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(1)

2016, 地域開発論 (1)

大城淳

目的 標準的な経済学のツールを使い,地域の経済問題を見る目を養う.

講義用ウェブサイト

https://sites.google.com/site/junoshiro5urban/home/lectures/region2016

成績評価 期末試験. 追試など救済措置は一切無し.

読書ガイド

シラバス掲載書

(1) 佐藤泰裕(2014) 『都市・地域経済学への招待状』有斐閣

(2) 園部哲史・藤田昌久(2010)『立地と経済発展: 貧困削減の地理的アプローチ』東洋経済新報社 (3) E. Moretti (2012) “The New Geography of Jobs” Houghton Mifflin Harcourt. 池村千秋訳

(2014)『年収は「住むところ」で決まる: 雇用とイノベーションの都市経済学』プレジデント社

本講義の内容は(1)に近い.(2)は開発経済と都市経済の融合的な研究書.(3)は一流の都市・労働経 済学者が一般向けに平易に書いたもので,この分野では近年まれに見る知的刺激が味わえる良書.

ミクロ経済学・マクロ経済学

(1) 安藤至大(2013) 『ミクロ経済学の第一歩』有斐閣

(2) 神取道宏(2014) 『ミクロ経済学の力』日本評論社

(3) 柴田章久・宇南山卓(2013) 『マクロ経済学の第一歩』有斐閣

(4) 林貴志(2013) 『ミクロ経済学 増補版』ミネルヴァ書房

(5) R. ハバード, A.オブライエン (2014) 『ハバード経済学』日本経済新聞出版社

(6) P.クルーグマン, R.ウェルズ(2007) 『クルーグマン ミクロ経済学』 東洋経済新報社 (7) H. R.ヴァリアン(2007) 『入門ミクロ経済学』 勁草書房

沖縄大学法経学部. email: j-oshiro@okinawa-u.ac.jp

(2)

入門レベルではどのテキストを選んでも大差はない.挙げていないものでも,書店で適当に手に取っ てみて自分に合いそうなものを選べばよい.最近のものでは(1), (3)が読みやすい.時間と柔軟な脳 みそがある学生時代は分厚いが定評あるテキスト((5), (6), (7)など)にも果敢に挑戦すべきだ.一歩 進んだ学習をするには(2)や(4)を通っておくとよい.

都市・地域経済学: 入門レベル

(1) 伊丹敬之・橘川武郎・松島茂(編) (1998)『産業集積の本質: 柔軟な分業・集積の条件』有斐閣 (2) 岡田知弘・川瀬光義・鈴木誠・富樫幸一 (2007)『国際化時代の地域経済学』有斐閣

(3) 木下斉・広瀬郁(2013) 『まちづくりデッドライン』日経BP社

(4) 速水健朗(2012) 『都市と消費とディズニーの夢: ショッピングモーライゼーションの時代』角

川書店

(5) 竹内健蔵(2013) 『なぜタクシーは動かなくてもメーターが上がるのか: 経済学でわかる交通の

謎』NTT出版

(6) 戸堂康之(2011) 『日本経済の底力: 臥龍が目覚めるとき』中央公論社

(7) 山崎福寿(2014) 『日本の都市のなにが問題か』NTT出版

(8) R. フロリダ(2010) 『クリエイティブ都市経済論: 地域活性化の条件』有斐閣

(9) E. グレイザー(2012) 『都市は人類最高の発明である』NTT出版 (10) A.サクセニアン (2009) 『現代の二都物語』日経BP社

本講義では扱わないが,経営学・都市計画からの議論は(1), (3), (4),交通経済学は(5)を.

都市・地域経済学: 中級レベル

(1) 金本良嗣・藤原徹(2016) 『都市経済学(2版)』東洋経済新報社

(2) 黒田達朗・中村良平・田渕隆俊 (2008)『都市と地域の経済学 新版』有斐閣 (3) 佐々木公明・文世一(2000) 『都市経済学の基礎』有斐閣

(4) 佐藤主光(2009) 『地方財政論入門』新世社

(5) 山崎福寿・浅田義久(2008) 『都市経済学』日本評論社

本講義と難易度的に近いのは(3), (5).前者は都市内土地利用,後者は住宅に詳しい.

都市・地域経済学: 上級レベル

(1) 佐藤泰裕・田渕隆俊・山本和博 (2011)『空間経済学』有斐閣

(2) 藤田昌久, P. クルーグマン, A.ベナブルズ(2000)『空間経済学: 都市・地域・国際貿易の新し い分析』東洋経済新報社

(3) P.クルーグマン (1994) 『脱「国境」の経済学: 産業立地と貿易の新理論 』東洋経済新報社

(2)はノーベル賞に値するパラダイム・シフトをもたらした革命的名著(独学は難).

(3)

1 本講義の概要

ポイント ローカルとグローバルにはつながりがある.

1.1 本講義のターゲット

都市や地域の経済活動にまつわる問題は,何も経済学者だけが分析しているわけではない.地理 学,経営学,社会学,土木,建築,環境,その他様々な分野の人が地域に関心を持って様々な研究 を積み重ねてきた.様々なアプローチができる学際的分野であるが,本講義では空間経済学(spatial

economics)1 と呼ばれる近年発展著しい研究領域およびその隣接分野を学ぶ.このあたりの学問領域

は地域科学(regional science)とも呼ばれる.

空間経済学は,都市経済学 (urban economics),地域経済学 (regional economics),国際貿易論 (international trade theory),産業立地論 (location theory) が組み合わさってできた,ミクロ経済 学の応用分野である.2聞き慣れない学問領域かもしれないが,2008年にはこの分野の開拓者Paul

Krugmanが「貿易のパターンと経済活動の立地に関する分析の功績」によってノーベル経済学賞を

受賞した.歴とした経済学の一分野として認められているのである.

