14 2 速度と加速度
2.4
速度の合成R
O
O'
x
y
θ O'
P
r
'B
A
t
bãt
=0C D
図4 問題11. 半径Rの車輪が等速vで滑らずに転がっている。車輪上の
一点の座標と速度,加速度を求める。車輪の中心O′が原点Oを通り 過ぎた時刻を0とする。また角速度ωをω :=
v
R と定義する
*4
。以下 (♦,♢)でベクトルのx, y成分を表す。
11-1. Oから見たO′の位置をr0で表す。時刻tでのr0の座標を 求めよ。
【解答】O′ のx座標は車輪が進んだ距離OA= vtに等しい。y座 標は車輪の半径Rに等しい。よって
r0= (vt, R). (2.66)
11-2.時刻0で地面に接していた車輪上の点が時刻tで点Pに来た。図のθをωを使って表せ。
【解答】車輪は滑らないので円弧APとOAとは長さが等しい。AP = Rθより
Rθ= vt, ∴ θ=vt
R = ωt. (2.67)
11-3.O′から見た点Pの位置ベクトルr′を求めよ。
【解答】O′を原点と考えると,r′の大きさはR,偏角は 3
2π− θなので
r′= R (
cos(3
2π− θ), sin( 3 2π− θ)
)
= R(− sin θ, − cos θ) = R(− sin ωt, − cos ω). (2.68)
11-4.原点Oから見た点Pの座標rを求めよ。
【解答】r= r0+ r′と書ける。(2.66)と(2.68),およびv= Rωより
r= r0+ r′= (Rωt, R) + R(− sin ωt, − cos ωt) = R(ωt − sin ωt, 1 − cos ωt) (2.69)
である*5。t= 0でr= (0, 0) = 0となり,点Pはきちんと原点にある。またnを整数としてθ= ωt = 2nπ のとき,点Pは地面に接する。その時のP の座標は
R(2nπ, 0) = n(2πR, 0). (2.70)
つまりnは車輪の回転数に対応する。
11-5.原点Oから見た点Pの速度v= ˙rを求めよ。
【解答】速度の定義と(2.69)より v= ˙r = d
dt(r0+ r
′) = ˙r 0+ ˙r′
= R(ω − ω cos ωt, ω sin ωt) = Rω(1 − cos ωt, sin ωt). (2.71)
*4
角速度については,単振動の節で詳しく議論する。
*5P の軌道は cycloid と呼ばれる。最速降下曲線として解析力学で再び現れる。
2.5 外積を用いる計算例 15
特にP が地面に接するのはωt= 2nπの時で,その瞬間の速度vAは
vA= Rω(1 − cos 2nπ, sin 2nπ) = (0, 0) = 0. (2.72)
地 面 に 接 す る 瞬 間 ,P は 静 止 し て い る 。こ れ は 車 輪 が 滑 ら な い こ と を 意 味 す る 。車 輪 の 平 行 移 動 の 速 度r˙0 = (v, 0) と 回 転 運 動 に よ る 速 度 r˙A′ = (−v, 0) の 合 成 で あ る 。一 方P が 車 輪 の 頂 上B に あ る 時 , ωt= (2n + 1)πより,その瞬間の速度vBは
vB = Rω(1 − cos(2n + 1)π, sin(2n + 1)π) = Rω(2, 0) = (2v, 0). (2.73)
これも平行移動の速度(v, 0)と回転運動の速度(v, 0)の合成である。同様に図4の点C,点Dでの速度は
vC = (v, v), vD= (v, −v). (2.74)
それぞれ右斜め上および右斜め下を向いている。 11-6.原点Oから見た点Pの加速度aを求めよ。
【解答】加速度の定義と(2.69)より
a= ¨r= Rω2(sin ωt, cos ωt) = −ω2r′. (2.75)
常に車輪の中心O′向きに加速度が生じている*6。
2.5
外積を用いる計算例r
r+v t ∆
v+a t ∆
v
a t ∆
v
r
v t ∆
O
O
t
bã∆
t
θ図5 問題12. 右図は平面上のある1点の回りを運動している物体のある瞬間
の位置ベクトルrと速度v,加速度aを図示したものである。以下,加速 度aと位置ベクトルrとが常に平行な場合を考える。
12-1.時刻tでrとvで作られる三角形(灰色の領域)の面積を面積速
度という。面積速度が 1
