労働経済学(第 13 回)
広島大学国際協力研究科
川田恵介
報酬設計
• 組織の構成員に対する報酬をどのように設定するか、 という問題は、組織の問題の中で、特に大きな関心を 集めてきた問題の一つである。
• 現実には、さまざまな報酬体系が存在し、事例研究も 積み重なっている。
• 組織の特性や状況に応じて、どのような報酬設計が望
事例)成果報酬
• ボーナスの支給額に、企業の業績や勤務評定に応じ て変化をつけることは、多くの日本企業において古くか ら行われてきた。
• 営業職やプロスポーツ選手等では、業績指標(新規契 約数、ヒット数等)に報酬が強く依存する契約が見られ る。
• いくつかの日本企業において、一旦成果主義を導入し たあとに、方向転換を行われた。
事例)元寇
なぜ企業は報酬を支払うのか?
多くの組織において、報酬システムを適切に設計すること で、 を行っている。
効率賃金モデル:労働者がさぼった場合解雇する。
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より多様な報酬システムが存在する。
労働経済学1の議論:労働力を労働市場から購入するた めに報酬を支払う。
本授業の目的
(注意1)報酬は金銭的なもの以外を考えることも可能
(注意2)企業組織だけではなく、教育、家庭など、多くの ケースにおいて応用可能
• 労働者の努力を以下に上手く引き出すか、という観点 から、報酬の在り方について、 「契約理論」をもとにし た考察を行う。
プリンシパルーエージェントモデル
• 2人の主体(企業と労働者)からなる組織を考える。
利潤最大化を目指して、契約を労働者に提示する。
効用最大化を目指して、努力水準を選択する。 契約
経済実験 (段取り)
1. 各自が配られた記録用紙に(企業として)、成果報酬額 と固定報酬額をそれぞれ記載する。
2. 記録用紙を他者と交換する。
3. 交換した記録用紙に(労働者トとして)、その契約を受け 入れるかどうか、受け入れるならばどの程度貢献する かを記入する。
4. 企業と労働者の利得を記載し、企業に返却する。
経済実験
• 企業の利得=総利得-報酬(退出された場合0)
• 労働者の利得=報酬ー貢献費用(退出した場合0) 報酬契約
報酬=成果報酬+固定報酬
成果報酬:総利得の内、労働者に支払う割合
固定報酬:総利得と関係なく、労働者に支払う額(マイナス に設定することも可能)
報酬表
例)貢献水準2、成果報酬5割、固定報酬額0ならば、企業
問題の構造
• 企業の戦略を報酬の設定、労働者の戦略を貢献水準 の決定、としたシュタッケルベルクゲームになっている
(企業がリーダー)。
• 企業と労働者の間で目的が異なっている。
• 自身の目的を達成するためには、相手の行動が重要
⇒企業は、報酬契約を用いて、上手く労働者の行動を する必要がある。
IC条件、IR条件
企業によって提示された契約に応じて、決定される労働者 の貢献水準
企業や労働者が、組織に留まる条件=利得が外部機会以 上になっている。
本実験におけるIR、IC条件
IR条件:
IC条件:貢献水準は、労働者の利得を最大化するように決 まる。
(注意)固定費用は貢献水準に
成果報酬-貢献水準
賃金契約
貢献 水準
10 9 8 7 6 5 4 3 2 1
1 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 2 145 125 105 85 65 45 25 5 -15 -35 3 180 150 120 90 60 30 0 -30 -60 -90 4 205 165 125 85 45 5 -35 -75 -115 -155 5 220 170 120 70 20 -30 -80 -130 -180 -230 6 225 165 105 45 -15 -75 -135 -195 -255 -315 7 220 150 80 10 -60 -130 -200 -270 -340 -410 8 205 125 45 -35 -115 -195 -275 -355 -435 -515
(組織の)総余剰
(組織の)総余剰
総余剰最大化を達成するような貢献水準が達成されてい る状態=組織が、潜在的に生み出しうる最大の価値を生 みだいしている状態
本実験における均衡報酬契約
• IR条件を統合で見たす必要がある。よって固定報酬は、
• 企業の利得に代入すると、
• よって を最大にするよ 企業の利得を最大にするような報酬契約は?
⇒IR、IC条件を満たす必要がある。
最適契約
直観的理解
• によって組織の総余剰は、コントロールできる。
• によって総余剰の、企業と労働者間の分配を コントロールできる。
• IC条件に従って、 を最大にするように を選び、IR条件を満たす水準まで によって余剰を企業に分配している。
外部性
• 成果報酬が10割でなければ、労働者の追加的な貢献 によって、企業が正の利益を受ける
⇒ が発生
• 追加的な貢献によって生み出される利益をすべて労働 者に還元することによって、外部性を
頑健性チェック ( その1 )
• 労働者の外部機会が0よりも上昇したらどうなるか?
• 市場競争の激化、組合との交渉、利他性
• 労働者の外部機会が300まで上昇した。
• は、変化しない。
• は、労働者の効用=300
⇒
頑健性チェック ( その1 )
• IR条件を企業の利潤に代入すると、
• 、なので総余剰 を最大化する貢献水準は 、この努力量を達成する成 果報酬は 割(外部機会0の場合と変化せず)
固定報酬は、
まとめ:インセンティブ報酬
• インセンティブを高めるために、成果報酬の割合を高 める必要がある。
• 今回の実験では、成果報酬の割合が極めて大きくなる。
• フランチャイズ制など、現実の事例もいくつかあるが、 ここまで強い成果報酬制度を取っている例は多くない。
• なぜか?⇒