地元密着型の事例研究は本講義の対象外である.たとえば地域振興策やまちおこしや島嶼経済論 や基地問題などを直接は扱わないし,地場産業の例はほとんど出てこない.実践的には役立ちそうに ないことを教えるので,あらかじめ了解してほしい.地元固有の議論も大切だが,生まれ育った地域 以外にも通用する,普遍的な視座を身につけてこそ,地域経済の未来を支える人材へと成長できると 信じるからだ.また,次節で触れる通り,地元経済はより広域を俯瞰して初めて見えてくるものだ.

「地域開発」と冠した講義ではあるが,時間と教員の能力の都合から開発経済学 (development

economics)はほぼ扱わない.いくつか関連文献をサジェストするにとどめる:

(1) 大塚啓二郎(2014) 『なぜ貧しい国はなくならないのか』日本経済新聞出版社 (2) 黒岩郁雄ほか(編) (2015) 『テキストブック開発経済学 第3版』有斐閣

(3) D.アセモグル, J.A.ロビンソン(2013) 『国家はなぜ衰退するのか(上下)』早川書房 (4) A.バナジー, E.デュフロ(2011) 『貧乏人の経済学』 みすず書房

(5) P.ダスグプタ (2008)『経済学』岩波書店

(6) D.カーラン, J.アペル(2013)『善意で貧困はなくせるのか?: 貧乏人の行動経済学』みすず書房

(7) M. ユヌス(2008) 『貧困のない世界を創る』早川書房

1新経済地理学 (new economic geography) や,地理経済学 (geographical economics) とも呼ばれる.なお 今後本講義では,空間経済学,都市経済学,地域経済学をほぼ同義語として用いる.ニュアンス上の区別はあ るが本質的ではない.

2学説史は本講義ではカバーしないし,あえて独習する価値もない.学説史のリファレンスとして役立つの は,松原宏 (2006)『経済地理学: 立地・地域・都市の理論』東京大学出版会.

(4)

1.2 なぜ地域 ?

グローバル化が進展する21世紀,なぜ地域経済というローカルな議論を学ばねばならないのだろ うか.英語や国際経済学を勉強した方がよいのではないか,と感じる人は多いだろう(それはそれでよ い).ところが,空間経済学が過去数十年かけて理論・実証の両面から証明してきたことを平たく言 うと

グローバル化が進むほどローカルが大切になる

である.今こそローカルを学ぶべきときなのだ.

1.2.1

国境を越えて分散する生産

経済活動が国境を越えて行われていることは,現代では周知の事実だ.今時の企業は,必ずしも製 品開発から加工,組み立て,販売,保守までの生産工程すべてを国内でまかなっているわけではない.

ソフトウェア:

Dassault Systemes (France) ナビゲーション: Homeuwell (US) パイロット制御システム: Rockwell Colins (US) 配線:

Safran (France) 最終組立:

Boeing Commercial Airplanes (US) 操縦室制御:

Esterline (US) Moog (US)

操縦室シート: Ipeco (US)

脱出口:

Air Cruisers (US) ドア・窓:Zodiac Aerospace (US) PPG Aerospace (US)

エンジン: GE Engines (US) Rolls Royce (UK) エンジン積載室: Goodrich (US)

前方胴体:

Sprit Aerosystems (US) 川崎重工業 (JP)

化粧室:ジャムコ (JP)

タイヤ:ブリヂストン (JP) プリプレグ複合材:

東レ (JP) 中央翼:富士重工業 (JP)

主翼ボックス: 三菱重工(JP) 中央胴体:

Alenia Aeronautica (Italy) 後方胴体:

Boeing South Carolina (US)

主翼防除氷: GKN Aerospace (UK) 垂直安定板:

Boeing Commercial Airplanes (US)

水平安定板:

Alenia Aeronautica (Italy)

補助電源装置: Sundstrand (US) 着陸ギア:

Messier-Dowti (France) 電子ブレーキ: Messier-Bugatti (France)

貨物口: Saab (Sweden)

傾斜翼端: Korean Airlines Aerospace division (S.Korea)

乗客用ドア:

Latecoere Aeroservices (France)

図 1: Boeing 787 Dreamliner の製造メーカー (一部).

(写真出所: wikimedia commons) たとえばボーイング社の中型旅客機製造には,世界中から約70社の大手メーカー,下請けも含め ると約900社もの企業が携わっているという(図1).旅客機に限らず,自動車からスマートフォンま で実に様々なものの付加価値が,世界中の様々な場所で別個に産み出されている.3

こうした生産が可能になった一つの要因は,ものを運ぶコストや情報を運ぶコストが低下してい るからであろう.輸送にかかるコストが低下する要因には様々なものが考えられる.

3今やほとんどの国際貿易の教科書にはこうした話が載っている.フラグメンテーション,オフショアリン グ,アウトソーシング,多国籍企業,などをキーワードに探してみよう.より専門にはたとえば富浦英一 (2014)

『アウトソーシングの国際経済学: グローバル貿易の変貌と日本企業のミクロ・データ分析』日本評論社.

(5)

1. 技術進歩(technological change)

(a) 輸送革命(造船,蒸気機関,自動車,飛行機,コンテナ化4) (b) エネルギー革命(材木石炭石油原子力)

(c) 情報技術の発達

(d) 金融保険市場の発達(輸送に伴うリスクを分散) (e) 輸送・管理における工学的手法の発達

2. 政治的,制度的要因

(a) 貿易障壁の撤廃・緩和,自由貿易協定の締結 (b) 法的な基盤の整備 (国際法, WTO法など)

(c) 行政の後押し (JETROなど) 3. 経済的要因

(a) 交通インフラ整備 (港湾,道路,空港) (b) 運輸産業の成長

(c) 経済成長・人口増加に伴う需要拡大

(d) 輸送・管理技術を使いこなす高度な技能を備えた人材の供給拡大

これらが合わさって,21世紀は人類の歴史上最も国境に縛られずに活躍するチャンスが広がってい る.グローバル化は一過性の動きではないと考えるのは自然だろう.

