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第 11 章 量子 Liouville 方程式
本章では、密度演算子の運動方程式である量子Liouville (リウヴィル)方程式 を導く。次に、第2章で熱浴の情報を縮約したのと同様の考え方について議論す る。密度行列の対角成分はその基底に対応する状態の分布を表し、非対角成分 はそれらの間の干渉性(コヒーレンス)を表す。量子Liouville方程式は両者を記 述するが、後者を縮約して前者のみの間の移り変りを表現したものはMaster方 程式と呼ばれる。最後に、量子Liouville方程式と古典的Liouville方程式との間 をつなぐWigner (ウィグナー)変換の考え方を紹介する。
11.1 密度演算子の時間発展
簡単のため、純粋状態の密度演算子の時間発展を考える。式(9.24)の時間微 分より、
∂
∂tρ(t) =ˆ
∂
∂t(|ψ(t)⟩⟨ψ(t)|) =( ∂
∂t|ψ(t)⟩ )
⟨ψ(t)| + |ψ(t)⟩( ∂
∂t⟨ψ(t)| )
これに時間依存Schr¨odinger方程式(およびそのHermite共役)
∂
∂t|ψ(t)⟩ = − i
ℏH|ψ(t)⟩,ˆ
∂
∂t⟨ψ(t)| = + i
ℏ⟨ψ(t)| ˆH を用いると、次式が見出される。
∂ ˆρ
∂t = − i
ℏ[ ˆH, ˆρ] (11.1)
ここで、[ ˆH, ˆρ] = ˆH ˆρ − ˆρ ˆHは通常の交換子である。
一方、混合状態の密度演算子は、純粋状態の密度演算子の線型結合で与えら れており、上の導出では線形の演算しか用いていないので、式(11.1)は混合状 態についても成り立つことが分かる。この式(11.1)を量子Liouville方程式と 呼ぶ。これは、純粋状態の場合には時間依存Schr¨odinger方程式と等価だが、混 合状態を扱うことが出来る点で一般化されている。
11.1.1 例: 2 準位系
具体例として、簡単な2準位系を見ると分かりやすい。エネルギーεa, εbを持 つ状態|a⟩, |b⟩ からなる系を考える。状態間の移動エネルギーを⟨a|H|b⟩ = Vab とする。(Hermite性より、Vba = V∗
abである。)すなわち、Hamiltonianは、 H =
[ Haa Hab Hba Hbb
]
=
[ εa Vab Vba εb
]
と表される。同様に、密度演算子も2 × 2行列で表され、 ρ(t) =
[ ρaa(t) ρab(t) ρba(t) ρbb(t)
]
となる。これらより、Liouville方程式(11.1)は、
∂
∂tρ(t) = − i ℏ
[ Vabρba− Vbaρab ∆ερab− Vab∆ρ
−∆ερba+ Vba∆ρ Vbaρab− Vabρba ]
(11.2)
となる。ただし、∆ε ≡ εa− εb、および∆ρ ≡ ρaa− ρbb である。上の表式から、 対角要素ρaa、ρbbの変化速度は非対角要素ρab、ρbaによって決まることが分か る。また、2状態が等エネルギーの場合(∆ε = 0)には、非対角要素の変化は対 角要素の差∆ρによって決まる。これは、第XX章で議論するLiouville経路図 (Liouville path diagram)により図式化される。
11.1.2 分布とコヒーレンス
式(9.32)から分かるように、対角要素ρaaおよびρbbは、それぞれ状態|a⟩, |b⟩
の分布(population)を表す。すなわち、まずは純粋状態を考えるとして、波動
関数を
|ψ(t)⟩ = ca(t)|a⟩ + cb(t)|b⟩
と表すならば、ρaa = |ca|2およびρbb = |cb|2 であり、各状態の占有確率を表し ている。波動関数が規格化されていれば、これらは|ca|2+ |cb|2 = 1 を満たす。
したがって、式(9.28)のような混合状態を考えた場合には、 ρaa =∑
k
Pk|cka|2, ρbb=∑
k
Pk|ckb|2
となり、これらの和は
ρaa+ ρbb=∑
