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第2部 諸外国に見る移民政策の最新動向 資料シリーズ No46 諸外国の外国人労働者受入れ制度と実態 2008|労働政策研究・研修機構(JILPT)

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第2部

諸外国に見る移民政策の最新動向

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第1章 イギリスにおける最近の移民政策の動向

1.最近の制度改正のポイント

移民を受け入れる制度は、その時々の政治、経済・社会状況を反映して刻々と変わる。イ ギリスの受入れ政策もこれまで、たとえば医療従事者が足りない、理工技術系学生を確保し たいなどその時々のニーズに応じて策定されてきたため、受入れスキーム数が80種類にも 及ぶなど制度はかなり複雑化していた。優秀な人材を迅速に確保するためには、複雑な制度 を改め、手続きの簡素化を図る必要がある。政府はこうした経緯より2005年2月、従来 の受入れ政策を1つの体系に整理する「入国管理5カ年計画」を導入した。この新規計画に より、移民は5段階のレベルに分類されることとなった。(図表1-1参照)

第1層と第2層の入国者については、現在の高度専門技術移民プログラムと同様にポイン ト制を導入し、5年間の就労後に定住権の申請を可能とする(図表1-2参照)。この場合、 語学試験と市民試験に合格することが必要である。従来は4年間の就労後に定住権を申請す ることが可能であったのに、この期間が5年間に延長された理由は、EU諸国間との関係と いう意味合いが強い。EU諸国間では、合法的就労者が5年間就労した場合には、居住国で の定住権申請可能という統一基準が出来つつある。定住権を取得するためには、就労期間を 満たすだけでなく、英語の語学試験と文化・慣習などに関する知識を問う市民試験に合格し なければならないことは他国と同様の措置と言える。

一方、低熟練労働者については査証期限の切れた段階で出国しなければならないとする帰 国担保も改正では強調された。ところでこの5カ年計画をまとめた報告書のタイトルは『選 択的受け入れ(Selective Admission)』[Home Office、2005]というもの。すなわち今後英 国の移民受入れ政策は、国の利益になる人のみを選んで移住させる、低熟練労働者の受入れ は制限する、という明確なコンセプトに沿って進められていくものと考えられる。

図表1-1 新入国管理5カ年計画における移民の分類

第一層 高度専門技術者 経済発展に貢献する高度専門技術を持った人(科学者、企業家など) 第二層 技術労働者 国内で不足している技術を持った人(看護師、教員、エンジニアなど) 第三層 低熟練労働者 技能職種の不足に応じて人数を制限して入国する人(建設労働者など) 第四層 学生

第五層 他の短期的移民 外国企業からの派遣労働者、文化交流時事起用での若者の交流等 出所:労働政策研究報告書 No.59「欧州における外国人労働者受入れ制度と社会統合」(2006)より

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図表1-2 新入国管理5ヵ年計画基本方針

出所:労働政策研究報告書No.59「欧州における外国人労働者受入れ制度と社会統合」(2006)より

2.積極的高度人材受入れ政策

EU、なかでもいわゆる旧加盟15カ国の抱える最近の問題は、高度専門技術者の不足が 深刻化していることである。欧州の先進諸国はこぞって途上国から優秀な高度人材を受入れ ようとしているが、当然ながらその供給量には限界がある。しかも途上国の高度熟練労働者 たちは欧州よりも比較的社会環境の整っている米国やカナダを目指す傾向があり、欧州がこ うした人材を確保するのは容易ではない。各国ともさまざまな優遇措置を講じる中、イギリ スも従来の移民政策を整備し、高度人材を積極的に受け入れていくという姿勢を明らかにし ている。

(1)就労許可を免除して優先的に受入れ

居住権を有するかまたはイギリスに定住している英国市民および欧州経済地域(EEA) の加盟国民には、イギリスにおける就労の制限がない。しかし、これ以外の人がイギリスに 就労を希望する場合、基本的には就労許可の取得が義務付けられている。就労許可は一定の 資格および能力を必要とする職種を対象に発給される。

就労許可を取得するには、労働市場テスト(国内労働者では代替できないことを証明)を 経ないといけないなど一定の手続きを踏まなくてはならず時間もかかる。このため政府は、 一部の優先的に受入れたいとする人材については、就労許可を免除して受入れるという措置 を講じている。こうした措置のひとつが、外国人の高度人材を優先的に受入れようとする目 的 で 導 入 さ れ た 「 高 度 専 門 技 術 移 民 プ ロ グ ラ ム (Highly Skilled Migrant Programme- HSMP)」である。

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(2)HSMPの概要

HSMPとは大学教授、医師等の資格所有者、法律、金融専門家など高度な技術を有する 者が就労の機会を求めてイギリスに移住するのを許可するプログラム。2002年1月に開 始された。国内の求人なしで移住できる点が特徴であり、労働市場テストの対象外という点 でも労働許可とは異なる。また起業者を対象としたビジネス・ケース・ユニットのように雇 用の創出や一定の投資水準などの条件も必要ない。

受入れ申請の審査にはポイント制が用いられている。①学歴、②職歴、③過去の収入、

④就労希望分野での業績などの分野で合計65ポイント以上取得した場合に申請が認められ る(図表1-3参照)。

同プログラムでイギリスに入国し、1年間経済活動を行った後には在留期間の延長が認め られ、さらに連続4年間イギリスに在住した後は永住許可の申請が認められる。2002年 の導入以降、取得ポイントの引き下げ(75→65)など、細かい制度変更が加えられてき た。28歳未満と28歳以上では異なる条件で審査されているほか、28歳未満であれば5 ポイント加算されるなど、HSMPのターゲットとしてはより若い人材が志向されている。

図表1-3 HSMP受入れ基準

審査区分 最高 スコア

審査内容と点数

28 歳未満=5 点 年齢 5

28 歳以上=0 点 学士号=15 点 修士号=25 点 学歴 30

博士号=30 点

5 年以上(博士であれば 3 年以上)の学士レベル正社員職務経験=25 点

2 年以上のシニアレベルまたは専門性の高いポスト経験を含む、5 年以上の学士レベル 正社員職務経験=35 点

職歴 50

5 年以上のシニアレベルまたは専門性の高いポスト経験を含む、10 年以上の学士レベル 正社員職務経験=50 点

A グループ 4 万ポンド以上=25 点、10 万ポンド以上=35 点、 25 万ポンド以上=50 点

B グループ 1 万 7,500 ポンド以上=25 点、4 万 3,750 ポンド以上=35 点、 10 万 9,375 ポンド以上=50 点

C グループ 1 万 2,500 ポンド以上=25 点、3 万 1,250 ポンド以上=35 点、 7 万 8,125 ポンド以上=50 点

D グループ 7,500 ポンド以上=25 点、1 万 8,750 ポンド以上=35 点、 4 万 8,875 ポンド以上=50 点

過去の収入 (年収)

