• 検索結果がありません。

植物の季節応答と生態系のつながり

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2017

シェア "植物の季節応答と生態系のつながり"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

植物の季節応答と生態系のつながり

大学院地球環境科学研究院・大学院環境科学院 准教授

工藤 岳

専門分野 : 陸域生態学,植物生態学

研究のキーワード : 生物季節,環境応答,気候変動,生物間相互作用 HP アドレス : http://hosho.ees.hokudai.ac.jp/~gaku/index-j.html

何を研究しているのですか?

季節変化がもたらす生態学的な重要性について研究をしています。私たちの暮らしてい る温帯は季節性が明瞭で、ほとんどの動植物は芽吹き、開花・結実、渡り、冬眠、落葉と いった固有の活動サイクルを持っています。これを生物季節といいます。生育に不適な季 節の存在は生物の活動時期や期間を決定し、高山帯のようにとても寒冷な環境では積雪期 間が植物の生産活動を制限します。季節は植物の生活に自然選択圧として強く作用し、生 育環境に特有の季節性への適応が必要になります。例えば、生育期間が気候的に制約され ている環境では、短期間で開花結実できる性質が有利となります。陸上生態系では光合成 による炭素固定を行う植物が生態系の骨格を作っていて、葉・花・果実などの生産は、そ れを直接・間接的に利用する動物の生命を支えています。植物の開花や結実は、場所や季 節によって大きく変動し、年によっても大きく異なるので(豊凶現象)、花や果実を餌資源 として利用する動物群集に強い影響を及ぼします。さらに植物自身の環境形成作用が季節 性を作り出すこともあります。

例えば落葉広葉樹林の開葉タイ ミングは、林内の光環境を変化 させ、下層植生が利用できる光 資源量を季節的に変動させます。 植物の季節的環境応答 とその 生態系への作用について、主に 寒冷生態系で野外調査を中心と した研究を行っています。さら に、地球温暖化などの気候変動 は生物季節にも強く作用します。 気候変動がもたらす生態系撹乱 も大きな研究テーマです。

どんなところでどんな研究をしているのですか?

高山生態系の調査は、主に大雪山国立公園で行っています。大雪山系は我が国最大の高 山生態系を有しており、多様な高山植生と豊富な雪渓があり、季節性の研究には最適な環 境です。大雪山での調査は大学院生だった頃から25年に渡って継続していて、開花結実状

図1 植物の季節応答とその生態系機能の解明

出身高校:東京工業大学付属工業高校 最終学歴:北海道大学大学院環境科学研究科

いきもの

― 168 ― ― 169 ―

(2)

況と気象環境の長期モニタリングを行っています。こ れまでに、生育期間の短縮に対する高山植物の生理生 態的応答と生長戦略、高山植物の遺伝構造、花粉媒介 昆虫と高山植物の繁殖特性の関係、発芽特性の種内・ 種間変異、積雪環境と植生変化の関連などについて研 究を行ってきました。さらに近年、高山帯では雪解け の早期化が進行していて、土壌の乾燥化が起きていま す。その結果、湿生お花畑の衰退など、気候変動の深 刻な影響も明らかになってきました。

森林生態系の調査は、札幌近郊の自然林や研究林を 利用して行っています。樹木の開花量の経年変動(豊 凶)は、花粉媒介昆虫であるマルハナバチ個体数の年 変動を引き起こし、林床植物の受粉効率に強い影響を 及ぼすという、送粉系を介した生物間相互作用の実態 が明らかになりました。林内光環境の季節変化に対す る林床植物の生長戦略、光合成で獲得した同化産物の季節 的な利用様式と繁殖活性との関連、土壌温暖化に対する植 物の季節応答についての操作実験なども行ってきました。 また、早春の気候変動が植物の開花時期と越冬していたマ ルハナバチの出現時期のタイミングのずれを引き起こし、 植物の受粉サービスに影響をもたらす生物季節の不一致

(フェノロジカルミスマッチ)のメカニズムについても研究 しています。暖冬で雪解けが早い程ミスマッチが大きくな り、春咲き植物の種子生産が低下することが分かりました。

次に何を目指しますか?

生物間相互作用の形態は、生物群集の地域性に強く影響されます。花粉媒介に関わる植 物と昆虫の相互作用がもたらす自然選択圧も、地域によって変わってくるはずです。北半 球の寒冷地域で重要な花粉媒介者であるハナバチ類の生活環(季節性)は、花の形質だけで なく群集の開花様式にも強い影響を及ぼしているはずです。それを確かめる第一歩として、 北海道と似通った気候帯にありながら社会性ハナバチが欠如しているニュージーランドの 高山生態系を比較することにより、高山植物群集の開花構造が生物間相互作用を介してど のように進化してきたのかを明らかにする研究を始めたところです。気候要因に対する季 節応答に加えて、生物間相互作用が生み出す生物季節応答を解明したいと考えています。

参考書

(1) 『生態系と群集をむすぶ(シリーズ群集生態学4)』,京都大学学術出版会(2008) (2) 『生物のつながりを見つめよう(エコロジー講座5)』,文一総合出版(2012

写真1 大雪山五色が原で進行中の湿生お花 畑の 消失。 上部写真は 1990 年、 下部写真は 2007年に撮影したもの。90年代前半にハクサ ンイチゲ群落は消滅した。

写真2 早春の林床に現れるエゾエンゴ サクの花を訪れるアカマルハナバチの 女王。開花時期とマルハナバチの出現 時期は、雪解けの早い年には一致しな くなり、植物の種子生産は低下する。

― 168 ― ― 169 ―

参照

関連したドキュメント

オリコン年間ランキングからは『その年のヒット曲」を振り返ることができた。80年代も90年

 渡嘉敷島の慰安所は慶良間空襲が始まった23日に爆撃され全焼した。7 人の「慰安婦」のうちハルコ

 「世界陸上は今までの競技 人生の中で最も印象に残る大 会になりました。でも、最大の目

本判決が不合理だとした事実関係の︱つに原因となった暴行を裏づける診断書ないし患部写真の欠落がある︒この

号機等 不適合事象 発見日 備  考.

写真① 西側路盤整備完了 写真② 南側路盤整備完了 写真④ 構台ステージ状況 写真⑤

写真① ⻄側路盤整備完了 写真② 南側路盤整備完了 写真④ 前室鉄⾻設置状況 写真⑤

真竹は約 120 年ごとに一斉に花を咲かせ、枯れてしまう そうです。昭和 40 年代にこの開花があり、必要な量の竹