1.2.2

国家ではなく地域

しかし国境に縛られないとはいっても,人はどこかに居を構えるのが普通だ.実際にはどこに住 み,どこで経済活動を行っているのだろうか.

図2は,日本のGDPがどこで産み出されているのかを表している.5 日本の経済活動は国土をま んべんなく使って広くあまねく行われているわけではなく,むしろ一握りの場所に集中して営まれて いることが一目瞭然である.アメリカでも同様の傾向が見て取れる(図3).広大な土地を持つアメリ カでも,経済活動はごく特定の場所で行われている.

4参考: M. Levinson (2008) “The Box: How the Shipping Container Made the World Smaller and The World Economy Bigger,” Princeton University Press. (村井章子訳『コンテナ物語』日経 BP 社, 2007 年).

5出典: World Bank (2008) “World Development Report 2009.” Yale University, G-Econ project.

(6)

東京 名古屋

札幌

大阪

広島 北九州

福岡

図 2: 1 平方キロメートルあたり生産, 日本, 2005 年.

ポートランド シカゴ シアトル

ボストン ヒューストン マイアミ

ダラス デンバー

フェニックス ロサンゼルス

サンフランシスコ

ニューヨーク DC

図 3: 1 平方キロメートルあたり生産, アメリカ, 2005 年.

輸送コストが下がり世界はより身近な存在になっている—つまりグローバル化が進んでいる今,物 価も家賃も人件費も高い都市部であえて生産しなくてもよいはずだ.しかし,我々はそれでもなお特 定の地域に集まるという選択をしているのである.しかも,大都市に集まる傾向はグローバル化と歩 調を合わせるようにして年々顕著になっている.なぜか?

(7)

経済活動がごく特定の場所に集まることを (agglomeration)と呼ぶ.本講義は,なぜ 集積が起こるのか,集積は何をもたらすのか,集積にどう対処したらよいのか,という大きな問いに 挑む.こうした問いは裏を返せば,なぜ地方には人や企業が集まらないのか,人口流出にどう対処し たら良いのか,を考えることにも役立つ.

グローバル社会のプレイヤーは,国でも都道府県でもなく,地域である.本講義では,地域のこと だけを考えるのではなく,地域から世界のことを考える視点を身につける.

1.3 履修にあたって

本講義では以下のようなトピックを学ぶ: 1. 都市・地域の空間構造

2. 人の移動

3. 企業の移動 4. 地方公共政策

5. 集計変数(GDPなど)との関係

履修要件は特にないものの,ミクロ経済学,マクロ経済学,経済数学,統計学をある程度体得して いることが望ましい.とりわけ,連立方程式と微分の演算はみんなある程度スムーズにできるものと みなして講義を組み立てている.6ただし,数学の講義ではないので,数学的テクニックを逐一解説し ない.数学をみっちりやることが目的ではないのだ.講義では厳密性や一般性は犠牲にして,議論の 本質と関係がない計算は回避する予定である.

講義はレジュメを中心にして進めていく.教科書の佐藤(2014) を入手し各自読み進めておくとよ りよい.努力する価値ある講義を提供するつもりである.

6経済学に興味はあるけど数学力が足りない…という人は経済数学のテキストにトライするとよいだろう. 経済学を自分の武器にしたければ,少なくとも微積と線形代数と確率は押さえておくべきである.たとえば, 尾山大輔・安田洋祐 (2013) 『改訂版 経済学で出る数学: 高校数学からきちんと攻める』日本評論社,三土修 平 (1996) 『初歩からの経済数学』日本評論社,佐々木宏夫 (2005) 『経済数学入門』日本経済新聞社,などを 自習しておくのが望ましい.

(8)

2 地域の概観

ポイント 地域の重層性と多様性を理解しよう.

2.1 地域の定義

地域 (region) と一口に言っても,その意味するところは様々だ.文脈によっては,町内会や学区

のような家の近所のみを指すこともあるし,首里や真和志のように市より小さく町村より大きい地区 を指すこともあるし,都道府県そのものを指すこともあるし,関東や関西のようにいくつかの都道府 県をまとめた塊を指すこともある.はたまた西欧や中東やオセアニアなど国家の枠を越えた広いつな がりをもって地域と呼ぶこともある.これらのどれも地域として間違いではない(そもそも定義その ものに対して真偽を問うことはできない).定義は取り組みたい問題に応じて柔軟に調整したほうが 建設的だろう.

地域を定義するときには,2タイプの着眼点がある.1つは行政上の区分に着目することだ.都道 府県や市区町村といった行政区域(jurisdiction) や,選挙区,医療圏がこれにあたる.もう1つは経 済活動に注目して区分することがある.たとえば農村部と都市部のような区分はよく見られる.人や 物の移動に注目しながら,都市圏を定義することもある.特定の企業とのやりとりに注目した,企業

城下町 (factory town)という地域もある.関東・関西などは歴史的・文化的な経緯を踏まえた上で

のくくりと言えるだろう.

ともあれ,本講義で分析したい地域という概念は,大小様々な空間単位が折り重なって階層をな している,ちょっと複雑なやつだ,と当面はラフに理解しておけばよい.

2.1.1

行政上の区分: 国際比較

図4は日本の公的な行政区画である.地方自治法に基づき,47の都道府県がそれぞれの自治を行っ ている.それぞれが選挙で首長を決め,それぞれの財政運営をしている.

特別区 市,町村

道府県

政令指定都市 中核市 特例市 市 町村

図 4: 日本の自治体階層.

日本では都道府県・市町村の画一的な二層構造であるが,国によってはそうではない(図5–7).た とえばアメリカは国(連邦政府)の下に50の州(state)があり,それぞれの下で郡や市町村などの地

(9)

方政府が多層をなしている.州によってはカウンティ(郡)政府が設置されていなかったりもする.ま た,首都ワシントンD.C.は連邦政府の直轄地であり,どの州にも属していない.

