「甌諺略」の筆者について
著者
村上 之伸
雑誌名
中国文化 : 研究と教育
巻
65
ページ
( 15) - ( 26)
発行年
2007- 06- 30
「甑諺略
J
の 筆 者 に つ い て
村
上
之
伸
1
はじめに清 末 の 文 字 改 革 者 、 ! 凍 糾 ( 1
851
鳴1904)
は 自 分 が 考 案 し た 切 音 文 字 「 磁文J を普及するため、
1903
年に討Jr江 瑞 安 方 言 で 分 類 さ れ た 字 裳HセI HセI
本稿で扱う
q
顕諺i略j はこの『七者鐸』の巻末に! 討されている方言詩集集で、『七音鐸』を一度刊行した後、新たに追加されたものであるつ
例 言 で は 増 補 し た
r
m
l
おについて以下のように述べている。続長彦III各是刊行后所増本,不{ 装為! 鋭方言17百作,中多It ] 来有音無字之字,
J
主多灰 其 者 原 為 別 地 所 有 , 其 字 寅 為 蓄 文j好無,毎日倒切数匂,足補前課平喜重倒切之紋,故! 府増子末。
EUJ ち、『七青鐸』では平欝の漢字を用いて「磁文j を学習するが、 f磁諺略j に
は 漢 字 で 表 せ な い よ う な 方 言 口 語 語 繋 が 多 く 、 灰 謹 韻 も 含 ま れ て い る の で 、
f磁 文j を; 書く練費をするのに必要であると考えたのであるc
168
語 で 、 そ れ ら が 天 文 、 歳 時 、 時 令 、 地 理 、 人 倫 、 人 物 、 身 体、器呉、珍宝、数回、権度、疫病、禽獣、獣蓄、議菜、鱗介、銀銭、薪柴、散 語 、 応 酬 の
20
の グ ル ー プ に 意 味 分 類 さ れ て い る 。 名 器 は 「 磁 文J によって さ れ 、 そ の 右 側 に 音 節 ご と に 反 切 字 或 い は 複 音 字 が 書 か れ 、 下 方 に は そ の諮の意味が割書きで示されている。
i ! 磁文J の 読 み 方 は 拙 稿
( 2004)
による f音 嚢 』 の 分 析 で 明 ら か に な っ て い るが、実際にその字膏をl
f
顧諺III各J のq
頭文j に当てはめてみると、音韻的に 一致しない館所や文字の表記方法の異なる館所が多く存在しているのがわかる。本稿ではこのj誌に着目する。そして「甑諺略j の筆者について考察する。
2
「甑諺路J の 寮 母 と 誤 母『音議』における饗母と韻母: を以下にまとめる。 漢 字 は 皮 切 字 を 表 すο
セ
( 巴) p ( 地) p' ( 抜) b ( 機) 111 ( 髪) f ( 伐) v
( 打) t
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達
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厳
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(
暫
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落
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)
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)
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麗
盟
( 欝) 1 ( 欝)
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(l)iiJ)
u/ ? ( 於) yl7a/? ( 鴻! ; 議) i a/? ( 娃) ua! ? ( 在) O/ ? (在) i o12
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計
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( 哀) ai ( 挨) j ail7 HiセiセI@ uai
( 甑) au ( 甑) i au
( 育)
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(恩) 、セャ@
( 箆) yl)
( 翁) 01J ( 翁) 101J
「磁諺i格 」 に 収 録 さ れ て い る 語 義 数 が 少 な い の で 、 そ こ で 使 わ れ て い る 磐 母 や 韻 母 の 数 を 『 音 嚢 』 と 直 接 比 べ る こ と は で き な い が 、
1
1
翫諺i略」には『音 葉』に現れない聾母: や韻母: があるので、ここではそれらについて述べる。ァセ Zj[I
全てを示す。括弧内の数字は1 [ 嵐諺10告」につけた通し番号で、音節末数字は聾
セj H ゥ ゥ I を表す。
( 15) g08 di 2 ( 郷健) 強壌放水j産自
( 94) gu4
ku1
(口論) 車場姑m
( 95) ga2 ga2 (n夏暖) 11鳴也
( 11 0) g08 ba8 t su
7
( 口白粥) 作稀飯也( 12 1) gi 2 ( 口) 其也
( 132) mi 1 ァセR@ ( 滅口) 減世
議)1張 尚 芳 ( 1964)
が
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g-Jヨ: 在等 少 数 幾 偶 謡 音 “ 話 器 化 "
