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帝国書院 | 高校の先生のページ 高等学校 世界史のしおり 2005年 4月号

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− 16 − − 17 − 人文学の危機とCOE

 この原稿では、私たちが現在展開している、最

先端の歴史研究と高校歴史教育を結びつける活動 について、ご紹介させていただく。これは、大阪 大学の大学院文学研究科を中心に、同人間科学研

究科、言語文化研究科などと共同して進められて いる文科省21世紀COE(center of excellence)

プログラム「インターフェイスの人文学」(2002∼ 06年度)の一環をなす。

 21世紀COEプログラムは、「現代中国研究」「砂

丘の研究」など特定分野の集中的研究を想定した しくみだが、「インターフェイスの人文学」の場 合は、自然科学・社会科学と比べて(日本の)人

文系の諸学問が、19世紀以来の古い枠組みに拘泥 するあまり、ひとしく発言力を失っているという、

個々の分野をこえた人文学の構造的危機を、「研 究」対象としている。人文学が本当に純粋な「虚学」 であれば、それが大学から消失しようが騒ぐに価

しない。が、現実世界を見れば外交やテロ、環境 から少子高齢化までどの社会問題も、科学技術の

発達だけでは解決せず、文化や歴史への洞察を要 する領域は日々拡大している。そこで、諸学問間 や各国の学界間の「横断」、研究者が社会と接す

る「臨床」など、「インターフェイス」(接触面) での活動を意図的に行い、人文学全体を「書斎と 書物に閉じこもった硬直した学問」から、研究室

−社会−メディア空間などを行き来しながら行う 柔軟で開かれた学問に改造しよう、というのが「イ

ンターフェイスの人文学」の示す人文学再生のシ ナリオである。

世界につながる新しい歴史学

上のようなねらいを実践する場として、「インタ

ーフェイスの人文学」内部には、「イメージとし

ての日本」「モダニズムと中東欧」などいくつか の研究班がある。いずれも、それ自体「横断的」

ないし「臨床的」性格をもつ研究や、関連する教 育(大学院には「COE科目群」が解説されてい る)を行いながら、既存の学問のあり方・方法論

の意識的な再検討をつねに試みている[詳細はホ ー ム ペ ー ジhttp://www.let.osaka-u.ac.jp/coe/ 

を見られたい]。

 そのうち、歴史系の教員・若手研究者を中心に、 「日本史」「東洋史」「西洋史」などの学問分野間

の「横断」̶それは、従来の歴史研究(そして あらゆる人文・社会科学研究)の根本的弱点だっ たアジア史に正当な位置づけをあたえながら行う

「横断」でなければならない̶を主目的として つくられたのが、2002∼03年度の「シルクロード

と世界史」(代表:森安孝夫教授)および、メン バーの異動にともなってテーマを再編した2004∼ 06年度の「世界システムと海域アジア交通」(代表:

桃木至朗)である。両方合わせて以下、「歴史班」 と略称したい。班活動の中心は研究会で、「中央

アジア学フォーラム」「海域アジア史研究会」「グ ローバルヒストリー・セミナー」など、阪大らし くタテの地域割りでなく横に世界を輪切りにする

タイプの研究会が、定期的に行われている。  またプロスポーツと同様、現代の学問研究も、 世界に直結していなければ優秀な青年は集まらな

い。04年度には、グローバルヒストリー・セミナ ー(すべて英語で行う)が7人の世界システム研

究者を海外から順次招聘して、日本発の諸理論と の討議を行い、一方「海域アジア史研究会」は、 シンポジウム「海から見た東北アジア:東南アジ

アとの対話」(10月29・30日、那覇)を国立シン ガポール大学と共催して、日本・朝鮮半島・中国

世界史B学習のこれまでとこれから

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− 18 − − 19 − などの東北アジア海域史研究(研究者が英語で発

