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基礎物理化学(熱力学) 安藤耕司のページ chap04

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Academic year: 2018

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(1)

4 章 相平衡

本章では、相平衡すなわち系の内部で二相(例えば気相と液相)が共存する場合を 考察する。これには、1.5節で扱っ た二つの系ABを、二つの相に読み替えれば よい。二系間の平衡の条件は、式(1.10)

TA= TB, PA= PB, µA= µB

であっ た。式(3.7)が示すように、化学ポテンシャ ルは温度と圧力の関数µ(T, P ) ある。よっ て、上の三つの条件式は独立ではない。

4.1 相平衡の条件

ある純物質の気相-液相間の平衡を考える。この物質が気相(gas)にあっ たときの 化学ポテンシャ ルをµ(g)(T, P )、液相(liquid)にあっ たときの化学ポテンシャ ルを µ(l)(T, P )とする。上掲の式(1.10)のように、

相平衡の条件は

µ(g)(T, P ) = µ(l)(T, P ) (4.1)

である。

4.1.1 Gibbs エネルギーとの関係

(2.19)を再掲すると、

dG= −SdT + V dP + µdN

気相と液相が共存する場合には、µdNの項に各相からの寄与があり、 dG= −SdT + V dP + µ(g)dN(g)+ µ(l)dN(l) と書かれる。定温(dT = 0)・ 定圧(dP = 0)の下で、これは

dG= µ(g)dN(g)+ µ(l)dN(l) (定温・ 定圧)

(2)

36 4 章 相平衡

となる。物質量の保存dN(g)+ dN(l) = 0を用いれば、 dG=(µ(g)(T, P ) − µ(l)(T, P ))dN(g) よっ て、相平衡(4.1)ではdG= 0である。

1.5節の練習問題で見たように、物質は化学ポテンシャ ルの高い方から低い方へ 移動する。すなわち、µ(g)(T, P ) > µ(l)(T, P )のときdN(g)<0である。よっ て、 平衡からずれた状態から平衡へ向かう変化の方向はdG <0 で与えられる。平衡を 表す等号も含めれば、Gibbsエネルギー減少則

dG ≤0 (定温・ 定圧)

がここでも得られる。

補足 (1.9)TA= TB= T, PA= PB が成り立っ ているとき、 dSA+B = −µAµB

T dNA

となる。ここで、dSが全系のdSA+ dSBであることを明示するためにdSA+B 書いた。対応するGibbsエネルギー変化は、

dGA+B= (µA−µB) dNA= −T dSA+B

と書かれる。このようにして、孤立系である全系のエントロピー増大則dSA+B ≥0 と、系内の物質移動におけるGibbsエネルギー減少則dGA+B0が等価であるこ とが確認される。上式は、式(2.18)に対応している。(ただし、式(2.18)では全体 を部分系と熱浴に分け、後者が温度を保つ役割を担っ たが、上の例ではTA= TB 前提とした。)

4.1.2 二相共存曲線

T, P, µ を軸とする座標系で、二曲面 µ = µ(g)(T, P ), µ = µ(l)(T, P ) を 考える。下記の補足で見るように、これらの傾きは大きく異なり、互いに交

わる。

相平衡の条件(4.1) は、これら二曲面の交線を表す。これを T –P 平面に 投影したものを、二相共存曲線と呼ぶ。

特に気–液平衡の場合は蒸気圧曲線と呼ぶ。気相、液相、固相の三相の境界 として、気–液、気–固、液–固の三つの共存曲線がある。三つの交わる点を 三重点と呼ぶ。

共存曲線の傾きをエンタルピー変化や体積変化と関係付けるのが、次節以 下で議論するClapeyron の式および Clausius–Clapeyron の式である。

(3)

補足 (3.8)より、 ( ∂µ

∂T )

P

= −Sm, ( ∂µ

∂P )

