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―平成26年度第3四半期(10月~12月)の判決について― 「特技懇」誌のページ(特許庁技術懇話会 会員サイト)

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全文

(1)

シリーズ

判決紹介

前首席審判長 

林  浩

− 平成26年度第3四半期(10月〜12月)の判決について −

1. 全般的傾向

(1)統計1)

・判決の総数 62 件

・判決内訳  請求棄却 43 件

       審決等取消し 19件 ( 審決取消判決一覧を参照。)

(訂正確定による審決等の取消し,取消し決定(特実),訴え 却下は除外)

・法別内訳

 特実 請求棄却 34 件 取消し 19 件 (査定系) 22 件 6 件 (当事者系 Z) 4 件 3 件 (当事者系 Y) 8 件 10 件  意匠 請求棄却 1 件 取消し

(査定系) 1 件

(当事者系 Z)

(当事者系 Y)

 商標 請求棄却 8 件 取消し

(査定系) 4 件

(異議)

(当事者系 Z) 2 件

(当事者系 Y) 2 件

(2)取消率の推移・傾向

 今期における取消率は,全体 30.6%,特実 35.8%,意匠 0%,商標 0%であり,前年度の取消率(全体 21.4%,特実 24.9%,意匠 12.5%,商標 11.5%)と比較すると,特に特 許の取消しが多かった。

・特実

 査定系の取消率は,21.4%で,前年度の19.8%を僅かに 上回った。

 当事者系の取消率は,52.0%で,前年度の 32.1%を大幅 に上回っている。

 内訳は以下の通り。

 ・当事者系 Z 審決の取消率 42.9%(前年度 45.5%)  ・当事者系 Y 審決の取消率 55.6%(前年度 27.1%)

 取り消された事例についての取消理由をみると,前年度 と傾向は変わらないが,相違点の判断の誤りが顕著である。 また,訂正要件に係る事例が 2 件あった。

・意匠,商標

 意匠及び商標については審決取消がなかった。

審決取消判決一覧(黄色欄は本号での紹介事例)

(特実) 事件名 理由 (査定系は略)種別

①(10/8)

(2部) 平成25年(行ケ)第10296号(電子写真現像剤用磁性キャリア及びその製造方法、二成分系現像剤)不服2013-004314,特願2008-049226,特開2009-205041

相違点の判断の誤り (本願発明の要旨認定の

誤り) ②(10/9)

(3部) 平成25年(行ケ)第10323号(電子製造プロセス内で使用するための塗布器液体)不服2011-021024,特願2007-515322,特開2008-504198 相違点の判断の誤り ③(10/9)

(3部) 平成25年(行ケ)第10346号(水晶発振器と水晶発振器の製造方法)無効2012-800211,特願2003-040391,特開2003-273700,特許4074935 訂正要件の判断の誤り 無効Y ④(10/9)

(3部) 平成25年(行ケ)第10347号(水晶ユニットの製造方法)無効2012-800212,特願2005-049697,特開2005-168066,特許4453017 相違点認定の誤り相違点の判断の誤り 無効Y

⑤(10/16) (1部)

平成26年(行ケ)第10018号(システム・ファームウェアから記憶装置にアプリケー ション・プログラムを転送するための方法およびシステム)

不服2011-018580号,特願2000-179442,特開2001-043071

一致点・相違点認定の誤り サポート要件の判断の誤り

⑥(10/23)

(3部) 平成25年(行ケ)第10303号(白色ポリエステルフィルム)無効2012-800177,特願平08-255935,特開平10-101912,特許3593817 同一性の判断の誤り 無効Z ⑦(10/30)

(1部) 平成25年(行ケ)第10244号(タグタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備)無効2013-800001,特願2002-334665,特開2004-169082,特許3685781 相違点の判断の誤り 無効Y ⑧(11/10)

(2部) 平成25年(行ケ)第10271号(アルコール飲料の風味向上剤及び風味向上法)無効2012-800145,特願平07-030693,特開平08-224075,特許3530247 実施可能要件の判断の誤り 無効Y

(2)

3.事例の紹介

 以下,審決取消判決一覧で示すもののうち,特実 9 件(事 例①〜⑥,⑧,⑱,⑲)の事例を紹介する。

 判示事項等は,知的財産高等裁判所の HP の「判決紹介」 →「最近の審決取消訴訟」

(http://www.ip.courts.go.jp/search/jihp0020Recent? caseAst=01)に掲載の「要旨」を参考にさせていただいた。

 なお,ここで紹介する内容,特に所感の項については, 私見を含むものであることを予めご承知おきいただきたい。 また,本稿においては,「後知恵」とならないようにとの指 摘をさせていただくことも多いが,本稿自体が判決を見た 後での事後分析であることを筆者も承知している。審査, 審判及び訴訟において尽力された皆さんには,本稿が広く 読者の一層の知見の向上に役立たせていただくためのもの であることに免じてご容赦いただければ幸いである。

事例①

審決概要 【本願補正発明】

 カラー用現像剤に用いられる電子写真現像剤用磁性キャ リアであり,電子写真現像剤用磁性キャリア磁性芯材粒子 の粒子表面に主に,シリコーン樹脂,スチレン系樹脂,ア クリル系樹脂,ポリエステル系樹脂から選ばれる一種又は 二種類以上の樹脂からなら(ママ)表面被覆層を形成した

2.判決内容の分析(太字丸数字は本稿で紹介する事例)

特実系敗訴事件

ア 無効Y審決

 (ア)新規性に関して(⑫)  (イ)進歩性に関して

  ☆引用発明の認定の誤り(⑨)   ☆一致点・相違点の認定の誤り(④)

  ☆相違点の判断の誤り(④,⑦,⑨,⑭,⑯,⑰,⑲)  (ウ)記載要件に関して

  ☆実施可能要件の判断の誤り(⑧)  (エ)その他

  ☆訂正要件の判断の誤り等(③)

イ 無効Z審決,査定系Z審決

 (ア)新規性に関して(⑥)  (イ)進歩性に関して

  ☆本願発明の認定の誤り(⑪)

  ☆一致点・相違点の認定の誤り(①,⑤,⑱)   ☆相違点の判断の誤り(②,⑩,⑪,⑬,⑮,⑱)  (ウ)記載要件に関して

  ☆サポート要件の判断の誤り(⑤)  (エ)その他

  ☆訂正要件の判断の誤り等(⑩)

(特実) 事件名 理由 (査定系は略)種別

⑨(11/13)

(1部) 平成25年(行ケ)第10338号(卓上切断機)無効2013-800050,特願2005-012609,特開2006-198868,特許4759276 引用例認定の誤り相違点の判断の誤り 無効Y ⑩(11/19)

(2部) 平成26年(行ケ)第10124号(製品保持手段を有する改善されたパケット)無効2012-800207,特願2010-512793,特開2011-501719,特許4976547 訂正要件の判断の誤り相違点の判断の誤り 無効Z ⑪(11/20)

(3部) 平成26年(行ケ)第10044号(電子装置へのアクセスを制御するマン・マシン・インターフェース)不服2010-006459,特願2006-533547,特開2007-516507 本願発明認定の誤り相違点の判断の誤り ⑫(11/26)

