駒場ミクロ HW5 ∗
松井彰彦
2017 年 1 月 22 日
1 厚生経済学の第二定理に関する基本問題
1.1
初期配分ωi= (ωi1, ωi2)が与えられたもとで、財1の価格p1と財2の価格p2の割合が変化したときにiの最適な消費配分がどのよう に変化するかを分析してオファーカーブを求めます。
ここでωi, p1, p2の時のiの最適な消費配分(x∗i1, x∗i2)は下記のようになります。
(x∗i1, x∗i2)=
(ωi1+pp2
1ωi2, 0) if p1/p2<M RS
i 12
(x1, x2) where x1∈ [0, ωi1+ωi2/M RS12i ], x2= −M RS12i x1+ M RS12i ωi1+ ωi2 if p1/p2= M RSi12
(0,pp1
2ωi1+ ωi2) if p1/p2> M RS
i 12
ただし、M RS12i はiのM RS12を表すものとします。
よって、iのオファーカーブ上の消費配分をSi⊂ R2+とすると、初期配分ωi= (ωi1, ωi2)が与えられたもとで、Si= {(x1, x2) ∈ R2+|[x1> ωi1+ωi2/M RS12i , x2= 0] ∨ [x1∈ [0, ωi1+ωi2/M RS12i ], x2= −M RS12i x1+ M RS12i ωi1+ ωi2] ∨ [x1= 0, x2> M RSi12ωi1+ ωi2]}
xA2
xA1 (ωA1, ωA2) = (3, 0.25)
(4,0) (0,1)
図1 Aのオファーカーブ
xB2
xB1 (ωB1, ωB2) = (4, 1)
(5,0) (5,0)
図2 Bのオファーカーブ
1.2
AとBのオファーカーブの交点のうち、AとBの効用が予算制約下で最大となる消費配分の組がワルラス均衡における消費配分の組 になります。
初期保有が((ωA1, ωA2), (ωB1, ωB2))=((6, 1), (2, 3))の場合、ワルラス均衡は((x∗A1, x∗A2), (x∗B1, x∗B2), p2/p1)((0, 4), (8, 0), 0.5)になり ます。価格比は初期保有点とワルラス均衡での消費点を結ぶ線の傾きの絶対値として求められます。また、初期保有点を通る無差別曲線 はIiωでしたが、ワルラス均衡での消費点を通る無差別曲線はIiとなっています。価格比0.5の予算制約下で効用がどのiについても最 大化されています。
初期保有が、((ωA1, ωA2), (ωB1, ωB2))=((1, 1), (7, 3))の場合も同様にして解きます。今回のケースでは、均衡での価格比はM RSB12に
一致しています。ワルラス均衡は((x∗A1, x∗A2), (xB1∗ , x∗B2), p2/p1)((0, 2), (8, 2), 1)になります。
xA1
xA2
xB2
xB1
ω OA
OB
Bのオファーカーブ
Aのオファーカーブ (x∗A, x∗B)
図3 ((ωA1, ωA2), (ωB1, ωB2))=((6, 1), (2, 3))
xA1
xA2
xB2
xB1
ω OA
OB
(x∗A, x∗B)
−pp1
2
IA
IωA
IB
IωB
図4 ((ωA1, ωA2), (ωB1, ωB2))=((6, 1), (2, 3))
xA1
xA2
xB2
xB1
ω
OA
OB
Bのオファーカーブ
Aのオファーカーブ (x∗A, x∗B)
図5 ((ωA1, ωA2), (ωB1, ωB2))=((1, 1), (7, 3))
xA1
xA2
xB2
xB1
ω OA
OB
(x∗A, x∗B)
−pp1
2
IA
IωA
IB
図6 ((ωA1, ωA2), (ωB1, ωB2))=((1, 1), (7, 3))
1.3
OAを左下とするエッジワースボックス内でAとBの無差別曲線が接する点のうち、Aの無差別曲線がBの無差別曲線の上側にある 配分がパレート最適な配分となります。(接している場合であっても、Aの無差別曲線がBの無差別曲線の下側にある場合、パレート最 適とならないことを確認してください。)パレート最適な配分の集合は下記の図の赤い線になります。
xA1
xA2
xB2
xB1
OA
OB
図7 パレート最適な配分
1.4
厚生経済学の第二定理は成立します。任意のパレート最適な配分(x∗A, x∗B)について考えます。(x∗A, x∗B)を初期保有とした場合に、ワ ルラス均衡として(x∗A, x∗B)を達成するような価格比を考えます。
下記の三通りのケースに分けて考える必要があります。