州 (state)

特別目的地方政府 (school district, special district)

地方政府 (county, municipality, town)

図 5: アメリカ (連邦制) の自治体階層.

州 (région) 県 (départment) 市町村 (commune)

図 6: フランス (単一制) の自治体階層.

州 (land) 郡 (kreis) 市町村 (gemeinde)

図 7: ドイツ (連邦制) の自治体階層.

2.1.2

行政上の区分: 再編

都道府県の区分は戦後変化がない.7しかし,市町村の区分はしばしば変化がある.近年では,1999 年から2006年にかけて全国的に市町村合併が行われた(平成の大合併).その結果,計3234市町村 から計1821市町村へと数が激減した.表1のように,沖縄でも市町村再編が行われた.

仲里村 + 具志川村 久米島町

石川市 + 具志川市 + 与那城町 + 勝連町 うるま市

平良市 + 城辺町 + 下地町 + 上野村 + 伊良部町 → 宮古島市

東風平町 + 具志頭村 八重瀬町

玉城村 + 知念村 + 佐敷町 + 大里村 南城市

表 1: 平成大合併と沖縄.

7都道府県をまたいで市町村合併が起こると,県境が変わることはある.長野県山口村と岐阜県中津川市の 合併など.

(10)

市町村合併のように,都道府県のまとまりを変えよう,より広いまとまりを作ろう,という動きも ある.道州制や大阪都構想,新潟州構想など,様々な議論がなされている.

2.1.3

都道府県と広域地域

現在日本には47の都道府県が存在する.しかし実用上47では多すぎるので,もう少し大胆にひ とまとめにすることがある.

日本国という国民国家に十把一絡げにしてしまうことを除けば,フォッサマグナあたりを切れ目に, 東日本と西日本の2地域に分けてしまうのが最も単純かつ有名な分け方になる.もっとも,これでは 愛知県や新潟県あたりがどっちなのか判然としない.

もう少しがんばって8地域に分け,

北海道 /東北 / 関東 / 中部 /近畿 / 中国 /四国 / 九州

とする区分はどこかで見たことがあるはずだ.さらに分け11地域にすると,

北海道 /東北 / 南関東/ 北関東・甲信 / 北陸 /東海 / 近畿 /中国 / 四国 / 九州/ 沖縄

となる.こちらもお馴染みだ.

沖縄県民なら,沖縄が九州か否かという問題は一度は考えたことがあると思う.8 他地域でも同じ ように,どこからどこまでがその地域なのか,案外曖昧なところがある.たとえば三重県は中部・東 海扱いをされることもあれば,近畿扱いされることもある.

政府もしばしば場当たり的で,統計を作成する官庁によって地域区分が異なることもある.デー タ分析をする際には注意が必要だ.地域の定義は公式にも緩やかなのだ.9

8 沖縄では,「地域」というと沖縄県とほぼ同義で用いることも多い.九州も含めて地域と言うことはあま りないのではないか.都道府県という区切り方を,我々はそれなりにもっともらしいものとして受け止めてい る.でも島の人々には,本島を含めずに「地域」と言う人もいる.自分と生活をともにする,緩やかな紐帯を 持ったグループとしてどこまでを認めるかは我々のアイデンティティーにも関わる問題にもなる.

9こうした曖昧さは,境界線を引く本質的な難しさを反映している.一歩立ち止まって考えると,結局のと ころ我々が地域のどういう特性に注目してどういう意図で境目を見つけ出すのかが問われていると気づくだろ う.何に注目したいのかを曖昧にしたまま漠然とした基準で線引きをしても,モヤモヤした地域区分にしかな らないのである.

(11)

2.1.4

経済的な区分

都道府県や市町村といった行政区分は,法律(日本国憲法第八章や地方自治法)に基づいて政治や 行政が行われている単位であり,「地域」を定義するやり方の中で最もポピュラーかつリーズナブル なものだと言えよう.しかし,行政的な区分が経済的な区分と一致する保証はない.アフリカ大陸や 朝鮮半島の国境線を思い出すとよいが,人為的・政治的に線を引くとかえっていびつに感じることも ある.以下では経済学的な分析をする際によく用いられる,経済の空間的まとまりを捉えるための概 念の代表例を紹介する.

(DID; densely inhabited district) 一定以上の人口密度と人口規模を持つ地域.

具体的には以下の手順でDIDと呼ばれる地域を決めていく.まず,国勢調査の調査単位区画を持っ てくる.そして次の条件を満たす区画を抽出する:

1. 人口密度≥ 4000/km2.

2. 人口密度≥ 4000/km2,となる区画と隣接している.

得られた区画のうち隣接するやつをひとまとめにして,次の条件を満たせばDIDと呼ぶ: 3. ひとまとめにした区画の総人口 ≥ 5000人.

図 8: DID の例.

DIDは感覚的には「ちょっとした集落以上」である.たとえば勝連平安名(うるま)や高志保(読 谷),金武町金武あたりもDIDであるし,石垣市や宮古島市の中心部もDIDだ.

(12)

(metropolitan area)一定以上の人口密度と人口規模を持つ中心地と,そこに通 勤する郊外を合わせた地域.

都市を広く捉えれば,中心地と郊外との有機的なつながりも把握できるようになるだろう.

総務省は国勢調査を元にして大都市圏と都市圏を定義している.政令指定都市を「中心市」とし, そこへ通勤・通学する者が一定以上いる隣接市町村を「周辺市町村」としている.2010年基準では, 10の大都市圏と4つ都市圏がある.

大都市圏: 札幌 / 仙台 /関東 / 新潟 / 静岡・浜松/中京 / 近畿 / 岡山/ 広島 / 北九州・福岡 都市圏: 宇都宮 / 松山/ 熊本 / 鹿児島

関東大都市圏はとてつもなく巨大だ.地理的には山梨や群馬まで入っていて,日本の人口の3割弱に あたる約3700万人が住んでいる.

