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サーチ品質の向上を目指して 「特技懇」誌のページ(特許庁技術懇話会 会員サイト)

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(1)

抄 録

 幅広い技術分野が含まれるようにクレームが上位概念化された案件は、特定の技術分野の分 類をサーチしただけではサーチが完結しない、サーチすべき分類を特定しにくい等の理由から サーチが困難となりやすく、サーチ品質の問題も生じやすいと考えられます。本稿ではこのよ うな案件を念頭に、効率よくサーチ品質を向上させる手法を検討していきます。特に、サーチ と対比判断を分断せず、サーチ段階で対比判断の際にどのような証拠が必要になるかを意識し ながらサーチを行う手法を検討したいと思います。

1. はじめに

 昨今、審査品質の向上は、各国特許庁にとって重 要な課題となっており、日本においても例外ではあ りません。産業構造審議会の知的財産政策部会の中 に品質管理小委員会が設けられたのもその表れと いえるでしょう。本稿では、審査品質の中でも、特 に先行技術のサーチ品質に目を向けてみたいと思い ます。

 サーチ品質についての議論をみてみると、分類等 のサーチツールの整備、外国文献サーチの品質向上、 サーチノウハウの共有などに力点が置かれているよ うに思います。本稿ではそれとは別に、サーチ品質 に問題が生じやすい案件(サーチ困難な案件)はど のような案件か? という観点からアプローチして、 そのような案件の対処法を考えることでサーチ品質 の向上を検討してみたいと思います。

 サーチ困難な案件といってもいろいろな類型が考 えられると思いますが、本稿では、幅広い技術分野 が含まれるようにクレームが上位概念化されている 案件をターゲットにしたいと思います。このような 案件は、特定の技術分野の分類をサーチしただけで はサーチが完結しない、サーチすべき分類を特定し

にくい、ピタッとくる分類が存在しないこともしば しばある、というようにサーチが困難になりがちで す。

 筆者は、このような案件に適切に対処するために は、特に以下の視点が重要と考えています。 ① どのような引用文献が必要かを意識してサーチす

る(仮想的な主・副引用発明の設定)

② そのためにはサーチ段階でも対比判断を意識する (サーチと対比判断を別物と考えない)

③ 本願発明の上位概念化された抽象的なコトバでは なく、引用発明のコトバで考える

 以下、これらの視点をふまえながら上記のような 案件を適切にサーチする手法を検討していきたいと 思います。なお、本稿は筆者の一審査官としての経 験に基づく私見を示すものであり、特許庁の見解を 代表するものではありません。

2. 問題のあるサーチ

 「人の振り見て我が振り直せ」という諺がありま すが、サーチ外注は「人の振り」を見る絶好の機会 です。「なるほど。こういうサーチの仕方もあるのか」 と勉強になることもありますし、「このサーチは

 審査第四部 電気機器

 千本 潤介

寄稿2

(2)

稿

(1)本願発明(図1参照)

ア 特許請求の範囲

イ 本願の明細書等の概要

 コミュニケーション装置においてメッセージの一 覧を表示する際、すぐに返信すべきメッセージをユー ザにわかりやすく表示することを課題とする。  「コミュニケーション装置」としては、電話、

FAX、メール、SNS 等のうち、単独の機能のみを 備えた装置であってもよいし、複数の機能を有する 装置(例えばスマートフォン)などでもよい。「受信 メッセージの一覧」には、電話の着信履歴一覧、

FAX 受信履歴一覧、受信したメール一覧、受信し た SNS メッセージ一覧などが含まれる。「返信」に は折り返し電話、FAX 返信、メール返信、SNS メッ セージ返信などが含まれる。

 受信メッセージの一覧を表示する際は、「所定の ちょっと……」ということもあります。

 問題のあるサーチの原因について考えてみます と、一致点の認定誤りという基本的なミスもありま すが、クレーム分節法に起因することが多いように 感じます。クレーム分節法とは、例えばクレーム 1 であれば 1a,1b……、クレーム 2 であれば 2a,2b…… というように、各クレームの構成要件を分節してい く手法です。

 クレーム分節法は、クレームをパズルのピース のように扱いやすくするというメリットはあると 思いますが、逆に、分節された構成要件ごとにサー チをする結果、以下のような問題が生じやすいと 思います。