k
Pk= 1
となる。つまり、対角要素に関しては、常に非負の実数なので、確率分布とその 統計平均という解釈が素直に出来る。一般に、Trρ = 1である。
11.1. 密度演算子の時間発展 133
一方、非対角要素ρab = cac∗b = ρ∗ba は、2状態間の「コヒーレンス(位相 関係)」を表している。すなわち、複素係数ca、cbを、絶対値と位相に分けて ca = |ca|eiθa およびcb = |cb|eiθb と表したとき、非対角要素は
ρab= |ca||cb|ei(θa−θb) と表される。混合状態を考えた場合には、
ρab=∑
k
Pk|cka||ckb|ei(θka−θkb)
となる。上式が示唆するように、統計集団において位相差θak− θk
b が乱雑化され
ると、密度行列の非対角要素は消失する。この乱雑さは、統計集団に元から含 まれる部分もあれば、異なる条件下での時間発展のために増大する場合もある。 このような非対角要素の消失はdecoherenceと呼ばれる。
11.1.3 Liouville 演算子
上で見たように、量子Liouville方程式の行列表現は、正方行列の積(交換子) の演算を要する。一方、Schr¨odinger方程式では、波動関数はHilbert空間のベ クトルで表され、Hamiltonianはこのベクトルに演算する行列で表される。この ように、両者は本来的に異なっているが、量子Liouville方程式をベクトル方程 式に書き換えることは可能である。再び、2準位系を例にとると、式(11.2)は次 のように書き直すことが出来る。
∂
∂t
ρaa ρbb ρab ρba
= −i ℏ
0 0 −Vba Vab
0 0 Vba −Vab
−Vab Vab εa− εb 0 Vba −Vba 0 εb− εa
ρaa ρbb ρab ρba
これに従って、Liouville演算子Lˆを次式のように定義する。
∂ ˆρ
∂t = − i
ℏ[ ˆH, ˆρ] ≡ − i
ℏLˆˆρ (11.3)
この枠組みでは、密度演算子ρˆは、いわゆるLiouville空間におけるベクトルと なる。ただし、ρˆの要素は添字を2つ持つので、Liouville演算子Lˆは、次式で 見られるように四つの添字を持つ。
∂
∂tρmn = − i
ℏ[(Hρ)mn− (ρH)mn] = − i ℏ
∑
j
(Hmjρjn− ρmjHjn)
≡ −i ℏ
∑
j,k
Lmn,jkρjk
ここで、‘tetradic’行列Lmn,jkは、次式で定義される。 Lmn,jk≡ Hmjδkn− δmjHkn
この表示方法は、特に理論を形式的に発展させる際に有用である。例えば、Hamil- tonianが時間に陽に依存しない時は、量子Liouville方程式(11.3)の形式解は次 のように簡潔に書ける。
ˆ
ρ(t) = e−i ˆLt/ℏρ(0)ˆ
Hamiltonianが時間に依存する場合でも、例えば式(6.19)で見た時間順序指数 関数と形式的に同様に書き表すことが出来る。
11.2 縮約密度演算子
第2章で見たように、凝縮系の化学反応を扱うのに便利なモデルとして、反 応系と熱浴を表すHamiltonian
H = Hs(q) + HB(Q) + V (q, Q)
がある。ここで、qとQは、それぞれ反応系と熱浴の座標であり、両者とも多 自由度としてよい。以下の議論では、これらを「内部」自由度、および「外部」 自由度と呼ぶことにする。後者の詳細には興味がない、あるいは知ることが出 来ないような状況を想定している。
仮に、これらの自由度の間に相互作用V (q, Q) が無いならば、各々が独立に Hamiltonian HsおよびHBに従う。これらのHamiltonianの固有状態は既知で あるとする。すなわち、ψi(q) = ⟨q|i⟩ およびχa(Q) = ⟨Q|a⟩ が、
Hs|i⟩ = Ei|i⟩, HB|a⟩ = εa|a⟩ を満たすとする。
ここで、|i⟩と|a⟩の直積
|ia⟩ = |i⟩|a⟩
