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基礎物理化学(量子論) 安藤耕司のページ chap07

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7 章 量子力学の要点

これまでの章では、量子力学の基礎的事項については詳しい説明を抜 きに提示し、それらが化学結合論においてどのように使われるかを見る ことに重点を置いてきた。本章では、量子力学についてもう少しだけ補 足する。

本書の範囲で必要となる量子力学の要点は、次のように要約される。 1. 系はハミルトン(Hamilton) 演算子により定義され、系の状態は波

動関数で記述される。

2. 波動関数の時間発展は、「時間依存シュレーディンガー(Schr¨odinger) 方程式」に従う。

3. その特別な場合である「定常状態のSchr¨odinger 方程式」が、系の エネルギー準位を決める。

4. 波動関数の絶対値の二乗|ψ|2 が粒子の存在確率密度分布を表す。こ れを「波動関数の確率解釈」と呼ぶ。

5. 系の波動関数から、種々の物理量の観測値の期待値が計算される。 以下、これらについて順次見て行こう。

7.1 波動関数による状態の記述

微視的粒子の状態およびそれに起因する観測結果を記述する量子力学 では、「波動関数」と呼ばれる新たな概念を導入する必要がある。量子力 学では、「波動関数は対象とする系の状態を記述する」と考える。そして、 位置、運動量、エネルギーなどの物理量をA としたとき、「物理量 A が 値a をもつ」と考えるのではなく、「状態ψ において物理量 A を観測する と、値a が得られる」とする。我々は、種々の物理量を観測した結果とし

(2)

て可能な値の組を知るために、波動関数の振舞いを調べるという手続き を踏む。

波動関数は、その名の示す通り干渉や回折といった波の性質を示す。た だし、通常の波とは異なり、波動関数の値は一般には複素数である。

物質が波動性を示すことは実験事実である。例えば、金属などの固体 結晶に電子線を透過あるいは反射させると干渉模様が見える。これは回 折現象と呼ばれ、電子線が波動性を持つことを実証する。

補足 物質が波動性をも示すことが明らかになった一方で、それまで波動(電磁 )であるとされてきた光が粒子性を示すことも、黒体輻射や光電効果といった 実験事実の考察から明らかになった。(歴史的には、光の粒子性の発見の方が先 である。)すなわち、物質も輻射も粒子性と波動性を併せ持つ。これらの振舞い は波動関数で記述され、粒子性と波動性のどちらが表に現れるかは、どういう 現象に着目し観測を行ったかに依存する。

第3 章で見たように、電子などの微視的粒子を有限の領域に閉じ込め ると、波動性に起因して定在波を形成する。このとき、安定な定在波を 形成するために波長の取り得る値に制限が付き、それに付随してエネル ギーは離散的な値のみを取り得るようになる。これがエネルギーの「量 子化」であり、物質が光を吸収したり発光したりする際に特定の波長(す なわち色) の光が関与する原因となる。

どのような値のエネルギーを取り得るかは、粒子の束縛の仕方(ポテン シャルの形) によって決まる。例えば、これまでの章で扱った (a) 箱型ポ テンシャル、(b) 調和振動子、(c) 水素類似原子では、エネルギー準位は (a) 量子数の 2 乗に比例、(b) 等間隔、(c) 主量子数の 2 乗に反比例という ように、ポテンシャルの相違がエネルギー間隔の現れ方に影響を与えた。 分子系の場合には、分子の形すなわち原子核の配置を反映した静電引力 ポテンシャルに電子同士の反発ポテンシャルが加わることで、電子の状 態が決まる。

7.2 粒子系の Hamilton 演算子

微視的粒子の質量をm、位置座標を r = (x, y, z) とする。この粒子が ポテンシャルV (r) の下にあるときの Hamilton 演算子は、

H = −ˆ h¯

2

2m

2+ V (r) (7.1)

(3)

7.2. 粒子系の Hamilton 演算子 95

で与えられる。

補足 Planck定数は、h = 6.626×10−34Jsという値をもつ。単位はJs =ジュー ル・秒であり、[エネルギー]·[時間]=[座標]·[運動量]の次元を持つ。これは、「作 用」の次元とも呼ばれる。¯h h の使い分けは、振動数ν と角振動数 ωの使い 分けに相当する。2πν = ω に対応して、hν = ¯hω である。νを光の振動数とし

たときのが、1901年にPlanckにより導入された光量子のエネルギーである。

多粒子系の場合のHamilton 演算子は、 H = −ˆ

N

i

¯h2 2mi

2

i + V (r1, · · · , rN) (7.2)

