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化学数学 安藤耕司のページ chap04

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(1)

109

4Fourier 解析と δ 関数

4.1 はじめに

まず、下図を見てみよう。

横軸を時間とすると、乱雑に変動する信号のように見えるだろう。しか し、実はこの図は、たった三つの三角関数の和

f (t) = cos t + sin(2.9t) + cos(5.1t) をグラフにしたものである。

それでは逆に、乱雑な信号が任意に与えられたとき、それを適当な三 角関数の和で表すことは可能だろうか。

例えば、液体中の分子は乱雑な運動をしている。種々の化学結合が、種 類や環境に相応した時間スケールで振動や回転をしている。これに光な どの外場を与え、その応答を時間的に測定したものは、これらの運動を 反映したものになっていると期待される。上記のような三角関数への分 析が可能であれば、測定した信号から、分子運動の周期や外場との相互 作用の強さを知ることができる。これが本章の主題であるFourier 解析の 代表的な応用例である。

上記の例では、時間に依存する信号から振動数または周波数の情報を 取り出した。もう一つの代表的応用例は、回折波の信号から座標の情報 を取り出すものである。有名なヤングの回折実験のように、二重スリッ トから回折された光は干渉縞を作る。同様に、固体結晶中で規則正しく

(2)

配列した原子から散乱された光は、干渉により特定の方向への散乱が強 められる。この回折パターンを測定し、原子配列の情報を引き出すのも Fourier 解析である。

Fourier 解析は量子力学とも深く関係している。量子力学では、物理量 は線形演算子、観測で得られる値はその固有値、対応する状態は固有関 数で表される。例えば、sin nx と cos nx は微分演算子 d2/dx2の固有関数 であり、固有値は−n2である。箱の長さで適当にスケールすれば、1 次 元の箱中の自由粒子のエネルギー固有関数になる。箱中の任意の状態は、 これら固有関数の重ね合わせで表すことができる。これはFourier 級数展 開に他ならない。

その他の応用としては、Fourier 変換を利用することで、常微分方程式 や偏微分方程式の解法が容易になる場合が多い。

補足 Fourier解析の応用上の重要性は、上記の例に留まらない。一方、純粋数

学においても、調和解析あるいは関数解析の分野の源流となっている。厳密な 収束性や一般性を重視する数学の立場では、Fourier解析の講義に至るまでには 相応の積み上げが必要とされる。しかし、通常の応用において必要とされる範 囲であれば、初等的な微積分の知識で十分に習得可能である。

4.2 Fourier 級数

まず、周期関数を定義しておく。

定義 4.1 関数f (x) が周期 L の関数であるとは、 f (x + L) = f (x)

が全てのx について成り立つことである。

Fourier 級数の導入においては、厳密を期すと煩雑になるので、ここで は創始者J. B. J. Fourier (1768–1830) による主張を示す。

(3)

4.2. Fourier 級数 111 Fourier の主張

周期2l の任意の関数 f (x) は f (x) = a0

2 +

n=1

(

ancosnπx

l + bnsin nπx

l )

(4.1)

のように三角関数の和で表すことができる。係数an, bnは an = 1

l

l

−l

f (t) cosnπt

l dt, bn= 1

l

l

−l

f (t) sinnπt

l dt (4.2) によって求められる。

今日では、「任意の関数」という部分は正しくないことが判っている。 しかし、自然科学の記述に通常に現れる程度の不規則さの関数について は、Fourier 級数は収束すると考えて問題ない。

例 4.1 周期2π の関数

f (x) =





−1 (−π < x < 0) 1 (0 < x < π) 0 (x = −π, 0, π)

(4.3)

をFourier 級数で表すと f (x) = 4

π (

sin x + 1

3sin 3x + 1

5sin 5x + 1

7sin 7x + · · · )

(4.4)

すなわち、an= 0, n が偶数のとき bn= 0, n が奇数のとき bn= 4/(πn) で ある。下図は、n = 9 までの 5 項につき順に和をとったものである。

この関数は不連続点を持つので、その扱いに若干の注意が必要だが、係数を求める 積分の計算が楽という理由から、第一の例として採り上げた。

(4)

練習問題 上のFourier 級数を確かめよ。

補足 f (x) の定義 (4.3) より f (π/2) = 1 なので、式 (4.4) で x = π/2 とす れば、

π

4 = 1 − 1 3+

1 5

1 7+

1 9+ · · ·

を得る。これはLeibniz の級数と呼ばれる。単純な分数の級数和が、円周 率のような幾何学的な量と結び付く点が興味深い。

上の例のように、周期を2π とした方が表式が簡単なので、しばらくの 間l = π とする。(それで色々調べてから、一般の周期へ変数変換して戻 せばよい。) このとき式 (4.1), (4.2) は次のように書き換えられる。

