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お問合せ先

茨城大学学術企画部学術情報課(図書館)  情報支援係

http://www.lib.ibaraki.ac .jp/toiawas e/toiawas e.html

R O S E リポジトリいばらき (茨城大学学術情報リポジトリ)

T itle

小学校理科の物理

A uthor(s )

矢島, 裕介

C itation

茨城大学教育学部紀要. 教育科学, 67: 107-124

Is s ue D ate

2018-01-30

UR L

http://hdl.handle.net/10109/13442

R ig hts

(2)

小学校理科の物理

矢島裕介* (2017 年 8 月 31 日受理)

Physics in Elementary School Science

Yusuke Yajima* (Accepted August 31, 2017)

Abstract

 Essential physical aspects in elementary school science have been compiled in the form of a handout that could be distributed in classes for students aiming to teach science at elementary schools.

はじめに

 理科教育には全学校種に共通した課題とは別に各学校種固有の課題があるが,それが特に顕著に 表れているのが小学校理科である。すなわち,中学校以降の理科教育が,ある程度抽象化された基 本的な事項から出発してそれを順次高度していくという,いわば“大人の学習スタイル”で進行す るのに対して,小学校理科には生活科を引き継ぐ形で児童にとって身近な事象をテーマに組み立て られているという特徴がある。身近な自然現象は学問的な難易度とは無関係に私達の生活に関わっ ているから,これをテーマにした小学校理科には,学問的には中学校や高等学校の理科のレベルを はるかに越える内容も含まれている。例えば,小学生は理科の授業が始まる3年生で早速磁石の性 質を学習する。その中で,釘(鉄)は磁石につくが十円玉(銅)は磁石につかないことを学ぶが, これを事実として受け止めるだけでは満足できない児童の 「どうしてだろう?」 という疑問は大学 院レベルの物理学のテーマとなる。もちろん,児童にそこまでの指導をすることはできないし,教 員もそのレベルまで物理学に習熟している必要はないが,指導している内容が自然科学の諸分野と どの様な関りを持っていているかが分かっていれば,上記のような児童の疑問に対しても学習意欲 を失わせることのない対応ができる。したがって,小学校理科教員の養成においては,単なる“中 学校理科の簡単バージョン”ではない,小学校理科の特徴に十分配慮した授業群から成る教育体制 が必要である。それらの授業は,小学校理科が,その前提となる生活科からどのような内容を引き

       

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継ぎ,上級学校での理科やさらにその上位にある自然科学の諸分野へとどのように繋がって行くか が見渡せるような内容でなければならない。

小学校理科の特徴-物理学的な観点

 小学校理科は児童に身近な事象から構成されているので,その内容は物理学,化学,生物学,地 学といった“大人の”学問分類そのものではなく,それらにほぼ対応した 「エネルギー」,「粒子」, 「生命」,「地球」 の4カテゴリーに分類されている。物理学に対応するエネルギー分野の学習内容1)

を,力学的な内容と電磁気学的な内容に分けると以下のようになる。

 表1より,小学校理科で採り上げられている“物理学的な”テーマには,力学的なものよりも電 磁気学的なものが多いことが分かる。生活科から小学校理科への橋渡し的な内容である3年生での 「風とゴムの力の働き」 を除いた実質的な力学的内容については,高学年になって5年生で 「振り 子の運動」,そして6年生で 「てこの規則性」 を学習するのみであるのに対して,電磁気学的な内 容については,先に指摘した3年生での 「磁石の性質」 を含めた充実したテーマが各学年に配置さ れている。これは,小学校教員になることを目指している大学生が特に注意すべき点である。なぜ なら,大学での物理学の授業は力学から始まることが一般的であり,物理学系授業群の入口として 「基礎物理学」,あるいは 「物理学概論」 といった名称で開講されている授業の内容は,殆どの場合 力学のみ,または力学中心だからである。小学校教員を目指す学生にとって物理学は必ずしも学習 の中心ではないから,これらの学生の履修計画の中で物理学は必要最低限,すなわち上記の入門的 な授業のみに留まることが多い。その結果,電磁気学的な内容については十分な準備ができぬまま 小学校教員となり,児童の指導を行うことになりかねない。極端な場合には,大学で電磁気学的な 内容を含む授業を殆ど受講せずに小学校の教員になり,いきなり3年生の児童に磁石や電気の指 導を行うような事態が生じかねないのである。実際,理科の授業の中でも特に電気や磁気などの電

表1.小学校理科の物理学的な内容

校種 学年 力学的内容 電磁気学的内容

3 風とゴムの力の働き

光と音の性質※ 磁石の性質 電気の通り道

4 電流の働き

5 振子の運動 電流がつくる磁力

6 てこの規則性 電気の利用

1 力の働き 光と音※

2 電流

電流と磁界

3

力のつり合いと合成・分解 運動の規則性

力学的エネルギー

:光が中心の内容なので便宜上電磁気学的内容として分類した。

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磁気学的な内容の単元の指導を苦手と感じている小学校の現職教員は少なくないようである。した がって,小学校教員を目指す学生が自分の履修計画を立てるにあたっては,単に卒業要件や教員免 許状取得要件だけから機械的に履修科目を決めるのではなく,実際に小学校教員になった時にどの ような内容をどのタイミングで指導を行うことになるのかを十分理解した上で,その準備のために 必要な内容を含む授業を主体的に選び出していくことが,小学校理科の物理学分野の内容の指導に 関しては特に重要である。合わせて大学側には,これに対する手厚い履修指導やサポート体制が要 求される。

