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要約 Summary 総合研究大学院大学学術情報リポジトリ 甲1714 要約

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Academic year: 2018

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多重回回折を用いた高コントラスト分解能 X 線

撮像法の開発及びその応用

総合研究大学院大学・高エネルギー加速器科学研究科 呉 彦霖

研究動機と目的

既存の MRI (Magnetic Resonance Imaging) では、脳疾患 (脳梗塞、脳出血など) の医学 的評価を行うための脳組織の画像化において、十分に確立された技術により、目的とする組 織の画像コントラストを得ることができるが、撮像法の特性により高空間分解能で撮像す ることができない。例えば、現在、小動物実験用 MRI システムでは 75 µm 程度の空間分解 能となっている [M. Chaumeil et al., Neuro Oncol., 2012]。一方、小動物実験用 X 線 CT で は、MRI よりも高空間分解能で定量的な三次元画像を得ることができるが、脳組織の画像 コントラストは不十分であり、目的とする脳組織を十分に評価できるとはいえない。

脳梗塞と脳出血等のメカニズム解明には、小動物の脳組織を非破壊的に高コントラスト・ 高空間分解能で可視化する技術の開発が必要であり、様々な疾患モデル小動物を用いた非 破壊観察法の確立が期待される。

X 線位相コントラスト撮像法で、ラットなどの小動物の脳梗塞と脳出血を起こした脳組 織を観察するには、位相差に関する Δδ の分布が 10-8~10-9オーダー以上の量が必要であ る [B. Pinzer et al., NeuroImage 2012 and G. Schulz, T. Weitkamp et al., J. R. Soc. Interface, 2010]。よく利用されている DEI 撮像法は結晶アナライザーを用いた撮像法の代表的な撮像 法として、位相差に関する Δδ の分布は 10-7~10-8オーダーであり、脳組織を観察するの に、画像コントラストが十分に得られなく、脳梗塞と脳出血を起こした脳組織の構造を十分 に評価できていない [S. Seo et al., Phys. Med. Biol., 2012]。光学素子としてシリコンなど の結晶を用いた X 線干渉法は、被写体内で微小に変化した電子密度により生成された位相 情報を直接的に測定でき、目的組織の評価に必要な Δδ は得られるが、脳全体を撮像する 場合に、軟部組織と骨の電子密度差が大きく、位相情報を有効に利用して軟部組織と骨を同 時に画像化することは困難であると指摘されてきた。

本研究では、DEI 撮像法のような従来の結晶アナライザーを用いた撮像法を改良し、結晶 アナライザーによる屈折角度分解能を向上させ (10 倍以上) 、被写体内で微小に変化した X 線の屈折角度を測定することで、ラットのような小動物の脳梗塞と脳出血を起こした脳組 織を高コントラスト・高空間分解能で観察できる新しい X 線位相コントラスト撮像法を開

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発することを目的とする。以下の二点を具体的目的とする。

I. X 線光学系の結晶回折面、ビーム幅拡大のための結晶の非対称度などをパラメータとす る X 線撮像に関する計算機シミュレーションを行い、小動物の脳組織評価に最適な結 晶アナライザー撮像法を選択する。

II. 放射光大型実験施設で、上記計算機シミュレーションの結果に基づいた結晶アナライ ザー撮像システムを建築し、その有用性を実験的に確認する。

また、X 線位相コントラスト撮像法の特性を定量的に評価できる位相コントラスト測定用 標準試料を開発し、結晶アナライザーを用いた撮像法におけるコントラスト分解能と空間 分解能の定量的な評価を行う。以下の二点を具体的目的とする。

III. 位相コントラスト測定用標準試料は X 線位相コントラスト撮像システムの特性を評価 するために不可欠であり、その材料構成について検討、開発を行う。

IV. 新しい結晶アナライザー撮像法と DEI 撮像法の特性を定量的に比較検討する。

計算機シミュレーション

結晶を用いた X 線撮像システムにおいて重要な結晶光学素子には、目的とする被写体へ の入射 X 線を形成するための結晶コリメーター、被写体透過後の X 線を解析するための結 晶アナライザーなどがある。

結晶アナライザーを用いた撮像法で利用されるロッキングカーブ (X 線回折強度の角度 分布) は、一般的に結晶コリメーターと結晶アナライザーとのコンボリューションされたロ ッキングカーブが利用される。結晶コリメーターのロッキングカーブの関数 f (θ) を固定関 数とし、結晶アナライザーのロッキングカーブの関数 g (θ) を移動関数とすると、撮像シス テムのコンボリューションされたロッキングカーブの関数は、Fconv( )

