経済学 C
数学準備
1 準備
1.1 基礎概念
• 2個の実数の組x = (x1, x2)を2次元 (実) ベクトルという.
• 2次元ベクトルの集合を2次元Euclid空間といい, R2で表す. R2 ≡ {(x1, x2) | xi ∈ R i = 1, 2}
• x = (x1, x2) ∈ R2とy = (y1, y2) ∈ R2の内積x · yを次のように定義
する.
x · y ≡
2
∑
i=1
xiyi = x1y1 + x2y2 (1.1)
• x, y ∈ R2に対して,
x · y = 0
が成り立つとき, xとyは直交するという. 1
• x = (x1, x2) ∈ R2, y = (y1, y2) ∈ R2に関して, 以下のような表記を
用いる.
x = y ⇔ xi = yi i = 1, 2 x ≥ y ⇔ xi ≥ yi i = 1, 2 x > y ⇔ x ≥ y, x ̸= y x ≫ y ⇔ xi > yi i = 1, 2
2
• よく用いられる集合として, 以下のものを用意しておく (図1を参照).*1 R2+ = {x ∈ R2 | x ≥ 0}
R2++ = {x ∈ R2 | x ≫ 0}
0 x1 0
x2
x1
x2
R2+ R2++
図1 R+2 とR2++の図解
*1 0 = (0, 0)はゼロベクトルである.
3
1.2 開集合
• x ∈ R2のノルム||x||を次のように定める.
||x|| ≡ v u u t
2
∑
i=1
x2i (1.2)
• x = (x1, x2) ∈ R2, y = (y1, y2) ∈ R2の (Euclid) 距離d(x, y)を次の
ように定める.
d(x, y) ≡ ||x − y|| = v u u t
2
∑
i=1
(xi − yi)2 (1.3)
4
• ある正数ϵ > 0をとり, ¯x ∈ R2 のϵ–開球B( ¯x, ϵ)を次のように定める. B( ¯x, ϵ) ≡ {x ∈ R2 | d(x, ¯x) < ϵ} (1.4)
• X ⊂ R2とする.
任意のx ∈ X に対してある正数ϵ > 0が存在し, B(x, ϵ) ⊂ X が成り立
つとき, X は開であるという.*2
• 例えば,
– R++2 は開集合である. – R+2 は開集合でない.
• 補集合XC が開であるとき, X は閉であるという.*3
*2 大まかにいうと, 開集合とは「境界を含まない集合」のことである.
*3 大まかにいうと, 閉集合とは「境界を含む集合」のことである.
5
1.3 凸集合
• 集合X ⊂ R2 を考える.
任意のx, y ∈ X と任意のλ ∈ (0, 1)に対して, λx + (1 − λ)y ∈ X
が成り立つとき, X は凸であるという.*4
• 例えば, R2+とR2++はともに凸集合である.
• 1点集合は凸集合である.
また, 空集合∅は凸集合であるとする.
*4 大まかにいうと, 凸集合とは「凹んでいない集合」のことである.
6
1.4 関数の連続性
• X ⊂ R2とする.
各々の2次元ベクトルx ∈ X に対して実数y ∈ Rを一意に対応付ける 規則を2変数関数といい,
f : X → R, y = f (x)
などで表す.
7
• あるx¯ ∈ R2とあるy ∈ R¯ を考える.*5
任意の正数ϵ > 0に対してある正数δ > 0が存在し,
0 < d(x, ¯x) < δ, x ∈ X ⇒ d(f (x), ¯y) < ϵ (1.5)
が成り立つとき, x → ¯xのときにf はy¯に収束するといい, 次のように 表す.
xlim→ ¯x f (x) = ¯y
また, ¯yのことを, x → ¯xのときのf の極限という.
*5 x ∈ X¯ である必要はない.
8
• あるx¯ ∈ X を考える.