(2部) 平成26年(行ケ)第10097号(平形非水電解質二次電池)無効2013-800022,特願2009-234722,特開2010-010144,特許5072123 同一性判断の誤り 無効Y ⑬(11/27)

(1部) 平成25年(行ケ)第10234号(基板製品を製造する方法)不服2011-015379,特願2003-588004,特開2005-524000 相違点の判断の誤り ⑭(12/18)

(1部) 平成26年(行ケ)第10020号(太陽電池のバックシート)無効2013-800052,特願2005-212550,特開2007-035694,特許5127123 相違点の判断の誤り 無効Y ⑮(12/24)

(4部) 平成26年(行ケ)第10045号(骨代謝疾患の処置のための医薬の製造のための、ゾレドロネートの使用)不服2013-007030,特願2001-585739,特表2004-501104 相違点の判断の誤り

⑯(12/24) (2部)

平成26年(行ケ)第10071号(果菜自動選別装置用果菜載せ体と、果菜自動選別装置 と、果菜自動選別方法)

無効2001-285930,特願2001-285930,特開2003-053275,特許4920841 相違点の判断の誤り 無効Y ⑰(12/24)

(2部) 平成26年(行ケ)第10095号(果菜自動選別送り出し方法及び果菜自動選別送り出し装置)無効2013-800103,特願2010-294421,特開2011-063449,特許5255047 相違点の判断の誤り 無効Y ⑱(12/24)

(2部) 平成26年(行ケ)第10103号(固体麹の製造方法)無効2012-800196,特願2005-380655,特開2007-181405,特許4801443 一致点・相違点認定の誤り相違点の判断の誤り 無効Z ⑲(12/24)

(3)

【0055】 【表 1】

【0064】表 4 にこれら現像剤サンプル A1 〜 A3,B1, B2 の帯電特性の測定結果を示す。

……略……

【0066】ここで,帯電量はブローオフ法によるもので,キャ リアとトナーをトナー濃度 3%で混合した現像剤サンプル 100g を,100ml のポリエチレンボトルに入れ,回転数 100rpm で 60min 間撹拌した後,現像剤サンプルを 0.2g 秤 量し,エア圧 0.2kgf /㎠で 90sec ブローして測定した値で ある。帯電立ち上がり指数は,帯電量測定時のブロー時間 10sec の値をブロー時間 90sec の値で割ることにより求め た値である。

【0067】表 4 から,現像剤サンプル A1 〜 A3 が,いずれも トナー帯電量が− 20 μ C / g 前後で高帯電量が得られ,帯 電立ち上がり指数が 90 以上の帯電立ち上がり特性に優れ たものであるのに対し,現像剤サンプル B1,B2 はいずれ も低帯電量しか得られず,帯電の立ち上がりも著しく遅い ものであることが分かる。」

【引用発明】

 「60 μ m 又は 80 μ m の平均粒径を有する Cu-Zn フェラ イトをコア材とし,シリコーン樹脂にカーボンブラックを 5 重量%分散させたものをコート剤とし,これらを活動造 粒乾燥装置に入れ,流動層でコア材とコート剤を混合した あと,90℃の雰囲気下で乾燥し,更に 200℃の電気炉内に 1時間放置し,シリコーン樹脂の焼成をすることによりコー トして製造したキャリアであって,

 キャリアとトナーをトナー濃度 3%で混合した現像剤サ ンプル 100g を,100ml のポリエチレンボトルに入れ,回 電子写真現像剤用磁性キャリアであって,前記磁性キャリ

アの平均粒子径が 10 〜 100 μ m であり,該磁性キャリア の帯電量の測定において,測定条件を下記のとおりとし, 測定 10 秒後の測定値と 120 秒後の測定値との比(10 秒後 の帯電量)/(120 秒後の帯電量)が 60%以上であることを 特徴とする電子写真現像剤用磁性キャリア。

(帯電量の評価)

 帯電量は,磁性キャリア 95 重量部と下記の方法により 製造したトナー 5 重量部を十分に混合し,24℃,60% RH 環境に 24 時間以上放置し調湿した試料を準備して,ブロー オフ帯電量測定装置を用いて測定した値である。

トナーの製造例

 ポリエステル樹脂 100 重量部  銅フタロシアニン系着色剤 5 重量部

  帯電制御剤(ジ -tert- ブチルサリチル酸亜鉛化合物)3 重 量部

 ワックス 9 重量部

 上記材料を溶融・混練し,粉砕,分級して得た重量平均 粒径 7.4 μ m の負帯電性青色粉体 100 質量部と疎水性シリ カ 1 重量部を混合して負帯電性シアントナーとして用い る。」

【引用例(甲1)の記載】

【0031】また,キャリアの被覆樹脂中及びトナー中に 含有させた第 1 のカーボンブラックと,トナー中に含有さ せた吸油量が60〜120(ml/100g)の範囲にある,第1のカー ボンブラックに比べてその吸油量が小さい第 2 のカーボン ブラックとの相互作用により,すばやい帯電立ち上がり特 性及び優れた帯電量維持特性が得られる。従って,高速機 から低速機まで現像剤を共用化した場合,異なる摩擦撹拌 力によっても,所定の帯電量に所定時間で達するとともに, 所定の帯電量が安定に維持されるほぼ同一の帯電特性が得 られることになり,高速機,低速機のいずれにおいても, 同等の良質画像を得ることができる。」

【0041】また本発明のトナーでは,結着樹脂中に着色・ 電荷制御の目的で前記カーボンブラック以外の適当な顔料 または染料を配合することができる。かかる顔料または染 料としては,……を挙げることができ,これらのうちの 1 種または 2 種以上が混合されて使用される。かかる顔料ま たは染料は一般に結着樹脂 100 重量部当たり 0.1 〜 10 重量 部配合される。」

【0054】 【実施例】

(4)

と,一般に,ブロー時間が10秒ないし20秒以下ではブロー 時間が長くなるのに従って測定される帯電量は激しく上 昇するが,それ以降はブロー時間が長くなっても測定さ れる帯電量は少ししか増加しなくなり,ブロー時間が1.5 分又は 2 分の飽和帯電時間を超えると増加量は 0.33% / 秒以下になり,ほとんど増加しないこと(本件周知事項) が,本願出願前に周知である。

③ 引用発明は,電子写真現像剤用磁性キャリア磁性芯材粒 子の粒子表面に主にシリコーン樹脂からなる表面被覆層 を形成した電子写真現像剤用磁性キャリアであるとこ ろ,上記①からみて,この磁性キャリアは,ポリエステ ル樹脂,銅フタロシアニン系着色剤,ジ -tert- ブチルサ リチル酸亜鉛化合物などの材料から製造したシアント ナーと混合してカラー用現像剤に用いることができるも のである。

   そうすると,引用発明の磁性キャリアを上記材料から 製造したシアントナーと混合してカラー用現像剤とする とともに,引用発明の測定条件により帯電立ち上がり指 数を 90 以上のものとなすことは,当業者が,本件周知 技術に基づいて容易に想到することができた程度のこと である。

