政府間財政移転
1. 講義の目的
• 日本の公的経済において重要な位置を占 める政府間財政移転について,経済学の 観点から論点整理を行う.
• 政府間財政移転に関する代表的な経済学 の議論を解説.
• 理論分析を用いて実際の政府間財政移転 の役割を意義付け.
2. 政府間財政移転 概念整理 1
• 2 つのパターン
– 水平調整~地方政府間での移転 : ある地方の 住民が納めた地方税を原資にして,他の地方 政府へ資金の移転を行う.
– 垂直調整~中央政府から地方政府への移転 : 国民が納めた国税を原資として,地方政府へ 資金の移転を行う.
• 日本を含む多くの国では後者の「国から 地方への財政移転」という形態をとる.
概念整理 2: 政府間財政移転
(補助金)の類型
• 類型基準
– 定額 - 定率
• 定額 : 地方の歳出とは独立して交付
• 定率 : 地方の歳出に応じて交付
– 一般 - 特定
• 一般 : 用途を指定せず交付
• 特定 : 用途を指定して交付
– 上限の有無
• 上限あり(閉鎖型) : 交付する金額に上限がある
• 上限なし(開放型) : 交付する金額に上限がない
概念整理 3. 定率と定額
• より重要な区分は「定率」と「定額」
• 同額の金額が交付されるのならば,定率 補助よりも定額補助が望ましい.
• 定率補助は地方政府の選択にかかる限界 費用に影響を与える=地方の政府の選択 に「歪み」を与える.
• ただし,特定の条件(外部性など)のも とでは定率補助が好ましい場合がある.
定率補助と定額補助
• 同額ならば定率よりも定額が好ましい.
g z
1 1s
g0 sg0
R
z0 z'
a b
g*
sg*
R Q=R+sg
*
c d e
R Q=R+s
g* Y
g
3. 公平性と政府間財政移転
• 評価基準( 2 つの基準)
– 公平性( equity )
– 効率性( efficiency )
公平性の概念
• 2 つの公平性
– 垂直的公平性( vertical equity ) : 所得獲得能力 に応じて公共サービスにかかる費用を負うべきであ るという考え方 .
– 水平的公平性( horizontal equity ) : 同様の個人 は同様の財政上の取り扱いを受けるべきという考え 方.
• 2 つの公平性の独立性
– 財政制度に反映される垂直的公平性の程度にかかわ らず,水平的公平性は定義される.
水平的公平性と政府間財政移転
• 政府間財政移転には,水平的公平性の概念が関連する.
– 国は,自国民に対して水平的公平性を遵守する必要がある.つ まり,国は,同様の個人に対して,彼や彼女がどこに居住して いようが,同様の政策を施さなければならない.
• 政府間財政移転は,個人を対象とした水平的公平性を達 成するための手段.
– 日本の例 : 生活保護や義務教育に関する政策は中央で決定し, 国が定める一定の基準を満たすように地方政府に実施を「委 任」.この政策の実行が地方政府の独自の財源で行われるなら
,財源の過多によっては全国均一基準にしたがった政策を執行 することは不可能.したがって,水平的公平性を維持するため に,国が委任する政策の財源を保障するために財政移転が行わ れる.
水平的公平性の議論への反論 1
• 長期的には自分が好むように地方政府間を移動 できるので,政府間移転を行う必要は無い.
• 反論 1 への反論
– 長期的に移動が容易なのは,進学や就職に際して居 住地域を比較的自由に選択できる若壮年層.
– 幼若年期は自らの意思で住居を選択できない場合が 多い(親の所得にも依存).
– 「長期的には」という但し書きは高齢になるほど該 当せず,「短期的な」観点で対処されなければなら ない(条件不利地域ほど高齢者の比率は高い).
水平的公平性の議論への反論 2
• 不便な地域に居住している人は,郷土愛など,そこに居 住することによって便益を得ている(地方にとどまって いる人は動きたくない人であるから,構う必要は無い)
.
• 反論 2 への反論
– 不便な場所でも郷土愛という形で便益をうけることはあるが, それは「公平」を保証しない.
