種の牧草によ り今後の抑制効果が期待できると思われるので,近い将 来には完全駆除が可能と考えている.

 しかしながら,わずかな生き残りがあっても,半年後 にはその 10 倍以上の発生が予想されるので,完全駆除 のためには一定期間に定期的で綿密なパトロールが必要 である.

地表より長く残るほど側枝の伸長が見られたので,でき るだけ地表すれすれに刈り払いをおこなったが,礫の混 入や不整生な場所もあったので,側枝の再発芽があった 個体も相当数見られた.しかし,このような個体も数回 の刈り払いの実施で枯死させることができた.

3)人力の抜き取りによる駆除

 安房生物愛好会により,2010 年の秋から 2011 年春 までにボランティアや関係者らによる駆除大会が 4 回実 施され,参加者の合計は 420 人に達し,駆除量の合計は 10 t を越え,大きな個体が相当数駆除された.

 2011 年 10 月,活動助成を受けてから館山市大井の 残土処分場と南房総市沓見の埋立地の 2 ヶ所をメインと して抜き取り駆除を実施してきた(写真 2).この場所は 防草シートの設置が困難な場所が多く,また,急斜面な どで刈り払い作業も困難な場所であり,抜き取り作業が 主となった.2011 年 10 月から 12 月までの 3 ヶ月で大 井残土処分場では参加者 105 人,駆除量は約 1,080 kg, 同様に沓見埋立地では参加者 66 人,駆除量約 160 kg で あったが,2012 年 7 月から 9 月の3ヶ月では大井残土 処分場,参加者 51 人,駆除量約 47 kg,沓見埋立地は 参加者 23 人,駆除量 20 kg であった.

 このように活動開始時から比べると 2012 年秋には急 激に駆除量が減少した.活動後半は抜き取り作業により 大きな個体が減少し,特に 7 ~ 9 月の期間は参加者の減 少はあったが,個体数も極めて少なくなったため,駆除 量が減少したものであり,現時点では生育密度は極めて 低くなっている.

4)牧草などの播種・育成により被圧駆除

 すぐ近くにナルトサワギクが多発していても,セイ タカアワダチソウ,ヨモギ,クズ,チガヤ,ギョウギ シバ,シロツメクサなどが密生している場所では,ナ ルトサワギクの生育がゼロあるいは極めて少ない傾向が 確認された.他の植物の被圧により発芽・生育が抑制さ れたものと推測されたので,牧草を播種し育成してナル トサワギクの発芽阻止と生育場所を減少することを試み た.種の選定は千葉県立中央博物館および種苗会社の専 門家と協議し,また,地権者の意向を尊重してクズ,ヨ モギは除外し,シロツメクサとギョウギシバの 2 種を選 定した.シロツメクサとギョウギシバはともに外来植物 であるため,導入にあたっては千葉県立中央博物館,千 葉県生物多様性センターとも慎重な議論を行った.その 結果,これら 2 種に代わる好適な在来種が無い点と,シ ロツメクサ,ギョウギシバともに,既に館山市内に広く 分布しており,ナルトサワギクに比べ生態系への影響が 格段に少ない点から選ばれることとなった.シロツメク

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1. 活動の目的

 近年の海洋環境の悪化によって,海産魚類の種数や個 体数は大幅に減少し,日本沿岸の海産魚類相は著しく変 化していると考えられている. しかしながら,基礎的な データを得るモニタリング活動は少なく,十分な情報が 無い現状にある. 伊豆の魚を考える会のメンバーらは 1973-1974 年に行われた魚類調査を比較の対象として, これと同様の採集調査を実施した結果,魚種の変化や個 体数の減少等を定量的に捉えており,また相模湾の初記 録種や希少種の生息情報も得ている. 本活動は,伊豆 半島の南東端に位置する下田市の沿岸域に生息する魚類 が,約 40 年前と比べていかに変化したかを明らかにし た調査結果を,社会一般に広く公開し,今後の保全活動 や啓蒙教育活動に利用されやすい冊子の作成を行うこと を目的として行った.

