LAMER:海洋環境放射能による長期的
地球規模リスク評価モデル
LAMER : Long-term Assessment Model of Radionuclides in the Oceans
中野 政尚 Masanao NAKANO
東海研究開発センター 核燃料サイクル工学研究所 放射線管理部 Radiation Protection Department Nuclear Fuel Cycle Engineering Laboratories Tokai Research and Development Center
より発信されています。このほか財団法人原子力弘済会資料センター では実費による複写頒布を行っ ております。
〒319-1195 茨城県那珂郡東海村白方白根 2 番地 4
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違 Japan Atomic Energy Agency, 2008
LAMER : 海洋環境放射能による長期的地球規模リスク評価モデル
日本原子力研究開発機構東海研究開発センター 核燃料サイクル工学研究所放射線管理部
中野 政尚1
(2007 年 11 月 28 日受理)
LAMER は,海洋に投入された放射性物質の移流・拡散・スキャベンジング過程を長期的に 地球規模でシミュレートすることにより海水中放射性物質濃度分布を計算し,その放射性 物質が海水から海産生物,人へ移行する過程を考えることによって,海産生物摂取に起因 する実効線量を計算するコードである。
移流過程を与える年平均 3 次元流速場の計算には海洋大循環モデルを,移流過程には粒子 追跡モデルを,拡散過程にはランダムウォークモデルを,スキャベンジング過程には可逆 交換モデルを採用し,海水中放射性物質濃度 3 次元分布を計算する。海水から海産生物, 人への移行については,濃縮係数,海産生物摂取量,実効線量係数を用いて計算する。
適用例として,1945 年から 1980 年にかけて行われた大気圏内核爆発実験によって海洋へ 投入された主要放射性核種から人類への平均的な実効線量を計算した。
なお,放射性核種鉛直分布を出力するプログラム等,線量計算に直接関係のない事項,及 び LAMER のファイル構造等については,付録に示した。
核燃料サイクル工学研究所: 〒319-1194 茨城県那珂郡東海村村松 4-33
LAMER : Long-term Assessment Model of Radionuclides in the Oceans
Masanao NAKANO
Radiation Protection Department Nuclear Fuel Cycle Engineering Laboratories
Tokai Research and Development Center Japan Atomic Energy Agency Tokai-mura, Naka-gun, Ibaraki-ken
(Received November 28, 2007)
LAMER is a calculation code which calculates the radionuclides distribution in seawater by simulating long-term advection, duffusion, and scavenging processes in worldwide scale. Then, the effective dose to the public is calculated by considering the transfer process from seawater to the human beings via marine products.
The oceanic general circulation model was adopted for calculation of three-dimensional velocity field, particle tracking model for advection process, random walk model for diffusion process, and exchangable model for scavenging process.
For an example, LAMER calculated the averaged effective dose to the humann beings from the main radionuclides which were discharged by the atmospheric nuclear tests conducted between 1945 and 1980.
In addition, the programs for output of water profile of radionuclides and the file structure of LAMER are described in the appendices.
Keywords: LAMER, Advection, Duffusion, Scavenging, Effective Dose,
Atmospheric Nuclear Tests, Radionuclides, Seawater, Ocean, Marine Product
目 次
1. 緒言 ... 1
2. 定式化 ... 2
2.1 概要 ... 2
2.2 海洋大循環モデル... 3
2.3 移流拡散過程... 4
2.4 スキャベンジング過程... 6
2.5 平均実効線量の算出式... 8
3. LAMER の計算 ... 12
3.1 概要 ... 12
3.2 可溶性元素移流拡散プログラム:LAMER-A1-Csdrift ... 12
3.3 可溶性元素濃度算出プログラム:LAMER-A2-CsWaterTable ... 14
3.4 非可溶性元素濃度算出プログラム:LAMER-A1-Pudrift ... 14
3.5 非可溶性元素濃度変換プログラム:LAMER-A2-Pudrift ... 16
3.6 地域平均化プログラム:LAMER-B1... 16
3.7 線量算出プログラム:LAMER-B2... 16
4. LAMER 入力データ ... 17
4.1 可溶性元素計算入力ファイル:setfileCs.txt ... 17
4.2 非可溶性元素計算入力ファイル:setfilePu.txt ... 18
4.3 線量計算入力ファイル:setfileDose.txt... 19
5. LAMER 計算例... 21
5.1 概要 ... 21
5.2 入力条件(降下量分布(時間,空間)の推定)... 21
5.3 海水中濃度計算結果... 23
5.4 実効線量計算結果... 27
6. 結言 ... 31
参考文献 ... 32
付録 1 海水中鉛直分布等を出力するプログラム ... 34
付録 2 ファイル構造 ... 36
付録 3 プログラム開発環境とインストール ... 37
Contents
1. Introduction ... 1
2. Formulation ... 2
2.1 Outline... 2
2.2 Oceanic General Circulation Model... 3
2.3 Advection and Diffusion Processes... 4
2.4 Scavenging Model Process... 6
2.5 Formula of Averaged Effective Dose... 8