任意の正数ϵ > 0に対してある正数δ > 0が存在し,
d(x, ¯x) < δ, x ∈ X ⇒ d(f (x), f ( ¯x)) < ϵ (1.6)
が成り立つとき, すなわち,
xlim→ ¯x f (x) = f ( ¯x)
が成り立つとき, f はx = ¯xで連続であるという.
9
2 偏微分と全微分
2.1 偏微分
• X ⊂ R2を定義域とする関数f : X → Rを考える.
• D ⊂ X を開集合として, あるx¯ = (¯x1, ¯x2) ∈ Dを考える.
• x = ¯xの状態からx1のみが∆x1 だけ変化したときのyの変化分は次の
ように表される.
∆y = f (¯x1 + ∆x1, ¯x2) − f(¯x1, ¯x2)
10
• ∆x1 → 0のときの ∆∆xy1 の極限
∆limx1→0
∆y
∆x1
= lim
∆x1→0
f (¯x1 + ∆x1, ¯x2) − f(¯x1, ¯x2)
∆x1
(1.7)
が存在するとき, f はx = ¯xでx1に関して偏微分可能という.
また, 上式で表される極限のことを, x = ¯xでのf のx1に関する偏微分 係数といい,
∂f
∂x1
( ¯x), f1( ¯x)
などで表す.
11
• 同様に,
∆limx2→0
∆y
∆x2
= lim
∆x2→0
f (¯x1, ¯x2 + ∆x2) − f(¯x1, ¯x2)
∆x2
(1.8)
という極限が存在するとき, f はx = ¯xでx2 に関して偏微分可能と いう.
また, 上式で表される極限のことを, x = ¯xでのf のx2に関する偏微分 係数といい,
∂f
∂x2
( ¯x), f2( ¯x)
などで表す.
12
• 任意のx ∈ Dでf がxi に関して偏微分可能であるとき, f はDでxiに 関して偏微分可能であるという.
• x = ¯xでf が全てのx1, x2に関して偏微分可能であるとき, f はx = ¯x
で偏微分可能であるという.
• 任意のx ∈ Dでf が偏微分可能であるとき, f はDで偏微分可能である という.
• x = ¯xでの関数f の偏微分係数の組を, x = ¯xでのf の勾配ベクトルと
いい,
∇f(¯x) = ( ∂f
∂x1
( ¯x), ∂f
∂x2
( ¯x) )
∈ R2 (1.9)
で表す.
13
• 偏微分係数の直観的な解釈
– x = ¯xの状態からxiのみが∆xiだけ変化すると, y = f (x)が
∆y = ∂f
∂xi ( ¯x)∆xi
だけ近似的に変化する (高位の無限小の部分を無視している). – 特に, ∆xi = 1とすると,
∆y = ∂f
∂xi ( ¯x)
となるから, ∂x∂f
i ( ¯x)は「x = ¯xの状態からxiのみが∆xi = 1だけ増
加するとy = f (x)がどれだけ変化するか」を近似的に表している.
14
• f がDでxiに関して偏微分可能であるとき, 任意のx ∈ Dに対して
∂f
∂xi (x)が一意に定まる.
xに対して ∂x∂f
i (x)を対応させる関数を, f のxiに関する偏導関数といい,
∂f
∂xi , fi
などで表す.
• 大まかにいうと, f のxiに関する偏導関数 ∂x∂fi を導出する際には, xi以
外の独立変数を定数とみなしてf をxiで微分すればよい.
• f がx = ¯xで偏微分可能であり, かつf の偏導関数 ∂x∂f1 , ∂x∂f2 が全て連続
であるとき, f はx = ¯xで連続微分可能であるという.
• 任意のx ∈ Dでf が連続微分可能であるとき, f はDで連続微分可能で あるという.
15
例 1.
(A) 以下のように定められる2変数関数f : R2 → Rを考える. f (x) = x51x102
f のx1 とx2に関する偏導関数はそれぞれ次のとおりである.