Fourier 級数 (周期 2π)

f (x) = a0 2 +

n=1

(ancos nx + bnsin nx) (4.5)

an= 1 π

π

−π

f (x) cos nx dx, bn = 1 π

π

−π

f (x) sin nx dx (4.6)

式(4.6) で係数 an, bnが得られる理由は、

π

−π

cos nx cos mx dx =

π

−π

sin nx sin mx dx = πδnm

π

−π

sin nx cos mx dx = 0

(4.7)

による。すなわち、cos nx と sin nx からなる関数の組においては、自分 とは異なる関数と掛け合わせて積分したものは消える。(このような関数 の組を直交関数系と呼ぶ。) よって、一つ選んだ関数、例えば cos nx を f (x) に掛けて積分すれば、それに対応する係数 anだけが抽出される。

補足 上のことは、ベクトルを直交基底ベクトルで表すことに類似している。例 えば、ベクトルaが直交基底{ei}で表される場合は、aと基底eiの内積がその 係数aiを与える。

a=

i

aiei, (ei, ej) = δij ai= (ei, a)

(5)

4.2. Fourier 級数 113

同様に、関数f (x)が直交関数系{gi(x)}で展開される場合は、 f (x) =

i

aigi(x),

gi(x)gj(x)dx = δij ⇒ ai=

f (x)gi(x)dx

積分を内積の様に括弧で表記すれば、 f (x) =

i

aigi(x), (gi, gj) = δij ai = (f, gi)

上の2番目の式が、{gi(x)}が直交関数系であることを示している。基底となる 関数系としてcos nxsin nxを採ったものが、式(4.5)-(4.6)Fourier級数展 開である。4.3節で、これらを複素指数関数einxに統合する。

上記は量子力学のDiracブラケット形式においても同じ構造をもつ。

|ψ⟩ =

i

i⟩ci, ⟨ϕij⟩ = δijci = ⟨ϕi|ψ⟩

iとして任意の物理量の固有関数系を採れば、上の第2式のような規格直交系 にすることができる。物理量はHermite演算子で表されるので、異なる固有値 のものは互いに直交し、縮退がある場合も(Schmidtの直交化などを用いて) 当な1次結合により直交化できるからである。

練習問題 式(4.7) を確認せよ。

補足 周期関数の定積分は、積分範囲の長さが周期L に等しければ、ど のような区間を取っても不変である。すなわち、f (x + L) = f (x) のとき、 任意のa, b について

a+L a

f (x)dx =

b+L b

f (x)dx (4.8)

が成り立つ。これはグラフを描けば直観的にも容易に確かめられる。

練習問題 周期2π の関数 f (x) =

{ x + π/2 (−π ≤ x < 0)

−x + π/2 (0 ≤ x < π) をFourier 級数で表せ。

(6)

補足 f (x)の定義よりf (0) = π/2なので、上の解でx = 0とすれば、 π2

8 = 1 + 1 32 +

1 52 +

1 72 + · · ·

を得る。これ自身、前頁に見たLeibnizの級数と同様の面白さがあるが、さらに これを利用して、

n=1

1

n2 = 1 + 1 22 +

1 32 +

1 42 + · · · を求めることも出来る。これは、

ζ(s) =

n=1

1

ns (s > 1)

で定義されるRiemannζ関数と呼ばれるものの一つζ(2)である。これの偶数 番のみの和を考えると、

1 22 +

1 42 +

1

62 + · · · =

n=1

1 (2n)2 =

1 4

n=1

1 n2 =

ζ(2) 4

奇数番の和は上でπ2/8と求まっており、これらの和がζ(2)なのだから ζ(2) = π

2

8 + ζ(2)

4 ζ(2) =

n=1

1 n2 =

π2 6

4.3 複素形式の Fourier 級数

式(4.1) や (4.5) では sin と cos が混在していたが、Euler の公式 eix = cos x + i sin x

から得られる

cos nx = 1 2(e

inx+ e−inx), sin nx = 1

2i(e

inx− e−inx)

を式(4.5) に代入し、 c0 = a0

2, cn =

an− ibn

2 , c−n=

an+ ibn

2 = c

n

とおくことにより、式(4.5)–(4.6) は指数関数に統合される。

(7)

4.3. 複素形式の Fourier 級数 115 Fourier 級数 (複素形式, 周期 2π)

f (x) =

n=−∞

cneinx (4.9)

cn= c−n = 1

π

−π

f (x)e−inxdx (4.10)

式(4.7) に相当する直交性は 1 2π

π

−π

ei(n−m)xdx = δnm (4.11)

