国際金融論(黒沢 2010 年度):講義アウトライ
ン
通貨統合後のEU
はじめに: ユーロ(€)はなぜ強くなり、
最近弱くなったか
1. EU 通貨統合の内容と背景
2.通貨統合の経済学部的アプローチ
3.最適通貨圏の理論
4.理論を越えて
1
はじめに:ユーロ(€)はなぜ強くなり、 最 近弱くなったか
$/euro
\/euro 101.5\/e
156.4\/e (2006)
108.3\/e (2010.6) 0.96$/e
1.55$/e (2007)
1.22$/e (2010.6)
1999~2006 :EUの経済成長・€への信認
2007 年以降:サブプライム問題、ギリシャ・ポルトガルなどの財政問題2
為替レートを決める要因は何か(復習)
● 物価( PPP)
● 金利(アッセト・アプローチ):名目金利・実質金利
● 経常収支(フロー・アプローチ)
● 経済のファンダメンタルズ(成長率・失業率・インフレ率)
● 政治的要因(同時多発テロ・イラク戦争)
● ¥キャリー・トレード
● 中央銀行の市場介入
● 通貨の使用人口
3
1 . EU 通貨統合の内容と背景
●ヨーロッパはもともと固定相場志向が強い
*ラテン通貨同盟( 1865 ~ 1878 年:フランスを中心に共通通貨を導入) *ローマ条約( 1957 年)も固定相場志向
* IMF 変動相場導入後はスネーク制度( 1972 年)
*ヨーロッパ通貨制度( EMS) のスタートで強固な固定相場制度( 1979 年) *ドロール報告で通貨統合の目標設定( 1989 年)
4
● マーストリヒト条約の内容
*マーストリヒト条約で 1999 年 1 月 1 日通貨統合を決定( 1992 年)
* 11 カ国でスタート(人口 2.9 億人、 GDP6.9 兆ドル)
*収斂基準の導入(コンバージェンス・クライテリア) 1.インフレ率(低い3カ国平均の1.5%以内) 2.長期金利(低い3カ国平均の2%以内)
3.財政赤字( GDP の3%以内)
4.政府債務残高( GDP の60%以内)
5.為替レート(スタート前2年間 ERM 変動幅以内)
5
● 英国の通貨統合への反対理由
*収斂基準に問題あり(失業と貧困が発生する)
* EU の財政が拡大し英国の負担が増加する (金融政策のしわ寄せを財政が負担)
*金融政策の独立性が失われる
*反 EU 感情(極右)が拡大する(政治的理由)
6
2.通貨統合の経済学的アプローチ
● 異なる国が異なる通貨を使う理由
P
D S
100万円
Y0
(1) A 国が自動車1台を100万円で生産 しており B 国は1台1万ドルで生産して いる。為替レートは1ドル=100円 輸入はなく全員が雇用されている
(2) B 国で技術革新があり1台0.9万ドル で生産できるようになった
為替レートは1ドル=100円のままとする A 国で90万円で販売できるので A 国の 輸入が増えてその分 A 国で失業が発生する
90万円
生産 輸入 失業
(3) A 国はマクロ政策として失業を回避 しなければならないとする そのため
A 国は為替市場へ介入(ドル買い円売り) して1ドル=112円に誘導できたとする
(4)0.9万ドルの輸入車は100万円で 販売されることになる
(0.9万円 × 112円 / ドル=100万円)
(5)その結果、 A 国の生産業者は生産量を増加させ
失業は解消する 7
P
D S
100万円
Y0 生産 輸入
失業
(6)為替レートが112円 / $になったため A 国の生産者の原材料輸入価格が上昇する ので 時間が経つにしたがって生産コストが上がって供給量が減少する
(供給曲線 S が S1 に左シフト) その結果価格が上昇する
P1
(7) B 国は100万円で販売できるので再び輸入が増え、 再び失業が発生する
(8) A 国の政府は失業解消のため再び
ドル買い円売り介入し、円安にして失業を解消する S1
(9)しかし、時間が経つにしたがって生産コストが 上昇し供給曲線が S2 に左シフトして、価格が P2 に上昇して、また輸入が増え失業が発生する
S2 P2
(10)結局、長期的には、為替政策(名目変数) だけでは問題解決にはならず、短期的な
為替の効果があるうちに、技術開発など の実質変数を変えなければならない
8
3. 最適通貨圏の理論
● 固定為替相場が最適な国の範囲はどこまでか =「最適通貨圏」の理論
(ほとんどの発展途上国は IMF 体制に入らずに
金融情勢をみながら自分で為替レートを決めた方が有利) IMF の固定相場制度に入らない方が良い国の条件
マンデルの理論(1961年):労働・資本移動が自由でなく、 価格・賃金の硬直的な国
マキノンの理論(1961年):国際経済への開放度の低い国 ケネンの理論(1969年):少ない生産品目に特化している国
● ヨーロッパの固定相場制度( ERM) をもう一段進めて 通貨統合する場合に、通貨統合に参加できる国の範囲は
どこまでか、を検討するのに「最適通貨圏の理論」 が使われた。9
●最適通貨圏の理論の内容
政策目標:失業・インフレーションを抑える テスト項目:
貿易の開放度:開放度( GNP に対する貿易の比率)が高ければ 通貨統合してもショックを吸収できる
EC 12カ国の開放度は米国・日本より高い
生産物の多様化の程度:参加予定国間の産業構造の違いが小さい方が良い EC 諸国は米国における州よりも違いが小さい
労働移動の弾力性:失業が発生したときに労働移動がしやすいかどうか EC 諸国の労働移動の弾力性は小さい
賃金の弾力性:賃金の変化がインフレや失業を調整する EC 諸国の実質賃金の弾力性は低い
非対称的なショックに対する反応:石油産出国と消費国はショックに対して非対称 英国とデンマークは他の EC 諸国に対して非対称性が大きい
10
● 最適通貨圏の理論による EU 通貨統合の判定
最適とはいえない( Taylor 1995年)
ショックの非対称性が大きすぎるので通貨統合は難しい( Eichengreen 1992) EU の範囲が広すぎるので最適といえない( Krugman 1995)
4 . 理論を越えて
● フランスのドイツ恐怖症と、ドイツの自己懐疑的見解
● 神の見えざる手
市場経済とニュートンの万有引力の法則 人工衛星の経済性
通貨の信頼性:多くの人に使われる通貨 11