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帝国書院 | 高校の先生のページ 高等学校 世界史のしおり 2009年 4月号

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Academic year: 2018

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物を通して見る世界史

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モノから見る歴史

 たとえば角山榮の『茶の世界史』やシドニー=ミン ツの『甘さと権力』といったような、いわば「モノか ら見る歴史」物には名著が多い。それには三つほど理 由があると思う。第一に、具体的なモノを主役に据え ることで、歴史学的な想像力が活性化するということ。 第二に、ひとつのモノという一種の定点から観測する ことで、きわめて長期的な歴史や、きわめて広範囲に わたるつながりを描く歴史が書けるようになるという こと。そして第三に、モノが自然のシステムと社会の システムの接点にあるがゆえに、人間がモノをつくる と同時に、モノが人間の生の条件になっていることの 双方に注意を促すということである。

ワインとグローバリゼーション

 以上の三点は、もちろんワインにもあてはまる。第 一の点については、たとえば今日ワインの風味を語る ときに樽(いわゆる「オーク」)の香りに言及しない わけにはいかないが、そもそもワインと樽との出会い は、ローマ帝国のガリア征服に端を発する(それまで ワインは素焼のつぼに収められていた)。ワインにお ける樽の香りは、いわば古代のグローバリゼーション の痕跡でもあるのだ。

 第二の点については、たとえばスペインきっての銘 醸地であるリオハは、濃くて力強い赤ワインの産地と して知られているが、その「伝統」は、実は19世紀後 半に、やはり濃くて力強いスタイルの赤ワインをつく ってきたボルドーからの技術者の流入によって形成さ れたものである。ボルドーから技術者を流出させた原 因は、この時期にフランスを襲ったブドウの害虫フィ ロキセラの大流行によってブドウ畑が壊滅状態に陥っ たことにあるのだが、さらにそのフィロキセラは実は もともとアメリカのブドウ樹に寄生するものであっ た。19世紀に入り、大西洋間の交通量の拡大が虫害の グローバリゼーションを引き起こし、それがさらにボ ルドーからリオハへのヒトの移動を促して、リオハと

いう「伝統」的産地が創られたのである。

「テロワール」の構築主義

 第三の点について、近年ワインにおいて盛んに「テ ロワール」という言葉が用いられる。ワインに反映さ れた土地の個性のことだ。「テロワール」に最もうる さい産地は、フランスのブルゴーニュ地方だろう。お そらく世界で一番有名なワインのロマネ・コンティは、 このブルゴーニュのひとつの畑の名前である。わずか 1.8haのこの畑から生まれるワインは、小道1本隔て て隣接している他の畑(それらもみな一流以上とされ ているのだが)のワインの数倍から数十倍の値がつく。 その価格差を説明するのが「テロワール」だ。  テロワールは、一面では土地の名前に貼りつけられ たブランドである。かたやロマネ・コンティはいまや 1本百万円。その隣でおなじDRC社がつくるラ・タ ーシュがざっと十数万円。しかしロマネ・コンティが ラ・ターシュの五倍以上もウマイのかといわれても答 えようがない。価格は需要と供給の関係で決まる。そ れは社会的な関係だ。

 しかし他面で、テロワールはたしかにその場で作ら れるワインの性質をある程度決定する。猛暑のシチリ アに冷涼な気候を好むピノ・ノワール種のブドウがよ く育つ見込みは低い。同じソーヴィニヨン・ブラン種 のブドウでも、フランスのロワールのような冷涼な気 候で石灰質の土壌に育つのと、カリフォルニアのよう に温暖な気候で肥沃な土壌に育つのとでは、まるで違 うスタイルに仕上がる。それは自然のシステムに属す ることがらだ。

 だがワインをめぐる社会のシステムと自然のシステ ムの境界はもっと入り組んでいる。ブルゴーニュでは 一般に北部のコート・ドールが銘醸地とされ、南部の コート・シャロネーズやマコネーははるかに格下にみ られている。しかし、その格の差を説明するテロワー ルは、決して単にそこにある気候や土壌といった固定 的な自然のシステムによるものではない。実は南北ブ ルゴーニュの境界は、中世における司教区の境界に重 なっている。つまり市場に近く、ワインの品質向上に 熱心な領主のもとで不断の改良が世紀単位で重ねられ た自然と人間の相互作用の結果がコート・ドールのテ ロワールなのだ。その意味ではテロワールは自然と社 会のシステムのハイブリッドである。

ワインと世界史

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