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大学院 計量経済分析 Masumi Kawade Site 10panel

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(1)

10 クロスセクション分析からパネル分析へ

10.1 クロスセクション分析

分析対象を一時点で固定して、複数種類のデータを分析することをクロスセク ション分析といいます。それに加え、複数種類のデータでは不足な場合、時間要 素も加味して標本数を増やす必要があります。それはプールデータ(pooled data) と呼び、これをクロスセクション分析の枠組みで分析することになります。

10.1.1 モデルの構造

クロスセクション分析ではデータの種類を問わず、一つの枠組みの中で推定を することになります。プールデータによる分析もここで含まれますので、そこま で包含する形で、M 種類の観測対象が T 期間のデータを持っているとして、表現 することにしましょう。したがって、M· T 個のデータがあることになります。時 間的なデータをまとめてモデルを定式化すれば、

 y1

y2

... yM

=

 X1

X2

... XM

 β+

 ǫ1

ǫ2

... ǫM

(10.1)

となります。この時、一般的な誤差項の共分散行列は

V = E[ǫǫ] =

σ1111 σ1212 · · · σ1M1M

σ2121 . .. ... ... . .. ... σM 1M 1 · · · σM MM M

(10.2)

となります。なお、対角要素は観測対象m の誤差項の共分散行列です。この分析 でも、考察の主たる対象となるのは誤差項の共分散行列V をいかに扱うかになり ます。ただし、新しい枠組みを提示するというよりは、これまで学んできた検定 統計量により検出を行い、推定量で対応することになります。

仮説検定では、誤差項に関する2 つの仮説を評価するため、尤度比検定か特定 の誤差項に関する仮説検定を用いればよいことになります。推定も、FGLS や最尤 法、モーメント法などがそれらの誤差項に対する対応が可能ですからそれを用い ればよいでしょう。なお、パネル分析では一致性を時間的データの蓄積ではなく、 標本の観測対象数M の増加によって達成しようとします。

(2)

10.2 パネル分析

個々の標本が十二分にあれば、個別の最小二乗推定をすればいいのでしょう。そ の一方で、標本が少ない場合の対処として、プールデータによるクロスセクショ ン分析を述べました。しかしこれはデータをまとめて分析するだけで、かなり大 まかな分析である可能性は否めません。そこで、それらを解決するのがパネル分 析になります。

10.2.1 固定効果と変量効果の概念

プールデータによるクロスセクション分析とパネル分析がどのように違うかか ら考え始めてみましょう。プールデータによるクロスセクション分析は全てのデー タをあたかも一つの観測対象として分析を進めることになります。しかし、この ような分析方法はデータの個別性を無視しており、それを無視したことによるバ イアスが考えられます。個別の性質を明示的に出す必要はなくとも、そこから生 まれるバイアスだけは排除すべきだと考えられます。パネル分析は個別の性質を 考慮に入れて、それを通じた推定量の補正を行おうというものです。ただし、個 別に推定する場合に比べて、標本が少なくとも全体の情報を利用しようとして行 うプールデータによるクロスセクション分析の考え方を受け継いでいるので、そ の意味ではプールデータによるクロスセクション分析よりも進化したものだとい うことができるでしょう。

プールデータによるクロスセクション分析とパネル分析の図的関係を示したの が、図1 です。パネル分析を考える際に全体のデータの変動を 2 つに分けることを 考えます。それはグループ内変動とグループ間変動と呼ばれるものです。グルー プ内変動は推定対象m の一つ一つの変動だと考えればよいでしょう。その一方で、 グループ間変動は各グループの平均値の変動になります。後に示すように、プー ルデータの動きはこのグループ内変動とグループ内変動の和で示されることがわ かります。また、図1 からわかるように、プールデータの推定結果はグループ内 変動とグループ内変動の推定結果の傾きの中間に位置することもわかるでしょう。

