第5章
双葉郡への帰還における課題
帰還問題の背景
避難者にとって最も深刻な懸念事項の一つとなっているのが、双葉郡への帰還問
題である。人々が帰還するためには、放射線量の低下だけでなく、働き口や住まい
の確保、インフラの整備、病院・学校・商店・行政へのアクセスなど、課題が数多く
残されている。さらに、これらの各項目の重要度は個人によって異なる。したがっ
て、帰還者率を予測するうえで、各項目に対するニーズの高さを理解することは不
可欠である。
この章では、3つの問題を明らかにする。
1. 応急仮設入居者の帰還意思の高さ?その世代格差?
2. 帰還率を上昇させるために必要な条件とは?
3. 避難指示区域となっている町村の人々は、帰還宣言と同時に帰還するのか?
この章の目的
分析結果(1)帰還意思の全体的傾向(2013年9月現在)
グラフの説明
双葉郡からの避難者515世帯に対して、震災前の集落に帰還する意思を質問した。このグラフは、回 答者およびその同居家族の帰還意思の分布を表したものである。
注)このアンケートは応急仮設入居者に限定したものであるため、全町民・村民の帰還意思は、より 低くなることが予想される。
応急仮設に現在も避難している人々の うち、3割強が帰還しないと決めている。
「帰還するつもり」と回答した割合は全 体の3割強にすぎない。広野町では帰還 意思が比較的高く、6割以上を占めてい るが、大熊町では5%以下であった。 現在も帰還を迷っている人々(「わから
ない」と回答)が15%存在する。 0%
10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
1105人 59人 149人 196人 410人 28人 263人 全体 双葉町 大熊町 富岡町 楢葉町 川内村 広野町
帰還意思の地域差
帰るつもり わからない
帰りたいが帰れないと思う もう帰らないと決めている
分析結果(2)帰還意思の世代格差
「帰るつもり」と回答した人々 の68%を60歳以上が占め る。
したがって、「帰るつもり」と回 答した人のみが帰還した場 合、帰還先では著しい高齢 化が起こる。
一方、「わからない」と回答し た人々も帰還する場合、この 割合は58%まで低下する。こ れは、現在の応急仮設入居 者の年齢構成(60歳以上が 54%)とほぼ等しい。
帰還者の世代バランスをとる ためには、「わからない」と回 答した人々を帰還させること が不可欠である。
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
帰還意思の年齢格差
帰るつもり わからない
帰りたいが帰れないと思う もう帰らないと決めている
分析結果(3)帰還するうえで住民が望む条件
前問で「帰るつもり」 、「わからない」 、「帰りたいが帰れないと思う」と回答した人々に対 して、
①放射線量
②産業復興(働き口の存在)
③帰還後の住まい
④生活の利便性(役場・学校・病院・商店などの数)
⑤近隣住民の帰還状況
の5項目が、どの水準に達すれば帰還しようと思うか、および⑥これらの条件が実現する のに何年間待てると思うかを質問した。
以下では、その集計結果を世代別に示す。
①放射線量
帰還宣言が出た程度の放射線量 で帰還できると回答したのは、高齢 者ばかりである。10歳未満では1人 も帰還せず、10代の子供でも5%程 度である。
しかし、さらなる除染によって「子供 にも安全」と思える水準にまで放射 線量が下がった場合、むしろ若者 世代の帰還率が高齢者よりも高く なる。
したがって、帰還先の高齢化を防ぐ には、少なくともこの基準まで放射 線量を下げることが不可欠である。
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
帰還の条件:放射線量
帰還宣言の水準 子供にも安全な水準 いわきと同じ水準 震災前の水準
「子供にも安全と思える水準」まで除染 されなければ、若者世代の半数以上が 帰還しない。
②産業復興(働き口の存在)
帰還先町村の産業復興無しでは、 たとえ放射線などの条件が満たさ れたとしても、 20代から50代の半 数が帰還しないと見込まれる。 しかし、仕事を引退した60代より上 の世代では、産業復興への需要 は低い。
