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(1)

視線計測を用いた熟練介護士の特徴抽出

Identifying features of skilled care givers based on eye tracking data

福田亮子

1

吉田可奈子

2

小野雄太郎

2

松原仁

2,3

工藤正博

2

Ryoko FUKUDA

1

, Kanako YOSHIDA

2

, Yutaro ONO

2

,

Hitoshi MATSUBARA

2

, and Masahiro KUDO

2

1

慶應義塾大学環境情報学部

1

Keio University Faculty of Environment and Information Studies

2

慶應義塾大学 SFC 研究所

2

Keio Research Institute at SFC

3

公立はこだて未来大学

3

Future University Hakodate

Abstract: In the current aged society, shortage of care givers is crucial. Not only lower wages and long working hours, but also frustration over operation is frequently cited as the reason for high turnover rate. In order to avoid such frustration and keep the service at a certain level, care content should be evaluated objectively and it must be shown how appropriately care is given. For that purpose, the features of skilled care givers of high-quality care facilities will be identified based on eye tracking and behavior observation. Results should indicate decision-making process of skilled care givers, which can be referred for support of novice care givers and improvement of care quality.

1. はじめに

1.1 従来の介護の評価手法の問題点

現在の高齢社会においては、介護のニーズがます ます高まってきている。現場では一刻も早い人材育 成が望まれているが、それには経験豊富な熟練介護 士の持つノウハウを伝達することが有効である。

介護従事者にとって最も難しいと言われているの は、利用者の状態を観察・判断し、介護作業内容を 決め、実際にその介護作業を実施するという流れの 中でも「判断」にあたる部分である。これまで行わ れてきた介護の教育においては、どのように介護作 業をすればよいかということは教えられてきている ものの、その前提となる判断をどのようにすればよ いかという点については必ずしも十分な教育が行わ れているとは言えない。そもそも、熟練者自身この 判断は半ば自動的に行っているため、これを言語化 して伝達するのは難しい場合も多い。実際、様々な 分野における熟達過程においては、「熟練者のコツは 見て覚えよ」、「技は習うよりも盗め」などと言われ ており、経験の浅い者が熟練者の作業の様子を見な がら学んでいくというスタイルを取ることが多い。

介護においては、経験の浅い介護従事者であって も、人手不足であることから十分な教育・研修を受 けることなく現場に出て、その場で熟練介護者の介 護の様子を見ながらそのコツを学んでいくより他な いというケースが見られる。しかし、これは容易な ことではない。特に、判断の根拠となる利用者の状 態には、個人差も個人内変動も存在する。判断時点 の条件のみならず、その前の時間帯に起こった事象 も影響を与える。経験の浅い介護従事者が、コツを 伝達されないままにこのような高度な判断を学習せ よと指示された結果、自信をなくしてしまい離職に 繋がってしまうケースがあるのも事実である。

離職の理由のひとつともなる教育・研修体制の不 足を克服する上でも、熟練した介護従事者の介護に おける暗黙知を可視化し、経験の浅い介護従事者に 分かりやすい形で伝達する必要がある。

1.2 熟練者の特徴抽出の方法

暗黙知や熟達化の研究において、熟練者の特徴抽 出 は さ ま ざ ま な 方 法 で 試 み ら れ て き た 。The Cambridge Handbook of Expertise and Expert

Performanceでは、熟達化の構造を研究する手法とし

て行動観察、心理測定法、タスク分析、発話プロト

(2)

コルの分析、日記を利用する方法などが挙げられて いる[1]。人間の行う行動や動作の直接観察は、動作 に関する暗黙知の形式知化にかかわる。その際には、 熟練者とそうでない者の動作を撮影した動画を並べ て比較できるようにするなどの工夫により、熟練者 の特徴抽出が容易となる[2]。また、記録した動画を もとに、特徴抽出アプリケーションを用いて人間の 動作をより詳細に分析したり、人間に装着した加速 度センサやモーションキャプチャを利用して詳細な 動作解析を行うケースも見られるようになってきて いる[3]。さらに、人間が用いる道具の側にひずみ計 などを取りつけて熟練者の動作の特徴を抽出する方 法も見られる[4]