下記図Case Iのようにx∗A1= 0, 0 ≤ x∗A2< 4を満たすような(x∗A, x∗B)を初期保有の移転によりワルラス均衡として達成する価格ベクト ルは、(p1, p2) = (M RS12Bp, p)になります(p ∈ R+)。
下記図Case IIのように0 < x∗A1< 8, x∗A2= 4を満たすような(x∗A, x∗B)を初期保有の移転によりワルラス均衡として達成する価格ベク トルは、(p1, p2) = (M RS12Ap, p)になります(p ∈ R+)。
下記図Case IIIのように0 = x∗A1, x∗A2= 4を満たすような(x∗A, x∗B)を初期保有の移転によりワルラス均衡として達成する価格ベクトル は、(p1, p2) = (mp, p)になります(p ∈ R+, m ∈ [M RS12A, M RS12B])。
xA1
xA2
xB2
xB1
OA
OB
(x∗A, x∗B)
IA
IB
図8 Case 1
xA1
xA2
xB2
xB1
OA
OB
(x∗A, x∗B)
IA
IB
図9 Case 2
xA1
xA2
xB2
xB1
OA
OB
(x∗A, x∗B)
IA
IB
図10 Case 3
2 ジャングル経済に関する基本問題
2.1
2.1.1
実行可能は配分は以下となります。 (みかん, りんご,ばなな )
(りんご, ばなな,みかん ) (りんご, みかん,ばなな )* (ばなな, りんご,みかん ) (ばなな, みかん,りんご )*
パレート最適な配分は*マークのついているものです。
2.1.2
ジャングル均衡は(みかん ,ばなな,りんご )なのでパレート最適です。
2.1.3
ジャングル均衡は(ばなな ,みかん,りんご )です。
2.1.4
市場均衡は[(りんご,みかん ,ばなな),p, p′, p′′)]です。ただしp, p′, p′′∈ [0, ∞),p′′< p < p′を満たします。パレート最適です。
2.1.5
市場均衡は[(ばなな,みかん ,りんご), p,q,q]です。ただしp, q ∈ [0, ∞)かつp < qを満たします。
3 発展問題
3.1
3.1.1
(A,C,E,D,B)という内定状況になります。
3.1.2
存在しません。 証明
内定状況Pが(B,A,C,D,E)よりパレート効率的だとします。この時、G,H,I社については、すでにもっとも選好の高い学生を得ているの
で、Pにおいても同じくA,C,Dが内定していなければなりません。ここで、F社、J社に注目します。PにおけるF社とJ社の内定者を xとyで表します。Pがパレート効率的である時、x ≻ Bまたはy ≻Eとなります。x ≻ Bが成り立つならばxはAしかありえません が、すでにAはG社に内定しているため矛盾となります。よって、xはBとなります。この時、y ≻Eが成立すようなyはA,B,C,Dの いずれでもよいのですが、これらの学生は皆他企業に内定しているため、y ≻EとなるyがPでJ社に内定しているとすれば矛盾です。 よって、存在しないことが示されました。
3.1.3
本問に関しては解答の方針を示します。
まず、N=1の時、学生は1人、会社も1社なので、内定先はただ一通りに定まります。明らかに均衡は存在し、唯一のものです。 N=kの時、ただ一通りに内定先が定まると仮定します。つまり、均衡が存在し、唯一であるとします。
N=k+1の時、F1の企業がまず、最も選好の高い学生に内定を出します。ここで内定がまだ定まっていない学生はk人で、内定を出して
いない企業数もkです。よって、仮定より、これらの学生と企業の間ではただ一通りに内定先が定まります。F1の企業の内定者は1通り です。よってk+1の場合もただ一通りに内定先が定まります。
3.2
3.2.1
(ベース、ギター、ドラム)です。
3.2.2
(ベース、ギター、ドラム)、(ギター、ドラム、ベース),(ギター、ベース、ドラム)
3.2.3
ジャングル均衡(ギター、ベース、ドラム)。この均衡はパレート最適です。
3.2.4
(ベース、ギター、ドラム)、(ドラム、ベース、ギター)がジャングル均衡です。(ベース、ギター、ドラム)はパレート効率的ですが、(ド ラム、ベース、ギター)はパレート効率的ではありません。
今回は、授業で取り扱ったジャングル経済とは異なり選好は、全員の楽器の配分の組み合わせの上に成り立っています。つまり、他者の 保有する財も考慮した選好となっています。バンドのように、自分の楽器だけでなく、自分以外の他者がどの楽器を保有しているかが重 要な場合、実は、ジャングル経済でパレート効率的な配分を達成できない場合があります。これは個々人が自分の選好に基づいて行動し てもパレート効率的な配分が達成できない状況であり、外部性が発生している状況といえます。