– 利便性の良い地域にたまたま生まれ育った人は郷土愛を犠牲に して移動コストを支払う必要はない.一方,利便性の悪い地域 にたままた生まれ育った人は,郷土愛を犠牲して移動する必要 がある.
– このように,利便性の低い地域に生まれ育った住民は,郷土愛 を犠牲にしなければならない(その分移動コストがかさ上げさ れる)点からも不利.
財政平衡化( fiscal equalizat
ion )と政府間財政移転
• 「財政平衡化( fiscal equalization )」という概念の 下で,地域もしくは地方政府単位での「公平性」の議論 がある.
– 財政平衡化=地方政府の「財政能力」を財政移転により地方間 で平準化すること.
– 「財政能力」は地域内の課税標準の量や地域所得で測られる場 合が多い.
• 財政的に貧しい地域でも裕福な人がおり,財政的に豊か な地域でも貧しい人がいるため,貧しい地域への財政移 転は「豊かな地域の貧しい人からの貧しい地域の豊かな 人への所得移転」という側面も存在する.
• したがって,財政平衡化は公正性の観点からは正当化し にくい?
4. 効率性と政府間財政移転
• 政府間財政移転は効率性の観点からも正当化することができる.
• 財源調達機能と支出機能の調整
– 歳入 : 国税として一括して調整したほうがコストが低い. – 歳出 : 地方に任せた方が国民のニーズを汲みやすい. – 垂直的財政ギャップの存在=中央から地方への財政移転.
• リスク・シェアリング
– 経済規模が小さいと税収の変動が大きい(計画的な予算執行が困難).
– 国レベルで歳入をプールし,一定のルールで配分することで,地方歳入を安定 化.
• 財政外部性の内部化
– 公共サービスの域外スピルオーバー(地方歳出の非効率性) – 狭義の財政外部性(人口分布の非効率性)
• 課税の厚生コストの最小化
– MCPF の均等化
4.1 徴税機能と歳出機能の調整
• 歳入に関しては中央政府が一括して徴税することが有利
– 中央政府は全国的統一的な基準を用いて国税を徴収.
– そのシステムを用いて地方税と国税と一括して調達すれば,地 方政府が独自に徴税を行なうよりも,徴税コストは小さい.
• 歳出に関しては地方政府に有利性
– 公共部門の大部分は人々の生活に密着した公共サービスが占め ている(特に OECD 諸国).
• 中央 : 歳入>歳出+地方 : 歳入<歳出
– 徴税の重点は中央政府,歳出の重点は地方政府に置かれること になり,このギャップ(垂直的財政不均衡)を埋めるために中 央から地方へ財政移転が行なわれる.
4.2 地方税収の安定化
• 安定した歳入は計画的な財政運営にとって必要 不可欠.
• 地域経済規模が小さくなるほど,課税標準の変 動が大きくなり,歳入を予測することが困難.
• 地方税収を全国レベルでプールすることによっ て,税収の変動を抑えることができる.
• 中央政府が国税として徴収し,当該歳入を地方 に振り分けるほうが,そうでない場合よりも地 方税収が安定することになる.
4.3 地方税収の安定化 (smooth
ing)
• 安定した歳入は計画的な財政運営にとって必要 不可欠.
• 地域経済規模が小さくなるほど,課税標準の変 動が大きくなり,歳入を予測することが困難
(歳入に対する期待効用が減少).
R U(R), E[U(R)], E[U(R’)]
RL RH
U(R)
E[U(R)]
R’L R’H
E[U(R’)]
4.4 地方政府間の外部性の内部化
• ある地方政府の政策は他の地方政府の政 策に影響を与える.
• 例 :
– 公共サービス水準の差異による人の移動 – 税率の差異による課税標準の移動
– 他の地方が特定の公共サービスを提供するこ とによる,当該サービスへのただ乗り.
外部性 例1 . 公共サービスの
域外スピルオーバー
• 域外スピルオーバー : ある地方政府が供給する 公共サービスが他の地方の住民に便益を与える こと.
