The Shape of Tokyo Office Market to Come
~ 東京オフィスマーケット、
その来るべき姿 ~
概要
好調な企業業績等に支えられて、空室率が低下し募集賃料が上昇するなど、東京の賃貸オフィ
スビル ・マーケットの堅調さが明らかとなっているが、市況の構造的側面に目を転じると、賃貸収
益とオフィスビル価格の変動幅が縮小し、成熟化と成長鈍化に繋がる新たな変化が生じている。こ
れによって一面では、オフィスビル ・マーケットから得られる期待収益が減じ、投資の妙味が削が
れる可能性がある。
しかし、 賃貸収益とオフィスビル価格の変動幅の縮小は、 年金基金や投資信託、 生命保険会社、
個人富裕層、SWF 等の安定リターンを指向する投資家ニーズへの適合性が高まることをも意味す
る。これらの新たな投資家層の市場参入が顕在化し拡大することによって、投資資金の増大と多
様化が投資物件の新規流入を促し、オフィスビル ・ マーケットの再活性化と成長に繋がる 「第二ス
テージ」 へと進む可能性を期待したい。
構成要素
賃貸市況については、主に4つの要因から、量的側面 (空室率の低下) で市況改善が進んで
も質的側面 (賃料上昇) に効果が及びにくい状況が生じている。
① 新規供給の累積で、空室率が低い割には空室面積の総量が多く、物件間で競合
② 大規模 ・ 高スペックビルの供給増加で希少性が低下、差別化による競争力が弱化
③ 高額賃料をけん引するテナント業種が不在
④ 今後予定される大型ビルの連続集中供給
賃貸市況のキーワードとして、オフィスビルのコモディティ化 (大規模 ・ 高スペックビルの普及で
賃借選択の容易性拡大、集中的供給の常時化) と、ハイグレード特需の終息 (希少性の低下、
ハイエンド ・ テナントの不在) があげられる。
オフィスマーケットの水面下では、オフィスワーカー数の減少による床需要の減少と、建替えの
主流化によるオフィスストックの増加率低下が並行して進行しており、いずれも今後の市場規模増
大には抑制的に働く。都心部と比較してオフィスへの需要面で劣る東京の周辺区では需要 ・供給
とも弱含みで、賃貸オフィスビルの専有単価が賃貸マンションのそれを下回る事例があるなど、オフィ
スエリアの性格が弱まっている。ニッチ市場が有望市場化する局面である。
オフィスビルを含む投資物件の売買取引では、事業法人や公共法人等から不動産投資市場に
流入する新規資産が減少して不動産投資セクター内での売買の割合が高まり、投資資産の成熟
化と循環化の傾向が強まっている。
オフィスビル価格については、上述した賃貸収益の弱さが原因となって、キャップレートが極め
て低水準にあるにも関わらず、世界金融危機前と比較して価格回復の歩みが遅い。
1990年 代 後 半 以 降、オ フ ィ ス ビ ル 投 資 に お け る キ ャ ッ プ レ ー ト は 概 ね 安 定 的 に 推 移 し て お り、
低金利時代となってからはイールド ・スプレッドも厚い。市況情報と収益還元法の普及によって市
場メカニズムに自己規制が組み込まれ、1990 年代前半までのような非合理的な価格形成は起こり
にくい構造に変化した。
1. 力強さを欠く東京のオフィスビルの賃料上昇
執筆者 : 研究第二部長 主席研究員 佐藤泰弘 ([email protected])
(1)
空室率の低下は続くが、
賃料上昇の動きが弱い
東 京 都 心 5 区
※1
の 賃 貸 オ フ ィ ス ビ ル ( 基 準 階 面 積100坪 以 上 ) の 平 均 空 室 率 は、
世 界 金 融 危 機 後 で は2012年6月 が ピ ー ク で、 以 降 は 低 下 傾 向 で 推 移 し、2015年9
月は 4.53%まで改善した。
一 方、平 均 募 集 賃 料 は2013年12月 を ボ ト ム に 上 昇 に 転 じ、2015年9月 は17,594
円/坪 と な っ た が、 い わ ゆ る2003年 問 題 と い わ れ た オ フ ィ ス ビ ル 大 量 供 給 後 最 も 賃 料
が下落した 2004 年 10 月の水準 (17,526 円 / 坪) にようやく達したのが現状である [図
表 1-1-1]。
東京 23 区のオフィスビルの平均成約賃料
※ 2
(後方 4 四半期移動平均) は、2012 年
Ⅳ 期 を 底 に 反 転 し、2013年 Ⅳ 期 に は15,810円/坪 ま で 上 昇 し た。し か し、 そ の 後 再
び 下 落 し、2014年 に 入 っ て か ら は15,000円/坪 前 後 で 推 移 し て い る。 規 模 別 で は、
大規模ビル
※ 3
は 2013 年に大きく上昇したが、2014 年に入って下落、直近は再び上昇
傾向で推移している。大型ビル
※ 3
は 2014 年に上昇後 2015 年に入ってから下落傾向で
推移しているが、2003 年問題後の最低となった 2005 年Ⅰ期を上回っている。中小型ビ
ル
※ 3
は、2012 年Ⅱ期を底にわずかながら上昇し、その後横ばい傾向で推移している [図
表 1-1-2]。
※ 1 : 千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区
※ 2 : 各期に成約した賃料の平均値であり、同一物件の成約事例を継続して調査したものではない。
※ 3 : 基準階面積 「大規模ビル」 200 坪以上、「大型ビル」 100 坪以上 200 坪未満、「中小型ビル」 100 坪未満
[図表 1-1-1]東京都心 5 区主要賃貸オフィスビルの空室率と平均募集賃料の推移
10,000 12,000 14,000 16,000 18,000 20,000 22,000 24,000
0% 2% 4% 6% 8% 10% 12%
2002.1 2002.7 2003.1 2003.7 2004.1 2004.7 2005.1 2005.7 2006.1 2006.7 2007.1 2007.7 2008.1 2008.7 2009.1 2009.7 2010.1 2010.7 2011.1 2011.7 2012.1 2012.7 2013.1 2013.7 2014.1 2014.7 2015.1 2015.7
平
均
募
集
賃
料 (円/坪)
空
室
率
*需給均衡の目安:5% 2 0 0 4 年10 月
1 7 ,5 2 6 円/坪
▼