3. Calculation of LAMER ... 12
3.1 Outline... 12
3.2 Advection and Diffusion Program for Soluble Element:LAMER-A1-Csdrift .. 12
3.3 Concentration Calculation Program for Soluble Element:LAMER-A2-CsWaterTable ... 14
3.4 Concentration Calculation Program for Insoluble Element:LAMER-A1-Pudrift ... 14
3.5 Conversion Program for Insoluble Element:LAMER-A2-Pudrift ... 16
3.6 Area Average Program :LAMER-B1... 16
3.7 Dose Calculation Program:LAMER-B2... 16
4. Input Data for LAMER ... 17
4.1 Input File of Soluble Element:setfileCs.txt ... 17
4.2 Input File of insoluble Element:setfilePu.txt ... 18
4.3 Input File of Dose:setfileDose.txt... 19
5. Sample Run of LAMER ... 21
5.1 Outline... 21
5.2 Input Condition (Estimation of Fallout Distribution (Chronological and spatial))... 21
5.3 Calculation Result of Concentration in Seawater ... 23
5.4 Calculation Result of Effective Dose... 27
6. Conclusion ... 31
References ... 32
Appendix 1 Program for output of water profile ... 34
Appendix 2 File structure ... 36
Appendix 3 Program development and install ... 37
1. 緒言
原子力施設,放射性物質輸送船事故等からの海洋放出による放射性物質についての拡散 研究は施設からのリスク評価及び将来の地球環境の保護に対する関心の高さから重要度が 増している。また,計算機の発展に伴い,海洋学の分野で海洋大循環モデルなどのコンピ ュータ計算手法が大きく進歩してきた。そのため,海洋学で得られた知見を放射性物質の 海洋拡散に応用し,広域における長期的な拡散評価手法の開発は核燃料サイクルに伴う地 球規模でのリスク評価に役立つものと思われる。
これまでに,セラフィールドやラアーグ再処理工場からの認可された海洋放出に対する 放射性物質の拡散1)や,放射性廃棄物投棄地点からの放出2),ムルロアの地下核実験場から の南太平洋への放出3),あるいは北極海周辺で沈没した原子力船,原子力潜水艦からの放出
4)による拡散及びリスク評価がモデル化されてきた。
しかしながら,放射性物質の長期的な地球規模での拡散がモデル化され,評価された例 はない。そのため,海洋環境放射能による長期的地球規模リスク評価モデル(Long-term Assessment ModEl of Radionuclides in the Oceans; LAMER「ラ・メール」:仏語で海を意 味する。)を構築した。本報告書では LAMER の広域拡散モデル及び実効線量算出に関する計 算プログラムを紹介する。
計算例として,大気圏内核実験による降下物中セシウム 137(137Cs)及びプルトニウム 239,240(239,240Pu)データから世界の海水中放射性物質濃度分布を計算した。その中から, 東海沖における計算結果を,1970 年代から行っている東海再処理施設周辺の海洋環境モニ タリング結果と比較検討した。さらに,大気圏内核実験の主要核種であるトリチウム(3H), 炭素 14(14C), ストロンチウム 90(90Sr), 137Cs, 239,240Pu について,海産生物摂取に起因 する実効線量を算出した。
なお,本プログラムの入手に関しては,原子力機構内においてはコンピュータプログラ ム等管理規程第 13 条(機構内利用)に基づく申し込みを,また,原子力機構以外の方が原 子力機構プログラム等の利用を希望するときは,原子力コードセンター(RIST)のホーム ページ(http://www.rist.or.jp/nucis/)より利用申し込みを行っていただきたい。
2. 定式化
2.1 概要
核燃料サイクル施設からのリスク評価に資するため,海洋環境放射能による長期的地球 規模リスク評価モデル(LAMER)を開発している5)。LAMER の概念図を図 2.1 に示す。数時 間~数十年の海洋拡散挙動を計算する Part A と、濃縮係数,海産生物摂取量,線量換算係 数等を考慮し,海産生物摂取によるリスクを評価する Part B からなる。なお,Part A の沿 岸場,近海場モデルについては開発途中であるため,本報告書では広域場拡散のみに限定 する。
Part A は沿岸場,近海場,広域場の 3 種類があり,沿岸場→近海場→広域場の順にリン クしていく構成となっている。沿岸から放出された放射性物質は吹送流,密度流,潮流が 支配する沿岸場で移流拡散し,近海場へ移行する。近海場ではローカルで季節変化が大き い気象場,水温場に支配される恒流によって移流拡散し,広域場へ移行する。広域場では 海洋大循環モデルで計算された流動場によって移流拡散する。なお,いずれも Pu のような 沈降性の高い物質の場合には,後述のスキャベンジングモデルを用いて,鉛直下方への移 行を評価する必要がある。
Part B では,Part A で得られた海水中濃度に濃縮係数,海産生物摂取量,線量換算係 数を乗じて集団線量を算出する。さらに,人口データで集団線量を除することにより,公 衆の平均的な実効線量を求める。
核燃料サイクル施設
LAMER Part A
沿岸: (~50km) 近海: (~1,000km) 広域: (~20,000km) 放射性物質の拡散範囲
海水中放射性物質濃度(Part Aの出力) 濃縮係数、海産生物摂取量、
線量換算係数、人口データなど
海産生物摂取によるリスクアセスメント
LAMER Part B
沿岸 近海 広域
図 2.1 LAMER の概念図
2.2 海洋大循環モデル
海洋大循環モデルには種々のモデルが発表されている。一般に水温,塩分を解析的に解 く予報モデルでは,海洋表面上での蒸発や降水量の見積り,陸域河川からの淡水流入等こ れらの境界条件を厳密に決定することが困難であり,そのため水温,塩分が実測値から大 きくかけ離れ,正しくない見かけ上の流動を生み出すことがある。しかしながら,Fujio and Imasato6) が開発した診断モデルはこれらの困難を回避するため,密度場を決定する水温, 塩分に関しては予報せずに観測値を用いる。この観測値から得られた密度場のもとで運動 方程式を数値的に解く手法を用いている。このように診断モデルを用いれば,比較的少な い計算量で三次元流速場を定量的に求めることができる。診断モデルの基礎方程式は以下 のように記述される。なお,年平均水温・塩分観測データ(θ,S)と風応力データ(k) 以外の各パラメータは,文献6)による値を用いた。