∂f
∂x1
(x) = 5x41x102
∂f
∂x2
(x) = 10x51x92
16
(B) 以下のように定められる2変数関数f : R2++ → Rを考える. f (x) = x121 x212 + x1−21 x−2 12
f のx1 とx2に関する偏導関数はそれぞれ次のとおりである.
∂f
∂x1
(x) = 1 2x
−12 1 x
1 2
2 −
1 2x
−32 1 x
−12 2
∂f
∂x2
(x) = 1 2x
1 2
1 x
−12
2 −
1 2x
−12 1 x
−32 2
17
2.2 全微分
• x = ¯x = (¯x1, ¯x2) ∈ Dの状態から各々のxiが∆xiだけ変化したときの y = f (x)の変化分は
∆y = f (¯x1 + ∆x1, ¯x2 + ∆x2) − f(¯x1, ¯x2)
で表される.
• xの変化分のベクトルを∆x = (∆x1, ∆x2)で表す.
18
• yの変化に関して,
∆y =
2
∑
i=1
Ai∆xi + o(||∆x||) (1.10)
となるような定数A1, A2 ∈ Rを定めることができるとき, f はx = ¯x
で全微分可能であるという.
ただし, o(·)は高位の無限小である.
∆xlim→0
o(||∆x||)
||∆x|| = 0
• 任意のx ∈ Dでf が全微分可能であるとき, f はDで全微分可能である という.
19
✓ ✏
命題 1. X ⊂ R2を定義域とする関数f : X → Rを考える. また, D ⊂ X は開集合とする.
• f がx = ¯x ∈ Dで全微分可能であれば, f はx = ¯xで連続である.
さらに, f はx = ¯xで偏微分可能であり, Ai = ∂f
∂xi
( ¯x) i = 1, 2
が成り立つ.
• f がx = ¯x ∈ Dで連続微分可能であるならば, f はx = ¯xで全微分
可能である.
✒ ✑
20
• 上述の命題より, f がx = ¯xで連続微分可能であるとき (したがって, 全 微分可能であるとき),
∆y =
2
∑
i=1
∂f
∂xi ( ¯x)∆xi + o(||∆x||)
= ∇f(¯x) · ∆x + o(||∆x||)
(1.11)
• 上式において, 高位の無限小を無視すると,
∆y = ∇f(¯x) · ∆x (1.12)
となり, これをx = ¯xでのf の全微分という.
21
• 全微分の直観的な解釈
– x = ¯xの状態からあるxiのみが∆xiだけ変化すると, y = f (x)が
∂f
∂xi ( ¯x)∆xiだけ近似的に変化する.
– x = ¯xの状態から全てのxiがそれぞれ∆xiだけ同時に変化すると, y = f (x)が
∆y =
2
∑
i=1
∂f
∂xi ( ¯x)∆xi = ∇f(¯x) · ∆x
だけ近似的に変化する.
22
例 2.
(A) f (x) = x21 + x32のx = ¯xでの全微分は次のとおりである.
∆y = ∂f
∂x1
(x)∆x1 + ∂f
∂x2
( ¯x)∆x2 = 2¯x1∆x1 + 3¯x22∆x2
(B) f (x) = log x1 + log x2 のx = ¯xでの全微分は次のとおりである.
∆y = ∂f
∂x1
(x)∆x1 + ∂f
∂x2
( ¯x)∆x2 = 1
¯ x1
∆x1 + 1
¯ x2
∆x2
23
2.3 勾配ベクトルの意味
• 定数k ∈ Rにおいて,
f (x) = k
を満たすxの集合を表すグラフを, y = kの関数f の等高曲面という.