音系統中波有什陵地位,只有“ ! 崩JI享路" g- 的 , 在 “ 話 " 帝 系 統 襲 , 透 在 日 是 偲 常
間的懇イヨ:J と述べているように、 9
る。 中には漢字で書けないものも多い。
し 言 葉 の み で 常 用 さ れ る 撃 母 で あ という性格上、『膏議』にこのよ うなり詩詩集が11文められていないのは当然であろう。
綴 で は 、 『 音 葉 』 に は な い 音 節 子 音 さ が 存 在 す る 。 「 鼠 諺i路J では! 二、史、
豆
、
j が こ の 膏 で 読 ま れ 、 鋲 子 育 が 付 か な い こ と で 共 通 し て い る 。 例 え ば :( 32)
n
a4
) 2
1
( 妨兇) 女也( 42)
i a6U
7
( 技汚〉小児大使也( 55) sai 3 z y o2
]
1
2 ( 現船克) 小舟也( 67) 古
6
( 二) 数回也の各績には、 を 表 す 「 磁 文J が 必 ず 陰 陽 の 二 種 類 あ り 、 そ れ ら は 単独でゼロ磐母と品饗母の音節を表すのであるが、ち韻は頭子音が{ すかず、 f音 に お い て 韻 の グ ル ー プ を 作 る こ と が で き な い 。 以 下 の よ う に に つ か ら 「十 J の数字のうち、「ごJ の 字 音 だ け が 現 れ な い の も 書 き 忘 れ た わ け で は な い のである。
に お け る 数 字 の 読 音
四
五
1ーム¥ポ七
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→日i ai 7ha7 議If; S: ) 1 si5 l J u4 ャセX@ おらa7 puo7 t ci au3 za8
3
セ' ) 顕諺III各J の 「 蹴 文j には韻母: の省III告 と も 思 え る よ う な 表 記 が 作 従 す る 。 こ れ ら が 単 な る 書 き 忘 れ で な い こ と は 、 漢 字 表 記 に 必 ず 箆 斉 字 ( 大 部 分 は 本 宇 ) が 用 い ら れ て い る こ と か ら 推 測 で き る 。 興 味 深 い の は こ の 渡 音 字 が 反 切 上 字 の
韻匂: と
i
可じになることである。) ズ切と字の奈は以下のようになる。巴
puo
セiAAN@p
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抜 bつ 機111つ 髪fつ 伐V Jy
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1
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8
虚c ; y 葛k o 渇k' o 卸g:) 巌りつ 議ho
このうち、
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系 聾 母 に み ら れ る 韻 母1
の 省 略 は にも るQ 哲J
I
え ば :t
s
:矢口芝姿 ば: 恥雌i
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次dz
: 馳持推S
: 詩史私z :
時 事 字こ の 省 略 は 一 種 の 音 韻 処 理 で あ る 。 即 ち 、 議 母1と
i
可じ第 14 告)1に 競 す る 韻 母i と文字の一! こで、区別することで、t
s
系 欝 母 に お け る 韻 母i と穀j寺: 1の 対 立 を 学 習 者 に 理 解 さ せ よ う と し た の で あ る 。またtc ; 系聾母では! 在c ; yの省Hl告が にみられる。
1
列 え ば : c; ;
これも昔韻的な問題であるつ がj議する S iセ y韻 は 現 代 端 安 方 言 で はy韻と ;;>y韻 の 二 つ の 韻 に 分 か れ る が 、 当 時 の お 系 と 体 系 の 対 立 を 残 し て い る の は
s
と。のみで、その他の欝母: はtc; 系に合流している。『
音
嚢
』
γ韻
ts
系
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系
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ts/t
ダ/ dz
G エOエ O、セy
銀tc
/
t
ぜ
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平c
tc
/
t
ぜ
/ d
平'dY S 錨; 鑑 位
『音嚢』の
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時代にsy
と s Y ではなく、S
g
y
と 仰 と い う 膏 声 的 対 立 で あ っ て も お かしくない。議母音)1分 が な い の は こ の 対 立 を 文 字 上 で 、 表 し 、 学 習 者 に こ の 綴 母の 違 い を 到 ! 解 さ せ た か っ た か ら で は な い か 。 本 来 な ら ば 、 史
s