s
minor term
) 1
(
22 2
0
∂ +
+ ∂
∇
+
∇
−
=
×
∂ +
+ ∂
∇
•
∂ +
∂
A z A
P z f
t w c H V
u u u
u k u
u u
ρ
(2.1)z g P
= − ρ
∂
∂
(2.2)= 0
∂
+ ∂
•
∇
zu w (2.3)
)
*
(
)
(
22
2
θ γ θ θ
θ θ
θ θ
−
∂ +
+ ∂
∇
∂ =
+ ∂
∇
•
∂ +
∂
K z z K
t w H V
u (2.4)
)
*
(
)
(
22
2 S S
z K S S z K
w S t S
S
V
H
+ −
∂
+ ∂
∇
∂ =
+ ∂
∇
•
∂ +
∂
uγ
(2.5))
,
,
(
S P Fθ
ρ =
(2.6)(2.1),(2.2) 式は海水の運動方程式であり,u は水平流速ベクトル,∇は水平勾配演算子, w は鉛直流速,fc はコリオリ係数,k は風応力,ρ(0)は(海面における)海水密度である。P は圧力,AH, AVは水平,鉛直粘性係数,g は重力加速度である。マイナータームは球面座標 系を採用していることに起因する慣性項と拡散項を表す。 (2.3) 式は質量保存式, (2.4),( 2.5) 式はそれぞれポテンシャル水温,塩分の拡散方程式であり,θ(*)はポテンシ ャル水温(の観測値),S(*)は塩分(の観測値),KH, KVはそれぞれ水平,鉛直拡散係数,γ は観測値の復元時間の逆数である。 (2.6) 式は海水の密度を計算するための国際状態方程 式(EOS80)である。
頑丈な診断モデルの特徴は(2.4),(2.5) 式にある。蒸発や降水,淡水流入などがない仮 想的な状態を考えると,方程式から導いたポテンシャル水温θ(同様に塩分 S)は観測値θ* に等しくなる。しかしながら,現実には蒸発や降水,淡水流入などモデルに考慮していな
い種々の現象の影響を受ける水温場は,仮想的状態での方程式から導いた水温場とは異な る。同時に流れ場についても非現実的な流れとなる。このような現象を軽減するため,観 測値θ*を係数γで方程式に復元し,非現実的な流れを軽減する。
このモデルでは,北極海を除く現実の海洋地形を南緯 79 度から北緯 75 度の間で模擬し, 海洋地形を水平方向に 2 度,鉛直方向に 15 層の格子に分割した(図 2.2)。Levitus94 の年 平均水温・塩分データ7)と ECMWF の風応力データ8)を用いて,年平均流速場を診断的に計算 した。なお,LAMER には,本海洋大循環モデルにより事前に計算しておいた計算結果のみを 使用する。
鉛直分割深度:50m, 150m, 350m, 650m, 950m, 1250m, 1750m, 2250m, 2750m, 3250m, 3750m, 4250m, 4750m, 5250m, 5750m
図 2.2 海洋大循環モデルの計算格子
2.3 移流拡散過程
移流拡散過程のモデル化には大きく分けて差分法とラグランジェ(ランダムウォーク) 法がある。前者は計算時間的に有利であるものの,直感的な拡散過程がイメージできない, 拡散履歴を追跡することができない,格子サイズによる擬似的な拡散が起こる,異なる格 子サイズ間の移流拡散の取扱が難しいなど種々の問題点がある。そのため比較的計算時間 を必要とするものの,上記問題点は粒子追跡法及びランダムウォーク法を用いることによ り解決できる(図 2.3)。
x(t)を時刻 t における位置ベクトルとし,u(x)は位置 x における 3 次元速度ベクトルと すると粒子の移流は (2.7),(2.8) 式のように表現できる。
)
(x
x u dt=
d(2.7)
0
at t
0
=
= x
x (2.8)
また,海水中での放射性物質の拡散による時間 dt の間の移動距離 dL は (2.9) 式のよう に表現できる。
24Kdt
dL =
R (2.9)ここで K は(水平(KH)/鉛直(KV))拡散係数でそれぞれ 1.3×104 m2/s,3.0×10-5 m2/s で ある9)。R は一様乱数(-0.5 から 0.5)である。
多数の粒子を投入
1ステップ後
2ステップ後
乱流拡散=乱れ
↓
ランダムウォーク
流動(移流)による移動 乱れ(拡散)による移動
図 2.3 粒子追跡及びランダムウォーク法のイメージ
(2.9) 式において,X 方向では dL が正の時が東,負の時が西向きの移動量である。同様 に Y 方向では dL が正の時が北,負の時が南,Z 方向では dL が正の時が下,負の時が上向き の移動量となる。移流拡散の計算ステップ(dt)は 10 日としたが粒子が 1 格子以上動いてし まう場合や,上陸してしまう場合は適宜計算ステップを短くしている。
また,海洋の表面は風,波による攪拌作用や,秋から冬にかけての表面海水の冷却によ って起こる対流現象などのため,表面近くの海水は良く混合され,水温,塩分などがほぼ 一様であることが知られている10)。このような現象がおこる領域は混合層と呼ばれている。 低・中緯度では比較的浅いが,高緯度では冬季の対流は深くまで及び,中層水や深層水, 低層水を形成する。混合層の厚さは季節によって変化するが,本移流拡散モデルにおいて は,水温塩分の値としては年平均しか用いていないこと,及び計算対象期間が 10 年以上と 長いことから,一年を通して一定の値を用いることとした(図 2.4)。
0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500
-80 -70 -60 -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 緯度
水深(m)
図 2.4 表層混合層の厚さ設定
2.4 スキャベンジング過程
核燃料サイクル施設からの液体 Pu 廃棄物の長期的かつ世界的な環境評価を行うための 3 次元 Pu モデルの要件としては,
① Kd(分配定数)を使った平衡を仮定したモデルよりも反応速度定数を使ったモデルで あること
② Pu に関する反応速度定数が明確になっていること
③ 三次元モデルに組み込むため,複雑すぎることなく,計算時間をあまり必要としない こと
が挙げられる。
このような観点から,Perianez 11) の一次元 Pu スキャベンジングモデル(可逆交換モデ ル)が上記条件に合致するため妥当であると判断し,若干の改良を加えた上で本モデルに 適用した12)。
改良の第一点目として,Pu のスキャベンジングは化学的な作用というよりも,むしろ生 物的な作用と考えられている 13)ので,有光層の概念を吸着速度に取り入れた。生物生産に は光と栄養塩(Pu も栄養塩の一種と考えられる)が必要であるため,主に表層で行われて いる。有光層(植物プランクトン,海草などが光合成で生きていけるだけの光エネルギー の透入している部分で,経験的に表層光度の 1%が到達する深さといわれている。)の厚さ は,清澄な外洋で水深 120mくらいである10)。海洋では海面から透入する太陽光エネルギー が深さとともに急速に減衰し,透明な水域でも水深 150 m では,植物は光合成での生産活 動が光不足で十分にはできなくなる。したがって海洋での Pu の取り込みを伴う生産活動は 海表面下 100 m 程度の層で集中的に進められていると考えられる。リービッヒの最小律に よると,生物生産の収量は栄養塩類濃度の最も低いものによって規定される。光を栄養塩 の一つと考えれば,光の強さで生物生産( Pu の取り込み)は規定される事になる。よって
海面での吸着速度(=光)の強さを1とすると水深 100 m において,吸着速度(=光)が 0.01 の強さとなるような指数関数を用いた。