① サーチの段階では、各構成要件に対応する引用発 明同士の組み合わせが考慮されない

② 対比判断の際に引用発明を無理に組み合わせよう として後知恵に陥りやすい(特にクレームが上位 概念化されていると、上位概念化された本願のク レームのコトバで無理やり引用発明を組み合わせ てしまいがち)

③ クレーム全体としてのサーチ戦略がなく、なんと なく似た雰囲気のものを探しているだけ(雰囲気 サーチ)で、自分でもどんな引用発明がほしいの か分からなくなる(本願のクレームが上位概念 化・抽象化されている場合は特に雰囲気サーチに 陥りやすい)

3. 仮想事例

 抽象論ばかりだとイメージがわきにくいので仮想 事例を考えてみます。

【請求項1】

(1a)メッセージを送受信可能なコミュニケー ション装置であって、

(1b)メッセージに含まれる用語という指標に 基づいて各メッセージの返信の必要性を判断す る判断手段と、

(1c)受信メッセージの一覧を表示する手段で あって、前記判断手段により必要性が高いと判 断されたメッセージを上位に表示する一覧表示 手段と、

を備えることを特徴とするコミュニケーション 装置。

コ ー

電話 メール

A S Sメッセージ

ー の 要 を

(メッセージに含まれる用語)

・メッセージ1 ・メッセージ2

・メッセージ

返信の必要性が 高いものを 上位に表示

(3)

1 が、1a+1c に対応するものとして引用発明 2 が発 見されたとします。

ア 引用発明1(1a+1b、図2参照)  スマートフォンであって、

 受信メールの一覧を表示する際に、所定の用語(例 えば「緊急」)が含まれているメールを、すぐに返信 すべきメールと判断し、そのようなメールを赤色等 で強調表示するスマートフォン。

イ 引用発明2(1a+1c、図3参照)  電話装置であって、

 電話の着信履歴の一覧を表示する際に、所定の発 信者(例えば家族)からの着信をすぐに折り返し電 話をする必要性が高いと判断し、そのような着信を 上位に表示する電話装置。

(3)陥りやすい誤り(後知恵)の例

 引用発明 1,2 を本願発明のコトバに翻訳してみ ましょう(相違点には取消線が付してあります。構 指標」に基づいて各メッセージの返信の必要性を判

断し、必要性が高いと判断されたメッセージを上位 に表示する。所定の指標としては、例えば「メッセー ジに含まれる用語」を用いる。

 「メッセージに含まれる用語」を指標として用い る具体例としては、例えば、「至急」などの緊急性 を示す用語が含まれているものは返信の必要性が高 いと判断する。なお、メッセージからの用語の抽出 方法としては、留守番電話で録音された音声データ に対して音声認識をして得られたテキストデータか ら用語を抽出してもよいし、受信した FAX 画像に 対して文字認識をして得られたテキストデータから 用語を抽出してもよいし、メールや SNS メッセー ジなどのテキストデータから用語を抽出してもよ い。

(2)引用発明

 本願発明のクレームを構成要件 1a-1c に分けて サーチしたとします。

 その結果、1a+1b に対応するものとして引用発明

り の 要 を

(発信 に基づく) ・ 信1 ・ 信2

・ 信

り返しの必要性が 高いものを 上位に表示

ート

の 要 を

(メールに含まれる用語)

・メール1 ・メール2

・メール

返信の必要性が 高いものを

強調表示

(4)

稿

 

このように、引用発明 1,2 を本願発明のコトバに 翻訳したうえで、例えば以下のような判断を行って しまうことはないでしょうか? (図 4 参照)  「引用発明 1 と 2 はいずれもコミュニケーション 装置に関する技術分野に属する点で技術分野が共通 し、受信メッセージの一覧を表示する際に返信の必 要性の高いメッセージをわかりやすく表示するとい う点で課題も共通する。したがって、引用発明 1 に おいて受信メッセージの一覧を表示する際、返信の 必要性が高いと判断されたメッセージについて、「強 調表示する」手法にかえて、引用発明 2 のように「上 位に表示する」手法を採用し、本願発明に想到する ことは当業者が容易になしえたことである。」  もしかしたら、これのどこがまずいの? という方 成要件 1a-1c のうち、相違点のある部分には 1b’の