の 方 を 省 略 す べ き で あ る が 、 慨 に 韻 母l で 省11揺されているので、 j怠G の 韻 母 を 街HI脅したσ tc系の1=11、j藷 G だ け が 入 声 機iJ で な い の は 、 こ の 音 額 、 的 問 怒 を 解 決 す る の に 反 切 -i 乏を替えたためだと考えられる。
r
r
蕗i
諺III各 」 に は こ の 他 に も 『 者 議 』 に は な い 、 韻 母 部 分 の 省 略 と 思 え る る。 以 下 に そ の 全 て を 挙 げ る 。( 22)
彼J是也ba2 ta
1
ロ
ロ
者室i ' i は懇話需が平調であることと盤母: が
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で あ る こ と だ け が わ か る 。 音 と し て 守 口 の 字 が 当 て ら れ て い る と こ ろ か ら 、 韻 母 をt と し たQ セ AGェ イ |セ|ゥbuo2 ta
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長( 刊誌十H} f定
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口
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地第 二 脅 節 は 饗 視 が 平 訴
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で あ る こ と と 聾 母 がbで あ る こ と だ け が わ か る 。 と し て りI
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の 字 が 当 て ら れ て い る と こ ろ か ら 、 韻 母 を づ と し た っ 「 会1 bo2J
。をlj王子劇的事物( 日司典
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寅〉。( 29)
父出a7
dっ
6
1
河口が 去 声 で あ る こ と と 馨 母 がdで あ る こ と が わ か る だ け で あ る が 、 者 と し て 第2] 部 の 「 弾J が 当 て ら れ て い る の で 、 韻 母 を つ と し たG 温州、
は “ 父 親 " を
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大a7
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( r大j は 文 読 ) と い う ば 指 南 ! 誕 百 出 ( 以ド間前回)
129
貰〉。( 39)
9 :.僕之稿老者a7
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QQェケ �Aセ[[Z品苦節の「磁文J ( こは翠母のみが記載されている。
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音 議 ; に は 存 在 し な い文字で、7
七一斉鐸j 第六議長にはf
吾郷、子! - 字清援J
とあり、f
機j の! 詮誤字ャセ ュッャjッ 満 州
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吋 姥a7
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01 J
年 妃 大 的 女 撲c
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可典J
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寅) 。( 43)
小兄弟I
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翼也ta
3 ko
1
k01
打 光 光第 一 審 節 は 盤 母 がt で あ る こ と が わ か る だ け で あ る が 、 音 と し て 「 打J の 字 て ら れ て い る の で 、 回
3
とした。議チ1
11 t1
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' J1
k uつ1
指嬰見識・月時,弟1
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去訟1苅Fl!)) 説的令部jj合努
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詞典J
138真) 。( 46)
結 髪 也ta
3 b
i e4 1
)2
打 続 兄第一音節は欝母: がt で あ る こ と が わ か る だ け で あ る が 、 音 と し て
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の 字 て ら れ て い る の で 、 出3
とした。温州、i
託ε3 bi 4O
2
箆 盤 工 (
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詔 典j135
頁〕。( 47)
指 弾 額 也ta
3
p
