曽山凌 野木駿 村瀬博季 山本泰熙 臨床シナリオ
愛知医大 3 年生の M 君は家族がガンになり,抗がん剤治療をしている親が口内炎 で苦しんでいた。ハチミツが効くということをネットで知り,本当に効果があるのかどう か本当調べるためこの臨床疑問について EBM の 4 ステップを行うことにした。
1.臨床疑問の定式化
P)抗がん剤治療中の口内炎の患者が E)ハチミツを摂取すると
C)ステロイド薬による治療と比べて O)口内炎を減少させるか
2.エビデンスの検索
PubMed:MeSH= stomatitis"[Mesh], honey の MeSH はなし。
検 索 式 「"Stomatitis"[Mesh] AND Honey 」 で ,Clinical Queries: Type=” Therapy”, Scope=”Narrow”で検索したところ,以下の 8 件にヒット.その中で今回の臨床疑問に 関 係 し そ う な も の は BMC Complement Altern Med. 2014 Aug 8;14:293. doi: 10.1186/1472-6882-14-293.の 1 件だけであり,この論文を批判的吟味することにし た。
・BMC Complement Altern Med. 2014 Aug 8;14:293.
・Support Care Cancer. 2014 Mar;22(3):751-61.
・J Indian Med Assoc. 2012 Jul;110(7):453-6
・Pediatr Hematol Oncol. 2012 Apr;29(3):285-92.
・Br J Oral Maxillofac Surg. 2012 Apr;50(3):221-6.
・Int J Oral Maxillofac Surg. 2010 Dec;39(12):1181-5.
・J Contemp Dent Pract. 2008 Mar 1;9(3):40-7.
・Support Care Cancer. 2003 Apr;11(4):242-8. 3.エビデンスの批判的吟味
チェックポイント
1 治療への割り付けはランダムに行われていたか.さらにこの割り付けは適切に隠 蔽されていたか。
→OK.(p.3 の Intervention の項の最初の 1 文)ランダムスケジュールを作るた めオンライン統計コンピューターウェブプログラムを使用した。そのため,75人 の被験者はランダムに 3 つのグループに分けられた。(同じ項の第 3 パラグラ フ)また被験者は自分たちの療法について認識させられていない。
2 臨床試験に参加したすべての患者が試験の終了時点でどうなったかについて 説明があるか。
→No~△.p.4 の Figure1 より脱落した人がいるが,考慮されておらず ITT 分析 は行われていない。しかし p.5 の Table2 に病気の重症度が出ているので脱落 した人と合わせると Worst case シナリオを用いて ITT 分析をおこなうことはでき る。
3 アウトカムは臨床的に重要か。
→OK.p.3 の Main outcome measures の最後から 2 行目に書かれている主要評 価項目である「口内炎の症状の客観的には発赤,潰瘍のような粘膜の変化,主 観的には食事機能障害を総合して評価された点数」は true endpoint である。
4 患者・治療者・評価者・データ分析者は,どの治療を割り付けられているかに対 してブラインドであったか。少なくとも,評価者はブラインドであったか。
→OK. 患者へのブラインド化については (p.3 の Intervention)3 つの療法の製 品は同じ色,形,味である。そして被験者は自分たちの療法について認識させ られていない。治療者へのブラインド化については(同じ項の第 3 パラグラ フ)The study investigators は処方した療法を認識していなかった。評価者の ブラインド化に関しては書かれていないが,The study investigators に含まれ ていると考えるとブラインド化されている。データ分析者へのブラインド化は書か れていない。ブラインド化されていないと思われる。
5 治療群と対照群は,臨床試験の目的である介入以外では同等に扱われたか。 →OK. ハチミツやコーヒー以外で追加して抗炎症薬等を使用することは許され なかった。
・結果の定量化
口内炎なしを 0 点、軽度を 1 点、中度を 2 点、重度を 3 点として口内炎の症状を 総合して評価された点数を用いた結果において、ステロイド薬、ハチミツとコーヒー、 ハチミツのみの 3 つの治療の前後の平均値の差は p.5 の Table2 の結果によるとそ れぞれ 1.09 , 2.29 , 1.60 であった。これによりハチミツとコーヒーを合わせたものはス テロイド薬と比べてかなり有効であると言える。ITT 分析されていないため、脱落者に ついて worst case シナリオを用いて計算したところ,ハチミツとコーヒーとステロイド薬 の平均値の差はそれぞれ,2.09 と 1.26 となり,やはり前者の方が有効性が高かった。
4.エビデンスの臨床シナリオへの適応
ハチミツとコーヒーの効能には強いエビデンスがあり,臨床に適応できると思われる。 そのため,主治医の許可を得た上で,抗がん剤治療中で口内炎に苦しんでいる家 族にハチミツとコーヒーを混ぜたものを勧めた。