小学校理科の物理-中学校理科との関係

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小学校理科の物理-教員養成課程における授業

 小学校理科に盛り込まれている物理学的内容には上記のような上級学校の理科や物理にはない特 徴がある。したがって,小学校教員を目指す学生を対象とした物理学関連の授業はこれらの特徴を 反映した構成となっている必要があり,一般の理系学部学生向けの物理学の授業の圧縮版,簡略版 で間に合わせることはできない。また,小学校教員養成課程のカリキュラムは,理科を含めた全科 目や教職関連科目など多くの授業で構成されるため,物理学関連の授業に割り当てられる時間は一 般理系学部に比べて僅かである。これらの条件から,このカリキュラムの中には小学校で理科の指 導を行うのに必要な内容をコンパクトに纏めた小学校教員志望学生専用の物理学の授業を組み込む ことが必要となる。

 そこで,以下では,例えば 「小学校理科内容研究」 といった科目名の15回の授業を物理学(エ ネルギー),化学(粒子),生物学(生命),地学(地球)の4分野の教員で分担担当し,その中の 3~4回の授業を物理学分野に割り当てることを想定して,そこで説明する内容を検討する。これは, 授業の際に受講生に配布する資料としても使えるものとした。説明は,一般の物理学の授業のよう な力学→電磁気学という順番ではなく,小学校理科に合わせるために電磁気学→力学の順番にして ある。また,内容では小学校理科と中学校理科の繋がりが分かりやすいように,“小学校物理から 見た中学校物理”,“中学校物理から見た小学校物理”の両方が把握できるよう説明を工夫した。そ して,小学校理科の指導に役に立つものであれば,一般の入門的な物理学の授業では採り上げない ような内容も加えた(例:強磁性体の物性,振子の運動の解析的性質など)。

 全体の構成は,

とした。

小学校理科の物理

1.電気

1.1 電荷と電流

 豆電球,電池,スイッチ,電流計を図1のように導線で つなぎスイッチを入れると,電池の+極から-極に向かっ て電流が流れ,豆電球が点灯し電流計の針が振れる。①ス イッチを入れなければ電流は流れない。また,②電池を取 去って電流計とスイッチを直接導線でつないだ時は,ス イッチを入れても電流は流れない。①と②から,電流が流 れるには,閉じた道(回路)と,そこに電流を流すための エネルギー源(源)が必要なことが分かる。

電気(電荷と電流,電圧と抵抗,電力,簡単な電気回路),磁気(磁極と磁場,強磁性体,電磁石, モーター),光(電磁波の一部としての光,光の反射と屈折),力(力のつり合い,トルクのつ り合い,滑車・輪軸,重力,ばね,位置と速度と加速度,運動の法則,振子の運動)

電池

電流計

豆電球

スイッチ

図1.豆電球の点灯2) 茨城大学教育学部紀要(教育科学)67 号(2018)

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 電流は 「電荷」 の移動である。電荷の単位はクーロン[C]であり, 1秒間に1クーロンの電荷が 移動する時の電流が1アンペア[A]である。電荷には 「電気素量」 と呼ばれる最小の単位があり, 液体のように連続的なものでない。但し,この電気素量は1.6×10-19クーロンと非常に小さいので, 通常の大きさの電流(0.1アンペア,1アンペア等々)であれば非常に多量の電荷が移動している ので,これを連続的に流れているものと考える場合が多い。米を計るのに,1粒ずつ数えずに牛乳 などの液体と同じようにカップで計るのと同様。

 電荷には正の電荷と負の電荷がある。負の電荷素量(-1.6×10-19クーロン)を持つ基本粒子が 電子で,正の電荷素量(+1.6×10-19クーロン)を持つ基本粒子が陽子である。原子は,いくつか

の陽子と電気的には中性の中性子が結合した原子核,およびその周りを運動する電子から構成され ている。通常,この電子の数は原子核内の陽子の数と同じなので原子は中性である。しかし,中性 の原子から電子が抜ければ正の電荷を持つことになり,電子が外から加われば負の電荷を持つこと になる。これらは,それぞれ正および負の 「イオン」 と言われる。

 異なる物質をこすり合わせると物質間で電荷の移動(実際に移動するのは電子)が起こり,両物 質には逆の電荷が生じる(摩擦電気)。例えば,下に並べた物質のどれか2つをこすり合わせた場 合,列の左側の物質には正,右側の物質には負の電荷が現れる(例:毛皮と琥珀をこすり合わせれ ば,毛皮には正の電荷が,琥珀には負の電荷が生じる)。

[+] 毛皮・ガラス・絹・毛糸・金属・ゴム・琥珀・エボナイト [-]

 摩擦電気を利用すると,電荷の間に働く力が分かる:同じ符号の電荷を持ったもの同士は反発し 合い,異なる符号の電荷を持ったものは互いに引き合う。

1.2 電圧と抵抗

 電流が流れるには電荷を持つ物質(電気を運ぶ物なので,「キャリア:担体」 などと呼ぶ)が 運動しなければならないが,これには必ず抵抗がある。それは,キャリアが物質中の原子で散 乱される(弾き飛ばされる)からである(図2)。(以下の《 》内の説明は理解しようとしな くても良いです)《この抵抗,即ち運動を妨げようとする力FRはキャリアの平均速度vに比例する (FR=kv)。この力に抗してキャリアを距離l移動させるにはFRlのエ

ネルギーが必要である。電源(Vボルト)につながれた長さl,断 面積Sの部分に,電荷qを持つキャリアが密度nで入っているとし よう(図3)。電圧がVボルトの電源は,qクーロンの電荷にたいし てqVジュールのエネルギーを供給できるので,これでキャリアの 移動に必要なエネルギーをまかなう;FRl=qV。したがって,FR=kv よりv qV klである。一方,この部分の単位長さに含まれるnS個 のキャリアが速度vで移動すれば電流IqnSvアンペアであるから,

qnSv

I / 2 /

S l n q k

V となる。》

 この式の右辺の分母に出て来た / 2 / S l n q

k が,この部分の電 気抵抗である(単に 「抵抗」 と呼ばれることが多い)。この抵抗(R とする)の単位はオーム[Ω]で,電圧V,電流II V/Rの関係 になる。これが 「オームの法則」 である。