表しないため、この海域の重要性が世界にはほと んど知られていない)と英語圏を中心とする東南 アジア海域史研究との対話を組織した。

全国高校歴史教員研修会

 歴史班では2003年度から大阪外語大大学院と共

同で開設したCOE科目「歴史学のフロンティア」 (新しい歴史学の方法論を扱うリレー講義)など、

教育や若手研究者のトレーニングにも力を入れて きた。なかでも最大の「臨床」活動と位置づけら れているのが、以下に紹介する全国高校歴史教員

研修会である。歴史班のメンバーはもともと、入 試の出題や採点、高校教科書・参考書の執筆、出

身高校での講演や近隣の高校での出前講義などさ まざまなかたちで、高校歴史教育との接点をもっ てきたが、たとえば私が専門とする東南アジア・

アジア海域史のような新しい分野を教科書に書い たり入試で出題しようとすると、必ず「難しすぎ て現場が困る、教えられない」という反応が返っ

てくる。また大学生への教育でも、入学前の予備 知識がまったくないため初歩的な内容に時間を取

られ、なかなか専門教育に入っていけない。そも そも歴史系以外の学生の間では、世界史必修など どこの話かという、歴史への無関心が目に余る。

これらの問題は、通常の「高大連携」の枠内では 解消しがたい。同じような不満を募らせた大学教

員・若手研究者が、それなら高校教員に組織的に 働きかけてみよう、という意図から発案されたの が、この研修会である。

 同研修会はこれまで2回、いずれも夏休みに大 阪大学豊中キャンパスで開催した[それぞれ報告 書刊行済み]。第1回「シルクロードと世界史」

(03年8月5∼7日)は世界史教員のみ、第2回 「アジア史と日本史の対話」(04年8月9∼11日)

は世界史・日本史両方の教員の参加を募り、どち らも用意した会場がほぼ埋まる70名あまりが参加 した(予備校講師、教科書編集者などの参加も若

干名あった)。第1回は都道府県の教員研修組織、 個別の高校や教員などどこに案内を送るべきかが

よくわからず、参加者集めに苦労したが、第2回

は口コミで話が広がり、希望者が多数になったの で、第1回の参加者の連続参加はお断りせざるを

えなかった。

 プログラムの中心は、COE歴史班のメンバー による最新の研究を解説する講義で、別表の通り

第1回は8本、第2回は7本の講義が行われた。 1時間半程度の各講義の終わりに質疑を行うだけ

でなく、初日と2日目の最後に受講者から質問用 紙を回収し、翌朝講師が回答する、3日目の最後 に総合討論の時間を設けるなどの方法で、「講演

の聞きっぱなし」でなくフィードバックのある連 続講義にした点が特徴である。このため、講師陣

は原則として3日間フル出席、受講生側も部分参 加不可、終了後には1000∼1500字程度のレポート を義務づける、という濃密なスケジュールが組ま

れた。第3回は昨年と同じ8月9∼11日に開催の 予定である。

語句を覚える歴史から枠組を理解する歴史へ

 研修会の主眼としてすべての講師に要求したの

第1回「シルクロードと世界史」講義一覧

・2003 年8月5日(火)

桃木至朗(大阪大学教授)「現代世界とあたらしい歴史学・歴  史教育」

森安孝夫(同)「世界史上における中央ユーラシアの意義」 川北稔(同)「ヨーロッパとアジア」

・8月6日(水)

桃木至朗「東南アジア史の枠組を教える方法」

山内晋次(COE特任教員)「遣唐使途絶後の日本とアジア」 杉山清彦(日本学術振興会特別研究員)「清帝国と海域アジア  ・内陸アジア」

・8月7日(木)

荒川正晴(大阪大学教授)「シルクロード上のソグド人」 白須浄真(比治山大学非常勤講師)「新しい世界史教育の創造  をめざして」

第2回「アジア史と日本史の対話」講義一覧

・2004 年8月9日(月)

平雅行(大阪大学教授)「中世日本の三国世界観と神国思想」 桃木至朗(同)「東南アジアにおける外来文明や「世界」との  向き合い方̶̶日本史との比較」

・8月 10 日(火)

森安孝夫(同)「中央ユーラシア史から見たアジア史・日本史」 山内晋次(COE特任教員)「中世日本列島と海域世界」 岡本弘道(大阪樟蔭女子大非常勤講師)「琉球王国と東アジア  国際秩序」

