ミクロ経済学 HW6 解答
濱田高彰
∗平成 29 年 1 月 8 日
1 確認
1.1 市場の失敗
(1) 厚生経済学の第一基本定理が成り立つための条件は、以下の二つである。 (i)市場の普遍性:すべての財・サービスは、市場で価格がつけられ取引される。 (ii)完全競争:すべての経済主体は、市場価格を所与に行動する。
(2) 市場の失敗とは、市場による資源配分がパレート効率的な配分を達成できないことを言う。
✓コメント ✏
上で述べた内容は、市場の「資源配分の効率性」に関する失敗である。しかし、市場は 別の意味合いでも失敗する可能性がある。それが「所得分配の公平性」と「経済の安定性」 に関する失敗である。場合によってはこれらを全て含めて市場の失敗と呼ぶことがある。 その場合には、上記の解答は狭義の市場の失敗である。
✒ ✑
(3) 政府が市場に介入する際には、消費者の好みや状態、企業の生産技術などに関する(私的)情
報が必要である場合が多い。(例えばピグー税を設定する際、外部性の受け手の損害(私的情 報)を知る必要がある。)よって政府はこれらの情報を手に入れたい。しかし、これらを調査 するには莫大な費用がかかったり、そもそも不可能である場合がある。また経済主体が戦略的 に誤った情報を政府に伝える誘因を持つ場合もあるだろう。政府介入には、以上のような情報 取得に関する困難がつきまとう。
1.2 用語説明
自然独占 :政策的な要因でなく、産業の技術的な要因によって必然的に発生する独占のこと。例え ば、固定費用が莫大にかかる産業では、生産量が大きくなるにつれて平均費用が逓減する。す ると、既存の企業は新規の企業より低い生産費用で生産ができるため、それを利用することで 新規参入を阻止でき、自然に独占状態となる。
∗
質問・誤 植 等 が あ れ ばTAのメ ー ル ア ド レ ス([email protected])にご 連 絡 く だ さ い 。
マークアップ率 :独占価格と限界費用の乖離率のこと。逆需要関数をP (X)、独占企業の費用関数 をC(X)、独占生産量をXMと書くと、マークアップ率は
P(XM)−C′(XM)
P(XM) である。また、生産
量Xにおける需要の価格弾力性をε(X)とかくと、マークアップ率は
1
ε(XM)と一致する。
外部性の内部化 :外部性のある財が存在する際に、何らかの政策的手段を用いて、社会的に望まし い資源配分が達成できるように経済主体のインセンティブを変更すること。代表的な手段とし て、ピグー税やピグー補助金がある。
コースの定理:外部性の出し手と受け手の間で、交渉費用が低く情報の非対称性が存在しない場合、 損害補償に関する交渉によってパレート効率的な資源配分が達成できることを主張する定理の こと。
サミュエルソン条件 :公共財の最適供給条件のこと。今公共財iと私的財jが存在し、消費者がn 人いるとすると、サミュエルソン条件は
∑n
k=1M RSijk = M RTijである。ただし、M RSijk は
消費者k(= 1, · · · , n)の財iの財jで測った限界代替率であり、M RTijは財iの財jに対する 限界変形率である。
公共財のただ乗り問題 :公共財は一度誰かに供給されてしまえば、その対価を支払うことなく便益 を享受できる。従って、消費者が公共財を私的に供給する状況では、他者の供給に便乗して自 らの供給を少なくする誘因が働く。これを公共財のただ乗り問題と言う。
2 標準
2.1 独占
2.1.1 基本問題
奥野正寛[編]『ミクロ経済学演習』の解答を参照。
2.1.2 価格差別
(1) まず集団Aに対する供給量を考える。集団Aから得られる独占企業の利潤をπA、集団Aに 対する生産量をXAと書くと、πA= Pd
A(XA)XA− 4XA= (56 −13XA)XAと書ける。ここで
最大化の一階条件を求めると、XA = 84を得る。πAは2次関数であり上に凸であると分かる から、πAはXA= 84で最大となる。この時PA= 32と計算できる。
集団Aの消費者余剰をCSAと書くと、CSA =
1
2· (60 − 32) · 84 = 1176と計算できる。ま た生産者余剰をP SAと書くと、P SA= (32 − 4) · 84 = 2352である。
集団Bも同様に計算できる。結果をまとめると以下のようになる。 集団A:生産量:84、価格:32、消費者余剰:1176、生産者余剰:2352
集団B:生産量:108、価格:22、消費者余剰:972、生産者余剰:1944 全体:消費者余剰:2148、生産者余剰:4296
(2) それぞれの需要の価格弾力性をεA、εBとすると、それぞれの独占価格の下で、εA=
8 7、εB = 11
9 と計算できる 1)
。またマークアップ率は独占価格の下で需要の価格弾力性の逆数と一致する から、集団Aと集団Bでそれぞれ
