簿記初級テキスト・問題集 1
簿記原理
*11 はじめに
1.1 はしがき
本テキストは，簿記の初学者向のテキストであり，とくに大学1年生や，転職をかんがえ ている社会人向けに構成されている．主たる特徴は，単なる簿記のマニュアルではなく，簿 記のルールの背後にある考え方をすべて明記している点である．著者は，日商簿記3級から 1級までの資格を，独学で習得した．単純に金銭的な余裕がなかったためであるが，そうし た遠回りな独学をつうじ，単純にルールを記憶するのではなく，“考える”という習慣を身 につけた．そうした経験は本テキストに大きく反映されている．たとえば，他のテキストに は，特段の解説もなく，実務的な事実としてルールを記憶させようとするものがあるが，本 テキストではすべてにその根拠がしめされている．したがって，独学でも十分に学習可能な 内容となっているはずである．
なお，本テキストは，商業的な資格試験対策のテキストではない．簿記の初学者向けテキ ストの多くは日商簿記3級をターゲットとし，その範囲が網羅されている．しかし，本テキ ストでは，たとえば商品有高帳や仕入帳といった論点には触れていない．簿記の本質を理解 するのにそうした論点は不要であると判断したためであり，換言すれば，そうした論点は， 本質さえ理解すれば，十分に対応可能だということでもある．
1.2 簿記の理屈は難しいものではない
簿記とは，簡単にいえば，会社の成績表(報告書)を作成する技術である．その歴史は古 く，13‐14世紀のイタリアで発祥したといわれている*2．当時は，個人的な家計簿のよう なものだったようだが，中世には，裁判の資料としても採用されるようになり，19世紀中 庸に，イギリスで社会的な制度となった．簿記の技術はアメリカにも普及し，現在では，す べての国，かつ個人商店から大企業にいたるまで，あらゆる会社が簿記を利用していると いっても過言でない．それだけ歴史が長く，広く普及しているのだから，簿記の仕組み自 体，難解でないといえるかもしれない．というのも，難解な技術であれば，すべての会社が 簿記を利用することは難しかったはずだからである．さらには，カネボウや東芝の粉飾事 件など，実際の会社の簿記にかんする記事が新聞等でも散見され，社会的にも強い関心がも たれている．また，すでに，国際的に統一的な簿記のルールの構築が模索されていることを 知っている者もいるかもしれない．当初，私的なものでしかなかった簿記は，現在，社会的 制度となり，かつ重要な関心事となっているのである．
*1
本テキストの作成は，廣池学園麗澤大学によるところが大きい．記して感謝申し上げたい．
*2長い歴史があることがわかれば，簿記にたいする信頼も増し，つまらない作業の連続で簿記の習得を断念しそうになったときに，
奮起させる材料となるかもしれない．
簿記初級テキスト・問題集 2
簿記は，仕組み自体，難しいものではなく，社会的に重要な技術とされている．ただし， 仕組みが簡単だからといって，実践することも簡単というわけではない．それは，野球で ホームランを打って得点を入れたり，柔道で背負投げで相手に勝つことが難しいのと似てい る．理屈は難しくはないが，やろうとすると難しいのである．スポーツの練習と同様，簿記 も，習得する際には，最初はつまらない作業をこなさなければならない．継続してその作業 をおこなえば，あるとき，ふと簿記が“わかる”ようになるのである．簿記の学習をはじめ るにあたって，少なくとも，“なにもせずになにかをえようとするのは無理がある”という ことを理解しておいてほしい．多少なりとも，つらい思いをしなければ簿記を習得すること はできそうもない．簿記の学習は“積み重ね”であり，じっくりと取組まなければ途中で断 念する．仕組みは簡単な一方で，そうした者が多く，それだけ簿記の習得者は社会的に重宝 されるのであろう．
さて，現在，会社は，簿記にもとづき“報告書”を作成しなければならない．簿記の知識 を有する者が必要とされているのは明らかである．会社が簿記の知識を必要とするのだか ら，簿記を習得すれば，会社への就職や転職に有利となることはいうまでもない．また，公 認会計士や税理士といった会計専門職が存在し，多くの資格試験で簿記の知識が問われるこ ともみのがせない．簿記の知識は，自身の能力の客観的証明となるとともに，独立して起業 する際にも有効である．くわえて，簿記を知っていれば，通常は直接観察することのできな い，会社の取引を推定(分析)することも可能となる．会社の活動全体を理解・把握するこ とができれば株式投資でも有効となろう．ある程度の時間と労力を費やしたとしても，簿記 の知識の習得が得策であると感じてくれただろうか．
*3
資 産
負 債
純資産
(当期純利益) 当期純利益
収 益 費 用
貸借対照表 損益計算書
*4
*3http://www.brl.ntt.co.jp/IllusionForum/basics/art/index.html
*4
この図がなにをしめしているのかはさておき，最低でも10回は図を描写して覚えておいてほしい．
