(8)
Protozoological Garden Vol. 3 (2012)
Column
皆さんこんにちは。こちらは『原生動物園』に一定のゆるさを与えるべく、早川(芝 野)郁美が好き勝手書くコーナーです。今回は思い出話。
光る大腸菌の思い出
高校二年の冬、突然、「光る大腸菌 を作る会」が開催された。生物の先生 が実験キットを手に入れたという。参 加者の募集がかかり、私は「超おもし ろそう!」とばかりに参加を決めた。 しかし、今でいう理科離れを反映して か、集まったのは2、3人だったよう に思う。薄暗い生物室の片隅で、こそ こそ培地を作る姿は、どこか黒魔術め いていた。プリントには、光るクラ ゲ、DNA、はさみ、のりなどのイラ ストが描かれ、まるでDNAを手にと って切り貼りできるかのようだ。私の テンションはものすごく上がった。 経験があるならお分かりのように、 分子生物学実験は、派手なことをやっ ているようでも、作業自体は非常に地 味である。「DNAを切ったり貼った り」は微量な液体を混ぜ合わせ、温め るだけで終わる。さらに、このキット はそのDNAさえ予め用意されていた ので、作業は「大腸菌を温めたり、冷 やしたり、育てたり」で完了した。私 のテンションはものすごく下がった。
ところが数日後、大腸菌のコロニー を前に、私はしっかり感動することに なる。ブラックライトの下で、ぼんや りと浮かび上がる黄緑の光。こころな しか、私のサンプルは誰よりコロニー が多く、光も強かった覚えがある。
「大腸菌に好かれてる?」と内心調子 に乗りながら、いつまでもその光を見 ていたいと思った。
しかし、ほんとうに今でもGFP蛍光 を追いかけているとは、まさか思いも しなかった。その間に、分子実験の裏 にある膨大な偉人の努力を学び、分子 や遺伝子の名前を覚え、少しは成長し たのだろうか。
高校生の頃見た光に、私は今でも魅 了されている。それは単なるタンパク 質の蛍光ではなく、生き物全てが持っ ている、輝きだったように思う。 早川(芝野)郁美