平均募集賃料 空室率
デ ー タ出所:三鬼商事 (年)
デ ー タ出所:三鬼商事 ※基準階面積1 0 0坪以上
※平均募集賃料は、原則共益費を含まない。
(年)
2 0 1 5 年9月
1 7 ,5 9 4 円/坪
▼
[図表 1-1-2]
東京 23 区オフィスビル規模別平均成約賃料
(後方 4 四半期移動
平均)
の推移
0 5 ,0 0 0 1 0 ,0 0 0 1 5 ,0 0 0 2 0 ,0 0 0 2 5 ,0 0 0 3 0 ,0 0 0
ⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡ
0 0 0 1 0 2 0 3 0 4 0 5 0 6 0 7 0 8 0 9 1 0 1 1 1 2 1 3 1 4 1 5
全体 大規模 大型 中小型 ( 円/坪)
( 年)
※Ⅰ期( 1 ~3 月) Ⅱ期(4 ~6 月) Ⅲ期(7 ~9月) Ⅳ期(1 0~12月)
※共益費は含まない
データ出所 : 都市未来総合研究所 「Ofice Market Research」
(2)
オフィスビルの賃料上昇力が弱い要因
オフィスビルの賃料上昇力が弱い主な要因として、 次のようなことが考えられる。
○ 空室率が 4%台まで低下したとはいえ空室が 32 万坪あり、ビルの貸手はテナ
ント誘致を優先するため、高めの賃料条件提示には慎重な態度である。
○ 大規模 ・ 高スペックビルの供給増加により希少性が低下したため、差別化に
よる競争力が弱まっている。
○ 高額賃料をけん引するテナント業種が不在である。
○ 今後、大規模オフィスビルの供給が見込まれるため、ビルの貸手は強気な
賃料設定が行いにくい。
① 空室面積が多いため、 ビルの貸手はテナント誘致を優先
都 心5区 の 基 準 階 面 積100坪 以 上 の 賃 貸 ビ ル の 貸 室 面 積 は、2015年9月 時 点 で
718 万坪となり、2000 年以降で 150 万坪(26%)増加した[図表 1-1-3]。空室率は 4%
台半ばまで改善したが、空室面積は依然 32 万坪存在している [図表 1-1-4]。これは、
空室率が 4.56%だった 2008 年 11 月の空室面積 (30 万坪) と比べて 2 万坪多い水準
である。
ビルの貸手は、新規テナントの誘致や既存テナントの貸室面積拡張を優先するため、
賃料条件の設定には慎重な態度をとらざるを得ないことが多いことから、 平均賃料が上
[図表 1-1-3]
東京都心 5 区主要賃貸オフィスビルの延床面積 ・ 貸室面積の推移
0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1 9 9 0 1 9 9 1 1 9 9 2 1 9 9 3 1 9 9 4 1 9 9 5 1 9 9 6 1 9 9 7 1 9 9 8 1 9 9 9 2 0 0 0 2 0 0 1 2 0 0 2 2 0 0 3 2 0 0 4 2 0 0 5 2 0 0 6 2 0 0 7 2 0 0 8 2 0 0 9 2 0 1 0 2 0 1 1 2 0 1 2 2 0 1 3 2 0 1 4 2 0 1 5延床面積
貸室面積 ( 万坪)
( 年)
※基準階面積1 0 0坪以上
※各年1 2 月末時点。ただし、2 015 年は9月末時点。
データ出所 : 三鬼商事 「オフィスデータ」
[図表 1-1-4]
東京都心 5 区主要賃貸オフィスビルの空室面積の推移
0 10 20 30 40 50 60 70 1 9 9 0 1 9 9 1 1 9 9 2 1 9 9 3 1 9 9 4 1 9 9 5 1 9 9 6 1 9 9 7 1 9 9 8 1 9 9 9 2 0 0 0 2 0 0 1 2 0 0 2 2 0 0 3 2 0 0 4 2 0 0 5 2 0 0 6 2 0 0 7 2 0 0 8 2 0 0 9 2 0 1 0 2 0 1 1 2 0 1 2 2 0 1 3 2 0 1 4 2 0 1 5
( 万坪)
( 年)
※基準階面積1 0 0坪以上
※各年1 2 月末時点。ただし、2 015 年は9月末時点。
データ出所 : 三鬼商事 「オフィスデータ」
② 大規模 ・ 高スペックビルの希少性が低下
都 心5区 の 大 規 模 プ ロ ジ ェ ク ト ( 延 床 面 積3万 ㎡ 以 上 ) の 延 床 面 積 は、 2000年 〜
2014 年の間に合計で 476 万坪 (延床面積、複合ビルや自社用オフィスビルも含む) 増
加した。すなわち、 大規模で高スペックと想定されるビルが、 年平均約32万坪増加し
たことになる [図表 1-1-5]。
大規模プロジェクトの供給に伴い、 大規模 ・高スペックビルの希少性が低下し、 差別
化による競争力が弱まるとともに、市場のスペック標準が上方移動することから、スペック
の劣るビルにおいては賃料下落の圧力が強まると考えられる。
この結果、 大規模 ・高スペックビルの増加は、高スペックビルの賃料上昇を鈍らせる
[図表 1-1-5]
東京都心 5 区大規模プロジェクトによる供給延床面積
0 50 100 150 200 250
2000~2004年 2005~2009年 2010~2014年 2015~2019年 2020年以降
渋谷区
新宿区
港区
中央区
千代田区
( 万坪)
※延床面積3 万㎡以上
※自社用オフィスビ ル、複合ビルは他用途も含む
データ出所 : 都市未来総合研究所 「Ofice Market Research」
③ 高額賃料をけん引するテナントが不在
都心 5 区の最高成約賃料は、 世界金融危機後に低下、2012 年頃から横ばい傾向で
推移している。区別では、 日本の代表的なビジネスゾーンである大手町 ・丸の内エリア
を擁する千代田区が、最も高い水準を維持している [図表 1-1-6]。
2007 年頃の賃料上昇をけん引した外資系金融機関は、世界金融危機後人員が大幅
に減少し、オフィス需要は縮小した。 現在、企業業績の良い製造業は、 大手町 ・丸の
内などの都心オフィスエリアよりも賃料水準が低いエリア (品川等) に立地する事例が多
く み ら れ る。 ま た、I T 関 連 企 業 ( イ ン タ ー ネ ッ ト 広 告、 ス マ ホ 用 ゲ ー ム ア プ リ 制 作 な ど )
も立地は渋谷が中心であり、現在は高額賃料をけん引するテナント不在の状況が続いて
いる。