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IJ l
打鋤t
で あ る こ と が わ か る だ け で あ る が 、 音 と し て 「 打 ) て ら れ て い る の で " t a8とした。r
i
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il1
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と意味が異なる。r
打 矧ti ε3 pOJ ]1セiqNj 140 英) 。
( 51 ) 小先決定也 ko3 da6 U2 j也口児
kで あ る こ と と 声 訴 が
i
途 上 で あ る こ と だ け が わ か る 。 音 と し て 「 超J が当てられているので、 ko3 とした。立i
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外I
ky 3 da6 U2 品、都少児跡越活動, 以 治
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きミ抑人爵 i大! 窓(n
可典J
33 ャセイI ( 73)数
日
. t 12
puo7八
がpで あ る こ と と 入 声 で あ る こ と が わ か る だ け ー で あ る が 、 音 と し て 「八j が あ て ら れ て い る の で 、 『 音 袋 』 を み てpuo7とした。
( 78)
数
日
ill
Y86 寓整 母 が vで あ る こ と と 去 観 で あ る こ と が わ か る だ け で あ る が 、 「 寓 」 が あ て られているだけであるので、
f
( 89) 嬢 也ta3 dz yo2
1
'T
7
朝
をみてY: )6とした。蒼南、 ¥"17.1場: v"86
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第一音節は欝母: が
t
で あ る こ と が わ か る だ け で あ る が 、 者 と し て 守 口 が 当 てられているので、 ta3と し た 。 温 州 ti s3、セゥウR ェ ェ 137封入( l00) J克也du611182 大事訴
一 音 節 は 馨 母 が111で、あることと平調であることがわかるだけであるが、音 と し て 「 蛍J が 当 て ら れ て い る の で 、 そ の 審11182を 記 すQ 灘j+l do^u6 mu: : >2
虚
cn
可典J
285頁〉。( 108) 吃飯塩 py1 YJ 6 告書留
i
第二音節は皇室母がv で あ る こ と と 去 識 で あ る こ と が わ か る だ け で あ る が 、 「銭」があてられているだけであるので、 E者 議3 を み て
v
: )6
とした。 蒼潟、千i
場: Y86。槌ナH
イ ーケQj セiTM j 300 真) 。( 114) 翠稲稗也bi 2 ds4 ko3 He. ' ) 稲科
第 三 音 節 は 聾 母 が kで あ る こ と と 上 声 で あ る こ と が わ か る だ け で あ る が 、 音 と し て 「 稗 」 が 当 て ら れ て い る の で 、 そ の 音 i切3を記す。芸品チ
H
イ Ijセ 「・○RdG4 ky3J 早 稲 的 稲 毛 ( 日 司 典J 253真〉。 ( 132) 滅 也mi 1 9,:;2滅 口
第 二 音 節 は 聾 母 が gで あ る こ と が わ か る だ け で あ る 。 音 と し て 拾 わ が 当 て ら れ て い る の で982とした。
( 135) 何 事 也T,bi s2 515 ko5口 事 幹
第 三 音 節 は 聾 母 がkで あ る こ と と 去 聾 で あ る こ と が わ か る だ け で あ る が 、 音
と し て 弓 引 が 当 て ら れ て い る の で 、 そ の 者k o を記す。[ 什躍。i ε2J
c
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甑 諮jt3
2
頁〉。(188) 無法也
6
2
f 87 11語法務 節 は 翠 母 がf であることがわかるだけであるが、「法」があてられて
いるので、 『王手議室』をみてお7とした。
(146) p':J5dz o2泡 茶
第 一 音 節 の
!
i
@
1
i
文J は 子 膏 (p' -) のみであるが、「泡J が あ て ら れ て い る の で、f
青 葉j をみてp':J5 とした。(166) tsι 句3 bi e6 v o6 請 使 飯
「飯J のi [ 甑文J には韻母: の記載がないが、 f飯 」 と い う 字 が あ て ら れ て い る
ので、 『資重量』をみて
v
:J6 とした。これらを欝母で分類し、まとめたのが以下の表である。
N
O
.
7.3 146 24 3 9 100 138 7 8 108 166「磁文J / i育者字 y 八 p' -泡 m-掲 m-議 f - 法 r 寓 1ト 飯 Y相飯
反切上字/ 字者 巴puo 地p''J 抜bっ 婚mu o 機mつ 髪わ伐V' J 伐V'J
f
支V'J推測者J本字 puo7八 J h5 泡 b'J2片 muo1郷1 D ' J2 瀦 お7法 v:)6 高 v'J6 飯 v'J6 飯
N
O
.