パネル分析は個別性に関して固定効果と変量効果と呼ばれる2 つの方向のどち らかを選択して、分析することになります。固定効果とは個別性が定数項として、 現れるものとして考察する方法です。個別効果という以上、これが一番素直な方 法だといえます。その一方、変量効果とは個別性が確率的な誤差項として、通常 の誤差項との和で表現可能とする考え方です。こちらの考え方はこちらの考え方 は少し入り組んだ考え方ですが、本質的には後で考えるように便利な考え方とい えます。なぜなら、固定効果はダミー処理を行うことになります。しかし、ダミー 処理はその分の変数の増加を伴い、自由度の減少に直結します。私たちは元々少 ないデータをいかに活用するかを主な目的としてきましたから、これでは本末転 倒になってしまいます。したがって、固定効果は概念的にはわかりやすいですが、

(3)

Pooled

Within(ID:1)

Within(ID:2)

Within(ID:3)

x y

Between

図 1: クロスセクション (プール) とパネルの違い

(統計学用語の意味での) 効率性という意味ではよくない可能性が高いといえます。 そこで、変量効果を考えると、ダミーではなく誤差項とできるので、非常に望ま しいということができます。しかし、そこにも問題があります。それらを知るに は理論的な構造を確認する必要があるでしょう。

10.2.2 固定効果

まず、固定効果を考慮した推定から始めてみましょう。固定効果は個別性をダ ミー変数として定式化するものです。したがって、モデルは

 y1

y2

... yM

=

i O

i . ..

O i

 α1

α2

... αM

 +

 X1

X2

... XM

 β+

 ǫ1

ǫ2

... ǫM

(10.3)

= Dα+ Xβ + ǫ (10.4)

で示されます。M 個のダミー変数があるため、自由度が M 個減ることがわかりま す。なお、このようなモデルを最小二乗ダミー変数モデル(LSDV: Least Squares Dummy Variable) と呼びます。

なお、定数項についてはダミー変数を多く設定することが推定を難しくする可 能性もあります。その場合には、変数の階差を取った推定を行うことになります。

(4)

ただし、実際の推定値が得られないことに注意することと、階差を取った方式で も自由度は変数分(M 個) 減ってしまうことに注意をしてください。

なお、最小二乗推定量は

βˆf = (XX− XDα(DαDα)−1Dα X)−1X(I − Dα(DαDα)−1Dα)y (10.5)

= (X[I − Dα(DαDα)−1Dα]X)−1X(I − Dα(DαDα)−1Dα)y (10.6)

= (XMαX)−1XMαy (10.7) となります。

10.2.3 変量効果

定数項の違いを誤差項と同じく扱う変量効果を見てみましょう。モデルは

 y1

y2

... yM

=

 α α ... α

 +

 X1

X2

... XM

 β+

 ζ1

ζ2

... ζM

 +

 ǫ1

ǫ2

... ǫM

(10.8)

で示されます。ζmは観測対象の個別の情報を含む確率変数で、

Em] = 0 (10.9)

V ar[ζm] = σ2ζ (10.10) Cov[ζm, ǫm,t] = 0 (10.11) Cov[ζm, ζn] = 0, ∀m = n (10.12)

ζm,t = ζm,∀t (10.13)

となります。各観測対象の時間に関する誤差項は系列相関もなく、不均一分散も ないと仮定しましょう。当然、各観測対象の時間に関する誤差項の観測対象間の 相関はありません

1

。したがって、個別効果を含む誤差項を

um,t = ζm+ ǫm,t (10.14)

とすると、

E[um,t] = 0 (10.15)

Cov[um,t, un,s] =













σ2ζ + σ2 = V ar[um,t] m = n, t = s σ2ζ m= n, t = s 0 m= n, t = s 0 m= n, t = s

(10.16)

1

各観測対象の同時点の誤差項が相関を持つような場合には SUR のような定式化になってゆく ことが分かるでしょう。これらの要素の混合は推定を複雑にしてゆきます。

(5)

となります。誤差項の分散に個別効果が含まれるため、不均一分散を前提とした 分析を行うことになります。この時、誤差項は

V = E[uu] =

Ω O

Ω . ..