[図表 1-1-6]
東京都心 5 区区別最高成約賃料
(後方 4 四半期移動平均)
0 1 0 ,0 0 0 2 0 ,0 0 0 3 0 ,0 0 0 4 0 ,0 0 0 5 0 ,0 0 0 6 0 ,0 0 0 7 0 ,0 0 0
ⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡ
1 9 9 9 年2 0 0 0 年 2 0 0 1 年 2 0 0 2 年 2 0 0 3 年 2 0 0 4 年 2 0 0 5 年 2 0 0 6 年 2 0 0 7 年 2 0 0 8 年 2 0 0 9 年 2 0 1 0 年 2 0 1 1 年 2 0 1 2 年 2 0 1 3 年 2 0 1 4 年 2 0 1 5 年
( 円/坪)
千代田
中央区
渋谷区
新宿区 港区
④ 大規模オフィスビルの新規供給が増加
都 心5区 の 大 規 模 プ ロ ジ ェ ク ト ( 延 床 面 積3万 ㎡ 以 上 ) に よ る 新 規 供 給 面 積 は、
2015 〜 2019 年の間に 210 万坪と見込まれる。年平均にすると 42 万坪にのぼり、2000
〜 2014 年の平均 (32 万坪) に比べ 30%以上の増加となる [図表 1-1-7]。 今後竣工
予定の大規模プロジェクトには、国家戦略特区の区域認定により都市計画法等の特例
を受ける都市再生プロジェクトも含まれており、オフィス供給に大きく寄与している [図表
1-1-7]。
市況面では今後、大規模オフィスビルの新規供給増加が見込まれること、またオリンピッ
ク後のオフィスマーケットが不透明であることなどから、 ビルの貸手は強気な賃料設定が
行いにくい状況にあるとみられる。大幅な景気拡大や外資系等の新たなテナント属性の
大量導入などがない限り、 オフィスビルの賃料相場が大きく上昇する可能性は低いと考
えられる。
[図表 1-1-7]
大規模プロジェクトの主な事例
(2016 年~ 2019 年竣工予定)
計画名(従前建物等) 事業主体 階数
敷地面積 (㎡)
延床面積 (㎡)
竣工 予定年
用途
(仮称)大手町一丁目第3地区第一 種市街地再開発事業 A棟業務棟 (旧政投銀ビル、旧公庫ビル跡地)
千代田区 大手町1 個人施行者: 三菱地所(株) 3 1 / B4 1 1 , 1 7 2 1 9 3 , 0 0 0 2 0 1 6 事務所、海外支援センター
六本木三丁目東地区第一種市街 地再開発事業 南街区 業務棟(日 本IBM 本社跡地ほか)
港区 六本木3
六本木三丁目東地区市街 地再開発組合(参加組合 員住友不動産)
4 0 / B5 1 7 , 3 7 2 2 0 2 , 5 0 1 2 0 1 6
事務所、店舗、カンファレン スセンター、駐車場
赤坂一丁目地区第一種市街地再 開発事業
港区 赤坂1
赤坂一丁目地区市街地再 開発組合
3 7 / B3 1 6 , 0 8 8 1 7 5 , 2 9 7 2 0 1 7 事務所、住宅、店舗
大日本印刷市谷工場整備計画 中 央街区(オフィス棟)
新宿区 市谷加賀 町1
大日本印刷(株) 2 5 / B4 3 3 , 1 7 0 1 7 7 , 0 3 0 2 0 1 7 事務所、工場
丸の内三丁目1 0 地区(丸の内3 - 2 計画)(富士ビル・ 東京會舘ビル・ 東 京商工会議所ビル建替)
千代田区 丸の内3
三菱地所(株)、(株)東京會 舘、東京商工会議所
2 9 / B4 9 , 9 0 0 1 7 2 , 0 0 0 2 0 1 8 事務所、店舗、会議室
(仮称)新日比谷プロジェクト高層棟 (日比谷三井ビルディング・ 三信ビ ルディング跡地開発)
千代田区 有楽町1 三井不動産(株) 3 5 / B4 1 , 0 7 2 1 8 9 , 8 0 0 2 0 1 8
事務所、店舗、文化交流施 設、産業支援施設、駐車場 など
大手町二丁目地区第一種市街地 再開発事業(逓信総合博物館、旧日 本郵政公社東京支社ビル跡地)
千代田区 大手町2
個人施行者(代表施行者: 都市再生機構、共同施行 者: NTT都市開発)
3 5 / B3 1 9 , 8 9 9 1 9 9 , 0 0 0 2 0 1 8 事務所、店舗、駐車場
大手町二丁目地区第一種市街地 再開発事業B棟(旧東京国際郵便 局ビル跡地)
千代田区 大手町2
個人施行者(代表施行者: 都市再生機構、共同施行 者: NTT都市開発)
3 2 / B3 1 9 , 8 9 9 1 5 0 , 0 0 0 2 0 1 8
事務所、データセンター、国 際会議場
(仮称)虎ノ門四丁目プロジェクト(虎 ノ門パストラル跡地)
港区 虎ノ門4 森トラスト(株) 3 6 / B4 1 6 , 3 0 0 2 1 0 , 0 0 0 2 0 1 8
事務所、サービスアパート メント、ホテ ル、生活支援施 設・ 産業支援施設 日本橋室町三丁目地区第一種市
街地再開発事業A街区オフィス棟 (三井別館、NBF日本橋室町セン タービル跡地)
中央区 日本橋室 町3
日本橋室町三丁目地区再 開発準備組合(事業協力 者: 三井不動産)
2 6 / B4 1 1 , 5 0 0 1 6 5 , 5 7 0 2 0 1 9 事務所、店舗、駐車場
ホテ ルオークラ東京本館建替計画 港区 虎ノ門2
(株)ホテ ルオークラ、(公財) 大倉文化財団
3 8 / B6 2 6 , 2 0 0 1 8 7 , 4 0 0 2 0 1 9
ホテ ル、事務所(高層棟)、 美術館、駐車場
虎ノ門一丁目地区市街地再開発事 業(虎ノ門1 0 森ビル、西松建設本社 ほか跡地)
港区 虎ノ門1
虎ノ門一丁目地区市街地 再開発準備組合(事業協 力者: 森ビル、西松建設 (株))
3 6 / B3 1 0 , 1 0 0 1 7 5 , 0 0 0 2 0 1 9 事務所
都市再生ステ ッ プアッ プ・ プロジェク ト(竹芝地区)業務棟A街区(計量検 定所跡地、産業貿易センター跡地)
港区 海岸1
(株)アルベログランデ(東急 不動産、鹿島建設)
3 9 / B2 1 2 , 1 5 6 1 8 0 , 0 0 0 2 0 1 9
事務所、店舗、産業貿易セ ンター、コンテ ンツ関連施 設
渋谷駅地区駅街区開発計画 東棟渋谷区 渋谷2
東京急行電鉄(株)、東日本 旅客鉄道(株)、東京地下鉄 (株)
4 6 / B7 1 5 , 2 7 5 1 7 4 , 0 0 0 2 0 1 9 事務所、店舗、駐車場
