労働経済学2(第 10 回)
広島大学国際協力研究科
川田恵介
年功賃金
• 一般に、賃金は勤続年数が増えるにつれて、増大する 傾向にある。⇒
• 日本企業の特性として、特に強調される⇒実際には、 アメリカのトップ企業においても、同様の賃金体系は観 察される。
• の観点から、説明を試みる。
動学モデル
• 訓練を行ったかどうかは立証不可能であるが、企業に とって観察可能である。
• 雇用しているかどうかは、立証可能である。
• 企業は0期目の最初に、賃金契約 �0, �1 を提示する。
• 企業は0期目と1期目の間に、企業は労働者が技能蓄 積を行わなかった場合、解雇する(出世させない)。⇒ 労働者の効用はy。
労働者による訓練
• 労働者が訓練を行う条件(IC条件)は、
• IR条件は、(1期目) (2期目)
• 1期目のIR条件を等号で満たした場合、企業の利潤は 最大になるので、
• これをIC条件に代入すると、
• よって最適な報酬体系は、
後払い賃金
• 0期目と1期目の間に十分な差を設ける年功賃金的な 報酬体系において、企業利潤は最大化される。
• 0期目において、労働者は自身の生産性以下の報酬し か受け取っておらず、その分1期目に多くの賃金を受け 取る、 的な報酬体系となる。
• 転職の抑制等にも活用される。
Decision Making
• ここまでは、ある業務が外生的に存在し、組織の構成 員の利害が衝突する中で、うまく業務を遂行できる制度 の在り方について、議論してきた。
• どのような業務が必要になるかは、組織全体での意思 決定(どのような事業を行うか、新しい工場を建設する か等)、に大きく依存する。
• 意思決定の結果は、意思決定の仕組みに大きな影響 を受ける。
業務の流れ
1. (組織の新しい選択肢を提案する。) 2. (提案を採用するかどうかを決める。) 3. (採用された提案を実行に移す。)
4. (実行した結果を総括する。)
ここまでの分析においては、実行と評価について重点的な 分析を行った。
労働経済学1
• 労働経済学1における需要分析の主題は、企業全体で の意思決定であった(労働者を何人雇うか、どのような 商品を作るか、資本(工場)をどの程度購入するか等)
• 企業は外生的な目的(利潤最大化)を持っており、その 目的を達成できるように、意思決定を行う。
• 利潤最大化を目的としない組織を扱う場合でも、分析 手法は基本的に同じ。
労働経済学1の問題点
• 企業の意思決定が、あたかも で行われ ているように、扱っている。
• 現実の組織において、意思決定プロセスに が介在している(例、企業:取締役会、経済学部:教授 会、私学:理事会、政府:国会、等)。⇒意思決定プロセ スをブラックボックス化している。
労働経済学1の問題点
• ある程度以上の規模を持つ組織では、意思決定は
に行われている(例:どのような新製品の開発する か(CEO)、どのような技術を採用するか(開発部門)、どの ようなプロモーションを行うか(営業、宣伝部))。
• 組織の構成員間の利害の対立を乗り越えて、以下に上 手く意思決定を行うか、という問題はどの組織において も極めて重要である。
注意点
• 本講義の目的は、正しい意思決定とはなにか?を考察 することではなく、意思決定を行う仕組み(制度)を考察 の対象とする。
• 隣接分野としては、政治学(特に政治科学)がある。
間違った意思決定とは?
二つの間違いが存在する。 Type 1 error:
Type 2 error:
• 状況に応じて、組織にとってどちらの間違いがより深刻 なのかは、変化する。(例:企業間競争が緩ければtype 1 errorを犯しても企業は倒産しないが、過酷な場合は 倒産してしまう。)
情報の重要性
• 正確な意思決定を行うためには、きわめて多くの情報 が必要である(例:市場の状況、ライバルの動向等)。
• 通常、組織において情報は、分散的に保有されている
(例:市場環境は営業部門が、製造プロセスにおける問 題点は製造部門が、一番よく知っている)。
分散している情報をうまく生かせる意思決定の制度が必要 になる。
集権的意思決定
意思決定者
現場
現場 現場
情 報
指 示
が容易ならば、少なくとも意思決定者にとっ ては望ましい仕組みである。
現実的には、情報伝達には費用がかかる。
情報伝達の問題
情報伝達を行う費用を決定する要因には、以下がある。 鮮度:情報が古くなる速度が速い。
複雑さ:多くの事項を伝達する必要がある。
専門性:理解するために、専門知識が必要となる。 主観:客観的に説明しにくい。
情報を生かすために意思決定者には、 を持たせるインセンティブが存在する。
基本モデル
• 各個人は選択肢の価値について、シグナルを受け取る。
• 便益は確率1/2でG、確率1/2でB(<G)となる。
• 便益がGである場合シグナルを受け取る確率は��、Bで ある場合シグナルを受け取る確率は�� である(�� > �� )。
• シグナルを受け取った場合、各個人は選択肢を実行す ることを望む、受け取らなかった場合は望まないとする。
• シグナルの内容を、他者に伝達することは
基本モデル
集権的意思決定
• 個人Aが実行するかどうかを決める。 Type 1 errorを犯す確率:
(便益がGであり“かつ”シグナル無し)の確率
=便益がGである確率×シグナル無しの確率
Type 2 errorを犯す確率:便益がBである確率×シグナル 有りの確率
基本モデル
分権的意思決定
• 両者が同意したときのみ、プロジェクトを実行する。 Type 1 errorを犯す確率:
(便益がGであり“かつ”(Aのシグナル無し“または”Bのシ グナル無し))の確率
=便益がGである確率×(Aのシグナル無しの確率+Bの シグナル無しの確率)
基本モデル
分権的意思決定
Type 2 errorを犯す確率:=(便益がBであり“かつ”(Aのシ グナル有り“かつ”Bのシグナル有り))の確率
集権VS分権 Type 1 errorを犯す確率の差:
Type 2 errorを犯す確率の差:
まとめ
• 分権的な意思決定は、 は犯しにくい代わり に、 を犯しやすい。
• Type 2 errorがType 1 errorに比べて相対的に深刻な場 合は、分権的な意思決定が望ましい。
• ��が大きい(Gのときは確実にシグナルがでる)のであ れば、 Type 1 errorに関して差が少ないため、分権的な 意思決定が望ましい。