熊本大学学術リポジトリ
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二重目的語構文における所有関係再考 : 形式と意味との
対応関係
A uthor(s )
登田, 龍彦
C itation
熊本大学教育学部紀要, 66: 61- 76
Is s ue date
2017- 12- 19
T ype
D
epar t m
ent al Bul l et i n Paper
UR L
ht t p: / / hdl . handl e. net / 2298/ 38862
熊 本 大 学 教 育 学 部 紀 要
第66号, 61- 76, 2017
二 重 目的語 構 文 にお け る所 有 関係 再 考
一 形 式 と意 味 との対応 関係 一
登 田
龍彦
Pos s es s i on i n t he doubl e obj ec t c ons t r uc t i on r evi s i t ed:
The r el at i on bet ween f or m and meani ng
Tat s uhi ko Toda
( Rec ei ved Sept ember 29, 2017)
1. は じ めに
本稿 は, 二 重 目的 語構 文 の 間接 目的語 指 示物 と直 接 目的語 指示 物 間 にお け る所 有 関係 につい て考 察 し, 動詞 の 意味 が構 文 を含 む文 の意 味 を決定 す る際 に重要 な役割 を果 たす こ とを指摘 しつ つ, Bol i nger ( 1977) の 形式 と意 味 との一 対 一 の 対応 原理 の捉 え方 につ い て議 論 す る。1本稿 で議 論 の対 象 とす る文 は, 動 詞 の直 後 に名 詞句 が 二 つ連 続 して, 二 重 目的語 構 文 と分 析 で きる( 1) に 示 す もの であ る.
a
監
O
C
漕
0
.
Br endagaveJ ohnt hec ar f or aweek.
Hewr ot ehi s l awyer anot e.
Shemadehi magoodwi f e.
Heki s s edher goodbye.
( H
ar l eyandJ ung( 2015: 704) )
急い で 付言 する と, ( l a) と( 1b) は こ れまで 紛れ も なく典 型 的 に 二 重目 的 語 構 文に 生 起す る と 考 え ら れ て い る
動 詞gi veとwr i t eが 生 起 して い る のに 対し て, ( l c ) で は 動 詞bec omeと 類 似し た 意 味 「な る 」を 表 す 動 詞make
が 生 起 して い る こと, ( 1d) で は 動 詞ki s s が 間 接 目的 語と い う よ り は むし ろ 直 接目的 語と してher を 取 っ て い る
ことか ら, 通 常の 二 重目的 語 構文として 分 析 する の が ふさ わしい かど う か は 意 見 の 分 か れ ると こ ろ で あ る. 本
稿 で は, ( l a) に お け るJ ohnとt hec ar の 間 に 見ら れ る一 週 間 の 「所 有 関 係 」( Har l eyandJ ung( 2015: 704) 参 照)
及 び( 1b>に お け るhi s l awyer とanot eの 問 にみ られ る 「所 有 関 係 」 が( l c , d) に お い て もhi mとagoodwi f e
の 間 及 びher とgoodbyeの 間 に も 成 り立ち得る と仮 定 した 登 田( 2016) 及 び 登 田( 2006) に 基 づ い て, こ れ ら の
構 文 に 関 す る 形 式と意 味と の 対 応 関 係を捉え 直 そ う とす る も の で あ る. 本 稿で いう 「所 有 関 係 」と は, 抽 象 的 な
意 味 に お い て 「所 有 関 係 」という概 念 で 記 述 で き る という意 味 で ある, 例 え ば 詳 細につ い て は 後 述 す る が( 1b)
で は 彼 の 弁 護 士は 短 い 手 紙を 所 有 して い な い 可 能性 もあ る が, 彼 は 弁 護 士 が 手 紙 を 読 ん でくれ る こ と を, す な わ
ち所有 する こ と を 意 図して 書い て い る の で, 「所 有 関 係 」 は 成 立 す る と 考 え ら れ る. 同 様 に, ( 1c ) で は彼 は 彼 女
が 良 い 奥さ ん で あ る こ と を 享 受 して お り, ( 1d) で は 彼 女 は 彼 から さ よ ならの キ スを受け て 別 れ たこ と を 意 味し
て い る の で, 彼 女と さ よ なら( の 挨 拶) の 間 で の 「所 有 関 係 」 は 成り立 つと考 えられ る.
Bol i nger ( 1977) の い う形 式 と意 味との 関 係を 考 察 す る 際 に は, 今 一 度し っ かり と 形 式と 意 味を再 定 義 す る 必
要 が あ る. 本 稿 で は, 形 式に は 構 文( 型) と 文という二 つ の 解 釈 が 対 応 す る の で, 構 文 の 意 味と は 動 詞 が 挿 入さ
れ る 以 前 の, す な わ ち構文 型 つま り タ イ プ として の 意 味 を 示し, 文 の 意 味と は構文 に動 詞 が 挿 入さ れ た 以 降 の トー
ク ン として の( 含 意 的 意 味を 含 む) 意 味を 指 す と仮 定 して 話を進 め る. 本 稿 は, 構 文 独自 の 意 味 的 要 素 が あ る と
しても, 核 と な る 動 詞 独自 の 特性 が 構 文を含む 文 の 意 味を決 定 づ け る, と 主 張 す る. 例 え ばBol i nger の 原 理 は,
構 文 型 の 意 味に お い て は 妥 当 で あ る かも しれ な い が 。 動 詞 が 生 起した 構 文 型を含む 文 の 実 際 の 意 味と い う ことに
な ると強 す ぎ る こ と を 指 摘 す る. た だし, Bol i nger ( 1977: I X- x) 自 身 は 文 で は なく構 文 の 持 つ 意 味につ い て 言 及
して い るこ と から, 2本 稿 の 主 張 はBol i nger の 主 張を補 強 す る こ と に な ると思 わ れ る.