④ 上記③のようにカラー用現像剤用のものとなした引用発 明の磁性キャリアについて,測定条件を本願補正発明と して,この磁性キャリアの帯電量を求めると,その値は, 上記②の本件周知事項からみて,60%以上であるとい える。

⑤ したがって,引用発明において,相違点 1 及び相違点 2 に係る本願補正発明の構成となすことは,当業者が本件 周知技術及び本件周知事項に基づいて容易になし得た程 度のことである。

⑥ 本願補正発明の奏する効果は,引用発明の奏する効果, 本件周知技術の奏する効果及び本件周知事項から当業者 が予測することができた程度のものである。

判示事項

2 取消事由2-1(帯電量の認定の誤り)について

 事案にかんがみ,まず,取消事由 2-1 について検討する。

(1)本願補正発明の帯電量の測定について

 本願補正発明の磁性キャリアの帯電量の測定に用いられ るブローオフ法は,電子写真用 2 成分現像剤(トナー,キャ リア)を一定条件で混合し,これを金網(目開きが,トナー は通すがキャリアは通さない大きさ)を備えた導体に入れ, 圧縮ガスを片方から吹き付けてトナーとキャリアを分離し てトナーを導体外に除去し,導体中の残ったキャリアの電 荷(ブローオフされたトナーが持ち去った電荷と反対符号 の電荷をキャリアが有している。)を測定するものである (甲 2,9)。

 本願補正発明の磁性キャリアが満たすべき帯電量の測定 転数 100rpm で 60min 間撹拌した後,現像剤サンプルを 0.2g

秤量し,エア圧 0.2kgf/㎠でブローして測定した値である 帯電量について,帯電量測定時のブロー時間 10sec の値を ブロー時間 90sec の値で割ることにより求めた帯電立ち上 がり指数が90以上である帯電立ち上がり特性に優れたキャ リア。」

【一致点】

 電子写真現像剤用磁性キャリア磁性芯材粒子の粒子表面 に主にシリコーン樹脂からなる表面被覆層を形成した電子 写真現像剤用磁性キャリアであって,前記磁性キャリアの 平均粒子径が 10 〜 100 μ m である,電子写真現像剤用磁 性キャリア。

【相違点1】

 前記『電子写真現像剤用磁性キャリア』が,本願発明では, カラー用現像剤に用いられるものであるのに対して,引用 発明では,カラー用現像剤にも用いられるかどうか明らか でない点。

【相違点2】

 測定条件を,

 『(帯電量の評価)帯電量は,磁性キャリア 95 重量部と 下記の方法により製造したトナー5重量部を十分に混合し, 24℃,60% RH 環境に 24 時間以上放置し調湿した試料を 準備して,ブローオフ帯電量測定装置を用いて測定した値 である。

トナーの製造例

 ポリエステル樹脂 100 重量部  銅フタロシアニン系着色剤 5 重量部

  帯電制御剤(ジ -tert- ブチルサリチル酸亜鉛化合物)3 重 量部

 ワックス 9 重量部

 上記材料を溶融・混練し,粉砕,分級して得た重量平均 粒径7.4μmの負帯電性青色粉体100質量部と疎水性シリカ 1重量部を混合して負帯電性シアントナーとして用いる。』  として,前記磁性キャリアの帯電量を測定したときの, 測定 10 秒後の測定値と 120 秒後の測定値との比(10 秒後 の帯電量)/(120 秒後の帯電量)が,本願補正発明では, 60%以上であるのに対して,引用発明では 60%以上であ るかどうか明確ではない点。

【相違点の判断】

(5)

ことにより……することができる。……」(【0131】)との 記載がある。また,実施例(【0054】以下)の【表 1】〜【表 3】 にも,トナーに 2 種類のカーボンブラック A 及びカーボン ブラック B を含有させることが記載されている。

 そうすると,引用発明では,結着樹脂中に少なくとも第 1 のカーボンブラックと第 2 のカーボンブラックが分散し たトナーを用いて帯電量の測定が行われたものということ ができ,このようなトナーを用いることを前提に,「キャ リアとトナーをトナー濃度 3%で混合した現像剤サンプル 100g を,100ml のポリエチレンボトルに入れ,回転数 100rpm で 60min 間撹拌した後,現像剤サンプルを 0.2g 秤 量し,エア圧 0.2kgf/㎠でブローして測定した値である帯 電量」について,「帯電量測定時のブロー時間 10sec の値を ブロー時間 90sec の値で割ることにより求めた帯電立ち上 がり指数が 90 以上である」としたものと解することがで きる。

 そして,引用例には,上記トナー以外のトナーを用いた 場合においても,上記の測定条件に基づいて算出した帯電 立ち上がり指数が 90 以上となる旨の記載はなく,また, この点を裏付ける技術常識があるとも認められない。

(3)帯電量の測定の対比について

 審決は,引用発明に含まれる磁性キャリアと,ポリエ ステル樹脂,銅フタロシアニン系着色剤,ジ -tert-- ブチ ルサリチル酸亜鉛化合物などの材料から製造したシアン トナーとからなるカラー用現像剤が,本願出願前に周知 であるという本件周知技術を前提にして,引用発明の磁 性キャリアを上記シアントナーと混合してカラー用現像 剤とするとともに,引用発明の測定条件に基づいて算出 した帯電立ち上がり指数を 90 以上のものにすることは, 当業者にとって容易に想到できるとする(前記【相違点の 判断】③)。

 しかしながら,引用発明の磁性キャリアを上記シアント ナーと混合してカラー用現像剤とすることが,本願出願前 の周知技術であったとしても,上記シアントナーの確定的 な成分及びその割合や製造方法などは不明なのであるか ら,上記(2)からすると,引用発明の磁性キャリアと上記 シアントナーとを用いて,引用発明の測定条件に基づいて 算出した帯電立ち上がり指数が,90 以上となる合理的な 根拠はないというべきである。したがって,引用発明の測 定条件に基づいて算出した帯電立ち上がり指数が 90 以上 であるか否かは,技術的に不明であり,そのようにするこ とが容易ともいえないのであるから,審決の上記判断③は, 誤りである。

 また,審決は,ブローオフ法による帯電量は,ブロー時 間が長くなってもブロー時間が 90 秒の帯電量からほとん ど増加しないという本件周知事項を前提にして,カラー用 現像剤として上記シアントナーと混合された引用発明の磁 結果は,請求項 1 に記載されたとおり,測定条件を次のと

おりとした上で,測定 10 秒後の測定値の測定の 120 秒後 の測定値に対する割合を 60%以上とするものである。  「(帯電量の評価)

 帯電量は,磁性キャリア 95 重量部と下記の方法により 製造したトナー 5 重量部を十分に混合し,24℃,60% RH 環境に 24 時間以上放置し調湿した試料を準備して,ブロー オフ帯電量測定装置を用いて測定した値である。

トナーの製造例

 ポリエステル樹脂 100 重量部  銅フタロシアニン系着色剤 5 重量部

  帯電制御剤(ジ -tert- ブチルサリチル酸亜鉛化合物)3 重 量部

 ワックス 9 重量部

 上記材料を溶融・混練し,粉砕,分級して得た重量平均 粒径 7.4 μ m の負帯電性青色粉体 100 質量部と疎水性シリ カ 1 重量部を混合して負帯電性シアントナーとして用い る。」