キャリア

原子

電源 長さ:l

断面積:S

図2.キャリアの散乱

(7)

 抵抗の式 / 2 / S l n q k

R から,抵抗の大小について以下のようなことが分かる。

 固体中を電流が流れる時のキャリアは原子から出て来た電子である(原子は動けない)。電子は 負の電荷を持っているので,運動の方向は電流の向きと反対である。金属には原子から離れて自由 に動ける電子が多いので,キャリア密度が大きく抵抗が小さい。また,温度が上がると原子の振動 が活発になってキャリアの散乱が激しくなり抵抗が大きくなる。一方,半導体では,温度が上がる と自由に動ける電子が増加するので,これによるキャリア密度上昇の効果が散乱増大の効果を上回 り,抵抗は金属とは逆に小さくなる。また,ゴムなどの絶縁体では,電子が原子に強く束縛されて いるのでキャリア密度が殆ど0で抵抗は非常に大きい(~∞)。

1.3 電力

 (以下の《》内の説明は理解しようとしなくても良いです)《各キャリアは散乱による抵抗力FRを 受けながら速度vで進むので,単位時間(1秒)にFRvの割合でエネルギーを消費する。したがって, 1秒間に消費される全エネルギーWnSl×FRvになるが,FRl=qVおよびI=qnSvなので,W=IVとな る。》これが,1秒間に消費される電気エネルギー(「電力」 と言う)で,単位はワット[W]である。 オームの法則を使えば,さらにW I2R V2/R

などの関係が導ける。これから,電流が同じなら 抵抗が“大きい”ほど,電圧が同じなら抵抗が“小さい”ほど消費電力は大きくなることが分かる。 電流を同じにして比べるか電圧を同じにして比べるかで,消費電力の大小と抵抗の大小の関係が逆 になることに注意。図1の回路の豆電球の中には,金属(タングステン)の細線がらせん状に巻か れて入っている。この線は,抵抗を大きくするために細くて(断面積小)長くしてある(表2参照)。 したがって,豆電球内で消費される電力は,同じ電流が流れている回路の他の部分(導線など)よ りもずっと大きい。消費された電力の大部分は熱になるが,一部(10%以下)が目に見える光に なるのである。一方,材質も長さも同じ太い電熱線と細い電熱線を同じ電源(電圧が同じというこ と)に繋いでみると,太くて抵抗の小さな電熱線の方が発熱が大きくなる。

1.4 簡単な電気回路

 図1の回路を回路図にすると図4のようになる。直流電源を表す記号は,実際の乾電池の形状 とは+極と-極が逆になっていることに注意。

 回路に部品(抵抗,電池など)を繋ぐ方法には直列と並列がある。図5で,部品AとBは,a)で は直列でありb)では並列である。

 AとBが,それぞれ抵抗値がR1R2の抵抗の場合には,合成抵抗を直列ではRS,並列ではRPとすると, 表2.抵抗の変化

↓←←← キャリアの散乱

による抵抗:k

キャリアの

密度:n 長さ:l 断面積:S

が大きくなると

抵抗Rは → 大きくなる 小さくなる 大きくなる 小さくなる

が小さくなると

抵抗Rは → 小さくなる 大きくなる 小さくなる 大きくなる

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RS=R1+R2および1/RP=1/R1+1/R2になる。これは,抵抗の式 R=k/q2n)×(l/S)を思い出すことにより,直列は長さlが大き

くなった場合,並列は断面積Sが大きくなった場合に相当し ていると考えれば分かりやすい。

 また,AとBが電圧Vの電池の時,合計電圧は直列では2 ×Vだが並列では1本の時と変わらずVである。但しここで, 電池には僅かではあるが内部抵抗があることに注意しよう (図6)。この内部抵抗がRであれば,電流がiの時の電池の電 圧は厳密にはVではなくてViRになるのである。したがっ て,電池を並列に繋いだ時は,電池が1本の場合と全く同じ ではない。多数の豆電球を並列に繋いで点灯させる時などの ように電流がたくさん流れる場合には,複数の電池を並列に 繋いでやると各電池に流れる電流を減らせる(個々の電池の 負担を減らせる)ので,本来の電圧Vに近い電圧が利用でき る。

 そして,電流計を使う時は,電流を測りたい部分に直列に 組込む(電流の流れの上流側に正の端子,下流側に負の端子 を繋ぐ)。一方,電圧計は,電圧を測る部分に並列に接続す る(電源の正側に近い方が正の端子,負側に近い方が負の端 子になるように)。

2.磁気

2.1 磁極と磁場

 磁石にはN極とS極がある。そして,1つ の磁石には,必ずN極とS極の両方が端部に ある。一方の極だけの磁石,端部以外の場所 に極がある磁石はない(図7)。

 2つの磁石を近づけてみれば,同じ磁極の 間には反発力が,異なる磁極の間には引力が 働いていることが分かる。この力により,方

位磁石(コンパス)の針はN極が北(north)を向きS極が南(south)を向く。これは,地球全体が 北極(North Pole)をS極,南極(South Pole)をN極とする大きな磁石になっているためである(N とSが反対なことに注意)。

 磁石の周囲には,「磁場」(または「磁界」)と呼ばれる一種の空間の緊張状態ができていると考える。 磁場の分布の様子は 「磁力線」 によって表わされる。磁力線はN極から出てS極にもどる。途中の 空間で無くなったり発生したり,また分岐したりすることはない。磁石の付近においた紙に鉄粉を 撒き,紙を軽くたたいて鉄粉が動きやすいようにしてやると,鉄粉は磁力線に沿って繋がる(磁力 線の可視化)。磁力線は,線に沿った方向には縮まろうとし横方向には膨らもうとする引き伸ばさ

