3 新古典派成長理論
3.1 今回のアウトライン
A. 経済成長に関するシンプルな説明が理解できるようになる
3.2 成長の描写と決定要因の表現
A. 1960年の韓国とフィリピンがはほぼ同じ経済的境遇と現在の落差
1. 現在の経済状態の差はどうしてあるのか
B. 一人あたり資本装備率の重要性をシンプルな描写で試みる
3.3 モデル設定
A. 生産:コブ=ダグラス型生産関数で表現
1. 規模に関して収穫一定:技術的特性が成長のドライバーとしない
Yt = ¯AKt1/3L2t/3 (3.1)
B. 家計:所得を消費と投資に配分
1. 家計は資源制約 (Resource Constraint) に直面
Yt = Ct+ It (3.2)
2. この時、さらに投資には所得の一定割合 s だけすると仮定する
It= sYt (3.3)
3. 裏返せば、消費も所得の一定割合 Ct= Yt− It = (1 − s)Yt
4. 家計の労働供給は (賃金率に関係なく) 一定と設定
Lt= ¯L (3.4)
C. マクロの恒等式
1. 資本蓄積方程式:生産の投入要素
2. 生産活動における資本の摩耗を資本減耗 ( ¯d·Kt)で、通常の想定は 5∼10%(テ キストでは 7∼10%)
¯
3. なお、0 期の資本ストック K0を初期時点の資本ストックという 4. 資本蓄積を数値例で考えてみる (資本減耗 10%)
期間 資本ストック 投資 資本減耗 資本の増分
1 1000 200 100 100
2 1100 200 110 90
3 1190 200 (1) (2)
4 (3)
5. 差分表記 ∆Kt+1 = Kt+1− Ktを使うと、次のように表せる
∆Kt+1= It−d · K¯ t ∵Kt+1− Kt = It−d · K¯ t (3.6)
D. 所得は賃金と利払で決まる
Yt= rKt+ wLt (3.7)
3.4 モデルの帰結を求める
A. 各要因を適切に組み込んで、その帰結 (Ytの状態) を表現する 1. 内生変数:Yt, Kt, Lt, Ct, It,
2. 外生変数: ¯A, ¯L 3. パラメータ:¯s, ¯d, ¯K0
B. 次に代数的に解いてみる
1. まず、労働が一定 Lt= ¯Lなので、
Yt = ¯AKt1/3L¯2/3 (3.8)
2. 次に、投資は所得の関数なので以下のように表現できる
∆Kt+1= ¯sYt−d · K¯ t ∵It = (3.9) C. さらに、生産を代入すると、以下の関数が得られる
∆Kt+1 = ¯s ¯AKt1/3L¯2/3−d · K¯ t (3.10) 1. 資本蓄積関数 ∆Kt+1が Lt, Ktで決まる
2. ∆Kt+1= 0となると、生産増加が止まる
D. 仮に ∆Kt+1= 0を前提として、国民所得の水準を求める
¯
s ¯AK∗13L¯23 −d · K¯ ∗ = 0 (3.11)
E. 経済が定率 (ここでは 0) で変化する定常状態がわかる F. 労働一単位あたりに直すとさらに明確
y= Y
L = (3.12)
G. さらに、グラフでその関係を表現することもできる
固 定 資 本 減 耗 投 資
資本
1. 数式やグラフは定常状態だけでなく様々な情報を持つ
3.5 均衡における特性
A. 成長率はどうなるか
固 定 資 本 減 耗 投 資
資本
B. 補足:資本蓄積関数の解析的な表現
∆Kt+1 = ¯sYt−d · K¯ t (3.13)
∆Kt+1
Kt = ¯s Yt
Kt −d¯ (3.14)
ところで、定常状態の条件から ¯sY∗ = ¯dK∗が成り立つことから ¯dを置きかえ、 t時点、定常状態共に生産関数 Y = ¯s ¯AKt1/3L¯2/3を利用すると、
C. 投資率の違い
固 定 資 本 減 耗 投 資
資本
D. 資本減耗の違い
固 定 資 本 減 耗 投 資
資本
E. 技術や人口の増加
固 定 資 本 減 耗 投 資
資本
3.6 ソロー・モデルの限界
A. 投資率だけで経済水準の格差の全てを説明しきれない (テキスト p.169)
B. なぜ投資率が違うのかを説明できない
C. 成長が止まってしまうはずが、現実は成長が続いていることとの齟齬
3.7 具体的なモデル設定を使いながら説明しなさい
A. 戦争や自然災害によって、人口は減少しなかったが、生産資本だけが大きく減 少したとすると、ソロー・モデルでは災害発生時どのような状況になり、その のちどのような経路をたどるのか
1. 資本と総生産の経路はどうなるか
2. 資本の限界生産物が利子率に、労働の限界生産物が賃金にそれぞれ等しい 時、利子率と賃金はどうなるか
3. 人々が貯蓄を手控えるようになった場合、変わらなかった場合に比べて、定 常状態での一人あたり賃金水準はどうなるのか