を考えるのが便利である。相互作用V がゼロでない場合には、これらは全Hamil-
tonian Hの固有状態ではないが、式(??)のような統計平均を計算する際の基底
として有用である。例えば、一般の演算子A(q, Q)ˆ の平均値は、次のように計算 される。
⟨ ˆA(q, Q)⟩ = Tr[ˆρ(t) ˆA(q, Q)] =∑
i,a
⟨ia|ˆρ(t) ˆA|ia⟩
=∑
i,a
∑
j,b
⟨ia|ˆρ(t)|jb⟩⟨jb| ˆA|ia⟩
ここで、固有状態|i⟩および|a⟩の完全性
∑
i,a
|ia⟩⟨ia| = 1
を用いた。
11.3. Master 方程式 135
いま、内部座標qのみに依存するような量A(q)ˆ を考えるとするならば、行列 要素は
⟨jb| ˆA(q)|ia⟩ = ⟨j| ˆA(q)|i⟩⟨b|a⟩ = δab⟨j| ˆA(q)|i⟩ のように簡単化され、平均値は
⟨ ˆA(q)⟩ =∑
i,j
∑
a
⟨ia|ˆρ(t)|ja⟩⟨j| ˆA(q)|i⟩ (11.4)
のようになる。このとき、外部自由度の状態|a⟩に関する平均操作(対角和)は、 密度演算子だけに対して行われているのがポイントとなる。そこで、密度演算 子ρˆに代わる新しい演算子を
ˆ
σ(t) ≡∑
a
⟨a|ˆρ(t)|a⟩ = TrBρ(t)ˆ
により定義することにする。ここで、TrBは外部自由度の状態に関する対角和で ある。内部自由度の状態|i⟩に関するこの演算子の行列要素は、
σij(t) = ⟨i|TrBρ(t)|j⟩ =ˆ ∑
a
⟨ia|ˆρ(t)|ja⟩ (11.5)
となる。したがって、式(11.4)は、
⟨ ˆA(q)⟩ =∑
i,j
σij(t)⟨j| ˆA(q)|i⟩ =∑
i,j
σij(t) ˆA(q)ji= Trs[ˆσ(t) ˆA(q)]
となる。すなわち、外部自由度に関する情報は新しい演算子ˆσ(t)の中に押し込 まれ、上式は(少なくとも表面上は)内部自由度の状態に関する対角和Trsのみ で表されることになる。このように、内部自由度のみに依存する量の平均値の 時間発展が知りたいならば、全密度演算子ρ(t)ˆ を追う必要はなく、縮約された 密度演算子σ(t)ˆ のみを調べれば良い。
上で行ったTrBの演算は、射影演算子の性質を満たしている∗。したがって、 第2章で議論した射影演算子による分割法をρ(t)ˆ に関する量子Liouville方程式 に適用することにより、縮約密度演算子σ(t)ˆ に関する「縮約された運動方程式」 を導くことが出来る。
11.3 Master 方程式
射影演算子法は一般性が高いので、応用は上の例に限らない。他の例として、 密度行列の対角項への射影を考えることも出来る。これにより、状態間の分布 の移行と変化を表す運動方程式が得られる。これは、Master方程式と呼ばれ、 巨視的な反応速度論で用いられる速度方程式を微視的に表したものに相当する。
∗
より正確には、次の射影演算子を考える。 P ˆρ = ˜ρBTrBρ = ˜ˆ ρBσˆ ここで、ρ˜Bは、外部自由度に関する密度演算子である。
11.3.1 2 準位系
一般論は少々煩雑なので、2準位系を考えることにする。まず、式(11.2)の非 対角項の方程式
˙ρab = −i
ℏ(∆ερab− Vab∆ρ) (11.6) を(Laplace変換などにより)形式的に解くと
ρab(t) = e−i∆εt/ℏρab(0) + i ℏ
∫ t 0
e−i∆ετ /ℏVab∆ρ(t − τ )dτ (11.7)
が得られる。これを式(11.2)の対角項の方程式†
˙ρaa = −i
ℏ(Vabρba− Vbaρab) = − 2
ℏV Im ρab (11.8) に 代 入 す れ ば 、非 対 角 項 が 消 去 さ れ 、対 角 項 の み の 式 に な る 。簡 単 の た め 、 ρab(0) = 0とすると、次式を得る。
˙ρaa = − 2 ℏ2V
2 Re∫ t 0
e−i∆ετ /ℏ∆ρ(t − τ )dτ
ここで、2.1.2節で考えたような粗視化(あるいはMarkov近似)‡を適用し て畳み込み積分を分離すると、
