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(1)

香道 文学

- 戸中期の香道伝書 よる文学受容の研究-

武居定 子

博士 文学

総合研究大学院大学

文化科学研究科

日本文学研究専攻

成 8 6 度定

(2)

博士論文

香 道 と 文 学

― 江 戸 中 期 の 香 道 伝 書 に よ る 文 学 受 容 の 研 究 ―

二〇一二〇六〇一

文化科学研究科日本文学研究専攻武居雅子

(3)

i

香道と文学

― 江戸中期の香道伝書による文学受容の研究―

序章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

第一部大枝流芳の香道伝書を通して

18

39

89

125

第二部菊岡沾凉の香道伝書を通して

141

153

206

236

330

終章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

352

(4)

ii

凡例

一、文献の引用に当たって原文のままを原則とし、濁点・仮名遣い等底本の通りにした。ただし

漢字原則として通行の字体に改め、また解読の便宜を考慮して、句読点を付し、適宜改行した。

振り仮名を省略したり、片仮名を平仮名に直したりしたところもある。□虫損等による判読不

能箇所を示す。傍線・波線筆者による。また引用文の内筆者による補記ある。

一、漢詩・漢文、原則として書き下し文を掲た。

一、和歌の引用、香道伝書なから引いた場合を除き、原則として新編国歌大観に拠った。

一、近代以後の引用文献の刊年、原則として西暦表記に統一した。

一、漢数字、引用部を除き原則として一〇ㅰイチロㅱ方式にて表記した。

一、先学の名前の引用、原則として敬称を省略した。

*本論文扱う時代に、未だ家元制度がみられない。したがって流義・流派意識も希薄道として確

立されていないが、原則として香道香道伝書を用いる。

香道の専門用語

1組香数種の香を組合せ、一定の主題を表現する香のゲームの様式、文学的主題を持つものが多い。

2証歌組香の主題の典拠となる和歌ㅰまた漢詩ㅱのこと。

(5)

iii

3証詞組香の主題の典拠となる物語の言葉のこと。

4聞きの名目組香の主題や依拠文学作品による言葉が指定され、その言葉答える。答え名乗り紙

ㅰ回答用紙ㅱに書く。

5炷継香名を連歌的に繋て炷き続けるもの。

6空炷部屋や家具、着物や装身具に香りを炷きしめること。

7聞香もんこうまたぶんこうと読む。聞き香炉に炭団を活け、銀葉の上に載せてくゆらし

た香木の匂いを嗅ことあるが、嗅と言わずに聞くと言う。

盤物盤立物ともいう。盤上立物と呼れる人形をめ、様々な形象を用い、香を聞き当てる

とに立物を移動させて楽しむもの。組香のひとつ香席に女性が参加するようになり、視覚的

な遊戯性を高めるものとして生れた。東福門院和子の後水尾天皇への入内を契機に江戸中期に

かけて流行したとも言われる。ㅰ神保博行香道の歴史事典柏書房、二〇〇三年、四〇九頁ㅱ。

9一炷香を一つ炷くこと。

10、。盤物のゲーム香こを聞き当てるとにとる一い炷開き一炷を聞てす、すに答え合せを、

立物ㅰ人形等ㅱを移動させてゲームを進めるため、一炷開きとなる。

11。え合せをすることしてたがって一炷聞〇答め一え炷聞きその都度答合とせせず、最後にま度

ㅰ一炷聞きを〇回行うの意味ㅱと表現する。

12のう言もと数品香とこ類香種の香るれわ使数種。

(6)

iv

13

本香ㅰ本ゲームㅱ使われる香をゲームの前に聞いてその香りを記憶すること。

14れゥと略され、こをっ聞き当てると得点てと客と香試のない香のこ、を客という字のゥ冠が

高くなることもある。

15答とこいなさ記をえの聞そもてい聞を香捨。

16除上、いくつか取りきぜ、敢てその香を聞たま捨ゲ香試をした香を、ーちムの最初や途中打か

ないこと。ゲームによってその捨てた香が何の香りあったかを当てるものもある。

17一られ、この小箱〇納客分、一二〇枚がめに札と打ち香札答えるこ。箱香札一二枚一組小札

箱に納められる。大きさ縦二・七センチ、横一・二センチが標準。札の表様々あるが花

形文が一般的。札の裏数字の一~三が記されたものが各三枚、その内月花の模様が

ついたものが各一枚ある。さらに三枚に客またゥの字が記されている。材質紫

檀、黒檀が多い。

補足香筵ㅰ香会ㅱの客ㅰ聞き手・連衆ㅱ一〇人が基本。香筵使う香木を提供する人を出香ㅰ者ㅱ

と言い、香手前をする人を香元と言うが、香元が香木を用意することが多い。また客全員の答え

を取りまとめて、一枚の紙に記録する係を執筆ㅰ文台・記録ㅱと呼ぶ。この記録香之記と

呼れ、その香筵の勝者席次の高い者に贈られる。

(7)

1

序章

香道、茶道、花道とともに三大遊芸とされ、室町時代以来の伝統的貴族文化として、家、寺社、

武家、富裕町人なの上層社会行われてきた。しかし、香道の祖とされる三条西実隆ㅰ

1ㅱや志野家

にしても、当初専門の職業香道人なく、香道という道意識も後付けのものと考えられるㅰ

2ㅱ。香

道香りを嗅ことを聞くと称するが、源氏物語梅枝巻、薫物合の場面嗅合すㅰ

3ㅱ

あり、湯殿の上の日記ㅰ

4七しせらあゝき御うか御条日十ㅱ月八ㅱ二三五一ㅰ年元文天ま

すの記事が香を聞くの初出ある。薫物の時代の後に、香木一木を賞翫し、左右に分かれて香木

の香りを競い合う香合を経て、十炷ㅰ種ㅱ香ㅰ

5ㅱが行われたの応永年間ㅰ

6ㅱあり、ここに

組香の原点が見られる。その後、古十組と呼れる未だ文学的主題を持たない組香が生れ、江戸時代

にかけて、特定の和歌を証歌とし、物語の詞を証詞とする組香が多作される。香りと文学ㅰ文芸作品ㅱ

との融合なくして組香の完成ありえなかったと言っても過言ない。

近年、香りインセンス、アロマテラピーと言った呼び名もてやされているが、香道、茶道、

花道に比して特な分野として捉えられ、その扱い小さい。特な分野という位置付け、嗅覚によ

る感覚の遊びありながら、聞香を楽しむために、王朝文学や和歌に通、短歌を詠むことがき、

執筆のための書がきなけれ近きがたい、という思い込みによるものある。香道を特集した記事

や雑誌、書籍、美麗な香道具や蘭奢待な香木の写真等を掲載して、表層的な香道を紹介するものが

多い。

(8)