これらの手法により、人間の動作を客観的かつ定 量的に把握することが可能となる。しかし、熟練者 の特徴を把握するためには、すでに指摘したように、 これらの動作が起こる前の段階の分析も必要である。 それは、人間の行動が外界から得られた情報を処理 した結果に基づいて行われるためである。したがっ て、上記のような研究例においても、通常は動作分 析に加えインタビューを行う。その際、計測により 可視化した動作データをその動作を行った本人に対 して提示すれば、自身の行動への客観的なフィード バックを与えることができる。このようなフィード バックにより、動作を行った本人も新たな気づきを 得ることができ、動作を行う際の思考についてより 多くのデータ獲得に繋がると考えられる。

上記のような行動に至るまでの人間の認知プロセ スをさらに詳細かつ客観的に把握するには、アイカ メラを用いた視線計測が有効な手法であると考えら れる[5]。これは、人間が何らかの行動を起こすまで に取り込む外界の情報の約8割は視覚系を通して取 り入れられていると言われているためである。眼球 運動計測を用いた研究は、古くから読みのプロセス や絵画からの情報受容、視覚探索等について行われ てきたが、計測装置の進化とともに、日常的な場面 における視覚情報受容とそれに基づく認知プロセス の解明に用いられるようになってきた。各種インタ ーフェイスのユーザビリティの検証はその典型例で あり、最近では非接触式の眼球運動計測装置の普及 に伴い、ウェブサイトのユーザビリティ評価に用い た例は枚挙にいとまない(例えば[6][7])。また、Land &

Hayhoe (2001)は日常生活の中で習慣的に行われてい

るお茶を入れるという行為を眼球運動計測データを もとに詳細に分析し、視覚情報受容と行為の密接な 結び付きを示した[8]

状況判断の部分に着目し詳細に分析した例は、ゲ ームのプレイヤーの視線解析などに多く見られる。 もっとも有名な例はチェスプレイヤーの視線解析に

よりエキスパートの特徴を明らかにしたものである (例えば[9][10])将棋についても、伊藤ら(2002, 2004) が 熟 練 者 と 非 熟 練者 の 違 い を 定量 的 に 示 し てい る

[11,12]。テレビゲームの熟練者と非熟練者の差異を

明らかにした研究も見られるようになってきている [13]。これらの研究ではいずれも、熟練者と非熟練 者の「目の付けどころ」が異なることがその後のパ フォーマンスに大きく影響しているということがは っきりと示されている。非熟練者の問題点の発見に おいても、同様にアイカメラのデータを有効活用す ることができる。たとえば福田(2009a, 2009b)は高齢 者が家電を使う場合の問題発見にアイカメラのデー タを用い、紛らわしいボタンが複数隣り合っている 際の注意の分散や、ディスプレイ上に小さく表示さ れたインジケータの見落としが誤った操作を引き起 こすことを示した[14, 15]。なお、動作データのフィ ードバックと同様、眼球運動データのフィードバッ クも被験者の課題遂行中の思考データを得るのに有 効であることがHansen (1991)によって示されている [16]

1.3 本研究の目的

上記のような背景から、本研究では介護現場にお ける熟練者の介護の特徴を、眼球運動計測と行動観 察、さらに発話記録と事後インタビューを組み合わ せて明らかにすることを目的とした。「どこを見て」

「どのように考え」「どのように行動したか」は、特 に熟練介護従事者においては、潜在的なふるまいで あり、インタビューだけでは供出されない。このよ うな客観的な観察手法の適用により、定量的な把握 が可能となる。利用者の状態を観察する際に注目し ている部分について分析を行い、熟練介護従事者が 手掛かりとしている情報を抽出する。これらの客観 的データのマイニングにより、熟練介護従事者自身 が無意識のうちに行っている問題発見・改善プロセ スについて、判断の根拠を分析する。

2. 実験方法

2.1 被験者

社会福祉法人こうほうえん(本部・鳥取県米子市) の介護老人福祉施設「よなご幸朋苑」の「大地」ユ ニット介護スタッフ5名が被験者として本実験に参 加した。これらの被験者の概要を表 1に示す。

(3)

1:被験者概要 被験者

記号

職種

経験 年数

性別 試行数 MH 介護福祉士* 14 女性 3

YC 介護福祉士 6 女性 2

RI 介護士 3 女性 2

RS 介護福祉士 2 男性 3

MT 介護士 1 男性 4

*被験者1はユニットリーダー

2.2 手順

実験について説明をした後、眼球運動計測装置の ヘッドユニットを被験者に装着し、視距離 1m にて キャリブレーションを実施した。その後、被験者の 音声を収録するため眼球運動計測装置に接続したイ ヤホンマイクを被験者の胸元に装着し、コントロー ルユニットを入れたウエストポーチを腰に装着した。 被験者には、約1時間の間、いつもどおりデイルー ム(共用スペース)にて介護をするよう教示を与え た。