第二に粒子態になって降下していく途中には分解されない粒子が存在することが考えら れるため,急速沈降粒子の概念を取り入れた。これは例えば糞塊(ふんかい)であるが, カイアシ類,オキアミ類,あるいは毛顎類などでは糞はキチン様物質で構成された透明な 薄膜に包まれているために糞塊は容易に水中で分解せず速やかに沈降することが知られて いる。
Livingston et al.13)は,「粒子態のうち 1 %程度は海底まで分解せずに運ばれる。」とし ている。そのため,急速沈降粒子割合(f)は 0.01 と定めた。本モデルで使用した急速沈 降粒子を考慮した可逆交換スキャベンジングモデルを式(2.10)~(2.12)及び図 2.5 に示す。
s d
d k z C k C
t C
2
1
( ) +
−
∂ =
∂
(2.10)
(
z s)
s d
s wC
C z k C z k t f
C
∂
− ∂
−
−
∂ =
∂
2 1
( )
)
1
(
(2.11)
*
1
( )
z sbottom
surface d
s fk z C dz wC
t
A
= +
∂
∂ ∫
(2.12)ここで Cd, Csは,それぞれ海水中の溶存態,粒子態放射性核種濃度,Asは単位面積あたり の海底土中放射性核種濃度である。また,*は海底直上の層を意味する。表 2.1 にスキャベ ンジングモデルで用いるパラメータを示す。
沈降; wz
溶存態
(1-f )k1(z)粒子態
k2
急速沈降粒子
吸着
吸着速度 ; k1(z) (/s) 脱着速度 ; k2 (/s) 沈降速度 ; wz (m/s) 急速沈降粒子割合 ; f (-) 脱着
急速沈降; f k1(z)
図 2.5 スキャベンジングモデル
表 2.1 プルトニウムスキャベンジングモデルに使用したパラメータ
記号 名称 数値 単位 出典
k1(z) 吸着速度(0<z<100) 1.16×10-6exp(-0.046z) /s Perianez11)を改良 k1(z) 吸着速度(z>=100) 1.16×10-8 /s 〃
k2 脱着速度 1.16×10-5 /s Perianez11)
Wz 沈降速度 0.1 cm/s 〃
f 急速沈降粒子割合 0.01 - Livingston et al. 13) z: 海表面からの深度(m)
2.5 平均実効線量の算出式
各大陸及び日本の集団が各海域での漁獲による各種海産生物を食した場合におけるそれ ぞれの集団線量は(2.13)式により算出できる。
∑∑∑
=
i k j
j i k i k j
i Intake CF Cw
DC
S
( ) ( )
,( )
,( )
, (2.13)ここで,
S :対象集団の年間線量(manSv/a) (DC)i :核種 i の実効線量係数(Sv/Bq)
(Intake)j,k :海域 j で漁獲された海産生物kの年間摂取量(年間漁獲量×摂取率)(kg/a) (CF)i,k :核種 i の海水から海産生物kへの濃縮係数;{(Bq/kg)/(Bq/L)}
(Cw)i,j :海域 j における核種 i の表層海水中算術平均濃度(Bq/L)
次に,各大陸の集団線量の和を求め,世界の集団線量とする。最後に(2.14)式により, 世界及び日本の集団線量を対象集団の人口で割ることによって,対象集団の平均的な実効 線量を算出する。
pop S
E
= /
(2.14)ここで,
E :対象集団の平均実効線量(Sv/a) Pop :対象集団の人口(man)
次にそれぞれのパラメータ設定について述べる。
(a) 濃縮係数
海産生物の濃縮係数(CF; Concentration Factor)は,海産生物の可食部の放射性核種濃 度と生物の生息する環境海水の放射性核種濃度の比と定義される。本研究では国際的に広 く用いられている,IAEA Technical Reports Series No.42214)に示される,魚類,甲殻類, 貝類,頭足類,海藻類の3H, 14C, 90Sr, 137Cs, 239,240Pu についての濃縮係数を用いる(表 2.2)。
(b) 海産生物摂取量データ
国連食糧農業機関(以下,FAO)では,各国が,何年に,どの海域で,どの海産生物を,ど れだけの量を生産(漁獲及び養殖)したかをのデータベースで公開している 15)。このデー タベースから,魚類,甲殻類,貝類,頭足類,海藻類についての各国の生産高を 1950 年~ 2003 年にかけて抽出した。次に,人口に関する経年データが大陸別で整理されているため, 各国の生産高データを各大陸別(アジア,ヨーロッパ,北アメリカ,南アメリカ,オセア ニア,アフリカ)に集計した。図 2.6 に世界(各大陸の合計)の海産生物種の漁獲量の推 移,図 2.7 に日本の海産生物種の漁獲量の推移を示す。世界の漁獲が右肩上がりなのに対 し,日本の漁獲はそれほど上昇しておらず,近年の魚類では減少さえしている。
なお,この漁獲高は殻,骨,内蔵等,人間が直接食べない部分も含んでいる。そのため漁 獲量と摂取量は同じではない。国連食糧農業機関における,日本の「漁獲量」,厚生労働省 編国民栄養の現状16)の日本の「摂取量」のデータから,日本の摂取率(=摂取量/漁獲量) を算出した。輸出入量等について日本と各大陸で相違があるものと予想されるが,LAMER で は実効線量算出に使用する世界の海産生物摂取量は「漁獲量」に「摂取率」を乗じること によって推定し,使用する(表 2.3)。
(c) 実効線量係数
実効線量係数(DC; Dose Coefficient)とは 1Bq の放射性物質を経口摂取した場合に,実効 線量が何 Sv であるかを示す係数である。年齢に応じた値を用いるのがよいが,年齢別の人 口構成や摂取量を設定する等,かなり複雑になるため,LAMER では,ICRP 勧告 7217)に示さ れる,成人が 3H, 14C, 90Sr, 137Cs, 239,240Pu を経口摂取した場合の実効線量係数を一律に用 いた(表 2.2)。
(d) 人口
世界人口は,U.S. Census Bureau の Total Midyear population for the World: 1950-2050 の数値を用いた18)。日本の人口は総務省統計局のデータ19)を用いた(図 2.8)。
なお,濃縮係数の導出過程と同様に,海域を越えての回遊については考慮せず,最終的に 漁獲された海域における放射性物質濃度と平衡状態にあるとしている。
表 2.2 濃縮係数と線量換算係数
3H 14C 90Sr 137Cs 239Pu
魚類 1 20,000 3 100 100
甲殻類 1 20,000 5 50 200
貝類 1 20,000 10 60 3,000
頭足類 (1)* (20,000)* 2 9 50 濃
縮 係 数
海藻類 1 10,000 10 50 4,000 線量換算係数
(Sv/Bq)17) 4.2e-11 5.8e-10 2.8e-8 1.3e-8 2.5e-7
* 文献14)には値が示されていない。括弧内の数値を本計算に用いた。
10 ,000 100 ,000 1,000 ,000 10,000,000 10 0,000,000
1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010
漁獲高(トン)
魚類 甲殻類 貝類 海藻類 頭足類
図 2.6 世界の漁獲高の推移(FAO データベース15)から作成)
10,000 100,000 1,000,000 10,000,000 100,000,000