25

E グループ 3,500 ポンド以上=25 点、8,750 ポンド以上=35 点、 2 万 1,875 ポンド以上=50 点

特筆すべき実績・業績を残している=15 点 就労希望分野

での業績

25

きわめて優秀な実績・業績を残している=25 点

出所:労働政策研究報告書No.59「欧州における外国人労働者受入れ制度と社会統合」(2006)より

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(3)HSMP 受入れ状況の推移

受入れ状況を見てみよう。2002年のプログラム開始以降、申請数、受理数ともに10 倍以上の伸びを示していることがわかる(図表1-4参照)。国籍別に見ると、2003年 以降、インドからの労働者の増が顕著である(図表1-5参照)。

図表1-4 HSMP受入れ数推移(2002-2005)

出所:労働政策研究報告書No.59「欧州における外国人労働者受入れ制度と社会統合」(2006)

図表1-5 主要国籍別HSMP受入れ状況(2002-2005)

2002 2003 2004 2005 計 国籍

申請 認可 申請 認可 申請 認可 申請 認可 申請 認可

インド 391 176 1,171 651 7,301 1,933 9,050 5,483 17,913 8,243 パキスタン 169 55 630 265 4,472 977 3,777 1,656 9,048 2,953 オーストラリア 129 83 335 235 1,359 639 1,235 1,183 3,058 2,140 アメリカ 325 269 692 558 787 450 595 508 2,399 1,785 南アフリカ 106 69 477 342 1,045 585 760 693 2,388 1,689 ナイジェリア 272 30 557 182 1,996 432 2,459 882 5,284 1,526 ニュージーランド 29 19 154 115 698 331 692 682 1,573 1,147 ロシア 48 33 134 96 323 141 290 233 795 503 カナダ 69 48 115 89 201 105 171 138 556 380 バングラディッシュ 27 14 113 46 381 113 386 206 907 379 スリランカ 29 8 82 39 243 84 328 207 682 338 中国 53 32 252 153 986 357 756 502 2,047 1,044 ジンバブエ 89 28 179 73 246 86 172 89 686 276 マレーシア 23 14 59 32 138 63 176 137 396 246 エジプト 27 12 57 32 125 80 134 108 343 232 トルコ 26 9 81 56 124 50 120 79 351 194 イスラエル 15 9 60 45 115 51 66 61 256 166 ウクライナ 19 8 43 24 155 57 82 76 299 165 イラン 34 9 82 31 125 41 118 74 359 155 その他 571 230 1,188 589 2,165 792 1,919 1,132 5,816 2,742 合計 2,451 1,155 6,461 3,653 22,985 7,367 23,286 14,129 55,156 26,304 出所:労働政策研究報告書No.59「欧州における外国人労働者受入れ制度と社会統合」(2006)

6,461 14,129

26,304 55,156

2,451

22,958

23,286

1,155 3,653 7,367

0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000

2002 2003 2004 2005

申 請 受 理

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3.最近の移民政策の評価

内務省は07年10月、他省庁と共同で作成した「移民の経済的、財政的影響」と題する 報告書を発表した。移民の近年の増加について、経済成長や財政状況の改善に寄与するとと もに、高齢化に伴う労働力不足緩和の一環を担うなどと、積極的な評価を下している。また、 内務省は、受け入れる高度専門技術者の質的向上に向けて選択基準を整備し、同時に不法移 民を阻止する国境警備体制を強化する移民制度改正の方針を改めて示した。

こうした政府の積極策の一方で、移民の急激な増加による公共サービス面の拡大を余儀な くされている地方自治体からは財政支援を政府に求める声が出ている。さらに、積極的移民 政策を評価する向きとは逆に、国内労働市場に配慮する声も出始めた。これはブラウン首相 が英国労働組合会議(TUC)の大会や労働党大会など行った演説「イギリスの仕事をイギ リス人労働者に」(“British jobs for British workers”)にも表れている。

(1)移民がイギリス労働市場に及ぼす影響

報告書は、人口構成、財政・経済、労働市場、就業構造などの視点から、移民の影響を分 析している。

・2005年半ばから2006年半ばにかけての長期移民(1年以上、イギリス人含む)は、 移出が38万5千人、移入が57万4千人で、18万9千人の流入超過となった1。今後は 年19万人のペースで移民が増加すると推計している。

・移民の経済成長への寄与は2006年で約60億ポンドと推定される(全体の15~ 20%相当)。また、公共政策研究所(IPPR)の2003-4年についての推計では、移 民は政府収入の10%に貢献(税金等)、政府支出の9.1%相当を享受(各種給付、公共 サービス)している。長期的には、財政改善や労働力不足の緩和に寄与するとともに、高 齢化に伴う国民負担率の増加幅を押し下げる効果が期待される。

・労働力人口に占める外国人(国外出生者)の比率は、1997年の7.4%から2006 年には12.5%に増加した。外国人の就業率(68%)は上昇しており、イギリス人

(75%)との差は縮小傾向にある。フルタイム労働者の平均で比較した場合、技術水準は イギリス国籍労働者より高く、より高度な職業に就いている比率が高い。この結果、 2006年の週当たり平均収入額の424ポンドは、イギリス人労働者の平均である395

1 イギリス人を除いた長期移民データとしては2005年(歴年)が最新で、移出が11万1千人、移入が 29万6千人(18万5千人の流入超過。イギリス人移入者数は、外国人の約四分の一の7万7千人だった) また、報告書は移民の累積数に言及していないが、元データとなった統計局のレポートは、2005年まで の5年間の外国人移入者について138万7千人の純増(移入―移出)、イギリス人については約50万人 の純減としている。

なお、移民関連統計・推計の実態との乖離は報告書自体も課題として挙げているところだが、報告書の発表 と前後して、外国人労働者の増加数が過少に推計されていたことが判明した。政府は既に2度の訂正を行っ ており、これをめぐって担当大臣が国会で謝罪するなどの事態に発展している。政府は、過去10年の外国 人労働者数の増加に関して、当初80万人としていたが、これを110万人に訂正、さらに150万人に再 訂正した(同時期に創出された雇用の8割を外国人が占める計算)

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ポンドを上回っている。ただし、近年の外国人の賃金水準の低下とイギリス人労働者に おける上昇により、その差は2001年の76ポンドから2006年には28ポンドへ と縮小している。なお、失業への影響は観察されていない。最も低い賃金水準の労働者 の賃金に対してわずかな負の影響がみられるが、このグループについても賃金は上昇し ており、これには最低賃金制度の効果もあると考えられる2

・新規EU加盟国である東欧諸国(A8)を除いた外国人の業種・職種別の分布は、建設業 で比率が低く、専門的業務で高いことを除けば、イギリス人と大きな違いは認められない。 一方、A8からの移民については、業種別には流通・宿泊・飲食店業(24%)、製造業

(21%)、建設業(14%)、職種別には初級の職業(elementary occupations)(38%) や加工・工場労務・機械操作(16%)などで比率が高い。

移民の増加は、国内の労働力に不足している技術を補完することにより、イギリス人労 働者の生産性を直接的に高めているほか、国内経済に必要なサービスを提供することによ り、イギリス人労働者が他のより適した職に就くことを通じて、間接的にも生産性に寄与 している。