24
• 例として,
f (x) = x
1 3
1 x
1 3
2
で定められる関数f : R2+ → Rを考える. – x
1 3
1 x
1 3
2 = 1という方程式を解くと,
x113 x213 = 1 ⇔ x2 = 1 x2
= x−12
となるから, y = 1のf の等高曲面はx2 = x−11 のグラフで表される. – x
1 3
1 x
1 3
2 = 2という方程式を解くと,
x113 x213 = 2 ⇔ x2 = 8 x1
= 8x−11
となるから, y = 2のf の等高曲面はx2 = 8x−11 のグラフで表される.
25
• x = ¯xでのf の等高曲面を考える (図2を参照).
ノルムが1で, x = ¯xでのf の等高曲面の接ベクトルをdx = (dx1, dx2)
で表す.
• f がx = ¯xで全微分可能であるとき,
∆y =
n
∑
i=1
∂f
∂xi ( ¯x)∆xi + o(||∆x||)
であり, 等高曲面上では∆y = 0だから,
2
∑
i=1
∂f
∂xi ( ¯x)∆xi + o(||∆x||) = 0
となる.
26
• 上式を||∆x||で割ると,
2
∑
i=1
∂f
∂xi ( ¯x)
∆xi
||∆x|| +
o(||∆x||)
||∆x||
• ここで,
∆x
||∆x|| =
( ∆x1
||∆x||,
∆x2
||∆x|| )
で定められるベクトルは, ∆x → 0のときにdxに収束するから,
∆xlim→0
( 2
∑
i=1
∂f
∂xi ( ¯x)
∆xi
||∆x|| +
o(||∆x||)
||∆x||
)
= 0
⇒
2
∑
i=1
∂f
∂xi ( ¯x)dxi = 0 すなわち ∇f(¯x) · dx = 0
(1.13)
となる.
27
• (1.13)は「x = ¯xにおいて, 勾配ベクトル∇f(¯x)と接ベクトルdxが直
交する」ことを意味している.
• また, x = ¯xでのf の等高曲面の接線の傾きは次のように表される.
∂f
∂x1
( ¯x)dx1 + ∂f
∂x2
( ¯x)dx2 = 0 ⇔ dx2
dx1 = −
∂f
∂x1 ( ¯x)
∂f
∂x2 ( ¯x)
(1.14)
0 x1
x2
f (x1, x2) = f (¯x1, ¯x2)
勾配ベクトル∇f(¯x) = (∂x∂f
1( ¯x,
∂f
∂x2( ¯x))
)
接ベクトルdx = (dx1, dx2)
∆x
||∆x|| =
( ∆x1
||∆x||,
∆x2
||∆x||
)
図2 勾配ベクトル
28
例 3.
• f(x) = 2x112 x212 で定められる関数f : R2+ → Rを考える.
• f の勾配ベクトルは次のとおりである.
∇f(x) = ( ∂f
∂x1
(x), ∂f
∂x2
(x) )
= (x−1 12 x221 , x112 x−2 12 )
29
• x = (1, 4)の状況を考える (図3を参照). – f の勾配ベクトルは
∇f(1, 4) = ( ∂f
∂x1
(1, 4), ∂f
∂x2
(1, 4) )
= (
2, 1 2
)
– 等高線の接線の傾きは dx2
dx1 = −
∂f
∂x1 (1, 4)
∂f
∂x2 (1, 4)
= − 21 2
= −4
30
• x = (4, 1)の状況を考える (図3を参照). – f の勾配ベクトルは
∇f(4, 1) = ( ∂f
∂x1
(4, 1), ∂f
∂x2
(4, 1) )
= ( 1 2, 2
)
– 等高線の接線の傾きは dx2
dx1 = −
∂f
∂x1 (4, 1)
∂f
∂x2 (4, 1)
= −
1 2
2 = − 1 4
31
0 x1 x2
等高線
∇f(1, 4) = (2, 12
)
−4
1 4
1 4
∇f(4, 1) = (12, 2
)
−14
図3 勾配ベクトルの例
32
2.4 合成関数の偏微分
• 独立変数をu1, u2, 従属変数をyとする2変数関数y = f (u)を考える (ただし, u = (u1, u2)).