図4.図1の回路の回路図

図5.a)直列接続とb)並列接続

図6.電池の内部抵抗

図7.磁石の磁極 電流計

豆電球

A

直流電源(電池)

スイッチ

+ -

A B A

B

a)直列 b)並列

電圧V-iR

電流i

抵抗R

くっつける

極がなくなる 割る

極ができる

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れた芋虫のような性質を持つ,として磁極間に働く力を考えることもで きる(図8)。

2.2 強磁性体

磁石になる物質は鉄,コバルト,ニッケルやそれを含む合金や化合物な どである。これは,これらの原子が,①それ自身磁石としての性質を持っ ている,および,②周りの原子と同じ方向を向こうとする性質がある, という2つの理由による。これらの性質を合わせ持つ物質を「強磁性体」 と言う。

 強磁性体は,初めは整列した原子から成る小領域がバラバラな方向を向いて分布する状態で,全 体としては磁石になっていない。これに,外部から磁場を加えると,全体の向きが整列して磁石に なる。この過程を 「磁化」 と言う(図9(a))。ここで外部からの磁場を取り除いた時の挙動により, 強磁性体は 「硬い(hard)」 磁性体と 「軟らかい(soft)

」 磁性体に分けられる(図9(b))。硬い磁性体とは, 一度磁化されたらその状態を保持する性質の強い磁性 体で,永久磁石の材料などに適している(例:クロー ム鋼,アルニコなどの鉄合金)。一方,軟らかい磁性 体は,外部から加わる磁場に応じて磁石としての方向 や強さが容易に変化する磁性体で,後述する電磁石な どに利用される(例:軟鉄,パーマロイ(鉄とニッケ ルの合金)など)。なお,ここで言う“硬さ”は磁気 的な性質についての特徴であり,これらの物質の実際 の“硬さ”とは関係ない。

2.3 電磁石

 磁場は磁石の付近だけでなく電流の周りにも生じる(電流の磁気作 用)。磁場は電流にまきつくように発生し,その向きは右ねじを電流 の方向にねじ込む時,ねじを回す方向となる(図10)。電流を流す線 を何回も巻いてコイルにすれば(これを 「ソレノイド」 などと呼ぶ), 線の各部分で線に巻きつくように生じた磁場の全体は,コイルをく ぐって一周する磁力線の輪の集まりとなる

(図11)。

 この磁場分布はコイル部分に棒磁石が ある場合と同じ形状である。生じる磁場 は,コイルの長さあたりの巻き数を増や したり,電流を増やしたりすれば強くな る。また,ソレノイドの中に軟鉄などの軟 らかい磁性体を入れると,ソレノイドの磁

N S

N N 図9.強磁性体の磁化

図8.磁極付近の磁力線

N S

S N

磁化

(a)

(b) 軟磁性体(点線) 磁化の強さ

磁場の強さ

硬磁性体(実線)

図9.強磁性体の磁化

電流

磁場

右ねじ 図10.電流により生じる磁場

電流

磁力線

N S

図11.コイルに生じる磁場と磁石の磁場 茨城大学教育学部紀要(教育科学)67 号(2018)

(10)

場によって強い磁石になる。これが 「電磁石」 である(図 12)。この時の磁場は,ソレノイドだけの時よりずっと強 い。また,ソレノイドに流す電流の向きを変えれば電磁石 は逆向きの磁石になり,電流を流さなければ磁石ではなく なる(実際には弱い磁石になっている場合が多い)。この ように,電磁石は加える電流の条件によっていろいろな磁 石にすることができる。

2.4 モーター

 モーターでは,電流の向き を変えると逆向きの磁石にな るという電磁石の性質を巧み に利用している。すなわち回 転軸に取り付けた電磁磁石に 流れる電流の向きを回転の途 中で逆転させることによっ て,回転が連続的に継続する ようにしてある(図13)。  モーターは電気を供給する と回転するが,逆に電源をつ ないでいないモーターの回転 軸を手で回せば電気が発生し て発電器(ジェネレーター) にもなる(図14)。すなわち, 逆向きのエネルギー変換を行 うことができる(電気エネル ギー⇒回転エネルギー:モー ター,回転エネルギー⇒電気 エネルギー:発電器)。

 このように,逆の過程により電気エネル ギーを使ったり逆に発生させたりできる現象 は身近にも沢山ある。例えば,①光エネルギー ⇒電気エネルギー:光電池,電気エネルギー ⇒光エネルギー:発光ダイオード,②電気エ ネルギー⇒化学反応:水の電気分解,化学反 応⇒電気エネルギー:燃料電池,などなど。

電流

軟磁性体

N S

モーターを手で回しても 電気が流れる. 図12.電磁石

図14.モーターによる発電4) 図13.モーターの原理3)

(11)

3.光

3.1 電磁波の一部としての光

 光は 「電磁波」 の一部である。波長が約400nm(4×10-7m)から約700nm(7×10-7m)の範 囲の電磁波が,紫から赤にわたる色を持った光として目に見えるのである。この範囲外の波長を 持った電磁波は目には見えないが,いろいろな作用がある。波長が400nmより短く1 nm位までの 電磁波は 「紫外線」 と呼ばれており化学反応性が高い(日焼けの原因)。また,波長が700nmから 1 mm位までの電磁波は 「赤外線」 と言われ,熱効果が大きい(赤外線暖房器など)。

 光は,真空中または同じ物質(空気,ガラスなど)の中では直進する。したがって,障害物があ ればその後方には光は進めない(図15)。但し,空気の分子やゴミなどの微粒子による散乱により 厳密には障害物側にいくらか回り込む。また,光は電磁波であるため波特有の現象である 「回折」 による回り込みも起こるが,光の波長は非常に短いのでこの効果は他の波(音,水面の波など)に 比べて僅かである。

