発掘されたガラスとアクセサリー
岡山市埋蔵文化財センター特別講演会
2011年10月15日(土)13時30分∼
本日の主題
•
最近の考古学と分析化学との連携で、発掘さ
れたガラスの成分が判明、ユーラシア大陸や
その周辺のガラスの製造年代、地域、伝播の
系統などが次第に解明されつつある
イラン・ガレクティⅠ
-5
号墓出土珠
• 1964年、東京大学イラ ク・イラン遺跡調査団
が、北イラン、ギラーン
州デーラマンのガレク
ティⅠ号丘5号墓で発 掘
• 類例はⅠ号丘9号墓、 Ⅱ号丘3号墓でも出土
• 伴出遺物から前5世紀
(
左
)
イラン・ガレクティⅠ
-
5出土状況
中国湖北随州曾侯乙墓出土珠
1
• 1978年発掘、出土した重層
貼付同心円文珠は西方系 ソーダ石灰ガラス製
• 出土した多数の青銅器に
「曾侯乙」(被葬者)銘、青銅
鏄鐘の「佳(唯)王五十又六 祀、返自酉陽、楚王酓(熊) 章乍(作)曾侯乙宗彜、寞之 于酉陽、其永時用亨」銘文 から楚恵王56年(前433 年)が曾侯乙の歿年
中国湖北随州曾侯乙墓出土珠
2
• 「随侯之珠」前漢劉安 (∼前122)『淮南子』覧 冥訓
• 類例は河南洛陽中州
西方出土の貼付斑文珠
• (左)スペイン、イビザ島 出土、前5世紀
• (右)チェコ、ボヘミア、 ヴィツェニツェ、クラト
中国河北中山国王「興
+
昔」墓出土珠
• 戦国中山国王「興+昔」 (前314∼前310年歿) 墓および3号陪葬墓出 土重層貼付円文珠
• 青色部分:低マンガン のコバルト鉱石使用に
よるソーダ石灰ガラス、
白色部分:高アンチモ
河南輝県固囲村出土珠
• (上)固囲村1号墓出土 珠(前4世紀)
• (下)固囲村5号墓出土 玉ガラス象嵌金包銀帯
西方出土の七曜文珠
1
(伊・独)
• (上)伊ボローニャ、セル トーサ169号墓出土珠 (前400年頃)
• (下)独ザールラント、ラ
インハイム女首長墓出
土珠(前400年頃)
• 西方の七曜文珠は、同 色で他の文様単位も併
西方出土の七曜文珠
2
西方出土七曜文珠
3
中国製バリウム鉛ガラスによる
七曜文珠
1
• (上)湖北荊州江陵馬山1
号楚墓出土珠:七曜文すべ て同色、でも他の文様単位 は併用しており、他色も使 用
• (下)湖南湘郷牛形山1号
中国製バリウム鉛ガラスによる
七曜文珠
2
• (上)東京国立博物館 蔵、連珠文帯、四放射
円文加わる
伝洛陽金村出土嵌ガラス背鏡
米ハーバード大学
バリウム鉛ガラス
1
• 鉛を40%以下、バリウムを10%程 度含み、戦国∼漢代の中国を中 心とした東アジアに特有のガラス
• 湖南長沙出土璧Pb:37.24%、Ba:
10.36%、Na:5.02%
• 鉛を加えると融点が下がり、柔ら かく細工しやすいガラスとなる が、バリウムは加えても何の意味 もない。当時、鉛を採掘した鉱山 の鉱石にバリウムも含まれてお り、鉛ガラスをつくろうとして、バリ ウムも混入した、という見解が一 般的
バリウム鉛ガラス
2
• (上)福岡県三雲南小路伊都国王 墓1号甕棺(弥生中期後半)出土 のガラス璧(1,2号甕棺合わせて 少なくとも8枚のガラス璧が副葬)
• (下)同出土ガラス勾玉
• 両者に含まれる鉛同位体比の一 致から、流入した中国製ガラス璧 を砕いて開放鋳型に充填し、加 熱して勾玉に成形したものと考え られる