O Ω

= I ⊗ Ω (10.17)

となります。なお、

Ω =

σ2+ σζ2 σζ2 · · · σζ2 σζ2 σ2+ σζ2 ...

... . .. ... σζ2 · · · σ2+ σζ2

= σ2I+ σζ2ii (10.18)

です。このモデルを推定する場合には、誤差項に特殊な系列相関があると考えた 定式化が必要になります。この時、FGLS を行うことを考慮する場合、V−1/2を求 める必要がありますが、I−1/2であるため、

−1/2 = [σ2I+ σ2ζii]−1/2 (10.19)

= 1

σ[I − kii

] (10.20)

になります。なお、 θ = −kT =

1 − σ T σ2ζ+ σ2

 (10.21)

です

2

。したがって、

V−1/2yt= I ⊗ Ω−1/2yt (10.22) として計算すればよいことがわかります。定数項も説明変数に入れたGLS 推定量は βˆr = (XV−1X)−1XV−1y (10.23)

=

 M



i=1

Xi−1Xi

−1 M



i=1

Xi−1yi



(10.24)

です。書き換えはあくまでも誤差項の行列の特性によるものです。この対応から わかるように、パネル分析でも誤差項の性質に関心を向ければよいとわかります。

2

詳しくは付論を参照。

(6)

なお、時間に関する誤差項の推定には個別効果が時間を通じて一定という性質 を利用すれば、

ym,ty¯m= [xm,tx¯m]β+ [ǫm,t ¯ǫm] (10.25) となります。この推定は固定効果を利用した推定になるので、自由度の修正が必 要になり、

E[(ǫm,t−¯ǫm)m,t−¯ǫm)] = (T − K − 1)σ2 (10.26) なので、これを観測数分あることをふまえて、

ˆ σ2 = 1

M

M



m=1

m,t ¯ǫm)m,t¯ǫm) (10.27)

で計算できることになります。その一方、パネル推定と同じ形式のグループ間推 定を行うと

ǫg = ¯ym− α −x¯mβ (10.28)

= ¯ǫm+ ζm σˆu,g2 = 1 N − K

M



i=1

ˆǫ2g (10.29)

が得られます。この時、 V ar[ǫg] = σ

2

T + σ

2

ζ (10.30)

なので、 ˆ

σζ2 = ˆσ2u,gσˆ

2

T (10.31)

で個別効果の分散を得ることができます。

10.2.4 クロスセクション分析と固定効果および変量効果の関係

固定効果と変量効果を理解するためには、データの変動を理解する必要があり ます。まず、データの変動は分散分析の観点から、

Sxx = Sxxw + Sxxb (10.32) として表すことができます

3

Sxxw はグループ内変動(Within Group) と呼びま す。グループ内変動は個別のデータの変動だけに着目したものになります。これは 後の説明でわかることになります。Sxxb はグループ間変動(Between Group) と 呼びます。観測対象の平均値の変動として表されるものであり、個別性を強く反 映したものだといえるでしょう。

3

この導出は補論を参照。

(7)

クロスセクション分析から固定効果パネル分析へ この意味を理解するために、ク ロスセクション分析のモデル

ym,t = α + xm,tβ+ ǫm,t (10.33) とそれを平均との差の形で変形した

ym,t−y¯m= (xm,t−x¯m)β+ ǫm,t −¯ǫm (10.34) のように考えて見ましょう。この時、どちらもデータを与えることで推定可能で

す。Pu,M TM T × M T の全ての要素がM T1 である行列と考えれば、(10.33) 式と

(10.34) 式から、推定量は平均値からの乖離で評価した上で整理すると、

βp = (XX)−1Xy−(XX)−1Xα (10.35) X[I − Pu,M T]Xβp = X[I − Pu,M T]y (10.36)

Sxxβp = Sxy (10.37)

となります。各観測対象の各説明変数の平均Xaについて、Pu = Pu,T を用いて、

Xa= ΨX =

PuX1

PuX2

... PuXM

(10.38)

として表すことを考えましょう。このとき、 ˜X = X − Xa,y˜= y − yaで示される とすると、(10.34) 式で示されるグループ内推定量は平均値からの乖離で評価した 上で整理すると、