である。

練習問題 式(4.11) を示せ。

補足 式(4.7) 直後の「補足」の文脈では、関数の内積を (f, g) = 1

π

−π

f (x)g(x)dx

で定義したとき、{einx} が規格直交系となること (einx, eimx) = δnm を式(4.11) は示している。

一般の周期

周期2π から周期 2l に一般化するには、式 (4.9)–式 (4.10) において x → πx/l という置き換えをすればよい。これにより、一般の周期の Fourier 変 換を得る。

Fourier 級数 (複素形式, 周期 2l)

f (x) =

n=−∞

cneiknx, kn=

l (4.12) cn= 1

2l

l

−l

f (x)e−iknxdx (4.13)

(8)

式(4.11) に相当する直交性は 1 2l

l

−l

ei(kn−km)xdt = δnm (4.14)

となる。

4.3.1 応用例 : 強制振動子

式(3.16) で導入した振動子を再考する。係数の記号と非斉次項を少し 書き換えて

d2y dt2 + 2γ

dy dt + ω

2

0y = f (t) (4.15)

と書く。γ は摩擦係数に比例し、γ > 0 とする。ω0 =√k/m > 0は振動 子の角周波数である。右辺のf (t) は、式 (3.15) のような振動する外力に 当たる。

3.2.3 節で見たように、式 (4.15) の解は斉次方程式の一般解と非斉次方 程式の特解の和で表される。今の場合、前者は一定の時定数で減衰して しまう。これは次のように示される。まず、式(4.15) の特性方程式

λ2+ 2γλ + ω02 = 0 の解は

λ = −γ ±

γ2− ω02

であるから、ω0 > γ の場合には、斉次方程式の一般解は、 e−γte±iω20−γ2t

のように周波数√ω02− γ2で振動しながら緩和時間1/γ で減衰する。ω0 < γ の場合でも、λ の解は 2 つとも負となるので、やはり斉次方程式の一般 解は指数関数的に減衰する。

よって、f (t) が持続的な運動を駆動するような場合には、非斉次方程 式の定常解を考察すればよい。f (t) は周期 T で振動する外力であるとす ると、式(4.12) より

f (t) =

n=−∞

fnent, ωn = 2πn

T (4.16)

(9)

4.3. 複素形式の Fourier 級数 117

と表すことができる。

振動子はこの外力により駆動され、定常状態では同じ周期T で振動す るとしてよい。このとき、y も同様に

y(t) =

n=−∞

yn ent (4.17)

とFourier 級数で表すことができる。

補足 (4.17)は式(4.16)と同じ形だが、応答の遅れ(「位相」の遅れあるいは シフトなどともいう)があってもよい。すなわち、y(t)の周波数ωnの振動成分 が時間δnだけ遅れ、

en(t−δn) のように振動する場合も、e−iω

nδn

の因子はynに含まれていると考えればよい。 式(4.17) と (4.16) を式 (4.15) に代入すると

n=−∞

{(−ωn2 + 2iγωn+ ω02) yn− fn} ent = 0 (4.18)

この左辺の各項をゼロとすることにより、 yn= fn

ω20− ωn2 + 2iγωn

(4.19)

を得る。

補足 このように、級数和= 0から各項= 0としてよいのは、entの直交性( (4.14))による。すなわち、適当に選んだ整数mについて、式(4.18)e−iωmt 掛け積分すれば、そのmについての成分が抽出され、式(4.19)が得られる。こ のように、Fourier級数展開によって周波数成分に分解したら、各周波数ωn とに独立に扱ってよい。ただし、これが可能なのは、式(4.15)yf につい て線形だからである。

絶対値の二乗

|yn|2 = |fn|

2

n2 − ω02)2+ 4γ2ω2n

が、y の振動における周波数 ωn成分の強さ、すなわちωnの関数としての

振動スペクトル強度を表す。分母から分かるように、|yn|2ωn = ω0の 前後で鋭く増大する。これは、外力のωnが振動子のω0に近づくとスペ クトル成分ynが急激に増大するという「共鳴現象」を記述している。

(10)

4.4 Fourier 変換

式(4.12), (4.13) で l → ∞ とすれば、形式的には周期が無限大となり、 実質的には周期関数であるという制約がなくなると考えることができる。 これにより、連続変数によるFourier 変換が得られる。

まず、式(4.12) で導入した kn= π

ln (n = 0, ±1, ±2, · · · ) は、離散的な差分

∆kn = kn+1− kn = π l をもつ。(l/π)∆kn= 1 を式 (4.12) に挿入し、

f (x) = l π

n=−∞

cneiknx∆kn

ここで現れた(l/π)cnを改めてf˜nと書くと、式(4.12), (4.13) は f (x) =

n=−∞

neiknx∆kn (4.20)

n = 1

l

−l

f (x)e−iknx dx (4.21) となる。l → ∞ で ∆kn → dk として、n に関する和は連続変数 k に関す る積分に置き換えられる。

n=−∞

∆kn

−∞

dk

以上より、l → ∞ で式 (4.20)–(4.21) は Fourier 変換と逆変換

f (x) =

−∞

f (k) e˜ ikx dk (4.22)

f (k) =˜ 1

−∞

f (x) e−ikx dx (4.23)

