he Study of Games
Chap.3 Anthropological Sources
サーベイ論文
内容は 2 つに大別される。
・キューリンの略歴と書誌(不完全)。アヴェドンミュージアムのサイト掲載のものと同一であり、
he Game Makers
報告の麻雀を扱った箇所と重複するので割愛。・ゲームの伝播について
20 世紀初頭、キューリンは「伝播主義者」とされ批判を受けた。ゲームの類似点にばかり着目し、不一致点に注意を払っ ていない。各文化内でのその形質(ゲーム)が果たす固有の機能的文脈に無頓着であるとされた。
[恐らくボアズ学派による批判だろうと思われるが、北米原住民のゲームに関するキューリンの記述(後述)に合致 しない。キューリンの原著をほとんど未読なので確かなことは言えないが、より広い地域を扱った伝播論についての 批判だろう]
収録論文
全 4 本を収録。内 2 本がパトリ/パチーシ問題に関するもの。エドワード・タイラー(進化論的人類学の確立者。文 化接触の手がかりとしてゲームを利用した初の人物)は中米アステカのゲーム「パトリ」をインドからの伝播による ものだとし、その主張は 50 年にわたって概ね受け入れられていたが、エラスムスの 1950 年の論文によって批判さ れ、以後並行説が主流となった(
R.Barry Lewis, "Old World Dice in the Protohistoric Southern United Stetes",
1988
)。エラスムス論文にはタイラーの主張もまとめられているので、こちらを見ていく。チャールズ・ジョン・エラスムス「パトリ・パチーシおよび可能性の制限」(1950) タイラー「古代メキシコのゲーム「パトリ」とそのアジア起源の有力性について」(1879)
パチーシもパトリも十字形のトラックを使い、複数のダイス(ロット)を振ってコマを進める。この類似から独立に できたものとは考えられず、金属加工・建築・宗教制度等と同様にアジアから来たものである。
北米のロットを用いるギャンブルゲーム(ボードがない)は、中米から伝わったもの。この主張はその後の age-area 仮説(広範囲に広まっているものの方が時代が古い)に反している。
タイラー「コロンブス以前の対アジア交流の証拠としてのアメリカのロットゲームについて」(1896) ゲームを構成要素に分化して比較。
・ロットゲーム
・ギャンブル
・目の組み合わせとコマの進む数に確率を適用している
・コマのボードへの出し方/進め方/取り方
[
Parlett
のhe Oxford History of Board Games
によれば、パトリについて判明していることは、ギャンブルに用い られる、5 つのロットを振る、赤・青のコマが各色 6 つある/ボード形状/出目とコマ歩数(16 世紀作成の報告書Codex Mendoza
による。ただし出目と歩数はパトリについて調査報告したデュランの推測が大きい)だけであり、「コマを取る(飛ばす)」という記述はない] その後 50 年間、タイラーの意見が主流となる。
対して、キューリンはパトリをアメリカ起源だと考えた。 キューリン「チェスとトランプ」(1896)
アジアとアメリカのゲームの同一性は、「全物を 4 方向に分類する」といった人間の「神話的」普遍性によるもの。 キューリン『北米アメリカインディアンのゲーム』(1907)
基本的には上記と同様の立場。また、パトリのような複雑なゲームが原初であることは考えられないとし、合衆国南 部から中米への伝播を考える。地理的移動による単純から複雑への発展。age-space 仮説との一致。
age-space 仮説をとるアルフレッド・クローバーが、なぜタイラーの意見に与したか? クローバー「文化成長と生物進化における歴史の再構築」(1931)
生物進化論にならい、平行進化と伝播・共通祖先を峻別する方法論。相同・相似を人類学者はうまく扱えていない。 タイラーに従い、パトリ/パチーシにこれほどの同一要素があるのなら相同であるとする。
著者コメント:生物学には分類学の基盤があるのに対し、無形文化比較には解釈を伴わざるをえない。 後、クローバーは確信が持てなくなっていく。
クローバー『人類学』(1948)
タイラーの時代にパトリ以外でアジア起源とされたものは、現在否定されている。パチーシ以外は受容されなかった、 死に絶えた、もしくは起源がわからないほど変容したのだとする意見はありそうもない。しかし類似点を見れば平行 説もありそうにない。どちらを重視するか?
「両ゲームの独立性があり得ない」が間違っているのではないか。オルタナティブな発展経路はどれほどあったのか? あるものの発明は次に影響を与えるのではないか。
要素別考察
・平坦なダイス
ダイスは機能的に面があることが重要であり、形状は原料によるものでそれほど重要とは思われない。ダイスは北米 全体で使われていたし、フラットなダイスに限っても北米での使用例がある(骨製)。
・複数を投げて、確率を適用する
困難な出目がたくさん進めるというだけで、実際の確率から導き出される数値とは異なる。ここで言う適用とはなに か。この程度の「適用」なら、ダイス使用に必ず付随するのではないか。彼らが確率論をわかっていたとするなら間 違いだ。
・スコアボード(ゲームボード)
ダイスを使う北米・南米諸民族は、得点集計のためにダイス自体を使ったり、カウンターを貯めたりしていた。これ とボードとには本質的差異よりも連続性が見てとれる。
・コマを出す/進める/取る
ボードの出現によりコマに注目が行くようになり、レースゲームとなる。レースのヴァリエーションは限られている。 コマとボードのコンフリクトか、コマ同士のそれ。アメリカ原住民の大部分のゲームはプレイヤーにつきコマ 1 個を 用いるが、南西部や南米ではコマを飛ばす例もある。グアテマラではコマを乗っ取るものもある。
ボードの機能(スタートに戻るマス等)も南米と北米南西部に例がある。
アメリカのダイス・ボードゲームでのコマの進め方はパチーシと異なり、両者のコマは反対方向に動く。
・十字形ボード
スペース節約のため、トラックパターンは制限されるだろう。とはいっても他にも様々なパターンがあり得る。十字 は一般的でないデザインか? そもそもこのふたつは同一デザインか?
・占い用ロットの発明とそのギャンブルへの適用
ダイスのアメリカへの拡がりから見て、その起源は古いだろう。考古学の発掘例もこれを裏付ける。旧世界から移入 されたとは考えにくい。広く普及しているダイスから、パトリとパチーシは独立に生まれたと見るのが自然ではない か? もちろん完全な証拠はないし、見つかりそうもないが。
以下ボアズ等が可能性の制限に注意を払っていたことについて等。割愛。