10000 人以上

10% 以上通勤

図 9: 都市雇用圏の例.

アメリカでは政府が都市圏(CBSA; Core Based Statistical Area)を定義し公表している.比較的 最近EUでも大都市圏(Larger Urban Zone)が定義されデータ整備され始めた.残念なことに,これ らの都市圏は,総務省の都市圏とは定義もサイズ感も異なっている.そのため,同じ「都市圏」でも 内実は大きく異なっており,そっくりそのまま国際比較をすることはできない.

そこで日本では政府ではなく研究者が,アメリカの都市圏に対応するような都市圏として都市雇 用圏(Urban Employment Area)を定義し,データを整備している.10研究の関心にもよるが,日本

10金本良嗣・徳岡一幸 (2002) 「日本の都市圏設定基準」『応用地域学研究』7 号,1–15. 最新のデータは東 京大学空間情報科学研究センター (CSIS) が整備している.

(13)

の都市・地域について何かしらもっともらしい分析をする際には,都市雇用圏の定義を用いるのが業 界標準だ.11

都市雇用圏は,具体的には108の大都市雇用圏(中心のDID人口≥ 5万人)と121の小都市雇用 圏(中心のDID人口< 5万人)からなる(2010年基準).図10が実際の大都市雇用圏一覧である.面

Sapporo

H akodate Asahi kaw a

Muroran I wami zaw a

T omakomai Chi tose

Aomori H i rosaki

Aki ta

Tsuruoka Sakata

Kushi ro Obi hi ro

Sendai I shi nomaki

Y amagata Y onezaw a Fukushi ma A i zuw akamatsu Kori yama Iw aki Mi to H i tachi

Tsukuba

Utsunomi ya Oyama Ki ryu

Maebashi

T akasaki Ashi kaga I sesaki Ota Kumagaya Gyoda Choshi

Ki sarazu Tokyo Odaw ara Kof u

Gi f u Ogaki N agoya

Toyohashi Okazaki Heki nan Anj o

Ni shi o Gamagori Tsu

Yokkai chi

Ise Matsusaka Kyoto Osaka Wakayama

Tokushi ma Takamatsu

Matsuyama Imabari Ni i hama Kochi Oi ta Nobeoka

Mi yazaki Mi yakonoj o Kagoshi ma

Tottori Yonago Matsue Fukuyama

M i hara K ure I w akuni Tokuyama Hof u

Ube Yamaguchi

Shi monoseki

Takaoka

Kobe H i mej i Okayama K urashi ki

N agano M atsumoto Naha

Oki naw a

Ki takyushu Fukuoka Omuta Kurume I i zuka

Saga

Sasebo Omura I sahaya Nagasaki Kumamoto Yatsushi ro

N i i gata

N agaoka Sanj o

Ki tami

Hachi nohe Mori oka

Shi zuoka Hamamatsu

N umazu Fuj i

Kari ya Toyota H i roshi ma

Toyama

Kanazaw a Fukui M ai zuru

Joetsu

図 10: 大都市雇用圏 (95 年基準) 一覧.

画像出所: 東京大学空間情報科学研究センター. 積的には日本全土を覆っているようには見えないが,大都市雇用圏の総人口は1億668万人であり, 日本の総人口の83%をカバーしている.小都市雇用圏も加えれば約94%をカバーしている.

沖縄県には那覇市・浦添市と沖縄市を中心とした大都市雇用圏が2つあり,沖縄県人口の約80%(110 万7531人)がこの2都市雇用圏に住んでいる(2010年基準).沖縄県内でも都市化が浸透しているの である.

11地理空間情報 (GIS) を用いるなどしてより緻密な空間情報を分析することもある.

(14)

2.1.5

経済学的な区分: 長期的関係に基づく利害調整集団

2009年に女性初のノーベル経済学賞を受賞したElinor Ostromは,ゲーム理論をベースにした発 想から地域コミュニティの役割を明らかにした.とりわけ共有地の悲劇(tragedy of commons) を回 避するために地域で協調するメリットを説いた.12

共有地の悲劇は市場の失敗の代表例だ(構造としては囚人のジレンマと同一である).森林や海洋 資源のような共有資源をうまく管理するには,過剰な伐採・乱獲は避けねばならない.ところが利己 的で近視眼的なステークホルダーたちは共有資源を乱獲しすぎてしまいがちなので,資源が枯渇して しまうのである.他の人が共有資源を保全する努力をしているときに,自分だけちょっと多めに資源 を採掘したくなるからだ.経済学用語で言えばフリーライダーとなるインセンティブがあるからだ.

こうした状況を回避するやり方はいくつかある.政府が直接規制・介入を行うことも有用だ.し かし権力の介入がなくとも,ステークホルダー同士で将来を見据えて自発的に協調することでも共 有地の悲劇は回避可能だ.みんなが自分勝手な乱獲を控えればよいだけの話だ.天然資源の枯渇のよ うなコミュニティ共通の問題を未然に防ぐことは,長い目で見れば自分を利することにもなる.この 場合,目先の私利私欲でなく,お互いがみんなの将来のためになるような行動をすることが必要であ る.また,目先の利益に目がくらみ裏切った者には,相応の制裁を加えることも必要だ.

こうした政府抜きの自発的な協調は,誰とでもできるわけではない.Ostromは,狭い地域コミュ ニティであれば,こうした地域の問題に対処しやすい,という議論を進めた.お互いよく知っていて, いつも顔を合わせこれからもずっと顔を合わせるような関係であれば,自分勝手に振る舞いにくいも のだ.実際,田舎の小さなコミュニティには往々にして部外者を拒むような,閉鎖的な空気がある. 共通の目的や歴史を持たない,いつまでここにいるかわからない部外者とは,協調や意思疎通がしに くいものである.また,共有資源を取り巻く環境が日々変化するような場合,政府が細々と法律を定 めて規制するよりは,住民同士で柔軟なルールをもって対処するほうがよいかもしれない.