となる。これらをFourier 変換および逆変換と呼ぶ。

(11)

4.5. 波動の Fourier 変換 119

さらに、F (k) =

√2π ˜f (k) と置くことで前因子の 1/2π を両者に振り分 けて、より対称性のよい形

Fourier 変換と逆変換 (対称形)

f (x) = 1

−∞

F (k) eikx dk (4.24)

F (k) = 1

−∞

f (x) e−ikx dx (4.25)

でFourier 変換と逆変換を定義することも多い。

4.5 波動の Fourier 変換

波長がλ の正弦波は

sin( 2πx λ

)

と表される。よって、式(4.22)–(4.25) の x を位置座標と見れば、k は波長 の逆数に比例し

|k| = λ と書ける。|k| は「波数」と呼ばれる

一方、時間に沿って周期T で振動する正弦波は sin( 2πt

T )

= sin ωt

と書かれ、

ω = T

は周波数である。よって、時間の関数のFourier 変換では、式 (4.22)–(4.25) においてx を t で、k を ω で置き換えればよい。このとき、周波数を表す 変数ω については負の値も考える。

ただし、座標と時間の関数f (x, t) を Fourier 変換する場合には、t の方 の符号を逆にして、次のように定義するのが通常である。

Fourier 変換では変数 k は負の値も考えるので、|k| とした。

(12)

波動(位置と時間の関数) の Fourier 変換と逆変換

f (x, t) = 1

−∞

−∞

F (k, ω) ei(kx−ωt) dk dω (4.26)

F (k, ω) = 1

−∞

−∞

f (x, t) e−i(kx−ωt) dx dt (4.27)

このように符号をとっておけば、

kx − ωt = k(x − ωkt)

となって、ei(kx−ωt)はx の正方向に速さ v = ω/k で伝わる波と解釈される。 3 次元の場合には、位置ベクトル r と波数ベクトル k を

r = (x, y, z), k = (kx, ky, kz) およびdr = dxdydz, dk = dkxdkydkzとして、

3 次元波動の Fourier 変換と逆変換

f (r, t) = 12

−∞

F (k, ω) ei(k·r−ωt)dk dω (4.28)

F (k, ω) = 12

−∞

f (r, t) e−i(k·r−ωt) dr dt (4.29)

とすればよい。ei(k·r−ωt) は、波数|k| と角振動数 ω をもち、k ベクトルの 方向に速度v = ω/|k| で進行する平面波となる。Fourier 変換では変数 ω に負の値も考えるが、その場合には波は k と反対方向に進む。このよう

に、ei(k·r−ωt) では波の進行方向とω の正負が一致することが、上記のよ

うにFourier 変換を定義する理由である。

4.6 デルタ関数

定義 4.2 Dirac の δ 関数と呼ばれるものは δ(x) =

{ ∞ (x = 0)

0 (x ̸= 0) および

−∞

δ(x) dx = 1 (4.30)

で定義される。ただし、∞ は数ではないので、これは通常の意味での関

(13)

4.6. デルタ関数 121

数とは言えない。しかし、x = 0 で連続な関数 f (x) と掛け合せたものの 積分を考えると、次が成り立つ。

定理 4.1 δ 関数の性質。連続関数 f (x) について

−∞

f (x) δ(x) dx = f (0) (4.31)

−∞f (x)δ(x − a)dx = f(a) (4.32)

証明

f (x) = f (0) + {f(x) − f(0)} を積分すると、

−∞

f (x) δ(x) dx =

−∞

f (0) δ(x) dx +

−∞{f(x) − f(0)} δ(x) dx x = 0f (x) − f(0) = 0であり、x ̸= 0δ(x) = 0だから、右辺第2項はゼロ となる。ただし、0 × ∞ = 0を用いた。よって上式は

= f (0)

−∞

δ(x) dx = f (0) 2番目の等号はδ関数の定義による。

(4.32)については、y = x − aと変数変換して式(4.31)を用いる。

−∞f (x) δ(x − a) dx =

−∞

f (y + a) δ(y) dy = f (a)

定義 4.3 式(4.31) は、f (x) に f (0) を対応させる汎関数 δ : f (x) → f(0)

としてδ 関数を定義するものと読める。

補足 (4.32)と定義式(4.30)の積分式を合わせれば、 f (x)δ(x − a) = f(a)δ(x) という関係式が得られる。

このようなものが導入された動機については、章末の補遺4.8.2 節に要約した。

(14)