2 2 4: i 4 6 4 7 8 9 29 51 114 135 132f甑文J /直音字 t - 打 十 打 t -打 ャ 打 t - 打 d -弾 k -避 k - 稗 k -蒋 g 一生I l
J足切t : 字/ 字音打ta 打ta
f
:
Tta 十Tt a 打ta 絡 む 葛 凶 器fko 箸k o 卸gつ推11弱者/本字 tal ta3 打 ta3 打 ta3 打 ta3 打 dJ 6
己 初
3 超 ko3 稗 ゆ5 幹 9;)2こ
:
ts
系 饗 母 の 場 合 はl韻母が{ 患の聾母とは結びつかないことが重要であるが、ここに現れているつや a などの韻母は他の聾母と結びつくことができる。! 可じ
韻 母 で あ っ て も 欝 母 が 皮 切 上 字 と 同 音 に な る か ど う か で 、 韻 母 部 分 が 表 記 さ れ f [セ
中 に も こ の よ う な 文 字 の 使 い 方 を 説 明 し て い る 笛 所 は な い し 、 勿 論 こ の よ う な
韻 母 を 省 く 文 字 自 体 も 他 の 何 処 に も 存 在 し て い な い 。 こ の よ う な 状 況 か ら 「 甑
諺略j に み ら れ る 饗 母 部 分 の み の 表 記 は
i
凍糾自身の発想によるものではないと考えたい。
以 下 、 便 宜 上 、 現 在 で も 使 用 さ れ て い る 控 音 字 母 を 用 い て こ の 発 想 に つ い て
説 明 し て み た い 。 例 え ば 子 音 pを 表 す 文 字 勺 は] ) 0と発脅して教える。
I
可じこ とは I1翫文J についてもいえる。ある欝母: を表すI j 説文J Aがxという音を表 す 場 合 で も 学 留 者 はx だけでは発音できず、韻母: の音yを つ け て x y と読んだ はずで、これが反切と字の宇一斉となる。ただ Ij話1¥諺Il i 在J の I1磁文」の違うj却ま 聾母: 部分のq
磁文 J Aをx
y と読むならば、x
y と い う 育 館 を 書 く 場 合 で もAiセ j ーッ
警 か ず に 勺 と だ け 書 い て そ の 音 を 表 す よ う な も の で あ る の
実 際 に テ キ ス ト f七音鐸』を見てみると、第一す果はいきなり欝j寺: の
から始まり、第八訟で、は韻母: を学習していないうちから、蟹イミ: の
q
磁文J を一 通 り 読 む よ う に 要 求 し て い る 。 学 潔 者 が 『 七 音 鐸 』 を テ キ ス ト と し て 用 い た の ならば¥磐母だけでどのように読んだのであろうか。各欝母: には説明上、 j反切 が 付 加 さ れ て い る が 、 や は り そ の 字 音 で 読 ん だ の で は な い か 。 学 習者が読み方をこのように理解したら、芸事母音15分 だ け で そ の 反 切 上 字 の 字 膏 を そ う と い う 発 想 が 生 ま れ で も お か し く な い 。 お 系 聾 母 で 、 は 韻j寺: 部分のない 表 記 が す で に 存 在 し て い た こ と も あ り 、 こ の よ う な 発 想 は 案 外 生 ま れ や す か っ たのだと思う。し か し 、 中 に は 皮 切 上 字 の 袈 母 、 韻 母 と 同 じ で あ づ て も 韻 母 部 分 が 表 記 さ れ て い る も の も あ る 。 以 下 に そ の 全 て を 記 す 。
( 7) 、セR@ ts' ol J 1 ( 亥春) 交春焚香樟也
(11) m
っ
4
ka5 1挽界)( タi持
也
語 中 の わ と
m
つ は そ れ ぞ れ の 欝 母 を 表 す 反 切 上 字 句 出 、 月j室
J と! 苛じ鶴、母でゥ セ
釈 す れ ば よ い か 。 注 目 し た い の は 通 し 番 号 で あ る 。 即 ち 、 い ず れ も 額 母 の 記 轄 の な い 「 磁 文J が 初 出 す る 以 前 に 現 れ て い る の で あ る 。 こ れ は 筆 者 が
q
