• 検索結果がありません。

『新しい計量経済学』 鹿野研究室 slide25

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2018

シェア "『新しい計量経済学』 鹿野研究室 slide25"

Copied!
27
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

計量経済学#25

IV

推定:応用編

(2)

鹿野繁樹

大阪府立大学

(2)

Outline

1 因果関係を実証できるか?

2 自然実験

テキスト:鹿野繁樹 [2015]、第13.3章・第13.4章。

前回の復習

1 識別条件:複数の内生変数と操作変数

(3)

Section 1

(4)

因果関係にこだわった実証分析

計量経済学の永遠のテーマ、「非実験データによる因果関係の統計

的推測(causal inference)」。

例:「コンピュータの使用が労働者賃金に与える影響」 の実証

分析。

(5)

1990年代:パーソナルコンピュータが急速に普及。

経済学者の関心:業務のコンピュータ化がどれだけ労働生産 性(賃金)を高めるか?

IT技術にアクセスできる者・できない者の間に生じる社会的

(6)

Krueger [1993]:『Current Population Survery(CPS)』のデータを

使って、次式をOLS推定。

log(wagei) = α+β1computeri+β2othersi +ui. (1)

log(wagei) =労働者iの賃金対数値、computeri =「仕事でコ

ンピュータを使っている」ダミー、othersi =コントロール変

数(学歴や就業年数,人種,性別など)。

表1:コンピュータの使用は賃金に対し統計的に有意に正の

影響。

(7)

被説明変数:対数賃金 1984年 1989年 係数 t値 係数 t値

定数項 0.928 35.7 1.094 42.1

コンピュータ使用ダミー 0.140 17.5 0.162 20.3

就学年数 0.048 24.0 0.055 27.5

...

労働組合員ダミー 0.194 21.6 0.189 18.9

職種ダミー(8つ) YES YES

決定係数 0.491 0.486

サンプル数 13335 13379

(8)

DiNardo and Pischke [1997]の反論:コンピュータの係数推定値は、

頭脳労働に就いている(就く能力がある)ことへのプレミアムを

測っているに過ぎない!

高賃金の者がコンピュータを使っている。⇒コンピュータを

使うと賃金が上がるわけではない。

反証のアプローチ:次の回帰分析。

log(wagei) = α+β1tooli+β2othersi+ui. (2)

tooli =「コンピュータ使用」、「電卓使用」、「電話使用」、「鉛

筆・ペン使用」、「座って仕事」、「工具(ハンマーなど)使用」 のダミー。⇒6通りのOLS推定。

ドイツの調査『West German Qualification and Career Survey』 のデータを使う。

(9)

表2:DiNardo and Pischke [1997]の推定結果・一部抜粋。

コンピュータは統計的に有意に、アメリカのケースとほぼ同 等のインパクトを賃金に与える。

一方、コンピュータ以外の頭脳労働に関係する道具も、同様 の正の効果。⇒これらが「因果関係」の推定値ならば、「鉛筆

を使うと賃金が上がる」ことになってしまう!

工具を使う肉体労働系の仕事は、賃金が低くなる傾向。

∴「コンピュータのプレミアム=ホワイトカラーのプレミア

ム」説のほうがより説得的。

DiNardo and Pischke [1997]の指摘:コンピュータの使用は内

(10)

1979年 1985-86年 1991-92年

係数 t値 係数 t値 係数 t値 (1) コンピュータ 0.112 11.2 0.157 22.4 0.171 28.5 (2) 電卓 0.087 12.4 0.128 21.3 0.129 21.5 (3) 電話 0.131 21.8 0.114 19.0 0.136 22.7 (4) ペン・鉛筆 0.123 20.5 0.112 18.7 0.127 21.2 (5) 着席して仕事 0.106 17.7 0.101 14.4 なし なし (6) 工具 -0.117 -16.7 -0.086 -14.3 -0.091 -15.2

(11)