1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010
漁獲高(トン)
魚類 甲殻類 貝類 海藻類 頭足類
図 2.7 日本の漁獲高の推移(FAO データベース15)から作成)
表 2.3 各海産生物種の推定摂取率 日本の摂取量 *2 種
日本での 漁獲量*1 (kt/年)
1人あたり (g/日)
合計 (kt /年)
推定された 摂取率
(%)
魚類 4,787 77.8 3,582 75
甲殻類,頭足類 902 15.4 709 79
貝類 855 5.0 230 27
海藻類 683 5.2 239 35
*1 FAO 統計による 1997 年における日本の総海洋生産量15)
*2 厚生労働省による 1997 年における海産生物摂取量16)
10,000,000 100,000,000 1,000,000,000 10,000,000,000
1945 1955 1965 1975 1985 1995 2005
人口
世界人口 日本人口
図 2.8 世界人口,日本人口の推移(文献18,19)より作成)
3. LAMER の計算
3.1 概要
図 3.1 に LAMER の計算のフローを示す。Part A においては,施設から放出された放射性 核種の海水中濃度分布を算出する。その際,海水中での存在形態によって,計算に用いる プログラムが異なる。
3H, 14C, 90Sr, 137Cs のように,海水中で安定な溶存状態で存在する核種に関しては,
「LAMER-A1-Csdrift」により,移流過程,拡散過程のみを仮想粒子追跡法により計算する。 計算結果である仮想粒子の位置情報に,各年の放出量データを重み付けして集計するプロ グラム「LAMER-A2-CsWaterTable」によって,評価年毎の海水中濃度に換算する。
一方,海水中で懸濁物質に捕捉されやすいとされる Pu のような不溶性物質に関しては,
「LAMER-A1-Pudrift」により,移流過程,拡散過程に合わせてスキャベンジングによる鉛 直移行過程を仮想粒子追跡法により計算する。本プログラムには放出量データを重み付け して集計する過程が内蔵されているため,これだけで評価年毎の海水中濃度分布を得るこ とが出来る。ただし,「LAMER-A2-CsWaterTable」の出力フォーマットにあわせるため,プ ログラム「LAMER-A2-PuWaterTable」によって形式を変換する。
次に線量を得るための Part B になるが,まず 2 度の大きさの各格子の評価年毎の表層海 水の平均濃度を「LAMER-B1」によって,FAO が定義する漁業統計区画における平均濃度に換 算する。その結果に,評価年毎の総漁獲量データ,摂取率(=摂取量/総漁獲量),濃縮係 数,線量換算係数を乗ずるプログラムである「LAMER-B2」によって評価年毎の集団線量を 計算する。
なお,これらプログラムの出力結果は各年の年末時の濃度あるいは線量となる。
3.2 可溶性元素移流拡散プログラム:LAMER-A1-Csdrift
「LAMER-A1-Csdrift」では,2.2 で述べた海洋大循環モデルの計算で得られた年平均 3 次 元流速場(水平 2 度×2 度,鉛直 15 層における経度方向流速,緯度方向流速,鉛直方向流 速)に,放出源情報に対応した仮想粒子を投入し,移動させることにより移流過程を計算 する。表層における年平均 3 次元流速場の水平成分を図 3.2 に示す9)。また,拡散係数及び 一様乱数を用いて拡散過程を計算する。移流過程,拡散過程の時間ステップはともに 10 日 である。また,水平拡散係数,鉛直拡散係数は実測値との最適化によって得られた値を用 いており,それぞれ 1.3×104 m2/s,3.0×10-5 m2/s である。計算中に陸地にぶつかってし まう場合は,計算ステップを当初の 1/10,1/100,1/1000 に小さくして計算する。移流拡 散過程の時間ステップを 0.01 日にした場合においても,陸地にぶつかってしまう場合はエ ラーとして処理している。通常 1 年毎の全粒子位置を出力する(任意インターバルで出力 可能)。
可溶性元素 (3H, 14C, 90Sr, 137Cs) 非可溶性元素 (Pu)
放出地点 海底地形 放出量
流速場 放出地点
LAMER-A1-Csdrift 移流拡散
移流拡散後の仮想粒子の位置 放出量
LAMER-A2-CsWaterTable 仮想粒子の位置を 放射能濃度に変換
各格子における海水中放射性核種濃度 FAO漁業区域情報
FAOにより定義された漁業区域の平均濃度
総漁獲高 摂取率
濃縮係数 線量換算係数
人口
海産物摂取による集団線量、平均的な実効線量
原子力施設から放出された放射性核種
LAMER-B1
LAMER-B2
LAMER-A2-PuWaterTable 放射能濃度テーブルに変換
各年における放射能濃度 LAMER-A1-Pudrift 移流拡散スキャベンジング
図 3.1 LAMER(線量)の計算のフロー
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 220 240 260 280 300 320 340 360
Longitude
-80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80
L a ti tu d e
Depth = 25m (k = 1) 30cm/s
(a)
図 3.2 海洋再循環モデルで計算した年平均流速場(表層)
3.3 可溶性元素濃度算出プログラム:LAMER-A2-CsWaterTable
「LAMER-A2-CsWaterTable」では,「LAMER-A1-Csdrift」で計算された 1 年毎の全粒子位置 に,放出源からの年毎の放出量を掛け,水平 2 度×2 度,鉛直 15 層の各グリッド内の総量 を集計する。さらに当該グリッドの体積で割ることにより,各グリッドの濃度分布を求め る。n 年前の放出に起因する濃度は,拡散開始後 n 年の粒子位置に n 年前の放出量を乗せた 濃度となる。このため,現在の濃度は,1 年前の放出に起因する濃度から順に,2 年前,3 年前,・・・,n 年前を重ね合わせて求めることができる。
3.4 非可溶性元素濃度算出プログラム:LAMER-A1-Pudrift
「LAMER-A1-Pudrift」では,2.2 で述べた海洋大循環モデルの計算で得られた年平均 3 次 元流速場(水平 2 度×2 度,鉛直 15 層における経度方向流速,緯度方向流速,鉛直方向流 速)に,放出源情報に対応した仮想粒子を移動させ,移流過程を計算する。図 3.3 に LAMER-A1-Pudrift の計算フローを示す。
Pu のスキャベンジング過程を含む移流拡散計算においては,「LAMER-A1-Csdrift」の場合 と異なり,あらかじめ各格子にマーカーを配置し,全ての海域において移流拡散スキャベ ンジング計算を行う。また,各マーカーには放射能の量を情報として背負わせている。拡 散係数及び一様乱数を用いて拡散過程を計算する部分は「LAMER-A1-Csdrift」と同様であ る。移流拡散過程の時間ステップは 10 日,スキャベンジング過程の時間ステップは 0.4 日 である。また,水平拡散係数,鉛直拡散係数はそれぞれ 1.3×104 m2/s,3.0×10-5 m2/s で あり,「LAMER-A1-Csdrift」と同じ値を用いている。計算中に陸地にぶつかってしまう場合 の処置も同様である。常に海水中濃度を計算しているため,計算出力は粒子位置ではなく,
経 度 緯
度