日本でも柳田國男や宮本常一といった民俗学者が収集してきたように,つい最近まで地域独自の 自治,共同体固有の物事の決め方が日本各地に生きていた.こうした小さいコミュニティは,共有資 源の管理のような,地域が抱える個々人では容易に解決できない問題に対処するために自生したもの なのかもしれない.問題解決型の長期的信頼関係が地域の地域たるゆえんと言える.

一方で,現代の都市は協調した自己統治が容易ではない,匿名性にあふれた空間だ.都市生活で はしばし,隣人が誰かわからない,取引相手が誰か気にしない,利害関係も一致しない.こうした人 間関係の希薄さと対置されるようにして「地域」が語られることもある.地域とは地縁の源なのだ.

12共有地 (共有資源; commons) とは公共財の一種で,(1) 競合性,(2) 非排除性,を持つ財のことである (詳 しくはミクロの教科書参照).非排除性,つまりフリーライダー (相応の費用負担をせずにタダでうまみに預か ろうとする輩) を排除できないことが問題の元凶となる.

協調や提携については,非協力ゲームなら神取道宏 (2015) 『人はなぜ協調するのか―くり返しゲーム理論 入門』三菱経済研究所,協力ゲームなら武藤滋夫 (2001) 『ゲーム理論入門』日本経済新聞社,が読みやすい.

(15)

2.1.6

言葉のニュアンス

「地域」には類義語が多くある.英語だとregionの他にもarea, locality, neighborhood, place,

terrain, などの言葉が使われる(ニュアンスは微妙に異なる).言葉の使い方は人それぞれでよいが,

通常は緩やかに次のような対応関係があると思う:

地方 (rural) ←→ 都会(urban; 都市;中央)

村(village) ←→ (city)

ローカル (local;局所) ←→ グローバル(global;大域) 周縁 (周辺; periphery) ←→ 中心(core)

詳しくは語学や文学の達人に聞いてほしい.13本講義ではあまり神経質に区別せず,テーゲーに使い 分ける.ただし,地域という言葉に田舎・辺境というニュアンスは含めずにおく.

地域とほぼ同じような意味で「都市」(city)という言葉も用いる.具体的には都市雇用圏が想定す るエリアだ.地域とは違って,都市は山河や農山村を含まないイメージがある.14農山村は都市の周 辺(後背地)に広がっているものである.

2.2 地域を論じることと距離

地域は様々な定義の仕方がありえるが,地理的・文化的・歴史的に「近く」にあり,通勤など経済 的に「つながりが密接」な場所をひとまとめにするのが自然な考えであろうことがわかった.ところ で,地域の定義を考えるときに我々が「近さ」や「密接さ」を基に考えているということから,暗黙 のうちに我々が距離 (distance) を意識していると言えないだろうか.実際,もし距離が重要でなけ れば,地域について考える意義も薄れてしまうだろう.

経済学で広く使われる一般均衡理論のようなモデルだと,距離を明示的に扱うことは少ない.少 ないばかりか,距離を丁寧に扱うためには普通のモデルを普通でないやり方で改良しなければならな い.15

普通の経済学で距離を扱わないからといって,距離が無視して良い些末な概念だとは言えない.む しろ,距離は人や企業がいかに立地を選択しいかに生産・消費するかを左右し,貿易ネットワークの 構造や国の興亡に影響を与えることを空間経済学は古くから明らかにしてきた.本講義の関心事項 も,経済活動が距離という本源的な存在とどう関わっているのかにある.

13中心/周縁という対比は,経済学よりは歴史学でよく目にする言葉であったが,90 年代以降は空間経済学 でも政治的な文脈と切り離されて中立的な意味で使用されるようになった (と思う).

14語源としては,「町」という字は「田」と「丁」から成り立っている.「田」は (田んぼでもあるが) 区画整 理された平地,「丁」(燭台でろうそくをともす小さい炎) は夜も明るい活気ある場所,という意.

15市場がそのままではうまく機能しなくなる何か,たとえば外部性や規模の経済,を導入する必要がある. Starrettの空間不可能性定理について詳細は,高橋孝明 (2012) 『都市経済学』有斐閣,などを参照せよ.

(16)

2.3 データを眺める

世の中には様々な地域があり,様々なグループ分けの仕方がありえることがわかった.次に本節で は,地域間の違いを代表的な統計指標を用いて確認する.

2012年における人口と地域内総生産(国内総生産GDPの地域版)を見てみよう(図11, 12).16

0 1000 2000 3000 4000 北海道

関東 中部 近畿 中国 四国 九州 沖縄

・東北 1696万 4561

1811

2084万 750

393

1314万 141

(万人)

図 11: 人口.

0 50 100 150 200

北海道 関東 中部 近畿 中国 四国 九州 沖縄

・東北 58.0兆 199.4

76.2

77.8兆 27.7

13.5

43.7兆 3.8

(兆円)

図 12: 名目 GDP.

第1章図2でも見たように,日本経済の中心地は関東地方であり,その大きさは群を抜いている. 近畿と中部,そして仙台や札幌を抱える北海道・東北がそれを追う形だ.中国・四国は人口で見ても GDPで見ても,経済規模としては目立たないところにいる.沖縄は全国(人口1.3億人,GDP500兆 円)の1%程度の規模だと覚えておくと,何かと便利である.

図11, 12だけで各地の「豊かさ」を知るのは難しい.そこで,2つのデータを使って,一人当たり

GDP(名目)を計算したものが図13である.17(横軸の原点がゼロでないことには注意)

一人当たりで考えると,集計したGDPや人口とは違った光景が見えてくる.一人当たりで見て も,関東が日本をリードしていることに変わりはない.しかし,他を大きく引き離しているかという

16出典: 内閣府「県民経済計算」.「九州」は沖縄を除く.