2. 活動内容および成果・検討 1) 標本作製・写真撮影

 調査で得た魚類の標本の作成・写真撮影を,神奈川県 立生命の星・地球博物館において継続した. 各種の標本 および写真資料は,科学的再検証に耐えうる証拠として 同博物館の魚類標本資料および魚類写真資料データベー スに登録し,今後も本成果が長く活用される体制をとっ た.

2) 冊子の作成

 上記で作成した標本写真および研究成果の一部を利用 して,冊子「私たちの海と魚―伊豆下田・大浦湾の変化

―」(A5 版,カラー,68p.,計 250 部)を作成した (図 1). 本冊子は,地域の住民である大人から子供まで幅広 い世代にとって親しみやすく,魚の図鑑としても幅広く 活用されつづけることを念頭に置いて作成した. 3) 講演会の開催

 作成した冊子に掲載した調査の結果および相模湾全体 から見た本湾の特徴等について,地域住民らにより一層 理解してもらうことを目的として,講演会「伊豆のさか な―相模湾のさかなの話と伊豆下田のさかなの変化の話

―」(9 月 30 日, 道の駅開国下田みなと)を行った. 講 演会は下田市の自然体験活動推進協議会および下田市教 育委員会の協力のもと下田市内を中心に案内のチラシを 作成・配布等し(図 2),会のメンバーによる 2 つの内 容の講演を行った. 講演会はあいにくの台風であったが 約 50 名(うち小人 3 名)が来場し,質疑応答も活発に 行われて盛況であった(写真 1). 講演会後,静岡新聞, 伊豆新聞に掲載され研究成果を広報できた. 研究の成 果である大浦湾の魚類の生息数が約 40 年前と比べて大 幅に減少し,魚類多様性は消失していること等を地域の 方々に理解していただけるよい機会になった.

A7: 伊豆半島南東端の浅海魚類相の変移に関する調査報告書の作成

竹内直子(伊豆の魚を考える会)

第 22 期 プロ ・ ナトゥーラ ・ ファンド助成成果発表会要旨集(Web 版)(2012.12)

写真 1 講演会「伊豆のさかな」の会場の様子

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図 1 作成した冊子

図 2 講演会の案内チラシ 4) その他の活動

 上記以外の活動として,ボランティア団体である伊豆 海洋自然塾で現在行っている「ジュニア養成講座 ( 対象: 小学 1?6 年生 )」の一講座として,「伊豆の魚と環境の話」

(10 月 21 日,下田市中央公民館)の講座を行った. こ の際に冊子を配布して研究成果について発表を行い,同 時に,石鹸作り等の体験講座も行った. 冊子は地域の図 書館,漁協,大学などの各機関に配布した.

3. 今後

 本会では,今後もこの冊子を配布しながら研究成果を 広報し,より多くの人々に自分たちの目の前にある海で 起こった環境破壊に関心をもち,日々の生活からできる 自然の回復や保全に向けた行動を考える機会を与えられ るよう,講座等を通じて取り組む予定である.

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R1: 周伊勢湾地域に生育する湿地性絶滅危惧植物の景観遺伝学

佐伯いく代・小池文人・北沢あさ子・山口雪子(里山湿地研究グループ)

1. 研究の背景と目的

 東海地方とその周辺域には,ほかの地域では見られな い植物が多く生育することが知られている.そのことは 古くから報告されていたが,井波(1966)は,東海地 方の伊勢湾周辺に特産する植物を「周伊勢湾要素」と定 義して,この固有種群の存在を一般に広く知らしめた. これらのうち,東海地方に特異的に分布する湧水湿地に 固有,もしくは分布の中心がある植物群を「東海丘陵要 素」とよぶ(植田,1989).東海丘陵要素にはミカワバ イケイソウ(Veratrum stamineum var. micranthum)(写 真1),ヘビノボラズ(Berberis sieboldii),シラタマホ シクサ(Eriocaulon nudicuspe)など 15 種の湿地性植物 が含まれている.しかし,近年の開発によって生育地の 多くが消失し,東海丘陵要素のほとんどは,絶滅の危機 に瀕している(環境省,2012).