被験者が介護作業に従事している間、実験者は別 室にて無線 LAN を用いた遠隔モニタリングシステ

d-Stationにより、被験者の視線データを観察した。

試行時間終了後、観察結果をもとに被験者に対しイ ンタビューを実施し、試行時間中に考えたことを尋 ねた。

2.3 実験装置

眼球運動の計測にはナックイメージテクノロジー

社製のEMR-9を使用した。本装置は小型軽量のコン

トロールユニット(約590g)と野球帽型の軽量ヘッ ドユニット(約150g)から成り、運動・行動を伴う 状況での眼球運動計測に適している上、視線データ に被験者の発話などの音声データを重ねて記録でき ること、また、野球帽型であるために眼鏡使用者で も計測可能であるなどの特徴がある。本実験を実施 する前に、実験者自身や被験者である介護従事者が 本装置を装着してデイルームに入り、被介護者が違 和感を持たないかどうかを予め確認した。

本装置のデータサンプリングレートは60Hz、計測 範囲は視線方向を中心に水平方向±40度、垂直方向

±20 度で、検出分解能は水平・垂直方向ともに 0.1 度である。視野映像に視線方向を示すアイマークを 重ね合わせた重畳視野映像は 640×480 ピクセルの

MPEG4形式でSDカードに記録されるようになって

いる他、各フレームの視線方向データはバイナリデ ータとして記録される。

1:本実験で使用した眼球運動計測装置EMR-9

(左:コントロールユニット、右:ヘッドユニット)

2:実験の様子

3:アイカメラにより記録されたデータの例

(白いマーカーの場所が注視点である)

3. 結果

今回は第1報として、表 1に示した各被験者の データを1試行分ずつ、計5試行分について分析し 比較検討した結果を報告する。

(4)

3.1 実験を実施した時間帯の介護内容

実験は被験者の通常の介護作業に支障のない時間 帯で実施したため、午前中は 11 時前後、午後は 15 時前後からの、いずれも被介護者にお茶やおやつを 出す時間帯が中心となった。その時間帯に行われる 介護作業は主にお茶・おやつの準備と配膳、飲食に 際し介助が必要な場合は食事介助であり、その合間 に被介護者とのコミュニケーションを行ったり、デ イルームからの移動のための車いすへの移乗なども 行われていた。

これらの作業は、被介護者との関わりを伴わない 作業と、直接の被介護者への関わり、その他の被介 護者の様子を窺う間接的な関わりの3つに大別する ことができる。台所におけるお茶・おやつの準備や 食器洗い、配膳などの被介護者との関わりを伴わな い作業や、食事介助・身体介助などの被介護者との 直接の関わりはどちらかといえば「決まった」作業 である。それに対し、被介護者との直接のかかわり のうち介助などとは直接関係のないコミュニケーシ ョンは、介護者の裁量によって行われる行為であり、 直接関わっていない被介護者の様子を窺うという行 為も、そこで何らかの「発見」をし、これにより次 の直接的な関わりを始めるための作業であると考え られる。

4 に各被験者の試行において観察された行動 の割合を示した。今回分析対象としたデータのうち 被験者MTのケースのみ昼食の時間帯に当たってい たため、食事介助が占める割合が圧倒的に高くなっ ていたが、それ以外については、被介護者とのコミ ュニケーションである「交流」と、お茶の準備や食 器洗いなどの「作業」の占める割合が高くなってい た。また、図 4では「食事介助」から「交流」まで が被介護者との直接の関わりを、「見守り」と「様子 見」が間接的な関わりを、「作業」から「その他」ま でが被介護者とは関わらない部分を表しているが、

4:各被験者の試行において観察された行動

今回分析対象としたデータにおいては、被験者 MT のケースを除き、被介護者と直接あるいは間接的に かかわりを持つ時間帯が 4565%の割合を占めて いた。

3.2 介護作業従事中の視線の動き

実験時間中に観察された被験者の行動を 3.1 にお いて分類したが、ここでは被介護者との関わり方を 軸に、熟練者と非熟練者の視線データの比較を行う。 なお、熟練者は経験14年の被験者MHと経験 6年 の被験者YCを、非熟練者は経験3年の被験者RI、 経験2年の被験者RS、経験1年の被験者MTを指す。