より身近な因果関係の識別問題

相関と因果の区別は、研究においてのみならず、日常生活でも

重要。

Example 1

アメリカのwebサイト「PayScale」の「Majors That Pay You Back」:経済学、経営学、社会学、心理学の学位を持つ学部卒者の

勤続15年目の平均年収は、それぞれ96,700ドル、71,000ドル、 58,800ドル、60,700ドル。従って経済学を専攻すれば、その他競

(12)

上の例の問題点

適切なコントロール変数の欠如:有名大学ほど経済学部を持 つ割合が多い⇒この結果は「学位の効果」なのか、「大学ブ

ランドの効果」なのか区別できない。

社会科学の素養+高度な数学能力を要するため、欧米型では

経済学は難関学位の一つ。⇒「経済学がその学生の価値を高

(13)

Example 2

表3:日本の三大都市における病床数当たりの死亡率。診療所より

病院のほうが死亡率が高い。従って高度医療の普及は、患者の死

亡リスクを高める。

病院 診療所

東京都区部 69.84 27.68

名古屋市 59.60 15.32

大阪市 63.64 19.18

(14)

上の例の問題点

「高度医療を受ける(診療所ではなく病院を選ぶ)と死にや すくなる」のではなく、「生存の可能性が低い、難病・重篤患

者が高度医療を提供する病院に集まる」可能性を無視してい

ること。

(15)

Section 2

(16)

自然実験とは?

社会科学系で、実験は困難。⇒分析者が実験を行なわずとも、実

験が「転がっている」可能性。

歴史上の偶然・事故や、大きな社会制度改革、人間の生物と

しての制約が、無作為化実験に限りなく近い条件のデータを もたらすことも。これを自然実験と呼ぶ。

「偶然が引き金となって人間の行動が変わる瀬戸際」を観測

(17)

例:ルームメイトのピア効果

ピア効果(peer effect)とは?:ピア(級友や同僚など、自分と同格

の存在)から被るさまざまな影響のこと。

「友達ががんばるので自分も負けじと勉強した」、「同僚の影

響でゴルフを始めた」など。

(18)

ピア効果識別の難しさ

1 共通の環境(同じクラス・教師,同じ職場)の共有:彼らの

パフォーマンスに、環境を通じた見せかけの依存関係。⇒説

明変数を加えることで、コントロール可能。

2 自己選択メカニズム:似たもの同士が集まる傾向。「賢い子と

付き合うと賢くなる」のではなく、「賢いから賢いグループに

(19)

Sacerdote [2001]:ダートマス大学(アメリカの名門大学)の新入

生制度に注目、ピアから本人への因果関係を実証。

この大学のルール:ほぼすべての新入生が、ランダムに割り

当てられた二人一部屋の学生寮に住む。

∴ルームメイトがランダムに与えられた状況。自己選択の問

題を回避!

学生本人のGPA(成績得点)を、ルームメイトのGPAやその

(20)

モデル (1) モデル(2) 係数 t値 係数 t値

ルームメイトGPA 0.120 3.08 0.068 2.34 本人高校成績 0.014 17.50 0.015 21.43 RM高校成績 -0.001 -1.00 -0.0003 -0.33

その他コントロール Yes Yes

寮ダミー No Yes

R2 0.24 0.38

n 1589 1589

(21)

表4:Sacerdote [2001]の主要結果の抜粋。

寮ダミーをコントロールしても、ルームメイトのGPAが本人 の1年次GPAに統計的に有意な影響。

∴「たまたま勉強のできる(できない)同級生とルームメイト

(22)

例:出生による女性の労働供給の減少

多くの国で観測される、小さい子どもを持つ母親ほど労働時間が

短くなる傾向。

因果関係:子どもを持つと働きづらくなる?働くと子どもを

持ちづらくなる?

家庭内の子どもが外生的に増えることで、女性の働き方はど う変化する?⇒「各家庭にランダムに赤ちゃんを与える」と

いった無作為実験は、不可能!