 そして,本願明細書(甲 5,8,11)の記載を参酌しても, 上記帯電量の測定結果(60%以上)が,上記磁性キャリア とトナーの混合比率(95 重量部:5 重量部)や調湿の条件 (24℃,60% RH 環境に 24 時間以上放置)に依存しないこ とや,トナーとして上記負帯電性シアントナー以外のト ナーを用いて測定した場合であっても達成できることの記 載はなく,また,この点を裏付ける技術常識があるとも認 められない。

 以上からすると,本願補正発明における磁性キャリアの 帯電量の測定条件は,その請求項 1 に記載されたとおりの ものに限られると認められる(したがって,本願補正発明 の磁性キャリアは,帯電量の測定用に任意のカラー用ト ナーを用い得るものではなく,その測定は,請求項 1 に特 定されたトナー等の条件で行うものと解される。)。

(2)引用発明の帯電量の測定について

(6)

少なくとも 1 週間は分離状態を維持でき,その金属不純物 レベルを約 1 × 1018原子/㎤未満のレベルにまで低減させ ており,

 前記塗布器液体は約 500nm 以上の粒子径を有した粒子 を含有していないことを特徴とする塗布器液体。」

【引用発明(特開2002-255528号公報(甲1。以下「引用例1」 という。))】

 「溶媒(比誘電率 46.68のジメチルスルホキシドまたは比 誘電率 39.1 のγ- ブチロラクトン)と複数のカーボンナノ チューブとを含んだ『精製された分散液IまたはK』であって,  該『精製された分散液 I または K』は,ポリマーも界面活 性剤も含んでおらず,複数の該カーボンナノチューブは互 いに分離されており,沈降あるいは凝集することなく,『精 製された分散液 I または K』中に分散されて,分離状態を 維持でき,アーク放電法により作製されたカーボンナノ チューブの不純物が除去されている,『精製された分散液

I または K』。」

【一致点】

 「溶媒と複数のナノチューブとを含んだ塗布器液体で あって,

 該塗布器液体は,ポリマーも界面活性剤も含んでおらず,  複数の該ナノチューブは互いに分離されており,沈降あ るいは凝集することなく,前記塗布器液体中に分散されて,  長い時間分離状態を維持でき,

 ナノチューブの不純物が除去されている,塗布器液体。」 である点。

【相違点1】

 本願発明では,「少なくとも 1 週間は分離状態を維持で き」るのに対して,引用発明では,『精製されていない分 散液 I または K』の時間 t0(1000 分以上)よりも長い時間 分離状態を維持できるものの,上記の特定がなされていな い点。

【相違点2】

 本願発明では,「その金属不純物レベルを約 1 × 1018 子/㎤未満のレベルにまで低減させており,塗布器液体は 約 500nm 以上の粒子径を有した粒子を含有していない」の に対して,引用発明では,カーボンナノチューブの不純物 が除去されているものの,上記の特定がなされていない点。

【相違点3】

 本願発明では,「ナノチューブの濃度が 10mg / L 以上で あ」るのに対して,引用発明では,カーボンナノチューブ を含んでいるものの,上記の特定がなされていない点。 性キャリアについて,測定条件を本願補正発明としてその

帯電量を求めると,10 秒後の測定値の 120 病後の測定値 に対する割合が 60%以上であるとする(前記第 2 の 3(1) エ④の審決の判断)。

 しかしながら,上記シアントナーは,本願補正発明の規 定する方法により製造されたものか否か不明であるから, 上記(1)からすると,本件周知事項の当否に関わりなく, 上記の引用発明の磁性キャリアについて,本願補正発明の 測定条件に基づいて帯電量を測定しても,10 秒後の測定 値の 120 秒後の測定値に対する割合が 60%以上であると 認定することはできない。したがって,審決の上記判断④ も,誤りである。

 原告の取消事由 2-1 に係る主張は,上記の趣旨を含むも のと解されるから,その主張には理由がある。

所 感

 本事例では,特許請求の範囲の記載に,帯電量の評価に 関して実施例レベルでの記述に加え,「トナーの製造例」 なる記載もあることから,審決は,トナーは任意のもので 良いと考えたのに対し,判決は,明細書に裏付けられた具 体的なトナーに限定して判断するというように,発明の要 旨の捉え方の違いが結論を左右した。

 このような特許請求の範囲の記載を許容したまま進歩性 等を判断することが適切であるかという問題はあるが,実 務上多少の記載不備があっても請求人等の意思を忖度して 進歩性等の審理を行うことは良くみられることであるの で,審理の進め方自体に誤りがあったとはいえない。  判決のように特許請求の範囲に記載されたトナーに限定 される発明を前提とすれば,帯電量の評価結果がどのよう になるかは引用例や周知技術及び技術常識から予測する ことが困難であり,判決の結論も妥当であるということに なる。

 特許請求の範囲に例示的であるか限定的なものであるか 判然としない記載がある場合には,本来記載不備の拒絶理 由を通知すべきであろうが,新規性,進歩性等の判断をす るのであれば,その基本的な考え方は,特許請求の範囲に 記載された事項が発明の要旨を構成するものとして記載さ れたと捉えるべきということになろう。

事例②

審決概要 【本願発明】

 「溶媒と複数のナノチューブとを含んだ塗布器液体で あって,

(7)

液の観察を 1000 分まで行った結果,少なくとも 1000 分は 液中に凝集体が浮遊し始めることがなかったことを意味す るものであることは,当業者にとって明らかである。  しかるに,引用例 1 には,上記の精製前の分散液 I 及び K を精製したもの,すなわち,「精製された分散液 I また は K」については,t0 の測定結果が示されておらず,これ が具体的にどの程度であるのかについて何ら記載がない。 また,分散液を精製してカーボンナノチューブに含まれる 不純物を除去することにより,精製前の分散液と同等又は それ以上の分散性が得られることが,本願優先権主張日前 に知られていたと認めるに足りる証拠はないから,精製前 の分散液I及びKのt0が1000分以上であったとしても,「精 製された分散液 I または K」の t0 も 1000 分以上であるとい うことはできない。

 さらに,「精製された分散液 I または K」の t0 が少なくと も 1000 分であると仮定したとしても,その t0 が,その 10 倍を超える時間である少なくとも 1 週間であるかどうか, すなわち,分散液中のカーボンナノチューブが,「少なく とも 1 週間は分離状態を維持でき」るかどうかについて, 引用例 1 には何ら記載や示唆がない。