注意 上の証明から分かるように、(4.30)および(4.31)の積分範囲は(−∞, ∞) でなくても、0を含む範囲であれば成り立つ。式(4.32)の場合は、aを含む範囲 であればよい。積分の上端または下端が0 (あるいはa)である場合については、 次頁の式(4.39)参照。

定理 4.2 Heaviside の階段関数を H(x) =

{ 0 (x < 0)

1 (x > 0) (4.33) で定義すると、

δ(x) = d

dxH(x) (4.34) と表すことができる。

証明 H(x)の微分をH(x)書く。a, bを正数として、

b

−a

f (x)H(x)dx = [f (x)H(x)]b−a

b

−a

f(x)H(x)dx

= f (b) −

b 0

f(x)dx = f (b) − (f(b) − f(0)) = f(0) よって、H(x)δ(x)と同じ機能(f (x) → f(0)の汎関数)を示す。

練習問題 定義4.3 で述べたように、δ 関数は式 (4.31) のような積分の中 において意味をもつと考えるのが適切である。このことに注意しながら、 次の関係式(a)–(d) を示せ。ただし a ̸= 0 とする。

定理 4.3 δ 関数の諸性質

(a) δ(x) = δ(−x) (4.35)

(b) xδ(x) = 0 (4.36)

(c) δ(ax) = 1

|a|δ(x) (4.37)

(d) δ(x2− a2) = 1

2|a|[δ(x − a) + δ(x + a)] (4.38)

(15)

4.6. デルタ関数 123

補足 (a) より δ(x) は偶関数と見なせるので、式 (4.31) の半分は

0

f (x)δ(x)dx = 1

2f (0) (4.39) となる。(d) は、次のように一般化される。

定理 4.4

δ (g(x)) =

i

1

|g(xi)|δ(x − xi) (4.40) 右辺の和はg(x) = 0 となる全ての x = xi に関してとる。g(xi) は x = xiにおけるg(x) の微分係数である。

略証 x = xiの近傍でg(x) を Taylor 展開することによる。

−∞

f (x)δ (g(x)) dx =

i

xi xi−ϵ

f (x)δ (g(xi)(x − xi)) dx

δ 関数は、Fourier 変換と組み合せて利用されることが多い。それは、次 の関係式による。

定理 4.5 δ 関数の Fourier 逆変換 δ(x) = 1

−∞

eikx dk (4.41)

証明 (4.25)においてf (x) = δ(x)とおくと、 F (k) = 1

−∞

δ(x) e−ikxdx = 1e

0 = 1

これを式(4.24)に代入すればよい。式(4.22)–(4.23)を用いても、f (k) = 1/2π˜ を経て同様に示される。

補足 (4.41)によれば、 δ(x) = 1

2π (∫ 0

−∞

eikxdk +

0

eikx dk )

= 1

0

(eikx+ e−ikx) dk

(16)

= 1 π

0

cos kx dk = lim

ϵ→∞

[ sin kx πx

]k=ϵ k=0

= lim

ϵ→∞

sin ϵx

πx (4.42)

こ の よ う に 、δ(x) は 連 続 な 関 数 (sin ϵx)/(πx) の 極 限 と し て 表 現 で き る 。 (sin ϵx)/(πx)f (x)と お く。f (−x) = f(x)だ か ら 、f (x)は 偶 関 数 で あ る 。

| sin ϵx| ≤ 1だから、x → ∞f (x)1/xで減衰する。sin xTaylor展開 からも分かるように、

x→0lim sin ϵx

ϵx = 1

よってf (0) = ϵ/πである。また、x = 0からx = ±π/ϵsin ϵxは最初に0 落ちる。このように、f (x)x = 0に高さがϵに比例するピークを持ち、幅がϵ に反比例するような、鋭いピークを持ちその両側で減衰する関数である(下図)

-2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7

-2 -1 0 1 2

sin(5.*x)/(pi*x) sin(10.*x)/(pi*x) sin(20.*x)/(pi*x)

同様の考え方により、Gauss関数やLorentz関数の極限としてδ関数を表現す ることができる。

δ(x) = lim

ϵ→∞

√ ϵ

πexp(−ϵx

2) (4.43)

δ(x) = 1 π limϵ→0

ϵ

x2+ ϵ2 (4.44)

両者とも積分が1になるように規格化されている§

さらに、高さϵ/2で幅2/ϵの長方形や、高さϵで底辺の長さ2/ϵの二等辺三角

形のϵ → ∞の極限を考えてもよい。これらをδϵ(x)と表すと、その幅が狭いと

き、その範囲内ではf (x)f (0)で置き換えることができて、

−∞

f (x)δϵ(x)dx ≃ f(0)