 光(太陽光など)があたった部分は暖かくなる。これは光がエネル ギーを運んでいるからである。但し,光の当たった部分を暖かくして いるのは“目に見える”光だけではない。光と一緒にあたっている目 に見えない電磁波(特に赤外線)の効果の方が大きい。どのような波 長の電磁波もエネルギーを運んでいるが,赤外線領域の電磁波のエネ ルギーは物質に吸収されやすいので物を温める作用が顕著になる。

3.2 光の反射と屈折

 光が異なる物質(真空を含む)の境界に達した時には反射と屈折 が起こる(図16)。入射角と反射角は常に等しい(θi=θr)。屈折角は, 境界の両側の物質の 「屈折率」 に依存しており,sin θd=n1/n2)sin θi になる(スネルの法則)。屈折率は光の波長(色)によって僅かに 異なっているが(プリズムを通った光が色ごとに分かれるのはこの ためである),その概略値を代表的な物質について示すと以下の通 りである。

 屈折光の進む向きがもとの向き(入射光の進む向き)に対してどちらに曲がるかを定性的に掴む には,スネルの法則を使わなくても 「屈折光は屈折率の大きな物質を好む。このため,屈折率の小 さい物質から遠ざかり,屈折率の大きな物質に向かうように向きを変える」 と覚えておけば良い。  したがって,光が屈折率の大きな物質の中を進んで屈折率が小さな物質との境界に達した時には, 入射角がある角度以上になると屈折角が90°(境界と平行)以上となり,光は境界を越えられなく なる(屈折光がなくなる)。この限界の入射角sin θi=n1/n2)sin 90°=n2/n1を 「臨界角」 と言い,屈折

暗い 明るい

図15.光の直進性

入射光 反射光

屈折率n1

屈折率n2

屈折光 θiθr

θd

n1<n2

n1>n2

図16.反射と屈折

表3.屈折率の概略値

物質 真空・空気 水 ガラス・水晶 ダイヤモンド

屈折率 1.0 1.3 ~1.5 2.4

(12)

光がなくなった状態を「全反射」と言う。全反射を使うと光をロスなく 遠方に運ぶことができる。これを利用したのが光ファイバーである。  レンズでは光の屈折作用を利用して光の進行方向を変えている.凸レ ンズでは,どんな形であっても空気よりも屈折率の大きなガラスが中央 部分に集まっているので(図17),光はレンズの中に入るときと再び外 に出るときに2度屈折して,レンズを通り抜けると中央部分に集まる。

逆に凹レンズではガラスは周辺部分になるほど厚くなっているので(図17),2度の屈折を経てレ ンズを通り抜けた光は周辺に広がる。

 レンズによる結像を考える時,図18のレンズの公式を覚えておくと便利である。ここで,aはレ ンズから物体までの距離,bはレンズから像までの距離,そしてfはレンズの焦点距離である(凸レ ンズでは正,凹レンズでは負にする)。これから,焦点距離fの分かっているレンズで物体の位置a を決めれば像の位置bが求まる。bが正になった時は,レンズに対して物体と反対側に倒立の実像が できる。負になった時は物体と同じ側に正立の虚像ができる。凸レンズでは実像ができる場合(a>f) と虚像ができる場合(af)の両方があるが,凹レンズでできるのは虚像のみである。また,像の 倍率はb/aであるが,これはf(/ a-f)と変形できるから,実

像になるにしろ虚像になるにしろ,物体の位置が焦点に近 いほど像は大きくなる。逆に,遠い場所の物体の像は小さ くなる。太陽ではaはほぼ無限大だから倍率はこの公式通 りだったら0となる(実際には他の効果も加わり完全な点 にはならない)。したがって,凸レンズを使えば太陽の小 さな実像をつくれるので,太陽光のエネルギーを小さな場 所に集められる。したがって,虫めがねで太陽の光を集め て紙を焦がすことができる。

4.力

4.1 力のつり合い

 力の効果は,①大きさ,②向き,③作用する場所(「作用点」 または 「着力点」),で決まるので,これらを 「力の三要素」 と言 う。力は大きさと向きを持つ量で,ベクトルの規則にしたがって 合成や分解ができる(図19)。多数の力を合成した結果を見るに は,図19のような平行四辺形による合成の他に,ベクトルの先 端と末尾を次々につなげて 「力の多角形」 を作る方法もある(図 20)。複数の力を合成してできた,これらと等価な力を 「合力」 と言う。  大きさがない物体,または大きさを考える必要がない物体(これらを 「質点 」 と呼ぶ)の場合には作用点は1点しかないから,つり合いの条件(動き出さ ない条件)は合力が0になることである。大きさのある物体ではどうか?この 場合には,「作用線」(力のベクトルに平行で作用点を通る線)を考える。全て の力の作用線が1点で交わる時は,質点のつり合いと同様に合力が0になって

物体

a

b f b a

1 1 1

図18.レンズの公式

合成

分解

図19.力の合成と分解

合力

図20.力の多角形

凸レンズ 凹レンズ

(13)

いればつり合う。この時,作用点を作用線上のどこにずら しても,それぞれの力の効果は変わらない。この性質を使 うと作用線が交わる力は1つの力に纏められる(図21)。  では作用線が交わらない力がある場合はどうか?例え ば,図22のように作用線が平行だが向きが逆で大きさが 同じ力のペア(“偶力”と言う)があると,これは1つの 力にまとめることはできず,合力が0なのにつり合わない。 この時,物体は全体の位置が移動することはないが,回転 しようとする。すなわち,合力が0という条件は,止まっ