17国民総生産 (GNP) から固定資本減耗や税などを除いたものを国民所得 (net national income) と呼び,我々 がイメージする所得はこちらのほうが近いかもしれない.しかし,GDP の代わりに県民所得 (国民所得の都道 府県版) を用いてもさほど違いはない.

(17)

300 350 400 北海道

関東 中部 近畿 中国 四国 九州 沖縄

・東北 342 437

421万 373

369

343万 332

270

(万円)

図 13: 一人当たり名目 GDP.

18 20 22 24 26

北海道 関東 中部 近畿 中国 四国 九州 沖縄

・東北 25.3 21.0

22.5

22.7

25.5

26.6

24.4

17.3

(%)

図 14: 65 歳以上人口比率. (2010 年)

とそうでもなさそうだ.中部と近畿は,人口やGDPではおよそ同規模で,若干近畿が上回るようで あったが,一人当たりGDPでは中部が1割以上差を付けて逆転している.中国地方は集計変数で小 さかったものの,一人当たりGDPでは近畿と並んでいる.沖縄県は全国平均(392.2万)の7割に満 たない.言うまでもなく,沖縄県は本土と比べ貧しい.

「一人当たり」(per capita) は,とりあえず総人口で割っただけの数字である.同じ沖縄県民と 言っても,老若男女様々な人がいる.数千万円稼ぐ人もいれば,まったく稼ぎのない人もいる.多様 な人間がいるという事実を棚上げしてざっくりと平均してみる,という作業が一人当たりに直すとい うことである.一人当たりで見る際は,現実には地域の人口構成は均質でないことに留意したい.

労働者が少なく,付加価値を生み出せる人が少ない地域では,一人当たりGDPは労働者の持つ生 産性よりも低めに出るかもしれない.少ない労働者で多くの老年世代を養っていることになるから だ.地域にどれだけ生産活動に従事できる労働者がいるか,が気になるところであるので,65歳以 上人口の割合も見てみよう(図14).18残念ながら,沖縄県はオジーオバーがたくさんいるせいで一人 当たりGDPが他府県よりも低いわけではなさそうだ.むしろ沖縄県は少子高齢化の進展が最も遅い 地域なのである.

沖縄の次に老年世代が少ないのは関東,中部,近畿である.大都市には働き盛りの若年世代が集 まってきていると言えよう.

18出典: 総務省「国勢調査」.男女計.

(18)

図15は,各地の就業者がどの産業で働いているのかを表している.19左端から中空の「」までが 第一次産業の割合,この「」から右の丸「」までが第二次産業の割合,残りの右端が第三次産業の 割合を表す.

20 40 60 80 100

北海道

関東

中部

近畿

中国

四国

九州

沖縄

東北

(%)

第一次産業

第二次産業

0

図 15: 産業構造の違い.

• 北海道・東北(8.0%),四国(8.2%),九州(7.0%)は,第一次産業に従事する割合が他地域より も高いことがわかる.沖縄(5.0%)も全国平均(4.0%)より高い水準である.反対に,都会では 農業に従事する人は少ないことが見て取れる.大都会にこぢんまりとした田畑なんか作るぐら いならビルでも建てた方が儲かるのかもしれない.

19出典: 総務省「国勢調査」 , 2010 年.15 歳以上就業者のうち,第一次産業 (農林水産),第二次産業 (鉱業, 製造,建設,インフラ),第三次産業 (その他.公務も含む) に就業する者の比率を求めた.

(19)

• 第二次産業については,トヨタ自動車を有する中部地方が群を抜いて高い(32.2%).トヨタ・ グループのデンソー,アイシン精機,ジェイテクトなどはもちろん,中部に工場を持っている 大手メーカーは少なくない.沖縄(14.6%)は全国最下位である(全国平均24.2%).沖縄に工場 はほとんどなく,あっても高度に機械化されていてほとんど人手を必要としなかったりする. 沖縄と並んで第二次産業に従事する割合が低いのは,東京(15.5%)である.関東(21.9%)の中 でも,製造業は東京ではなくその近郊,たとえば京浜工業地帯,で営まれているようだ.

• 第三次産業が最も多いのは,東京(84.1%)だ.IT,金融,医療,学術研究,その他ありとあら ゆるサービス業の中心は東京である.沖縄(80.5%)も全国平均(71.8%)と比べると高い水準で ある.沖縄の場合,飲食や宿泊など,観光に関連したサービス業が盛んだし,そもそも製造業 が貧弱なので割合として第三次産業の比重が高まるのは当然である.

日本各地の人口密度を地図にした(図16).20これまでは日本を8地域にざっくり分割したデータを 眺めてきたが,今度は市町村別データという細かい区切りで見ている.

市町村別で眺めると,地域内にも異質性があることがわかる.たとえば北海道・東北を見ると,人 口密度が高いのは札幌や仙台などごく一部であることが見て取れる.北海道は見渡す限り平野で,住 もうと思えばどこにでも住めそうなものだが,人は札幌周辺に集住しているのである.本州は山が多 く,人が集まり住めるような平野は限られている.その中でも,東京湾から北九州にかけての太平洋 ベルトに人が集まっている様子がわかる.

2.3.1

全国のミニチュア版ではない

沖縄に限らず,地域は全国を相似的にスケールダウンしただけの存在ではなさそうだ.それぞれの 地域に特色があるのはもちろん,地域間には無視できない経済的なリンクがありそうだ.この講義で は,地域がどうリンクしているのかを体系的に学び,その含意を考えていきたい.

それぞれの地域に特色があるという点について,たとえば日本の中には所得の低い地域と高い地 域が併存している.低所得地域から高所得地域へ人口移動が起こっているのだろうか? 低所得地域は いつか消滅するのだろうか? むしろなぜすでに消滅していないのだろうか?