1 年毎に濃度分布を出力する(任意インターバルで出力可能)。また,初期マーカー数は約 95 万個であるが,各ステップにおける移流拡散の結果,マーカーが消滅した格子には新規 にマーカーを発生させるため,1 年後には 157 万個まで増大する。この方法を続けると 2 年 後,3 年後にはさらにマーカー個数が増大するため,計算時間も増大してしまう。そのため, 1 年毎にマーカー位置をリセットし,リセットしたマーカーに放射能を再分配している。
n回(=計算期間
(年))繰り返す。
36回(=360/10) 繰り返す。
25回(=10/0.4) 繰り返す。
1年経過後、マーカー配置をリセットし、放射能を 再分配する。放射能濃度を出力する。
計算終了
各格子にマーカーを配置する。(計約95万個)
各層の粒子態は(沈降速度×タイムステップ 0.4日)分下方へ移動する。
移動した粒子態を各設定層の粒子態として, 振り分ける。
マーカーがない格子には、放射能量0のマー カーを発生させる。
計算開始
第一層(0~50m)にタイムステップ(10日)あたり のPuの降下量を与える。降下量は第一層の溶存 態マーカーに均等に分配する。
溶存態マーカーをランダムウォーク法を用いて タイムステップ(10日)で一回拡散させる。水平・ 鉛直拡散係数は可溶性元素と同じ値を使用す る。
各格子内の溶存態の量を合計する。
溶存態と粒子態間のPu移動をタイムステップ 0.4日で行う。
図 3.3 LAMER-A1-Pudrift の計算フロー
3.5 非可溶性元素濃度変換プログラム:LAMER-A2-Pudrift
「LAMER-A2-Pudrift」では,「LAMER-A1-Pudrift」で生成された,各年毎の濃度出力ファイ ルを一つの表形式ファイルにまとめ,Part B で使用できる形に変換する。
3.6 地域平均化プログラム:LAMER-B1
「LAMER-B1」では,3.3 及び 3.4 によって算出された各グリッドの海水中放射性物質濃度 を FAO によって定義された漁業地域区分(図 3.415))に合わせて平均化する。漁業地域区分 ごとに各表層グリッドの総量の和をとり,漁業地域区分の体積で割ることによって,表層 平均濃度を算出している。
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 220 240 260 280 300 320 340 360
Longitude
-80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80
Latitude
61
67
71 77
81
87 51 57
48 58 48
88
41 47 31 34
27 21
47
図 3.4 FAO の漁業地域区分15)
3.7 線量算出プログラム:LAMER-B2
「LAMER-B2」では「LAMER-B1」で求めた漁業地域区分毎,評価年毎の表層海水平均濃度に 対して,海産生物の濃縮係数(海産生物と海水の核種濃度比)を乗じて,海産生物中の濃 度を算出する。その海産生物濃度に,評価年毎の総漁獲量データ,摂取率(=摂取量/総漁 獲量)を乗じると,各大陸の人々がどれだけの量の核種を,海産生物を通じて摂取したか が計算される。さらに,線量換算係数(1Bq 摂取あたりの実効線量)を乗ずることにより, 各大陸の人々の集団線量が求められる。
経 度 緯
度
4. LAMER入力データ
4.1 可溶性元素計算入力ファイル:setfileCs.txt
「 LAMER-A1-Csdrift 」 及 び 「 LAMER-A2-CsWaterTable 」 の入 力 フ ァ イ ル の 設 定 は
「setfileCs.txt」で行う。表 4.1 に設定例を示す。
表 4.1 setfileCs.txt の設定例
設定例 内容
TokaiRepro (directry) 10 characters~計算した粒子位置を保存 するディレクトリ
Tokai--discharge.csv (sel=1) 20 characters~放出量情報 1 Tokai-authorised.csv (sel=2) 20 characters~放出量情報 2 WOCM(30y).txt (unit=1)計算条件ファイル
chikei2.txt (unit=10)海底深度データ CONT-PUV4.txt (unit=26)3次元流速データ Set-p(1).TXT (unit=2)初期粒子位置
次にそれぞれのファイルにおける代表的パラメータの内容を記す。 1) WOCM(30y).txt
パラメータ 内容
1977 istep2:計算開始年 1080 NTLAST:計算ステップ数 1.3e8 ADFH:水平拡散係数 (cm2/s) 0.3 ADFV:鉛直拡散係数 (cm2/s) 10 DT(day):1 計算ステップの時間 100,200,300 MIX1,2,3(m):鉛直混合層の深さ
(1:熱帯域, 2:中緯度帯, 3:高緯度帯)
2) Set-p(1).TXT
パラメータ設定例 内容
1 粒子セット方法 (1:単一ポイント, 2:マルチポイント)
1 ポイント番号
10000 粒子個数
146 経度(東経:+,西経:-)
44 緯度(北緯:+,南緯:-)
25 水深(m)
3) Tokai-authorised.csv
パラメータ設定例 内容
1977 2006 放出開始年,終了年
1977 55 32 1900000 0 年,放出量(GBq)
(Cs-137, Sr-90, H-3, C-14)
・・ ・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
4.2 非可溶性元素計算入力ファイル:setfilePu.txt
「LAMER-A1-Pudrift」の入力ファイルの設定は「setfilePu.txt」で行う。表 4.2 に設定 例を示す。
表 4.2 setfilePu.txt の設定例
設定例 内容
TokaiReDis (directry) 10 characters~計算した濃度分布を保存 するディレクトリ
Tinpsetup.txt (unit=1) 移流拡散計算パラメータ
Tinp.sca.run1.txt (unit=55) スキャベンジング計算パラメータ deppu.txt (unit=56) 鉛直層設定
cont-puv4.txt (unit=26) 3次元流速データ chikei2.txt (unit=10) 海底深度データ TokaiPuDis.csv (unit=2) 実放出量 TokaiPuAut.csv (unit=2) 認可放出量
location.txt (unit=25) 鉛直分布を計算する場所データ
次にそれぞれのファイルにおける代表的パラメータの内容を記す。 1)Tinpsetup.txt
パラメータ設定例 内容
0 ntfrst :計算開始ステップ
1977 firstyear: 計算開始年
1 pint :粒子再配置インターバル(年)
2)Tinp.sca.run1.txt
設定例 内容
0.4 dtsday スキャベンジング用タイムステップ (日) 36.6, 0.0, 0.0, 365.8 ck1 吸着速度,ck2,ck3,ck4 脱着速度
2 sel (1:ax, 2:y=exp(-bx), 3:y=cx+d, 4:y=zc/z+zc) 懸濁物質濃度の鉛直分布式のタイプ
1, 0.046, -0.01, 1.01, 50
a,b,c,
d,zc (上式の定数)
110 tz(m) 懸濁物質濃度がこれ以降一定となる深度(m) 0.01 flp(-);大粒子が壊れずに海底まで到達する割合 1.06E-04 ramda:壊変速度
0.1 sv:大粒子沈降速度 (cm/s)