ガラス勾玉とその鋳型
1
• 現在知られている日本最古の勾 玉鋳型:山口県下七見遺跡工房 址(弥生中期初頭)出土
• 右は出土鋳型による復元勾玉
(復元長5.2cm)
• 勾玉としてはかなり大型(尾部欠 損、勾玉部分の現存長4.4cm)
• 長方形単体鋳型、勾玉頭部が異 常に大きく、孔が無いのが特徴
ガラス勾玉とその鋳型
2
• (上)福岡県春日市赤井手
遺跡(弥生後期)出土ガラス 勾玉鋳型(有孔)、大型勾玉 の例:長方形縦型単体鋳型
• (下)福岡県春日市須玖五
ガラス勾玉とその鋳型
3
• 京都府向日市芝ケ本遺 跡(古墳前期4c)出土勾 玉鋳型、上:焼成土製、 下:砂岩石製、石製は裏 面にも窪みがあり両面
バリウム鉛ガラス
3
• (上)佐賀県吉野ケ里遺 跡出土芯巻き芯去り珠
(Pb:35.72%、Ba:
11.43%、Na:6.82%、Si:
41.20%)
• (下)韓国扶余合松里古 墳(前2c)出土芯巻き芯 去り珠(吉野ケ里出土例 に比べ、シリカと銅が多
では中国では最初からバリウム鉛ガ
ラスだったのか、実はもっと古くから独
特のカリ石灰ガラスがあった
• 西方のカリ石灰ガラスと異
なり、原料に植物灰でなくカ リ硝石を使用しているため、 マグネシアが1%以下で、カ リ15%、石灰5%、アルミナ
2%程度を含む、中国独特
のガラスの一つ
• 越王勾践(鳩浅、前465年
越王勾践(前
465
年歿)銘
鍍金銀トルコ石ガラス象嵌剣
• (上)越王勾践剣格象嵌 カリ石灰ガラス
• 剣飾の名称:剣首
(琫)、鐔タン(格)、珥(璏
エイ、璲スイ)、削(室)、剣 尾(珌)
硝石を用いたカリガラス
1
• 低マグネシア(1%以下)、低
石灰(1%以下)で、カリを
15%、アルミナを6%程度含
む、原料にカリ硝石と石英と を使用した、南中国などを 中心とした東アジア独特の カリガラス
• 中国広西貴県前漢墓出土
杯(K:15.61%、Al:6.24%、
Si:74.66%、Mg:0.57%、Ca:
硝石を用いたカリガラス
2
硝石を用いたカリガラス
3
• 京都府大宮町三坂神 社墳墓群(弥生後期)出 土管珠、硬いガラスで、
鋳造後、石の穿孔法を
応用して両側から穿孔
硝石を用いたカリガラス
4
1995
年唐史道洛墓
(658
年葬
)
の発掘
• 出土した被葬者人骨
(頭骨)を測定したところ、
コーカソイド(白人)であ ることを確認
• 出土した被葬者・史道
洛の墓誌「大唐故左親
高鉛ガラス
• (上)筆者らが中国で合同発 掘した寧夏固原・史道洛墓 (658年葬)や史訶耽墓
(669年葬)、史鉄棒墓(670 年葬)、陝西省羊頭鎮・李爽 墓(668年葬)で出土した緑 色六曲杯、Pb:71.49%、Si:
26.57%、Al:1.64%の高鉛
ガラス
• (下)同出土の黄色花弁は
Pb:70.26%、Si:28.54%、Al:
1.18%、黄色花芯はPb:
69.59%、Si:28.63%、Al:
『隋書』何稠伝に見える
高鉛ガラス復活の記事
八曲長杯
• 緑ガラス八曲長杯、8世 紀、ボストン美術館蔵
• 白玉八曲長杯、1970年
陝西西安市何家村窖
正倉院の十二曲長杯
• 鉛ガラス十二曲長杯、 正倉院宝物(中倉72 号)、β線後方散乱法に より55%前後の鉛ガラ ス製