• 域外スピルーバーが存在する場合は,当該公共 サービスが最適な水準と比べて過小になる.
• 過小な供給水準を矯正するために,当該公共 サービスを提供する地方政府に定率補助金を与 え,公共サービスの水準を最適な水準に近づけ ることができる.
外部性 例2 : 地域間住民移動
• 公共サービスの地域差や賃金の地域差に 応じ,住民が自由に地域間を移動する場 合,一国内の人口配分は非効率的になる
.
• 財政移転を行うことによって,人口配分 の非効率性が矯正され,都市部住民も農 村部住民も以前より高い厚生を享受する ことができる.
人口移動と政府間財政移転
• 移住均衡では人口分布が非効率
E0
地域 A の人口 地域 B の人口 地域 A の居住からの効用
地域 B の居住からの効用 E0
移住均衡における 効用の増加 V
E1
地域 B の人口増加=地域 A の人口減少
4.5 課税の厚生費用の最小化
• 課税の厚生費用を最小化するためには, 限界的な課税の厚生費用を地域間で均等 化する必要がある.
• 各地方政府が独自に課税している場合, 課税が住民に与える限界的な厚生費用は 地域間で等しくなる保証は無い.
• この均等化を行うために政府間財政移転 を利用することができる.
5. 政府間財政移転と非効率性
• 実際の財政移転は特定のフォーミュラによって 行われている(特に,一般補助金).
• このようなフォーミュラは,実際には非効率性 を生み出す可能性がある.
– 平衡交付金(カナダ) : 地方税率を過大にする. – 地方交付税(日本) : 資本歳出を過大にする.
• 中央からの財政移転の存在そのものが,地方の 財政規律を緩める可能性もある(「サマリア人 のジレンマ」,「ソフトな予算制約」)
フライペーパー効果
• 地方歳出を推定すると,一般定額補助金 であるはずのものが,そのような効果を 表さない(同額の所得の増加よりも大き な歳出拡大効果をもつ)=フライペー パー効果
• 数多くの実証分析が行われ,ほとんどの 推定においてフライペーパー効果を確認
⇒地方交付税が「定額」補助金でないこ とを実証.
フライペーパー効果:批判
• 特に国の基準による再分配歳出に関しては,無差別にこ の分析がもとづく消費者選択モデルを地方歳出に適用す ることは適切ではない.(義務教育,生活保護 etc )
• 消費者選択モデルが適当であっても,フライペーパー効 果の大きさは非効率性を表さない.
– フライペーパーの存在⇒特定化の誤り⇒誤ったパラメータ推定 量
– 中位投票者モデルは誤差を増幅
• 複数の争点( e.g. 目的別歳出)⇒投票均衡存在せず
• 中位投票者=中位所得者?
• 中位所得=平均所得?
– スピルオーバーや国家的目標の存在
• 必ずしも歳出拡大効果は非効率的ではない
サマリア人のジレンマ
(動的非整合性)
• 中央政府にとっての「事前的( ex ant
e )誘引」と「事後的( ex post )誘引」
,および,それを見込んだ地方政府の行 動に留意.
• 「事前」と「事後」は,地方政府の選択 を基準.
• 事前に好ましいと考えられる選択が,事 後的にはそうでなくなること.
• 予算のソフト化:財政危機に陥った地方 政府に中央政府が支援(補助金の給付) すること.(ソフトな予算制約 soft budg et )
• 予算のハード化 : 地方政府が財政危機に 陥っても中央政府が支援しない(ハード な予算制約 hard budget )
• 財政危機に陥っても中央が助けてくれる という期待が地方政府側に全く無い場合
,中央政府が援助しないことに「コミッ トできる」という.
• 「親」は「事前的」には援助しないこと が好ましいが,「事後的」には援助する ことになる.
努力する
遊ぶ
援助する
援助する
援助しない 援助しない
親
子
A ( 3, 3 )
B ( 4, 2 )
C ( 2, 4 )
D ( 1, 1 )
(親の得点 , 子の得点)
親