(2)移民制度の改正プラン

報告書の発表にあわせて、内務省は、今後1年間に予定している移民制度改正プランにつ いて改めて方針を示した。中心となるのは、2008年3月から段階的に導入される「ポイ ント制」3である。欧州経済地域(EEA)外からの移民に対して、技術・経験、年齢等に応 じた加点により、入国の是非を判定する。受け入れ基準の設定など、その運用にあたっては、 Migration Advisory Committee(政府の諮問機関として、労働市場への影響や技能労働者 の不足業種の判定等を行う。有識者などで構成する予定)とMigration Impacts Forum(地 域に対する社会的影響や、公共サービスを通じたその対応などを分析。移民担当大臣・コ ミュニティ担当大臣をトップに、政労使で構成)が政府に対して提言や情報提供を行う。 一 方 、 港や 空 港 で の 国 境 管 理 体 制 の 強 化 の 方 策 と し て は 、 国 境 移 民 庁 (Border and Immigration Agency)に税関及び滞在許可発給機関(UKVisas)を編入し、政府とは独立

2 ただし、識者の間には、移民の増加による賃金水準の低下を指摘する意見もある。

3 制度の概要は、JILPT『欧州における外国人労働者受入れ制度と社会統合―独・仏・英・伊・蘭5カ国比較 調査―』(2007)、JILPTウェブサイト「海外労働情報」2007年7月などを参照。なお、就業許可との関 連では、イギリスの移民制度上、「外国」は大きく4種類に分かれる。第1のグループは、2004年以降 のEU加盟国を除く欧州経済地域(EEA)加盟国で、居住・就業とも自由。第2のグループは、2004年 の新規EU加盟国のうちポーランド、チェコなど東欧の8カ国。就業先等について、労働者登録スキームへ の登録を要するが、当該就業先で1年就業した後は第1グループと同じ扱いとなる。第3のグループは、 2007年の新規加盟国であるルーマニアとブルガリア。高度専門技術移民プログラム(HSMP)の適用者、 労働市場テスト(国内で労働力の調達が困難であることの証明)に基づく就労許可証保有者、自営業者以外 については、低技能・若年労働者を対象とした業種別割当スキーム(SBS:2007年現在、該当業種は食 品加工業のみ)および季節農業労働者スキーム(SAWS:2008年以降は上記二カ国のみ対象)により、 一定数・一定期間のみ限定的に受け入れる。第4のグループはEEA域外で、原則的には、HSMPの適用か、 労働市場テストに基づく就労許可証が必要となる。

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の組織として拘束権など新しい権限を与える。また、出入国手続きの電子化(これに伴い、 1997年以降廃止されていた出国管理を復活)や、難民認定作業の迅速化(40%につい て6ヶ月以内の解決をはかる)、重大な犯罪を犯した外国人を自動的に国外退去とするなど、 手続きの効率化をはかる。

併せて、EU域内や一部関係国を除く外国人(世界の四分の三の人口に相当)に対する査 証申請時の指紋押捺の義務化や、国内に居住する外国人への生体認証 I Dカード(就労の可 否を含む情報が記載される)の付与などを予定している。さらに、外国人労働者の入国申請 に際して雇い主(sponsor)となる資格をライセンス化し、不法移民を雇用するなどの法律 違反に対しては、1万ポンド以下の罰金とともに、ライセンスの剥奪もありうる4

なお、ポイント制については、英語能力の証明を新たに要件として加えることがこの9月 に政府によって発表された5。これにより、技術移民労働者はイギリス政府が認定した試験な どで、英会話能力などが一定水準以上であることを示さなければならない。政府は、2006 年のEU域外からの技術移民労働者9万5千人のうち3万5千人が、政府の設定する基準に 達していないとみており、制度導入後の大きな影響が予想される。

(3)自治体からは財政支援の声も

政府の楽観論に対して、地方自治体では外国人移民の増加による公共サービスや財政への 圧迫を訴える声が強い。11月初め、イングランドとウェールズの500弱の地方自治体が 構成する地方自治体協会(Local Government Association: LGA)は、独自の調査をもとに、 A8などからの移民の増加が地域に及ぼしている影響について報告書を発表した。移民の受 け入れによる利益は認めつつも、その急激な増加が、教育・住宅供給・医療など地域の公共 サービスの維持を難しくしている、というのがその内容だ。また、犯罪の被害にさらされや すい移民や貧困家庭の児童の保護の必要性も併せて指摘している。LGAはこれらの問題へ の対策費として、新たに年2億5千万ポンドの予算投入を政府に要請、また調査等による データの整備や実態把握や、地域の実状に沿った予算配分などを求めている。

地域での外国人統合政策の必要性については政府も認めており、10月には、今後3年間 で5千万ポンドを投入する新たな政策パッケージの導入を決定している(2007年の予算 額は200万ポンド)。これまで柱としてきた外国人に対する翻訳サービスや、特定のマイ ノリティ・宗教グループ等を代表する団体への援助といった支出内容を見直し、英語教育な どで外国人の社会統合を支援する団体への財政援助に転換していく。また併せて、移民増加 による摩擦に対応する専門家チームを地域ごとに設置するとしている。

た だ し 一 方 で 、外国人向け英語コース(English for Speakers of Other Languages:

4 根拠法として、「2007年英国国境法」(UK Borders Act 2007)が10月末に成立した。

5 11月に始まった国会で、これに関する法案が提出される予定。なお、現行の制度で移民労働者に英語能力 の証明を求めるのは、HSMP のみ。

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ESOL)の無料提供を原則廃止し、受講者(もしくは雇用主)に費用の一部を負担させた、 より簡易な「仕事向け」英語コース(ESOL for Work)を新設するなどの効率化も進めて いる。これには、受講期間の短期化による大量の受講待ちの解消とともに、現在仕事があっ て、長期滞在を認められている移民に対して、優先的に受講資格を与え、実用的な英語の習 得による生活の向上を支援する意図がある。

LGA報告書は、同化政策における英語教育の重要性を強く主張、こうした効率化の方針 にも再検討を促している。

4.今後の動向

積極的移民政策を評価し、イギリスは今後もこの方針を堅持していくべきという声がある のと同時に、一方で国内労働市場に配慮する声も出始めている。ブラウン首相は9月、英国 労働組合会議(TUC)の大会や労働党大会などで、「イギリスの仕事をイギリス人労働者 に」(“British jobs for British workers”)との方針を表明し、イギリス人に優先的に雇用を 割り当てる一連の政策案を発表した。これに対し野党からの批判が相次ぎ、また労働党内部 からも異論の声があがっている。

他方、移民関連統計・推計の実態との乖離も指摘されている。政府は移民の受け入れを積 極的に評価する報告書「移民の経済的、財政的影響」を発表したが、この発表と前後して、 外国人労働者の増加数が過少に推計されていたことが判明した。政府は既に2度の訂正6を しているが、これをめぐって担当大臣が国会で謝罪するなどの事態に発展した。