磁諺III告J を 書 い て い る 途 中 で 、 韻 母 部 分 の 表 記 を 意 識 的 に や め た と い う こ と を 意 味 し て い る の で は な い だ ろ う か 。 筆 者 は 正 し い 表 記 法 も 知 っ て い た が 、 途 中 か ら 学 習 者 の 発 想 、 に 合 わ せ 韻 母 部 分 を 表 記 し な い 方 が 理 解 し や す い と 考 え た の で あ る9
4
セ! 可じ漢字があてられる場合でも、『音葉』と I1顕諺111告J で 発 者 の 表 記 が 異 な る 場 合 が あ る 。 こ の よ う な 差 異 が み ら れ る の は や は り 行 頭 諺 路j が『青葉』出
j坂 後 に 別 の 筆 者 に よ っ て 作 成 さ れ た も の で あ る た め だ と 考 え ら れ る 。 そ こ に は 地 域 差 、 代 若 以 外 に
r
l
甑諺111告J の 筆 者 が 「 磁 文 」 を 完 全 に 理 解 し て い な い た め に 起 こ し た 誤 り な ど も 含 ま れ て い た だ ろ う の ま た 、 一 見 す る と 差 異 に 克 え る が 、 実 際 に は 話 し 苦 楽 だ け に 仔 在 す る 背 で 、 『 音 幸 之 』 に は 収 め ら れ て い な い 場 合 も 有 り 得 る と 思 う 。 以 下 に そ の 全 て を 記 し 、 そ れ ぞ れ に つ い て 解 釈 を 加 え る 。か ら 語 釈 、 本 字 、 相 違 の あ る 字 、 発 音 の11鎮で書いた。
(1)
s
育也 知: 天猛熱 「熱J wi セ ,i e8 JIr
磁諺! 略j らi a8円
高
i
諺! 日各 J で は 「 熱J の 反 切 下 字 に 「 行 J を用いているつ「行 J は 江 菅 議 』 で 25部i aに 相 当 す る 字 で あ る 。 『 者 議 』 で は 「 熱j を 7 部i eに 入 れ て い る こ と か ら 、 両 者 に は 差 異 が あ る と 言 え る の こ の 相 違 は 現 代 端 安 蓄 に も 存 在 す る 。 例えば瑞安( 域開) ではI J ,i a8 と な る の に 対 し 、 現 代 端 安 ( 陶(
1
1) 音ではJ 1i e8 となるの( 6) 長j実也 黄答! 壌 「告をJ wi セ 1102 f園長諺忠告」わ2
第 一 音 節 の 「 黄j に 相 当 す る 部 分 に fJ或」の音が当ててある。「威j は f音 で は 第
2
]
部でおっ2
となり、「黄j とi
苛 音 に は な ら な い 。 現 代 方 言 で も 開 審 に は な ら な い こ と を 考 え る と 、 こ の 語 義 に お け る 個 別 的 な 変 化 が あ っ た 可 能 性セjjaQIQ|Q R cyl ci a3となり、「黄警 i廃」と合う。
( 7) 交 審 焚 香 樟 也 尖春 「春J セャセ セ t c' Y1)1
r
臨諺盟各 J t S' Q写1q
議諺日! 各j で は 「 務J の 反 切 下 字 に 「 洪J を用いている。r
洪j は 『 音 裳 』 で 第 4 部01) に相: をする字であるつ『者葉』では「春j を お き わ11] に入れている こ と か ら 、! 持者 に 差異 があ ること がわか る。この 相違は現代瑞安方言内部にも るゥ哲JIえ ば 端 安 ( 域 開 ) で はt sζ01)1と な る の に 対 し 、 現 代 瑞 安 ( 陶(
1
1)t G' YlJ1となる。
( 1
7
)
I
認可コ土一片也 一 撃 「撃Jr
磁諺! l 搭 Jlu
::>
4
r
龍 JW
願文音畿. 1 ll u
04
の26吉15 ( - ∞) には「慣湾」などの牙 i鞍 音 聾 母 に 属 す る 字 だ け が 含 ま れ て い る 。 現 代 瑞 安 者 で は 『 音 葉 3 で10部 付 。 ) に 属 す る 歯 音 壁 母 の 字 ( 条料など致問三四) も-U 8穣に含まれるが( 因みに蒼南蒲城では今日でも- I 8 であるに
r
議J ( 通三銭) はl u
0
4