2

香道研究、香道全般を解説するもの、仏教と香道の関係を論るもの、美術芸的視点による香道

具研究や香木の科学的調査、香道の歴史研究、源氏物語の薫物ㅰ練香ㅱや薫物合に関する研究、源氏

香や有名な組香の解説・研究、香道伝書に関する研究なが挙られる。このほか西山松之助の家元制

を論たものもある。

香道全般を解説するものㅰ7ㅱとして、昭和初期の杉本文太郎や早川甚三、一色梨郷の著作があり、

昭和二二年ㅰ一九四七ㅱに香道御家流二十一世宗家に推戴された三条西正や、第十九世志野流家元蜂

谷宗由、第二十世宗玄、安藤御家流・安藤綾信な各流派による著書がみられる。また北小路功光・成

子、神保博行、矢野環、畑正高らの著書が主だった文献と言える。

仏教と香という観点から香道を論たㅰㅱ花岡淳一や有賀要延、荒川浩和の香道具研究や徳川美術

館、東京芸術大学美術館他の展覧会列品解説な美術芸的視点によるものㅰ9ㅱ、香料として捉えた山

田憲太郎の香木・香料研究、スクロマトラフィー質分析計を用いた米田該典による科学的調査ㅰ

10ㅱ

なもみられる。

歴史研究ㅰ

11よ歴史の時代にる香特色を論た早川の、ㅱ通として、香道の史郷を著した一色梨甚

三の業績があり、三条西正薫香遊びの変遷を記している。薫物合ㅰ

12ㅱについて、桑田忠親、

尾崎左永子、宮川葉子、田中圭子による論考が挙られる。組香の解説や研究ㅰ

13ㅱ、早川甚三、

尾崎左永子の源氏香、矢野環の四季合香に関する論考が見られるが、有名な組香に限られ、特定

の香道伝書収載の組香についてその依拠する文芸作品を詳らかにしたもの見られない。

香道の普及と伝承に伴って、相伝の次第や細かな点前、所作、組香の趣き、更に秘事や口伝が生れ、

(9)

3

それら香道全般の心得を記述したものが、香道伝書ある。その内のいくつかの伝書について校注ㅰ

14ㅱ

や現代語訳ㅰ

15翻薫遊舎により刻子されている。・永ㅱ扱があり、本稿う左香道蘭之園尾崎板

本として最古の香道書香道秘伝書ㅰ

16堀研び及刻翻の書釈注の悟口、ㅱ考論の子文川翠もていつに究

がある。

現代、香道流派といえ御家流と志野流が有名あるが、当初流派・流儀意識なく、江戸初

期に、師資相伝ㅰ

17家い。後に蜂谷がれ京都志野流家ならㅱ、形式継承され未見だ家元制度も元

制度を確立するま、個別の師資相伝による技の継承と普及が繰り返され、厳しい師弟関係や流派に

縛られない、自由な立場香を嗜む人口が、多数存在していたものと察せられる。西山松之助家元

の研究、この時代を百家争鳴の時代ㅰ

18ㅱと名付けている。

享保から元文にかけて大坂多くの香道伝書を刊行した大枝流芳ㅰ

19ㅱの師匠にあたる、大口含翠ㅰ

20ㅱ

にしても、志野、米川、御家の流れを受け継いいる。

大口含翠の香道系譜について確認すると、心遠斎香道叢書ㅰ

21ㅱ新編十四香事稽古八十八箇条略

四十六条香事伝来諸流宗匠之事に、志野流正伝系嗣として

志野三子ㅰ

22阿常沢大―甫光―悦光弥本ㅱ―拾宗内坂―勝隆部建―

左衛門―

苗字常

伝衛門―大口保高なり

とあり、米川流伝ㅰ志野三子~芳長老について心遠斎香道叢書続編八香之記から補記ㅱ、

志野三子―建部隆勝―坂内宗拾―芳長老

―米川常伯―玄察―清水清右衛門―

眉山和尚―大口氏

(10)

4

とある。また、御家流香道家元三条西正の聞香に就きてㅰ

23ㅱによれ、御家流香道の系譜、

三条西実条→ 烏丸光広→ 油小路隆基→ 隆基の子孫→ 猿島家胤→ 大口含翠ㅰ一六八九~一七六四ㅱ

とし、含翠に伝わった頃に堂上から地下に移ったの、それま家間当流と呼んいたのを、

地下の一般民衆がこれを御家流と呼ぶに至った、と推定している。

これらの記述によれ、大口含翠志野、米川、そして御家の系譜を受け継いいるの、大口を御

家流香人と特定すること正しくないと考えられる。また米川流も志野流本流から分派した流儀ある

ことが解る。志野流から後に藤野流も分派する。東山時代から江戸時代にかけて、今となって断

片的な伝書ㅰ

24っ、風早流といた弥流派もあった流阿ㅱ態残るものの実不相明な小笠原流、。

百家争鳴の時機到来の背景に、堂上方の雅遊の嗜みとしての香が、新たな上層階となった上流武

家社会に浸透したこと、一七世紀後半から一八世紀初頭にかけて台頭した都市部の富裕町人層の文化的

要望があったことが考えられる。こうした流行現象の中、享保から延享にかけて、志野、米川、御家の

三つの流れを汲んだ大口含翠に師事した大枝流芳によって、香道伝書が著作されるのある。しかもそ

の一部京都・大坂・江戸に店舗を持つ植村藤右衛門、植村藤三郎によって板行され、広く流通するこ

とになる。

大枝流芳自身も流派に拘っていない。師・大口含翠所伝の香道伝書を書写することに始まり、それ

ら先行香道を比較精査し、研究を重、板本に集大成している。享保一八年ㅰ一七三三ㅱ刊香道秋の

光中古より有来

組香を収載し、享保一九年刊香道滝の糸米川流香道具・流十組

香包紙之図・盤立物寸法図・古組香十品なを載せ、元文二年ㅰ一七三七ㅱ刊香道軒の玉水下巻

(11)

5

に志野三乃道具の事も掲載している。元文四年刊改正香道秘伝・附録奥の栞、寛文九年ㅰ一

六六九ㅱ刊の志野宗信、宗温、建部隆勝、岌翁斎宗入、翠竹菴道三等による古伝書香道秘伝書ㅰ

25ㅱ

を校正、考察した書ある。香道秘伝書寛文九年の刊本あるが、内容的に江戸時代以前の伝

書と十組香を輯録したものある。

御家流江戸後期ま師資相伝を踏襲していたために、志野流のような家元制度を組織すること

きなかったが、大枝も最晩年に、当初八八箇条あった御家流稽古箇条を箇条改定とともに内容を改

めた一〇〇箇条とし、秘伝固持のための入門誓約之として香事盟誓八箇条の制定につとめている。

志野流九世宗先以降、志野流香道箇条目録の成立な流派伝書の整備につとめ、諸国門人帳に

見られるとく家元家父長的権力の大再生産構造を展開していくㅰ

26ㅱ。米川流にしても、空華庵忍

鎧ㅰ

27遵川流の十組香を守、し、元文三年ㅰ一米れㅱ年によって享保一四十さ種香暗部山が刊行七

三八ㅱ以前に香会弁要録、五年以前香道弁要録、延享三年ㅰ一七四六ㅱ以前香道余談と旺

盛に執筆している。忍鎧米川常白ㅰ

28に古の流野志にらさ、し事師ㅱㅱ斎閑実ㅰ政成村西だん学に書

を渉猟して、作法・道具の変遷を弁えた上、新古、取捨選択をし、最終的に忍鎧流を構築したと考

えられるㅰ

29流の社会が、志野やた米川流によって香しㅱ中。くして、江戸期と以降、家元を中い

こまれ、統制がとられた結果、各流派の香道伝書、自流のみを尊ぶ閉塞的なものに収斂していく。家

元を点とするピラミッド型の組織全ての統制が家元に集中していくため、伝書にも錯雑や誤謬起

りにくい。師資相伝形式の宿命として、伝授者による改善や時に改悪も生易く、人的結束も小規模

弱いものになりがちある。師資相伝を貫いていた御家流、やがて自己分裂をとることになり、大

(12)