労働力調査によれば、イギリスの長期失業者(失業期間が1年を超える者)は1997年 の74万6千人から2004年の27万5千人まで急激に減少したものの、以降は増加し、 2007年に入ってからは39万人前後で推移している。全失業者166万人の四分の一近 くを占め、このうち約半数が2年を超えて失業している。政府が目標とする就業率80%の 達成のためにも、また財政的負担の面からも、その削減が課題とされてきた。

ブラウン首相は TUC 大会での挨拶で、現在イギリス国内にある60万人を超える求人が、 技術のミスマッチや企業と求職者の間のマッチングの不十分さから充足されていないと主張 し、失業者や労働市場から離れているイギリス人への優先的な雇用の斡旋などで、今後数年 で50万人分の雇用創出を目指す、との方針を示した。

その中核は、「雇用パートナーシップ」協定だ。企業との間に長期失業者を雇用する約束 を取り付け、その協力を得ながら、就労に適した訓練などを政府が行うという政策で、 2010年までに25万人の雇用創出を見込んでいる。既に小売業やホテル業、警備業企業 など100社以上との締結が10月末までに完了した、と政府は発表している。またこのほ か、一人親に対する優先的な雇用機会の提供や試用期間・就業1年目に関する手当の支給、

6 過去10年の外国人労働者数の増加に関して当初80万人としていたが、これを110万人に訂正、さらに 150万人に再訂正した。同時期に創出された雇用の8割を東欧からの労働者などが占める計算。

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また2020年までに若者を中心とする徒弟制度の就業者を50万人に倍増することなどを 政策案の柱として掲げている。政府がイギリス人優遇を打ち出す理由の一端には、近年の移 民増加に伴う雇用や治安などの問題に関する国民の不安の高まりを緩和するねらいもあると いわれている。

これに対して、野党からは、一連の政策案が人種差別的・排外主義的であるとの批判や、 その効果自体を疑問視する声が出ている。保守党のキャメロン党首は、国会での討論で、

「British jobs for British workers」というスローガン自体がそもそも極右政党によって以前 から使われていたことを指摘、イギリス人の優遇は、EU加盟国市民に対する差別的扱いを 禁止している人権法(あるいはその元である欧州人権条約)に違反するとして痛烈に批判し た。また労働党内でも、同政策を「雇用アパルトヘイト」と形容し、違和感を表明する議員 も出ている。

ブラウン首相はこれらの批判に対して、イギリス人が圧倒的に多い長期失業者の訓練や雇 用を企業に促しているにすぎないと主張、「職のない労働者に仕事を与えることは、どの政 府にも重要な課題であるはず」として、差別にはあたらないと反論している。また関係閣僚 も、首相発言を「行き過ぎ」と認めつつ、失業者対策は移民問題の有無にかかわらず行うも のであり、あくまで国内の多くの失業者に仕事を与えることが目的であるとして、今後の技 能訓練等への注力が首相の公約に実体を与えるだろう、と述べている。しかし、このトーン ダウンに対しては、「イギリス人労働者に」という台詞は空手形だったのか、とのさらなる 批判を野党側から生む結果となった。

移民政策は政権下の経済状況が大きく左右する。今後の経済動向の如何によっては、現在 の移民政策に再び変更が加えられることもあり得る。寛容か制限か。そのさじ加減は社会に 大きな影響を与え得る。今後のイギリスの移民政策が注目される。

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参考

Home Office “The Economic and Fiscal Impact of Immigration” (2007)

Home Office “Evidence from our Regional Consultation on the Impacts of Migration” (2007)

Office for National Statistics “Statistical Evidence on the Economic Impact of Immigration” (2007)

Institute for Public Policy Research “Britain’s Immigrants –An economic profile–” (2007) Local Government Association “Estimating the Scale and Impacts of Migration at the

Local Level” (2007)

ほか、Home Office、Communities and Local Government、workpermit.com、BBC、 Times Online、Guardian Unlimited、Financial Times、Telegraph.co.uk 各ウェブ サイト

Department for Work and Pensions 、 Department for Innovation, Universities and Skills、Office for National Statistics、BBC、Guardian Unlimited、Times Online、 Personnel Today、Financial Times 各ウェブサイト

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第2章 ドイツにおける最近の移民政策の動向

1.ドイツの外国人問題の現状

(1)外国人人口および外国人労働者数

2006年末のドイツの総人口は8235万人であり、このうちの675万人(8.2%) が外国籍を保有している(図表2-1)。外国人の性別は、女性が327万人(48.5%)、 男性が348万人(51.5%)である。国籍別にはトルコが174万人と最も多く、全体の 2 5. 8 % を 占 め て い る 。 こ れ に イ タ リ ア 5 3 万 人 ( 7 . 9 % )、 ポ ー ラ ン ド 3 6 万 人

(5.4%)、ギリシャ30万人(4.5%)、セルビア・モンテネグロ28万人(4.2%)、クロ アチア23万人(3.4%)、ロシア19万人(2.8%)、オーストリア18万人(2.6%)、 ボスニア・ヘルツェゴビナ16万人(2.3%)が続いている(図表2-2)。

2005年の国籍別の外国人労働者数はトルコが84万人(22.0%)と最も多く、次 いでイタリア39万人(10.2%)、ギリシャ20万人(5.3%)、クロアチア20万人

(5.1%)、セルビア・モンテネグロ18万人(4.7%)、ポーランド17万人(4.4%)の順 となっている(図表2-3)。

図表2-1 総人口および外国人人口の推移(1991~2006年) 外国人人口(千人)

総人口

(千人) 合計 女性 男性

外国人の 割合(%) 1991 80,275 5,882 2,541 3,341 7.3 1992 80,975 6,496 2,776 3,720 8.0 1993 81,338 6,878 2,957 3,921 8.5 1994 81,539 6,991 3,046 3,945 8.6 1995 81,817 7,174 3,150 4,024 8.8 1996 82,012 7,314 3,236 4,078 8.9 1997 82,057 7,366 3,289 4,077 9.0 1998 82,037 7,320 3,294 4,026 8.9 1999 82,163 7,344 3,332 4,012 8.9 2000 82,260 7,297 3,338 3,959 8.9 2001 82,440 7,319 3,370 3,949 8.9 2002 82,537 7,336 3,409 3,927 8.9 2003 82,532 7,335 3,440 3,895 8.9 2004 82,501 6,717 3,219 3,498 8.1 2005 82,438 6,756 3,262 3,494 8.2 2006 82,348 6,751 3,273 3,478 8.2 出所:連邦政府ホームページ

(13)

図表2-2 国籍別外国人人口(2006年12月31日現在)

出所:連邦政府ホームページ

図表2-3 外国人労働者数

(千人) 国籍 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

構成比 (%) トルコ 1,008 996 1,004 974 975 937 840 22.0 イタリア 386 395 403 407 408 398 391 10.2 ギリシャ 219 207 210 213 196 198 201 5.3 クロアチア 189 195 193 185 173 186 195 5.1 セルビア・モンテネグロ - 207 217 220 218 175 180 4.7 ポーランド 100 106 113 133 144 144 167 4.4 ボスニア・ヘルツェゴビナ 103 100 96 98 104 114 149 3.9 オーストリア 118 110 116 113 118 124 135 3.5

