数学B (ゲーム理論) Quiz 3正解例 香川大学 共通科目2009年度 前期 担当:三原麗珠
今回の合計点は8点.受験者は21名だった.
問題1 [2点]. 以下の利得表で表される戦略形ゲームが与 えられている.
Player 2
L R
Player 1 U 1, 4 2, 3 D 3, 2 4, 1
Player 2の戦略Lは戦略Rを支配する.なぜなら以下
の不等式が両方ともなりたつからである(U , D, L, Rの いずれかを各項に入れて利得関数の中身を完成せよ):
正解.
• u2(U, L) > u2(U, R)
• u2(D, L) > u2(D, R)
きちんと定義と対応させながら説明する.Player 2の 戦略s2が戦略s′2を支配するとは,
u2(s2, s−2) > u2(s′2, s−2) for all s−2∈ S−2
ということである.ここでプレーヤーが1, 2しかいない ことからs−2= s1かつS−2= S1と書け,u2の中身の戦
略をプレーヤーの名前の順番に並べ直すと, u2(s1, s2) > u2(s1, s′2) for all s1∈ S1
と言い換えられる.いまs2= L, s′2= Rと置くと,戦略 Lが戦略Rを支配するとは,
u2(s1, L) > u2(s1, R) for all s1∈ S1
ということになる.ここで Player 1 の戦略集合S1 =
{U, D}なので,最後の式のs1 に順次U, Dを代入すれ
ば正解が得られる.最初の式はUの行に対応し,次の式 はDの行に対応する.
講評. 1人を除いて全員出来ていた.おそらく定義を経由 せずに表の上で考えたのだろう.この問題に答えるだけな らそれでも問題ないが,概念をきちんと理解したと言える にはそれだけでは不十分.この問題に解答することをを通 じて「siがs′iを支配する」ことの定義の理解を深めて欲 しい.
問題2 [2点;部分点なし].
戦略形ゲーム (S1, S2, S3; u1, u2, u3) が与えられている. 戦略プロファイル(s1, s2, s3)がナッシュ均衡であるとは, 以下の不等式がすべて満たされることである(各不等式の 右辺を完成させよ):
正解.
• u1(s1, s2, s3) ≥ u1(t1, s2, s3) for all t1∈ S1;
• u2(s1, s2, s3) ≥ u2(s1, t2, s3) for all t2∈ S2;
• u3(s1, s2, s3) ≥ u3(s1, s2, t3) for all t3∈ S3. 1番目の式はs1が(s2, s3)にたいする最適反応であるこ とを,2番目の式はs2が(s1, s3)にたいする最適反応であ ることを,3番目の式はs3が(s1, s2)にたいする最適反応
であることを言っている.たとえば1番目の式で(s2, s3)が 両辺に共通であることに注意.この式は,Players 2, 3の戦 略をこれらに固定した上でPlayer 1の戦略t1∈ S1をいろ
いろ変化させたとき,t1= s1となった時点でu1(t1, s2, s3)
の値が最大になることを言っている. 講評. 零点が17名,2点が4名だった.
プレーヤーの数が2人から3人になったというちがいは あるものの,これもQuiz 2に続くナッシュ均衡の定義問 題なので,そのときよりも悪い結果になったのは残念. こういう重要な定義は,不等式左辺のようなヒントがまっ たくなくてもすらすら書けるようでありたい.
誤答としてはtiのかわりに問題中に現れない変数s′iあ るいはs∗iを答えたものが若干あった(i = 1, 2, 3).単純ミ スか分かっていないのか判別しにくいが,はっきりti∈ Si
と問題文に3箇所もあるので,分かっていない可能性の方 が高い.
その他,s1(s1, s2, s3), t1(s′1, s′2, s′3), t1(t1, t2, t3)のよ うな意味不明のものもあった.s1やt1はS1の要素,つ
まりPlayer 1の戦略だが,それが戦略プロファイルをイ
ンプットとする関数とみなされているわけだ.おそらく利 得関数と混同したのだろう.問題文のどこにもs1やt1が
利得関数と見なされそうな記述はないのでどうしてそうい うふうに混同したのかは謎だ.
Quiz 2の問題2にたいする講評も参考に.
問題3 [1点]. [長文略]
(電話番号を変えて昔の恋人との連絡を絶つことにより 理沙さんの歓心を引こうとする)良くんの行動を表すもっ とも適切な用語を以下から選べ(正しい選択肢のラベルに 丸をせよ).
a. 弱虫ゲーム(チキンゲーム) b. コミットメント
c. 囚人のジレンマ d. 男女の闘い e. 桶狭間の戦い
正解. bのコミットメントがもっとも適切.シラバスで参考 文献に挙げた梶井(2002)『戦略的思考の技術』の96–97 頁に登場する例を参考にした.
(おまけ.講義開始時に洗濯機を買うかどうかの意思決 定問題について少し話した.洗濯機の値段,引越の予定, コインランドリーの場所や値段,コインランドリーで時間 をつぶすのが好きか,などが利得に関連する.しかしこの 問題の冒頭に挙げたような「友人に借りる」といった意外 な選択肢もある.利得の特定のためにいろいろ情報を集め るのもいいが,ときにはまったくちがう選択肢を思いつく ことで問題が解決することもある.)
講評. aと答えたひとが4人,正解bが14人, cが1 人,dが2人だった.eの「桶狭間の戦い」を答えたひ とはいなかったが,これは問題2にあった一部の解答ほど ナンセンスではないと思う.
問題4 [3点].「時間差じゃんけん」では先手がグー,チョ キ,パーのいずれかの「選択肢」を出し,それを見た後手 がグー,チョキ,パーのいずれかの「選択肢」を出すとす る.「時間差じゃんけん」における先手の「戦略」はグー, チョキ,パーの3個である.それでは,後手の「戦略」は 何個あるか?(ヒント.この展開形ゲームを戦略形に直し たときの列の数が後手の戦略数である.)
正解. 27個.
「時間差じゃんけん」のゲームツリーは渡辺85頁にあ る.後手の意思決定点は3つあって,上から順番に,先手
が
1. g (グー)を出した場合, 2. c (チョキ)を出した場合, 3. p (パー)を出した場合
に対応している.後手の「戦略」というのは,これら3つ のそれぞれの場合について,後手が出すべき手をg, c, p から指定するものである.つまり「戦略」というのは,そ れがきちんと伝わっていればほかのひとが後手に代わって ゲームをプレイすることができるような完全なインストラ クション,行動計画である.
後手の戦略はたとえば(g,p,p)のように表すことができ る.これは上記の場合1, 2, 3がおきたときに出すべき手 を順番に指定している.(g,p,p)は,「上記の1が起きた場 合はgを,2が起きた場合はpを,3が起きた場合は p を出す」戦略を意味している.べつの言い方をすれば,「先 手がgを出したらgを,先手がcを出したらpを,先手 がpを出したらpを出す」ような後手の戦略を意味する.
この表記法で後手のすべての戦略を列挙すると以下の ようになる:
(g,g,g), (g,g,c), (g,g,p), (g,c,g), (g,c,c), (g,c,p), (g,p,g), (g,p,c), (g,p,p), (c,g,g), (c,g,c), (c,g,p), (c,c,g), (c,c,c), (c,c,p), (c,p,g), (c,p,c), (c,p,p), (p,g,g), (p,g,c), (p,g,p), (p,c,g), (p,c,c), (p,c,p), (p,p,g), (p,p,c), (p,p,p).
これら27個の戦略をすべて列挙してもらうのは大変で あるため,(また,列挙させるためには戦略の表記法を説明 しないといけないが,それがヒントになってしまうため) この問題では戦略の数だけ尋ねた.
要するに,先手がgを出した場合には後手は3とおり の手の出し方があり,先手がcを出した場合にも後手は3 とおりの手の出し方があり,先手がpを出した場合にも 後手は3とおりの手の出し方があるので,後手の戦略の
数は3 × 3 × 3 = 27個ということになる.
展開形ゲームを戦略形に直すためには各プレーヤーの 戦略をすべて求めなければならない.言い換えれば,各プ レーヤーの戦略を列挙できるためには戦略形への直し方を 知っていれば十分である.展開形から戦略形へ直す方法は
渡辺72–73頁や武藤III章を参照して欲しい.
講評. 正解はゼロ,「3個」と答えたのが5人,「9個」と答 えたのが16人だった.
• 「3個」というのはg, c, pのことだろう.しかしこ れでは先手の出した手に後手の手を依存させること ができない.「時間差じゃんけん」は先手の手に応じ て後手があとだし出来るという特徴を持つが,その 特徴が失われることになる.
• 「9個」というのは,渡辺85頁下の展開形ゲーム の終点の数に対応している.終点を指定すれば初期 点からその終点までの経路は決まるが,経路はたと えば「先手がgをプレイし,引き続いて後手がpを プレイする」といった流れをしめすものであり,後手 の戦略とはべつものである.この例で言えば,まず, 後手の戦略のはずなのに「先手がgをプレイし」と 先手の動きを指定しているのはおかしい.次に,先 手がgではなく cやpをプレイしたときになにを すべきか言ってないので,戦略にはならない.戦略 とは完全な行動計画である.自分以外のプレーヤー の動きは勝手に決められないから,他人の動きのあ らゆる可能性にたいして自分の動きを決めておかね ばならない.
ゲーム理論において「戦略」の概念は決定的に重要なの で,完全にマスターしておいてもらいたい.展開形ゲーム の戦略形への書き換えに注意するようあらかじめ伝えてい たのに,正解者がいなかったのは残念.武藤のIII章をや るときにあらためて理解を確実にして欲しい.