6

枝最晩年の門弟、江田世恭のように師匠の死後、他流に入門ㅰ

30た相資師たま。いㅱも者なうよるす伝

による伝書の書写、伝書の細分化を招き、書写年や筆記者不明の断片的な伝書が現在も散見される。

このようになる以前の古法を集大成した香道伝書が、享保、元文期から延享期の大枝流芳による香道

伝書群なのある。それらに、各々の流派に固定する以前の、多様な情報や知見が収載されている。

しかも流芳これだけに留まらず、江戸中期の唐様流行を背景に、宋・明代の香に関する書籍を渉猟し

て、香志を編み、享保一八年七月に香道秋の光附録として上梓した。組香の原拠和歌文芸が主

流だが、大枝諸書に素材を求めて彼独自の新組香を考案し、文人趣味の香道を模索したのある。

一方、江戸元文年間に香道古法の集大成ある香道蘭之園ㅰ

31ㅱ一〇巻附録一巻が成立してい

る。本書成立の発端、御家流香人・鈴鹿周斎ㅰ

32向。るま始にとこたし下ㅱへ戸江、め初宝延、が彼

正保・慶安ㅰ一六四四~一六五二ㅱの頃、京都に住み堂上方に香を伝授し、香道の達人と世に知られ

ていた。その後、香に熟達し、卿に仕えていた衣山靭負丞宗秀も下向し、鈴鹿の世話その近所に住

いを設ける。この二人から香道の伝授を受けたのが山下弘永、弘永から栗本穏置に香の奥義が伝授さ

れる。この栗本穏置が、周斎より伝授された草稿の錯雑を憂い、菊岡房行ㅰ沾凉ㅱㅰ

33ㅱの力を借りて旧

原稿を訂正し、蘭園と名付けたのあるㅰ

34ㅱ。

本書の書名蘭之園を付けたの菊岡沾凉あるが、鈴鹿周斎以来の草稿を整理輯録したもの、

それら何代かに亘って書き継がれたものと察せられる。この草稿に御家流以外の、例え東山殿流、

相阿弥流、志野流を冠した組香記事も見られ、栗本穏置、菊岡沾凉らに、自流のみに固執する姿勢窺

えない。本書香の伝来十炷香の法な基礎知識を記した一巻に始まり、二~九巻及び附録巻に

(13)

7

、二三四の組香が収載されている。十巻に香道具の詳細な図示と解説がなされ、名香目録名香

古歌古詩薫香名目なが収載されている。八・九巻、現在他の伝書に見られない源氏千種香

35題る未だ文学的主を呼持たない最初期のれとㅱ~が収載され、二七組巻・附録巻に古十組

香から、大枝流芳香道秋の光下巻収載の流芳新組香も含まれている。附録巻新組香幷組香異説

とし、巻末に以下の記述がある。

右条新組の香、或異説の組香これに限るへからす。品々ありといへともそのひとつふたつを記す。

是判本に載する所也。此外新組追て印行の目録あまたあり。鈴鹿の家流かつて用ひす。然れとも

其虚実をあらさんかため、崔下菴書。

この文言から、香道蘭之園編纂にあたり、当時、三都流通していた大枝流芳の香道伝書、新組香

への関心が窺え、その存在を意識して鈴鹿の家流かつて用ひすの言葉が記されたものと考える。

京都・大坂が香道の主流あった時代に香道蘭之園が江戸取りまとめられたこと、源氏物語受

容による源氏千種香が本書にしか見られないことㅰ

36香こるいてし載収を組ㅱ新の枝大に巻録附、と

注目に値し、香道蘭之園、元文年間当時の香道事情を今に伝える貴重な資料と考えられる。

そこ本論文、大枝流芳による香道伝書と江戸編まれた菊岡沾凉による香道伝書を精密に読む

ことにより、享保から延享にかけての香道伝書にける文学受容、特に組香にいていかに文芸作品が

受容されたのかを実証的に解明することを目的とする。

第一部大枝流芳の香道伝書を通してと題し、第一章、大枝流芳の書写による心遠斎香道叢

書を精査し、彼の香道伝書執筆の経緯を追うこと、香人・大枝流芳について検討を行う。この叢書

(14)

8

三四冊、正編四冊・続編八冊・後編七冊、大方が大枝の師匠・大口含翠所伝の書ある。新編一

五冊大枝の考察・研究を認めたものが多く、新編七木処気味秘考、刊本香道秋の光附録香

志執筆の基盤ともなった、宋・明代の香に関する文献を渉猟しての大枝の香木論が記されている。彼

雅遊漫録ㅰ宝暦一三年刊ㅱや煎茶論青湾茶話ㅰ宝暦六年刊ㅱ、瓶花論抛入岸の波ㅰ寛延三年

刊ㅱ執筆にあたり中国文献を研究したと様に、香道にいても説郛をめ多くの漢籍を利用し

ている。新編八江氏新組香残篇に、刊本香道滝の糸香道軒の玉水に近刊、追日梓行と広告

が掲載されながら、刊本が確認されず、内容不明あった香道深緑組香十品が収載されている。

また従来、詳細な根拠なきままに語られてきた寄合の文芸ㅰ

37香がだ性連関のとㅱ歌連のてしと、

新編十四香事稽古八十八箇条略七十八条連歌俳諧之香之事に、含翠口受による、連歌会の

炷香作法が記されている。な、新編九香道拾玉、新編十香道随筆巻一新編十五香道随筆、

新編十三香事千代之古道、香事香道全般についての大枝の論説ある。

これらを踏まえて、第二章、香道叢書の大枝の研究・考察が刊本香道伝書四書にいかに映し

ているか、また彼の創作組香にける文芸受容、明風享受について考察する。

第三章、心遠斎香道叢書後編五香名引歌之書の香名と引歌の関係を、和歌を中心に精査

し、香名と和歌を重合わせるという享受の在り方を検討する。引き続き第四章、漢詩を中心に、

香名と引歌ㅰ詩ㅱの関係を精査して、これら引歌ㅰ詩ㅱが、香りの印象を伝えるにあたっていかに機能

したのかを考察する。

第二部菊岡沾凉の香道伝書を通して、第一章香道蘭之園の成立と概要を確認した後、

(15)

9

第二章・第三章・第四章組香の文芸享受を具体的に検証する。

第二章、本書二~七巻及び附録巻収載組香の原拠とする文芸作品を精査し、いかなる作品が組香

の素材として採用されたのかを検証する。古今和歌集由来の組香、その和歌が証歌として、また和

歌の言葉が香名、聞きの名目として使われるだけなく、仮名序、真名序の文章、古今伝授に依拠する

ものがあること、伊勢物語に依拠する組香に能楽との関連が窺える盤物の組香があること等を明

らかにする。文芸作品との関連が窺えない組香も、主題別に分類すると、和歌集の部立ㅰ春・夏・秋・

賀・恋・雑ㅱに似た様相を呈し、文学的映が皆無と考えがたいことを述べる。さらに、座の遊芸と

して、組香が連衆にいかに享受されたかを考察する。

第三章夫木和歌抄由来の組香について検討する。香道蘭之園組香中、証歌が据えられてい

る組香四三組あり、その内二四組が夫木和歌抄由来のものある。しかし、それら証歌と夫木

和歌抄収載和歌と微妙に異なるものもある。本章、夫木和歌抄写本、板本、夫木和歌集抜

書西順自筆本及びその板本を用いて、その異の経緯を詳らかにする。さらに従来語られてきた、連

歌の付合や証歌の検索に利用されたという文学にける夫木和歌抄享受のほかに、組香にいても

夫木和歌抄夫木和歌集抜書が享受されていた事実を明らかにしたいと考える。

第四章源氏千種香の依拠本を探る。源氏物語組香の素材として最も多く用いられたと言

え、源氏千種香もその所産ある。しかしその内容を精査すると、物語にない言葉が聞きの名目に

使用され、重要な場面の登場人物に欠落があるな、必ずしも忠実な物語の再現なされていず、原

典の源氏物語と明らかに異なる事象が存在している。しかし組香考案者やその後継者によって、安

(16)