T

= Vm

が成り立つ。これより、関数µ(T, P )の大まかな振舞いが分かる。1.6節で指摘した ように、有限温度ではS >0なので、µ(T, P )は温度Tの方向に減少関数である。 Smの大きさは、微視的乱雑さを反映して、気相>液相>固相なので、µ(T, P ) 面のT 方向へ減少する傾きの大きさはその順番になる。一方、V >0なので、µ は圧力P の増加関数である。Vmは、気相液相固相なので(液相と固相の順 番は物質による)µ(T, P )曲面のP方向への増加の傾きはその順番になる。理想 気体の場合のµ(T, P )の具体的な表式は、第5章で求める。

4.2 Clapeyron の式

共存曲線(4.1) 上での微小変化

(g)(T, P ) = dµ(l)(T, P )

にGibbs–Duhem の式 (3.8) を用いると、

Sm(g)dT + Vm(g)dP = −Sm(l)dT + Vm(l)dP

右肩の(g) または (l) により気相と液相を区別するのは、 µ の場合と同様であ る。これより、T –P 平面上の二相共存曲線の傾きは、

dP dT =

Sm(g)Sm(l)

Vm(g)Vm(l)

= ∆S

m(vp)

∆Vm(vp)

(4.2)

(4)

38 4 章 相平衡

となる。右側の等号でモル蒸発エントロピー∆S

m(vp) とモル蒸発体積∆Vm(vp)

を定義した。右肩の(vp) は、蒸発 (vaporization) を示す。次に、

平衡であることを利用して、上式のエントロピーS をエンタルピー H で 書き換える。

まず、Sm, Vmと同様にGm, Hmも1 モル当りの量として定義しておく。 式(2.21) G = H − T S は各相について G(g,l)m = Hm(g,l) T Sm(g,l) と書かれ

る。あるいは、1 モル当りの Gibbs エネルギーを化学ポテンシャルとして、 µ(g,l) = Hm(g,l)T Sm(g,l) である。相平衡の条件(??) は∆Hm(vp)はモル蒸発エン

タルピーである。(以下、節約のため蒸発熱と書く。) 相平衡では∆G(vp)m = 0 より

∆Hm(vp)= T ∆Sm(vp) これを式(4.2) に代入して、

dP dT =

∆Hm(vp)

T ∆Vm(vp)

(4.3)

を得る。これはClapeyron の式と呼ばれる。

練習問題 Clapeyron の式は気–液平衡だけでなく、気–固、液–固でも成り 立つことを確かめよ。対応する∆Hmは、気–固平衡の場合はモル昇華熱、 液–固平衡の場合はモル融解熱である

4.3 Clausius–Clapeyron の式

気–液および気–固平衡の場合に、

理想気体の状態方程式を利用して、体積変化を温度と圧力で書き直した ものがClausius–Clapeyron の式である。

一般に気相の体積が圧倒的に大きい(V

m(g) Vm(l)) ことから、

∆Vm(vp) = Vm(g)−Vm(l) ≃Vm(g)

昇華= sublimation. 融解 = fusion または melting.

(5)

気相が理想気体の状態方程式に従うとすればP V

m(g) = RT である。これら を式(4.3) に代入して

dP dT =

P ∆Hm(vp)

RT2

d ln P dT =

∆Hm(vp)

RT2 (4.4)

を得る。これはClausius–Clapeyron の式と呼ばれる。

練習問題 蒸発熱の温度依存は無視できると近似することにより、次の二式 を導け。C は積分定数である。

ln P = −∆H

m(vp)

RT + C (4.5)

ln( P2 P1

)

= −∆H

m(vp)

R

( 1 T2

1 T1

)

(4.6)

略解 状態(T1, P1)から(T2, P2)への積分として、

P2 P1

1 PdP =

T2 T1

∆Hm(vp) RT dT を計算する。

Clausius–Clapeyron の式 (4.4)-(4.6) を用いれば、 T -P 平面に描いた蒸気 圧曲線の接線の傾き、あるいは1/T に対する P の対数グラフの傾きから蒸 発熱を求めることができる。

6.1 節では、希薄溶液の沸点上昇が蒸発熱によって表される。

参照

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