3) TokaiPuDis.csv
設定例 内容
1977 2006 放出開始年,終了年
146 44 緯度,経度
1977 0.041 年,放出量(GBq)
・・・ ・・・ ・・・
4.3 線量計算入力ファイル:setfileDose.txt
「LAMER-B1」及び「LAMER-B2」の入力ファイルの設定は「setfileDose.txt」で行う。表 4.3 に設定例を示す。
表 4.3 setfileDose.txt の設定例
設定例 内容
1977 start year
2006 finish year
chikei2.txt bottom topography (11) border.csv fishery region border data of FAO(73) DFandCF.csv DF & CF setting (3)
intakeratio.txt intake ratio of marine products (4) totalproduction.csv FAO's total production data (76) population.csv world population(79)
次に,それぞれのファイルにおける代表的パラメータの内容を記す。 1)border.csv
パラメータ設定例 内容
61 100 180 20 70 領域 No.,経度西端,経度東端,緯度南端,緯度北端 67 180 240 40 70 同上
77 180 240 -20 70 同上
2)DFandCF.csv
パラメータ設定例 内容
1.3E-08 2.8E-08 4.2E-11 5.8E-10 2.5E-07 線量換算係数(Sv/Bq) ICRP Publ.72
100 2 1 20000 40 魚の濃縮係数(IAEA TRS422) 30 2 1 20000 300 甲殻類の濃縮係数
30 1 1 20000 3000 貝の濃縮係数 50 5 1 20000 2000 海藻の濃縮係数 10 2 1 10000 50 頭足類の濃縮係数 Cs-137 Sr-90 H-3 C-14 Pu-239 核種
1 2 3 4 5 核種番号
3)intakeratio.txt
設定例 内容
0.748 魚の摂取率 0.786 甲殻類の摂取率 0.269 貝の摂取率 0.350 海藻の摂取率 0.786 頭足類の摂取率
4)totalproduction.csv
パラメータ設定例 内容
21 1 1 373800 ・・・ 112150 海域 No,生物種 No,大陸 No, 1950 年漁獲,・・,2003 年漁獲
・・・ ・ ・ ・・・ ・・・ ・・・
5)population.csv
パラメータ設定例 内容
1950 5.47E+08 1.40E+09 2.26E+08 ・・・ 8.41E+07
年 次,ヨーロッパ人 口,アジア人口,ア フリカ人口,・・,日 本人口
・・・ ・ ・ ・・・ ・・・ ・・・ 2003 7.29E+08 3.82E+09 8.68E+08 ・・・ 1.28E+08
5. LAMER 計算例
5.1 概要
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)2000 年報告書20)によると,大気圏 内核実験は地表や上空で 543 回実施され,TNT 換算の核分裂収量は 189 Mt,核融合収量は 251 Mt とされている。生成した核分裂片,トリチウム(3H),炭素 14(14C)及び Pu 等のアクチ ノイドは局地・地域,対流圏,成層圏に投入された。本計算例では線量評価上重要と考え るもの,すなわち半減期が 10 年以上と長く,かつ海洋への降下量が多い核種として3H, 14C, ストロンチウム 90(90Sr), セシウム 137(137Cs), 239,240Pu を対象核種とした。全地球への投入 量を表 5.1 に示す。
LAMER による移流・拡散・スキャベンジング計算によって,大気圏内核実験からの降下量 から上記核種の海水中濃度を 1945 年から 2045 年までの 100 年間計算し,その海域で採取 された海産生物を人類が食する場合の被ばく線量を 1951 年から 2003 年まで計算した。
また,海水中濃度計算結果のうち137Cs 及び239,240Pu については,東海再処理施設周辺での 海洋環境モニタリングで調査した海水中濃度実測値を比較した。
表 5.1 大気圏内核実験による全地球への投入量 核種 投入量(PBq)
3H 186,000
14C 213
90Sr 622
137Cs 948
239,240Pu 10.87
P(ペタは 10 の 15 乗を示す。)
5.2 入力条件(降下量分布(時間,空間)の推定)
UNSCEAR2000 年報告書には,地球規模で地表に降下した90Sr及び137Cs の年間降下量が 1945 年から示されている。239,240Pu については年間降下量が示されていないが,大気圏内核実験 によって大気圏に与えられた量が示されているので,90Sr の経年変化と同じ比率であると仮 定し,降下量を割り振った。緯度毎の降下量分布については,フォールアウト中の137Cs/90Sr,
239,240Pu/90Sr 比はほぼ一定であるという仮定の元, UNSCEAR2000 年報告書20)に掲載されてい
る90Sr の測定値に基づく降下量の緯度分布を用いて137Cs 及び239,240Pu の降下量の緯度分布 を決定した。90Sr,137Cs 及び239,240Pu に用いた緯度分布を図 5.1 に示す。なお,このデータ は「LAMER-A1」の初期粒子位置に使用している。
また,核実験の黎明期でクローズインフォールアウトが多いビキニ・エニウェトクサイト 周辺においては,局地・地域における核分裂収量を降下量として与えた。UNSCEAR 報告書に
は全ての大気圏内核実験について,局地及び地域成分,対流圏成分,成層圏成分について の核分裂収率データが示されている。年間降下量は各年のビキニ・エニウェトクサイトで 行われた核実験の局地・地域収率を積分することで算出した。なお,ビキニ・エニウェト クサイトの局地・地域収率の総量は全世界での局地・地域収率 29Mt のうち 28Mt を占めて おり,他地域においてのクローズインフォールアウトは考慮しなくてもよいと考えた。
3H 及び14C の降下量については,90Sr とは起源,挙動が異なるため,90Sr の降下パターン を使えない。3H 及び14C は主に核融合実験により放出され,降水や蒸発,吸収や放出など大 気圏,陸圏,水圏,生物圏において種々の過程が考えられる。そのため,3H 及び14C につい てはそれぞれについて物質循環モデル21-22)を考え,蒸発をも考慮した純投入量を推定した。
「LAMER-A2」に使用した各核種のフォールアウトの経年変化を図 5.2 に示す。
0 20 40 60 80 100 120
-85 -75 -65 -55 -45 -35 -25 -15 -5 5 15 25 35 45 55 65 75 85 緯 度
各表層格子における初期粒子数
-90 -60 -30 0 30 60 90 南緯 北緯
図 5.1 大気圏内核実験フォールアウトの緯度分布
1.E+10 1.E+11 1.E+12 1.E+13 1.E+14 1.E+15 1.E+16 1.E+17 1.E+18 1.E+19 1.E+20
1945 1955 1965 1975 1985 1995 2005
年
海面への降下量 (Bq/年)
H-3 C-14 Sr-90 Cs-137 Pu-239,240
図 5.2 大気圏内核実験フォールアウト(海洋投入量)の推移