• 器全体に亘る大小の気 泡が一定の方向に並
んでいないことから、鋳
型による鋳造と考えら
韓国弥勒寺出土の高鉛ガラス板
高鉛ガラス板
1
• 福岡県宗像市宮地嶽古墳 出土ガラス板
• 濃緑色、厚さ1.2cm程度の 断片、接合すれば長さ
17.6cm、幅10.9cm程度の
板となる
• 鉛74.0%程度の高鉛ガラ
ス、銅着色
• 熔けた高鉛ガラスを、移動・ 保管に便利なように方形の 板状にして整えたもの
高鉛ガラス板
2
• (上)福岡県北九州市福 間沢古墳出土ガラス板
• (下)奈良県桜井市安倍 寺遺跡三本柿地区工
弥勒寺出土高鉛ガラス珠
高鉛ガラス珠
1
• (左上下共)宮地嶽古墳出 土珠
• 芯巻き芯去り技法、径0.8∼
1.5cm
• 奈良薬師寺金堂本尊薬師 如来台座下、同金堂基壇
(養老2年(718年)遷移)出
土珠
• 奈良元興寺(同年創建)塔 址基壇出土珠
• 興福寺北円堂須弥壇下出 土珠
高鉛ガラス珠
2
• (左)奈良興福寺中金堂鎮 壇具(8世紀)ガラス平珠
• 緑、淡緑、黄、褐、濃褐の5色
• 奈良正倉院文書中に、天平
6年(734年)5月1日の興福
寺西金堂造営に関する造 仏所作物帳の断簡があり、 黒鉛(金属鉛)を加熱熔解し て鉛丹(四酸化三鉛
Pb3O4)を精製し、これと白
奈良時代の高鉛ガラス製作の実例
• 奈良飛鳥寺の東南、飛鳥池遺跡から金・
銀・銅・鉄・玉・漆の製作工房とともに、原
料からのガラス製造(後方に写ったガラス
原料は、石英・長石・方鉛鉱と、方鉛鉱を
焼成した酸化鉛)とガラス成形を行ってい
た工房址(7世紀後半∼8世紀初頭)が出
土
• 炭を燃やした多くの炉跡と鞴(ふいご)の
羽口も出土、炉中に炭を燃やし、砕いた石 英・長石に酸化鉛を加えた坩堝を燃える 炭中に埋め、鞴で風を送って温度を上げ、 ガラス化させて原料ガラスを作製、更に 焼き直して純度を上げ、着色料を加えて 材料ガラスとし、これをさまざまの形態に 成形したものと考えられる
• 砲弾型尖底坩堝(隅丸長方形鈕の笠型
蓋を伴う)の内面に、緑・赤褐・黄褐・乳白 色の高鉛ガラスが付着
• 韓国では、この形態の坩堝が、扶余扶蘇
高アルミナのソーダ石灰ガラスは
岡山でも出土1
• 同じ飛鳥池ガラス工房址出 土(7世紀後半∼8世紀初 頭)でもたこ焼き式小珠鋳 型付着は、長石を原料とし た高アルミナのソーダ石灰 ガラス(インド東南アジア系)
• (上)岡山市鹿田遺跡(弥生 中期)出土ガラス炉址
• (下)同出土ガラス残滓
• 福岡市西新町竪穴住居址
(弥生中期)出土大理石文 珠は、青色部分がAl:
9.63%、白色部分がAl:
高アルミナのソーダ石灰ガラスは
岡山でも出土2
• (上)岡山市上道北方の 塚段古墳出土重層珠
も、高アルミナのソーダ
石灰ガラス製(6世紀)
• 他に島根県安来市小 沙手B群9号横穴墓(6 世紀後半)出土銀層珠
• (下)奈良県藤ノ木古墳
我々の中国発掘でも出土
• 我々が合同発掘した中 国寧夏固原田弘墓(北 周575年葬)出土珠
• 青色部分Al:9.3%、Na:
5.7%、Ca:7.3%、K:
3.7%、Mg:0.1%、Si:
71%、白色部分Al:
5.7%、Na:8.1%、Ca:
5.5%、K:1.8%、Mg:
2.9%、Pb:4.4%、Sn: