労働経済学2(第 8 回)
広島国際協力研究科
川田恵介
復習:採用活動
• エージェント(応募者)の情報の一部を、プリンシパル
(採用者)が知らない、という状況を分析してきた。
⇒プリンシパルは、上手くエージェントの情報を引き出そう とする誘因が存在する。
ポイントは、以下に上手く
• 企業に関する情報に応募者が知らない、という状況も
合理的群集行動
• 現在就職活動に関して、多くの学生が特定の企業に集 中してしまう、という問題が指摘されている。
• 多くの人々が一カ所に集中する、という事象( ) はしばしば観察される。(例)火災発生時に、特定の非常 口に人々が集中してしまう。
• 就職活動等の経済主体がじっくりと考えて取り組む自 称についても、社会的に非効率な群集行動は発生しう るか?⇒
合理的群集行動
• 今100人の学生が就職活動を行っている。
• 同じような業務、賃金の二つの求人(求人A,B)存在する。
• 労働条件について、学生には観察不可能な部分が存 在する。学生は応募前に、個々の求人の労働条件につ いて、情報指標を受け取ることができる。
• 90人はAのほうが労働条件が悪いという指標を受け取 り、10人はBのほうが悪いという指標を受け取ったとす
合理的群集行動
• 受け取った指標について情報交換が可能:求人Bのほ うが労働条件が良い可能性が高いことを認識できる。
⇒
情報交換が不可能でかつ他の応募者の行動も観察不可 能:
⇒
⇒
合理的群集行動
• 情報交換は不可能だが、他者の応募行動は観察可能 ならばどうなるか?(例:twitter, 掲示板, facebook etc)
• 仮に求人Aに有利な指標を受け取った10人の学生がB に応募したとする。
• そのことを知った残りの学生は、 に応募する可 能性が高い。
合理的群集行動
• ある学生がどちら応募するか、という行動は他の学生 に対して、その学生がもつ指標についての に なっている。
• 多くの学生が応募している求人については、仮に自身 はネガティブな指標を持っていたとしても、その指標を
「 」、応募する可能性がある。
• 結果、指標の大部分が捨てられ、労働条件が悪い可能 性が高い求人に、学生が殺到する可能性がある。
Job Design
ここまでの議論:エージェントが行う「 」は固定
• 実際には、プリンシパルは、エージェントにどのような 業務を任せるのか、決定することが可能である。
• だれに、なにを、どこまで任せるのか (Job Design)とい う問題を考える。
報酬設計 貢献
「業務の束」としての組織
• 組織の構成員は、それぞれの業務を行っている。
• 組織は業務を組み合わせることで、組織の目的を果た している。
従業員
生産物 従業員
家計
家計
(例)ファーストフード店
パテを焼く
フライをあげる
経理
バイトの採用 レジ
サンドウィッチの組み立て
バイトへの指示
経済学の視点
• ここまでの講義内容から、Job designの際に考慮すべき 点は、すでに議論可能。
• 今回は以下の2点から議論を行う。
• (だれに何を任せるか)
• (どの範囲を任せるか)
基本モデル
• 二つの業務(A,B)、二人のエージェント(a,b)が存在する。
• 各エージェントの業務時間は�時間である。
• エージェント�が業務�を行った場合、単位時間当たり��� だけの便益を組織にもたらす。
• エージェント�の業務Aへの従事時間をℎ��とすると、
• 業務Aからの便益は
• 業務Bからの便益は
業務の割り当て
aにA、bにBを任せる: ℎ�� = �, ℎ�� = 0 aにB、bにAを任せる:ℎ�� = 0, ℎ�� = � aにA、bにBを任せた場合の便益
aにB、bにAを任せた場合の便益:
��� > ���(エージェントaは業務Aに対して絶対優位を持 つ)であるとする。エージェントaに業務Aを任せるべきか?