 被 介 護 者 と の 関 わ り を 伴 わ な い 作 業 に お け る視線の動き

食事・おやつの準備などは台所で行われるため、 その間被験者は基本的には被介護者に背を向けるこ とになるが、ときどき被介護者の方を振り返って見 る様子が観察された。被介護者から何らかの話しか けがあった場合は熟練者、非熟練者ともその被験者 の方を振り返り、その話しかけに応じていた。一方、 特にそのような話しかけがない場合でも被介護者へ 目を配る様子が見られたが、熟練者においては、特 にデイルーム内にいる被介護者の数が多くかつほか の介護スタッフがいない場合には、頻繁に各被介護 者へ素早く視線を向け、全員の様子を把握しようと していた。非熟練者も時折被介護者の方を振り返っ ていたが、その視線の動かし方は熟練者よりもゆっ くりとしたものであり、必ずしもデイルームにいる 被介護者全員に視線を向けていない場合もあった。 なお、熟練者でも、被介護者の数が少なくほかの介 護スタッフもデイルーム内にいる場合は、手元の作 業に集中し、背後を振り返って視線を向けることは 少なかった。

 被 介 護 者 に 直 接 か か わ っ て い る 際 の 視 線 の 動き

食事介助においては、熟練者も非熟練者も主に被 介護者の顔を見ていた。しかし、その内容を詳細に 分析すると、経験年数の少ない非熟練者は手元の食 器を見ている時間の割合が熟練者よりもやや高いの に対し、経験の長い熟練者は相手の顔、とりわけ目 や口元や喉元を見ている時間が長い傾向が見られた。 また、熟練者の場合、食事介助の合間に他の被介護 者の様子を窺う頻度が高い傾向が見られた。デイル ーム内では被介護者は2つのテーブルに分かれて座 っていたが、熟練者は同じテーブルの被介護者のみ ならず、他のテーブルについている被介護者へも目 を向けることが多かった(図 5)のに対し、非熟練 者は他のテーブルについている被介護者に目を向け

(5)

ることは少なかった。その一方で、他の介護スタッ フが食事介助などの形でかかわっている被介護者へ の注視は非熟練者の方が多く見られた(図 6)。なお、 このような状況でほかの被介護者に目を向ける時間 は、熟練者の場合、通常は1秒にも満たなかった。1 秒以上見ている場合は、ほとんどが被介護者からの 話しかけがあったり、逆に被介護者へ話しかけをし ている場合であった。

(所要時間1627秒) 図 5:スタッフYC(経験6年)の YYSYに対する食事介助中2名を同時に介助)

の視線分析結果

(所要時間2510秒) 図 6:スタッフMT(経験1年)の TNOに対する食事介助中の視線分析結果

何らかのコミュニケーションを行っている際の視 線も、主に被介護者の顔に向けられていたが、食事 介助の場合と同様、熟練者の方が被介護者の顔を見 ている時間が長い、すなわち顔をじっと見ているこ とが多いことが明らかになった。また、熟練者の場 合は主に話しかけている被介護者だけでなく、同じ

テーブルの他の被介護者の様子や、もう1つのテー ブルについている被介護者の様子も見ていた。同じ テーブルの他の被介護者については、ある被介護者 と会話をしている際でも、熟練介護士は同じテーブ ルについている他の被介護者とのコミュニケーショ ンも促進できるよう、話題にうまくついていけるよ うに、また、コミュニケーションをとれるように要 所要所で話しかけている様子が見られた。これらの 働きかけは、被介護者との11の関わりだけでな く、これを被介護者同士の関わりにも広げようとす るものであると考えられる。

3.3 主観的な見方

各試行後に行ったインタビューにおいて、被験者 に実験中どのような点に留意して介護作業を実施し ていたかを訊ねたが、その際、多くの試行で「全体 をきちんと把握できるような見方をする」という声 が聞かれた。ただし、経験の浅い被験者については、 必ずしもそれが実行できていないという意識がある ケースも見られた。すなわち、介助をしているとき にはその対象者に集中しがちである、もしくは関わ りが一部の被介護者に偏る傾向があるなどの意見が あった。

どのような方に声掛けをしているかという点につ いては、不安そうな様子をされている被介護者や興 奮されている被介護者、何もしておらずぼーっとさ れている被介護者などが挙げられた。どのような状 態であるかは、被介護者の顔や行動、さらには言動 を見ながら判断するという声が多く聞かれた。