所在
・ 敷地面積 : 一部街区全体のものも含む、延床面積 : 15 万 m2 以上 (複合ビルは他の用途も含む)
・ 網掛けは、国家戦略特区の区域認定により都市計画法等の特例を受ける都市再生プロジェクト
・ 計画は今後変更されることがある
2. 東京のオフィス市場における賃貸借の需給変化
執筆者 : 研究第一部長 主席研究員 仲谷光司 ([email protected])
(1)
需要背景の縮小とストック増加率の低下
① オフィスワーカー数の減少に伴うオフィス需要の縮小
我が国の人口は、 すでに減少局面に突入している。国立社会保障 ・人口問題研究
所 の 推 計 に よ る と、 総 人 口 は1億2,700万 人 (2014年 現 在 ) か ら2040年 に は1億
700 万人と約 15%減少し、15 歳~ 64 歳人口は約 26%減少する [図表 1-1-8]。
また、 東京都の推計によると、オフィスワーカー数
※4
は、 東京都区部、都心 5区
※5
でともに 2015 年にピークを迎えその後減少する [図表 1-1-9]。
こうした推計結果からは、 これまで拡大してきた東京都区部のオフィス需要の趨勢が反
転し縮小する可能性がうかがえる。
② 建替え主流化によるオフィスストックの増加率の低下
一方、1994 年以降、東京都区部におけるオフィス着工床面積の対ストック
※ 6
割合は 1%
~ 3%程度で推移している [図表 1-1-10]。 過去 20 年間の対ストック割合の平均は前
半 (1984 ~ 2003 年) が 2.0%、後半 (2004 ~ 2013 年) が 1.9%と差は見られないが、
ストックの増加率は漸減しており [図表 1-1-11]、 建替えや再開発の割合が増加してい
ることが背景にあると考えられる。今後も、一部に鉄道用地や病院敷地などでの新規開
発はあるが、従前もオフィスビルであった物件の建替えや再開発が主流とみられ、ストッ
クの増加率は低位で推移すると考えられる。
※ 4 : 本稿では、専門的 ・ 技術的職業従事者、管理的職業従事者、事務従事者の合計をオフィスワーカー数とした。
※ 5 : 特別区の千代田区、中央区、港区、新宿区および渋谷区を指す。
※6 : 「東京の土地」によると、着工床面積は都の都市整備局 「建築統計年報」、ストックは課税資料となっており、
異なる資料に基づくものである。
[図表 1-1-8]
将来人口の推計
(全国)
0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 140,000
2
0
1
0
年
2
0
1
2
年
2
0
1
4
年
2
0
1
6
年
2
0
1
8
年
2
0
2
0
年
2
0
2
2
年
2
0
2
4
年
2
0
2
6
年
2
0
2
8
年
2
0
3
0
年
2
0
3
2
年
2
0
3
4
年
2
0
3
6
年
2
0
3
8
年
2
0
4
0
年
2
0
4
2
年
2
0
4
4
年
2
0
4
6
年
2
0
4
8
年
2
0
5
0
年
総人口 15~64歳人口
約15%減少
約26%減少 人口( 千人)
[図表 1-1-9]
東京都区部のオフィスワーカー数の推計
0 50 100 150 200 250 300 350 4002005年 2010年 2015年 2020年 2025年
区部 都心5区
( 万人)
データ出所 : 東京都 「東京都就業者数の予測 H22 年」
[図表 1-1-10]
オフィス床の着工面積
(東京都区部)
0% 1% 2% 3% 4% 5% 0 50 100 150 200 250 300 350 1 9 9 4
年
1
9
9
5
年
1
9
9
6
年
1
9
9
7
年
1
9
9
8
年
1
9
9
9
年
2
0
0
0
年
2
0
0
1
年
2
0
0
2
年
2
0
0
3
年
2
0
0
4
年
2
0
0
5
年
2
0
0
6
年
2
0
0
7
年
2
0
0
8
年
2
0
0
9
年
2
0
1
0
年
2
0
1
1
年
2
0
1
2
年
2
0
1
3
年
対ストック割合( 右軸) 都心5区の対ストック割合(右軸) 着工面積( 左軸) ( 万㎡)
対ストック割合の平均値:2.0% 対ストック割合の平均値:1.9%
データ出所 : 東京都 「東京の土地」
[図表 1-1-11]
オフィス床のストック
(東京都区部)
0% 1% 2% 3% 4% 5% 6% 7% 8% 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 9,000 10,000 1 9 9 5
年
1
9
9
6
年
1
9
9
7
年
1
9
9
8
年
1
9
9
9
年
2
0
0
0
年
2
0
0
1
年
2
0
0
2
年
2
0
0
3
年
2
0
0
4
年
2
0
0
5
年
2
0
0
6
年
2
0
0
7
年
2
0
0
8
年
2
0
0
9
年
2
0
1
0
年
2
0
1
1
年
2
0
1
2
年
2
0
1
3
年
ストック増加率( 右軸) 都心5区のストック増加率(右軸) ストック ( 万㎡)
(2)
都心部 : 賃料上昇が小さいため、
キャップレートが低くてもオフィス価格の
上昇は小幅に止まっている
J-REITが 都 心5区 で 保 有 す る 賃 貸 オ フ ィ ス ビ ル ( 以 下 「 賃 貸 ビル 」 と い う。) で は、
2014年 頃 か ら 価 格 が 上 昇 し [ 図 表1-1-12]、 キ ャ ッ プ レ ー ト
※7
は2007年 や2008年
と 同 じ く 低 水 準 で あ る [ 図 表1-1-13]。 し か し、 評 価 額 に 基 づ く 価 格 指 数 (2004年 =
100)
※ 8
は、直近でも 2007 年や 2008 年の水準に達していない [図表 1-1-12]。
こうした動きは公示地価でも同様で、 都心 5 区 (商業地) の 2014 年や 2015 年の公
示地価の価格上昇率は、2007 年や 2008 年の上昇率を大きく下回っている [図表
1-1-14]。
都心部のキャップレートが低位であるにもかかわらず、 価格指数が 2007 年や 2008 年
の水準に達しないのは、純収益
※ 9
の原資となる賃料水準があまり上昇していないことが
