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マクロ経済学 10
金融
慶田 昌之
金融
金融とはお金を融通するという意味を持っている。
経済主体はさまざまな理由から資金を調達しようとする。 その結果として、ある主体から他の主体へお金が流れていく ことになる。
金融を理解するとは、それらの全体の動きを理解することに 他ならない。
貨幣
一般的に“お金”と呼ばれるものは経済学では貨幣という言 葉を使う。
貨幣には、次の3つの機能があるとされる。
「価値尺度」の機能
「交換手段」の機能
「価値の保蔵手段」の機能
これらの機能を満たすものとして、現代の多くの国では、国
(あるいは中央銀行)が現金通貨を発行している。
決済
日常的に個人が貨幣を用いるのは、商品を購入する目的で ある。
売買取り引きを完了することを決済と呼ぶが、貨幣をもちい る決済は、貨幣の機能のひとつである。(「交換手段」の機能) 個人では現金通貨が決済手段として用いられる場面が多い。 例外としては、クレジットカードやデビットカードでの決済 がある。
少額の決済には現金貨幣は便利であるが、企業間の決済など では現金通貨はあまり便利とはいえない。
銀行
銀行は、多額の決済手段として銀行預金を提供している。 銀行預金は銀行口座に預けられた貨幣の記録である。 いま、A社とB社の間で売買契約が締結されたとしよう。 A社はB社に商品を引渡し、B社はA社に貨幣を渡すことで 決済が完了する。
決済金額が多額であると、現金通貨での決済は現実的では ない。
銀行
このような場合、A社、B社ともに銀行預金を持っていた場 合、決済をB社の銀行預金の残高を決済金額分だけ減らし、 A社の銀行預金の残高を決済金額分だけ増やすことで決済す ることができる。
銀行預金は、貨幣の「交換手段」の機能を持っていることが 分かる。
実際には、手形や小切手などの手段が用いられる。
銀行
また、銀行預金が預金者の要求によって現金通貨に交換され ることで、「価値尺度」の機能、「価値の保蔵手段」の機能も 持っていると考えることができる。
このように、銀行が提供する銀行預金には貨幣としての機能 が備わっている。
銀行預金を預金通貨と呼び、貨幣のひとつの形態と考える。
信用創造
ここで述べた銀行による預金通貨の供給は、銀行がその業務 の中で行っているひとつの役割である。
もちろん、銀行は、預金を集め銀行貸出をするという業務を 担っている。
この銀行貸出は、資金が余剰している主体から資金が不足し ている主体に資金を融通しているという意味で、金融の重要 な役割である。
この金融は、銀行という仲介者がいるという意味で間接金 融と呼ばれる。
直接金融の例としては、株式市場があげられる。
信用創造
銀行貸出によってどのようなことが起こるかを、詳しく考 える。
このとき注意すべきことは、銀行は集めた預金を金庫に保管 しているわけではない、ということである。
集めた預金のうち、少なくとも一部を金庫から出して、誰か に貸し出さなければ、銀行貸出はできない。
一方で、預金者は好きなときに自分の預金を引き出したり、 自分の支払いの決済に使ったりすることができる。
銀行は、預金の全てを金庫で保管していては銀行貸出ができ ないし、すべてを貸し出してしまっては預金者の引出しに応 じることができない。
そこで預金のある割合を準備として保管し、残りを銀行貸出 として、利益の見込める会社に貸し出すと考えよう。
信用創造
預金通貨の総量は、銀行預金の総量であるが、それは単純に 最初に資金が余剰していて銀行に預金した人の資金の総量で はない。
以下ではそのことを詳しく見ていこう。
信用創造
いま、A銀行が預金量Dを集めたとする。
A銀行は、α の割合を準備として持ち、残りを貸し出すと する。
A銀行の銀行貸出は(1 − α)D となる。 A銀行は、A社にすべて貸し出すとしよう。
信用創造
A社は、なんらかの理由があって (1 − α)D をA銀行から借 りた。
その理由はさまざまであろうが、通常は金庫にいれておくた めではない。
多くの場合は、支払いに備えるためである。
会社の支払いは、投資、原材料の購入、賃金の支払いなどさ まざまな理由が考えられるが、ここでは投資としてB社から 機械設備を購入したと考えよう。
信用創造
機械設備の販売契約の決済の結果として、(1 − α)D はB社 に支払われる。
この際、B社がB銀行に銀行口座を持っているとすれば、こ の(1 − α)D は、B銀行の(B社が持つ)預金となる。
信用創造
B銀行では、新たに集まった預金 (1 − α)D をそのまま金庫 に眠らせることはしない。
A銀行と同様に、一定の準備を持ち、それ以外を貸出にする。 ここではA銀行と同じαの割合の準備を持ち、残りを貸し出 すものとする。
信用創造
A銀行からB銀行への、貸出→ 支払い→ 預金 →貸出、と いう連鎖は、B銀行をこえて止まることはない。
結果として、A銀行が受け入れたDという預金は、銀行シス テムの貸出機能を通じて、銀行全体の預金量S
S = D + (1 − α)D + (1 − α)2D+ (1 − α)3D+ · · · になることがわかる。
このようなDからSへの預金量の増加を信用創造と呼ぶ。
信用創造
銀行全体の預金量Sは次のようにして求まる。
S = D + (1 − α)D + (1 − α)2D+ (1 − α)3D+ · · · (1 − α)S = (1 − α)D + (1 − α)2D+ (1 − α)3D+ · · ·
αS = D S = 1
αD
例えば、準備の割合を10%とすると(α= 0.1)、信用創造に よって銀行全体の預金量Sは、最初に受け入れた預金Dの 10倍となる。
貨幣とは何か?