2|r × v|と与えられることを示せ*7。
【解答】外積の定義より 1
2|r × v| = 1
2rvsin θ. (2.76)
ここでr:= |r|, v := |v|である。これは図の灰色の三角形の大きさに他な らない。つまり
1
2|r × v|は面積速度の大きさに等しい。
12-2.面積速度が一定であることを面積速度の時間微分より示せ。
【解答】S(t) := 1
2(r × v)とする。 S˙ = 1
2( ˙r × v + r × ˙v) = 1
2(v × v + r × a) = 1
2r× a = 0. (2.77)
ここで加速度と位置ベクトルが平行であることa∥ rを用いた。時間による導関数が0なのでSは時刻に依 らず一定である。またこの条件には時刻tが陽に入っていないので,任意の時刻に対して成立する。
*6O′
と共に動く座標系では中心力であることを意味する。回転運動のところで詳しく考察する。
*7
面積速度については,角運動量とケプラーの法則のところで説明する。ここでは外積の性質と時間微分の理解を目的とする。
16 2 速度と加速度
12-3.時刻t+ ∆tでの面積速度を計算し,それが時刻tでの面積速度と一致することを示せ。ただし(∆t)
2
のオーダーは無視してよい。
【解答】∆t秒後,位置はr(t + ∆t) = r + ˙r∆t + . . .,速度はv(t + ∆t) = v + ˙v∆t + . . . となる。よって S(t + ∆t) = 1
2[r(t + ∆t) × v(t + ∆t)] ≃ 1
2[(r + ˙r∆t) × (v + ˙v∆t) + O((∆t)2)]
≃ 1
2[(r + v∆t) × (v + a∆t) + O((∆t)2)] ≃ 1
2[(r × v) + (v × v + r × a)∆t + O((∆t)2)]
= S(t) + O((∆t)2). (2.78)
従ってO(∆t)までの計算でS(t)は一定である。最後の変形で前問と同様にa∥ rを用いた。ここではrとv を別途テイラー展開して外積をとったが,Sを直接テイラー展開しても同じである。もちろんより高次の項ま で計算してもSが変化することはない。つまりO((∆t)
2)以上の項は全て0になる。例えばO((∆t)2)の項は (∆t)2
2! S¨= (∆t)2
2! d2
dt2(r × v) = (∆t)2
2! d
dt(v × v + r × a) = 0. (2.79) 最後の変形では,v× v + r × aが恒等的に0であることを用いた。一般にn次の項も
(∆t)n n!
dnS dtn =
(∆t)n n!
dn
dtn(r × v) = (∆t)n
n! dn−1
dtn−1(v × v + r × a) = 0. (2.80)
2.6
余弦定理を用いる計算例α u
v z
y x
O A
B
図6 問題13. 港から見て角αをなす二直線に沿って船Aが定速度uで港に近づき,舟
Bが定速度vで港から遠ざかっている場合を考える。港の位置を原点Oとし,港か ら船A,船Bまでの距離をそれぞれx, yとする。
13-1.船Aと船Bとの距離zをx, y, αを使って書け。
【解答】余弦定理より
z2= x2+ y2− 2xy cos α. (2.81)
図よりz= x − yなのでz
2= (x − y)2としても同じ。
13-2.2つの船同士の距離zが最小のとき,港から2つの船までの距離の比が
x: y = (v + u cos α) : (u + v cos α) (2.82)
となることを示せ。ここで,u:= |u|, v := |v|である。
【解答】zが最小になる瞬間,その時間微分は0でなくてはならない。そこで(2.81)の両辺をtで微分し,
˙x = −u, ˙y = vとすると
2z ˙z = 2x ˙x + 2y ˙y − 2 ˙xy cos α − 2x ˙y cos α = 0
−xu + yv + uy cos α − xv cos α = 0
−x(u + v cos α) + y(v + u cos α) = 0
∴ y
x=
u+ v cos α
v+ u cos α. (2.83)
これは(2.82)に等しい。ここで ˙x = −uと負号を付けた理由は,船Aは港に近づくため ˙xが負であること
と,定義よりuが正であることとを整合させるためである。