生化学Ⅰ 第 1 回小テスト
<裏に続く> 15Seika1-1 2015.11.5 問題1.下の文章にある下線部 〜 に関連した質問 i~vi に答えなさい。
生物はおよそ 46 億年前に地球が誕生してから約 11 億年の長い年月を経て進化したものとされて おり,4 段階の主要な「イベント」を経て誕生した,と考えられている。誕生時の地球の大気には
ごく限られた,簡単な分子が数種類存在していたのみなので,生物が進化する最初のイベントは これらの 簡単な化合物からアミノ酸などのより複雑な化合物が誕生したことであったとされる。 原始地球にアミノ酸などの有機化合物が誕生した後,次に起きた重大イベントはそれらの有機化 合物が持つ 「官能基」を介した重合反応である,とされる。重合反応は,限られた数の化合物か らより複雑な化合物を多数生み出すことに繋がり,現在の生命を支える多様な分子の誕生を可能に した。
重合により様々な分子が誕生すると,限られた量の原材料(有機化合物)を奪い合う競争が勃発 した。そのような状況の中, 「相補性」という新しい作戦を重合反応に取り入れた一部の分子が 他の分子よりも効率よく重合反応を進めて競争に打ち勝つことができた。
生物が誕生する過程の最後の重大プロセスは「細胞の誕生」とされる。細胞は生物を構成する分 子を一つの「部屋」に閉じ込めるが,この様に外界と内部を遮ることは 生命を支える化学反応に とって様々な利点をもたらすとされている。
i. 下線部 について,46 億年前の地球誕生直後に地球上に存在していたとされる簡単な化合物を 3 つ,答えなさい。なお,回答は分子の名前でも化学式でも良い。
ii. 下線部 について,簡単な化合物から有機化合物が「地球上の大気中で誕生した」という仮説 を実証するために 1953 年ある実験が行われた。この実験を行った 2 人の研究者の名前を答え,そ の実験の概要を説明しなさい。
iii. 新たに発見された事実のため,現在では問題 ii.の実験が提唱した「有機化合物は地球の大気中 で誕生した」説よりも有力な学説が提唱されている。現在,生命につながる有機化合物が誕生し たとされている地球上の場所はどこか,答えなさい。
iv. 下線部 について,アミノ酸の重合を可能にする「ペプチド結合」形成の様子を簡単に説明し なさい。なお,説明にはペプチド結合形成に関与する官能基の名前を含めること。
v. 下線部 について,現在の生物で相補性を活用して重合・複製している分子の例を答えなさい。 vi. 下線部 について,細胞が誕生することで化学反応にとってどのような利点がもたらされるよ
うになりましたか?1つ,例を挙げなさい。
問題 2.「自発的に進む」反応や過程が満たす条件に関する以下の質問に答えなさい。
i. 反応の自発性を判定する際に評価される「状態量」変化の一つに「エンタルピー変化ΔH」があ る。圧力一定(P)の条件において,ある自発的に進む反応
状態A → 状態B
のΔH を表す式を,反応前後の内部エネルギーUAと UB,圧力 P,反応前後の体積 VAと VBで表記 しなさい。
ii.下の a.と b.に熱の出入りを伴う2つの自発的な過程を示した。それぞれの過程について,ΔH の 値は正の値,負の値,いずれになるのか,答えなさい。
a. ビーカーに入った蒸留水に尿素を溶解していくと,ビーカーの外側が冷たくなった。 b. 使い捨てカイロを包装紙から取り出し,数回振ったら熱くなり出した。
15Seika1-1 iii. 反応の自発性を定めるもう一つの状態量変化にエントロピー変化ΔS がある。エントロピー変化
は熱の出入りが全くない条件(断熱条件)で反応が自発的に進むことを説明する「物事が確率的 に最も高い状態に移ろうとする傾向」を表す「Boltzmann の統計力学エントロピー」と,気体を暖 めた時に与える熱量と気体を圧縮するときに解放される熱の関係を説明する「Clausius の熱力学 エントロピー」の二つの定義がある。それぞれの定義を表す式(講義で紹介した2つの式)を答 えなさい。なお,式に含める記号の定義も必ず記載すること。
iv. 問題 i.のΔH と iii.のΔS を組み合わせて「反応の自発性」を評価する「自由エネルギー変化ΔG」 を表す式を答えなさい。また,自発的な反応ではΔG が満たす条件を答えなさい。
問題 3.下に示すのは,「ヴォートの生化学」,図22に表示された2分子の水のモデル図である。 この図に関連する問題 i~v に答えなさい。
i. 図中(a)は水分子が持つ電子を1対,モデルとして 表示している。この様な表示で表される電子対の ことをなんと呼ぶか,答えなさい。
ii. 図中(b)は,問題 i の(a)と水の水素原子が互いに 引きつけ合い形成される分子結合の一種である. この分子結合の名前と授業中で紹介した結合の正 式な定義を答えなさい。