原因と考えられる
※ 10
。オフィスの賃貸仲介会社のデータによると、 空室率は低下を続け、
7%程度の時に賃料水準が上昇しはじめているものの 2007 年や 2008 年の水準には達し
ていない [図表 1-1-15]。
賃料上昇が小幅にとどまっている要因については、前項で述べたように、従来は大規
模 ・ 高スペックのオフィスビルは希少性が高く、差別化により競争力があったため、 高額
賃料を負担できる外資系金融機関等のテナントが入居し賃料水準の大幅な上昇を実現
することができた。これに次ぐテナント層にあっても、空室率が低下し入居できる候補オフィ
スビルの選択肢が少なくなる中で、高額賃料の物件に引きずられる形で下位のビルの賃
料が上昇し、市場全体の賃料水準が上昇したと考えられる。
これに対して現在は、 高額賃料をけん引するテナント業種が不在となり、 供給増によ
り大規模 ・ 高スペックのオフィスビルの希少性が低下した。こうした需給変化が、賃料上
昇が小幅にとどまるという状況の一因になっていると考えられる。
※ 7 : データは取得時の鑑定評価における総合還元利回り。
※ 8 : 各期末の鑑定評価額をベースとした。
※ 9 : 直接還元法の評価式における純収益を指す。
※ 10 : 不動産収支では費用は固定費的な動きをすることから、空室率が低水準な状況にあって純収益の増加が不十
分なのは、賃料水準があまり上昇しないことが原因と考えられる。
[図表 1-1-12]
価格水準
(J-REIT が保有する都心 5 区の賃貸ビル)
-20% -15% -10% -5% 0% 5% 10% 15% 20%
60 70 80 90 100 110 120 130 140
2
0
0
4
年
2
0
0
5
年
2
0
0
6
年
2
0
0
7
年
2
0
0
8
年
2
0
0
9
年
2
0
1
0
年
2
0
1
1
年
2
0
1
2
年
2
0
1
3
年
2
0
1
4
年
2
0
1
5
年
3
月
変動率( 右軸) 価格指数( 左軸)
2004年=100 (年率)
[図表 1-1-13]
取得キャップレート
(J-REIT が保有する都心 5 区の賃貸ビル)
0% 1% 2% 3% 4% 5% 6% 7% 8% 2 0 0 1 2 0 0 2 2 0 0 3 2 0 0 4 2 0 0 5 2 0 0 6 2 0 0 7 2 0 0 8 2 0 0 9 2 0 1 0 2 0 1 1 2 0 1 2 2 0 1 3 2 0 1 4 2 0 1 5データ出所 : 都市未来総合研究所 「ReiTREDA」
[図表 1-1-14]
公示地価の変動率の比較
(都心 5 区
(商業地))
0% 5% 10% 15% 20% 25% 30%
港区 渋谷区 新宿区 千代田区 中央区
2007年、2008年平均 2014年、2015年平均
データ出所 : 国土交通省の各年の 「地価公示」
[図表 1-1-15]
空室率と募集賃料
(都心 5 区の既存ビル)
0% 1% 2% 3% 4% 5% 6% 7% 8% 9% 10% 0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 2 0 0 2 /1 2 0 0 3 /1 2 0 0 4 /1 2 0 0 5 /1 2 0 0 6 /1 2 0 0 7 /1 2 0 0 8 /1 2 0 0 9 /1 2 0 1 0 /1 2 0 1 1 /1 2 0 1 2 /1 2 0 1 3 /1 2 0 1 4 /1 2 0 1 5 /1
平均賃料 空室率
賃料水準( 円/坪) 空室率
(3)
都心の周辺部 : 周辺部の区にも一定のオフィスストックが存在するが、
そ
の規模は縮小する可能性
東京都心 5 区と品川区、 江東区は、オフィス床面積のストックがそれぞれ 500 万㎡を
超えており、都心のオフィスストックの観点で中心的な 7区といえる。 本稿では、 この 7
区に次ぐオフィス床面積のストック規模で、2015 年の上場企業の本社立地数が 20 社以
上の区を周辺 6 区
※ 11
として取り上げた [図表 1-1-16]。
周辺6区に立地する上場企業の本社数
※12
は減少傾向にあり、2009年から2015年
に か け て16 % 減 少 し200社 と な っ た [ 図 表1-1-17]。都 心5区 で は、 2014年 以 降 増
加しており、対照的である。
上場企業の本社数の継続的な減少は、オフィスエリアとしての拠点性の低下に結びつ
くと考えられ、オフィス需要にとってはマイナス要素となる。このことから、周辺部でのオフィ
ス需要は弱含みと考えられる。
また、周辺 6 区のオフィス床面積の合計のストック量を指数 (2008 年= 100)でみると、
2013 年は 101 強で、ほとんど増加していない。着工のストックに対する割合は減少傾向で、
2008 年から 2013 年にかけて 1.5%から 0.7%となっており、滅失を考慮すると現状のストッ
ク規模の維持が難しい水準
※ 13
と考えられる [図表 1-1-18]。
J-REITが周辺6区に所有している賃貸ビルを抽出
※14
すると、 平均稼働率は低下し
平 均 専 有 単 価
※15
は2014年 度 上 期 ま で 下 落 を 続 け た。こ の 結 果、 同 条 件 で 抽 出 し た
賃貸マンションと比較して、賃貸ビルの専有単価が賃貸マンションを下回る状況となって
いる [図表 1-1-19]。
※ 11 : 大田区、豊島区、台東区、文京区、目黒区そして墨田区
※ 12 : 立地している上場企業本社数は、子会社化などによる非上場化等で変化し、必ずしもオフィス需要の大小と正
比例するわけではない。
※ 13 : オフィスビルの寿命を 50 年とすると、平均的にストック量の 2%未満の着工だと、着工より滅失のほうが多くな
ると推計されるため、ストック量の 2%以上の着工がストック規模維持のための一つの目安になるものと考えられる。
※ 14 : 専有単価 (※ 13 参照) が 2014 年度下期に 200 万円 / 坪~ 250 万円 / 坪の物件で当該期間中にデータ
欠損のない物件を抽出した。
※ 15 : 次の式で求めた専有単価の単純平均。決算時鑑定評価額(百万円) ÷賃貸可能面積 (坪)
[図表 1-1-16]
区別のオフィスストックと上場企業本社立地数
(2013 年)