1/ϵ

−1/ϵ

δϵ(x)dx = f (0)

となる。この考え方によれば、面積1のまま鋭くなっていくような偶関数であれ ば、多くの関数が該当することが分る。勿論、式(4.42)–(4.44)も含まれる。も

§

−∞

1

x2+ ϵ2dx = [ 1

ϵTan

−1x

ϵ ]

−∞

= 1 ϵ

[π 2

(π2)]=πϵ

(17)

4.7. Fourier 変換の応用例 125

う少し詳細に見るならば、例えば長方形の場合はx = 0近傍でf (x)Taylor 開して

−∞

f (x)δϵ(x)dx =

1/ϵ

−1/ϵ

(

f (0) + f(0)x +1 2f

′′(0)x2+ · · ·) ϵ

2dx

= f (0)ϵ 2

1/ϵ

−1/ϵ

dx +f

′′(0)ϵ

4

1/ϵ

−1/ϵ

x2dx + · · · = f(0) +f

′′(0)

2 + O ( 1

ϵ4 )

となるので、ϵ → ∞で上式→ f(0)となり式(4.31)が確認される。

要するに、δ関数とはf (x)を掛けて積分するとf (0)を拾ってくる機能のこと であり、定義4.3では、このことを「汎関数」と称した。

4.7 Fourier 変換の応用例

4.7.1 拡散方程式

座標x と時間 t の関数 n(x, t) が

∂n

∂t = D

2n

∂x2 (4.45)

を満たすとする。これは1 次元の拡散方程式と呼ばれる。3 次元の場合は 次頁の式(4.55) に、その導出は章末の補遺 4.8.3 節に示した。拡散方程式 は、液体中の分子の拡散や熱伝導を現象論的に記述する。この偏微分方 程式を、初期条件

n(x, 0) = δ(x) (4.46) の下で解く。

時間と空間に関するFourier 変換が可能だが、この問題では以下に示す ように時間に関しては容易に解けるので、空間についての変換を考えれ ば十分である。

˜

n(k, t) = 1

−∞

n(x, t)e−ikxdx (4.47)

n(x, t) = 1

−∞

˜

n(k, t)eikxdk (4.48) 後者を式(4.45) に代入すれば、

√1 2π

−∞

∂tn(k, t)e˜

ikxdk = 1

√2π

−∞(−Dk

2n(k, t)eikxdk (4.49)

(18)

下記の「注意」で説明するように、eikxの直交性(あるいは Fourier 成分 の独立性) から両辺の積分関数が等しいとしてよいので、

∂tn(k, t) = −k˜ 2n(k, t) (4.50) これは容易に解けて(1 次反応と同じ)、

˜

n(k, t) = ˜n(k, 0) e−k2Dt = 1e

−k2Dt

を得る。2 番目の等号では、初期条件 (4.46) を Fourier 変換 (4.47) に代入 してn(k, 0) を求めた。上式を逆変換式 (4.48) に代入して、˜

n(x, t) = 1

−∞

e−Dtk2+ikxdk =

√ 1 4πDt e

−x2/4Dt (4.51)

が得られる。これは、幅が

√Dt に比例する Gauss 分布である。

注意 (4.49)から(4.50)が得られるということは、一般に

−∞

F (k) eikxdk = 0 (4.52)

ならばF (k) = 0であることを意味する。そこで言及したeikxの直交性とは、δ 関数のFourier変換(4.41)を書き換えた

δ(k − k) = 1

−∞

ei(k−k)xdx (4.53)

のことである。式(4.52)の両辺にe−ik

x

/2πを掛けてxで積分し、上式を用い ると、

−∞F (k) δ(k − k)dk = 0F (k) = 0

kは任意だから、式(4.52)ならばF (k) = 0が成り立つことになる。このこと は、連続的なFourier変換の場合にも、各Fourier成分を独立に扱ってよいこと を示す。離散的なFourier級数展開の場合にも、同様の成分独立性を式(4.19) 導く際に考察した。そこでの直交性の式(4.14)が、上の式(4.53)に相当する。 補足 (4.51)は、指数部分を−Dt(k − ix/2Dt)2− x2/4Dt と平方完成して Gauss積分の公式

−∞

e−ax2dx =√ π

a (4.54)

を用いた。実は、積分変数kのシフトが虚数(ここではix/2Dt) のときに上の 公式を用いるには本来は若干の注意が必要だが、結果は同じになる。章末補遺 4.8.4節参照。

(19)