ように’を付してあります。)。

 引用発明 1 の「メール」、「スマートフォン」は、 それぞれ、「メッセージ」、「コミュニケーション装置」 に翻訳されます。

 引用発明2の「着信」、「電話装置」も、それぞれ「メッ セージ」、「コミュニケーション装置」に翻訳されます。

引用発明1

(1a)メッセージを送受信可能なコミュニケー ション装置であって、

(1b)メッセージに含まれる用語という指標に 基づいて各メッセージの返信の必要性を判断す る判断手段と、

(1c’)受信メッセージの一覧を表示する手段で あって、前記判断手段により必要性が高いと判 断されたメッセージを上位に表示する強調表示 する一覧表示手段と、

を備えることを特徴とするコミュニケーション 装置。

(1b’)少なくともメッセージに含まれる用語と いう指標を含む所定の指標に基づいて各メッ セージの返信の必要性を判断する判断手段と、 (1c)受信メッセージの一覧を表示する手段で あって、前記判断手段により必要性が高いと判 断されたメッセージを上位に表示する一覧表示 手段と、

を備えることを特徴とするコミュニケーション 装置。

引用発明2

(1a)メッセージを送受信可能なコミュニケー ション装置であって、

・返信の必要性

(メールに含まれる用語) ・強調表示

・ り返し電話の必要性 (発信 )

・上位に表示

引用発明1 ート

引用発明2

・返信の必要性

(メッセージに含まれる用語) ・強調表示

・返信の必要性 (発信 ) ・上位に表示

コ ー

コ ー

・技術分 同一

(コミュニケーション装置) ・課題同一

(要返信メッセージを分かりやすく表示) 引用発明1 2の組み合わせは容易

・返信の必要性

(メッセージに含まれる用語) ・上位に表示

コ ー

本願発明

実は引用発明1 2とは の 引用発明1’ 2’に

( 定)して

組み合わせている

(5)

し電話をする必要性が高いと判断される着信を上位 に表示するスマートフォンができあがるのではない でしょうか?(図 5 参照)

 本願発明を思い出しますと(1b)メッセージに含 まれる用語という指標に基づいて各メッセージの返 信の必要性を判断する、(1c)必要性が高いと判断 されたメッセージを上位に表示する、という 2 つの ポイントがあります。しかし、上記の引用発明 1 と 引用発明 2 を組み合わせたスマートフォンは、①受 信メールの一覧表示においては(1b)を充足します が、(1c)を充足しませんし、②着信履歴の一覧表 示においては(1c)を充足しますが、(1b)を充足し ません。

 このように、引用発明 1 と引用発明 2 を素直に組 み合わせても本願発明に想到しません。「本願発明 ≠引用発明 1 +引用発明 2」なのです。

 (3)の「陥りやすい誤り(後知恵)の例」で示した 拒絶理由のロジックをわかりやすく書くと、実は次 のようなロジックを用いています(図 4 参照)。

引用発明 1’= 引用発明 1 を本願発明のコトバで翻 訳(上位概念化)して再認定

引用発明 2’= 引用発明 2 を本願発明のコトバで翻 訳(上位概念化)して再認定

本 願 発 明 =引用発明 1’+引用発明 2’

(引用発明 1’又は 2’が周知技術であれば本願発明 もいるかもしれません。次は翻訳作業を経る前の引

用発明のコトバで組み合わせを検討してみましょう。

(4)主引用発明のコトバで組み合わせを検討する

 引用発明 1と2を組み合わせることが容易か以前 に、そもそも引用発明1と2とを組み合わせると何が できるか(本願発明になるか)を検討してみましょう。  ここでのポイントは引用発明のコトバで考えるこ とです。

 まず、引用発明 1 は、受信メールの一覧を表示す る際に、例えば「緊急」等の所定の用語が含まれて いるように、すぐに返信すべきと判断されるメール を強調表示するスマートフォンです。

 次に、引用発明 2 は、着信履歴の一覧を表示する 際に、例えば、所定の発信者(例えば家族)からの 着信のように、すぐに折り返し電話をする必要性が 高いと判断される着信を上位に表示する電話装置 です。

 引用発明1に引用発明2を素直に組み合わせると、 スマートフォンにおいて、①受信メールの一覧を表 示する際に、例えば「緊急」等の所定の用語が含ま れているように、すぐに返信すべきと判断される メールを強調表示するとともに、②(電話の)着信 履歴の一覧を表示する際に、例えば、所定の発信者 (例えば家族)からの着信のように、すぐに折り返