 東海丘陵要素の生育地である湧水湿地は,伊勢湾を取 り囲む丘陵地帯に分布する.湿地の水は湧水によって涵 養され,ごく貧栄養であり,泥炭の堆積はみられない. これは,尾瀬などの高層湿原や,釧路湿原にみられる 低層湿原とは根本的に異なる特徴である(植田,1994, 2002).東海地方周辺には,土岐砂礫層に代表される特 殊な砂礫層が堆積している.それが地表近くに豊富な地 下水脈をつくり,数百万年という長い期間,湧水湿地が 形成され続けてきた.そのことが多くの固有種をよびこ み,東海丘陵要素のような,特異なフロラの形成をもた らしたのである.

 しかし近年,大都市圏名古屋とその周辺域で大規模 な開発が進行し,湿地の多くが消失している(植田,

1994;はなのき友の会,2003).一つ一つの湿地は極め て小さなものが多く,わずか数十~数百メートルという スケールで点在する.そのため,これらの湿地が法的措 置をともなう保護施策の対象とされるケースは限られて きた.地域を代表するような固有種・希少種の宝庫であ るにもかかわらず,ごくありふれた自然としてひそやか に存在し,現在大変な危機に直面しているのが,東海地 方の湧水湿地群である.

 本研究では,これらの湧水湿地に生育する希少植物に 対して, (1) 葉緑体 DNA の変異にもとづく遺伝的多様性 の空間パターンを明らかにし,(2) 湿地の周囲の景観構 造との関係を解析することを目的とする.これにより, 各湿地の土地所有者,管理者,ならびに保全関係者に新 たな知見を提供し,遺伝的多様性を守るための保全単位 や保護区の提案,および環境教育活動の展開に結びつけ ることをねらいとする.

2. 材料と方法

 静岡県,長野県,岐阜県,愛知県,三重県に分布する 約 60 箇所の湧水湿地(図1)において,11 の湿地性 希少植物(ミカワバイケイソウ,ヘビノボラズ,ミズギ ボウシ(Hosta longissima),シラタマホシクサ,ミカワ シ オ ガ マ(Pedicularis resupinata subsp. oppositifolia var. microphylla), カ ザ グ ル マ(Clematis patens), ミ ミ カ キ グ サ(Utricularia biida), ホ ザ キ ノ ミ ミ カ キ グ サ(Utricularia racemosa), ム ラ サ キ ミ ミ カ キ グ サ(Utricularia yakusimensis), サ ギ ソ ウ(Habenaria radiata),ヤクシマヒメアリドオシラン(Vexillabium

yakushimense))を採集した.サンプル数は,1 種につ

き 26~146 個体とし,葉緑体 DNA の遺伝子間領域(約 300~2000 bp)をダイレクトシーケンス法にて解析した.

3. 結果と考察

1) 遺伝的変異の地理的パターンの比較

 解析を行った 11 種のすべてから,塩基置換,挿入欠失, または一塩基の繰り返しの長さの違いにもとづく変異が 検出された.比較的多くのハプロタイプが検出されたの はシラタマホシクサ(19),ミズギボウシ(14),およ びミカワバイケイソウ(12)であった.一方,ハプロタ イプの数が少なかったものはサギソウ(4),カザグルマ

(3),およびミカワシオガマ(3)であった.研究対象と 写真1 ミカワバイケイソウ(東海丘陵要素:長野県阿智村)

第 22 期 プロ ・ ナトゥーラ ・ ファンド助成成果発表会要旨集(Web 版)(2012.12)

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した植物群は全て,国または地方自治体のレッドリスト に記載されている希少植物である.それらの中に,比較 的高いハプロタイプの多様性を持つ種があったことは特 筆に値する.