10

易な物語の内容改編が行われたと考えにくい。この問題について梗概書を視野に入れて検討した結果、

源氏小鏡の特定の系統との関わりが確認されたの、その点について検証する。

第五章十巻収載名香古歌古詩を取り挙る。名香古歌古詩香名とその引歌を列挙したも

のある。しかし、第一部第三・四章扱う香名引歌之書に比べ、香名がも引歌に異が見

られること、連歌の発句によるものがあることなが注意される。香名引歌之書と比較しながら検討

する。

以上、江戸中期、享保から延享にかけての大枝流芳と菊岡沾凉の香道伝書を精査検討して、香道に

ける文学受容の様相を詳しく検証する。またその過程、座の文芸としての連歌と香道の関連性を考察

する。香道の世界が家元制の出現によって統制される以前の、流派意識にとらわれず、古法を集大成し

たこれらの伝書を精密に読むこと、文学と香道がいかに融合したのかを解き明かすことを目的とする。

(17)

11

序章注

1のていつに隆実西条三祖道三条西実隆香子洋間本、があるるの、従来の定説香道の祖とすをの

再検討ㅰ中世後期の香文化―香道の黎明―思文閣出版、二〇一四年ㅱに詳しい。

2

山上宗二記ㅰ天正一六年ㅰ一五八八ㅱから一八年ㅰ一五九〇ㅱㅱに香ノ道名香ノ道がみられ

る。寛文九年ㅰ一六六九ㅱ香道秘伝書刊行に鑑みれ一七世紀半に香道と言われていたと考え

られる。

3

新編日本文学全集源氏物語小学館、一九九六年、四〇四頁嗅合せて、四〇六頁嗅合

せたまへるの二例のみ。

4

続群書類従七ㅰ続群書類従完成会、二〇一三年ㅱ。

5最も古い代表的な組香。伝書により十炷香、十種香との表記があるが、内容不明。

6

看聞日記ㅰ群書類従補遺二ㅱ応永二三年ㅰ一四一六ㅱ四月一日が初出。

7香道全般を解説するもの

杉本文太郎香道ㅰ雄山閣一九二九年初版、一九八四年増補改訂版ㅱ。

早川甚三香道ㅰ八雲書林、一九四三年ㅱ、香の歴史ㅰ伝統芸術の会編伝統と現代第十巻茶と香

学芸書林、一九六九年ㅱ。

(18)

12

一色梨郷香書ㅰ石原求龍堂、一九四三年ㅱ、香道の安由美ㅰ芦書房、一九六八年ㅱ。

三条西正源氏物語新組香ㅰ上ㅱㅰ新生活社、一九五四年ㅱ、組香の鑑賞ㅰ理想社、一九六五年ㅱ、香

道―歴史と文学ㅰ淡交社、一九七一年・改訂版一九八四年ㅱ、風興の世界香ㅰ芸能史研究

会編日本の古典芸能第五巻茶・花・香平凡社、一九七〇年ㅱ、日本文学と香香の美

と鑑賞ㅰ伝統芸術の会編伝統と現代第十巻茶と香ㅰ学芸書林、一九六九年ㅱ他。

蜂谷宗由修、長ゆき編図解香道の作法と組香ㅰ雄山閣、一九九三年ㅱ。

蜂谷宗玄香の歴史にける生活と儀礼文化ㅰ儀礼文化一六号、一九九一年ㅱ。

安藤綾信徳川譜代大名安藤家の伝承と― 茶道・香道・礼法― ㅰ東洋出版、二〇〇五年ㅱ。

北小路功光・成子香道への招待ㅰ宝文館出版、一九九二年ㅱ。

神保博行香道ものがたりㅰめいけい出版、一九九三年ㅱ、香道の歴史事典ㅰ柏書房、二〇〇三年ㅱ。

矢野環香りの伝統・香りの美・香道具への招待ㅰ太陽スペシャル香りの世界平凡社、一九八七

年ㅱ、香道の古伝書― 習見聴諺集所収伝書な― ㅰ儀礼文化二三号、一九九六年一一月ㅱ、

香書薫物方―竹幽文庫本―ㅰ志社大学文化情報学部紀要文化情報学一巻一号、二〇〇

六年三月ㅱ他。

畑正高香三才香と日本人の物語ㅰ東京書籍、二〇〇四年ㅱ、修香が語る日本文化史香千載

ㅰ光村推古書院、二〇〇一年ㅱ、香清話香に聞く、香を聞くㅰ淡交社、二〇一一年ㅱ。

(19)

13

花岡淳一香道の話ㅰ仏教一巻八号、一九三五年ㅱ。

有賀要延香と仏教ㅰ国書刊行会、一九九〇年ㅱ。

9荒川浩和日本の美術香道具二七六号ㅰ至文堂、一九八九年ㅱ他。

徳川美術館編香の文化ㅰ秋季特別展図録、一九九六年ㅱ。

東京芸術大学美術館編香り―かわしき名宝展ㅰ図録、二〇一一年ㅱ。

10い、香料―日本のに―年ㅰ法政大学出版、ㅱ六山ㅰ田憲太郎香の文化中七央論美術出版、一九一

九七八年ㅱ他。

米田該展全浅香、黄熟香の科学調査ㅰ正倉院紀要二二号、二〇〇〇年三月ㅱ。

11川道香正西条三、史歴の香三甚早前、美由安の道香郷梨色一7注掲。

12一巻八・九号、九六六〇年九月ㅱ一誌桑語田忠親源氏物と雑薫物合ㅰ國學院。

尾崎左永子源氏の薫りㅰ朝日新聞社、一九九二年ㅱ。

宮川葉子薫物―梅枝巻の行動論―ㅰ源氏物語の文化史的研究風間書房、一九九七年ㅱ。

田中圭子源氏物語の女君と薫物ㅰ源氏物語と王朝の教養ㅰ広島女学院大学開セミナー論集

二〇〇九年三月ㅱ。

13八部一般教育室彙報号理、一九六七年三月ㅱ学学早氏川甚三いわゆる源香大之図についてㅰ日本。

尾崎左永子くらしの中の源氏香ㅰ香道文化研究会編香と香道雄山閣、一九八九年、増補改訂版

(20)