・返信の必要性

(メールに含まれる用語) ・強調表示

引用発明1 ート

・ り返し電話の必要性 (発信 )

・上位に表示

引用発明2

引用発明1 2 ート

受信メールの一覧表示 ・返信の必要性

(メールに含まれる用語) ・強調表示

信 の一覧表示

・ り返し電話の必要性 (発信 )

・上位に表示

・返信の必要性

(メッセージに含まれる用語) ・上位に表示

本願発明

コ ー

組み合わせても 本願発明に ならない

(6)

稿

段、(1c)受信メッセージの一覧を表示する手段であっ て、前記判断手段により必要性が高いと判断された メッセージを上位に表示する一覧表示手段、という ように分節してサーチをしました。

 しかし、「コミュニケーション装置」等の本願発 明のコトバは上位概念化されたものであり、実際に は電話、FAX、メール、SNS 等の様々な技術分野 を包含しています。1bに関する引用発明1は「メール」 の技術分野に属し、1c に関する引用発明 2 は「電話」 の技術分野に属しているわけですが、本願発明の上 位概念化されたコトバに翻訳して考えてしまった結 果、両者を組み合わせ容易と判断し、後知恵に陥っ てしまいました(「2. 問題のあるサーチ」参照)。こ のような誤りを防ぐため、次はサーチの段階で対比 判断を意識する仮想的な引用発明を想定したサーチ 手法を検討していきたいと思います。

4. 仮想的な引用発明を想定したサーチ

 引き続き同じ仮想事例を用いて考えてみましょ う。まずは、引用発明 1(主引用発明の候補)はす でに見つかっている前提でどのように副引用発明を サーチするかを考え、次に主引用発明自体のサーチ にまで拡張していきたいと思います。

は想到容易との議論もあり得ますが、いずれも周知 技術ではないものとします。)

(5)補足

 実はこの問題、裁判事例でも問題とされたことが あり、平成 27 年 10 月の審査基準全面改訂の際の意 見募集(パブコメ)でも指摘されています1)(図 6 参 照)。

 そして、改訂審査基準では、陥ってはならない後 知恵の例として「引用発明の認定の際に、請求項に 係る発明に引きずられてしまうこと」が挙げられ、 「引用発明は、引用発明が示されている証拠に依拠

して(刊行物であれば、その刊行物の文脈に沿って) 理解されなければならない。」が書いてあります。 さらっと書いてあるだけですが、是非気を付けたい ところです。

(6)問題点の分析

 上記のサーチでは、本願発明のクレームを(1a) メッセージを送受信可能なコミュニケーション装置、 (1b)メッセージに含まれる用語という指標に基づ

いて各メッセージの返信の必要性を判断する判断手

1) 特許庁ホームページ「「特許・実用新案審査基準」改訂案に対する意見募集の結果について」(平成 27 年 9 月 16 日)https://www.jpo.go.jp/ iken/kaitei_150708_kekka.htm「3. 寄せられた御意見の概要とその御意見に対する回答について」の「No.139」参照。

・ 成26 (行ケ)第1 14 号、 成26 (行ケ)第1 15 号で 判示されているように、

・1 引用発明の記載事項を 定した上で、

・2 相違点について する際に、

引用発明の記載事項を 願に係る発明の

構成と言い えて 定( 解 )し、

・3 定した の引用発明の記載事項の

構 を、 の引用発明に 用可能か かを する

・という 定手 は、 として容易想到性

の判断の誤りをもたらす 性が高い。

・ のような 題が ないように、

・改訂審査基準第 第2 第2 3 3(1)

( ) 同第3 3 3において、審査 は、 知 に ることがないように留意 しなければならないとし、

・ 指 の点に関し、引用発明の 定の際 に、請求項に係る発明に引きずられて 解すること(例えば、 指 のような、

請求項に係る発明に った 定( 解

)における不当な上位概 )のないよ

う留意することとしています。

された意見( ) それに対する ( )

(7)