 研究対象種の中には,分布域が限られているにもかか わらず,高いハプロタイプ多様度をもつ種がみられた. 伊勢湾周辺地域には,第三紀の終わり頃から,少なくと も 200 万年を超える期間,湿地群が存在していたと考え られている(植田,1994).第四紀は氷期と間氷期が繰 り返される気候変動の激しい時代だったが,湿地群がレ フュージア(生物の避難場所)として機能し,東海丘陵 要素に代表されるさまざまな植物が遺存的に生育し続け ることができた.葉緑体 DNA の多様性の高さは,これ らの植物が,極端な個体数の減少や分布の移動を強いら れることなく,湿地をよりどころにして,この地域に長 い期間,生育し続けてきたことを示唆している.  変異が検出された種は,ハプロタイプの分布に地理的 まとまりがみられ,いくつかの種では共通のパターンが 示された.三重県北部と愛知県渥美半島の間では,伊勢 湾による隔離にも関わらず,ミカワバイケイソウ,ヘビ ノボラズ,ミズギボウシ,ホザキノミミカキグサ,ムラ サキミミカキグサ,サギソウの 6 種において共通のハプ ロタイプが出現した.また,恵那山脈で隔てられている 長野県南部と岐阜県東濃地域間でも,当該地域でサンプ ルを採集できた全ての種において共通のハプロタイプが 分布していた.以上から,周伊勢湾地域の湿地性希少植 物の中には,葉緑体 DNA の変異において共通の地理的 パターンを持つものがあり,そのパターンは必ずしも現 在みられる地形的障壁と相関があるものではないことが 明らかにされた.

2) 希少なハプロタイプのホットスポット

 ヤクシマヒメアリドオシランおよびミカワシオガマを のぞいた 9 種について,採集地点ごとにレアハプロタイ プの分布確率を算出した.その結果,レアハプロタイプ の分布確率の高い地域は,種ごとに異なる傾向がみられ た.ミカワバイケイソウ,サギソウなどは,愛知県北部 から岐阜県東濃地方にかけて,レアハプロタイプが集中 して出現する傾向がみられた.一方,ヘビノボラズ,ミ ズギボウシ,カザグルマなどは,渥美半島付近での出現 確率が高かった.シラタマホシクサ,ホザキノミミカキ グサ,およびムラサキミミカキグサは三重県の個体群に おいてレアハプロタイプの出現確率が高かった.

4. 保全に向けて

 COP10 が開催された東海地域ではあるが,湧水湿地 の保全に対する市民の関心はまだまだ低いのが現状であ る.また,里山景観の中に今でも湿地が存在する長野県 飯田市や岐阜県中津川市などは,リニア中央新幹線建設 の最有力ルートとなっており,湿地の保護の重要性を緊 急にアピールしなければならない.しかし,本研究のサ ンプル採集地の一つである矢並湿地(愛知県豊田市)が, 2012 年にラムサール湿地に登録されるなど,地域の保 護活動が実を結ぶ事例も増えてきている.著者らは,世 界でもたぐいまれな生態系が分布するこの地域の自然史 について,もっと多くの人に知ってもらい,ひいては生 物多様性や生態系をいつくしむ社会の形成につながって ほしいと願っている.湧水湿地は,希少植物が多く分布 しているというだけでなく,それらが数百万年という歴 史を背負ってそこに存在することが特色である.これら 湿地植物の遺伝的多様性を明らかにすることにより,生 物多様性は長いときを経て生み出されたかけがえのない ものという概念を伝えていくとともに,遺伝子レベルの 情報もふくめた様々な成果を保護関係者に提供すること で,湿地の保護に寄与していきたいと考える.

文献

井波一雄(1966)岐阜県の植物地理概説.岐阜県の植物刊行会編. 岐阜県の植物. p.25-84. 大衆書房.