• また, 各々のuk はx1, x2の関数uk(x)として表されるものとする (ただ し, k = 1, 2, x = (x1, x2)).
• u(x) = (u1(x), u2(x))として, f, u1, u2の合成関数を考える. y = f (u(x)) = f (u1(x1, x2), u2(x1, x2))
この合成関数は, 独立変数がx1, x2 で従属変数がyの関数である.
33
✓ ✏
命題 2. f が連続微分可能であり, u1, u2が偏微分可能であるとき, 合 成関数y = f (u(x))は偏微分可能であり,
∂f
∂xi (u(x)) =
2
∑
k=1
∂f
∂uk (u(x))
∂uk
∂xi (x) i = 1, 2 (1.15)
すなわち,
∂y
∂xi =
2
∑
k=1
∂y
∂uk
∂uk
∂xi i = 1, 2
が成り立つ.
✒ ✑
34
例 4.
• 以下のように定められる2変数関数f : R2+ → Rを考える. y = f (x) = (x21 + x22)
1 2
• u = x21 + x22とすると,
y = u12
と表されるから,
∂f
∂x1
(x) = dy du
∂u
∂x1
= 1 2u
−12
× 2x1 = x1
(x21 + x22)12
∂f
∂x2
(x) = dy du
∂u
∂x2
= 1 2u
−12
× 2x2 = x2
(x21 + x22)12
35
例 5.
• 以下のように定められる2変数関数f : R2++ → Rを考える. y = f (x) = log(x1 + x2) + log (x21 + x22)
• u1 = x1 + x2, u2 = x21 + x22 とすると,
y = log u1 + log u2
と表されるから,
∂f
∂x1
(x) = ∂y
∂u1
∂u1
∂x1
+ ∂y
∂u2
∂u2
∂x1
= 1
u1 ×1+
1
u2 ×2x
1 = 1
x1 + x2
+ 2x1 x21 + x22
∂f
∂x2
(x) = ∂y
∂u1
∂u1
∂x2
+ ∂y
∂u2
∂u2
∂x2
= 1
u1 ×1+
1
u2 ×2x
2 = 1
x1 + x2
+ 2x2 x21 + x22
36
3 重要な関数
3.1 同次関数
• 定義域をX ⊂ Rn とする関数f : X → Rを考える (nは自然数).
• 任意のx ∈ X と任意の正数λ > 0に対して,
f (λx) = λkf (x) (1.16)
が成り立つとき, f はk次同次関数であるという.
37
例 6.
(A) 以下のように定められる1変数関数f : R+ → Rを考える. f (x) = x13
正数λ > 0に対して,
f (λx) = (λx)13 = λ13 x13 = λ13 f (x)
となるから, f は 13 次同次関数である.
38
(B) 以下のように定められる2変数関数f : R2+ → Rを考える. f (x) = x113 x213
正数λ > 0に対して,
f (λx) = (λx1)13 (λx2)13 = λ32 x113x213 = λ23 f (x)
となるから, f は 23 次同次関数である.
39
3.2 凹関数と凸関数
• X ⊂ Rn を凸集合として, 関数f : X → Rを考える.
• 任意のx, x′ ∈ X と任意のλ ∈ (0, 1)に対して,
f (λx + (1 − λ)x′) ≥ λf(x) + (1 − λ)f(x′) (1.17)
が成り立つとき, f は凹関数であるという.
• 相異なる任意のx, x′ ∈ X と任意のλ ∈ (0, 1)に対して,
f (λx + (1 − λ)x′) > λf (x) + (1 − λ)f(x′) (1.18)
が成り立つとき, f は厳密な (狭義の) 凹関数であるという (図4を参 照).