14

二〇〇二年ㅱ

矢野環東京国立博物館保管吉田露香氏寄贈香道具花笠香盤立物

―実中御門院御製四季合香―ㅰミュージアム五二〇号、一九九四年七月ㅱ。

14、道論岩波書店一世九七二年所収ㅱ芸近西香山松之助校注之系書ㅰ日本思想大。

川嶋将生校注香道規範古今香鑑御家流香道百ケ条口授伝御家流香道掟書志野家香道十三ケ

条香之茶湯書香問答集ㅰ芸能史研究会編日本民文化史料集成第十巻数寄三

一書房、一九七六年所収ㅱ。

15代たり所収ㅱ、現語の訳香道秘伝書香道がも神香保博行現代語訳道道規範ㅰ前掲注7香蘭

之園香会余談香道規範ㅰ注香道の歴史事典所収ㅱ。

尾崎左永子・薫遊舎校注香道蘭之園ㅰ淡交社、二〇〇二年ㅱ。

16翠川文子香道秘伝書ㅰ川村短期大学研究紀要二〇号、二〇〇〇年三月ㅱ。

堀口悟香道秘伝書集の世界ㅰ笠間書院、二〇〇九年ㅱ。

17九吉川弘文館、一八一二年ㅱ相伝形式に巻第西研山松之助、家元の究集ㅰ西山松之助著作つ

いて精査し、御家流のような相伝形式を完全相伝と名付けた。師匠と弟子の繋がりのみ、家元不在

の相伝形式のことある。本論文師資相伝と表記する。

18注

17

書、四二五頁。

(21)

15

19没ㅱ~四年の間に。四第一部第一章詳述九七大生枝流芳香道家、年一未詳、寛延二年ㅰ。

20。年ㅰ一七六四ㅱ没七和六歳。大坂の人。大元明大元口含翠・樵翁茶人、禄、二年ㅰ一六八九ㅱ生西

閑斎に石州流の茶道を学び、のちに一派を創して大口流と称した。

21一について、第部叢第一章を参照書道実野践女子大学日図香書館蔵。心遠斎。

22ㅰ参雨斎ㅱ、志野省巴弥次郎郎、不寒斎ㅱのこと、三志三野三子と志野宗信ㅰ郎弥左衛門ㅱ、志野宗温ㅰ。

23講ㅱ年九四九一、舎郷故乃紫話史三能芸本日ㅰてき就に香聞正西条。

24

心遠斎香道叢書小笠原流香之記、香之筆記相阿弥流、ㅰ風早ㅱ実種卿家本等。

25翠川文子香道秘伝書ㅰ注

16一書伝秘道香刊月八ㅱ九六六ㅰ論年九文寛、ㅱ頁八五二、文現

存する香道板本として最古の物あり、享保五年板ㅰ一七二〇ㅱ、推定享保一九年板ㅰ一七三四ㅱの二度

の重板が確認され、享保末年ま約六〇年にわたるロンセラーの書あること、初板から七〇年後に改

正香道秘伝が大枝流芳により出板されたこと、を指摘している。

26注

17

書、四四八頁。

27没二年ㅰ一七五二ㅱ。宝八三歳。法諱、忍鎧暦、空家華庵忍鎧僧侶・香道寛生文一〇年ㅰ一六七〇ㅱ。

字、恵南。号、空華子・空華庵。京都の人。和歌を風早実積に学び、香道に長た。著書十種香暗部山

香会余談香道余談な。

28。称、小紅屋三右衛門号。、常白・東庵・一任通没米詳川常白香道家生年未、ㅱ延宝四年ㅰ一六七六。

(22)

16

京都奈良屋町粉紅商を営み、禁裏御用もめる。香道を相国寺の僧松軒に学び、後水尾天皇の中宮東福

門院に認められ、禁裏に伝わる組香を学び、地下に伝えた。米川流香道の祖。また能書家としても知られ

た。著書女御御問書米川常白香道秘伝抄等。

29〇第一二巻三号、二〇紀一年三月ㅱ二一頁要究翠著川文子忍鎧とその述研ㅰ川村学園女子大学。

30。宗先の弟子となる香野の伝書収集を精力的流志江大田世恭、諸道に通た坂、の豪商。大枝の死後に

行い、考証の著述も多い。

31 香道蘭之園宮内庁書陵部所蔵御所本ㅰ一六三- 八八五ㅱ一〇巻五分冊、附録一巻一冊。ほかに国立国

会図書館本、宮内庁書陵部の別写本がある。

32延人の頃ㅱ一八~四四六一ㅰ宝~鈴保正。詳未年没生家道香斎周鹿。

33歳七四七ㅱ没。六八。ㅰ初め飯束氏、のち菊一年菊年岡沾凉俳人延宝八ㅰ四一六八〇ㅱ生、延享岡

氏。名、房行。号、崔下庵・沾凉な。伊賀上野の人。

34し照参を章一第部二第く詳本、ていつに程過立成の書。

35

源氏千種香源氏物語五十四帖の内桐壺夢浮橋を除いた五十二帖を題材とした組香、

物語巻々の場面を捉え、証歌や証詞を用いて、香名や聞き名目に据え、時に盤物人形に因んだ所作をさ

せるな、物語をより深く楽しめるように考案された組香ある。

36五千種香、源氏物語十源四帖にちなんだ五氏蔵安ㅱ永二年ㅰ一七七三の庫自叙をもつ竹幽文十

(23)

17

四種類の組香の作法を記した伝書ある。物語内容と合わない箇所が少なくない香道蘭之園所収源

氏千種香に対し、竹幽本、物語に合せて手直ししていることが認められる。すなわち、蘭之園所収

源氏千種香源氏小鏡第一系統を参照して考案されたようだが、竹幽本源氏小鏡第二系統、

或、源氏物語そのものに拠っていると考えられる。

37

寄合の場会所の文芸ㅰ中村修也修よくわかる伝統文化の歴史②茶道・香道・華道と水墨画室

町時代淡交社二〇〇六年ㅱ、茶・花・香・連歌が開催される場となる会所やその会合ある寄合

に着目している。

(24)

18

第一部大枝流芳の香道伝書を通して

第一部第一章心遠斎香道叢書と大枝流芳

めに

大口含翠ㅰ1ㅱに師事した御家流の香人、大枝流芳ㅰ宝永半から寛延四年頃ㅱ、香道だけなく、

投壺、貝合等の遊戯や煎茶、花道等、諸芸に秀た人物、その一端雅遊漫録ㅰ宝暦五年都賀庭鐘

序、宝暦一三年刊ㅱ等に窺える。しかし、流芳自身に関して著された記事や記録存外に少なく、生没

年を含めその詳伝不明ある。石田誠太郎大阪人物誌ㅰ石田文庫、一九二六・一九二七年。復刻版、

臨川書店、一九七四年ㅱに拠れ、享保中、桜の宮に住し、流芳のほかに翛然翁・青湾・釣隠等の号を

有し、香道の達人著書が多いこと、また自らの香道書を板行するだけなく、前代のものを編集した

改正香道秘伝ㅰ元文四年刊ㅱ、東山殿御香合ㅰ寛延元年刊ㅱ等があることが解る。

本章、大枝流芳が収集及び編纂書写した香道伝書群心遠斎香道叢書ㅰ写本三四冊ㅱㅰ2ㅱを軸

に、大枝流芳の事蹟を追求し、香道にける大枝流芳の位置を考察する。

まず先行研究に拠り大枝流芳について確認する。

・本名、岩田信安。本姓、大江。一字姓、岩・嵓・厳・江。号、漱芳・四川・青湾・涵青湾・洫叟・翛

然・翛然翁・翛然子・釣隠・釣雪ほか。書斎名、心遠斎・靖共ほかㅰ3ㅱ。

・大枝流芳と岩田信安一人物あるㅰ4ㅱ。

(25)