植田邦彦(1989)東海丘陵要素の植物地理.I.定義. Acta Phytotaxonomica Geobotanica,40,190-202.

植田邦彦(1994)東海丘陵要素の起源と進化.岡田 博・植田邦彦・ 角野康郎編「植物の自然史」 p.3-18.北海道大学図書刊行会. 植田邦彦(2002)東海丘陵要素の起源と進化.広木昭三編「里山

の生態学」p.42-57.名古屋大学出版会.

環境省(2012)第4次レッドリストの公表について.

http://www.env.go.jp/press/press.hp?serial=15619 (2012 年 9 月 25 日閲覧)

はなのき友の会(2003)ハナノキの保全. はなのき友の会. 図1 サンプルの採集地

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R2: 有明海再生への第一歩 ―諫早湾常時開門直前の無機環境と底生動物群集の解析

佐藤慎一(諫早湾保全生態学研究グループ)

1. はじめに

 諫早湾干拓事業では,1997 年の潮止めにより 3,550 ha の広大な干潟・浅海域が一度に失われ,それに伴い 有明海全域の生態系の変化と漁業不振が顕在化してき た.そして,2010 年 12 月の福岡高裁の控訴審判決と 国の上告断念によって潮受け堤防の開門が法的義務とな り,2013 年 12 月までに 5 年間の常時開門を開始する ことが決定した.本研究グループは,潮止めから現在ま で 15 年間にわたって毎年欠かさず有明海奥部海域にお いて水質・底質・底生動物群集のモニタリング調査を 継続してきた.本年度は,これらの調査成果を受けて, 2012 年 6 月に潮受け堤防内側の調整池および堤防外の 諫早湾を含む有明海奥部海域において採水・採泥調査を 実施し,常時開門直前の無機環境と底生動物群集の解析 を行った.

2. 調査方法

 本研究グループは,助成期間中の 2012 年 6 月 10 日

~ 12 日に,諫早湾干拓調整池内 16 定点と堤防外側海域 48 定点において採泥・採水調査を実施した(図 1).こ れらの調査は,調整池では堤防閉め切り直前(1997 年 3 月)と,閉め切り後 20 回(1997 年 5 月~ 2011 年 6 月),そして堤防外側海域では 1997 年 6 月から現在ま でに 19 回(1997 年 6 月~ 2011 年 6 月)実施しており, 過去のデータと比較することで潮止め後の有明海奥部海 域における水質・底質・底生動物群集の経年変化を明ら かにする.

 各定点の位置は GPS で決定し,調整池では Ekman- Birge 採 泥 器 を 用 い て 3 ~ 4 回, 堤 防 外 側 海 域 で は Smith-McIntyre 採泥器を用いて各定点で1回の採泥を 行った(写真 1,2).得られた底質試料から粒度分析用 に一部を取り除き,1 mm の篩にかけて残ったすべての

0 2 km

32° 50' N

130° 10' E

0 2 km

130°E 33°N

0 5km

A B

C

C B

32°30'N







130°30'E























 



 

















図1 有明海・諫早湾干拓地周辺海域における採泥調査定点

第 22 期 プロ ・ ナトゥーラ ・ ファンド助成成果発表会要旨集(Web 版)(2012.12)

図 1 作成した冊子 図 2 講演会の案内チラシ4) その他の活動 上記以外の活動として,ボランティア団体である伊豆海洋自然塾で現在行っている「ジュニア養成講座 ( 対象:小学 1?6 年生 )」の一講座として,「伊豆の魚と環境の話」(10 月 21 日,下田市中央公民館)の講座を行った. この際に冊子を配布して研究成果について発表を行い,同時に,石鹸作り等の体験講座も行った. 冊子は地域の図書館,漁協,大学などの各機関に配布した. 3. 今後  本会では,今後もこの冊子を配布しながら研究成果を広報し,より

参照

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