きます(本願発明のコトバである「メッセージ」で はなく引用発明 1 のコトバである「メール」に即し て考えるのがポイントです。)。そのような変更(経 路)についての想到容易性を立証するために、返信 の必要性が高いメールを上位に表示するという副引 用発明(場合によっては主引用発明)があれば理想 的ですが、「受信メールの一覧を表示する際に重要 なメールを上位に表示する」ことが周知技術である ことが示せれば十分かもしれません(引用発明 1 で 返信の必要性が高いメールは重要なメールであるこ とは明らかで、それを上位に表示することは容易と 立証できる可能性があります)。

 このように考えると、副引用発明のサーチにあ たっては、返信の必要性が高いメールを上位に表示 するという発明を第 1 目標に、重要なメールを上位 に表示するという周知技術を第 2 目標にしてサーチ することになります。

 なお、本願発明が上位概念化されている場合、本 願発明には様々な実施態様(ゴール候補)が含まれ ますので、どれを選択するかによってサーチの難易 度は変わります。実施例や下位のクレームで明示さ れている実施態様を当初のゴール候補にしつつ、見 つからなければ明細書等に明示のない実施態様にま で徐々に広げるのが基本となるでしょう。各ゴール 候補のサーチにどれくらい力点をおくかは、想定さ れるサーチの難易度や引用発明が発見できる蓋然性 (1)主引用発明に何を組み合わせれば本願発明にな

るか考える(副引用発明のサーチ)

 進歩性欠如の拒絶理由というのは、当業者が主引 用発明からスタートして、(本願発明を知らない状 態で)本願発明というゴールに想到するのが容易で あることを立証することに他なりません。

 そこで、主引用発明の候補(スタート地点候補: 引用発明 1)が見つかっている段階(副引用発明の サーチ前の段階)で、引用発明 1 をどのように変形 すれば本願発明(ゴール)に想到するか、という途 中経路(相違点)を、引用発明 1 のコトバで考えます。 次に、どのような副引用発明があればその途中経路 をとおって本願発明(ゴール)に想到するのが容易 であると立証できるか(つまり、途中経路を埋めら れ、かつ、主引用発明に対して組み合わせの動機が 説明できるような副引用発明)を考えます。相違点 に係る構成だけでなく、課題の記載など、組み合わ せの動機の部分まで含めて考えるのがポイントで す。そのような副引用発明を想定したら後はサーチ するのみですし、想定できなければ、主引用発明の 選択から見直します。

 仮想事例(図 7 参照)では、引用発明 1 の受信メー ルの一覧を表示する際に、すぐに返信すべきと判断 されるメールを「強調表示する」のではなく「上位 に表示する」よう変更できれば、本願発明に想到で

・返信の必要性

(メッセージに含まれる用語) ・上位に表示

・返信の必要性

(メールに含まれる用語) ・強調表示

コ ー

本願発明 ( ー )

メール メッセージの 類による

様 な実施態様

( 的なゴール候補) 電話 A S S

引用発明1 ( ート 点)

必要な副引用発明を発見できそうなゴール候補を し、 そこまでの を引用発明1(主引用発明)のコトバで考える 中

(引用発明1のコトバで

表現した相違点) 受信メール一覧を表示する際、

返信の必要性の高いメールを

「強調表示」ではなく「上位に表示」

するよう する

(8)

稿

性の高いものを選びます。

 サーチ対象となる実施態様(ゴール)を 1 つの引 用発明でカバーするのが難しそうなら、仮想的な主 引用発明と副引用発明を考えます。その際、クレー ムの構成要素のうち、最低限どの部分は主引用発明 で必ずカバーすべきで、どの部分は副引用発明でも かまわないか、その場合の組み合わせの理屈はどの ようなものとするか、といった戦略を立てます。例 えば、クレームの構成要素に A,B,C があるとき、「A と B は切り離せない(主引用発明で両方カバーしな ければいけない)けど、C は別の引用発明でもなん とかなりそう。ただし、主引用発明を A+B として、 組み合わせの理屈を考えると、C が書いてある文献 に○○という課題が明示されている必要があるな」 といった具合です。

 ここでは、仮想的な主引用発明(スタート候補) や副引用発明(ゴールまでの途中経路)の組み合わ せをいろいろ考えて、サーチで発見できる蓋然性が 十分あり、本願発明においてサーチ対象となる実施 態様(ゴール)への想到容易性も立証できそうな引 用発明の組み合わせを具体的に考えてからサーチを します(図 8 参照)。少し抽象的にいえば、立証した い事実と、それに必要な証拠を具体的にイメージし てから証拠収集するということです。