4.8. 補遺 127

練習問題 同様にして、三次元の拡散方程式

∂tn(r, t) = D ∇2n(r, t) (4.55) を解け。初期条件はn(r, 0) = δ(r) ≡ δ(x)δ(y)δ(z) とする。

注意 いま、方向に依存する物理的因子が何もないので、解も等方的であ るはずである。上の解はr のみに依存し、確かにそうなっている。

4.8 補遺

4.8.1 デルタ関数の導入について

ベクトル a が、規格直交基底{en} によって a =

n

anen

と展開されるとき、係数an

an = (a, en)

により得られる。これは、基底系{en} の規格直交性 (en, em) = δnm

により、

(a, en) =

m

am(em, en) =

m

amδmn = an

となるからである。

Fourier 級数展開も、同様の構成になっている。式 (4.9)–(4.10) は f (x) =

n=−∞

cneinx

cn= 1

π

−π

f (x)e−inxdx

であった。内積を

(f, g) = 1

π

−π

f (x)g(x)dx (4.56)

(20)

で定義することで、式(4.10) は

cn = (f (x), einx) (4.57) と書ける。これは、基底系{einx} の規格直交性

(einx, eimx) = 1

π

−π

ei(n−m)xdx = δnm (4.58)

により、

(f (x), einx) =

m

cm(eimx, einx) =

m

cmδmn = cn (4.59)

となることによる。

連続変数のFourier 変換 (4.22)–(4.23) f (x) =

−∞

f (k) e˜ ikx dk

f (k) =˜ 1

−∞

f (x) e−ikx dx

も同様の構成にしようとするとき、若干の問題が生じる。式(4.56) と同 様に内積を

(f, g) = 1

−∞

f (x)g(x)dx として、式(4.57) と同様に

f (k) = (f (x), e˜ ikx) (4.60)

となったら良いのだが、ここで式(4.58) に対応する (eikx, eikx) = 1

−∞

ei(k−k)x dx (4.61)

に問題が生じる。まず、k = kのときは 1

−∞

dx

となってしまって収束しない。k ̸= kのときは、ei(k−k

)x

は正負に振動す るので、積分は打ち消されて0 になりそうにも見えるが、そのままでは 収束する積分として定義できない。(ただし、下記の補足参照。)

(21)

4.8. 補遺 129

さらに、Fourier 級数展開 (4.9) の場合には f (x) は離散的な級数和で表 されたのが、Fourier 変換 (4.22) における f (x) は連続変数 k による積分に なることから、(4.59) の最初の等号に相当する計算は

(f (x), eikx) =

−∞

f (k˜ ) (eikx, eikx)dk

となる。これが、(4.59) の最右辺に対応して

= ˜f (k)

となってくれたらよいのだが、右辺の積分中に問題の内積(eik

x

, eikx) が 含まれてしまっている。

そ こ で 、離 散 的 な 場 合 の (eimx, einx) = δnm に 対 応 す る も の と し て (eikx, eikx) = δ(k − k) と書き、それは

−∞

f (k˜ ) δ(k − k)dk = ˜f (k)

を与えるものと定義してしまう。このようにして導入された記号δ(k − k) が「デルタ関数」である。このとき、式(4.61) は

δ(k − k) = 1

−∞

ei(k−k)x dx

と書かれる。これは、δ 関数の Fourier 逆変換を表す式 (4.41) に相当する。

補足 (4.61)右辺のような計算に、次のような技巧を用いることがある。そ

れは、減衰因子η (> 0)ei(k−k

)x−η|x|

のように導入して積分を収束させ、その 後にη → 0の極限をとる。

η→+0lim 1 2π

−∞

ei(k−k)x−η|x|dx

= lim

η→+0

1 2π

[∫ 0

−∞

ei(k−k)x+ηxdx +

0

ei(k−k)x−ηxdx ]

= lim

η→+0

1 π

η (k − k)2+ η2

これは、k = kにピークをもち、半値幅ηLorentz関数であり、式(4.44) 見たように、η → 0としたものはδ関数の機能を持っている。

定義4.2 から 4.3 周辺および 4.6 節末の「補足」でも指摘したように、デルタ関数 は通常の意味での「関数」ではなく、上式で定義される機能あるいは汎関数である。

(22)

4.8.2 Dirac δ 関数

式(4.30)–(4.31) のような δ 関数は、P. A. M. Dirac (1902–1984) が量子 力学を定式化する際に、連続固有値の状態の規格直交条件を記述する際 に必要となって導入された。以下の議論は、本質的には4.8.1 節と重複し たものだが、量子力学の枠組で概説した。

まず、離散固有値の場合を考える。ある物理量が離散的な固有値を持 つとする。固有状態の組{|n⟩} は完全規格直交系をなし、任意の状態 |ψ⟩ は、

|ψ⟩ =

n

cn|n⟩ (4.62)