iii. 水分子は1分子あたり問題 ii.の分子結合(b)を合計 ① 個形成することができる。空欄①に入 る適当な数字を答えなさい。また,水がこの様にたくさんの結合(b)を形成できるので水中では「疎 水効果」と呼ばれる独特の分子間相互作用が生まれ,この疎水効果はタンパク質などの生体分子 の形を安定化するために大きく貢献する。「疎水効果」とはどのような分子間相互作用か,簡単に 説明しなさい。
iv. 「水のイオン積」の式を用いて,pH8の水溶液における水酸化物イオン濃度([OH])の値を求 めなさい。
v. Brønstedと Lowry が提唱する酸・アルカリ(塩基)の定義によれば,酸とは ① もの,ア ルカリ(塩基)とは ② ものである。空欄①と②に適当な言葉を入れ,この文章を正しく 完成させなさい。
(a)
(b)
解答用紙 学籍番号 氏名
<裏に続く> 15Seika1-1 問題1.34点満点
i.(どれでも 3 つ)2点 x3 水, H2O,水素 H2,硫化水 素 H2S
二酸化炭素,CO2,窒素 N2,二 酸化硫黄,SO2
アンモニア,NH4,メタン,CH4, 二酸化窒素 NO2
ii. 研究者名3点
ミラー(Miller) 研究者名ウーレー(Urey) 3点 実験の概要
フラスコ内に水,メタン,アンモニア,水素などを閉じ込め,暖めて水を蒸発・凝結させながら 大気中の雷を模して放電を続けたところ,しばらくするとフラスコ内にアミノ酸などの有機化合 物が誕生したことを確かめた実験。5点,下線部が採点ポイント。
iii. 3点
海底火山の噴火口付近
iv. 6点,下線部が採点ポイント アミノ酸の「アミノ基(-NH3
+)」と「カルボキシ基(-COO-)」が水中で「脱水縮合反応」を経 て結合するとペプチド結合(-CO-NH-)が形成される。(図で説明するのも可;但し,図が間違っ ていれば相当の減点)
v. 3点
DNA(デオキシリボ核酸) vi. 5点
複雑な反応の中間生成物が拡散して反応が止まることを防ぐ
反応の条件をより一定に保つことができる(環境変化に影響されなくなる) 原材料の囲い込みが可能になる
等,いずれか
問題2.33点満点 i. 5点
ΔH= (UB-UA)+P(VB-VA) ii. (a)4点
正の値 (b)4点 負の値
iii. Boltzmann 5点(式 3,定義各 1) S=kblnW
kbは Boltzmann 定数,
Wはある状態が取り得る微視的状態の総数
Clausius 5点(式 3,定義各 1) ΔS !
!
qは変化に伴う熱の出入り(熱量) Tは温度
iv. 5点
ΔG= ΔHTΔS 5 ΔG 点 0
(等号は可逆反応の平衡時)
15Seika1-1 問題3.33点満点
i. 3点
非共有電子対(孤立電子対) ii.結合(b)の名前 3点
水素結合 結合(b)の定義 5点
分子中の水素原子と窒素,酸素,硫黄など,非共有電子対を持つ原子がその非共有電子対を介し て引きつけ合うことで成立する分子結合
iii.① 4 点
4 個
iii.疎水効果とは 5点,下線部採点ポイント
水に溶解しない物質が水に排除されるため,水との接触表面積が最小になるように水分子がその 物質の周りに水素結合の網を形成することにより発生する分子相互作用
iv. 5点,単位を表記していない人続出(1 点減点)
水のイオン積の式は Kw=[H+][OH-]=1x10-14 M2であり,この式は稀薄水溶液でも成立する。水溶液 の pH=8=log10[H+]の関係式より[H+]=1x10-8 M。この値を上記水のイオン積の式に代入すると [OH-]=1x10-6 Mと計算される。
答え:[OH-]=1x10-6 M
v.①4点
水素イオンを放出する ②4点 水素イオンを受け取る
備考:採点基準について
・問題 1-i. 講義でリストアップしなかった化合物(=化学進化と直接関係ない化合物)もできる限り評価し ましたが,「酸素;O2」だけは今回 としました。原始地球では元素として酸素がほとんど水,CO2,等の化合 物に「固定」されており,「原子地球上の酸素濃度は低かった」ことは化学進化上大切な意味がありますので。
・問題 1-ii.常識の範囲内で研究者名に部分点を付けました。友達と比べてみて「これはいけるんじゃないか」 などのアピールは遠慮無く。
・問題 2iii.この問題は問題文に強調しているとおり,「記号の定義」が無い,間違っている場合減点しまし た。また,「S」と「ΔS」を取り違えた回答も厳しめに採点。「q」を「エンタルピー変化」とした人は,この 関係がある特殊な条件でのみ成立する点をお忘れなく。
・問題 3v.「水素」を受け取るは意味が変わるので減点。「プロトンを放出/受け取る」は〇。「電子を放出
/受け取る」と表記された人は有機化学で利用する「Lewis の酸/塩基の定義」を参照。