 例えば、仮想事例において、ゴール候補の選択に あたっては、「「電話」や「FAX」は、用語の抽出に を考慮して決めます。仮想事例では、主引用発明が

メールに関するものなので、ゴール候補としてメー ルに関する実施態様を選択しています。

 引用発明 2 を主引用発明にする案はどうでしょう か? その場合、引用発明 2 を「折り返し電話をする 必要性」の判断において、電話の(音声)メッセー ジが所定の用語を含むか否かという指標を採用する よう変更する必要があります。当然の前提として、 音声メッセージから所定の用語を抽出するための、 音声認識等の新たな構成も必要になるでしょう。こ の点で、引用発明 1 を主引用発明とする場合に比べ てハードルが高いかもしれません。

 このように、主引用発明のコトバで本願発明まで の途中経路を考えると、途中経路が比較的楽なス タート地点(主引用発明)を選択できるようになり、 途中経路(副引用発明)のサーチ自体も効率的にこ なせる可能性が上がると思います。

(2)サーチを開始する前に仮想的な引用発明を考える

 さらにサーチの効率化を考えると、サーチを開始 する前の段階(主引用発明の候補も見つかっていな い段階)で、仮想的な引用発明を考えてしまうのも 有効です。まず、請求項の内容をよく吟味して、請 求項に含まれる様々な実施態様(ゴール)を「具体 的に」想像し、その中からサーチで発見できる蓋然

・返信の必要性

(メッセージに含まれる用語) ・上位に表示

コ ー

本願発明 ( ー )

メール メッセージの 類による

様 な実施態様

( 的なゴール候補) 電話 A S S

(仮想)主引用発明候補

(仮想)主引用発明候補

(仮想)主引用発明候補 (仮想)副引用発明候補

(仮想)副引用発明候補

(仮想)副引用発明候補

(仮想)主引用発明候補 (仮想)副引用発明候補

(9)

 このように、実際に見つけられそうな仮想引用発 明とゴール候補を具体的に想定したら、後はサーチ するのみです。もちろん、うまく引用発明が発見で きないときもあるでしょう。その場合は、仮想的な 主引用発明(スタート)、副引用発明(途中経路)、サー チ対象となる実施態様(ゴール)の組み合わせをい ろいろと変えて試行錯誤することになります。  仮想的な引用発明を具体的に想定し、本願発明に 至るまでの経路や想到容易性のロジックをサーチ前 に考えておけば、本願発明の抽象的なクレームの文 言に基づいて焦点のぼやけたサーチをするより、 ずっと効率的にサーチが行えるようになると思いま す。発見した引用発明候補同士がうまく組み合わせ られなくて本願発明に至らなかった(つまり、無駄 打ちだった)というリスクも減らせます。さらに、 最低限、どの程度の主引用発明が見つからないと、 本願発明に至ることが不可能かという点も認識して いるので、サーチを打ち切るタイミングの見切りも 適切に行えるようになると思います。

音声認識や画像認識といった構成が必要で、そのま まテキストデータを使える「メール」や「SNSメッセー ジ」に比べるとハードルが高そうだ。まずは「メール」 をゴール候補にしてサーチしてみよう。」などと考 えます。

 また、「メール」に関する実施態様をサーチ対象 とした場合、「「メールに含まれる用語」と「返信の 必要性」は切り離せないから、「メールに含まれる 用語に基づいて返信の必要性を判断」する主引用発 明は必須だな。表示態様に関しては、「返信の必要 性が高いメールを上位に表示」する引用発明があれ ばベストだが、単に「重要なメールを上位に表示す る」というものしか発見できなくても、主引用発明 において返信の必要性が高いメールは「重要なメー ル」であることは明らかなので、何とかなりそうだ な。」などと考えるわけです。ここでも、本願発明 のコトバである「メッセージ」ではなく、仮想的な 主引用発明のコトバである「メール」を使って考え ることが重要です。

 6月2日、私はAIPPI主催の「欧州における特 許訴訟戦略」というセミナーを受講していまし た。その中で、欧州の統一特許裁判所(UPC)1)

に関するテーマもあり、2017 年第 2 四半期頃 に UPC 協定が発効するかもしれないとの話が ありました。ふと、「今月末にイギリスで行わ れる国民投票で、もしも EU 離脱が決まったら UPC はどうなるのだろうか?」と思い、講師2)