⇒
比較優位
• エージェントaに業務Aを任せた場合のほうが、便益を大 きくできる条件は、
���� + ���� > ���� + ���� →
• エージェントaは、業務Aが業務Bに比べ、相対的に得意 ならば業務Aを任せるべきである。( )
• 仮に��� > ���であったとしても、���が���に比べて十 分に大きければ、業務Bを任せるべき。
複数業務 VS 単一業務
• 先のモデルでは、エージェントにはもっとも比較優位を 持つ業務を任すべき⇒一人のエージェントに複数の業 務を任す(積極的な)利点は存在しない。
• 現実的には、複数業務の利点はいくつか存在する。
• 単一業務においては、業務間の意思疎通に齟齬を きたす可能性がある。
• 多くの業務を経験することで、「視野が広がる」。
• 労働者が「働き甲斐」を感じる可能性がある。
インセンティブの問題( 複数業務の問題 )
(復習)複数業務の問題:業績指標の観察が容易な業務と 困難な業務が存在した場合、賃金と業績指標の連動を強 めれば、貢献へのインセンティブが強化できる反面、観察 困難な業務への貢献が低下してしまう。
• 業務Aは業績指標が に観察できるが、Bは であるとする。
job design による解決
• それぞれの業務を エージェントに任せる。
• 業務Aに従事するエージェントには業績指標に強く依存 した、業務Bに従事するエージェントにはより固定報酬 に近い報酬体系を提示する。
• 複数業務の問題を回避し、適切なインセンティブを供給 できる。
(例)研究・開発職、営業職と事務職
人事評価の問題
• ジョブデザインにおいては、生産性への影響だけでは なく、エージェントの能力や適性の評価を容易にする、 という視点も重要視される。
• 背後には、管理職やプロジェクトのリーダー等にだれを 抜擢するか、という問題に際しては、労働者の適正をき ちんと把握する必要がある。
人事評価の問題
• 特に上級の管理職に昇進する労働者は、営業部門や 製造部門、経理、人事部門等、多くの部署を経験してい る。
• とくに「日本的雇用慣行」において、頻繁に観察される。
⇒複数の業務を任すことで、エージェントの能力、貢献水 準について、適切な評価が可能になる。
ジョブ・ローテーション
モデル
• エージェントの能力は0または1。
• エージェントの貢献水準は、プリンシパルは観察不可能 だが、業績指標を観察できる。
• 業務固有のショックが存在し、業績指標と貢献水準は かい離しうる。
(例)営業部門:景気の悪化、研究開発部門:大学による技
業務固有のショック
• 3つのケース(正のショック、負のショック、ショックなし) が存在する。
• 正のショックは確率�ℎで発生し、この場合は能力に関 係なく、業績指標�ℎが生じる。
• 負のショックは確率��で発生し、この場合は能力に関 係なく、業績指標��が生じる。
• 1 − �ℎ − ��の確率でショックは発生せず、この場合能 力1の場合�ℎ、0の場合��が生じる。
単一業務
• エージェントaを業務A、エージェントbを業務Bを任せた 場合、エージェントaのほうが業績指標が良い確率は、
エージェントbのほうが業績指標が良い確率は、
• エージェントaは能力1、エージェントbは能力0である。
• プリンシパルは見抜けるか?
複数業務
• エージェントa、bに、業務A、Bをともに任せた場合、
• エージェントaのほうが業績指標が良い確率は、業務 A,Bどちらかでショックが到来しなければよいので、
• エージェントbのほうが業績指標が良い確率は、
単一業務VS複数業務
• 複数業務でエージェントaのほう指標が良い確率-単一 業務でエージェントaのほう指標が良い確率=
2 1 − �ℎ − �� − �ℎ 1 − �ℎ − 1 − �ℎ − �� 1 − �ℎ
=
• 複数業務においては、エージェントbのほうが指標が良く なることはありえない。
• 複数業務においては、業務固有のショックによる影響を、
まとめ
• 応募者間での情報交換が不十分な場合、合理的な群 集行動が生じ、特定の職への過剰集中が生じる可能性 がある。
• Job designは、(1)比較優位の視点、(2)人事評価の視 点、を総合的に勘案する必要性がある。