となる。第一項は、質量miを持つ粒子についての和である。分子系の場 合は、全ての原子核と電子を考える。ただし、原子核は静止していると 近似し、電子のみを考える場合も多い。ポテンシャルエネルギーV とし ては、これらの荷電粒子間のCoulomb ポテンシャルを考える。電場や磁 場などの外場がある場合には、それらとの相互作用エネルギーをV に含 める。

7.2.1 分子の Hamilton 演算子

例えば、水素分子H2のHamilton 演算子は次のようになる。陽子の質 量をM 、電子の質量を m、二つの原子核 (陽子) の座標を RA, RB、対応

する微分演算子をA, ∇B、二つの電子の座標をr1, r2、対応する微分演 算子を1, ∇2 とすれば、

H = −ˆ

I=A,B

¯h2 2M

2

I

i=1,2

¯h2 2m

2 i

+ 1 4πǫ0

(

I=A,B

i=1,2

ZIe2

|RI− ri| + e2

|r1 − r2|+

ZAZBe2

|RA− RB| )

(7.3)

となる。Z は核の原子番号で、いまは水素なので Z = 1。ǫ0は真空誘電率

(SI 単位系)。原子核は電子よりも数千倍重いので静止していると近似し、 第一項の核の運動エネルギーは省略して電子のみを考察することも多い。

(4)

7.2.2 正準量子化

式(7.1) の Hamilton 演算子は、古典力学の全エネルギー 1

2m(p

2

x+ p2y + p2z) + V (r)

の運動エネルギー項において、 px → −i¯h

∂x, py → −i¯h

∂y, pz → −i¯h

∂z (7.4) という置き換えをすることで得られる。このように、古典的な全エネル ギー(Hamilton 関数と呼ばれる) から演算子 ˆH を得る手続きを、「正準量 子化」と呼ぶ。

式(3.27) でも使用した勾配 (gradient) の演算子

∇ ≡( ∂∂x, ∂y , ∂z )

(ナブラ (nabla) と読む) を用いると、式 (7.4) は p→ −i¯h∇ とまとめられる。

7.3 波動関数の決定方程式

波動関数を決定するのは、Schr¨odinger 方程式と呼ばれる偏微分方程式 である。

7.3.1 運動方程式

波動関数ψ(r, t) の時間発展を記述する運動方程式は、 i¯h

∂tψ(r, t) = ˆHψ(r, t) (7.5) である。これは、時間依存Schr¨odinger 方程式と呼ばれる。

(5)

7.3. 波動関数の決定方程式 97

7.3.2 定常状態

特に、E を実数として、座標の関数 ψ(r) が

Hψ(r) = Eψ(r)ˆ (7.6)

を満たすとき、ψ(r) を ˆH の固有関数、E を固有値 (または固有エネルギー) と呼ぶ。このとき、ψ(r) によって記述される状態は確定したエネルギー E を持つ。

練習問題 式(7.6) が成り立つならば、

ψ(r, t) = ψ(r)e−iEt/¯h (7.7)

が式(7.5) を満たすことを確認せよ。

式(7.7) は、ψ(r) を波形、E/¯h を角振動数とする「定在波」を表す。よっ て、式(7.6) が成り立つときは、系は定在波 (7.7) で表される定常状態に あると言う。式(7.6) は、定常状態の Schr¨odinger 方程式と呼ばれる 本書では時間依存の式(7.5) よりもこちらを主に扱う。

7.3.3 Einstein-de Broglie の関係式

Schr¨odinger 方程式は、以下に示す Einstein-de Broglie の関係式 (7.9) か ら「導く」ことができる。ただし、演繹的に導くというよりは、発見法 的な飛躍を含んでいる。

まず、波長λ、振動周期 T の波を表す次式を考える。 ψ(x, t) = e2πi(x/λ−t/T )

見やすくするために、波数k = 2π/λ、角周波数 ω = 2π/T を導入して ψ(x, t) = ei(kx−ωt) (7.8) と書いておく。

これは時間依存の式(7.5) の特別な場合だが、考察の対象となる頻度が高いので、単 に「Schr¨odinger 方程式」と書いてこちらを指すことも多い。

(6)