オランダ 63 63 61 63 74 83 86 2.3

ポルトガル 77 83 84 76 83 76 83 2.2

スペイン 69 71 74 71 66 70 76 2.0

フランス 56 67 62 62 65 64 68 1.8

イギリス 65 71 74 72 78 73 62 1.6

アメリカ 54 51 58 55 57 55 56 1.5

その他諸国 1,038 824 851 892 944 1,004 1,134 29.7 合計 3,545 3,546 3,616 3,634 3,703 3,701 3,823 100.0

出所:OECD “International Migration Outlook 2007”

外国人人口(人)

国籍 合計 男性 女性 構成比

(%) 合計 6,751,002 3,478,426 3,272,576 100.0 トルコ 1,738,831 920,861 817,970 25.8 イタリア 534,657 315,432 219,255 7.9 ポーランド 361,696 175,275 186,421 5.4 ギリシャ 303,761 165,761 138,602 4.5 セルビア・モンテネグロ 282,067 147,706 134,361 4.2 クロアチア 227,510 111,826 115,684 3.4 ロシア連邦 187,514 75,327 112,187 2.8 オーストリア 175,653 93,182 82,471 2.6 ボスニア・ヘルツェゴビナ 157,094 81,222 75,872 2.3 ウクライナ 128,950 50,556 78,394 1.9

オランダ 123,466 67,637 55,829 1.8

ポルトガル 115,028 62,603 52,425 1.7

スペイン 106,819 53,343 53,476 1.6

フランス 104,085 48,090 55,995 1.5

アメリカ 99,265 56,639 42,626 1.5

イギリス 96,507 58,433 38,074 1.4

ヴェトナム 83,076 40,830 42,246 1.2

中国 75,733 39,710 36,023 1.1

イラク 73,561 46,524 27,037 1.1

ルーマニア 73,353 29,886 43,467 1.1

モロッコ 69,926 40,607 29,319 1.0

マケドニア 62,295 33,420 28,875 0.9

(14)

(2)移民の背景を有する人々

連邦政府の資料によると、ドイツには2005年時点で「移民の背景を有する人々」が、 総人口の5分の1に相当する約1500万人いるという。この中には、外国籍を有する外国 人約700万人のほか、19世紀にソ連や東欧諸国に移住したドイツ人の子孫で、第2次世 界大戦後、ドイツ民族であることを理由に迫害を受け、その後人道的見地からドイツに受け 入れられた帰還移住者など、約800万人のドイツ国籍保持者が含まれる。帰還移住者は申 請すればドイツ国籍を簡単に取得でき、ドイツ入国後に生まれた子供もその地位を承継した。 しかし、1993年に受け入れ手続きが厳格化され、子供への地位の承継は廃止された。こ れ以降に帰還した人々は後期帰還移住者として区別される。後期帰還移住者の中には、ドイ ツ国籍を持ちながら、ドイツ後を話せない者が多く、これらの人々のドイツ社会への統合が 大きな課題となっている。

図表2-4 総人口における移民の背景の有無(2005年)

合計 男性 女性

移民の背景のない人々 67,132 32,543 34,589

移民の背景のある人々 15,333 7,795 7,538

後期帰還移住者とその家族 4,053 1,995 2,058

市民権を与えられた移民およびドイツ人として生まれた移民の子供 3,959 1,992 1,967 外国籍の移民とドイツで生まれたその子供 7,321 3,809 3,512

合計 82,465 40,339 42,127

出所:連邦政府ホームページ

2.移民法の改正

(1)新移民法の制定

ドイツでは、少子高齢化の急速な進展により、将来人口が大幅に減少することが予想され ることから、2001年以降、人口減少に伴う労働力不足に対処する総合的な戦略を策定す るための議論が活発に行われたが、就労目的外国人の募集停止に関する規定は、引き続き、 維持された。2004年7月に、手続きの簡素化や社会統合に関する施策を盛り込んだ新移 民法が成立、2005年1月1日から施行された(図表2-5および図表2-6参照)。新 移民法は、「ワン・ストップ・ガバメント」原則を導入し、従来別々に行われてきた「滞在 許可」と「就労許可」の手続きを単一の許可に統合した。また、合法的移民のドイツ社会へ の統合化を促進するための統合コースに関する規定を盛り込んだ。また、新移民法に基づき、 初めてドイツに入国する外国人およびドイツ国内に滞在する外国人の雇用について規定する

「新規入国外国人の就労許可に関する法令」(就労法令)(図表2-7)や「国内に住む外国 人の就労手続・許可に関する法令」(就労手続法令)などの法令が制定された。

(15)

図表2-5 移民法の主な特徴(2005年1月1日施行)

・ 移民法は、従来 4 種類に分かれていた滞在許可を、期限付きの滞在許可と無期限の定 住許可の 2 種類に整理統合した。滞在の権利は、滞在の目的(雇用、教育訓練、人道 的理由、および呼び寄せ家族の移住など)に応じて決められる。

・ 外国人は、従来のように滞在許可と就労許可の 2 つの申請手続きを別々に行う必要が なくなり、所轄の外国人局に滞在許可の申請書を提出するだけでよくなった。申請を 受けた外国人局は、申請書を地方の雇用エージェンシーに送付して就労を許可するか 否かの決定を求め、その結果を滞在許可に記載する。

・ 外国人労働者の募集停止に関する規定は、未熟練および半熟練の労働者に関してだけ でなく、熟練労働者に関しても従来どおり効力を維持する。

・ EU 新規加盟国の国民は、ある一定の職に適したドイツ人または同等の資格を持つ候 補者がいない場合にのみ、その職に就くことが許可される。ただし、EU 新規加盟国 の国民は、非EU 加盟国の国民より優先される。

・ 高技能労働者(科学者、教授など)は、ドイツ入国後直ちに定住許可を取得できる。

・ 自営業者は、その予定する事業に顕著な経済的利益または特別の地域的な需要が存在 し、その事業が経済に有益な影響を与えることが期待され、しかも資金調達源を確保 している場合(例えば、100 万ユーロ以上を投資して 10 人以上の雇用を創出)に、滞 在許可を得る資格がある。滞在許可を受けた自営業者は、その事業が成功して生計が 確保された場合には、3 年後に定住許可を取得できる。

・ 外国人留学生は、自分の取得した学位に適合した職を見つけるために卒業後 1 年間ド イツに留まることができる。

・ 合法的移住者(ドイツに定住希望の外国人、ドイツ系帰還者および EU 市民)は、全 国的に標準化された統合化措置の基本パッケージ(ドイツ語600 時間、法令・文化・ 歴史30 時間)の提供を受ける。

出所:Federal Ministry of Interior “Immigration law and Policy”

(16)