˙ρaa ≃ − 2 ℏ2V
2Re[∫ ∞ 0
e−i∆ετ /ℏdτ ]
∆ρ(t) = −2π ℏ V
2δ(∆ε)∆ρ(t)
となる§。興味深いことに、∆ρ(t)の前の因子は、Fermiの黄金則による遷移速 度に等しい。これを
wba = wab= 2π ℏ V
2δ(∆ε)
と書くと、次の速度方程式(Master方程式)が得られる。
˙ρaa = −wbaρaa(t) + wabρbb(t)
†2 番目の等号では、Vab= Vba= V (実数) と置き、ρba= ρ∗abを用いた。
‡今のような単純な孤立2 準位系の場合に Markov 近似が適切とは考えにくいが、よ り大きな系の場合に適用する考え方の概要を示すのが目的なので、取り敢えずどうなる かを見ることにする。
§最後の等号では、公式
∫ ∞ 0
eiωtdt = πδ(ω) + iP1 ω およびδ(x/a) = aδ(x) を用いた。
11.3. Master 方程式 137
11.3.2 一般化
以上の2準位系に関する議論を一般化するには、 P ρij = δijρii, Qρij = (1 − δij)ρij
といった射影演算子を用いれば良い。Liouville演算子の射影LP P, LP Qなどの 扱いが少々煩雑¶なので、ここでは詳細を省略し大枠だけを示す。
まず、Hamiltonianの非対角項を無視した場合のLiouville演算子をL0と書く として、
exp(−iLQQt/ℏ) ≃ exp(−iL0t/ℏ)
という近似を用いる。さらに、ρij(0) = 0, (i ̸= j)を仮定すると、対角項の運動 方程式として次式が得られる。
˙ρii= −∑
j
∫ t 0
dτ Rij(τ ) [ρii(t − τ ) − ρjj(t − τ )]
ただし、ωij ≡ (Hii− Hjj)/ℏとして、 Rij(t) = 1
ℏ2|Hij|
2(eiωijt+ e−iωijt)
である。これにMarkov近似を用いれば、Master方程式
˙ρii= −∑
j
[wjiρii− wijρjj]
を得る。ここで、wij はFermiの黄金則による遷移速度 wij = wji = 2π
ℏ |Hij|
2δ(H
ii− Hjj)
である。上式が示すように、今の議論では、状態iとjのエネルギーHii, Hjjが 等しい場合にのみ遷移速度はゼロでなく、また、i → jとj → iの遷移速度は等 しい。
11.3.3 温度の導入
ここでも詳細な導出は割愛するが、第11.2節で見たように、全系を反応系と 熱浴に分け、後者に関して熱平衡を仮定し温度を導入すると、エネルギーの異 なる「反応系の状態」間で遷移が可能になる。すなわち、反応系の状態iとjの エネルギー(あるいはHamiltonianの対角項)をEi、Ejとするとき、Ei̸= Ej であってもi → j、j → i両方向の遷移が起こり得る。これは、熱浴も含めた全
¶この点、Liouville 空間のベクトルを用いて考えると、若干見通しが良くなる。例え ば、S. Mukamel, Principles of Nonlinear Optical Spectroscopy (Oxford) 参照。
系でエネルギーが保存していれば良いからである。このとき、両方向の遷移速 度の間の関係は次式のようになり、温度とエネルギー差への依存性が現れる。
wij = wjie−(Ei−Ej)/kBT
これは、縮約密度行列の対角項(すなわち分布)がBoltzmann則 σii/σjj = e−(Ei−Ej)/kBT
に従い、よって詳細釣り合いの原理
wijσjj = wjiσii
が成り立つことを示している。
11.4 Wigner 分布関数
前節までは、状態をエネルギー準位で指定し、その分布の時間変化を議論し た。これに対し、状態を座標の関数として記述したい場合もあるだろう。純粋状 態であれば、座標表示は波動関数ψ(x) = ⟨x|ψ⟩で与えられる。これを混合状態 まで含めて一般化するには、密度演算子の座標表示を考えることになる。さら に、これを位相空間すなわち座標と運動量の空間における関数へ変換すること により、古典力学との対応を議論することが可能になる。