(2)……引用例 2 には,酸化黒鉛の薄膜状粒子を,メタノー ル,エタノール,アセトンなどの高極性の液体に分散させ, この分散液を静置して,薄膜状粒子を沈降させ,互いに結 合させることで,自発的に集合体を形成させること(【請 求 項 1】,【 請 求 項 2】,【0006】な い し【0008】,【0011】), 薄膜状粒子の分散液を静置する期間は,沈降が速すぎると, 複数の粒子が沈降するまでに互いに接触するなどの影響 で,きれいな積層が困難となり,乱れ気味の集合体となる ため,重力のみで沈降させるなら 10 日以上,望ましくは 30 日以上とすること(【0012】)が記載されている。  そうすると,引用例 2 には,薄膜状粒子を分散させた分 散液を静置し,薄膜状粒子を重力のみで沈降させて集合体 を形成する場合には,きれいな積層とするために,薄膜状 粒子を 10 日以上(望ましくは 30 日以上)かけてゆっくり と沈降させることが記載されているにすぎず,複数の薄膜 状粒子が互いに分離されており,沈降あるいは凝集するこ となく,分散液中に分散されて,少なくとも 10 日(又は 30 日)は分離状態を維持できることが記載されているわ けではない。すなわち,引用例 2 に記載されているのは, 薄膜状粒子を所定の時間をかけてゆっくりと沈降させると いうことだけであり,その所定の時間が経過する前であっ ても,薄膜状粒子の一部が,既に沈降したり,凝集したり していることは,当業者であれば容易に理解することがで きるというべきである。

 そして,薄膜状粒子を分散させた分散液を静置して,薄 膜状粒子を所定の時間かけて沈降させるということと,複 数の薄膜状粒子が互いに分離されており,沈降あるいは凝 集することなく,分散液中に分散されて,所定の時間は分

【判断】

1. 一般に,電気(電子)用途のカーボンナノチューブを溶 媒に加えることにおいて,1 カ月経過後にも良好な分散状 態を維持することは,本願優先権主張日前に普通に行われ ている事項(例えば,特開 2004-162203 号公報(甲 4)参照) であり,そして,引用例 1 記載の発明と上記普通に行われ ている事項とは,電気(電子)用途のカーボンナノチュー ブを溶媒に加えるという点で共通している。

2. 引用例 1 には,溶媒は,エタノール,アセトンの比誘電 率よりも高い比誘電率(分散能)をもつジメチルスルホキ シドまたはγ - ブチロラクトンであり,……『精製されて いない分散液 I または K』の時間 t0(1000 分以上)よりも 長い時間分離状態を維持できること……が示されており, 一方,引用例 2 記載の発明は,「分散媒(溶媒)は,エタノー ルまたはアセトンであり,……液を静置したとき,10 日 以上沈降しない,薄膜状粒子の積層集合体。」であり, ……引用例 2 には,ジメチルスルホキシド,γ - ブチロラ クトンの比誘電率よりも低い比誘電率(分散能)をもつエ タノール,アセトンを用いたときの「分離状態を維持でき る時間」が「10 日以上である」との事項が示されていると いうことができる。

 そうすると,引用例 1 記載の発明において,ジメチルス ルホキシドまたはγ - ブチロラクトンを用いたときの「時 間 t0(1000 分以上)よりも長い時間」について,上記普通 に行われている事項 1.,及び,引用例 2 記載の発明の事項 2. からして,1 週間もしくは 1 週間よりも長くなっている とみることができる。

 したがって,引用例 1 には,相違点 1 に係る本願発明の 発明特定事項が記載されているということができ,相違点 1 は,実質的な相違ではない。

判示事項

2 相違点1についての検討

(1)……引用例 1 の【発明の実施の形態】には,アーク放 電法で作製した単層カーボンナノチューブを各種有機溶剤 に混合し,所定の周波数の超音波を照射して,分散液 I(有 機溶剤がジメチルスルホキシドであるもの)及び K(有機 溶剤がγ - ブチロラクトンであるもの)を含む精製前の分 散液を作製したこと(【0048】,【0049】),これらの分散液 について,分散の良さの度合(分散性)を評価するために, 超音波照射終了後から液中に凝集体が浮遊し始めるまでの 時間 t0(分)を調べたところ,分散液 I 及び K については, いずれも 1000 分以上であったこと(【0048】,【0049】),分 散液 I 及び K を精製し,導電性電極上に塗布してカーボン ナノチューブを主成分とする微粒子皮膜を形成したこと (【0065】,【0066】,【0075】,【0077】,【0084】)が記載され

ている。

(8)

されるから,このような引用例 2 を参照しても,引用発明 における複数のカーボンナノチューブが,「少なくとも 1 週間は分離状態を維持でき」ると結論付けることはできな い。このことは,引用例 2 において使用される有機溶媒(メ タノール,エタノール,アセトン等)の比誘電率が,引用 発明において使用される有機溶媒(ジメチルスルホキシド, γ - ブチロラクトン)の比誘電率よりも低い(引用例 1 の表

1)ために,使用される有機溶媒の点からは,引用例 2 の ほうが分散性が劣る(引用例 1【0053】)としても,変わる ものではない。

(4)……甲 4 文献には,ラジカル分解したポリマーがカー ボンナノ繊維に結合してなる変性カーボンナノ繊維の発明 が記載され,このような変性カーボンナノ繊維は,種々の 溶媒中において,良好な分散性を安定して維持できること, 当該変性カーボンナノ繊維をトルエン中に分散させたとこ ろ,1 か月経過後にも良好な分散状態を保持していたこと が記載されている。

 しかし,上記の変性カーボンナノ繊維は,ポリマーを利 用することにより良好な分散性を維持するものであり,ポ リマーも界面活性剤も含まない引用発明とは異なるもので ある。よって,このような甲 4 文献を参照しても,引用発 明における複数のカーボンナノチューブが,「少なくとも 1 週間は分離状態を維持でき」るということはできない。

(5)以上に加え,引用発明における分散液中のカーボンナ ノチューブが,「少なくとも 1 週間は分離状態を維持でき」 ると認めるに足りる証拠は他に見当たらないことに照らす と,引用発明における分散液中のカーボンナノチューブが, 「少なくとも 1 週間は分離状態を維持でき」るかどうかは,

明らかではないといわざるを得ない。

 そうすると,本願発明と引用発明との間の相違点 1 につ いて,実質的には相違はないということはできないから, これを実質的な相違点ではないとした審決の判断は,誤り である。

3 被告の主張について

(1)被告は,炭素微粒子の形状に起因する凝集のしやすさ の問題やその密度の低さによる成膜性の問題についての引 用例 1 の記載に照らせば,精製後の塗布液にも精製前の分 散液と同レベルの特性が得られていることが前提であると 主張する。

しかしながら,被告の指摘する引用例 1 の記載からは, 精製後の塗布液に一定程度の分散性が必要であることが理 解されるにとどまり,これによって,精製後の塗布液の分 散性と精製前の塗布液の分散性との関係は明らかではな い。よって,精製後の塗布液にも精製前の塗布液と同程度 の分散性があることが裏付けられるとはいえない。

(2)被告は,当業者がt0が1000分以上との記載に接すれば, 分散液を各種用途に使用可能な程度に分散が継続すると理 離状態を維持できるということとは,異なる概念である。

したがって,両者を同一視することはできない。

 以上のとおり,引用例 2 の記載は,複数の薄膜状粒子が 互いに分離されており,沈降あるいは凝集することなく, 分散液中に分散されて,少なくとも 10 日(又は 30 日)は 分離状態を維持できることを示すものとはいえない。した がって,このような引用例 2 の記載をもって,引用発明に おける分散液中のカーボンナノチューブが,「少なくとも 1 週間は分離状態を維持でき」るということはできない。