杉山清彦(大阪大学助手)「近世東北アジアと日本列島」 ・8月 11 日(水)

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− 18 − − 19 − は、通常の講演会で行われる「専門のさわり」の

講演でなく、(1)現在の教科書等で、古い枠組と新 しい枠組が混在し混乱を深めている状況を改善す るため、枠組の解説に時間をさく、(2)新旧どの内

容にせよ「用語集で頻度の高い語句・事項を並べ ること」から出発している現在の教科書や入試に 対し、語句と語句を結ぶ「説明」を提供する、の

2点であった。一部の質疑ではこれに加え、新し くなじみにくい分野に生徒を引きつける方法(東

南アジアであればエスニック料理のような)につ いても、大学の教養教育の経験などをもとに議論 が行われた。興味を引く切り口、理解の枠組、語

句と語句を結ぶ説明の3点セットを身につけてい れば、(時間さえ捻出すれば)新しい分野が教え

られるはずである。

 一部の受講者からは、「難しい研究もよいが、

高校の授業時数削減や生徒の学力低下を前にして、 このままでは授業に使えない」という不満が出さ

れた。しかしCOE側では、研修会の限られた時 間や、高校間のレベル差なども考え、「具体的に 授業でどう使うか」は高校側の検討に委ねること

として、まず高校の先生に最新の研究の内容とそ の「面白さ」を理解してもらい、ひいては高校歴 史教育の内容刷新の必要性を感得してもらうこと

に全力をあげたのである。さいわいこの方針は多 数の受講者に支持され、研修会の講師が事後に、

高校側が主催する研修会・講演会の講師として招 待されたり、Eメールを通じた細かい質疑が続く などの、波及効果が生じている。大学教員や、と

りわけ講師および運営補助にあたってくれた若手 研究員・大学院生にとっても、研修会とその後の

やり取りは、強い刺激になっている。

 もちろん、課題も多い。語句の暗記がものをい う入試形態が支配的である限り、従来通りの語句 中心の暗記教育はやめられないように見える。高

校・受験現場の一部に勉強のしかたについての誤 解がある̶英語で単語、化学や生物で元素・物 質名だけをいくら暗記しても、構文や反応式を覚

えなければ成績は上がらない。歴史もそれと同じ で、「構文」や「反応式」にあたる「説明」がわ

からなければ、純粋な語句と年代の暗記だけで取 れる点数はたかが知れている̶とはいえ、暗記 型入試の大部分を出題している大学側の責任は大

きい。新学習指導要領も観点別評価も聞いたこと がない、という大多数の大学教員への再教育が不

可欠である。また、高校世界史はいちおう「世界 全体」を教えるタテマエになっている。ところが 大学の「文学部史学科」は、組織としては、東洋

史は中国だけ、西洋史は古代のギリシャ・ローマ と中世以降の英仏独、それに近代以降の米露だけ 研究していればよい、その他の「マイナー」地域

などは、時たま現れる変わり者や、外語大などの 地域研究系大学に任せておけば十分だ、という、

明治以来の仕組みを固守している(イスラームす らこの扱いを完全に脱してはいない!)。ここを 変えねばならない時期が来ている。

 こうした「大学を変える」(そのために高校か ら学ぶ)取り組みとならんで、高校教師(現場)

への働きかけも、さらに強めねばならない。たと えば、研修会に積極的に参加せず、従来の枠組で しか教えられないような多数派の高校教員の立場

に立てば、刷新された教科書と一般向けの概説書 だけを与えられても、古い枠組との違いは具体的 に理解できないのだから、より詳しく網羅的な指

導書や用語解説の方が有用だろう。また、新しい 内容を教えるためにも教育内容の全体的精選が不

可欠であり、本当に最低限必要な事項を分野ごと に絞り込むような作業も、避けては通れまい。こ うした取り組みは、COEが終わればそれまで、

というものではなく、全国の高校教員を巻き込み ながら、長期的に継続してゆきたいと考えている。

参照

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