と な り 、 そ こ に は な い 。 平 陽 や 混 州 で は 「 条 料J と 「 撃 龍j が同類、( 主) になるが、「鼠諺! 日書j の f襲 」 は こ の よ う な 地 域 の音なのかもしれない。( 60) 次 等 銭 也 通l 慎?J
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習J (韻母) セNQャ - YlJ6 f顧 諺 略J -i a1)6(-Yl ] ) に属している。しかし「甑諺UI各J には 15 部 -i al J の「甑文j が使われて
いることから、 rl 笥J に若者の違; いが存在したことになる。「問J は現代端安方言
で、ザJIえ ば 瑞 安 ( 域 開 ) でfiial ] となり、現代瑞安 (1向山) 音で白Y9となる。
( 66) 数 回 也 一
-
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益J wi セ i7q
益1諺 I1 II 者J i ai 7, i7「主主J は 数 字 の 仁 つ の 読 み を 表 す 字 と し て
)
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いられているが、 rl 記長諺11場j の1
*
で は 二 つ の 音 が 持 在 す る 。 即 ち 、 こ のiai とNo. 17,18 で、使われ,ているi であるρこれらはいずれも数字「ー」の読みとして出ているので、 f… 」と「五; むには
二つの読み方があることになる。『審議』には「… 」の字? きとしてi ai 7とi a7
があり、「益J の 字 音 と し て げ が あ る 。 「 …J の二つの音は方言差だと思う。 現 代 詩 で み る と 、 永 嘉 蹴 語 に は 「 益j と に つ にi aj 7 の青があり、この状況が
j HwI セ 91 賀) 。
( 71) 数 百 也 六 「六J w セ J gu8 rl 磁諺 II 告I J l u8
il 顕諺略J で は 「 六J の 反 切 下 字 情 む と そ の rj 顕文J が ぜ 膏 議 』 で は 第1 iセ (-u) に属するので、 f六j はl u8と な る が 、 『 昔 議 』 で 「 六j は 第11吉)1
HMセZュI QXオX ャ QQ
な 関 係 を 表 し た も の 。 『 音 葉 』 か ら 現 代 詩 に 変 化 す る 過 波 的 な 状 態 を 反 映 し た
ものであろう( 拙稿 ( 2007) )Q
( 92) 小 蔀 也 生 癒 克 「癒J w セ l ai 4 rl 顕諺 III
わ
l uai 2ェ QY iセ (-ai ) に所属しているのでlai となるはずで
あ る 。 し か し 「 甑 諺ul在j では「癒j の皮切下字に「問J が} 脅し1られており、こ
の字奮と
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甑文j が共に RP iセ ( -uai ) にj遺するので、「癌J はl uai となってしまう。現代! 説語にはl uai という奮はない9 撃誠にも相違が克ら れるが、不明。中古音ではよ揮であるので、 rl 顕諺! 日告j で 「 雷J の部分を読ん
だ可能性も考えられる。
( 128) 不 合 也 不 釘 「釘J wi セN tai 5 il 顕諺lU在j 如ai5
「釘J は 『 音 葉 』 で は 19 部 「 哀J (-ai) に 属 す が 、 こ こ で は 2 0 部 r)l. 民! の
音が当てである。 ( 92) の「癒」と同様である。
( 131) 費 事 也 累 堆 「累堆J w セ ]ai J tai1 r甑 諺m吉J l uai l れlail 混
J
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、I l ai1エ。 ゥQ r [ Hw セ 2 4 2貰
)
Q r累J r堆J 共に E藷議』では 19 部 「 哀J (-ai ) に属すが、ここでは 2 0 部i [l 引の音が当てである。i( 132) 滅 也 滅 口 (901 ) r
減
J Wj 磁文音葉A mi e8q
顧諺i格J 111i1q