ている物体を“全体として”動き出さないようにしておくための条件で あり,完全につり合わせるためには,これに加えてその場で向きを変え 始めないようにするための別の条件が必要となる。質点には“向き”が ないからつり合いの条件は合力=0のみで良かったのである。

4.2 トルクのつり合い

 ある点に偶力の一方の力が加わ ると,その点の周りで回転しよう とする作用 「トルク(または力の モーメント)」 が生じる。図23の ように,ある点の周りのトルクの 大きさは,①力の作用線とその点 の距離r sin θに力の大きさFをか

ける,②その点と作用点を結ぶ線(「腕」 とよばれることもある)の長さrと力の腕に垂直な成分F

sin θをかける,のいずれの方法でも得られる。結果はどちらでもrF sin θである(腕と力でできる

平行四辺形の面積)。同じ大きさの力でも,遠いところ(r:大)の力ほどトルクへの寄与は大きい。 そして,回転の腕に平行な力の成分はトルクへの寄与はない。また,トルクには向きがあり,「時 計回りのトルク」,「反時計回りのトルク」 などと言って向きを区別する。トルクのつり合いとは, 時計回りのトルクと反時計周りのトルクの大きさが一致することであり,ある向きで止まっていた 物体は,この時に限り向きを変えずにいられる。

 天秤やてこなどの動作は,支点の周りでのトルクのつり合いの問題として考えることができる。 例えば,図24の天秤では,支点からL1の場所に重さM1のおもりが,支点からL2の場所に重さM2

のおもりがぶら下がっている。この時,M1によるトルクは大きさがL1M1で向きは時計回りであり,

M2によるトルクは大きさがL2M2で向きは反時計回りである(図23の平行四辺形が図24では長方

形になるので辺の長さの積が面積になる)。したがって,つり合い の条件はL1M1= L2M2である。なお,支点は,その名の通り,おも

りの重さの合計と等しい逆向き(上向き)の力で常に天秤を支える から,合力=0の条件はいつでも満たされている(おもりが重すぎ て天秤が壊れなければ)。

作用線

図21.力のつり合い

図22.作用線が平行な力

O

P

θ r

sin

r P

θ O

r

sin F

L1 L2

M2 支点 M1

図23.トルク

図24.天秤のつり合い 茨城大学教育学部紀要(教育科学)67 号(2018)

(14)

4.3 滑車・輪軸

■力の方向を変える滑車(←回転軸が固定された滑車:定滑車)

 滑車に巻かれた綱の力のモーメントは,右回りと左回りが等しい。 滑車の半径が腕の長さだからどこでも同じで,力の方向はどこでも腕 (滑車の半径)と直角だから(図25),力の大きさはどこでも同じで

ある(方向はいろいろ変わる)。

■輪軸

 図26のように,一方の綱を滑車ではなく軸(または同じ軸に固定され た別の滑車)に巻いたもの(“輪軸”という)では,右回りと左回りの力のモー メントを等しくする条件は,

(滑車を引く力)×(滑車の半径)=(軸を引く力)×(軸の半径) となる(天秤のつり合いと同様)。

 一方,輪軸がどちらかの向きに回転する場合には,

(滑車に巻いた綱の動く長さ):(軸に巻いた綱の動く長さ)=(滑車の半径):(軸の半径) となるから,一定の速さで回転する場合(右回りと左回りの力のモーメントが等しい場合)には,

(滑車を引く力)×(滑車に巻いた綱の動く長さ)=(軸を引く力)×(軸に巻いた綱の動く長さ) である。自転車は平坦な道を遠くまで行くには便利だが,坂道を登るときには自転車をおりて歩い た方が楽ですよね。

■力の大きさを変える滑車(←綱にぶら下げられた滑車:動滑車)  動滑車では物体の重さの半分を天井(または他の滑車) で支えるので,綱を引く力は物体の重さの残りの半分で良 い(図27)。ただし,物体をhだけ引き上げるには綱をそ の2倍の2h引っ張る必要がある。動滑車を使っても仕事量: (動かすために加えた力F)×(動いた距離h)を変えること

はできない。輪軸と同様に,Fhの配分を,その積が一 定の条件で変えているのである。

4.4 重力(物の重さ)

 質量はその物体に固有な量だからどこでも変わらないが,重さは場所によって変わる(高い所⇔ 低い所,地球の表面⇔月の表面,など)。例えば1 kgw(1 kgの重さ)とは地球が1 kgの質量にお よぼす重力である。地球表面の重力加速度gは大体どこでも同じなので質量mの測定を重力mgの測 定で代用できるのである。体重計による体重測定では,その人がその場所で地球に引っ張られる力

½F ½F

図26.輪軸 図25.定滑車による力の

方向の変更

図27.動滑車による力の大きさの変更

重さ=重力の大きさ=物体に固有な量×場所に固有な量

↑ ↑

(15)

を測定しているのであって,その人の質量そのものを測定しているわけではない。したがって,そ の体重計を,例えば月の表面に持っていって同じ人の体重を測定したら質量は同じなのに測定値は 約1/6になるし,国際宇宙ステーション(ISS)に持って行って同じことをやれば測定結果は0(ゼ ロ)である。

4.5 ばね

 ばねの伸びは,つり下げた物の重さに比例する(フックの法則)。 2本の同じばねを,図28のように上下につなげる場合(直列つなぎ) と,同じのびになるように束ねてつなぐ場合(並列つなぎ)を考える。  直列つなぎの場合には,両方のばねに単独で同じものをぶら下げ た時と同じ力がくわわるので,2本合わせた全体の伸びは1本の時 の2倍になる。したがって,同じばねを何本も直列につないだ時の 全体の伸びはばねの本数に比例することになる。