図表2-6 労働移民に関する移民法の規定

基本原則 滞在資格に適用されるすべての一般条件を満たした上で、労働市場の状況および失業の効果的削減に関する 必要性を考慮して、労働移民は許可される。

分野 特別な職業資格を必要

としない雇用

職業資格を必要とする雇

高度技能移民 自営業

基本条件:

・国際協定

・入国手続きを規定す る法令

基本条件:

・特定の職業の労働市場 参入を規定する法令

・特定の場合における公 共の利益

1)科学者

2)教員および科学スタッ

3)専門職(最低限以上の 収入)

1)経済的利益および地域 の需要

2)積極的な経済的影響に 対する期待

3)優れた経営計画

具体的な仕事の提示 具体的な仕事の提示 具体的な仕事の提示 参入過程におけるその他

の機関、専門機関、商工 会議所の関与

条件

1.労働市場テスト

a)労働市場に否定的な影響がないこと b)その他の特権のある労働者の応募がないこと

2.1a および1bの審査の後、連邦雇用エージェンシーが特定の職業について 労働市場および統合の観点から入国が正当かどうか確認する。

3.連邦雇用エージェンシーの許可が必要ないと規定する法令または国際協定

年金保険に加入する申請 者にのみ滞在許可が発給 される。

有期の滞在資格 3 年間の有期滞在許可

滞在資格

最初の申請時と同一の条件を満たしていれば延長が 可能。

定住許可要件: 1.統合の意志および公 的支援なしに十分生活で きること

2.国家が規定した上級 国家機関の許可

定住許可:自営業で成功 し、十分な生計手段を獲 得していること証明する こと

出所:Migration Policy Group "Current Immigration Debates in Europe

図表2-7 就労法令に基づくドイツ労働市場への参入分野

一般区分 関連する職業および分野

連邦雇用エージェンシーの許可を必要 としない就労

職業訓練、高資格者、管理職、科学者、研究者および技術者、企業幹部、特別 な職業、ジャーナリスト、ボランティア、休暇就労、短期派遣者、国際スポー ツ行事への参加者、国際輸送、海運・航空、サービス業、特別な短期活動

連邦雇用エージェンシーの許可を必要 とする、職業教育を前提としない就労

季節労働、展示業者助手、オーペア雇用、家事手伝い、派遣者に同伴する家事 手伝い、芸術家、教育実習

連邦雇用エージェンシーの許可を必要 とする、職業教育を前提とする就労

外国語教師・郷土料理人の有期雇用、IT 専門家・科学者、管理職・専門職、外 国人のための業務に従事するドイツ語の堪能な社会福祉労働者、介護労働者、 国際人材交流・外国プロジェクト

その他の就労許可

ドイツ民族、特定の国籍者(アンドラ、オーストラリア、イスラエル、モロッ コ、カナダ、モナコ、ニュー・ジーランド、サン・マリノ、米国等)、ツーバ ー・フォー住宅の組立、長期派遣労働者、越境労働者

二国間協定に基づく就労 請負契約、研修のための外国人労働者の就労、その他の二国間協定

出所:Migration Policy Group ホームページ“Current Immigration Debates in Europe, Germany: Migration Country Report 2005”

(17)

(2)改正移民法

ドイツ政府は2007年に、2005年に制定された移民法の施行後の評価に基づく見直 しを行い、移民法改正法案を策定した。改正法案は連邦議会で3月28日、連邦参議院で7 月6日にそれぞれ採択され、8月28日に施行された。今回の改正は2005年1月に施行 された移民法を、外国人・難民に関するEU(欧州連合)指令の適用、移民の社会統合促進、 治安対策の観点から修正するものである。

ショイブレ連邦内務相は連邦参議院で移民法改正案が採択された際、「この法律によって 未来志向の移民法改正が実現する。これによりわが国の平和的共存が強化され、統合が促進 されるだろう。今回の移民法改正は、外国人や移民の統合機会を改善することに重点が置か れている」と述べた。また、「移民の側の統合への意欲とそれを受け入れる社会の側の統合 への意欲があって初めて共生が成り立つ。連邦政府は移民の包摂を促進し、外国人市民との 直接対話に努める」と強調した。

改正移民法の概要は次のとおり。

ア.EU指令の適用および統合促進

・ 強制結婚を阻止するために、ドイツに呼び寄せる外国人配偶者の最低年齢を16歳から 18歳に引き上げる。また、呼び寄せる配偶者に簡単なドイツ語知識があることの証明 を義務づける。もし偽装結婚の疑いがある場合、担当官はドイツへの入国を拒否できる。

・ 移民に統合コース(ドイツ語、法令・文化・歴史)への参加を義務づける。参加を拒む 者には最高1000ユーロの科料を課し、社会扶助の一部を30%を上限として削減す る。

・ EU市民とその家族に対する新しい無期限の滞在資格として「欧州共同体長期滞在許 可」を創設する。

・ 刑法手続きに協力することに同意した人身売買被害者に対する一時的滞在権を創設する。

・ 研究者に対する特別滞在資格、および他のEU加盟国の大学に入学を認められた学生に 対する特別滞在資格を導入する。

・ 難民保護に関する実体法上の条件とそれに伴う身分権、難民手続きの形式、難民申請者 の生活条件など、EU難民法の中心的要素をすべて適用する。

・ ドイツに投資し、雇用を創出する外国人に認められる移住の前提条件について、最低投 資総額を100万ユーロから50万ユーロに、創出すべき雇用数も10人から5人に緩 和する。

イ.一時的に滞在を容認された外国人の権利

また、人道的理由によりドイツでの滞在を一時的に容認されている外国人に対し、一定の 条件を満たしている場合、2009年12月31日までの期限付き滞在権および労働市場へ

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の参入権を与える。その前提条件は、①2007年7月1日現在、独身者は8年以上、未成 年の子供がいる家族は6年以上、ドイツに滞在していること、②統合への意欲を示している こと、③十分な居住空間を備えていること、④十分なドイツ語の知識を持っていること、

⑤外国人局に偽証を行ったことがないこと―などである。2007年8月末現在、滞在を 容認されている約15万5000人の外国人のうち約8万8000人が6年以上ドイツに滞 在しており、さらにそのうちの約6万人が8年以上前からドイツで暮らしている。

就労によって十分な生活費を稼ぐことができない外国人は、以前の受給額を上回らない社 会給付を受給することができる。

2010年1月1日以降は、外国人が将来にわたって生活費を確保でき、過去に概ね就労 していた事実を証明できる場合、滞在許可が延長される。外国人の子供は、緩和された条件 に基づき、独自の滞在許可を取得できる。

3.統合政策

(1)統合サミットの開催

ドイツ政府は2006年7月14日、移民の統合政策を協議するため、移民団体をはじめ、 政治、経済、社会の様々な機関と団体を代表する86人が参加する第1回統合サミットを開 催した。会議参加者は、移民の統合推進を基本目標とする国民的統合計画を2007年夏ま でに策定することで合意した。この基本目標の達成に向けて具体的な措置が必要なテーマと して、①移民向け統合コースの発展、②ドイツ語の習得促進、③良質な教育・職業教育の確 保による雇用機会の促進、④女性・少女の生活状況の改善と男女同権の実現、⑤現場での統 合支援、⑥市民社会の強化―の6つを確認した1。これらのテーマに対応する6つの作業 部会を設置し、具体的措置を策定することとした。