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 2,000
港区
千代田区
中央区 新宿区 渋谷区 品川区 江東区 大田区 台東区 豊島区 文京区 目黒区 墨田区
世田谷区
杉並区 中野区
北区
板橋区 練馬区 足立区 荒川区 葛飾区
江戸川区
事務所床面積( 千㎡) 上場企業本社立地数
( 万㎡) ( 社数) 都心5区
中心的な7区 周辺6区
[図表 1-1-17]
上場本社立地数
(周辺 6 区)
0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600
100 120 140 160 180 200 220 240 260
2
0
0
9
年
2
0
1
0
年
2
0
1
1
年
2
0
1
2
年
2
0
1
3
年
2
0
1
4
年
2
0
1
5
年
周辺6区 都心5区(右軸)
データ出所 : 東洋経済新報社 「会社四季報」
[図表 1-1-18]
事務所床のストック比較とストックに対する着工の割合
(周辺 6 区)
0.0% 0.2% 0.4% 0.6% 0.8% 1.0% 1.2% 1.4% 1.6%
97 98 99 100 101 102 103 104 105
2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年
対ストッ ク割合 周辺6区 周辺18区 都心5区
(2008年=100) ( 対スト ック割合)
データ出所 : 東京都 「東京の土地 2013」
[図表 1-1-19]
専有単価の比較
(周辺 6 区)
78% 80% 82% 84% 86% 88% 90% 92% 94% 96% 98% 100%
2 2.2 2.4 2.6 2.8 3 3.2
0
8
年度上期
0
8
年度下期
0
9
年度上期
0
9
年度下期
1
0
年度上期
1
0
年度下期
1
1
年度上期
1
1
年度下期
1
2
年度上期
1
2
年度下期
1
3
年度上期
1
3
年度下期
1
4
年度上期
1
4
年度下期
賃貸ビ ルの稼働率平均(右軸) 賃貸ビ ル(11) 賃貸マン ション(20) ( 百万円/坪)
() 内は対象物件数
(4)
今後 : オフィス需給の構造的な変化に対応した戦術が必要
東京都区部のオフィス市場の需給状況は、 次のように整理できよう。
・ オフィス賃料の上昇が低水準なのは、高額賃料をけん引するテナント業種の不在や
大規模 ・ 高スペックオフィスビルの希少性の低下といった需給の変化が要因の一つと
考えられる。
・ 周辺部の一部では、オフィスエリアとしての拡大は限定的とみられオフィス需要は弱
含み。供給面も弱含みであることから、賃貸オフィス市場の規模の縮小が懸念される。
築浅ビルの構成が低かった中央区、渋谷区等 (図表 1-1-20) における再開発や、
品川区、江東区における新規開発が今後も予定されていることから、 中心的な 7 区
での大規模 ・ 高スペックのオフィスビルの供給の動きは堅調で、これらの希少性の低
下が続く可能性がある。
一方、 今後のオフィス需要を増加させる明らかな要因は現時点では見当たらず、 オフィ
スワーカー数の減少に伴って需要が縮小する可能性は否定できない。
以上を 踏ま え ると、 今後の 東京都区部で の オ フィス ビル 等の 不動産事業で、 従来型
の大規模 ・ 高スペック開発に加え、成熟化する市場を念頭に置き、 市場に残されたニッ
チ領域を開拓する戦術の有効性が高まると考えられる。
[ニッチ戦術の例]
・ 都市部では、リーズナブルな賃料を希望するボリューム・ゾーンのテナント層をターゲッ
トとして、現オフィスストックとの差別化を図れる中規模・高スペックや小規模・高スペッ
クといったオフィスビルの整備。
・ 周辺部では、既存オフィスビルが住居系施設へ用途転換することを前提とした小型
スーパーマーケットや子育て支援施設といった住宅向け機能や施設の整備。
[図表 1-1-20]
建築年代別のオフィスストック
(2013 年)
0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 2,000
港 区
千 代 田 区
中 央 区
新 宿 区
渋 谷 区
品 川 区
江 東 区
大 田 区
台 東 区
豊 島 区
文 京 区
目 黒 区
墨 田 区
~2012年
~2004年
~1984年
( 万㎡)
3. オフィス投資市場におけるニューノーマル
(新常態)
~成熟化 ・ ボラティリティ低下するオフィス市場~
執筆者 : 常務執行役員 主席研究員 平山重雄 ([email protected])
前 2 項をふまえて、本項では投資物件の取得市場の成熟化とリスク / リターンの変動
幅の縮小について考察し、 これらが今後のニューノーマル (新常態) となる可能性につ
いて述べる。 あわせて、ニューノーマルの下での投資家属性の変化と市場成長について、
展望を述べる。
(1)
オフィス賃貸収益の上方への変動幅が縮小
① オフィスビルがコモディティ化
東京都心のオフィスビル市況では、 ビル建設の累積効果で低い空室率の下でも空室
の 絶 対 量 が 増 加 し、 入 居 ビ ル 検 討 の 選 択 肢 が 広 が っ た と 考 え ら れ る。 ま た、 大 規 模 ・
高スペックビルの市場構成比が上昇し、 結果、希少性が低下した可能性がある。 国土
交通省 「建築着工統計調査」 によると、 東京 23 区で 1995 年度から 2011 年度に着工
したオフィスビルの床面積の 61%は床面積 1 万㎡以上の大規模ビルによるもので、 その
棟数は合計 346 に上る。
このように大規模ビルが普及し、 あわせて選択の容易性が広がったことで、オフィスビ
ルという商品のコモディティ化 (普及品化) が進んでいると考えられる。
② ハイグレード特需の終息
2006 年から 2008 年頃にかけて、 外資系金融や IT 関連業種等の高付加価値 ・急成
長業種が、 入居するビルのグレードで自社のステイタスやブランド性を補完する戦術を採
り、 これがオフィス市場の特需となって賃料を押し上げた。
現在、 オフィス賃料の上方への変動幅が縮小しており [図表1-1-21]、 背景として、
特需の終息、 すなわち高付加価値 ・急成長業種に該当する企業が限られること、大規