βw = ( ˜XX)˜ −1X˜y˜ (10.39) [(X − Xa)(X − Xa)]βw = (X − Xa)(y − ya) (10.40)

Sxxwβw = Sxyw (10.41)

となります。この時、グループ間変動を用いた

¯

ym = α + ¯xmβ+ ¯ǫm (10.42) のグループ間推定量は平均値からの乖離で評価した上で整理すると、

βb = (XaXa)−1Xaya−(XaXa)−1Xaα (10.43) Xa[I − Pu,M T]Xaβb = Xa[I − Pu,M T]ya (10.44)

Sxxb βb = Sxyb (10.45)

(8)

になります。なお、PuXa = PuX, Puya = Puy になることに注意してください。 (10.32) 式を用いれば、

Sxx = Sxxw + Sxxb (10.46) Sxxβp = Sxxwβw+ Sxxb βb (10.47) が得られます。ここで、(10.32) 式をもう一度用いれば、

βp = Sxx−1Sxxwβw+ Sxx−1Sxxb βb (10.48)

= (Sxxw + Sxxb )−1Sxxwβw+ (Sxxw + Sxxb )−1Sxxb βb (10.49)

= (Sxxw + Sxxb )−1Sxxwβw+ (Sxxw + Sxxb )−1([Sxxw + Sxxb ] − Sxxwb (10.50)

= (Sxxw + Sxxb )−1Sxxwβw+ (I − [Sxxw + Sxxb ]−1Sxxwb (10.51)

= W1βw+ (I − W1b (10.52) となります。この時、W1 = (Sxxw + Sxxb )−1Sxxw です。この式から、プールデータの 推定量がグループ内推定量とグループ間推定量のW1で与えられる加重和によっ て、構成されていることがわかるのです。そして、グループ内推定量は図から考え てもわかるように、個性を表す定数項で調整していることと同じ意味なので、固 定効果による推定(LSDV) による推定量ということになります。したがって、

βf = βw (10.53)

として表すことができます。なお、表現を変えれば、プールデータによる推定か ら、グループ間効果を取り除いたのがグループ内推定量、すなわち固定効果によ る推定となるのです。

固定効果から変量効果へ 固定効果によるパネル分析の位置付けが理解できまし た。では、変量効果は固定効果そしてプールデータによる分析とどのような位置 付けにあるのでしょうか。それを確認してみましょう。変量効果モデルは

yt= α + Xβ + ut (10.54)

となります。この時、

−1/2ym = σ−1

ym,1− θy¯m ym,2− θy¯m

... ym,T − θ¯ym

(10.55)

なので、平均からの乖離として、

V−1/2y= σ−1(y − θΨy) = σ−1(y − θya) (10.56) V−1/2X = σ−1(X − θΨX) = σ−1(X − θXa) (10.57)

(9)

とすることにします。定数項を明示的に示した場合の推定量は

βr = (XV−1X)−1XV−1y−(XV−1X)−1XV−1/2α (10.58) であり、平均値からの乖離で評価し直して、

XV−1/2[I − Pu,M T]V−1/2r = XV−1/2[I − Pu,M T]V−1/2y (10.59) σ−2(X − θXa)[I − Pu,M T](X − θXar = σ−2(X − θXa)[I − Pu,M T](y − θya)

(10.60) (X − θXa)[I − Pu,M T](X − θXar = (X − θXa)[I − Pu,M T](y − θya)

(10.61) です。この時、ΨXa= ΨX, Ψya= Ψy であることを利用して、

(X − θXa)[I − Pu,M T](X − θXa) (10.62)

= X[I − Pu,M T]X − θX[I − Pu,M T]Xa

− θXa[I − Pu,M T]X + θ2Xa[I − Pu,M T]Xa (10.63)

= Sxx− θXa[I − Pu,M T]X − θX[I − Pu,M T]Xa+ θ2Sxxb (10.64)

= Sxx− θXa[I − Pu,M T]X − θX[I − Pu,M T]Xa+ θ2Sxxb (10.65)