ドイツ政府は2007年7月12日、移民の統合状態の改善をテーマに第2回統合サミッ トを開催した。サミットに参加した連邦政府、地方自治体、移民団体の代表や有識者は、約 400の誓約を含む「国家統合計画」を採択した。国家統合計画は、第1回統合サミット以 降、専門家が6つの作業部会に分かれて議論し策定したものである。国家統合計画には、連 邦政府、州および市町村、労働組合、企業、財団、協会など、数多くの団体による統合改善 のための誓約や移民団体のプロジェクトが盛り込まれている。

ドイツ政府は2011年まで毎年7億5000万ユーロを統合促進プログラムの予算に割 り当てることを表明した。統合コースの内容を拡充し、若者、母親、文盲者などの必要に合 わせたコースを提供する。語学コースの受講時間数を現在の600時間から900時間に延 長し、より少人数のクラスで実施する。政府はまた、移住の経験のある企業経営者の協力を 得て2010年までに1万の研修生ポストを確保し、若年移民の就労への移行を支援する。

1 近藤潤三著「移民国としてのドイツ」木鐸社、2007年

(19)

若年移民のための奨学金制度も充実する。

連邦政府から語学コースの実施を委託された民間および非営利の語学学校は、受講時間中 の託児サービスを提供しなければならない。このほか国家統合計画は、幼少の移民や学校を 中退した移民に対する語学学習機会の提供、移民女性の権利確立を支援するプログラムの実 施などを盛り込んでいる。ドイツの地方自治体もより多くの移民を公務員として採用するよ う約束した。

メルケル首相は、国家統合計画を「統合政策の歴史におけるマイルストーン」であり「ド イツが未だかつて経験したことのないイノベーション」であると賞賛し、2008年秋に進 捗状況をフォローアップするための統合サミットを開催すると発表した。

しかし、ドイツで暮らす約250万人のトルコ系移民を代表する主要四団体は、2007 年7月6日に成立した改正移民法に抗議するため、統合サミットをボイコットした。これら の団体は、呼び寄せ配偶者の最低年齢の引き上げや基礎的語学知識習得などの規制強化に反 対している。この改正はトルコ人社会に蔓延する強制結婚の防止を目的としていると言われ ている。また、基礎的語学知識習得の要件は、日本、米国、オーストラリア、ニュージーラ ンドやEU加盟国からの移民には適用されない。これらを理由にトルコ系移民の団体は、移 民法の規定がトルコ人社会を狙い撃ちした人種差別であると糾弾した。

(2)国家統合計画の概要

国家統合計画は、連邦、州、地方公共団体、市民社会の代表者などがよりよい統合のため に適切な措置を講じ、統合状態を改善する義務を負うとしている。参加者は、統合に関する 措置の策定にあたり、移民および移民団体との対話と緊密な協力を実施する。すべての協力 者が引き受ける約400の誓約によって、国家統合計画は拘束力を得る。

ア.連邦の措置

連邦政府は、統合促進に関する措置のために、毎年約7億5000万ユーロを計上する。 家族、教育および労働市場に関する現行プログラムを点検し、必要なら移民により一層有益 となるよう調整する。連邦政府は2008年末に、国家統合計画の進捗状況について、中間 評価を実施する。

(ア) 教育による統合

教育は社会的、文化的、経済的統合への重大な鍵であり、ドイツ語への確実な取り組みが そのための重要な前提条件となる。連邦政府は、①州や地方自治体とともに、2013年ま でに3歳以下の子供の35%が利用できるよう託児所を拡充し、移民の背景を有する子供の ための早期語学教育を実施する、②言語レベルのチェック方法に関する研究を促進する、

③登校拒否者を学校に再統合し、卒業資格を得るチャンスを改善する―などの施策を講ずる。

(20)

(イ) 言語による統合

言語は、移民が毎日の生活を自力で行うために不可欠であり、統合の前提条件となる。連 邦政府は、統一的な言語およびオリエンテーション・コースから成る統合コースを実施する。 統合コースの時間数を参加者の需要に応じて拡大し、内容の質的改善を図る。両親や女性が 統合コースに参加できるよう、受講中に子供の世話をするサービスを提供する。若年移民の ために職業と語学コースの運営主体の間のより強い協力関係を構築する。

(ウ) 職業教育と職業生活の統合

学校教育と職業教育は社会的統合の中心的要素である。連邦政府は、移民の背景を有する 若年者の職業教育と雇用機会を改善するための処置を講ずる。

・ 職業教育の実施主体と共同で、移民の背景を有し、学校教育および職業教育を受ける用 意のある若年者の職業への統合を改善する措置を実施する。

・ 初期職業資格付与措置(EQJ)に基づく職業訓練契約において、4万人の若年者を対象 に助成金を支給する。

・ ドイツ商工業会議所およびドイツにある外資系企業の経済団体と共同で、2010年ま でに外国出身者が経営する企業で1万の新規職業訓練ポストを創設する。

・ 行政機関および公的企業の管轄領域において、移民の背景のある職業訓練生の数を増や す。

・ 外国人訓練生、とりわけ滞在権および滞在見通しを有する若者が職業専門教育を受ける ための奨学金を拡充する。

・ 移民の背景を有する若い女性向けに労働市場や職業に関する説明を行う指導教員を養成 する。

・ 経済界が進める「チャンスとしての多様性-ドイツにおける企業の多様性憲章」を支援 し、移民の労働市場および職業教育の状況を改善することを目ざす。

・ 2007年半ばから欧州社会基金(EFS)を活用してドイツ語教育に関連した助成を拡 大する。連邦の統合コースを労働市場関連で補完し、将来的に移民の背景を有するすべ ての人々が自由に利用できるようにする。

(エ) 女性と少女

ドイツで生活している移民の背景を有する人々のほぼ半数は女性と少女である。移民女性 は、母親の役割において、次世代の統合のために重要な立場を与えられている。連邦は、移 民女性の潜在能力を強化し、社会的・政治的関与の可能性を支援するため、①両親および女 性向けに統合コースの時間割当を拡大、②統合コースの運営主体に受講者の子供の世話をす るサービスの提供を義務化―などの施策を講ずる。

(オ) 現場での統合

統合は地方自治全体にとって必要不可欠なものである。特に多くの移民が生活し、不利に 扱われている都市においては特別な行動が必要である。連邦および州は、「特別な発展の必

(21)

要性を有する都市の一部-社会福祉の都市」計画で毎年財政援助を行っている。また、「現 場での雇用、教育、参加」計画により、雇用および資格助成のための諸措置を講ずる。