5.3 海水中濃度計算結果
図 5.3~5.5 に「LAMER-A1」, 「LAMER-A2」, 「LAMER-B1」によって算出した14C, 137Cs, 239,240Pu の濃度計算結果を示す。図中の数値は図 3.2 の区分に対応している。海水中137Cs, 239,240Pu 濃度については,1950 年代の領域 71(中央西太平洋)に見られるように,大気圏内核実験 直後に鋭いピークが計算され,海流によって領域 61(北西太平洋),領域 67 (北東太平 洋)に流れていく様子が再現されている。詳細については,既報9,12)において,その分布を 十分精度良く再現できることを確認している。
また,北西太平洋(領域 61)における核実験由来の14C 濃度は平均として 1.2 Bq/m3(1973 年),0.92 Bq/m3(1997 年)と計算された。これを宇宙線による生成量も考慮したΔ14C に換 算すると,それぞれ 175‰,140‰となり,北西太平洋における表層海水中14C 濃度の報告値
(1973 年 180‰,1997 年 88~112‰)23)とほぼ一致することを確認した。
図 5.3 表層海水中14C 濃度の計算結果
図 5.4 表層海水中137Cs 濃度の計算結果 0.01
0.1 1 10
1950 1960 1970 1980 1990 2000 表層海水中C-14 濃度(Bq/m3 )
21:北西大西洋 27:北東大西洋 31:中央大西洋西 34:中央大西洋東 41:南西大西洋 47:南東大西洋 48:南極大西洋 51:インド洋西 57:インド洋東 58:南極インド洋 61:北西太平洋 67:北東太平洋 71:中央太平洋西 77:中央太平洋東 81:南西太平洋 87:南東太平洋 88:南極太平洋 88,58,48
81,87
67, 31, 61, 27, 77, 34, 71, 21 (上から順に)
51,57 41,47
(Bq/m3 )
0.1 1 10 100
1950 1960 1970 1980 1990 2000 表層海水中Cs-137 濃度(Bq/m3 )
21:北西大西洋 27:北東大西洋 31:中央大西洋西 34:中央大西洋東 41:南西大西洋 47:南東大西洋 48:南極大西洋 51:インド洋西 57:インド洋東 58:南極インド洋 61:北西太平洋 67:北東太平洋 71:中央太平洋西 77:中央太平洋東 81:南西太平洋 87:南東太平洋 88:南極太平洋 48
58 88 47
41 81
87
61,71,67,77,31,27,57,34,21,51(上から順に)
(Bq/m3 )
図 5.5 表層海水中239,240Pu 濃度の計算結果
次に,東海再処理施設周辺での海洋環境モニタリングで調査した海水中濃度実測値を比較 した。核燃料サイクル工学研究所では,1977 年頃から茨城県東海村沖にて海水を採取し,
137Cs を分析している。この採取地点は放出口から半径約 20km 以内の場所である。この観測 値と東経 145 度,北緯 36 度における計算値を比較したところ,図 5.6 に示すように,濃度 レベルと変動傾向を再現することができた。観測値は 1970 年代後半からしかないが,本モ デルで 1945 年から計算値が得られており,これまで知りえなかった 1950 年代の上昇パタ ーンや 1960 年以降の下降パターンが推測できる。1979 年頃に観測された一時的な上昇は中 国による大気圏内核実験あるいは東海再処理施設からの低放射性排水の放出によるものと 推察される。なお,この測定値は放出口の直上で採取した表層海水の分析結果であること から放出の影響を捉えたとしても局所的なものであり,海域全体を代表するものではない。 その後,局地的な放出の影響は見られず,計算値(バックグランド)と同等の濃度レベル となっている。
同様に,茨城県東海村沖海水の239,240Pu の観測値と計算値を比較したところ,図 5.7 に示 すように,濃度レベルと傾向を再現することができた。1979 年頃に見られる一時的な上昇 は137Cs と同様の理由によるものである。
0.0001 0.001 0.01 0.1 1
1950 1960 1970 1980 1990 2000 表層海水中Pu-239,240 濃度(Bq/m3 )
21:北西大西洋 27:北東大西洋 31:中央大西洋西 34:中央大西洋東 41:南西大西洋 47:南東大西洋 48:南極大西洋 51:インド洋西 57:インド洋東 58:南極インド洋 61:北西太平洋 67:北東太平洋 71:中央太平洋西 77:中央太平洋東 81:南西太平洋 87:南東太平洋 88:南極太平洋 61 67
77
27,21
51,34,71,31 88,58,48,81
47,57,41,87 71
(Bq/m3 )
図 5.6 東海再処理施設周辺海水中137Cs 濃度の比較
図 5.7 東海再処理施設周辺海水中239,240Pu 濃度の比較
0.1 1 10 100 1000 10000
1945 1955 1965 1975 1985 1995 2005 2015 2025 2035 2045 西暦(年)
表層海水中Pu-239,240濃度(mBq/m3 ) Pu-239,240計算値 Pu-239,240観測値
(mBq/m3) 0.1
1 10 100
1945 1955 1965 1975 1985 1995 2005 2015 2025 2035 2045 西暦(年)
表層海水中Cs-137濃度(Bq/m3 )
Cs-137計算値 Cs-137観測値
(Bq/m3 )
5.4 実効線量計算結果
プログラム「LAMER-B2」に適用した各種パラメータは,2.5 で述べた通りである。
(1) 集団線量
海産生物摂取に伴う全世界の集団線量の推移を図 5.8 に示す。1965 年までは137Cs,1966 年以降は 14C が最も集団線量への寄与が多かった。核分裂実験は 1940 年代から始まってい るのに対し,核融合実験は 1951 年から始まり,本格化したのは 1960 年頃である。大気に 投入された14C は,徐々に海洋に移行して,線量が大きくなっていった。137Cs, 239,240Pu,90Sr,
3H の順に寄与が小さくなる。3H は放出量では最も大きいが,濃縮係数が 1 であること,線 量換算係数が小さいこといから,寄与割合としては全期間を通じて最も低い。
全核種の合計値では 1971 年が最も高く,約 800manSv である。2003 年では約 740 manSv でそれほど大きくは変化していない。大気圏内核実験で放出された14C は,海洋に移行する 以外に,陸上の植生に移行する。また,海洋に移行した14C は再び大気と交換することも考 えられる。また,スキャベンジングによる深海への鉛直移行も少なく,物理的半減期が 5730 年と長いため,一度生物圏に投入された14C はなかなか減少しない。また,人口が増えたの に合わせて,海産生物が好んで食されるようになってきたのも,集団線量が大きく減少し ない原因であると思われる。
0.1 1 10 100 1000
1950 1960 1970 1980 1990 2000
集団線量(man Sv)
H-3 C-14
Sr-90 Cs-137 Pu
図 5.8 海産生物摂取に伴う全世界の集団線量の推移
一方,最も寄与の大きかった14C についての内訳を海産生物種別に見ると,魚類が最も大 きく,甲殻類,頭足類・貝類,海藻類の順に小さくなる(図 5.9)。14C は生物体を構成する 炭素の同位体であるので,特定の臓器に濃縮することがなく,身の重量が大きい魚類から