これらの主観的な見方に関するコメントにおいて は、熟練者と非熟練者の間に明白な違いは認められ なかった。

4. 考察

4.1 直接関わっている被介護者と関わって

いない被介護者への視線配分のバラン

視線データを分析した結果、非熟練者も熟練者も、 直接かかわっている被介護者に対しては、その表情 を主に見る様子が示された。ただし、熟練者の場合 は、被介護者の表情をより注意深く見つつ、周りの 他の被介護者にも素早く視線を向け、様子を窺って いることが明らかになった。その傾向は、特に他の 介護スタッフがデイルーム内におらず、かつ被介護 者の数が多い場合で強かった。複数の介護スタッフ がデイルーム内におり分担をすることが可能なケー

YY/SY 86.8% SH

7.1% KK 0.4%

KM 1.7%

TNI 3.4%

スタッフMT 0.6%

TNO 96.4% MY

0.1% SH 0.1%

FS 1.1%

KK 0.8%

TNI 0.0%

SY 0.4%

スタッフRS

0.9% スタッフYC 0.1%

スタッフYF 0.1%

(6)

スにおいては、直接かかわっている被介護者に注意 を集中しており、状況に応じた注意配分をしている 傾向が見られた。これは、被介護者と直接関わらな い作業をしている際も同様であった。

一方、非熟練者は周りに注意を払う努力をしてい るものの、状況に応じてその割合を変えるという様 子はあまり見られなかった。また、他の介護スタッ フが関わっている被介護者にも注意を向けるなど、 デイルーム全体、すなわちその場にいる介護スタッ フ間でバランスよく被介護者に注意を向けるのが難 しいということが示唆された。

4.2 要介護度の高い被介護者への関わり

要介護度が高く、コミュニケーションをとるのも 難しい被介護者に対する注意や関わりは、熟練介護 士の方が多く観察された。たとえばデイルーム内の 被介護者に一通り目を配る際、経験14年の熟練者は 要介護度5で言葉でのコミュニケーションが困難な 被介護者にも目を向けていた。この被介護者に対す る注視はほかの被験者ではあまり見られなかったも のである。その後「眠たいですか?」と声をかけた 別の要介護度5の被介護者からは「部屋に帰りたい」 と言う希望があったので、これに対応したが、その 際も、同じテーブルについている他の被介護者の様 子も見ていた。

一方、経験の浅い非熟練者においても、決まった 作業の合間に各被介護者に積極的に声をかけて回っ ていたが、そのような声かけはコミュニケーション をとることのできる被介護者にやや偏りが見られた。 あまり変化のない被介護者には目を向けていない傾 向が見られた。

5. おわりに

アイカメラはこれまで、人間の潜在的な行動や知 見を探るための有効な手段として活用されてきた。 本稿では、アイカメラを活用した、介護現場におけ る熟練介護者特有の知見を解明するための基礎的な 取り組みを報告した。データマイニングにより熟練 介護従事者の問題発見ならびに改善プロセスをモデ ル化し、これをパッケージ化すれば、経験の浅い介 護従事者でも利用者の要望に応じた適切な介護をす ることができるよう、支援できるものと期待される。

ただし、アイカメラの計測データの分析方法につ いては、現状の1フレームごとにアイマークがどの 対象物の上にあったかを分析者が判定しながら記録 していく方法から何らかの改良をする必要がある。 被験者が常に動いており、また被験者の視野内にい る被介護者も動いているため、注視対象物を自動的 に判定するのは容易ではないが、30分ないし 60

という長時間にわたる記録データを効率的に分析し、 1 試行分でも多くのデータを比較検討することによ り、熟練者と非熟練者の差をよりいっそう明らかに することが可能となる。今後さらに多くのデータを 分析し、経験の浅い介護者の教育・支援に貢献した いと考えている。

謝辞

本研究は平成22年度医療・介護等関連分野におけ る規制改革・産業創出調査研究事業(医療・介護周 辺サービス産業創出調査事業)「介護現場の持続的な 質向上をもたらす好循環モデルの検討」として実施 しているものである。

参考文献

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表   1 :被験者概要 被験者 記号 職種 経験年数 性別 試行数 MH  介護福祉士 *  14 年 女性 3  YC  介護福祉士 6 年 女性 2  RI  介護士 3 年 女性 2  RS  介護福祉士 2 年 男性 3  MT  介護士 1 年 男性 4  * 被験者 1 はユニットリーダー 2.2 手順 実験について説明をした後、眼球運動計測装置の ヘッドユニットを被験者に装着し、視距離 1m にて キャリブレーションを実施した。その後、被験者の 音声を収録するため眼球運動計測装置に接続したイ

参照

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