(カ) 市民参加による統合

統合は市民社会の多様な活動がなければ不可能である。市民の参加は、社会的なまとまり を創り出し、統合の効果的な触媒として作用する。移民およびその家族の参加は、多様な社 会を豊かにする。連邦は、移民および移民団体の適切な参加を保証する。連邦プログラムの 枠内で多文化の開放とネットワーク化をより強力に推進し、社会経済基盤プロジェクトの助 成基準や助成協定に定着させる。プロジェクトの運営主体の移民団体に対して専門的援助を 行い、移民団体のネットワーク形成を支援する。

イ.州の貢献

各州は、連邦、地方自治体、市民社会と協力して統合を成功させる責任を負っており、統 合政策を将来の社会的中心課題と認識している。各州は、今後も、統合促進の多様な措置を よりよく調整し、全体構想の中で明確な責任を確立する課題に取り組む。各州は、連邦と市 民社会の緊密な協力と並んで、各州間の対話を恒常的に行うため、統合政策の計画と措置に 関する情報交換を実施する。

(ア) 教育による統合

各州は、統合を成功させるために教育に関する次の措置を講ずる。

・ 言語教育を全日制託児所の構想に組み入れる。

・ 全日制託児所と基礎学校のための相互に緊密に調整された共通の教育および養成計画を 策定する。

・ 必要な場合は、引き続き入学前に言語能力の確認と教育を実施する。

・ 移民の背景を有する子供の占める割合の高い施設に対し、追加の助成措置を講ずる。

・ 教育者の資格のための助成措置を講ずる。

・ すべての学校のすべての段階において、言語を支援する措置を考慮する。

・ すべての教師が、言語教育の課題を授業の中で実現できるよう、今後5年間で必要な継 続教育に関する措置を提供する。

・ 多数の言語ができる移民の両親の協力により、州の仕事を強化する。

・ 今後5年以内に移民の背景を有する若者に占める中途退学者の割合を顕著に減少させる。

・ 移民の背景を有する生徒の割合が高い学校に特別の方法(例えば、生徒数の削減、教職 員の増員、社会教育学の専門家による教師への支援)を導入する。

・ 移民の背景を有する教師、教育者、ソーシャルワーカーの採用を増やし、首尾一貫した 継続教育を行う。

・ 職業に関連する言語育成に特別の注意を払い、移民の背景を有する若者の占める割合が 高い職業教育を行う学校に対して特別の援助を行う。

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(イ) 職業への統合

各州は、社会的統合のために決定的に重要な職業への統合を促進するために次の措置を講 ずる。

・ 州独自の労働市場計画によって労働市場における統合を支援する。

・ 使用者は、移民の背景を有する職員の割合を、適性、能力、成績を考慮しつつ高める。

・ 「専門教育と専門家の後継者のための国家協定」の枠内で、学校から職業へのよりよい移 行管理を実施し、移民の背景を有する若者を支援する。

・ 行政機関、学校、若者の施設、地方の経営者、雇用エージェンシー、研究者、移民団体、 移民の企業連盟およびその他の関係者の間のネットワーク構築を支援する。

・ 移民の自営業者および生活基盤の創立者のための情報提供を強化する。

・ 移住の経験を持つオーナー経営者の企業における職業教育を強化する。 (ウ) 統合コース

各州は、外国人局、労働団体、地方自治体、統合コースの実施主体、連邦移民難民庁の地 域コーディネーターおよび移民に特化した助言業務を行う地域コーディネーターとより緊密 に協力する。高齢で移住した人々が統合コースによりよく適応できるよう、全日制託児所、 学校、若者に助言を与える施設および住宅企業のネットワークを活用する。

(エ) 女性と少女

各州は、女性と少女が同等の権利で完全に参加する機会を持続的に強化する。そのために、 女性と少女が、自由な職業選択および配偶者選択の権利を侵害されないよう、予防、危機へ の介入、支援に関する適切な措置を講じる。

ウ.地方自治体の貢献

いくつかの地方自治体では、住民のほぼ30%が移民の背景を有している。地方自治体、 都市、市町村は、統合に関する自らの重大な責任を認識している。地方自治体連盟の連邦連 合は、その構成員および構成連盟に次の点を勧奨している。

(ア) 地方自治体の横断的課題としての統合

・ 統合に地方自治体の政策上の高い意義を認める。

・ 統合を管轄範囲における重要な課題として地方行政に定着させ、その意義を相応に根づ かせる。

・ その時々の地域特有の需要に適合した、地方自治体の全体戦略を発展、継続させる。 (イ) 地方ネットワークの支援

・ 社会的、政治的、経済的な関係者のネットワーク強化に尽力する。

・ その際に、さまざまな統合努力の調整と調和のための中心的な役割を担う。 (ウ) 行政の開放

・ 行政機関における移民の背景を有する人々の割合を高める。

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(エ) 市民参加による統合

・ 移民による、移民のための市民参加を支援し、促進する。

・ 移民の背景を有する人々を、社会的、政治的決定および政策形成過程により強固に参加 させる。

(オ) 言語と教育

・ 連邦および各州の行う教育機会を利用する移民を支援する。

・ 教育機会の提供を地方自治体の措置によって補完し、連邦および各州の措置とネットワ ーク化する。

(カ) 職業の統合

・ 社会法典第Ⅱ編に基づく「求職者の基礎保障」の実施主体として、移民の背景を有する 人々の職業への統合を支援する。

・ 使用者としての地方自治体の役割において、職業への統合に直接貢献する。

エ.非政府組織および関係者の義務

連邦政府は、国家統合計画の策定にあたり、10のテーマ分野を検討する6つの作業グル ープを設置した。移民を含む376人の代表者が参加する作業グループは、現状調査、目標 および統合促進策を盛り込んだ報告を取りまとめた。報告は、市民社会の関係者の約400 にのぼる非常に具体的な義務を盛り込んでいる。

(ア) 移民団体

・ ドイツのトルコ協会(TDG)は、トルコ人の父母団体連合と協力して、トルコ出身の父 母の子供の教育を強力に推進する。とりわけ、学校におけるトルコ系の父母および生徒の 代表者の参加を得て、中途退学者の割合を半減させ、中位の修了資格およびギムナジウム 6年修了資格を取得するトルコ系学生の数を顕著に増加させる。この教育キャンペーンの 枠内で、トルコ語メディアの協力により教育意識を啓蒙する。父母の学術協会をすべての 連邦州に設立し、トルコ協会の100名を教育大使に任命する。

・ イタリア政府は、領事館と移民団体を通じて、子供と若者向けの補完的な母語の授業お よび学習状況と必要に応じた一般的な育成コースに対する助成を行う。さらに、将来は、 この支援措置をイタリア人の子供の占める割合が高い全日制学校と協力して、知識欲旺盛 なドイツ人の子供および他の言語を話す子供にも追加的に提供する。

・ スペイン人の父母団体連合は、今後数年のうちに、移民父母のための継続教育計画を言 語育成の分野で実行する。

(イ) 経済団体と労働組合

・ 商工業会議所は、外国の企業に対して、教育についての専門的助言を行い、外国人の若 者を対象に教育情報に関する催しを実施する。

・ 手工業会議所は、企業および移民の背景を有する若者の目的に合った教育助言者の訓練

参照

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