11.4.1 密度演算子の座標表示
純粋状態については、既に??節で見た。混合状態についてもほぼ同様で、式 (9.28)より
ρ(x, x′, t) =∑
k
Pkψk(x, t)ψk(x′, t)∗
と表される。対角成分は、統計集団の重みを付けた確率密度分布 ρ(x, x, t) =∑
k
Pk|ψk(x, t)|2 (11.9)
となる。
演算子Aˆの期待値は、式(??)と完全性∫ dx|x⟩⟨x| = 1より、
⟨ ˆA(t)⟩ =∑
k
Pk⟨ψk(t)| ˆA|ψk(t)⟩
=
∫ dx
∫
dx′∑
k
Pk⟨ψk(t)|x⟩⟨x| ˆA|x′⟩⟨x′|ψk(t)⟩
=
∫ dx
∫
dx′ρ(x′, x)A(x, x′)
(11.10)
11.4. Wigner 分布関数 139
となり、ρˆとAˆの座標表示から計算される∥。
練習問題:
11.2節(縮約密度演算子)の諸式を座標表示で表せ。11.4.2 再び混合状態について
上記の縮約密度演算子の座標表示を用いて、純粋状態と混合状態の意味につい て再考してみる。ここの議論は、??節の「補足」に記したものと関連している。
今、「着目する系と熱浴」あるいは「内部自由度と外部自由度」両者を含めた 全系は、純粋状態
ˆ
ρ = |ψ⟩⟨ψ|
で表されるとする。この波動関数ψを、q, Qの完全規格直交系ϕi(q), χa(Q)で 展開する。
ψ(q, Q) = ⟨qQ|ψ⟩ =∑
i,a
Ciaϕi(q)χa(Q)
このとき、全密度演算子の座標表示は、 ρ(qQ, q′Q′) = ∑
i,j,a,b
CiaCjb∗ ϕi(q)χa(Q)ϕ∗j(q′)χ∗b(Q′)
と表される。これより、Qについて対角和を取った縮約密度行列の座標表示は、 σ(q, q′) = ∑
i,j,a,b
CiaCjb∗ [∫
dQχa(Q)χ∗b(Q) ]
ϕi(q)ϕ∗j(q′)
=∑
i,j,a
CiaCja∗ ϕi(q)ϕ∗j(q′) =∑
i,j
σijϕi(q)ϕ∗j(q′)
となる。ただし、
σij =∑
a
CiaCja∗
∥
座標表示における対角和は、 Tr[· · · ] =
∫
dx⟨x| · · · |x⟩
とするのが適切であることを認めれば、
⟨ ˆA(t)⟩ = Tr[ˆρ(t) ˆA] =
∫
dx⟨x|ˆρ(t) ˆA|x⟩ =
∫ dx
∫
dx′⟨x|ˆρ(t)|x′⟩⟨x′| ˆA|x⟩
としてもよい。
と置いた。(これは、式(11.5)に対応している。)この行列σijは、Hermiteなの で対角化できる。固有値を˜σiとし、対角化に応じて基底関数を{ϕi}から{ ˜ϕi} へ変換したとすると、
σ(q, q′) =∑
i
˜
σiϕ˜i(q) ˜ϕ∗i(q′)
が得られる。これは、σ˜iを重みとする混合状態の密度演算子になっている。す なわち、純粋状態のρˆから出発したとしても、自由度の一部分を縮約すると、混 合状態が得られる。言い換えると、外部自由度に関する情報の詳細を追いかけ ずに縮約することにより、統計性が現れる。
11.4.3 Wigner 変換
式(11.9)で見たように、密度演算子の座標表示の対角成分ρ(x, x)は、xにお ける粒子の存在確率密度を表す。古典力学でこれに対応するのは、第8章で考察 した分布関数f (x, p, t)であろう。よって、密度演算子の座標表示は、古典的な 分布関数を量子論から基礎付けるための手掛かりになりそうである。
ところが、量子論では不確定性原理により、座標xと運動量pを同時に指定 することは出来ない。すなわち、位相空間にはプランク定数hを超える解像度 はない。そこで、今我々が密度演算子から導き、古典分布関数に対応付けよう とする量をf (x, p, t)˜ とすると、それは次の2つの性質を満たせば良いというこ とにしてみる。(以下、時間変数tは省略する。)
∫ f (x, p)dx = P (p),˜