19

・大枝執筆活動にいて、多くの号を有し岩田姓あるい大枝姓を使っているが、岩田姓の編著書

の大半写本あり、大枝姓のそれ大半が刊本あるㅰ5ㅱ。

・大枝都賀庭鐘より数十年年上、泉谷の二人の出会い享保一八・九年より数年前とすると、大

枝の生年宝永ㅰ一七〇四~一七一〇ㅱの頃かㅰ6ㅱ。

・摂津浪華の人多病のため、療養をかて享保一〇年八月下旬に京都西山、泉谷に隠棲していたㅰ7ㅱ。

・大坂網島に帰棲し風雅を楽しむ生活を送り、心隠者として、香技をもって豪貴の人々と交わったㅰㅱ。

・香事指南者として上本町一目に住いしたㅰ9ㅱ。

・大枝流芳著青湾茶話、上田秋成清風瑣言ㅰ寛政六年刊ㅱにいて典拠として利用された可能

性があるㅰ

10ㅱ。

・没年寛延四年ㅰ一七五一ㅱ五月二四日以降と推定きるㅰ

11ㅱ。

ところ大枝のヨミについて、香道秋の光ㅰ享保一八年刊ㅱ、野衲素雲堂吟阿の序に、

から大枝

の何

がしとてかくれ住

る人

の内〳〵集

をき侍

りける巻

を携

れり。

とルビが振られている。また、心遠のヨミ自分の心境がすに俗界を超越しているㅰ大漢和辞典

巻四大修館書店、一九五七年、九三九頁ㅱに拠るシンエンと考えられㅰ

12ㅱ、京都西山泉谷に隠棲

していた大枝に相応しい号と言えよう。

(26)

20

一心遠斎香道叢書の書写経緯と概要

心遠斎香道叢書ㅰ実践女子大学日野図書館蔵ㅱ、大枝流芳が収集及び編纂書写した香道伝書群、

正編四冊、続編八冊、後編七冊、新編一五冊の計三四冊あるㅰ

13匠伝所翠含口大師ㅱ、冊一一内。の

書ある。正編第四冊古十組香之記末尾に信安漱芳の朱印があり、朱印叢書中この冊のみ

あるが、他の冊もこの冊と筆跡が一なの、全体が大枝自筆の叢書あると認められる。本叢書執

筆にあたり大枝、岩田信安、岩ㅰ厳ㅱ信漱芳、岩田信安漱芳、岩田大江信安、岩信翛然、浪華心遠斎

等の名を用いている。以後、本章大枝流芳統一し、大枝の略称も用いる。

識語の書写年に拠れ、享保一五年ㅰ一七三〇ㅱ四冊、元文元年ㅰ一七三六ㅱ一冊、元文二年四冊、

元文三年一〇冊、元文四年三冊、寛保元年ㅰ一七四一ㅱ一冊、延享元年ㅰ一七四四ㅱ二冊、あとの九

冊に書写年の記載ない。九冊の内新編九香道拾玉以外、その内容からある程度の書写年が推定

きる。

師匠大口含翠について、大枝心遠斎香道叢書新編十香道随筆巻一小引以下のように記し

ている。

余多年、香を好み先に志野流香道を聞といへも委しからず。其後、師を求る事年あり。享保十七

壬子歳一七三二正月九日、偶大口先生に謁して香道を聞、夫より日を追、年を積て習学す。先

生、白川殿の臣・猿嶋帯刀先生の門弟なり。猿嶋氏の香道、西三条殿の末流なり。別に香道伝

来系図、連理香の巻に附して伝ふ。又大口先生の家に志野流も伝あり。志野三世省巴、建部隆勝、

坂内宗拾、本阿弥光悦、光甫、大澤常栄、子常知、大口先生と相承せり。其余米川家の事

(27)

21

を探り、古書を集て口伝を猿嶋氏にうくる。

この記述から大口含翠、三条西の御家流、志野宗信、宗温、省巴へと継承された志野流、坂内宗拾

を経て志野本流から分派した米川流と、三流に通た香人あったことが解るㅰ

14ㅱ。な大口への師

事が享保一七年正月九日あると記されるが、大枝、享保一五年に含翠所持の伝書を書写している

ㅰ本叢書正編一・続編一・二・三、各々の識語に大口氏より写し侍る大口先生所伝なりとあるㅱ

の、享保一五年に、既に二人の交流が始まっていたあろうことが推測きる。

翠川文子ㅰ

15ㅱ、

大枝流芳が、香道の師、大口含翠といつ出会ったかわからない。現存の資料白露結書―享保一

五年二月によって、流芳が紐結びを含翠に伝授し、流芳が含翠所持の香書を書写していることか

ら、享保十五年に二人の交流が始まっていたことが知られる。

と論ている。

また新編九香道拾玉に、

余多年、香を好により、古来の諸書の中に香の事あかるもの散在せるを集て一巻となし、事を考

るの一助とす。

とあり、大枝流芳の香道資料、文献の収集書写、多年にわたって行われたことが推測きる。そう

なけれ、享保一七年正月に大口に師事し、年五月に香道秋の光ㅰ享保一八年刊ㅱ凡例を記すこと

不可能ある。

まず全体を鳥瞰するために、心遠斎香道叢書三四冊を書写年により時系列ㅰ識語年が再校・再清

(28)

22

書・再記等のみのもの、それにしたがったㅱに並べ、そこに大枝の刊本伝書六冊を含め、合計四〇冊

の香道伝書年表を掲る。記載事項、通し番号、心遠斎香道叢書心、刊本刊、識語によ

る書写年が判明しないものについて推定を付し、外題、内題、識語、刊本の場合刊

記、内容、*注記とする。

享保一五年ㅰ一七三〇ㅱ庚戌

1心正編一勅撰六種香記後小松院勅撰六種乃序享保十五年二月岩田信安溶

手灰題。

薫物の書。群書類従本むくさのたとほぼ。

2心続編一参雨斎香之筆記参雨斎香之記

享保十五年霜月岩田信安。後日再考識語に、元文五年余冬中浣岩信漱芳再記。

志野入道宗温在判、香道雑録

3心続編二参雨斎香之筆記三部合冊参雨斎香之筆記享保十五年霜月岩田信安。

参雨斎香之筆記三部ㅰ香之道具唱言葉、盆ノ内置合、香合へ香入様之事ㅱの抜粋

4心続編三香之筆記相阿弥流香炉条々

享保十五年中冬至日岩田漱芳信安。床に香炉置事他二五箇条、香炉灰押図他

*享保一七年ㅰ一七三二ㅱ正月九日、大口含翠に師事か。

(29)

23

享保一八年ㅰ一七三三ㅱ癸丑

5刊香道秋の光附録香志

刊記ㅰ香志末尾ㅱ杳熏堂蔵版/享保十八癸丑七月吉/京師書坊堀川通高辻上ル町植村

藤右衛門/東都書坊通石町三目植村藤三郎/摂陽書坊高麗橋壱目植村藤三郎

*香道秋の光凡例享保壬子ㅰ一七ㅱ年五月中浣大枝流芳誌之

附録香志巻末に以下の広告あり

秋の光続編香道千代の秋全部四冊/追日版行

*香志、四四種の漢籍資料引用に拠る香木類・香器類・雑類に関する細目記述。

6心推定新編一香会式次第香会式次第巌信漱芳父記。

主客の香会手順

7心推定新編二香稽古目録香事稽古目録岩信漱芳父記。

御家流稽古箇条目録初三二箇条・中三二箇条・後二四箇条、計八八箇条

享保一九年ㅰ一七三四ㅱ甲寅

刊香道滝の糸

刊記享保十九甲寅正月吉/京師書坊堀川通高辻上ル町植村藤右衛門梓行/東都書坊通

石町三目植村藤三郎/摂陽書坊高麗橋壱目植村藤三郎

*香道滝の糸跋文享保十八癸丑五月上浣大枝流芳編集

(30)