と表される。規格直交条件⟨m|n⟩ = δmn より、

⟨n|ψ⟩ =

m

cm⟨n|m⟩ =

m

cmδmn= cn (4.63)

である。|ψ⟩ の規格化条件は、

⟨ψ|ψ⟩ =

n,m

cmcn⟨m|n⟩ =

n

|cn|2 = 1 (4.64)

これより、|n⟩ に対応する固有値が観測される確率が |cn|2となる。 同様の考察を連続固有値の状態{|f⟩} について行うと、式 (4.62) の和が 積分に代って

|ψ⟩ =

c(f ) |f⟩ df (4.65) となり、式(4.63) に対応して、

⟨f|ψ⟩ =

c(f)⟨f|f⟩df

と書かれる。ここで、⟨m|n⟩ = δmn に対応するものとして

⟨f|f⟩ = δ(f − f) を導入し、それは

c(f)⟨f|f⟩df =

c(f)δ(f − f)df = c(f )

を与えるものと定義する。これにより、式(4.63) との対応がつくことに なる。式(4.64) に対応する規格化条件は、

⟨ψ|ψ⟩ =

∫ ∫

c(f )c(f)⟨f|f⟩dfdf =

|c(f)|2df = 1

(23)

4.8. 補遺 131

と な る 。こ れ は 、物 理 量 f の観測値を [f, f + df ] の範囲に得る確率がˆ

|c(f)|2df であることを示すものと解釈される。

4.8.3 拡散方程式の導出

まず、濃度勾配に比例した拡散の流れを経験的に記述するFick の法則 を示す。これと、粒子数の保存則を表す連続の式を組み合せることで、拡 散方程式を導く。

Fickの法則

拡散の推進力はエントロピーの増大則である。現象論的には、濃度の 高いところから低いところへ、濃度勾配に従って粒子拡散の流れが生じ る。これを記述した経験則がFick の法則である。

簡単のため、一次元で考える。拡散粒子の濃度(数密度) を n(x) とする。 濃度勾配があると、それを打ち消すように粒子の流れJ が生じる。濃度 勾配が小さい場合に、流れ(応答) はそれに比例するとして、

J = −D dndx (4.66) と書ける。x の正方向を正の流れ J > 0 とした。D は拡散係数で、D > 0 である。

三次元では

J = −D ∇n(r) (4.67) と書かれる。∇ = (

∂x,

∂y,

∂z) は勾配 (gradient) を表す。

連続の式

三次元空間内の閉曲面S で囲まれた領域 V を考える。V 内の粒子数 N (t) は数密度 n(r, t) を積分したものであり、その時間変化は

d

dtN (t) = d dt

V

n(r, t)dr =

V

∂tn(r, t)dr

とも書ける。一方、同じ量は境界面S からの流れの総和として、 d

dtN (t) = −

S

J(r, t) · dS = −

V ∇ · J(r, t)dr

(24)

と書ける。dS は境界面上の微小面積から外側への法線方向を向いている とした。2 番目の等号は Stokes の定理による。

上の2 式は等しく、これが任意の微小体積 V について成り立つことから、

∂tn(r, t) + ∇ · J(r, t) = 0 (4.68) を得る。これは「連続の式」と呼ばれ、粒子数の保存則を表す。

拡散方程式

(4.67) と (4.68) より直ちに拡散方程式 (4.55)

∂tn(r, t) = D ∇2n(r, t) を得る。1 次元の場合は、式 (4.45) となる。

4.8.4 Gauss 積分の補足

式(4.51) で、次の公式を用いた。

定理 4.6 Gauss 積分の変形 I =

−∞

e−a(k−iu)2dk =√ π

a (a > 0, u : real)

証明 (注:第5章で解説する複素関数論の基礎の一部(正則性の概念、Cauchy の積分定理)を用いている。)

x = k − iuとおけば、

I =

∞−iu

−∞−iu

e−ax2dx

これは、複素平面上の点A = −R−iuから点B = +R −iuまでの積分のR → ∞ 極限である。実軸上に2C(+R, 0), D(−R, 0)をとってA → B → C → D → A の経路で周回積分すると、e−az

2

は領域ABCDで正則なので周回積分の値はゼ ロとなる。

A→B→C→D→A

=

B A

+

C B

+

D C

+

A D

= 0

(25)

4.8. 補遺 133 R → ∞で、第3項は通常のGauss積分(4.54)に負号を付けたものとなる。第2 項はz = R + iyとおいて

C B

=

R R−iu

e−az2dz = i

0

−u

e−a(R+iy)2dy uは有限なので、この絶対値は

C

B

= e−aR2

0

−u

eay2dy → 0 (R → ∞)

のようにR → ∞0に収束する。第4項も同様。以上より、

I =

B A

=

C D

=√ π a を得る。

参照

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