ここで、Einstein-de Broglie の関係式を導入する。これは、運動量 p、エネルギー E を持つ粒子には波数 k、角周波数 ω を持つ波が伴うとい う主張であり、両者はPlanck 定数 ¯h = h/2π を介して

p = ¯hk, E = ¯hω (7.9) のように結び付くとする。これらの見た目は単純だが、粒子性と波動性 を結び付けるものとして概念的内容は過激である。

ここで、式(7.8) の ψ(x, t) が

−i¯h

∂xψ(x, t) = ¯hkψ(x, t), i¯h

∂tψ(x, t) = ¯hωψ(x, t) (7.10) を満たすことに着目する。式(7.9) と (7.10) の右辺同士が対応しているこ とから、左辺同士も

p ↔ −i¯h∂x , E ↔ i¯h∂t , (7.11)

のように対応していると解釈する。これは正準量子化の対応に他ならない。 補足 以上、物理量に微分演算子を対応させる正準量子化の飛躍を、粒子性と 波動性を結び付けるEinstein-de Broglieの飛躍に帰する見方を示した。この対 応は、仲介となる式(7.8)の特殊性に依っているかに見えるが、むしろ式(7.8) が確定した波数を持っているために、上の対応を浮き彫りにできたと解釈するの が適切である。任意の波動関数は式(7.8)の形の関数の重ね合せ(Fourier変換) で記述できるからである。

粒子の質量をm、ポテンシャルエネルギーを V (x) とすると、古典力学 の全エネルギーE は

E = p

2

2m + V (x) (7.12) と書かれる。これに式(7.11) の対応関係を適用すると、

i¯h

∂t = −

¯h2 2m

2

∂x2 + V (x)

と な る 。両 辺 に 含 ま れ る 微 分 演 算 子 は 、式 (7.10) のように、波動関数 ψ(x, t) に演算するものとする。

(7)

7.3. 波動関数の決定方程式 99

時間依存のSchr¨odinger 方程式は、式 (7.8) に限定しない一般の波動関 数ψ(x, t) について

i¯h

∂tψ(x, t) = (

¯h

2

2m

2

∂x2 + V (x) )

ψ(x, t) が成り立つとしたものである。

p→ −i¯h∇

により三次元に拡張すれば、式(7.5) が得られる。

補足 (7.9)のうち、二番目は有名な「Planckの光量子仮説」

E = hν

に他ならない。これは、黒体輻射の問題において仮定され、次いで光電効果の 理論でも用いられた。ここでは、一番目の式p = ¯hkについて補足する。

まず、相対性理論における基本式(Einsteinの関係式)

E2= (cp)2+ (mc2)2 (7.13)

から出発する。質量m 6= 0、運動量p = 0とすれば、有名なE = mc2 (物質の静 止エネルギー)を与える。一方、光子は質量ゼロ(m = 0)なので、上式はE = cp を与える。三次元であれば、E = c|p|である。

練習問題 m 6= 0のとき、粒子速度の小さい非相対論的極限p/m ≪ cにおい

て、E =√(cp)2+ (mc2)2を微少量について展開し、 E ≃ mc2+ p

2

2m+ · · ·

を導け。第一項は静止エネルギー、第二項は非相対論的な運動エネルギーに他 ならない。

さて、質量ゼロの光子に関する上記E = c|p|と、Planckの光量子仮説E = hν を等しいとおけば、|p| = hν/cを得る。これに、光速c、波長λ、振動数νの間

の関係式c = λνを用いれば、

|p| = h/λ

を得る。これは「ド・ブロイ(de Broglie)の関係式」と呼ばれる。

光の電磁波の波数ベクトルをkとすると、λ = 2π/|k|であるから、上式は

|p| = ¯h|k|となる。さらに、電磁波の進行方向を表すkベクトルと運動量ベクト

pは平行であるとすれば、

p= ¯hk

このように、光子に関してp = ¯hkE = hνEinsteinの関係式(7.13)から 導かれる。de Broglieの主張の革新性は、これらが質量ゼロの光子のみならず、 質量を持つ物質でも成り立つとした点にある。

ヒント: x ≪ 1 のとき、1 + x ≃ 1 + x/2 + · · ·

(8)

7.4 波動関数の確率解釈

一粒子からなる系が、波動関数ψ(r, t) で表される状態にあるとする。 このとき、粒子の位置を観測すると、(時刻 t において) 位置 r 近傍の微 小体積要素dr = dxdydz 内に粒子を見出す確率は

|ψ(r, t)|2dr (7.14) で与えられる。これを波動関数の確率解釈という。

系が式(7.7) の定常状態にあるときは、上式は |ψ(r)|2dr に等しくなり、 時間t に依らないものとなる。この節内では以後簡単のため、定常状態の みを考える。