= Sxx− θXa[I − Pu,M T]ΨX − θXΨ[I − Pu,M T]Xa+ θ2Sxxb (10.66)

= Sxx−2θXa[I − Pu,M T]Xa+ θ2Sxxb (10.67)

= Sxxw + Sxxb −2θSxxb + θ2Sxxb (10.68)

= Sxxw + (1 − θ)2Sxxb (10.69) となります。右辺も同じく、

(X − θXa)[I − Pu,M T](y − θya) (10.70)

= Sxyw + (1 − θ)2Sxyb (10.71)

= Sxxwβw+ (1 − θ)2Sxxb βb (10.72) となります。この時、

λ = (1 − θ)2 (10.73)

と置くと、(10.61) 式は

[Sxxw + λSxxbr = Sxxwβw+ λSxxb βb (10.74) βr = [Sxxw + λSxxb ]−1Sxxwβw+ [Sxxw + λSxxb ]−1λSxxb βb (10.75)

= W2βw+ (I − W2b (10.76)

(10)

W2 = [Sxxw + λSxxb ]−1Sxxw となります。この時、λ について考えると、標本が十分大 きい場合、θ が1 に近づき、結果的に λ が 0 になってしまいます。すなわち、標本 が十分大きい場合にはW2がI となり、(10.76) 式は

βr ≃ βw (10.77)

になってしまいます。すなわち、変量効果モデルは標本を十分大きくすることで固 定効果モデルに近づいてゆくことを意味するのです。なお、σ

2

ζ = 0 ならば、(10.21) 式からθ = 0 となるため、十分標本が大きくとも、このような結果とはならず、 逆に(10.45) 式のように、プールデータによるクロスセクション推定と同じになり ます。

では、変量効果による推定は固定効果とどのように違うのでしょうか。まず、は じめに考えた自由度が固定効果よりも大幅に高まり、推定量としての効率性を期待 できることです。また、変量効果推定は個別効果を規定する誤差項の性質により、 グループ内パネル推定とプール推定の間で柔軟な推定ができます。たとえば、真の パラメーターでは個別の違いがないような場合であるσ

2

ζ = 0 という場合にも、変 量効果による推定は通常のプールした最小二乗法と同じになるため有益です。ま た、個別効果があって、標本が十分大きければ固定効果の推定量と一致するので その意味でも、柔軟性があります。したがって、変量効果モデルの方がメリット が大きいように見えます。

しかし、ここで重要な点を注意しなければいけません。それは、説明変数と個 別効果が相関を持たなければ、上記の点デメリットがあるのですが、説明変数と 個別効果に相関があれば、変量効果モデルは一致性を失い、推定量としては不適 切になります。その意味で、変量効果には限界もあるといえ、基本的には変量効 果モデルを用い、問題がある場合に固定効果モデルを用いるのがよいといえるで しょう。

10.2.5 効果の判別

これまでの議論から、変量効果モデルを適用可能かというのが重要な観点にな ることがわかります。そこで重要なのは

E[xm,tum,t] = 0 (10.78)

が成立するかどうかという点に絞られます。この問題に関する仮説検定を考えて みましょう。

Hausman 検定 Hausman 検定は GMM などにおいて、誤差項と説明変数が相 関を持つか否かを検証する仮説検定でした。その検定をここでも使うことになり ます。検定統計量は固定効果および変量効果モデルの推定量をβf, βrとすると、

r− βf]V ar[βf][βr− βf] ∼ χ2[K] (10.79)

(11)

にしたがうことになります。

Breusch-Pagan 検定 変量効果モデルを使った場合、プールデータによるクロス セクション分析でなく、変量効果モデルを利用すべきかどうかという検定を行い たいことがあるでしょう。そのため、

H0 2

ζ = 0 (10.80)

H1 2

ζ = 0 (10.81)

という仮説検定を行うことになります。そのときの検定統計量はクロスセクショ ン分析における最小二乗推定の残差を利用して、

LM = M T 2(T − 1)