θ

=f( )

θ

g( )

θ

にな る。

結晶アナライザーを用いた撮像法では、X 線が被写体を透過したときに屈折された X 線 の角度を、ロッキングカーブに従って、X 線強度に変換することができる。この X 線強度 情報が X 線位相情報のみを含んでいれば、屈折角度は、取得された X 線強度データをロッ キングカーブによって計算することができる。

厚さ t の被写体を透過して屈折された X 線の強度分布 (角度分布) は以下の式で表わされ る。

θ

= I

θ

+ ∆

θ

µ

( ) ( ) t

I I R e

(3)

L

L

( ) ( )

'( ) '( )

H L H

L H H

I R I R

I R I R

θ θ

θ θ θ

∆ = −

ここで、Δθ は被写体内での電子密度差の違いによって屈折された X 線の屈折角度である。 結晶アナライザーにより、X 線の屈折角度を分解できる能力は、屈折角度分解能と呼ばれ る。屈折角度分解能が高くなるほど (分解できる屈折角度が微小になるほど) 分別できる被 写体内部の電子密度差が小さくなり、画像上でのコントラスト分解能が高いといえる。

画像の空間分解能は、画像の鮮鋭さを表す指標であり、ここでは点広がり関数 (Point spread function: PSF) によって評価する。

2 2 2 2 2 2

sou B B

2 2 2 2 2

B B det

(M 1) {D [cos( ) b cos( )]}

{D [cos( ) b cos( )]} b

sys penet co co co co

penet an an an an an

M M

M M

σ σ θ α θ α

θ α θ α σ

= − + − + +

+ − + + +

ここで、

σ

sys

σ

sou

σ

detは、ぞれぞれ、撮像システムの空間分解能、X 線光源のサイズ、 X 線検出器のピクセルサイズである。

θBは結晶のブラッグ角度で、

α

co

α

anは結晶コリメーターと結晶アナライザーの非対称 角度で、

b

co

b

anは結晶コリメーターと結晶アナライザーの非対称係数である。M は拡大 係数である。

被写体と検出器間の距離を d として、光源と被写体の距離 s とすると、M = (d+s) / s と

なる。Dpenetは X 線が結晶内部に侵入する距離である。

画像上の屈折角度分解能と空間分解能を向上させるためには、①高性能 (X 線ビームの角 度広がりが小さい) の X 線光源を利用したり、②高性能 (検出できるダイナミックレンジが 広い、階調度が高い) の X 線検出器を利用したり、③結晶コリメーターのビーム角度広がり の制御力を向上させたり、④結晶アナライザーの特性を変化させることなど、様々な手法が ある。

本研究では、X 線光源は KEK-PF BL-14C とし、X 線検出器は PhotonicScience の VHR- 2 型 CCD カメラを使用することを想定し、その CCD カメラの特徴を考慮した撮像システ ムの屈折角度分解能の計算シミュレーションを行うこととした。結晶コリメーターと結晶 アナライザーの特性を変化させることで、屈折角度分解能の変化を評価する。これにより、 KEK-PF BL-14C において、脳梗塞と脳出血を起こした小動物の脳組織を評価するのに最適 な結晶アナライザーを用いた X 線撮像法を選択する。

(4)

表1.計算機シミュレーションに使用したパラメータ. X-ray source KEK-PF BL-14C X-ray energy 17.5 keV

X-ray detector PhotonicScience CCD camera VHR-2 Crystal collimator Asymmetric factor b, Miller indices

Crystal analyzer Asymmetric factor b, Miller indices

結晶アナライザーを用いた X 線撮像法の代表的な手法として DEI 撮像法は幅広く利用さ れてきた。DEI 撮像法の屈折角度分解能と空間分解能は、結晶光学素子 (結晶コリメーター と結晶アナライザー) の特性に依存する。

DEI 撮像システムにおける屈折角度分解能は、高いミラー指数の結晶光学素子を利用する ほど高くなる。一方、DEI 撮像システムの空間分解能は結晶のミラー指数が高くなるほど、 X 線の結晶内部への侵入距離が増大され空間分解能が低下する。

非対称係数 b が小さい非対称コリメーターを利用することによって、平行性の高い幅広 い X 線ビームが利用できるとともに、X 線の結晶内部への侵入距離が縮小され、DEI 撮像 システムの屈折角度分解能と空間分解能を向上させることができると考えられる。