7 8、
7
11である。
Aの弾力性:87、Bの弾力性:119、Aのマークアップ率:78、Bのマークアップ率:117
一般に、独占価格におけるマークアップ率は、独占価格における需要の価格弾力性の逆数と 一致する。微小な価格上昇に対して需要が大きく下がる場合、独占企業は価格を上げづらくな る。従って需要の価格弾力性が大きい場合には、マークアップ率が低くなる。
(3) [均衡生産量・価格の計算]
企業はそれぞれの集団に価格付けができないので、市場全体の需要関数を考慮して意思決定 を行うことになる。市場全体の需要量は、グループAとグループBの需要量の和である。今 グループAの需要関数をXA(P )、グループBの需要関数をXB(P )とすると
XA(P ) =
180 − 3P if 60 ≥ P > 0 0 if P > 60
(1)
XB(P ) =
240 − 6P if 40 ≥ P > 0 0 if P > 40
(2)
である。これらより、市場全体の需要関数をX(P )と書くと
X(P ) =
420 − 9P if 40 ≥ P > 0 180 − 3P if 60 ≥ P > 40 0 if P > 60
(3)
となる。ここから、逆需要関数P (X)は
P (X) =
140 3 −
1
9X if 420 > X ≥ 60 60 −13X if 60 > X ≥ 0
(4)
であると分かる。これより、企業の利潤関数π(X)は以下のよう書ける。
π(X) =
(128
3 −
1 9X
)X if 420 > X ≥ 60 (56 −13X)X if 60 > X ≥ 0
(5)
以上から、利潤を最大化する生産量はX = 192と計算できる(Check!)。また(4)式より、市
1)
需要 の 価 格 弾 力 性 の 定 義 に 戻ってCheckして く だ さ い 。
場価格はP =
76
3 と分かる。
[消費者・生産者余剰の計算] まず消費者余剰を求める。P =
76
3 であるから、(1)(2)より、均衡においてXA= 104、XB =
88であると分かる。従って、消費者余剰CSは
CS = 1 2 ·
(
60 −76 3
)
· 104 + 1 2·
(
40 −76 3
)
· 88 = 2448
となる。また生産者余剰は、P S = (76
3 − 4
)· 192 = 4096と計算できる。結果をまとめると以
下のようになる。 生産量:192、価格:
76
3、消費者余剰:2448、生産者余剰:4096
(4) (1)(3)の結果を比べてみると、同一価格の場合と比べて、価格差別の下で生産者余剰(企業
の利潤)が大きくなっていることが分かる。また一方で消費者余剰は同一価格の場合の方が大 きくなっている。また総余剰も比べてみると、同一価格の方が大きくなっていると分かる。つ まりこの設定においては、価格差別ができないよう規制することが消費者余剰・総余剰の観点 から望ましいと言える。
2.2 外部性
2.2.1 基本問題
奥野正寛[編]『ミクロ経済学演習』の解答を参照。
2.3 公共財
2.3.1 公共財の私的供給とナッシュ均衡
・消費者1の行動を考える。彼は x1+ z1≤ 10 という予算制約のもと、効用zx1を最大化 する。今z1 + z2 = z だから、予算制約も考慮すると、目的関数は (z1+ z2)(10 − z1) と いうz1とz2の式に直せる。目的関数にz2が入っているという事は、1さんの行動は2さん がどれくらい公共財を供給するかによって変わり得ることを意味している。一方、2さんも1 さんと状況が同じであるから、この二人はお互いがお互いの行動に影響を及ぼす。この状況は
戦略的相互依存 関係と呼ばれ、 分析にはゲーム理論が用いられる。
・実際に分析しよう。消費者1を考える。まず相手の供給量があるz2という値だと考え、それ を元に自分の最適な供給量z1を選択する。以下消費者の公共財供給量を戦略と呼ぶ。この時、 z2に対する消費者1の最適な戦略をBR1(z2)と書くと
BR1(z2) =
(10 − z2)/2 if 10 > z2
0 if 10 ≤ z2
(6)
と計算できる。このBR1(z2)は 最適反応 関数と呼ばれる。同様にz1を所与にした際の、消 費者2の最適な戦略をBR2(z1)と書くと
BR2(z1) =
(10 − z1)/2 if 10 > z1
0 if 10 ≤ z1
(7)
と計算できる。
・今それぞれの最大化問題を解いたが、もちろんこれが答えではない。(1)(2)を見てみると、そ れぞれ相手の供給量が入っている。この状況に対して1つの解を与えてくれるのが ナッシュ 均衡である。ナッシュ 均衡とは、戦略の組(z1, z2)の中で、