帰還先の町村(集落である必要は ない)に働き口が見つかれば、応 急仮設に住む若者世代の8割は帰 還条件が満たされる。
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
帰還の条件:産業復興
どこでも構わない 帰還先町村内で働ける 帰還先部落内で働ける
注)「どこでも構わない」は、既に仕事を引退しており働く意思が無い場合も含む。
③帰還後の住まい
「帰還するためには復興住宅を含 めて新居が必要」と回答した割合 は、10歳未満や30代では高いが、 それを除いて2割程度である。この 多くは家屋が全壊・半壊した人々 である。
一方、「震災前の家を掃除すれば 住める」と回答した割合は約3割で あり、若い世代に若干多い傾向が ある。
つまり、住まいに対する若者の ニーズは二極化している。
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
帰還の条件:帰還後の住まい
以前の家を大掃除 以前の家を改築 新居が手に入る
注)「新居が手に入る」は、復興住宅も含む。
④生活の利便性(役場・学校・病院・商店などの数)
生活の利便性に関する環境の改 善を放射線量の問題と同様に重 要視する避難者が多い。
放射線量が震災前まで下がること を帰還の条件とした人々は全体の 34%にとどまったが、生活の利便 性(役場・学校・病院・商店などの 数)に関しては、50%が震災前の 水準を条件としている。
この傾向は、若い世代でとりわけ 強い。
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
帰還の条件:生活の利便性
半分以下でも構わない 半分程度 震災前の7割程度 震災前の水準 若者を中心に、生活の利便性を重視
する傾向が強い。
⑤近隣住民の帰還状況
高齢者や若者世代は、近隣住民の 帰還を条件とする傾向がある。 中でも高齢者は、健康上の理由に より、近隣住民との助け合いによる 生活が不可欠であると考えている。
0% 20% 40% 60% 80% 100%
帰還の条件:近隣住民の帰還状況
半分以下でも構わない 半分程度 震災前の7割程度 震災前の水準
⑥帰還条件が実現するのを待てる年数
全体的に最も多い回答は「3年以 内」であり、次いで「5年以内」「11 年以上」が多かった。
この回答によると、2016年9月まで 復興作業がかかる場合、応急仮 設入居者の帰還率は半数となる。 さらに2018年9月までかかる場合、 帰還率は3割にまで低下すると見 込まれる。
世代と回答結果との関係性は強く ないが、「11年以上」待てると回答 した人々の6割以上は、新しい場 所で生活を再スタートすることが困 難と考える60代以上の人々であっ た。
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
帰還条件が実現するのを待てる年数
1年以内 3年以内 5年以内 7年以内 10年以内 11年以上
分析結果(4)帰還を迷う原因は何なのか?
「帰るつもり」と回答した人と比べて、「わからない」と回答した人の共通点は、、、
① 子供にも安全と思える水準まで放射線量が下がることを帰還の条件にしている。
② 新居が手に入らなければ帰還できない。
③ 帰還先の町村内で働き口が必要である。
④ 役所・学校・病院・商店が震災前の水準まで戻ることを帰還の条件にしている。
これらの条件を満たすことが、「わからない」と回答した層の帰還率を上昇させるうえで重 要である。
同様な分析を広野町出身者に限定して行った結果、「わからない」と回答した人の共通点 は、、、
① 子供にも安全と思える水準まで放射線量が下がることを帰還の条件にしている。
② 近隣住民の7割が広野町に帰ることを帰還の条件にしている。
同様に、楢葉町出身者に限定して行った結果、 「わからない」と回答した人の共通点は、、、
① 子供にも安全と思える水準まで放射線量が下がることを帰還の条件にしている。
② 楢葉町の中で働き口が見つかることを条件にしている。
分析結果(5)避難指示区域の人々は帰還宣言と同時に
帰還するのか?