24

*香道滝の糸上巻末に以下の広告あり

香道秘伝書全部二冊板行出来

右之書古来香道宗匠数家の名作にして/香道の奥義秘事もを記す、証左にそのふ

べき/書なり。

改正増補二冊/追考奥のしほり一冊追而梓行

香道秘伝古書たるにより伝写の誤脱漏不

少/又書面にして難

解秘事もを考増

補する者也京師書坊植村玉枝軒識

*香道滝の糸下巻末に以下の広告あり

香道秋の光附録香志共全四冊

右書先に撰し香道の重宝新古の組香/数多のせ侍る

香道千代の秋/香道深緑全四冊

右両書、追日撰集し出す香道の奥秘/とも考しるし侍るなり

元文元年ㅰ一七三六ㅱ丙辰

9刊香道千代の秋

刊記元文元丙辰七月吉/京師書坊堀川通高辻上ル町植村藤右衛門/東都書坊通石町三

目植村藤三郎/摂陽書坊高麗橋壱目植村藤三郎

*香道千代の秋跋文享保十七壬子歳至日大枝流芳書白文印信安の印、心遠斎香道叢

(31)

25

書正編四古十組香之記末尾白文印と一か

*香道千代の秋下巻之二巻末に以下の広告あり

改正香道秘伝附録奥の枝折/志野古流秘書なり未刻

秋の光附録香志/古組香十品新組香十品有之出来

千代の秋新組三十品/其余重宝の考多し出来

滝の糸古組米川流之書/香包折形火道具図有出来

右大枝流芳子編集の書玉枝軒/板行之分

10

心正編四古十組香之記香之記ㅰ序ㅱ元文元年霜月至日心遠斎主人岩田漱芳記。

香之記序ㅰ細川玄在判、組香古十組意の記、岩田信安の十組香之記跋ㅱ

*朱印叢書中本書のみ。白文印信安朱文印漱芳

1 1

心推定後編一組香十品古組香十品岩田漱芳記。中古組香十品

12

心推定後編二組香十品古組香十品岩田漱芳記。組香十組

13

心推定後編三組香十品古組香十品岩田漱芳記。組香十組

元文二年ㅰ一七三七ㅱ巳

14

心後編四組香残篇組香附録元文二年乙巳

正陽上浣岩田大江信安記。組香八組

15

心新編四香木区別考香木立味香三ヶ秘伝之内

(32)

26

旹元文巳歳八月下浣岩田信安漱芳父書。達味之論、建之木、五味之事、建味考跋

16

心推定新編七木処気味秘考木処気味秘考岩信漱芳父原輯・佐住芳州父増補。

総論、各木処についての本名考証・国号考証、五味之論、一味之名香

*新編四香木区別考に加筆したものと考えられる。

1 7

心推定新編十三香事千代古道』香事千代之古道岩信脩然甫著。

焚香の種々及び香事香道全般についての論説

18

刊香道軒の玉水

刊記元文二巳九月吉/京師書坊堀川通高辻上ル町植村藤右衛門梓行/東都書坊通石

町三目植村藤三郎/摂陽書坊高麗橋壱目植村藤三郎

*香道軒の玉水附録巻末元文元年霜月至日大枝流芳著

*香道軒の玉水上巻末の広告

改正香道秘伝附録奥の枝折/志野古流秘書なり未刻

秋の光附録香志/古組香十品新組香十品有之出来

千代の秋新組香三十品/其余重宝の考多し出来

滝の糸古組香米川流之書/香包折形火道具図有出来

軒の玉水新組十品幷香道古実/重宝の考とも多く著出来

深みとり新組香二十品未刻

千代の古道香道の古意古実の/事ともを著す未刻

(33)

27

右大枝氏の編集の書なり

19

心正編二名香合薫物合記東山殿御香合六種薫物合

元文二年己秋上浣ㅰ校正改正ㅱ岩田江信安書。

東山殿行われたという香合・薫物合の記

20

心新編十香道随筆香道随筆巻一元文巳歳菊秋上浣岩田信安記。

香道雑録、大口師からの聞書、知友、筆者の見聞・伝聞他、江氏新組目録ㅰ六〇組ㅱ

*江氏新組目録に刊行せるもの四十二品、其余十八品の組香名を列挙。跋に深緑と号し、

笥にかくす。他日刊行の志あり。の記述あり。

元文三年ㅰ一七三八ㅱ戌午

21

心新編五蘭奢侍

考蘭奢待考旹元文戌午歳六月上浣浪速岩田信安漱芳父輯録。

蘭奢待記事と蘭奢待図、截香二例と截香考察

22

心続編五実種卿家本亜相実種卿家本香銘二十八條目録

元文三年戌午歳八月廿四日燈山功畢。岩田江信安書。組香の書

*朱寛保元辛酉歳九月十四日於有馬湯山旅以極楽寺本校正畢以為記。

2 3

心推定正編三志野名香合』名香合記岩田信安記。

文亀元年五月二九日志野宗信宅名香合一〇番の記録、三条西実隆跋、連中名

(34)

28

24

心続編四志野流香説志野流香之書旹元文三戌午歳南呂念六日岩田信安漱芳記。

香道雑録*朱酉二月於洛陽一本校正す。

25

心続編六御問目録号一炷煙女御様御問目録八箇条一炷煙

旹元文戌午歳中秋廿九日岩田大江信安漱芳書。

女御様香道質問八箇条と寿命院法印立安回答

26

心続編八香之記三部合冊香之記

香之記茶湯出香之事旹元文戌午歳菊秋十日岩田江信安漱芳記。

香之書香具之事旹元文三戌巳歳菊秋上浣岩田信安漱芳父再書。

香之書炷合之事旹元文三戌午歳菊秋中浣岩田信安漱芳父再記。

三部の書の抜粋

27

心新編十二焼合香秘伝焼合香秘伝書三箇秘伝之内

旹元文三戌午歳長月上浣書於浪華心遠斎。

古十組中の十炷香焼合について大口師よりの口受筆記

28

心続編七香之記名香目録香之書元文三年十二月上浣再清書功畢。岩田江信安漱芳書。

香名集ㅰ一二〇種名香、二〇〇種名香、名香木処分類、一〇種の香・追加六種、木処

口伝、香十徳

29

心後編五香名引歌之書香名引証元文三年暮冬上浣再清書。岩信漱芳父記。香名証歌の書

30

心後編六小笠原流香之記小笠原流家香之記抜書

(35)

29

元文三年暮冬中浣再清書。岩田信安漱芳父記。小笠原家組香の書。特に記録の罫界寸法

31

心新編十一薫香名目志薫香名目志旹元文三年十二月廿九日改正清書終。巌信漱芳甫記。

香名の書ㅰ引証書目、凡例一三条、御家六六種名香、いろ香名集、香名分類他ㅱ

元文四年ㅰ一七三九ㅱ己未

32

心後編七香図式香図式抜書元文四年正月五日清書功畢。岩信漱芳父記。組香書の抜書

33

心新編八新組香残編江氏新組香残編旹元文己未正陽中浣岩信漱芳甫記。香道深緑

34

刊改正香道秘伝・附録奥之栞

刊記元文四年己未五月/京師書坊堀川高辻上ル植村藤右衛門梓行/東都書林通石町三

目植村藤三郎/摂津書舗高麗橋壱目植村藤三郎

*寛文九年( 一六六九) 八月刊香道秘伝書に校正と考察を加えた書。 35

心新編十四香稽古目録全三冊合香事稽古八十八箇条略

元文第四己未歳六月上浣功畢。岩田信安漱芳甫記。

御家流稽古箇条初期の計八八箇条目録と略、香事盟誓八箇条

寛保元年ㅰ一七四一ㅱ辛酉

36

心新編十五続香道随筆香道随筆寛保改元年霜月至日後一。信安記。

香道雑録、野本氏からの伝聞七箇条、師友・筆者の見聞・伝聞

(36)