40
0 x y
f (x)
x x′
f (x) f (x′)
λx + (1 − λ)x′ f (λx + (1 − λ)x′)
λf (x) + (1 − λ)f(x′)
図4 厳密な凹関数
41
• 任意のx, x′ ∈ X と任意のλ ∈ (0, 1)に対して,
f (λx + (1 − λ)x′) ≤ λf(x) + (1 − λ)f(x′) (1.19)
が成り立つとき, f は凸関数であるという.
• 相異なる任意のx, x′ ∈ X と任意のλ ∈ (0, 1)に対して,
f (λx + (1 − λ)x′) < λf (x) + (1 − λ)f(x′) (1.20)
が成り立つとき, f は厳密な (狭義の) 凸関数であるという (図5を参 照).
42
0 x
y f (x)
x x′
f (x) f (x′)
λx + (1 − λ)x′ f (λx + (1 − λ)x′)
λf (x) + (1 − λ)f(x′)
図5 厳密な凸関数
43
• X ⊂ Rn を定義域とする関数f : X → Rに対して, f のハイポグラフ Hf ⊂ Rn+1 とエピグラフEf ⊂ Rn+1をそれぞれ次のように定義する
(図6を参照).*6
Hf ≡ {(x, y) ∈ Rn+1 | y ≤ f(x), x ∈ X} Ef ≡ {(x, y) ∈ Rn+1 | y ≥ f(x), x ∈ X}
0 x
y
f (x)
Hf Ef
図6 ハイポグラフとサブグラフ
*6 f のハイポグラフのことを, f のサブグラフと表記している文献もある.
44
✓ ✏
命題 3. X ⊂ Rn を凸集合として, 関数f : X → Rを考える.
• f が凹関数であるための必要十分条件は, f のハイポグラフHf が 凸集合であることである (図7(a)を参照).
• f が凸関数であるための必要十分条件は, f のエピグラフEf が凸集 合であることである (図7(b)を参照).
✒ ✑
0 x
y
f (x)
Hf
0 x
y f (x)
Ef
(a) 凹関数 (b) 凸関数
図7 凹関数と凸関数
45
Proof.
• 1つ目の性質のみを示す.
– 必要性
∗ f は凹関数であるとする.
∗ (x, y), (x′, y′) ∈ Hf を任意にとると,
f (x) ≥ y, f (x′) ≥ y′
であり, またf の凹性より, 任意のλ ∈ (0, 1)に対して,
f (λx + (1 − λ)x′) ≥ λf(x′) + (1 − λ)f(x′) ≥ λy + (1 − λ)y′
が成り立つから,
(λx + (1 − λ)x′, λy + (1 − λ)y′) ∈ Hf
したがって, Hf は凸集合である. 46
– 十分性
∗ Hf は凸集合であるとする
∗ 任意のx, x′ ∈ X に対して,
(x, f (x)) ∈ Hf , (x′, f (x′)) ∈ Hf
∗ Hf の凸性より, 任意のλ ∈ (0, 1)に対して,
(λx + (1 − λ)x′, λf (x) + (1 − λ)f(x′)) ∈ Hf
すなわち,
f (λx + (1 − λ)x′) ≥ λf(x) + (1 − λ)f(x′)
したがって, f は凹関数である.
47
• 2つ目の性質のみを示す.
– 必要性
∗ f は凸関数であるとする.
∗ (x, y), (x′, y′) ∈ Ef を任意にとると,
f (x) ≤ y, f (x′) ≤ y′
であり, またf の凸性より, 任意のλ ∈ (0, 1)に対して,
f (λx + (1 − λ)x′) ≤ λf(x′) + (1 − λ)f(x′) ≤ λy + (1 − λ)y′
が成り立つから,
(λx + (1 − λ)x′, λy + (1 − λ)y′) ∈ Ef
したがって, Hf は凸集合である.