広野町は帰還宣言が出て2年が経過しようとしているが、いまだ帰還率は2割程度である。 では、現在も避難指示区域となっている町村では、帰還宣言と同時に帰還するのか? この問題を明らかにするため、広野町とそのほかの町村との帰還条件を比較した。
帰還の条件は、広野町よりも避難指示区域となっている地域のほうが厳しい(以下の町村別帰 還条件を参照)。
さらに、広野町では、最も帰還条件が易しい層は既に帰還しているため、アンケート対象者に含 まれていない。したがって、実際はアンケートが示す以上に地域差が存在するはずである。
つまり、他の町村が広野町と同レベルの放射線量、生活の利便性、産業復興を実現したとして も、住民の帰還率は広野町よりもさらに低くなる可能性がある。
0% 20% 40% 60% 80% 100%
全体 双葉町 大熊町 富岡町 楢葉町 川内村 広野町
放射線量の高さ
震災前の水準 いわきと同じ水準 子供にも安全な水準 帰還宣言の水準
0% 20% 40% 60% 80% 100%
全体 双葉町 大熊町 富岡町 楢葉町 川内村 広野町
産業復興
帰還先部落内で働ける 帰還先町村内で働ける どこでも構わない
0% 20% 40% 60% 80% 100%
全体 双葉町 大熊町 富岡町 楢葉町 川内村 広野町
帰還後の住まい
新居が手に入る 以前の家を改築 以前の家を大掃除
0% 20% 40% 60% 80% 100%
全体 双葉町 大熊町 富岡町 楢葉町 川内村 広野町
生活の利便性
震災前の水準 震災前の7割程度 半分程度 半分以下でも構わない
0% 20% 40% 60% 80% 100%
全体 双葉町 大熊町 富岡町 楢葉町 川内村 広野町
近隣住民の帰還状況
震災前の水準 震災前の7割程度 半分程度 半分以下でも構わない
0% 20% 40% 60% 80% 100%
全体 双葉町 大熊町 富岡町 楢葉町 川内村 広野町
帰還まで待てる年数
1年以内 3年以内 5年以内 7年以内 10年以内 それ以上
まとめ(1)
帰還意思と帰還条件の全体的傾向
応急仮設入居者の中で、将来的に双葉郡への帰還を予定しているのは3割であり、その うち7割弱が60歳以上の人々であった。一方、若者世代を中心として、全体の15%が帰還 を迷っている。さらに、全体の3割は帰還しないことを既に決意している。
帰還率や帰還者の世代格差を改善するには、「わからない」と回答した人々の帰還条件 を把握する必要がある。
若者世代を中心として約半数の人々が、「子供にも安心と思える水準」まで放射線量が低 下することを帰還条件として挙げている。帰還宣言が出る程度の除染作業では、未成年 の人口は3%程度にまで減少することが見込まれる。
20代から50代までの半数が、放射線などの条件がすべて満たされたとしても、帰還先の 町村内に働き口が無ければ帰還しないと回答した。
若者を中心として、全体の5割の人々が、生活の利便性が震災前と同レベルまで回復し なければ帰還出来ないと回答した。
帰還のための条件が2018年9月までに整備されない場合、応急仮設入居者からの帰還 率は3割にまで低下する。
まとめ(2)
帰還を迷う原因
双葉郡への帰還を迷っている人々は、①放射線量が子供にも安全な水準まで下がり、② 新居が手に入り、③町村内に働き口が見つかり、④生活の利便性が震災前の状態まで回 復することを帰還条件としている。
広野町出身者で帰還を迷っている人々は、 ①放射線量が子供にも安全な水準まで下が り、②近隣住民の7割が広野町に帰還することを条件と考えている。
楢葉町出身者で帰還を迷っている人々は、 ①放射線量が子供にも安全な水準まで下が り、②楢葉町内で働き口が見つかることを条件と考えている。
現在も避難指示が続いている地域の人々は、帰還への条件が広野町民よりも厳しい。した がって、現在の避難指示区域が広野町程度の状態まで復興したとしても、帰還率は広野町 よりも低くなる可能性がある。