の方に質問しました。その時、私も講師の方も、 まさか EU 離脱派が勝利するとは思っていませ んでした。そして運命の 6 月 23 日、国民投票 の結果、その「まさか」が起きました。

 本コラムは国民投票から約 1 週間後に書いて いるものですが、ニュースは連日のように EU 離脱に伴う混乱を伝えています。キャメロン首 相は辞任を表明し、イギリスと EU との離脱交 渉の行方は先が読めず、市場では指数が乱高下 し、スコットランドの独立問題が再燃し、国際 金融センターとしてのロンドンの後釜を狙った 誘致合戦が起き……。

 私の知る限り、これらのニュースの中で UPC への影響を論じたものはありませんがど うなってしまうのでしょうか? 重要なのは、 UPC 協定の発効条件にイギリス、フランス、

1) 統一特許裁判所(UPC)の制度自体については、例えば特技懇275号14-25頁「欧州単一特許制度の行方」(田名部拓也著)などに 詳しく解説されています。

2)JA KEMP欧州弁理士・英国弁理士Tim Duckworth氏

(10)

には、本稿で申し上げた観点のほか、合議前の頭の 整理のために有用と思われる観点が入ったチェック シートを渡しています。最後の最後になりますが、 私が作ったチェックシートを(おまけ)として掲載 させていただきます。チェックシートの各項目の趣 旨がわかりやすいよう、各項目に回答例もつけてお ります。こちらもよろしければお役立てください。 5. 終わりに

 ここまで読んでいただいてありがとうございま す。サーチと対比判断は分けて考えてしまいがちで すが、サーチは対比判断の際に用いる証拠を集める 行為なので、対比判断の際にどのような証拠がほし いか、という視点をもってサーチをするのは、サー チの品質及び効率向上の観点からとても重要だと思 います。

 その意味で、クレームの構成要件を分節してバラ バラに考えるのではなく、クレーム全体をみて、ど のような主・副引用発明が必要かを想定してサーチ するのが有効だと思います。クレーム分節法を一律 に否定するつもりはありませんが、木を見て森を見 ないサーチにならないよう留意したいところです。  本稿は、筆者が指導審査官として審査官補に指導 してきた内容に基づくもので、類似のサーチ手法を 既に採用されている方も多いと思いますが、少しで もお役に立てれば幸いです。私が指導する審査官補

稿

p

rofile

千本 潤介(せんぼん じゅんすけ)

平成16年4月 特許庁入庁(特許審査第四部インターフェイス) 平成21年4月 調整課審査基準室

平成24年4月 特許審査第四部電話通信 平成24年10月 総務課法規班

平成24年12月 総務課工業所有権制度改正審議室(法規班と 併任)

平成25年10月 審査第四部情報記録

平成28年4月より現職(情報記録が電気機器に改称)

ドイツを含む 13 か国の批准が求められている 点です3)

 イギリスが EUを離脱してしまえばイギリス の批准は見込めないので、発効条件の見直しが 必要となるでしょう。見直しが必要な点はほか にもあります。特に、特許取消訴訟を管轄する 「中央部」はパリ、ロンドン、ミュンヘンに設置 される予定でしたが、ロンドンへの設置は困難 となるでしょう。これらの見直しを行うため、

UPC 協 定 の 再 交 渉 が 必 須 とな るようで す。

UPC の実現は、イギリスの EU 離脱によって、 先の見えない状況になったといえます。上記セ ミナーの講師の方によれば、UPC協定の締結の 際はイギリスが熱心に議論を進めていたので、 そのイギリスがいなくなってしまえば、再交渉 により合意を形成するのは困難とのことでした。  なお、統一特許裁判所とセットで議論される 「欧州単一効特許」ですが、こちらも UPC 発効 を前提としています4)ので、先の見えない状況

に陥ったといえるでしょう。

3) UPC協定の原文(UPC/en 6参照)では「CONSIDERING that this Agreement should enter into force on 1 January 2014 or on the first day of the fourth month after the 13th deposit, provided that the Contracting Member States that will have deposited their instruments of ratification or accession include the three States in which the highest number of European patents was in force(以下略)」というように、イギリス、フランス、ドイツの具体的な国名を出さずに、欧州特許の件数の最大3か国と規定し ているのが面白いですね。https://www.unified-patent-court.org/sites/default/files/upc-agreement.pdf