48
– 十分性
∗ Ef は凸集合であるとする
∗ 任意のx, x′ ∈ X に対して,
(x, f (x)) ∈ Ef , (x′, f (x′)) ∈ Ef
∗ Ef の凸性より, 任意のλ ∈ (0, 1)に対して,
(λx + (1 − λ)x′, λf (x) + (1 − λ)f(x′)) ∈ Ef
すなわち,
f (λx + (1 − λ)x′) ≤ λf(x) + (1 − λ)f(x′)
したがって, f は凹関数である.
49
3.3 準凹関数と準凸関数
• X ⊂ Rn を凸集合として, 関数f : X → Rを考える.
• 任意のx, x′ ∈ X と任意のλ ∈ (0, 1)に対して,
f (λx + (1 − λ)x′) ≥ min{f(x), f(x′)}
が成り立つとき, f は準凹関数であるという.
• 相異なる任意の任意のx, x′ ∈ X と任意のλ ∈ (0, 1)に対して, f (λx + (1 − λ)x′) > min{f(x), f(x′)}
が成り立つとき, f は厳密な (狭義の) 準凹関数であるという.
50
• 任意のx, x′ ∈ X と任意のλ ∈ (0, 1)に対して,
f (λx + (1 − λ)x′) ≤ max{f(x), f(x′)}
が成り立つとき, f は準凸関数であるという.
• 相異なる任意の任意のx, x′ ∈ X と任意のλ ∈ (0, 1)に対して, f (λx + (1 − λ)x′) < max{f(x), f(x′)}
が成り立つとき, f は厳密な (狭義の) 準凸関数であるという.
51
• X ⊂ Rn を定義域とする関数f : X → Rと実数y ∈ R¯ に対して, 集合 S(¯y) ⊂ X と集合S(¯y) ⊂ X をそれぞれ次のように定義する.
S(¯y) ≡ {x ∈ X | f(x) ≥ ¯y} S(¯y) ≡ {x ∈ X | f(x) ≤ ¯y}
52
• 例えば, f (x) = x1x2で定められる2変数関数f : R+2 → Rでは, – x1x2 ≥ 1 ⇔ x2 ≥ 1
x1
– x1x2 ≤ 1 ⇔ x2 ≤ 1
x1
となるから,
– S(1)はx2 = x1
1 のグラフの右上の領域で表される. – S(1)はx2 = x1
2 のグラフの左下の領域で表される.
0 x1
x2
S(1)
S(1)
x2 = x1
1
図8 S(¯y)とS(¯y)の例
53
✓ ✏
命題 4. X ⊂ Rn を凸集合として, 関数f : X → Rを考える.
• f が準凹関数であるための必要十分条件は, 任意のy ∈ Rに対して
S(y)が凸集合であることである.
• f が準凸関数であるための必要十分条件は, 任意のy ∈ Rに対して
S(y)が凸集合であることである.
✒ ✑
54
Proof.
• 1つ目の性質のみを示す.
– 必要性
∗ f は準凹関数であるとする.
∗ 任意にy ∈ Rをとり, また任意にx, x′ ∈ S(y)をとると, f (x) ≥ y, f (x′) ≥ y
であり, f の準凹性より, 任意のλ ∈ [0, 1]に対して,
f (λx + (1 − λ)x′) ≥ min{f(x), f(x′)} ≥ y
すなわち,
λx + (1 − λ)x′ ∈ S(y)
したがって, S(y)は凸集合である. 55
– 十分性
∗ 任意のy ∈ Rに対してS(y)が凸集合であるとする.
∗ 任意にx, x′ ∈ X をとり,
y = min{f(x), f(x′)}
のようにyを定めると, f (x) ≥ y, f(x′) ≥ yだから, x, x′ ∈ S(y)
である.
∗ S(y)の凸性より, 任意のλ ∈ [0, 1]に対して, λx + (1 − λ)x′ ∈ S(y)
すなわち,
f (λx + (1 − λ)x′) ≥ y = min{f(x), f(x′)}
したがって, f は準凹関数である. 56
• 2つ目の性質のみを示す.