模 ・ 高スペックビルがコモディティ化してハロー効果
※ 16
が弱まったことなどが考えられる。
今後、 このような特需が再来する蓋然性は低いと考えられることから、 賃料上昇は平時
の実需ベースとなり、上方変動幅の縮小が定着化する可能性がある。
[図表 1-1-21]
オフィスビル賃料の上振れ幅が縮小
5 ,0 0 0 1 0 ,0 0 0 1 5 ,0 0 0 2 0 ,0 0 0 2 5 ,0 0 0 3 0 ,0 0 0
全体
大規模
大型
中小型 ( 円/坪)
※大規模:基準階床面積200坪以上、大型:同100坪以上200坪未満、中小型:同100坪未満
※Ⅰ期(1~3月)Ⅱ期(4~6月)Ⅲ期(7~9月)Ⅳ期(10~12月) ※共益費は含ま ない
(2)
投資物件の取得環境が成熟化し、
取引が循環化
① 成熟化 : 不動産投資市場への新規資産の流入が減少
資産のリストラクチャリングが一巡した結果、 事業法人や公共法人等が売却し不動産
投資市場に流入する新規資産の額が、公表ベースで、 従来の半分以下となる低水準で
推移している [図表 1-1-22]。不動産業等を経由して不動産投資市場に流入する新規
資産が、事業法人等からの流入額減少を補完しているが、 その元となる事業法人等か
ら不動産業等への売却額は低調である [図表 1-1-23]。この結果、 新規資産の流入が
細り、投資物件の取引市場が成熟化の局面を迎えている。
② 循環化 : 不動産投資セクター内での物件売買にシフト
不動産投資セクター
※ 17
の物件調達は、不動産投資セクター内での取引が中心となり
つつあり [図表 1-1-24]、投資用不動産の売買取引は一定のパイの中で循環する傾向
が強まっている。今後、 インフラ資産
※ 18
などが投資対象に加わり、 新規流入が増加す
る可能性があるが、その動きが一巡すると、再び循環基調に回帰すると考えられる。
[ 図表 1-1-22]
事業法人や公共法人等からの新規資産の流入が減少し、
成熟化
する不動産投資市場
-6,000 -4,000 -2,000
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
流入額( 売主: 事法等⇒買主: 投資セクター)
流出額( 売主: 投資セクター⇒買主: 事法等)
差引純額 ( 億円)
( 年度)2015年度は4-6月の実績
事業法人等から不動産投資セクターへの不動産流入流出状況
データ出所 : 都市未来総合研究所 「不動産売買実態調査」
[図表
1-1-23]
不動産業等からの取得で補完するが、
その前段階にあたる事業
法人等→不動産業等の取得は低調
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 流入額
( 売主: 不動産・ 建設⇒買主: 投資セクター)
潜在的流入額( 売主: 事法等⇒買主: 不動産・ 建設)
( 年度)2015年度は4-6月の実績
( 億円) 不動産業等から投資セクターへの流入額、事法等からの潜在的流入額
[図表 1-1-24]
投資市場のストック増加と新規資産の流入減少に伴って、
投資セ
クター内で不動産が循環
0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
不動産循環額( 売主: 投資セクター⇒買主: 投資セ クタ ー)
( 億円)
( 年度)2015年度は4-6月の実績
不動産投資セクター内での不動産循環額
データ出所 : 都市未来総合研究所 「不動産売買実態調査」
(3)
投資の合理性が高まり、
キャップレートないし価格の変動幅が縮小
① 1990 年代前半までの不動産投資は、金利差引後の運用収益がマイナス
1990年代半ばまでは、 収益還元法に基づく価格評価や多様な市況情報に基づく事
業性検討が一般的ではなく、近隣の売買価格等の限られた情報を主な判断材料として、
不動産価格の上昇期待に依存した不動産投資が行われたと推測される。 高金利であっ
たため金利差引後の運用収益はマイナスで、 逆スプレッド
※ 19
をキャピタルゲイン (期待)
でカバーする構図となった。 この結果、東京 23 区における大規模オフィスビルのキャッ
プ レ ー ト ( 以 下、CR) は 概 ね3 % を 下 回 る 低 い 値 で 推 移 し た と み ら れ る [ 図 表
1-1-25]。
1990年代半ば以降は長期金利が大きく低下し歴史的低金利に転じたにも関わらず、
バブル期の痛手から不動産投資に対するリスクプレミアムが拡大し、CR は大きく上昇し
た。
以上を通じて、1990 年代の CR の変動幅は大きく、 4%ポイント程度であったと推測さ
れる。
② 市況情報と収益還元法が普及し、市場メカニズムに自己規制がビルトイン
現在は賃料 ・稼働率や CRの事例など不動産の投資運用に関する市況情報が一定
程度入手可能となり、投資不動産の価格算定において収益還元法が定着したことから、
CR と金利の差であるイールド ・ スプレッドを意識した投資判断が常識化し、逆スプレッド
となる価格で不動産を取得することは行われなくなった。足下で CR が低位なため、CR
の僅かな変動幅で価格が大きく動くという感度リスクは増大しているが、ファンダメンタル
ズとしては、 自己規制が市場メカニズムに組み込まれたことで、80年代バブルのような
[図表 1-1-25]
1980 年代の資産バブル期は金利を下回る低いキャップレートで推移
0 1 2 3 4 5 6 7 8 1 98 4 1 98 5 1 98 6 1 98 7 1 98 8 1 98 9 1 99 0 1 99 1 1 99 2 1 99 3 1 99 4 1 99 5 1 99 6 1 99 7 1 99 8 1 99 9 2 00 0 2 00 1 2 00 2 2 00 3オフィスビルの推計キャップレートと長期金利
東京23区大規模オフィスビル の
キャッ プレート推計値 長期金利( 長期国債流通利回り)
(%)
(年)
データ出所 : オフィスビルのキャップレート推計値は、都市未来総合研究所 「不動産レポート 2005 特集編2 金利上昇
が予想される中での不動産投資市場の今後」。長期金利は財務省 「国債金利情報」 から各年の日次ベース単純平均値を
使用 (ただし、1987 年以降は 10 年物国債の流通利回り、1986 年以前は最長年限の国債流通利回り)。