 一方,並列つなぎの場合はそれぞれのばねはぶら下げた物の重さ を半分ずつ分担することになるので,伸びは1本の時の半分である。 このことから,同じばねを何本も並列に束ねて(全部が同じ伸びの 長さになるように)つないだ時の全体の伸びは,ばねの本数に反比 例することが分かる。

4.6 位置と速度と加速度

 物体の運動を考える時,位置,速度,加速度などの言葉を使う。速度は位置の時間変化率だが, 厳密には“速さ”と同じではなく速度=(どの方向に)+(どれくらいの“速さ”で)である。したがって, 等速度運動は 「同じ方向に」 + 「同じ速さで」 進む運動(等速直線運動)であり,速さが同じでも 方向が変わる運動は等速度運動ではない(例:等速円運動)。ただし,方向が同じで速さが変わる(か もしれない)運動,すなわち直線運動を考える場合には速度と速さを区別しないことも多い(逆向 きに進む場合はマイナスを付ける)。

 加速度は速度の変化率であり(注意:“速さ”の変化率ではない!),加速度運動は速度の変化す る運動(等速度運動ではない運動)である。速さの変化しない加速度運動もあることに注意(例: 等速円運動。速さは変化しないが方向が変化している)。加速度が一定の運動は等加速度運動である。  これらの言葉の意味や運動の様子は,図29のように時間を横軸にしたグラフにしてみると分か りやすい。

直列

並列

図28.ばね(直列・並列つなぎ)5) 茨城大学教育学部紀要(教育科学)67 号(2018)

(16)

グラフでは,

 ☆距離と時間の関係(縦軸が距離,横軸が時間のグラフ)⇒ 傾き=速さ,

 ☆速さと時間の関係(縦軸が速さ,横軸が時間のグラフ)⇒ 傾き=加速度,面積=進んだ距離, となっている。

4.7 運動の法則

 力を受けた物体は運動の状態を変える。ここで,「運動の状態を変える」 とは,静止していた物 が動き出したり,動いていた物が動き方を変えたりすることである。どのように変えるかのルール は,以下の3つの法則に纏められる(いろいろな言い方があるが)。

 質量×速度を 「運動量」 と言う(小学校理科では“ものを動かすはたらき”などと言っている)。 運動の第二法則は,運動量pの時間変化dp/dtが力Fに等しくなる(dt/dt=F)ということである(質 量は時間により変化しないので)。複数の物体をまとめて考えた時,物体間に働く力は運動の第三 法則によって完全に相殺してしまうので,それらの物体に外部から力が加わっていなければ合力が

運動の第一法則:他の物体の影響を全く受けていない物体の運動が等速直線運動(静止を含む)

に見えるような観察条件(座標系)がある。このような座標系を 「慣性系」 という。

運動の第二法則:慣性系で見ると,物体の加速度αは物体に加わる力の合力Fに比例する。こ

の比例係数を質量mと言う(α=F/mまたはF=mα)。

運動の第三法則:物体1が物体2に力Fをおよぼしている時,物体2は物体1に-Fの力(大

きさはおなじで向きは逆)の力をおよぼしている(「作用・反作用の法則」 と呼ばれている)。 この時,物体1と物体2は離れていることもあるし(万有引力など),接していることもある(机 に置いた本など)。

図29.運動の様子をあらわすグラフ 運動の様子をグラフであらわす

加速度

速さ

距離 面 積

面積

接線の傾き 接線の傾き

時間 速さ

0

面積(進んだ距離)=vt

v

t

等速直線運動

時間 速さ

0 tC

接線の傾き:

時刻tCでの加速度

時間 距離

0 tC

接線の傾き:

時刻tCでの速さ

時間 速さ

0

移動距離= -

前向きの移動

後向き の移動

一般の運動

時間 速さ

0

面積(進んだ距離)=½at

2

at

t

等加速度運動

傾き(加速度)

(17)

0となり運動量の合計は一定になる(「運動量保存の法則」)。これは,衝突の問題などを考えるの に役に立つ。例えば,1つの物体が2つに分裂したり,2つの物体が衝突したりする場合には,そ の前後での運動量は一致する。

【例】:静止していた物体に別の物体が衝突する場合  直衝突(一直線上での衝突現象)を考

える(図30)。質量m1の物体が,静止 している質量m2の物体に速度v1で衝突 する。物体の衝突に関しては,衝突前後 での物体間の相対速度の比(衝突後の相 対速度)(衝突前の相対速度)は,両物/ 体の組合せが決まればいつも(つまり衝

突前の相対速度がいろいろ変わっても)一定になるという経験的な法則があり(ニュートンの反発 の法則),この比を反発係数という。反発係数は,ガラス球同士の衝突では0.94位,鉄球同士の衝 突では0.66位である。また,衝突により両物体がくっついて離れなくなってしまう場合の反発係 数は0となる。

 ここでは反発係数(eとする)はe=v'2-v'1)/v1だから,衝突前後での運動量の保存の関係

m1v1=m1v'1+m2v'2から衝突後のm1とm2の速度,v'1,v'2を計算すると以下のようになる(両物体の質

量が同じ場合(m1=m2)も合わせて示した)。

 これから,例えば質量m1の物体は,衝突後,m1<em2なら衝突前と逆向きの方向に跳ね返され, m1=em2なら静止し,m1>em2なら減速されて衝突前と同じ方向に進むことが分かる。

 運動の第二法則α=F/mを見れば,質量に比例した力だけが働いている場合には,その運動の様子 に質量が影響しないことが分かる。自由落下(F=mg),滑らかな坂を滑り降りる場合(F=mgsin θ,