∫ f (x, p)˜ dp
2πℏ = P (x) (11.11)
ここで、P (x)は、座標のみに関する分布関数を表す。すなわち、運動量につい
ては積分してしまうので、その値は不定で構わない。このP (x)が、ρ(x, x)に等 しくなることを要請することにする。
同様に、P (p)は運動量に関する分布関数であり、密度演算子の運動量表示の
対角成分ρ(p, p)に等しくなるべきである。ρˆの運動量表示は、 ρ(p, p′) = ⟨p|ˆρ|p′⟩ =∑
k
Pk⟨p|ψk⟩⟨ψk|p′⟩
で定義されるが、これを座標表示と関連付けると ρ(p, p′) =
∫ dx
∫
dx′∑
k
Pk⟨p|x⟩⟨x|ψk⟩⟨ψk|x′⟩⟨x′|p′⟩
=
∫ dx
∫
dx′ρ(x, x′)e−ipx/ℏe+ip′x′/ℏ
11.4. Wigner 分布関数 141
となる∗∗。よって、この対角成分は、 ρ(p, p) =
∫ dx
∫
dx′ρ(x, x′)e−ip(x−x′)/ℏ
である。
ここで、この積分の変数を、相対座標η ≡ x − x′と重心座標X ≡ (x + x′)/2 に変換してみると、
ρ(p, p) =
∫ ∫
ρ(X + η 2, X −
η 2
)
e−ipη/ℏdη dX (11.12)
が得られる。実は、これで求めていた関数が1つ見つかったことになる。すな わち、
fW(x, p) ≡
∫
ρ(x +η 2, x −
η 2 )
e−ipη/ℏ dη (11.13)
で定義される関数は、式(11.11)の左側の要請
∫
fW(x, p)dx = ρ(p, p) = P (p)
を満たしていることを、式(11.12)は示している。この式(11.13)は、Wigner 関数と呼ばれる。
練習問題:
Wigner関数が、式(11.11)の右側の要請も満たしていることを確 認せよ。式(11.13)に対応して、任意の演算子Aˆについて AW(x, p) ≡
∫ ⟨ x + η
2
Aˆ x −η 2
⟩e−ipη/ℏdη (11.14)
をAˆのWigner変換またはWigner表示と呼ぶ。上で見たように、これはAˆ の座標表示を重心座標と相対座標で表し、後者に関してFourier変換したもので ある。
例 : 調和振動子
(ToDo: 調和振動子)
∗∗ここで、⟨x|p⟩ = eipx/ℏを使った。すなわち、座標表示における運動量の固有関数 は平面波関数である。
11.4.4 Liouville 方程式の古典極限
2つの演算子の積A ˆˆBのWigner変換を( ˆA ˆB)W(x, p)と書くと、これはAˆ、Bˆ 各々のWigner変換により
( ˆA ˆB)W(x, p) = AW(x, p)eℏΛ/2iBW(x, p) (11.15)
と表される††。ただし、Λは
AΛB = ∂A
∂p
∂B
∂x −
∂A
∂x
∂B
∂p
で定義される演算子である。これは、Poisson括弧に等しい。 AΛB = −{A, B}PB
式(11.15)を用いて、量子Liouville方程式(11.1)を変換すると、
∂fW(x, p)
∂t = − i ℏ
(
HWeℏΛ/2ifW − fWeℏΛ/2iHW)
= −i ℏ
(HWeℏΛ/2ifW − HWe−ℏΛ/2ifW)
= −2
ℏHW(x, p) sin(ℏΛ/2)fW(x, p) となる。sin(ℏΛ/2)を展開すれば、
∂fW(x, p)
∂t = −HW(x, p)ΛfW(x, p) + O(ℏ)
となり、ℏ→ 0で古典的Liouville方程式(8.5)に帰着することが分かる。
(ToDo: 以下準備中)
11.5 量子 ・ 古典混合分子動力学シミュレーション
11.6 量子 Fokker-Planck 方程式
††証明は例えば、K. Imre et al., J. Math. Phys. 8, 1097 (1967)、R. G. Parr and W. Yang, Density-Functional Theory of Atoms and Molecules (Oxford) にある。