(3)また,仮に,引用例 2 の記載をもって,複数の薄膜状 粒子が互いに分離されており,沈降あるいは凝集するこ となく,分散液中に分散されて,少なくとも 10 日(又は 30 日)は分離状態を維持できることを示すものと解する ことができたとしても,それによって,引用発明におけ る分散液中のカーボンナノチューブが,「少なくとも 1 週 間は分離状態を維持でき」ると理解することができるもの ではない。

 すなわち,引用例 1 には,カーボンナノチューブ等の炭 素微粒子は,一方向に長い擬一次元形状をしているために, 互いに絡み易く,凝集し易いため,このような炭素微粒子 を溶媒に分散して懸濁液を作製する場合,一般的に使用さ れている有機溶媒を使用しても,炭素微粒子を十分に分散 できないこと(【0003】,【0005】,【0006】),カーボンナノ チューブ等の擬一次元形状を有する炭素微粒子を分散する 溶剤については,比誘電率の大きい溶液ほど分散に優れる が,プロトン性溶媒よりも双極子モーメントの大きい双極 性非プロトン溶剤(アセトン,ジメチルスルホキシド,γ - ブチロラクトン等)の使用が好ましいこと(【0053】),一 方,フラーレンやポリナノヘドロン等のほぼ球状の等方的 形状を有する炭素微粒子は,互いに絡み難く,凝集しにく いため,プロトン性溶媒,非プロトン性溶媒に関わりなく, 溶 剤 の 比 誘 電 率 が 大 き け れ ば 均 一 に 分 散 で き る こ と (【0056】)が記載されている。

 以上の引用例 1 の記載によれば,有機溶媒に微粒子を分 散させる場合,微粒子の形状により,その分散性が異なり, カーボンナノチューブ等の擬一次元形状を有するものは, 互いに絡み易く,凝集し易いため,ほぼ球状の等方的形状 を有するものよりも,分散性が劣ることは,技術常識であ るということができる。

(9)

る工程と,

 溝と第 1 音叉腕と第 2 音叉腕の側面に電極が配置され, 溝の側面に配置された電極とその電極に対抗する音叉腕の 側面の電極とが互いに異極である 2 電極端子を構成し,か つ,第 1 音叉腕と第 2 音叉腕が逆相で振動するように溝と 電極を形成する工程と,

 音叉形屈曲水晶振動子の発振周波数を調整する工程と,  音叉形屈曲水晶振動子を表面実装型,又は円筒型のユ ニットに収納する工程と,を少なくとも有し,

 第 1 音叉腕と第 2 音叉腕が逆相で振動するように,前記 2 電極端子の内,1 電極端子は第 1 音叉腕の上下面の少な くとも一面に形成された溝に配置された電極と第 2 音叉腕 の両側面に配置された電極から構成され,且つ,上下面の 少なくとも一面に形成された溝に配置された前記電極と両 側面に配置された前記電極とが接続され,他の 1 電極端子 は第 1 音叉腕の両側面に配置された電極と第 2 音叉腕の上 下面の少なくとも一面に形成された溝に配置された電極か ら構成され,且つ,両側面に配置された前記電極と上下面 の少なくとも一面に形成された溝に配置された前記電極と が接続されていて,

 前記水晶発振器は前記音叉形屈曲水晶振動子の基本波 モード振動の容量比 r1が 2 次高調波モード振動の容量比 r2 より小さく,かつ,基本波モード振動のフイガーオブメリッ ト M1が高調波モード振動のフイガーオブメリット Mn より 大きい音叉形屈曲水晶振動子を具えて構成されていて,  前記音叉形屈曲水晶振動子が水晶ウエハ内に形成され, 前記音叉形屈曲水晶振動子の基本波モード振動の基準周波 数が 32.768kHz で,前記音叉形屈曲水晶振動子の発振周波 数 が 前 記 基 準 周 波 数 に 対 し て, − 9000PPM 〜 + 5000PPM の範囲内にあるように水晶ウエハ内で周波数が 調整されることを特徴とする水晶発振器の製造方法。」

【本件訂正発明】

 「水晶振動子と増幅器とコンデンサーと抵抗素子とを具 えて構成される水晶発振回路を具えた水晶発振器の製造方 法で,

 前記水晶振動子は,少なくとも第 1 音叉腕と第 2 音叉腕 と音叉基部とを具えて構成される音叉形屈曲水晶振動子 で,第 1 音叉腕と第 2 音叉腕は上面と下面と側面とを有し,  第 1 音叉腕の上下面の少なくとも一面に,中立線を残し てその両側に,前記中立線を含めた部分幅が 0.05mm より 小さく,各々の溝の幅が 0.04mm より小さくなるように溝 を形成する工程と,第 2 音叉腕の上下面の少なくとも一面 に,中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分 幅が 0.05mm より小さく,各々の溝の幅が 0.04mm より小 さくなるように溝を形成する工程と,

 溝と第 1 音叉腕と第 2 音叉腕の側面に電極が配置され, 溝の側面に配置された電極とその電極に対抗する音叉腕の 解するのは当然であり,本願発明において,1 週間という

下限には,より好ましい範囲としての意味以上の技術的意 義はない,として,審決による,本願発明と引用発明とが 「塗布器液体中に分散されて,長い時間分離状態を維持で き」るという点で共通するとの認定や相違点 1 が実質的な 相違ではないとの判断に,誤りはないと主張する。  しかしながら,これらの被告の主張を踏まえても,引用 例 1 における「1000 分以上」という記載から,引用発明に おける分散液中のカーボンナノチューブが「少なくとも 1 週間は分離状態を維持でき」ると結論付けることを相当と すべき事情があるということはできない。

(3)よって,被告の上記主張はいずれも採用することがで きない。

所 感

 審決は,引用例 1 に,「精製前のカーボンナノチューブ(炭 素微粒子)分散液の分散時間t0が1000分以上である」こと, 及び,引用例 2,甲 4 文献には,「炭素微粒子分散液の分散 時間が長時間である(炭素微粒子の分散状態を長時間にし た使用形態が既に存在する)」ことの記載があったことか ら,「ジメチルスルホキシドまたはγ - ブチロラクトンを 用いたときの『時間 t0(1000 分以上)よりも長い時間』に ついて……1 週間もしくは 1 週間よりも長くなっていると みることができる」と判断して,相違点 1 は実質的な相違 点ではないと判断した。この判断には,「精製前」よりも「精 製後」の方が「分散時間が長くなる」ことは自明の事項で あるとの認識が影響しているようであり,その点について 根拠を明確に説明する必要があったと思われる。

 それをおくとしても,引用例 2 は,薄膜状粒子の分散液 中の状態が引用例1のそれとは異なること,さらに,甲4は, 変性カーボンナノ繊維がポリマーを利用することにより 良好な分散性を維持するものであることなど,引用例等 として適切であったかは疑問である。本願発明,引用例 1 も含め,分散液中の粒子の分散状態や課題を精緻に分析 した上で適切な証拠を提示することが必要であったと思 われる。