 ˆǫDαDαˆǫ ˆǫˆǫ 1

2

∼ χ2[1] (10.82)

を行えばよいことになります。これをBreusch-Pagan 検定と呼びます。

10.2.6 誤差項への対応

パネル分析には2 つの誤差項が導入されていますが、個別効果を示す誤差項 ut

の不均一分散、個別効果ではない誤差項ǫtの仮定をゆるめた、不均一分散と系列 相関について考えてみましょう。とはいえ、本質的には誤差項の共分散行列の推 定値を正しく求めて、それをFGLS および GMM で推定すればよいのです。たと えば、変量モデルにおける個別効果の不均一性は

θm = 1 −  σ T σζ,m2 + σ2

(10.83)

で示されます。これを用いて、通常の変量効果モデルによる推定を行えばよいの です。誤差項の共分散行列の推定に関しては煩雑さがありますが、それをクリア すれば通常の推定量と同じです。

10.2.7 アンバランスパネル

時系列的な要素を含むため、継続アンケート参加者がいなくなったり、企業が 倒産するなど、現実的な問題が起こります。その場合、推定を行えないとするの ではなく、その情報を可能な限り利用するのが適切でしょう。それらのパネルデー タをアンバランスパネル(Unbalanced Panel) と呼びます。

アンバランスパネルに対する実際的な変更点としては、推定量に使うθ が θm = 1 −  σ

Tmσ2ζ + σ2

(10.84)

(12)

に変えることです。この条件でFGLS を行えばよいことになります。ただし、同 時に、変量効果モデルの分散の推定量は

V ar[ut,m] = V ar

 ζm+

Tm t=1ǫm,t

Tm



= σζ2+ σ

2

Tm (10.85)

なのですが、それをどのように求めるかになります。この時、観測対象数M を増 やすことで

plim 1 M

M



i=1

 ˆ σζ,i2 + ˆσ

2 i

Ti



= σζ2+ σ2κ= σ2u (10.86)

なので、 ˆ

σζ2 = ˆσ2u−σˆ2κˆ (10.87) として、一致推定量を求めることになります。

10.2.8 動学的パネル

パネル分析でも通常のモデルと同じように、ラグを導入した

ym,t = xm,tβ+ γ1ym,t−1+ · · · + γpym,t−p+ ǫt (10.88) を考えてみたくなるでしょう。これは過去の効果を考慮したものなので、動学的 パネル分析(Dynamic Panel) と呼びます。このモデルはラグを持つため、説明 変数と誤差項の相関が問題になります。これは、時間的なショックの系列相関があ る場合はもとより、変量効果では個別効果としてのショックに相関が現れます。し たがって、操作変数法を利用することになります。ただし、GMM がより効率的で あるとされ、直行条件に用いるべき変数などの条件も研究されています。

(13)

E 補足

E.1 データの変動の分散分解

データ変動の分散分解をしてみましょう。 Sxz =

M



m=1 T



t=1

(xt,m−x)(z¯ t,m−z)¯ (E.1)

=

M



m=1 T



t=1

xt,mzt,m−xz¯ t,m− xt,m+ ¯x¯z (E.2)

Sxzw =

M



m=1 T



t=1

(xt,m−x¯m)(zt,m−z¯m) (E.3)

=

M



m=1 T



t=1

xt,mzt,m−x¯mzt,m− xt,mm + ¯xmm (E.4)

Sxzb =

M



m=1 T



t=1

(¯xm−x)(¯¯ zm−z)¯ (E.5)

=

M



m=1 T



t=1

¯

xmm −x¯¯zm−x¯m+ ¯x¯z (E.6)

この時、

Sxzw + Sxzb − Sxz (E.7)

=

M



m=1 T



t=1

−¯xmzt,m − xt,mm + ¯xmm +

M



m=1 T



t=1

¯

xmm −x¯¯zm −x¯m

M



m=1 T



t=1

−¯xzt,m − xt,m (E.8)

=

M



m=1 T



t=1

−¯xmzt,m − xt,mm + ¯xmm + ¯xmm−x¯¯zm−x¯m + ¯xzt,m + xt,m (E.9)

