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帝国書院 | 高校の先生のページ 高等学校 世界史のしおり 2008年 4月号

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草原遊牧民の馬

 中央ユーラシアでは、馬は草原に暮らす遊牧民 の機動力の根源であり、スキタイ、匈奴、突厥、 ウイグル、モンゴルなど世界史を動かした遊牧国 家の軍事力を支えてきた。

 高緯度の草原地帯で飼育される馬は体高130cm 程度と小柄で、アラブの馬(体高約150cm)に見 劣りするが、長距離の連続走行によく耐える。農 耕馬とは異なり、イネ科植物など草だけを食み、 穀食の必要がない。ただし1頭1日あたり4∼5 kgの草が必要で、比較的豊かな草原でなければ 馬群の維持は難しい。遊牧民は季節移動をしなが ら馬の去勢・給餌・放牧管理をし、1日数十km の移動に耐える乗用馬を練成する。鍛えられた馬 は遊牧民とともに生きる財産となり、唐の白居易 が「絹五十疋で(ウイグルの)馬一匹を買う」と謳っ たように(『白居易集』)、輸出商品にもなった(敦 煌出土文書などによれば、唐∼五代期の絹馬交易 では馬1頭が絹20疋前後と交換されていた)。  馬は、その機動力で人間が家畜を放牧する能率 をあげる。人間1人が徒歩で管理できる羊は150 匹程度だが、騎馬すれば羊500匹を制御できる。 また、わずか数人で500頭以上からなる馬群を統 制できる。モンゴル帝国では「軍隊を出すのに、 人ごとに数頭の馬があり、毎日その一頭に順番に 騎乗する。故に馬は困憊しない」のであり(『蒙 韃備録』)、人口寡少な騎馬遊牧民が広大な中央ユ ーラシアの統合を実現することができたのである。

アラブ遊牧民のらくだ

 西アジアや北アフリカでは、酷暑乾燥の砂漠地 帯に適応したひとこぶ4 4 4 4らくだの遊牧が行われた。 らくだはアラブ人の遠隔地交易路(キャラバン= ルート)開拓や大征服、その後のイスラーム世界

拡大の原動力であった。

 過酷な砂漠の環境下、らくだはサボテン類にい たるまであらゆる植物を食べることができるし、 食料不足でも背中のこぶに蓄えた脂肪によって生 きていられる。また体重の4割の水分を失っても 生存できる。そして130∼180kgの荷をつけたま ま、時速5kmで数か月間の旅ができる。「砂漠の船」 と呼ばれる所以である。駅駝にも用立てられ、ら くだによる1日の行程(約48km)をアラブでは「ら くだ日」と言う。意外にも俊足で、砂漠で長距離 (5km以上)になれば馬に勝る。戦闘用に訓練す

れば騎駝軍団を編成することもできた。  アラブの遊牧民は身

近ならくだを財産算定 の基準とし、成人男性 1人の生命の代償をら くだ100頭と定めてい た。この「血の代償」を イスラーム法は踏襲し、 らくだ100頭は金貨な らば1,000枚で、銀貨な らば10,000枚で贖える と規定した。

突厥碑文のらくだ

 8世紀前半、モンゴル高原を本拠とした突厥帝 国はソグディアナ地方に遠征軍を派遣した。騎馬 遊牧民が残した最古の文字史料である突厥碑文に は、古代トルコ語で「その土地に私こと賢ビ ル ゲきトニュ ククが(軍隊を)迫らせたために、(その土地の 民が)黄金、白銀、生娘、寡婦、(背の)まがっ たらくだを全く憂いなく持って来た」と記されて いる(トニュクク碑文)。彼らが馬だけではなく、 らくだも財産としてとり扱っていた証拠である。  ところで、別の史料には、この突厥の遠征軍と アラブ軍との戦闘が記録されており、草原の騎馬 軍団がアラブのひとこぶ4 4 4 4らくだを連れ帰っていた 可能性がある。モンゴル高原に生息するのは寒冷 地に適応したふたこぶ4 4 4 4らくだであるから、この戦 利品は草原の民を大いに驚かせたに違いない。 日本学術振興会特別研究員(早稲田大学)

鈴 木 宏 節

エジプトのひとこぶらくだ

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