事例③

審決概要 【本件発明】

 「水晶振動子と増幅器とコンデンサーと抵抗素子とを具 えて構成される水晶発振回路を具えた水晶発振器の製造方 法で,

(10)

0.05mm より小さくなるように構成される。又,各々の溝 の幅は 0.04mm より小さくなるように構成され,溝の厚み t1 と音叉腕の厚み t の比は 0.79 以下に成るように構成され る。このような構成により,M1を Mn より大きくする事が できる。」なる事項,及び,

 同段落【0043】には,「更に,第 1 実施例〜第 4 実施例の 水晶発振器に用いられる音叉形状の屈曲水晶振動子の基本 波モード振動での容量比 r1は 2 次高調波モード振動の容量 比r2より小さくなるように構成されている。このような構 成により,同じ負荷容量 CL の変化に対して,基本波モー ドで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化が 2 次高調波 モードで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化より大きく なる。即ち,基本波モード振動の方が 2 次高調波モード振 動より周波数の可変範囲を広くとることができる。」なる 事項が記載されている。

 段落【0041】に記載された,中立線を残して,その両側 に溝を形成し,音叉腕の中立線を含めた部分幅 W7 は 0.05mm より小さく,又,各々の溝の幅は 0.04mm より小 さくなるように構成する態様,及び,段落【0043】に記載 された,水晶発振器に用いられる音叉形状の屈曲水晶振動 子の基本波モード振動での容量比 r1を 2 次高調波モード振 動の容量比 r2より小さくなるように構成する態様は,それ ぞれが独立した態様であって,両方の構成を有する態様に ついては直接的には記載されていない。

 しかしながら,段落【0041】に記載された態様には,「M1 を Mn より大きくする事ができる」という作用効果,段落 【0043】に記載された態様には,「同じ負荷容量 CL の変化 に対して,基本波モードで振動する屈曲水晶振動子の周波 数変化が 2 次高調波モードで振動する屈曲水晶振動子の周 波数変化より大きくなる。即ち,基本波モード振動の方が 2 次高調波モード振動より周波数の可変範囲を広くとるこ とができる」という作用効果があり,両方の作用効果を期 待するならば,両方の構成を有するような態様とすること は当業者であれば自然であり,当業者が本件特許明細書を みれば,それぞれの構成を有する態様のみならず,両方の 構成を有する態様についても,実質的に記載されていると 解釈するというべきである。

 してみると,上記訂正は,新たな技術的意義を追加する ことはなく,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範 囲又は図面に記載した範囲内においてしたものであり,実 質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない といえる。

 なお,請求人は,当初明細書には,「中立線を残してそ の両側に,前記中立線を含めた部分幅が 0.05mm より小さ く,各々の溝の幅が 0.04mm より小さくなるように溝」を 設けた場合における,基本波モード振動と 2 次高調波モー ド振動の容量比の関係については一切記載されていない ため,新規事項の追加に該当し,実質上特許請求の範囲を 側面の電極とが互いに異極である 2 電極端子を構成し,か

つ,第 1 音叉腕と第 2 音叉腕が逆相で振動するように溝と 電極を形成する工程と,

 音叉形屈曲水晶振動子の発振周波数を調整する工程と,  音叉形屈曲水晶振動子を表面実装型,又は円筒型のユ ニットに収納する工程と,を少なくとも有し,

……(中略)……構成されていて,

 前記音叉形屈曲水晶振動子が水晶ウエハ内に形成され, 前記音叉形屈曲水晶振動子の基本波モード振動の基準周波 数が32.768kHzで,前記音叉形屈曲水晶振動子の発振周波 数が前記基準周波数に対して,−9000PPM〜+5000PPM の範囲内にあるように水晶ウエハ内で周波数が調整される ことを特徴とする水晶発振器の製造方法。」

【訂正事項】

ア 訂正事項1

 本件特許発明の「第 1 音叉腕の上下面の少なくとも一面 に溝を形成する工程」を,「第 1 音叉腕の上下面の少なくと も一面に,中立線を残してその両側に,前記中立線を含め た部分幅が 0.05mm より小さく,各々の溝の幅が 0.04mm より小さくなるように溝を形成する工程」と訂正するもの。

イ 訂正事項2

 本件特許発明の「第 2 音叉腕の上下面の少なくとも一面 に溝を形成する工程」を,「第 2 音叉腕の上下面の少なくと も一面に,中立線を残してその両側に,前記中立線を含め た部分幅が 0.05mm より小さく,各々の溝の幅が 0.04mm より小さくなるように溝を形成する工程」と訂正するもの。

ウ 訂正事項3

 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除するもの。

【判断】

【訂正事項1及び2について】

 訂正事項 1 の訂正は,訂正前の発明の特定事項である「第 1 音叉腕の上下面の少なくとも一面に溝を形成する」につ いて,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた 部分幅が 0.05mm より小さく,各々の溝の幅が 0.04mm よ り小さくなるように」という限定を加え,訂正事項 2 の訂 正は,訂正前の発明の特定事項である「第 2 音叉腕の上下 面の少なくとも一面に溝を形成する」について,「中立線 を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mm より小さく,各々の溝の幅が 0.04mm より小さくなるよう に」という限定を加えるものであり,特許請求の範囲の減 縮を目的としたものであることは明らかである。

 そして,本件特許明細書の段落【0041】には,

(11)

調波モード振動のフイガーオブメリット Mn より大きい」 という事項(以下「本件追加事項」という。)を追加するこ とになる。

(2)本件訂正の適否の判断方法について

 特許法 134 条の 2 第 1 項ただし書は,特許無効審判の被 請求人による訂正請求は,①特許請求の範囲の減縮,②誤 記又は誤訳の訂正,③明瞭でない記載の釈明,④他の請求 項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載 を引用しないものとすること,を目的とするものに限ると 規定している。そして,同法 134 条の 2 第 9 項において準 用する同法 126 条 5 項は,「第 1 項の明細書,特許請求の範 囲又は図面の訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の 範囲又は図面……に記載した事項の範囲内においてしなけ ればならない。」と規定している。ここでいう「願書に添付 した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項」と は,当業者によって,「願書に添付した明細書,特許請求 の範囲又は図面」の全ての記載を総合することにより導か れる技術的事項であり,訂正が,このようにして導かれる 技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入し ないものであるときは,当該訂正は,「願書に添付した明 細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内に おいて」するものということができる。

 そこで,以下,本件追加事項の追加が,本件特許の出願 に係る「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面」 (以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範

囲内においてしたものといえるか否か,すなわち,本件特 許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技 術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しな いものであるか否かを検討する。

(3)本件特許明細書の記載について

 本件特許明細書(甲 47)の発明の詳細な説明には,以下 の記載がある。

……  「【0041】

 更に,本実施例では,溝が中立線を挟む(含む)ように 音叉腕に設けられているが,本発明はこれに限定されるも のでなく,中立線を残して,その両側に溝を形成しても良 い。この場合,音叉腕の中立線を含めた部分幅W7は0.05mm より小さくなるように構成される。又,各々の溝の幅は 0.04mm より小さくなるように構成され,溝の厚み t1 と音 叉腕の厚み t の比は 0.79 以下に成るように構成される。こ のような構成により,M1を Mn より大きくする事ができ る。」