威J は『音嚢』で第7 部に麗しmi e8となるので、 mi l は温州音だろうか。 瑞 安 で はmi e8と な る 。 第 二 審 節 の 「 願 文J は 韻 母 の 記 載 は な く 、 援 母 が g であることが分かるだけである。 たり
と し て 「 卸J て ら れ て い る の で
9
81 とし( 139) 不殺也 rjJ wi h セ
liJ4
q
轟i
諺! 日告Jlu
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[了j は QP iセ ( 寸つ) にj還 す る が 、 こ こ で は2 6 部 「 還 」 の 音 を 当 てている。方言差であろうか。
( 146) 泡 茶 p'つ5 dz 02 r茶」 lセ セ dzi a2 r顕諺! s 各J dz 02 「茶J は 『 者 議3 で は 第 1 3
在
日
( 一
i a) に 属 す る が 、 官 話 音 で あ ろ う 。 第5 部 に は 「 茶j とi
可 韻 の 「 沙 差 J な ど が 含 ま れ る こ と か ら 、 「 茶J にdz o の 音 が あ っ た と 推 測 す る 。 現 代 瑞 安 音dz 020( 149) 諮 坐 ts' eJ ) 3 202 r
詩
J wi セ ts' elJ3 r甑 諺Ul各J t S' YlJ3ヲA ェ ェ RW iセ (-el J ) である
が 、 反 切 下 字 に は 『 音 議 』 の 2 3吉)1
(-Y
l J ) に属する f允j が用いられている。 「誘J は f音 議 』 で は2 7 部に j還 し 「 願 文J の音と合う。( 157) ャャIイセ t si e7 t ' UJ 7 イャェjiセj@ w磁文音葉』 γi J7 r甑 諺 略J t' u: ) 7
iャャイセゥj セ 0)1:列 語 と し て 現 れ る が 、 意 味 は 不 明 で あ る ( 35 頁) 。現代
瑞 安 諮 で は
r
セ ェ ャ� j ( 掲示する) の可能性も ある。r
IIJ占j は 『 音 葉 』 で は 第 1 0 部(ーi つ ) に 属 す る が 、 こ こ で は 第2 6 部(-uつ ) の 文 字 で 表 さ れ て い る 。 現 代 端 安 で はt つとなる。
( 166) 誘 使 飯 ts' el ) 3 bi e6 v つ6 r詰J AャGセ ts' elJ r甑 諺 i
絡
J t s' YlJ 寄 節 の 「 願 文 J の 音 と 反 切 が 異 な る 例 。 「 磁 文 J は 第2 7 部 (-e
IJ)
である が、) 叉切下字には の2 3 部(-Y
IJ)
に 窟 す る 「 允j が使われている。f
Z
青」 は では2 7 部 に 属 し 「 願 文J の音と合う。5
まとめ本 稿 で は 「 磁 文j に よ っ て 書 か れ た 語 葉 集 f甑 諺 略 」 に つ い て F音 葉 』 と の 比 較 か ら 述 べ た 。 今
i
自 の 分 析 を 通 し て 「 甑 諺111各」と『音葉』は同じf [ 頭文j で 警 か れ て い る が 、 実 際 に は 両 者 の 表 記 法 や 対 応 す る 字 音 に 差 異 が あ り 、 そ こ か ら「鼠諺! 日告j の 筆 者 がi
凍糾自身ではないことが明らかになった。1 9 0 3 年、
i
凍 糾 は 「 顧 文J を 学 習 す る た め の 学 校 f甑文学堂」を創立するが、 「甑諺略J の 筆 者 は こ こ で の 教 育 に 携 わ っ たi
ヨJI弟 で あ る と 思 う 。 直 接 、 漢 字 の 読 め な い 学 習 者 と 接 す る う ち に 、 よ り 実 用 的 な 「 磁 文J に よ る 方 言 語 嚢 集 が 必 要 で あ る と 感 じ る よ う に な っ た の で は な い か 。 紙pl高 の 関 係 で 、 全 て の 語 嚢 を 載 せ る こ と が で き な か っ た が 、 今 後 は こ れ ら の 詩 嚢 に つ い て 、 さ ら に 歴 史 的 な 分析を試みたいと思う。
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