θは坂の勾配),振子の運動(F=mgsin θ,θは振子の揺れ角)などがその例である(gは重力加速度)。

振子の運動は,勾配が連続的に変わる滑らかな坂道を昇り降りする運動と同等である。 表4.衝突・分裂前後の運動量

表5.衝突前後の速度

前 外から力が働かなければ 後

分裂 (m1+m2)v ← 等しい → m1v'1+m2v'2

衝突 m1v1+m2v2 ← 等しい → m1v'1+m2v'2

衝突前 衝突後

m1 v1

m2 0(静止)

m1 v’1

戻る,静止,進む (いろいろ)

m2 v’2

衝突後

m1 v1

m2

静止

衝突前

図30.2つの物体の衝突 茨城大学教育学部紀要(教育科学)67 号(2018)

(18)

4.8 振子の運動

 振子のおもりには下向きの重力が働いているが(図31),このうちで 振子の運動に寄与するのは糸に垂直な成分のみである(糸に平行な成分 (糸を引っ張る成分)は運動には無関係)。そして,振子の揺れ運動(糸に 垂直な方向の運動)の加速度はなので,運動の方程式(質量×加速度=力) はmld2θ/dt2=mgsinθとなる(力にマイナス符号がついているのは力が

いつも揺れを元に戻そうとするように働くから)。

 この式には両辺におもりの質量mが入っているので,それを除けば(l d2θ/ dt2)=-gsin θとなり,前頁で述べたように振子の運動にはおもりの質量が 影響しないことが分かる。ただし,これは理想的な場合で,実際の振子の

場合には,おもりには重力に起因する力mg sinθの他に空気の抵抗やら糸の弾性力やらといった付 加的な力が加わる。したがって,これらの付加的な力の影響をできるだけ少なくして,運動の様子 をなるべく理想的な振子の運動に近づけるためには,mg sinθを大きくする,具体的には質量の大 きい(重い)おもりを使うことが望ましい。また,空気の抵抗は運動が速くなるほど大きくなるの で,これを低減するには振子をなるべくゆっくり振らす必要がある。そのためには,以下に説明す るように糸をできるだけ長くすることが有効である。

(以下の《》内の説明は理解しようとしなくても良いです) 《ここで,(l d2θ/dt2=

g sin θは,d2θ{(/

g/l)dt2=sin θ,さらにd2θ/dt gl 2=sinθのように変形

できるので,揺れの角度θはt gl を変数とする関数θ=ft gl になっていることが分かる。》

 この関数fの具体的な形が分からなくても,例えば糸の長さlが4倍になったら関数fの変数であ る   を変えないためには時間tは2倍にならなければいけないのだから,振子は2倍ゆっくり 揺れる,というようなことが分かる。すなわち,振子は糸が長いほどゆっくり揺れ,短いほどはや く揺れるのである。また,重力加速度gが地球の1/6の月では,同じ振子でも地球で揺らした場合 より 6倍ゆっくり揺れる,というようなことも推定できる。

 さて,上の運動の方程式(l d2θ

/dt2

=-g sin θは(d2θ

/dt2

=-g sin θのようにも変形できるが,揺れ が小さい,すなわちθが小さい時にはsin θθとして(下の表6を見よ),(d2θ/dt2=-(g/lθと近似

できる。この場合には,上の関数fの具体的な形が分かる:θ=Asin t gl とかθ=Bcos t gl とかいっ

た三角関数である。いずれの形でも,これは角振動数ω= g/l,すなわち周期T=2π/ω=2π l/g の単振動になる。すなわち,揺れの最大角があまり大きくない範囲では,振子は揺らせ方(揺れの 大きさ)によらず一定の周期で揺れる(等時性),ただし,揺れが大きくなると等時性は成り立たな くなり,周期は次第に2π l/gからずれていく(長くなる)。

θ l

m sinθ

cosθ

g

mg

mg

図31.振子の運動

表6.角度θとsin θの関係

θ 度 0 1 2 3 4 5 ・・・ 10

ラジアン 0 0.017 0.035 0.052 0.070 0.087 ・・・ 0.175 sin θ 0 0.017 0.035 0.052 0.070 0.087 ・・・ 0.174 ※角度があまり大きくないときには,ラジアンで表した角度θはsin θとほぼ一致する。

l

(19)

 以上述べた振子の運動について纏めると以下のようになる。小学生が学習する振子の性質と,そ れがどのような条件で成立っているかの対応には特に注意する必要がある。

おわりに

 小学校理科の物理学に関連する分野(エネルギー分野)を一般の大学生が学ぶ物理学と比較する と,①力学的内容よりも電磁気学的内が多い,②低学年では電磁気学的内容を中心に学習し,高学 年になって実質的な力学的内容の学習が加わる,などの特徴がある。また,中学校理科との接続に は,力学的内容と電磁気学的内容とで質的な相違がある。したがって,小学校教員を目指す学生に は,一般の理系学部学生向けの物理学の授業の単なる圧縮版,簡略版ではない,必要な内容をコン パクトに纏めた小学校教員志望学生専用の物理学分野の授業が必要である。

1)文部科学省.2017.『小学校学習指導要領解説 理科編』22.

2)小学教育研究会.2014.『理科自由自在(小学高学年)』(受験研究社)441【一部変更】.

3)有馬朗人他.2013.『理科の世界 2年』(大日本図書)213【一部変更】.

4)(独)科学技術振興機構.2005.『電気の働き』【フラッシュアニメーション00004011094eを一部変更】.

5)小学教育研究会.2014.『理科自由自在(小学高学年)』(受験研究社)344【一部変更】. 表7.振子の運動のまとめ

性     質 条     件

おもりの質量(重さ)に依存しない

重力以外の効果(空気の抵抗など)が無視できる場合 ⇒このためにはおもりはある程度重い方が良い 揺れのはやさは糸の長さの平方根に反比例する(糸が

長いとゆっくり揺れ,短いとはやく揺れる)

揺れの周期は揺れの大きさに依存しない(等時性) 揺れ幅(揺れの最大角度)

参照

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