[図表 1-1-26]
相対的に安定して推移する 2000 年代以降のキャップレート
0% 1% 2% 3% 4% 5% 6% 7% 8% 1
月
3
月
5
月
7
月
9
月
1 1
月
1
月
3
月
5
月
7
月
9
月
1 1
月
1
月
3
月
5
月
7
月
9
月
1 1
月
1
月
3
月
5
月
7
月
9
月
1 1
月
1
月
3
月
5
月
7
月
9
月
1 1
月
1
月
3
月
5
月
7
月
9
月
1 1
月
1
月
3
月
5
月
7
月
9
月
1 1
月
1
月
3
月
5
月
7
月
9
月
1 1
月
1
月
3
月
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J-REITが東京都心5区に保有するオフィスビルの取得時キャップレートと長期金利
月別平均キャッ プレート( 東京都心5区のオフィスビ ル、時点は評価時点。デ ータのない月の値を補間して作成)
10年国債の流通利回り( 月末時点)
(年)
データ出所 : 都市未来総合研究所 「ReiTREDA」、財務省 「国債金利情報」
(注) 東京都心 5 区とは、千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区をいう。
(4)
債券との近似性が強まるオフィスビル投資~新たな投資家層の台頭
① オフィスビルの投資特性が債券投資に近似
収益と価格の変動幅がともに縮小していることから、 オフィスビル投資のリスク / リター
ン特性がミドルリスク / ミドルリターンの傾向を強め、その意味で債券投資に近づいてい
ると考えられる。不動産には流動性リスクや元本毀損リスクがあり、 一般的な債券投資と
は安定性のレベルが異なるが、従来と比べて固定収益 (Fixed Income) 寄りで、今後、
収益変動が安定的なインフラ資産等が投資対象に加わるとその傾向はさらに顕著になる
であろう。
② オポチュニスティックな投資機会が減少
ミドルリスク / ミドルリターンの投資特性が強まることは、市況変動から得られるハイリター
ンの可能性が減少することを意味し、オポチュニスティックな投資家にとっては投資機会
が減少
※ 20
③ 安定リターンを求める新たな投資家層の台頭
一 方 で、収 益 変 動 の 低 下 で、 年 金 基 金 や 投 資 信 託、生 命 保 険 会 社、 個 人 富 裕 層
等の安定リターンを指向する投資家のニーズに適合しやすくなる。PFA
※21
やGPIF
※22
な ど の 大 規 模 な 公 的 ・私 的 年 金 が 不 動 産 投 資 の 実 施 を 表 明 し て お り、SWF
※23
に よ る
国内不動産の投資拡大の可能性も伺える。これらの不動産投資が本格化すれば、需要
が供給を促す形となって新規資産の流入が増加する、市場の成長シナリオが可能性を
増すと考えられる。アメリカでは、不動産投資においてこうした機関投資家の割合が大き
く [図表 1-1-27]、投資市場の成長に寄与している。
[図表 1-1-27]
アメリカにおける不動産の資金源
(2010 年)
プ ライベー ト・デ ット (民間融 資・私募債
等)
2153.7
パブ リック ・ デ ット (公募債 等)790.3 プ ライベー
ト・エク イ テ ィ804.8
パブ リック ・ エク イテ ィ
310.1
銀行
1735.4
生命保険 会社
240.1 REIT
無担保債
160.6
年金基金
17.6
CMBS 614.6
政府信用 機関
150.9
モー ゲ ー ジ
REIT 23.7
公募非取 引フ ァンド
1.1
個人 投資家
454.2
年金基金
184
海外 投資家
95.2
生命保険 会社
25.1
民間金 融機関
46.3
REIT 290.8
公募非取 引フ ァンド
19.3
エクイティ総額1兆1,149億米ド ル デット総額2兆9,440億米ド ル
不動産総額4兆589億米ド ル
プライベート・ デット パブリック・ デット
プライベート・ エクイティ パブリック・ エクイティ
円グラフ中の数値の単位 : 10 億米ドル データ出所 : Urbun Land Institute 「Emerging Trends in Real Estate 2011」
(注) 民間企業や非営利団体、政府の不動産所有主体が所有する不動産、戸建と自己所有の住宅を除く。
元データ : Roulac Global Places による。米国生命保険協会やコマーシャル ・ モーゲージ ・ アラート、米連邦準備制度
理事会、連邦住宅抵当公庫、IREI (インスティテューショナル ・ リアルエステイト)、NAREIT (全米不動産投資信託協会)、
プライスウォーターハウスクーパース、リアル ・ キャピタル ・ アナリティクス、その他さまざまなデータを源とする。
※ 16 :心理学の用語。この場合、オフィスビルのグレードが影響して、入居するテナントのステイタスが高いという印
象を与える効果。
※ 17 : 本稿で不動産投資セクターとは、J-REIT や SPC、私募 REIT、海外の不動産ファンド等をいう。
※ 18 : メガソーラー発電施設や地域冷暖房施設など。
※ 19 :金利が投資利回りを上回り、金利差引後の投資収益がマイナスとなる状態(N e g a t i v e S p r e a d)。なお、アメ
リカでも 1990 年代の初めまでは Negative Spread であったとする研究結果が複数ある (Petros S. Sivitanides,
Raymond G. Torto, and William C. Wheaton 「Real Estate Market Fundamentals and Asset Pricing」 Journal of
Portfolio Management, December 2003 ほか)。
※ 20 :他に、物件固有の価値向上策の実施や財務レバレッジの上昇による自己資本利益率の押し上げ、価格変動
の範囲内で売買差益を狙う等の投資手法はある。
※ 21 : 企業年金連合会 (Pension Fund Association)。「不動産投資は、長期的なインカムゲイン (賃料収入等) の
獲得を主たる目的とし、債券エクスポージャーの一部として、当該総資産の2%を目途に投資」 (企業年金連合