こうした問題をディープに考察するときには, (incentive)と

(equilibrium) という概念が役に立つ.人にせよ企業にせよ,利用できる情報をなるべく活用しなが

らそれなりに思慮深く考え抜いて活動拠点を決めているはずだ.人の移住行動を分析するにあたっ て,意思決定を分析するための道具立て,つまりミクロ経済学はたいそう使えるのである.

20出典: 総務省「国勢調査」.

(20)

(人) 800,000 700,000 600,000 500,000 400,000 300,000 200,000 100,000

図 16: 市町村別人口密度. 2005 年.(沖縄県は他よりも縮尺を拡大している)

(21)

2.4 データを眺める : 時系列

第1章で都市への集積が進んでいるという話が出た.もののついでに,本当かどうかデータを簡 単に見ておこう.

図17は,日本,アメリカ(US),欧州連合(EU),OECD加盟国,で総人口のうちどれだけが都市 に住んでいるかを表している.21「都市」の定義が国によって異なるので数字の水準を国家間で直接 比較することはできないものの,主要先進国では都市に住む人の割合が趨勢的に上昇していることが 確認できる.都市化 (urbanization)が進んでいると言えるだろう.同様に図18で他の国を見ても, 軒並み都市集積が進んでいることがわかる.

1960 1970 1980 1990 2000 2010

60657075808590%

日本

US

EU

OECD

図 17: 都市人口の推移.

都市集積は先進国だけの現象ではない.中国(上海,広州,北京,天津,深セン),インドネシア (ジャカルタ),タイ(バンコク),フィリピン(マニラ),メキシコ(メキシコシティ),ブラジル(サン パウロやリオデジャネイロ),インド(デリー,ムンバイ,コルカタ)などは人口1000万人を超える メガシティ(megacity)として知られている.

都市人口の増加は,日本だけでたまたま生じているような現象ではない.何かシステマティックな 原因が作用していると考えるのが自然だろう.ペティ・クラークの法則よろしく,近代工業の発達に 伴って農村から都市に人が移住しているのかもしれない.また,荒廃する貧しい農村から逃げてきた という側面もあるかもしれない.その他の要因については後の講義で次第に明らかにしていく.

都市人口が増えているとして,具体的にはどの都市に人が移動しているのだろうか? 日本に住ん でいるとどうも「東京に一極集中が進んでいる」ようなイメージが先行しがちだ.では,世界各国で

21出典: World Bank, World Development Indicators. なお,日本で 2000 年代に急上昇しているのは市町村 合併の影響によるものであろう.

(22)

1960 1970 1980 1990 2000 2010 20304050607080%

中国 インド マレーシア

南アフリカ イタリア

スウェーデン

ブラジル 韓国

ロシア

図 18: 都市人口の推移.

も日本と同様,首都に一極集中が進んでいるのだろうか? 実際にデータを見ると,そうとは即答出来 なさそうである.

図19, 20は,都市に住む人口のうちどれだけの割合の人が,国の最も大きい都市に住んでいるの

かを表している.22このデータでは,明確な傾向は見て取れない.日本の場合東京に集まっているこ とが想像されるが,EUは横ばいで,アメリカにいたっては低下気味だ.そのほかの国を見ても,上 昇・横ばい・低下,いずれのパターンもあるようだ.

漠然としたイメージだけを頼りにすると,なかなか考えを深めることができないばかりか,データ と合わないことを主張してしまう愚を犯すこともある.人の移住行動や都市化について我々がもっと しっかり考えるためには,先入観や山勘ではなく,確かな思考のフレームワークが必要だ.経済学で は,考えるためのフレームワークを,数学を援用しながら構築していく.こうしてできたものを

デル

(model)と呼ぶ.数理的なモデルを分析し,そこから現実への含意や洞察を探るのは経済学の

常道だ.

この講義では,他の経済学系の講義と同様に,モデルを分析しそこから何らかの洞察を得ていく. 社会に出て歳を取ってしまったら,腰を据えて数式を追いかけ格闘することは難しくなる.今のうち にトレーニングをしておこう.

22出典: World Bank, World Development Indicators. ここでもまた,「都市」の定義次第で定性的に違った グラフを描ける可能性はある.

(23)

1960 1970 1980 1990 2000 2010 101520253035 %

日本

US

EU

OECD

図 19: 最大都市の人口が都市人口に占める割合.

1960 1970 1980 1990 2000 2010

10203040

中国

%

インド イタリア ロシア スウェーデン ブラジル

韓国

南アフリカ マレーシア

図 20: 最大都市の人口が都市人口に占める割合.

図 1: Boeing 787 Dreamliner の製造メーカー (一部). (写真出所: wikimedia commons) たとえばボーイング社の中型旅客機製造には,世界中から約 70 社の大手メーカー,下請けも含め ると約 900 社もの企業が携わっているという ( 図 1) .旅客機に限らず,自動車からスマートフォンま で実に様々なものの付加価値が,世界中の様々な場所で別個に産み出されている
図 5: アメリカ (連邦制) の自治体階層.
図 15 は,各地の就業者がどの産業で働いているのかを表している . 19 左端から中空の「 ◦ 」までが 第一次産業の割合,この「 ◦ 」から右の丸「 • 」までが第二次産業の割合,残りの右端が第三次産業の 割合を表す. 20 40 60 80 100北海道関東中部近畿中国四国九州沖縄東北 (%) 第一次産業第二次産業0 図 15: 産業構造の違い
図 17 は,日本,アメリカ (US) ,欧州連合 (EU) , OECD 加盟国,で総人口のうちどれだけが都市 に住んでいるかを表している . 21 「都市」の定義が国によって異なるので数字の水準を国家間で直接 比較することはできないものの,主要先進国では都市に住む人の割合が趨勢的に上昇していることが 確認できる.都市化 (urbanization) が進んでいると言えるだろう.同様に図 18 で他の国を見ても, 軒並み都市集積が進んでいることがわかる. 1960 1970 1980 1990 2000

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