– 必要性
∗ f は準凸関数であるとする.
∗ 任意にy ∈ Rをとり, また任意にx, x′ ∈ S(y)をとると, f (x) ≤ y, f (x′) ≤ y
であり, f の準凸性より, 任意のλ ∈ [0, 1]に対して,
f (λx + (1 − λ)x′) ≤ max{f(x), f(x′)} ≤ y
すなわち,
λx + (1 − λ)x′ ∈ S(y)
したがって, S(y)は凸集合である.
57
– 十分性
∗ 任意のy ∈ Rに対してS(y)が凸集合であるとする.
∗ 任意にx, x′ ∈ X をとり,
y = max{f(x), f(x′)}
のようにyを定めると, f (x) ≤ y, f(x′) ≤ yだから, x, x′ ∈ S(y)
である.
∗ S(y)の凸性より, 任意のλ ∈ [0, 1]に対して, λx + (1 − λ)x′ ∈ S(y)
すなわち,
f (λx + (1 − λ)x′) ≤ y = max{f(x), f(x′)}
したがって, f は準凸関数である. 58
例 7.
• f(x) = x1x2で定められる2変数関数f : R+2 → Rを考える.
• y > 0に対して,
x1x2 ≥ y ⇔ x2 ≥
y x1
となるから, S(y)はx2 = xy
1 のグラフの右上の領域で表される.
• 任意のx ∈ R2+に対してx1x2 ≥ 0だから, y ≤ 0に対してS(y) = R2+
である.
• 任意のy ∈ Rに対してS(y)は凸集合だから, f (x) = x1x2は準凹関数 である.
59
例 8.
• f(x) = x21 + x22 で定められる2変数関数f : R2+ → Rを考える.
• y > 0とすると,
S(y) = {x ∈ R2+ | x12 + x22 ≤ y = (√y)2}
すなわち, S(y)は, 原点を中心とし, 半径が√yの円の内部領域で表さ れる.
• 任意のx ∈ R2+に対してx21 + x22 ≥ 0だから, – S(0) = {0}である.
– y < 0に対して, S(y) = ∅である.
• 任意のy ∈ Rに対してS(y)は凸集合だから, f (x) = x21 + x22は準凸関 数である.
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✓ ✏
命題 5. X ⊂ Rn は凸であるとして, 関数f : X → Rを考える.
• f が凹関数であるならば, f は準凹関数である.
• f が凸関数であるならば, f は準凸関数である.
✒ ✑
61
Proof.
• 1つ目の性質のみを示す.
f が凹関数とすると, 任意のx, x′ ∈ X と任意のλ ∈ [0, 1]に対して, f (λx + (1 − λ)x′) ≥ λf(x) + (1 − λ)f(x′)
≥ λ min{f(x), f(x′)} + (1 − λ) min{f(x), f(x′)}
= min{f(x), f(x′)}
が成り立つから, f は準凹関数である.
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• 2つ目の性質を示す.
f が凸関数とすると, 任意のx, x′ ∈ X と任意のλ ∈ [0, 1]に対して, f (λx + (1 − λ)x′) ≤ λf(x) + (1 − λ)f(x′)
≤ λ max{f(x), f(x′)} + (1 − λ) max{f(x), f(x′)}
= max{f(x), f(x′)}
が成り立つから, f は準凸関数である.
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4 最適化問題
4.1 制約条件なしの最適化問題
• 定義域をX ⊂ R2とする関数f : X → Rを考える.
• X の内部intX を次のように定める.*7
intX ≡ {x ∈ X | U(x, ϵ) ⊂ X なる正数ϵ > 0が存在する}
• 例えば, intR2+ = R2++である.
• intX は開集合である.
• x ∈ intX であるとき, xはX の内点であるという.
*7 大まかにいうと, intXはXに含まれる最大の開集合である.
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