= −T

M



m=1

¯

xmm+ ¯xmm −x¯mm−x¯mm + ¯x¯zm + ¯xm−x¯¯zm −x¯m = 0 (E.10) ですから、

Sxz = Sxzw + Sxzb (E.11) になることが確認できました。

(14)

E.2 ウェイト行列の計算の証明

ウェイト行列として用いたΩ に関する計算を確認してみましょう。まず、 σΩ−1/2= [I + kii] (E.12) と置きましょう。なお、E = iiで、EE = T iiす。この時、

σ−2[I + kE]2Ω = I (E.13) が必要です。したがって、

σ−2[I + kE]2Ω = σ−2[I + kE]22I+ σζ2E] (E.14)

= [I + kE]2[I + σ−2σ2ζE] (E.15)

= [I + (2 + T k)kE][I + σ−2σζ2E] (E.16)

= I + [(2 + T k)k + T (2 + T k)kσ−2σζ2+ σ−2σζ2]E (E.17)

= I + [2k + T k2+ 2T σ−2σζ2k+ T2σ−2σ2ζk2+ σ−2σζ2]E (E.18)

= I + [(T2σ−2σζ2+ T )k2+ 2(T σ−2σζ2+ 1)k + σ−2σζ2]E (E.19) を得ますが、(E.13) 式より、

[(T2σ−2σζ2+ T )k2+ 2(T σ−2σ2ζ+ 1)k + σ−2σ2ζ]E = 0 (E.20)

⇒(T2σ−2σζ2+ T )k2+ 2(T σ−2σ2ζ+ 1)k + σ−2σζ2 = 0 (E.21) になります。これをまとめて、

(T2σ−2σζ2+ T )k2+ 2(T σ−2σ2ζ + 1)k + σ−2σ2ζ = 0 (E.22) (T2σζ2+ T σ2)k2+ 2(T σζ2+ σ2)k + σ2ζ = 0 (E.23) となります。したがって、解の公式から、

k =

−(T σζ2+ σ2) ±(T σζ2+ σ2)2− σζ2(T2σζ2+ T σ2)

T(T σζ2+ σ2) (E.24)

= 1 T

−1 ±

(T σζ2+ σ2)2− T σζ2(T σζ2+ σ2) T σζ2+ σ2

 (E.25)

= 1 T

−1 ±

σT σ2ζ+ σ2 T σζ2+ σ2

= 1 T

−1 ±  σ T σζ2+ σ2

(E.26) k > 0 の条件から、

k = 1 T

−1 +  σ T σ2ζ+ σ2

(E.27)

が得られます。

(15)

E.3 グループ内平均の行列の演算

データ行列X について、観測対象毎にグループ化した

X =

 X1

X2

... XM

(E.28)

で考えてみることにしましょう。この時、各観測対象の各説明変数の平均を導く 行列は

Ψ =

Pu O

Pu . ..

O Pu

= I ⊗ Pu (E.29)

でとなります。この時、Ψ = ΨΨ の対称べき等行列であることが確認できます。こ れがわかれば、各観測対象の各説明変数の平均Xa

Xa= ΨX =

PuX1

PuX2

... PuXM

(E.30)

で求めることができます。したがって、

ΨXa= ΨΨX = ΨX (E.31)

XaX = XΨX = XXa (E.32) XaX = XΨΨX = XaXa (E.33) であることがわかります。そして、大規模なM T × M T の 単位写像行列 Pu,M T

考えます。その積は

Pu,M TΨ =

Pu Pu · · · Pu Pu Pu ...

... . .. ... Pu · · · Pu

Pu O

Pu . ..

O Pu

(E.34)

=

Pu Pu · · · Pu Pu Pu ...

... . .. ... Pu · · · Pu

= Pu,M T (E.35)

(16)

であることがわかるので、

Pu,M TΨXa= Pu,M TX = Pu,M TΨX (E.36)

Ψ[I − Pu,M T] = [Ψ − Pu,M T] = [I − Pu,M T]Ψ (E.37) がわかります。

参照

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