脳組織の DEI 撮像法による 3 次元的な観察では、DEI 撮像法の実験配置では、目的とす る高い画像コントラストと高空間分解能が得られないことになる。非対称結晶アナライザ ーに Si 440 を用いた DEI 撮像システムでは、従来の Si 220 を用いた DEI 撮像システム

(αCollimator = 10, αAnalyzer = 1) に比較して、約 4.8 倍高い屈折角度分解能と 1.6 倍高い空間分

解能が得られるが、撮像に利用できる有効視野が小さくなり、脳組織全体を高コントラス ト・高空間分解能で撮像することは困難であると考えられる。

上記の問題を克服するため、多重回回折方法を世界で初めて DEI 撮像法に導入する方法 を考案した。この方法は、DEI 撮像法と同様な広いダイナミックレンジの屈折角度を評価で きるとともに、軟部組織と骨を同時に撮像することが可能であると期待される。また、多重 回回折法では、アナライザー結晶のロッキングカーブの形状が逡巡となり、より高い屈折角 度分解能が得られると期待される。

多重回回折は、平行に配置された 2 枚の結晶板の間に、表面に平行な格子面で対称回折 を数回繰り返し行う現象である。X 線多重回回折方法を用いて、従来の結晶アナライザーを 用いた撮像法を改良し、結晶アナライザーによる屈折角度分解能を向上させ、微小に変化し た屈折角度を測定することで、画像のコントラスト分解能を向上させることができると考 えられる。

なお、撮像システムの屈折角度分解能について、Si 440 を用いた DEI 撮像法より、多重 回回折を DEI 撮像システムに導入した MDEI 撮像法 (Multi diffraction enhanced imaging,

(5)

MDEI) は Si 440 を用いた DEI 撮像法に比較して、それぞれ、3 回回折では 4.326 倍、5 回 回折では 8.921 倍、7 回回折では 12.283 倍向上せることができる。一方、回折回数が増え るほど、撮像システムの空間分解能が低下することになる。

Si 440 を用いた MDEI 撮像システムと Si 440 を用いた DEI 撮像システムにおける有効視 野はほぼ同じであるが、Si 440 を用いた DEI 撮像システムより、Si 440 を用いた MDEI 撮 像システムの屈折角度分解能が高く、より高い画像上のコントラスト分解能が得られると 考えられる。

小動物の脳梗塞と脳出血のメカニズムを解明するために貢献できる新しい結晶アナライ ザーを用いた撮像法として、KEK-PF BL-14C で最適な撮像システムは、Si 440 を用いた DEI 撮像法に多重回回折を導入する MDEI 撮像システムであると考えられる。回折回数は、必要 とする空間分解能を考慮すると、3 回もしくは 5 回が最適であるといえる。

図1. MDEI 撮像法に関するシミュレーション結果の一例.

計算機シミュレーション結果により、KEK-PF BL-14C の実験条件に最適な MDEI 撮像 システムを構築した。模式図を図2に示す。入射単色 X 線は、コリメーター結晶により、横 幅を拡大されるとともに角度広がりの小さな X 線 (平行性の高い X 線) として形成される。 被写体透過後に、多重回回折を行う光学素子で、被写体内部で屈折した X 線の角度分解を

(6)

行う。

図2. MDEI 撮像法の一例.

位相コントラスト測定用標準試料の開発

X 線位相コントラスト撮像法の特性を定量的に評価するためには、標準試料が不可欠で あり、現在、位相コントラスト測定用標準試料は存在していない。そのため、MDEI 撮像 法を定量的に評価するために位相コントラスト測定用標準試料を開発した。

軟部組織の描出に関する定量的な評価を行うために、吸収コントラストが生成しにくい 高分子材料を選択するとともに微小な屈折角度を測定できるように設計した。つまり、電子 密度のわずかに異なる物質どうしを、物質間で化学反応が生じることなく、また、物質間の 接触面に空気が入らないように設置する必要がある。そのために、本研究ではゼラチンとア ガロースを位相コントラスト測定用標準試料の材料として最終的に選択した。この 2 種類 の高分子材料の質量密度は、本研究で目的とする脳組織や水に近く、2 種類の物質間で化学 反応は生じない。アガロースはゼリー状であり、ゼラチン溶液と接触した面には空気が入り にくく、標準試料に最適な材質であると考えられる。

設計・製作した位相コントラスト標準試料を用いて MDEI 撮像法と従来の DEI 撮像法の コントラスト分解能 (CNR)、空間分解能を定量的に評価した。

(7)