Angrist and Evans [1998]:すでに子どもが二人以上いる夫婦に

(23)

Angrist and Evans [1998]のポイント

親は子どもの性別を選択できず、ランダムに決まる。

一方で、親は性別の異なる子どもの混合を好む傾向。

∴第2子までが同一性別(男男 or 女女)だと、異なる性別の

子を求めて第3子を持つ確率が大きく上がる!⇒「第2子ま でが男男or女女」ダミーは,「第3子以上の子どもの数」の操

作変数に使える。

子ども自体ではなく、子どもを持つインセンティブがランダ

(24)

OLS IV 2SLS

操作変数 なし 同性 男男,女女

Yi =労働参加

係数 -0.16 -0.09 -0.09

t値 -77.50 -3.83 -3.83

Yi =労働時間

係数 -6.80 -4.08 -4.10

t値 -97.14 -4.16 -4.18

n 380,007

(25)

表5:Angrist and Evans [1998]の分析結果まとめ

『The US. 1990 Census』(米国の国勢調査)の公開5%サン プル。

単一操作変数「第2にまでが同性」ダミーによるIVと、「第2 子までが男子」ダミーと「第2子までが女子」ダミーの二つ

の操作変数による2SLS。

現時点で子どもを二人持つ家庭で、外生的に子どもが一人増

えると、母親が外で働く確率が約10パーセントポイント、週 労働時間が約4時間短くなる。

OLSは、子どもが増えることによる負の労働供給効果を過大

(26)

今回の復習問題

次の設問に答えよ。各自用意した紙に解答し、退出時に提出せよ。 講義名、日付、学籍番号、氏名を明記すること。

1 以下の分析を、因果関係の観点から批評せよ。(テキスト第 13章復習問題13.2の類題。)

1 英語が不得意な人ほど、英会話学校に行く傾向がある。従って

英会話学校に行くと英語が不得意になる。

2 有名大学ほど、卒業後の賃金が高い。従って有名大学ほど、労

(27)

References

J. D. Angrist and W. N. Evans. Children and their parents’ labor supply: Evidence from exogenous variation in family size. American Economic Review, 88(3):450–77, 1998.

J. E. DiNardo and J.-S. Pischke. The returns to computer use revisited: Have pencils changed the wage structure too? The Quarterly Journal of Economics, 112(1):291–303, 1997.

A. B. Krueger. How computers have changed the wage structure: Evidence from microdata, 1984-1989. The Quarterly Journal of Economics, 108(1):33–60, 1993.

表 2:DiNardo and Pischke [1997] の推定結果・一部抜粋。 コンピュータは統計的に有意に、アメリカのケースとほぼ同 等のインパクトを賃金に与える。 一方、コンピュータ以外の頭脳労働に関係する道具も、同様 の正の効果。⇒ これらが「因果関係」の推定値ならば、 「鉛筆 を使うと賃金が上がる」ことになってしまう! 工具を使う肉体労働系の仕事は、賃金が低くなる傾向。 ∴ 「コンピュータのプレミアム=ホワイトカラーのプレミア ム」説のほうがより説得的。
表 2 : DiNardo and Pischke [1997] による反証
表 5:Angrist and Evans [1998] の分析結果まとめ

参照

関連したドキュメント

[r]

URL http://doi.org/10.20561/00041066.. も,並行市場プレミアムの高さが目立つ (注3) 。

1880 年代から 1970 年代にかけて、アメリカの

1880 年代から 1970 年代にかけて、アメリカの

中国の農地賃貸市場の形成とその課題 (特集 中国 の都市と産業集積 ‑‑ 長江デルタで何が起きている か).

告した統計をもとに編集されている 1 。国際連合統 計委員会(United Nations Statistical Commission、以 下 UNSC

荒神衣美(こうじんえみ) アジア経済研究所 地域研究センター研究員。ベトナム の農業・農村発展について研究しており、

脚注 [1] 一橋大学イノベーション研究センター(編) “イノベーション・マネジメント入門”, 日本経済新聞出版社 [2] Henry Chesbrough