貨幣とは、先に述べた「価値尺度」、「交換手段」、「価値の保 蔵手段」の機能を備えたものと考えるべきである。
このような考え方にたつと、預金通貨は十分に貨幣と呼ぶ資 格がある。
現在、最も基本的な貨幣の定義は M1 と呼ばれる。 M1 =現金通貨+預金通貨
貨幣とは何か?
このように考えるのは、銀行預金が預金者が望むときに現金 通貨として引き出すことができ、預金者が望むときに決済手 段として利用できるからである。
つまり、預金通貨が現金通貨と同じくらい流動性が高いとみ なせると考えられる。
したがって、貨幣とその他の資産をわけるひとつの要因は、 流動性の程度ということになる。
貨幣とは何か?
このように考えると、かつては流動性の低い資産と考えられ てきたものの中にも、金融技術の発展により十分な流動性を 持つ金融資産がある。
特に準通貨(銀行預金のうち要求払いでないもの)と譲渡性 預金(CD)は十分に流動性が高いと考えられている。
M2 = M1 +準通貨
M2 + CD = M1 +準通貨+ 譲渡性預金
M2+CDは現在マネーサプライの指標として一般的に用いら
れる。
M2+CD
中央銀行
銀行の準備は、中央銀行の当座預金として中央銀行に預ける ことが制度として決まっている場合が多い。
日本では日銀当座預金として各銀行が持っており、預金量に 応じてある額を一定の期間、日銀当座預金としてもっておく ことが義務づけられている。
日銀当座預金は、銀行が準備を預けるとともに、決済口座と して機能する。
例えば、A 銀行の顧客 A さんが B 銀行の顧客 B さんに振込を すると、最終的にはA 銀行の日銀当座預金が減り、B 銀行の 日銀当座預金が増えて決済が完了する。
中央銀行
マクロモデルの説明で中央銀行はマネーサプライMをコン トロールすると述べた。
実際の中央銀行がマネーサプライをコントロールする上で重 要な役割を果たすものにハイパワードマネー(HPM)がある。
HPM =現金通貨 +銀行の準備預金
中央銀行
現金通貨を無視できるとし、銀行の準備率(準備の割合)が 一定であるとすると、HPMとM1の関係は、一定の関係が ある。
このとき、中央銀行はHPMをコントロールすることによっ て、マネーサプライをコントロールすることができることが わかる。
中央銀行
中央銀行は、主に2つの手段でHPMをコントロールする。 公定歩合(基準割引率および基準貸付利率)の変更
公開市場操作(買いオペレーション、売りオペレーション)
銀行システムのリスク
銀行の準備の説明からわかるとおり、銀行は受け入れた預金 の一部のみが支払いが可能な状態にある。
通常の状態では、多くの預金者は銀行預金を預けたままにし てあるため、一部の支払いを要求する人にのみに対応するこ とで、銀行は営業できる。
しかし、もし銀行に多くの預金者が同時に支払いを求めると 銀行は全ての支払いに応じることはできない。
銀行システムのリスク
正常な状態では銀行システムに問題は起きないが、銀行預金 に対する信用が失われると、多くの預金者が預金の引出しを 求めることになる。
取り付け騒ぎと呼ばれる状況は、銀行預金に対する不安が引 き金となって預金者が銀行に殺到することからおこる。 銀行システムが十全に働くためには、銀行システムへの信 用が重要である。