2 2

Agarose Gelatin

Agarose Gelatin

Mean Mean

CNR σ σ

= −

+

ここで、Mean は ROI 領域のアガロースゼリーとゼラチン溶液 δ の平均値であり、σ は それぞれの標準偏差である。

コントラスト分解能の改善率は以下の式で表すことができる。

M DEI DEI

100%

DEI

C C

ξ =

C ×

多重回回折を DEI 撮像法に導入することによって、分解できる限界の電子密度差は、DEI 撮像法より、3 回回折では 75.6%改善されていて、5 回回折における改善率は 81.5%であっ た。しかし、多重回回折の回数が多くなるほど、生成された画像上のボケは大きくなり、画 像 全 体 の 空 間 分 解 能 を 低 下 さ せ る と と も に 、 CNR に も影響 を与 えるこ とに なる 。

図3. MDEI 撮像法に関する実験結果の一例.

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表2. DEI 撮像法と MDEI 撮像法の比較検討結果.

計算機シミュレーションと実験で測定したロッキングカーブから求めた撮像システムの 屈折角度分解能は、ほぼ一致している。CT 画像から位相差に関するΔδ を計算した結果、 DEI 撮像法と MDEI 撮像法 (3 回回折) は、計算機シミュレーション結果と実験結果がほぼ 一致しているが、DEI 撮像法と MDEI 撮像法 (5 回回折) では、計算機シミュレーション結 果より実験結果のほうが下回っている。これは、CT 画像から位相差に関するΔδ を求めた 場合、CT 画像のコントラストは空間分解能にも関係あり、MDEI (3 回回折) の空間分解能 より MDEI (5 回回折) の空間分解能は低下するため、DEI 撮像法と MDEI 撮像法 (5 回回折) の屈折角度分解能の実験値が理論値よりも下回ることになる。

ラットやヒトの脳組織への応用

ラット脳組織の DEI-CT 画像と MDEI-CT 画像を比較すると、明らかに MDEI-CT 画像の コントラストが高く、図4からは、内部の詳細な構造と右脳の虚血による損傷部位まで鮮明 に描写されていることがわかる。ラット小脳組織の CT 画像から、小脳の三層構造も識別で きる。

Diffraction times ΔθDEI / ΔθMDEI ξ

Simulation of rocking curve

3 times 4.316 76.8%

5 times 8.891 88.8%

Experiment of rocking curve

3 times 4.191 76.1%

5 times 8.716 88.5%

ΔδDEI / ΔδMDEI from CT images

3 times 4.081 75.5%

5 times 5.412 81.5%

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図4.MDEI 撮像法を用いた脳組織の実験結果の一例.

結論

本研究では、脳梗塞と脳出血のメカニズムの解明に貢献できる新しい X 線位相コントラ スト撮像法――MDEI 撮像法の開発、及び X 線位相コントラスト撮像法の特性を定量的に 評価するための位相コントラスト測定用標準試料の開発を行った。

KEK-PF BL-14C において、計算機シミュレーション結果に対応する研究目的に最適な MDEI 撮像システムを開発・構築した。

X 線位相コントラスト測定用標準試料を用いて、MDEI 撮像法と DEI 撮像法のコントラス ト分解能と空間分解能に関する定量的な評価と比較検討を行った。その結果を考慮しなが ら、MDEI 撮像法と DEI 撮像法をラットとヒトの脳組織の位相コントラスト CT 画像におい て比較し、MDEI 撮像法の有用性を実証した。

今後、MDEI 撮像法を用いて、高血圧ラット、低血圧ラット、リュウマチラット、疾患の 進行状況に対応した糖尿病ラット、脳腫瘍ラットなどの様々な病患を持つラットの脳組織 の観察を行い、脳梗塞と脳出血のメカニズムの解明、他の病患との関連を明らかにする研究 に貢献したい。

(10)

次に、高分子材料で構成されたタイヤの物理的損傷状態:エスカレーターハンドレールの ゴム材質と金属同時に観測し、ゴムの密度変化による物理的な損傷を観察、コンクリートや 木材などの建築材料の物理的損傷状態:外部因子の影響による建築材料の構造変化、密度変 化などを MDEI 撮像法で可視化し、材質に対する外的因子の影響の関係を明らかにするよ うな研究で貢献できると期待される。

また、リチウムイオン電池の内部の電解物質が充電・放電と伴う電子密度変化及び、リチ ウム金属の厚さ変化を可視化し、電池の老化、新たな電解物質の開発などの研究にも貢献で きると期待される。

参照

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