4章で詳しく見るように、水素原子の最低エネルギー状態の波動関数は 球対称で、原子核からの距離rの関数として下図左側のような減衰する指数関 数で表される。電子の位置を観測すると、電子はある一点に見出される。同じ 条件での測定を多数回繰り返すと、図右側のように、波動関数の絶対値の二乗

|ψ|2 を反映した点分布が得られる。このとき、各回の観測で得られる点がどこ であるかは予言できない。波動関数が知らせてくれるのは確率分布のみである。 それは量子力学が不完全だからではなく、原理的にそうなのだというのが、量子 力学の標準的な解釈とされている。

注 意 上 図 は 水 素 原 子 の1sオ ー ビ タ ル と 呼 ば れ る 。「 オ ー ビ タ ル 」は orbital

functionの略で、「軌道関数」と和訳されるが、直訳するならば「軌道的な関数」

である。量子力学の建設期に重要な役割を果たした前期量子論では、原子核の 周りを電子が軌道を描くと考え、部分的な成果を収めた。しかし、「軌道」とい う語には位置と運動量が確定していることが含意される。それは後にハイゼン ベルク(Heisenberg)の不確定性原理により否定された。orbitalあるいはorbital

functionというのは、orbitを考えた前期量子論の名残りである。多くの和書で

は「原子軌道」と訳されているし、上記を理解していれば神経質になる必要も ないので、本書では「オービタル」「軌道」「軌道関数」を適宜混在させて使う。

水素原子のような小さな領域で実際に位置を観測できるかどうかは別問題とし、こ こでは仮想的な思考実験と見なせばよい。多くの教科書や解説書では、微弱な電子線が 二重スリットを通過した際に作る干渉縞を例に採っている。この場合には、各電子はス クリーン上の1 点に記録され、それを繰り返した結果の集まりが干渉縞をなす。

(9)

7.4. 波動関数の確率解釈 101

さて、式(7.14) の確率解釈によれば、粒子は空間内のどこかに存在す るはずで、確率の総和は1 となるので、

|ψ(r)|2dr = 1 (7.15) が成り立つ。これを波動関数の規格化条件という。積分範囲は対象とし ている系の境界条件に依って決まるが、基本的には座標空間全体である。 注意 (7.5)(7.6)はともに、ψが解であるならば、その定数倍も同様に 解となる。すなわち、Schr¨odinger方程式だけでは解に定数倍の不定性が残る。 この意味で、確率解釈に基づく規格化は独立な条件として必要となる。

補足 N 個の粒子から成る系の規格化条件は、

· · ·

|ψ(r1, r2, · · · , rN)|2dr1dr2· · · drN = N

となる。このように、多粒子系の場合には、ψ(r1), ψ(r2), · · · のような各粒子ご との波動関数ではなく、全体の波動関数ψ(r1, r2, · · · , rN) を考える。ただし、

全波動関数を各粒子の波動関数の積で表す近似方法(一電子近似)も存在し、そ れが多粒子系の取り扱いにおいて標準的な出発点となっている。

物理量の期待値

波動関数の確率解釈によれば、粒子の位置の期待値(正確には、観測に よって得られる結果の期待値) は、

r|ψ(r)|2dr (7.16) となる。これは、通常の確率論と同様、試行の結果の値に対応する確率 を掛けて総和を取ったものである。

物理量X の期待値を hXi と書くことにする。上式を少し書き換えて hri =

ψ(r)rψ(r)dr としておく。ψはψ の複素共役を表す。

既に指摘したように、系が式(7.6) の定常状態にあるときは、エネル ギーはE に確定している。よって、このとき hEi = E である。式 (7.6) の両辺に左からψを掛けて積分すると、

ψ(r) ˆHψ(r)dr = E

ψ(r)ψ(r)dr = E

(10)

となる。最後の等号で規格化条件(7.15) を用いた。

以上の考察をもとに、波動関数が式(7.6) を満たすとは限らない一般の 場合にも、エネルギーの期待値は

hEi =

ψ(r) ˆHψ(r)dr (7.17)

で与えられるとする

補足 上の積分を次のように書くことも多い。

ψ(r) ˆHψ(r)dr = (ψ, ˆHψ) = hψ| ˆH|ψi

ψ(r)ψ(r)dr = (ψ, ψ) = hψ|ψi

これらは単なる積分の略記以上の意味があるが、当面は略記と見なして構わな い。一番右はディラック(Dirac)のブラケット(bra-ket)記法と呼ばれるもので、 後章でも利用する。