30

延享元年ㅰ一七四四ㅱ甲子

37

心新編三十組香秘考古十組香秘考延享改元歳中夏再校。岩田信安漱芳考記。

組香の書、古十組香惣論、古十組香考察、米川流組替三組香考察、附録

38

心新編六香道具寸法書香器物寸放書尚象録

延享改元甲子歳夏六月上浣再校功畢。浪華岩信漱芳甫序。香道具寸法書

寛延元年ㅰ一七四八ㅱ戊辰

39

刊東山殿御香合

刊記寛延元年八月/書林洛陽四條京極之西上坂勘兵衛惟勝発梓

書写年不明

40

心新編九香道拾玉

年表の通り、心遠斎香道叢書正、続、後、新編の順執筆されたものない。識語年に再校・

再清書・再記等と記されたものについて、それにしたがい登載したが、それ以前に成立している刊本

と文記述が有る等、原型、刊本以前に成立していた可能性が考えられる。

本叢書三四冊中、大口含翠所伝の書正編四冊、続編五冊ㅰ続編一、二、三、七、八ㅱ、後編一冊ㅰ後

編五ㅱ、新編一冊ㅰ新編五ㅱの一一冊ある。

(37)

31

正編、室町時代の薫物や薫物合に関する書と最初期の組香古十組の書、続編志野、相阿弥、

風早ㅰ実種ㅱ流他、諸流の伝書を扱っている。後編一~四中古より有来る組香四八品を記し、後

編五香名引歌之書、香名と引歌を列挙しているㅰ

16後抜の流川米七編、ㅱ流原笠小六編後。書

ある。新編一五冊、聞書、及び大枝の考察を認めたものが多い。

大枝の門弟、宮崎詮恭による御家流香道伝書群ㅰ国文学研究資料館蔵、

17ㅱ中、外題香書目録内

題師伝書籍目録写本之分ㅰ寛保三年ㅰ一七四三ㅱ一二月二日に宮崎書写ㅱに、伝受過程の書写書目、

全一九冊が列挙されている。この一九冊心遠斎香道叢書の正編四冊、続編八冊、後編七冊に該当

する。宮崎書写本の正、続、後編各冊の貼題簽に正編続編後編の記載がある。宮崎、寛

保二年ㅰ一七四二ㅱ正月に香事千代古道ㅰ新編十三ㅱㅰ

18五新氏江に月正ㅱ四ㅱ七一ㅰ年二享延、組

香残編ㅰ新編八ㅱㅰ

19の実事のられこ。いなれら見記表編ㅱるを書写していが新、各貼題簽にか

ら、心遠斎香道叢書正、続、後編、寛保三年ㅰ一七四三ㅱ師伝書籍目録写本之分以前の段階

整序されていたと推測きるが、新編一五冊について、延享二年ㅰ一七四五ㅱ正月の時点、未だ整

序されていなかった可能性が窺える。

宮崎が書写した師伝書籍目録写本之分の後半に、

右、師伝古書正、続、後編を指す之外、聞書類、覚書、考物之類各々伝来の書にあらされ、

外に出すべからず。志ふかき人口訣を聞て、面々にかき置べき事にこそ。口伝を聞、書留むへき

事ならる器の人に、伝へても益なしと知るべし。

とあり、聞書類、覚書、考物之類伝来の書にあらされ正に新編各書に該当すると考えられる。

(38)

32

したがって、新編一五冊がの時点整序されたか不明あるが、正、続、後編整序後、さらに時間

が必要あったと推測される。

二香道の伝承にける大枝流芳の位置

心遠斎香道叢書、享保一五年ㅰ一七三〇ㅱから延享元年ㅰ一七四四ㅱまの約一五年にわたる、

大枝の考究研鑽の事蹟ある。大枝、元文元年ㅰ一七三六ㅱ~四年の四年間に、全三四冊の内、一八

冊を書写し、その内一〇冊元文三年に集中している。

御家、志野、米川の三流に通た師匠大口に倣い、大枝も諸流の伝書書写に積極的あり、それらに

知見を求め、長短を取捨選択し研鑽につとめた。また故実を重視する姿勢から、組香以前の薫物の書に

も目を向け、これら前代の香事継承と考えられる。

香稽古目録ㅰ新編二。八八箇条の稽古目録ㅱ、師匠大口より茶書の稽古箇条目録に準えて香事稽

古箇条を集めるようされ、大口との審議相談の上に誕生した書、元文四年の香稽古目録ㅰ新編

十四ㅱを経て、大枝の晩年に一〇〇箇条に増補され、後の御家流香道百ケ条口伝秘書ㅰ

20ㅱに結実

する。流派構築のための起点あり、骨格となる伝書を作成し、その増補改正につとめた大枝、御家

流の貢献者と言える。

大枝遠隔地の門弟ㅰ

21型内第次式会香一編新ㅰ書伝の縮ㅱ短てしとえ覚の忘備、にめたの香

元二拾三節ㅱを考案する等、良き指者としての資質も窺える。先述した宮崎詮恭だけなく、大枝門

弟の樋口道ㅰ

22ㅱや江田世恭ㅰ

23の叢本、りてし存残も本写書ㅱ叢道香斎遠心るよにら等書

(39)

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師資相承のために整備され、相伝のテキストとして大いに機能したのある。

第八七条木処気味之事八六条焼合香之式、八八条連理香之秘事とともに三箇之大事

とされ、別に三巻となして家に蔵すと大枝記している。木処ㅰ香木の産出国ㅱの考証を究めた木

処気味秘考ㅰ新編十五ㅱがこの三巻の内の一巻に該当すると考えられる。これ、香木区別香ㅰ新編

四ㅱの検証に加筆した書あり、香道秋の光の附録香志の漢籍資料渉猟―宋、元、明、清に

わたる本草書、博物書、地誌、小説、説郛説郛続といった随筆雑著の精査―をもとに、実証的手

法に拠って香木の本名と産出国の特定を試みた書ある。また大枝香事千代古道ㅰ新編十三ㅱも

香志や書経論語孟子を引用して、香道を論ている。

大枝本叢書後編古組香を精査し、香道千代の秋ㅰ元文元年刊ㅱ跋文、

組香女童に香を聞ならしめ、初心をんとする筌蹄にして、組香香の歌舞妓なるものなり。

何要とせむ。

と記し、香事千代古道ㅰ新編十三ㅱにも、

女わらんべのもてあそぶ十炷香もありとみへたり。組香、そらたきに名香を用ゆまき事古人の

きてなり。組香至て未なる事にて、稽古のため用し事なり。香の歌舞妓なるものなり。

と論ている。く言いながら、彼六〇品の組香を創作し、内四二品を刊行した。香道の要ない

にしても、香道普及のための手引きとして、組香を必要と考えていたあろう大枝、江氏新組香残

編ㅰ新編八ㅱに、新組香香道深緑一〇品を収載している。

組香の素材と言え和歌が多くを占めるなか、大枝説話、漢詩、中国故事等に取材の範を広、

参照

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