 「【0043】

 更に,第 1 実施例〜第 4 実施例の水晶発振器に用いられ る音叉形状の屈曲水晶振動子の基本波モード振動での容量 変更するものであると主張しているが,上記したように,

「M1を Mn より大きくする事ができる」という作用効果, 及び,「同じ負荷容量 CL の変化に対して,基本波モード で振動する屈曲水晶振動子の周波数変化が 2 次高調波モー ドで振動する屈曲水晶振動子の周波数変化より大きくな る。即ち,基本波モード振動の方が 2 次高調波モード振動 より周波数の可変範囲を広くとることができる」という作 用効果の両方の作用効果を期待するならば,両方の構成を 有するような態様とすることは当業者であれば自然であ り,当業者が本件特許明細書をみれば,それぞれの構成を 有する態様のみならず,両方の構成を有する態様について も,実質的に記載されていると解釈するというべきである から,上記訂正は,新たな技術的意義を追加することはな く,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図 面に記載した範囲内においてしたものであり,実質上特許 請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないといえ, 請求人の主張は失当である。本件訂正は,特許請求の範囲 の減縮を目的とするものと認められ,本件特許明細書に記 載された事項の範囲内でするものであり,また,実質上特 許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないから, 特許法 134 条の 2 第 1 項ただし書,及び同条 9 項において 準用する同法 126 条 5 項及び 6 項の規定に適合するもので ある,②……

判示事項

 原告は,本件訂正の適法性に係る審決の判断は,その判 断手法自体誤りであり,訂正事項 1 及び 2 の追加は,新規 事項の追加に当たると主張する(前記第 3 の 1)ので,以下, 検討する。

(1)本件訂正の内容について

 訂正事項 1 及び 2 は,本件特許発明における第 1 音叉腕 及び第 2 音叉腕に溝を形成する工程について,それぞれ, 「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅

(12)

その判断に誤りはないと主張する。

 審決は,【0041】と【0043】に記載する構成の態様が,そ れぞれ独立したものであり,両方の構成を有する態様につ いては直接的には記載されていないとしながら,両方の作 用効果を期待するならば,両方の構成を有するような態様 とすることは当業者であれば自然であり,当業者が本件特 許明細書をみれば,それぞれの構成を有する態様のみなら ず,両方の構成を有する態様についても,実質的に記載さ れていると解釈すると判断している(審決書 19 ないし 20 頁)。

 審決の上記判断は,要は,【0041】と【0043】の記載に 接すれば,【0041】に記載されている構成と,【0043】に記 載されている構成の,両方の構成を有する態様については 明示的な記載がなくても,当業者であれば,両方の構成を 有する態様に想到するから,両方の構成を有する態様であ る本件追加事項は本件特許明細書に記載されているに等し いというものである。

 しかし,仮に,本件特許明細書の記載内容を手掛かりと して,当業者が本件追加事項に想到することが可能である としても,そのことと,本件特許明細書等の全ての記載を 総合することにより導かれる技術的事項との関係におい て,本件追加事項が新たな技術的事項を導入しないもので あるかどうかとは,別の問題である。そして,前記(4)の とおり,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含め た部分幅が 0.05mm より小さく,各々の溝の幅が 0.04mm より小さくなるように溝が形成された場合において,基本 波モード振動の容量比 r1が 2 次高調波モード振動の容量比 r2より小さく,かつ,基本波モードのフイガーオブメリッ ト M1が高調波モード振動のフイガーオブメリット Mn より 大きい」という事項については,本件特許明細書等に記載 があるとは認められず,また,審決の上記説明振りに照ら してみても,本件追加事項が自明な事項とはいえず,本件 特許明細書等の記載の範囲を超えるものであることは明ら かというべきである。

被告は,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含 めた部分幅が 0.05mm より小さく,各々の溝の幅が 0.04mm より小さくなるような溝」を設けた場合において,基本波 モード振動の容量比 r1と 2 次高調波モード振動の容量比 r2 の関係が,r1< r2となることは,本件特許明細書に記載さ れているに等しいと主張し,その根拠として,甲第 46 号 証を挙げ,音叉型屈曲水晶振動子においては,一般的に, 基本波モード振動の品質係数 Q1が 2 次高調波モード振動 の品質係数 Q2よりも小さいことは,当業者によく知られ ていると主張する。

 しかし,甲第 46 号証(本件訂正発明の発明者作成の陳 述書)は,本件特許明細書に記載された一例について,Q1 < Q2の関係が得られることを示しているものの,同号証 の記述によって,音叉型屈曲水晶振動子において,一般的 比 r1は 2 次高調波モード振動の容量比 r2より小さくなるよ

うに構成されている。このような構成により,同じ負荷容 量 CL の変化に対して,基本波モードで振動する屈曲水晶 振動子の周波数変化が 2 次高調波モードで振動する屈曲水 晶振動子の周波数変化より大きくなる。……」

(4)本件訂正の適否について

 前記(3)で認定したとおり,本件特許明細書には,【0041】 に,中立線を残して,その両側に溝を形成し,音叉腕の中 立線を含めた部分幅 W7 は 0.05mm より小さく,また,各々 の溝の幅は 0.04mm より小さくなるように構成する態様, 及び,このような構成により,M1を Mn より大きくするこ とができることが記載されている。また,【0043】には, 溝が中立線を挟む(含む)ように音叉腕に設けられている 第 1 実施例〜第 4 実施例の水晶発振器に用いられる音叉形 状の屈曲水晶振動子の基本波モード振動での容量比 r1が 2 次高調波モード振動の容量比r2より小さくなるように構成 されていること,及び,このような構成により,同じ負荷 容量 CL の変化に対して,基本波モードで振動する屈曲水 晶振動子の周波数変化が 2 次高調波モードで振動する屈曲 水晶振動子の周波数変化より大きくなることが記載されて いる。

 しかし,上記【0041】と【0043】の各記載に係る構成の 態様は,それぞれ独立したものであるから,そこに記載さ れているのは,各々独立した技術的事項であって,これら の記載を併せて,本件追加事項,すなわち,「中立線を残 してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が 0.05mm よ り小さく,各々の溝の幅が 0.04mm より小さくなるように 溝が形成された場合において,基本波モード振動の容量比 r1が 2 次高調波モード振動の容量比 r2より小さく,かつ, 基本波モードのフイガーオブメリット M1が高調波モード 振動のフイガーオブメリット Mn より大きい」という事項 が記載されているということはできない。また,その他, 本件特許明細書等の全てにおいても,本件追加事項につい て記載はないし,本件追加事項が自明の技術的事項である ということもできない。

 そうすると,本件追加事項の追加は,本件特許明細書等 の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項と の関係において,新たな技術的事項を導入するものという べきである。

 したがって,訂正事項 1 及び 2 の追加は,新規事項の追 加に当たり,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又 は図面に記載した事項の範囲内において」するものという ことはできない。

(5)被告の主張について

参照

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