ui(zi∗, zj∗) ≥ ui(zi′, zj∗) ∀i = 1, 2, ∀zi′ ∈R+
を満たす戦略組(z∗
1, z∗2)のことである。言葉で説明すると、戦略組(z∗
1, z2∗)が ナッシュ 均衡
であるとは、そこから 逸脱 することによって得をする人は誰もいないような戦略組のこと である。ゲーム理論においては、この均衡を求めることで、人々がどのように行動するかを考 えるのである。
・ではナッシュ均衡をどのように求めたらよいか。今(1)(2)という最適反応関数をすでに得て いる。これらの関数は、相手の行動を所与に、最適な戦略が何なのかを示すものである。とこ ろでナッシュ均衡の下では、お互いその戦略から逸脱するインセンティブがないのだから、最 適反応関数の 交点 は、ナッシュ均衡である。今(z∗
1, z2∗)を最適反応関数の 交点 だとする。
よって、z∗
1 = BR1(z2∗)かつz∗2 = BR2(z∗1) が成立している。この時、消費者1はz∗
2に対し
てz
∗
1 を選ぶことが最適だし、消費者2もz
∗
1に対してはz∗2を選ぶことが最適だから、お互い (z1∗, z2∗)から逸脱するインセンティブがないことが分かり、ナッシュ均衡であると確認できる。
・では上の性質を用いてナッシュ均衡を求めよう。最適反応関数の交点を求めるには、(1)(2) を連立すればよいから、(z∗
1, z2∗) = ( 10/3 , 10/3 )であると分かる。
2.3.2 基本問題
奥野正寛[編]『ミクロ経済学演習』の解答を参照。
3 応用
3.1 クラークメカニズム
(1) vi+∑j̸=ivˆj ≥ cだから、消費者iがˆvi= viを選ぶと公共財は供給され、効用vi−(c−
∑
j̸=iˆvj)
を得る2)。一方、ˆvi̸= viなるvˆiを選んだ時、
∑n
k=1vˆk ≥ cであれば、効用vi− (c −
∑
j̸=iˆvj)
を得るし、
∑n
k=1vˆk < cであれば、効用0を得る。つまり、公共財の評価を偽って申告しても、 せいぜいvi− (c −
∑
j̸=ivˆj)しか得られない。従って、vˆi= viは最適反応の一つである。 (2) vi+∑j̸=iˆvj< cだから、消費者iがˆvi= viを選んでも公共財は供給されず、効用0を得る。
一方、ˆvi ̸= viなるvˆiを選んだ時、
∑n
k=1ˆvk ≥ cであれば、負の効用vi− (c −
∑
j̸=ivˆj)を得
るし、
∑n
k=1vˆk < cであれば、効用0を得る。つまり、公共財の評価を偽って申告しても、せ いぜい0しか得られない。従って、ˆvi= viは最適反応の一つである。
(3) (1)(2)の結果から、消費者iにとって他の全ての消費者がどんな申告をしようとも、正直に自
分の公共財への評価を申告すること(ˆvi= vi)は最適である。ただし上で見たように、ˆvi= vi 以外の申告をしても同じ効用を得ることができる場合があるから、消費者iにとってvˆi = vi は弱支配戦略である
3)
。
今このことが任意の消費者iについて言える。つまり、全員にとって正直に申告することが 弱支配戦略である。従って、全員が正直申告する、つまり(ˆv1, · · · , ˆvn) = (v1, · · · , vn)は弱支 配戦略均衡である。
(4) (ˆv1, · · · , ˆvn) = (v1, · · · , vn)という戦略組の下で、公共財が供給されるとする。つまり、
∑n
k=1vk ≥
cが成立している。今以下の消費者の集合を定義する。
S = {l ∈ N |∑
j̸=l
vj < c} (8)
2)
ただ し 、c −
∑
j̸=iˆvj< 0な ら 、効 用 はviで あ る 。ま たvi+
∑
j̸=iˆvj= cの 場 合 は 、効 用 は0であ る 。 3)
プレーヤーiのある戦略siが弱支配戦略であるとは、プレーヤーiの他の任意の戦略s′
iと、任意の他のプレーヤーの戦略組 s−iに 対 し て
ui(si, s−i) ≥ ui(s′i, s−i)
が 成 り 立 つ こ と で あ る 。
ただし、N = {1, · · · , n}である。今集合Sの要素の個数をT と書くと、政府の収支は
n
∑
k=1
Tk− c = ∑
s∈S
( c −∑
j̸=s
vj )
− c
= T c −
(T − 1)
n
∑
k=1
vk+ ∑
r∈N \S
vr
− c
= (T − 1) (
c −
n
∑
k=1
vk )
− ∑
r∈N \S
vr
≤ 0 (
∵
n
∑
k=1
vk ≥ c )
となる
4)
。また、等式が成立するのは
∑n
k=1vk = cの場合である(Check!)。
4)
任意 の 集 合A,Bに 対 して 、A \ B ≡ {x ∈ A|x /∈ B}であ る 。