4) EU規則No 1257/2012の第18条2.には「It shall apply from 1 January 2014 or the date of entry into force of the Agreement on a Unified Patent Court(the 'Agreement'), whichever is the later.」と規定されています。

(11)

(おまけ)チェックシート

質問 回答例

本 願

本願の概要は何ですか? 一定の時間帯といった条件で、自動的に携帯電話をマナーモードに移行

する自動マナーモードに関して、例外条件を設けるものです。

従来技術の課題は何ですか? 自動マナーモードは従来から知られていましたが、例えば自宅にいると

きなど、マナーモードに設定する必要がないときにまで、自動的にマナー モードに設定されてしまうのが不便というものです。

その課題を解決する手段は

なんですか? 携帯電話の位置などの条件を、自動マナーモードの例外条件として設定しておくと、その例外条件では、自動的にマナーモードに移行すること を抑止します。

当該手段は、 クレームの中で、 どこ

に・どのように表現されていますか? 請求項1の「第2の条件を満たす場合に前記所定モード移行手段の実行を抑止する抑止手段」と表現されています。 クレームの中で表現がわかりにくい箇

所(抽象的・機能的記載など)はあり ますか?

第1の条件、第2の条件、所定モードといった記載です。

その箇所は、実施例との対応関係はど

うなっていますか? 所定モードは実施例のマナーモードに対応します。第1の条件は、マナーモードに移行する条件で、例えば一定の時間帯などが例示されています。 第2の条件は、自動マナーモードの例外条件で、例えば GPSで取得した 位置情報が自宅近辺の場合などが例示されています。

(補正書・意見書がある場合)

補正の根拠は何ですか? 意見書では どのような主張がされていますか?

どういう観点でサーチをしましたか? ・ 自動マナーモードのある携帯電話で例外条件を設けるもの(分類A1で B1というワードでサーチ)

・ 何らかのモードに自動移行する場合に例外条件を設ける(分類を指定せ ずB2というワードでサーチ)

どうしてそういう観点でサーチしまし

たか? 「自動マナーモードの例外条件」が本願のポイントなので、自動マナーモードと例外条件というのは切り離せないと考え、両方が書いてある文 献を探しました。

いい文献が見つからなかったので、請求項の文言ベースで「何らかのモー ドに自動移行する例外条件」も探しました。

どんな引例が見つかりましたか? 携帯電話ではなく据え置き電話ですが、一定の時間帯に自動的に留守番

電話モードに移行する機能に関して、特定の電話番号からの電話には留 守番電話モードに移行しないという例外条件を設けるものが見つかりま した。

対 比 ・ 判 断

一致点は何ですか? 「第1の条件を満たす場合に所定モードに移行する所定モード移行手段」、

「第2の条件を満たす場合に前記所定モード移行手段の実行を抑止する抑 止手段」を有する「電話」です。

(ポイントとなる構成や抽象的・機能 的な構成について)

なぜそれが一致点といえるのですか? (文言だけ類似していても対応がとれ ないものを一致点とする誤りの防止)

「一定の時間帯」という「第1の条件」を満たす場合に「留守番電話モード」

という「所定のモード」に移行しています。また、「特定の電話番号から」

という「第2の条件」を満たす場合に、留守番電話モードという「所定の モード」への移行を抑止しています。

相違点は何ですか? 請求項1では「携帯電話」ですが、引用文献は「据え置き電話」です。

副引例はどんなものですか? 周知例として、留守番電話モードを有する携帯電話を挙げます。

(複数の文献を組み合わせる場合) 主引例に副引例を組み合わせるとどん なものができますか?

(組み合わせても本願に至らないとい う事態の防止。主引例のコトバで考え るのが重要)

一定の時間帯(第1の条件を満たす場合)に留守番電話モード(所定のモー ド)に移行する機能に関して、特定の電話番号からの電話(第2の条件を 満たす場合)には留守番電話モード(所定のモード)に移行する手段の実 行を抑止する手段を有する「携帯電話」ができ、本願の請求項に係る発明 を充足します。

その相違点は想到容易ですか? その 理由(組み合わせの動機付け、阻害要 因等)は何ですか?

参照

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