7.5 重ね合せの原理

7.1 節で「波動関数は干渉や回折などの波の性質を示す」と書いた。こ れを表現するのが重ね合せの原理である。基本的な考え方は通常の波の 重ね合せと同様だが、波動関数が一般に複素数であることに伴い、重ね 合せの係数も複素数であり得る。

重ね合せの原理 ψAψBがそれぞれ物理的に可能な状態(波動関数) で あるならば、それらを任意の複素係数α, β で重ね合せた

ψ = αψA+ βψB

も物理的に許される状態である。

章末の補遺(??節) で一般論の要点を整理する。

ただし、ψ が規格化されるように条件が付く。

(11)

7.6. 観測量と期待値 103

補足 この原理の記述は上記のように単純である。しかしながら、その意味内 容と帰結は日常的な感覚から大きく乖離し得るもので、量子論と古典論の相違 を端的に表している。本書では扱わないが、Schr¨odingerの猫」や「Einstein-

Podolsky-Rosen (EPR)」の名で有名なパラドクスも重ね合せの原理に起因する。

既に見たように、波動関数の絶対値の二乗|ψ|2は粒子の確率密度分布 を表す。上の重ね合せ状態について見ると、

|ψ|2 = |α|2A|2+ |β|2B|2+ 2Re(αβψAψB)

となる。Re(· · · ) は複素数の実部を表す。この右辺第三項を干渉項という。 これがあるために、分布はψAψBから来る分布(第一項と第二項) の単 純和とは異ったパターンを示す。

7.6 観測量と期待値

ここでは、期待値の計算式(7.17) について補足する。一般の物理量を表 す演算子A とその固有値 a という設定で記述するが、具体的には Hamiltonˆ 演算子H とエネルギー固有値 E を想定すればよい。ˆ

1. 物 理 量 A に 対 し て 固 有 値 と 固 有 関 数 の 組 が {aˆ 1, a2, · · · }、 {ψ1, ψ2, · · · } であったとする§。すなわち、

Aψˆ n = anψn (n = 1, 2, · · · ) (7.18) 2. 系の状態を表す波動関数がψnであるときに物理量A を測定すると、ˆ

測定値は必ずanが得られる。

3. 系の状態を表す波動関数がψn (n = 1, 2, · · · ) の何れでもないとし、 その波動関数をφ とする。このとき、任意の φ について、ψ1, ψ2, · · ·

を複素係数c1, c2, · · · で重ね合わせることにより、 φ =

n

cnψn (7.19)

と表すことができる。これを、固有関数系n} の完全性という。

§

ここでは離散的な場合に限定し、連続固有値は扱わないことにする。

このことは、具体例においても確認することが出来るが、それ以前に、これはA がˆ 観測量であることの定義に含まれるとしてよい。

(12)

4. 系が上のφ で表される状態にあるとき、物理量 ˆA を測定すると、 a1, a2, · · · の何れかの値が得られる。各 anの得られる確率は|cn|2 比例するが、各回の測定においてどの値が得られるかは確率的にし か分からない。

5. 物理量の固有関数系は、

ψn(r)ψm(r)dr =

{ 1 (n = m)

0 (n 6= m) (7.20)

を満たす(ように取れるk)。これを「正規直交系」という。 6. φ の規格化条件は、

|φ|2dr = 1

n

|cn|2 = 1 (7.21)

となる。これが満たされるようにcnを規格化すれば、|cn|2は確率 そのものになり、その総和が1 となるという条件が満たされる。 7. 系の状態を表す波動関数がφ であるとき、 ˆA の観測値の期待値 h ˆAi

は次式で計算される。 h ˆAi =

n

|cn|2an=

φAφ drˆ (7.22)

(第一の等号は期待値を定義し、第二の等号が式 (7.17) に相当する。)

注意 上の箇条書きのうち、24は量子力学の基本法則の一部をなす。3は重 ね合わせの原理を含んでいる。35は、脚注に示したように観測量の定義に関 わるものであり、それらが量子力学の基本法則に含まれる。

練習問題 正規直交性(7.20) を用いて、式 (7.21) と (7.22) を確かめよ。

k

固有関数であるだけでは定数倍の不定性が残るので、各ψnを規格化する手続が必 要である。また、固有値が縮退している(同じ固有値を持つ独立な解が複数ある) 場合 には、適当な線形結合を取って直交化させる。固有値が異なる場合には固有関数は互い に直交する。これは、物理量を表す演算子がエルミート(Hermite) 演算子であることか ら導かれる。Hermite 演算子の固有値は常に実数であることも示せる。観測値は実数な ので、物理量はHermite 演算子で表されることが要請される。

参照

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